説明

フッ素樹脂接合体

【課題】例えばPFA製の肉厚の薄い2つのフッ素樹脂体を簡易に、しかも確実に熱融着した構造のフッ素樹脂接合体を提供する。
【解決手段】第1のフッ素樹脂体と第2のフッ素樹脂体との突き合わせ部において、前記第1のフッ素樹脂体の加熱および外力による変形を受けた部位の一部が前記第2のフッ素樹脂体に熱融着して境目のない融着部を形成し、前記第1のフッ素樹脂体と前記第2のフッ素樹脂体との間の溶融しなかった部位には境目が残されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばパーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA;perfluoro-alkoxyfluoro plastics)からなる2つのフッ素樹脂体を互いに接合したフッ素樹脂接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)は、耐薬品性・耐熱性・断熱性に優れた性質を有する反面、その接合が極めて困難であり、且つ熱膨張率が大きいと言う性質がある。そこでPFA部品を接合する為に、従来では専ら、プライマー処理(ナトリウム処理)による接着を用いたり、溶接によりPFA部品を熱融着したりする等の手法が採用されている。しかしこのような手法を微小なPFA部品の接合に適用することは困難である。ましてその接合部のシール性を確保することは非常に困難である。
【0003】
そこで非接触加熱による融着法として、容器とその蓋体とからなる2つのPFA部品の各接合面をそれぞれ熱風を用いて加熱溶融した後、これらの溶融面を互いに突き合わせて加圧することで上記接合面間を熱融着する技術が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開平11−132799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらPFA部品(例えば容器とその蓋体)の接合面をそれぞれ十分に加熱溶融する為には、例えばその接合面間に隙間を設けておき、その接合面の奥部まで熱風が行き渡るように風量を確保することが必要である。ところが風量を増大させると、その風力によって蓋体の位置がずれてしまうと言う不具合が生じる。この際、その接合部の肉厚が十分な厚み、即ち、機械的強さを有していない場合には、高い断熱性による温度分布の不均一さによってその表裏面の熱膨張に差が生じ、上記接合部に反りが生じ易い。すると接合部の変形によって、その接合面(溶融部)を互いに密着させることが困難となると言う不具合が生じる。特に蓋体の厚みが1mm程度と薄い場合には大きな反りが発生し易く、蓋体の反り(変形)によってその接合面間を均一に加圧すること自体が困難となる。この結果、容器と蓋体との密閉性を十分に確保して接合することができなくなる等の問題も生じ易い。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、PFA等のフッ素樹脂製の肉厚の薄い2つのフッ素樹脂体、例えばセンサ用の容器とその蓋体とを簡易に、しかも確実に熱融着して密閉した構造のフッ素樹脂接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するべく本発明に係るフッ素樹脂接合体は、第1のフッ素樹脂体と第2のフッ素樹脂体とを互いに突き合わせた突き合わせ部において、前記第1のフッ素樹脂体の加熱および外力による変形を受けた部位の一部が前記第2のフッ素樹脂体に熱融着して境目のない融着部を形成し、前記第1のフッ素樹脂体と前記第2のフッ素樹脂体との間の溶融しなかった部位には境目が残されていることを特徴としている。ちなみに第1および第2のフッ素樹脂体は、例えばその突き合わせ部位を融着して密閉空間を形成する容器とその蓋体とからなる。
【0007】
尚、上述した構造のフッ素樹脂接合体は、例えばパーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)からなる2つのフッ素樹脂体間の接合部位を、熱風が吹き付け可能な段差を形成して突き合わせた後、上記段差の形成部位表面に熱風を吹き付けて前記2つのフッ素樹脂体の突き合わせ部位をそれぞれ溶融させ(第1の工程)、次いで前記フッ素樹脂体の融点以上に加熱した金型を一方のフッ素樹脂体の溶融部に押し付けて該溶融部を他方のフッ素樹脂体の溶融部に移動させながらこれらのフッ素樹脂体の溶融部間を加圧し(第2の工程)、その後、前記金型を前記フッ素樹脂体の融点以下まで冷却した後、前記フッ素樹脂体から金型を離反させる(第3の工程)ことで形成される。
【0008】
好ましくは前記前記2つのフッ素樹脂体は、一方のフッ素樹脂体の接合部位が他方のフッ素樹脂体の接合部位よりも突出する段差を形成して互いに突き合わせられる嵌合形状を有したものからなり、前記金型は、前記段差をなして突出している一方のフッ素樹脂体の溶融部を押圧して変形させ、他方のフッ素樹脂体の溶融部上に移動させながらこれらの溶融部間を加圧するものとして構成される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、例えばPAFからなる小型で薄型のフッ素樹脂体を容易に、しかも確実に熱融着することができ、またその作業工程も簡単である。従って各種センサの密閉容器として製造する場合等に多大なる効果が奏せられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係るフッ素樹脂接合体の熱融着方法について説明する。この熱融着方法は、例えば図1に示すように容器1とその蓋体2とからなる2つのPFA部品を、その内部に電子部品を収納して気密に熱融着して密閉型のセンサを製造する場合に好適なものである。
具体的には前記容器1は、肉厚1mmの周壁部と底部とを備えた深さ10mm程度で外径が24mmの有底円筒体状の射出成形体からなる。また前記蓋体2は、厚みが0.8mm程度で外径23mmの円盤体状の射出成形体からなり、前記容器1よりも若干小径に形成されている。またこの蓋体2の内側面には、前記容器1の開口部に嵌合する高さ1mm程度のインロー突起3が円環状に設けられている。蓋体2は上記インロー突起3を前記容器1の開口部に嵌め込み、蓋体2の下面2bと容器1の上面1bとを突き合わせることで、該容器1と同軸に位置決めされ、該蓋体2の周縁部と容器1の開口端外周との間に幅0.5mmの段差を形成して装着される。そして容器1と蓋体2とは、後述するようにして熱融着により一体化されて密閉されるものとなっている。
【0011】
尚、容器1の周壁面には、該周壁面を挿通するケーブル孔4が、その周壁面から突出した一体に形成されており、このケーブル孔4には図示しないPFA製の中空パイプが嵌め込まれている。この中空パイプは、例えば特開平7−52253号公報に開示された方法により前記容器1に対して気密に熱溶着されて一体化される。そして前記容器1の内部に気密に収納される電子部品(例えば光電センサ)は、上記中空パイプに挿通されたリード線(図示せず)を介して外部機器と電気的に接続される。
【0012】
さて前記容器1と蓋体2との熱融着は、例えば図2(a)に示すように容器1を保持する下側の金型5と、前記容器1と蓋体2との突き合わせ部位に熱風を吹き付けてその接合部を加熱溶融させる加熱ノズル6と、前記金型5と対をなして設けられて前記蓋体2の溶融部を押圧して変形させてその溶融部を容器1の溶融部に移動させ、これらの溶融部間を加圧する上側の金型7とを用いて行われる。
【0013】
具体的には先ず図2(a)に示すように容器1を下側の金型5にセットして保持し、該容器1の開口部に蓋体2を嵌め込むことでその接合部を互いに突き合わせる。すると前述したように蓋体2の外径寸法が前記容器1の外形寸法よりも僅かに小さく設定されているので、図2(b)に示すように蓋体2の周縁部と容器1の開口端との間に幅0.5mm、高さ0.8mmの段差が形成される。この状態で容器1の外周縁斜め上方から加熱ノズル6を用いて上記段差部の表面に、例えば380℃の熱風を吹き付け、上記容器1と蓋体2との接合部を加熱する[第1工程]。
【0014】
すると上記接合部における段差部の表面近傍が、その構成材料であるPFAの溶融温度(310℃)以上に加熱され、図2(b)において領域1a,2aとしてそれぞれ示すように部分的に溶融して溶融部となる。尚、この熱風の吹きつけによる接合部の加熱は、例えば図3に例示するように複数本のノズル6からそれぞれ熱風を吹き付けながら蓋体2を嵌め込んだ容器1を回転させて、その接合部が全周に亘って一様に加熱されるようにして行われる。
【0015】
しかる後、この状態において予めPFAの融点以上に加熱しておいた上側の金型7を前記蓋体2の外周縁部にその上方から押し付け、図2(c)に示すように蓋体2の溶融部2aを変形させながらその一部を容器1の溶融部1aの表面に移動させる。同時に上記金型7にてこれらの溶融部1a,2a間に所定の圧力を印加し、これらの溶融部1a,2aを密着させる[第2の工程]。尚、上記金型7による蓋体2の溶融部2aの押圧は該溶融部2aが変形して、少なくとも前記容器1の開口端部の溶融部1aの全域に拡がる程度に行われる。
【0016】
この状態を一定時間保持し、前記金型7の温度が前記PFAの融点(ガラス転移温度)以下となるまで冷却すると、図2(c)に示すように前記溶融部1a,2aが互いに融着して一体化する。そこで前記金型7がPFAの融点(ガラス転移温度)以下まで低下したならば、該金型7を蓋体2から取り外し、また前記下側の金型5から容器1を取り外す[第3工程]。これよって容器1の開口部に蓋体2を気密に一体に熱融着した構造体が製作される。
【0017】
このようなフッ素樹脂体の熱融着方法によれば、容器1と蓋体2との接合部が段差をなして互いに突き合わせられているので、その段差部の表面全域を一様に溶融させることが容易である。しかも段差部の外側から熱風を吹き付けるだけで容器1と蓋体2の段差をなす外側面だけを効果的に溶融させることができる。特に蓋体2の内側面に設けたインロー突起3が容器1の開口部に隙間なく嵌め込まれているので、その熱風が容器1の内側に入り込むことがない。従って容器1のに内部に半田付けされた電子部品が収容されている場合であっても、該電子部品に悪影響を及ぼすことがない。実際に容器1の内部に設置した回路基板の温度を測定したところ最高でも170℃を越えることがなく、回路基板上の電気部品の固定に用いられている半田(融点187℃)に不具合が生じることがないことが確認できた。
【0018】
このような溶融状態において前述したように加熱した金型7を蓋体2の溶融部2aに押し付けると、該溶融部2aが金型7に押されて変形し、容器1の開口端における溶融部1aの上面に移動する。そしてこの状態で上記溶融部1a,2a間に所定の圧力を加えながら該溶融部1a,2aを冷却すると、これらの溶融部1a,2aは互いに一体となって融着する。特に図4にその切断面における組織構造の写真を示すように、容器1と蓋体2とは完全に融着一体化する。尚、図4に示す断面写真は、図2(c)に示す断面部とは逆側の面を示しており、左右逆向きに対応している。
【0019】
ちなみに図4においては、容器1と蓋体2とが熱融着した部位は、その境目が無くなり、完全に融着一体化していることが示される。但し、容器1の内壁面と蓋体2のインロー突起3との間の前述した熱風により溶融されなかった部位(図2における1b,2bの相当する部位)には境目が生じており、当該部位には熱融着が生じていないことが示される。また蓋体2の溶融部2aではあるが容器1の内側の部位には若干境目が残されていることが認められる。この境目は、第1工程における加熱の際、熱風が当たらない部位の融着面が溶融しなかった為である考えられる。しかし容器1と蓋体2との間が熱融着して一体化していることが確認できた。しかもその全周に亘って上述した熱融着により完全に一体化されていることが確認できた。
【0020】
かくして上述した熱融着方法によれば、一方のフッ素樹脂体(蓋体2)の溶融部2aを金型7を用いて変形させて他方のフッ素樹脂体(容器1)の溶融部1a上に移動させ、更にこれらの溶融部1a,2a間に所定の圧力を加えながら冷却するので上記溶融部1a,2aを確実に熱融着して一体化することができ、ひいては容器1と蓋体2とを気密に接合一体化することができる。特に2つのフッ素樹脂体(容器1とその蓋体2)間の接合部位を、前述したように段差を形成して突き合わせているので、その接合部位(段差部表面)を加熱して溶融することが容易であり、幅広い領域に亘って溶融部1a,2aを形成することができる。換言すれば従来のように2つのフッ素樹脂体の接合面間に隙間を設けて温風を吹き込む等の工夫が不要であり、2つのフッ素樹脂体の段差をなして突き合わせた部位の表面に直接温風を吹き付けて加熱すればよいので、その加熱処理自体が容易である。
【0021】
しかもその接合部が薄い場合であっても、容器1と蓋体2とが嵌合しており、互いに拘束しあってその変形が抑制されている結果、反り等の変形が生じることが無いので、その熱融着を容易に行い得る。また上述した実施形態によれば、その溶融部1a,2aを金型7にて押さえ込むので、いわゆる溶融部1a,2aのダレを未然に防ぐことができ、溶融部1a,2aの領域が少ない場合であってもこれらの溶融部1a,2aを確実に密着させて熱溶着することができる。従って蓋体2の厚みが薄く、また容器1の肉厚が薄い場合であっても、これらの容器1と蓋体2とを確実に熱融着して気密に接合一体化することができる等の実用上多大なる効果が奏せられる。
【0022】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば図5に示すように容器1の開口部の内側に段部を形成しておき、この段部に蓋体2を嵌め込む構造にも同様に適用可能である。この場合には、蓋体2の周辺部に突出する容器1の周壁上端と蓋体2の上面とがなす段差部に熱風を吹き付けて溶融部1a,2aを形成し、容器1側の溶融部1aを金型7に押圧して変形させ、蓋体2の溶融部2aの上面に密着移動させてその熱融着を行うようにすれば良い。この際、金型7の外周部にて容器1の外周面を抑え、その変形を防ぐようにすることも有用である。このような場合でも先の実施形態と同様な効果が奏せられる。
【0023】
また上述した実施形態では有底の容器1(第1のフッ素樹脂体)と蓋体2(第2のフッ素樹脂体)とによりフッ素樹脂接合体が構成されているが、この実施形態に限らない。例えば円板状の底板(第1のフッ素樹脂体)と円筒体(第2のフッ素樹脂体)とを接合して有底の容器1をフッ素樹脂接合体として形成しても良いことは勿論のことである。
また実施形態では有底円筒状の容器1を密閉する場合を例に説明したが、多角形状の容器1の場合には、例えば図6に示すように容器1の外周に沿ってパイプ8を設け、このパイプ8に設けたノズル孔8aからそれぞれ熱風を吹き出して容器1の外周部を一括して一様に加熱するようにすれば良い。この場合、ノズル孔8aの開口径やその開口位置は、容器1の外径形状等に応じて設定すれば良い。また本発明は、PFAからなるフッ素樹脂体の接合に有用なものであるが、PP(ポリプロピレン)やPFE(ポリエチレン)等のポリオレフェン系樹脂や、FEP(パーフロロエチレンプロペン重合体)やETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)等の他のフッ素樹脂体の熱融着にも適用することができる。
【0024】
またフッ素樹脂接合体の用途は、電子機器の容器に限られるものではない。例えば缶詰のように食品や薬品等の保存用密閉容器としても有用である。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係るフッ素樹脂接合体を形成する容器とその蓋体の例を示す図。
【図2】本発明に係るフッ素樹脂接合体を実現するフッ素樹脂体の熱融着方法を段階的に示す図。
【図3】本発明に係るフッ素樹脂接合体の熱融着処理におけるフッ素樹脂体の加熱形態を示す図。
【図4】本発明に係るフッ素樹脂接合体の熱融着された容器と蓋体との断面構造を示す写真。
【図5】本発明の他の実施形態を示す要部概略図。
【図6】本発明に係るフッ素樹脂接合体の熱融着処理におけるフッ素樹脂体の別の加熱形態を示す図。
【符号の説明】
【0026】
1 容器(フッ素樹脂体)
2 蓋体(フッ素樹脂体)
3 インロー突起
5 金型(保持手段)
6 ノズル(熱風吹きだし用)
7 金型(押圧手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のフッ素樹脂体と第2のフッ素樹脂体とを互いに突き合わせて接合したフッ素樹脂接合体であって、
前記第1のフッ素樹脂体と前記第2のフッ素樹脂体との突き合わせ部において、前記第1のフッ素樹脂体の加熱および外力による変形を受けた部位の一部が前記第2のフッ素樹脂体に熱融着して境目のない融着部を形成し、前記第1のフッ素樹脂体と前記第2のフッ素樹脂体との間の溶融しなかった部位には境目が残されていることを特徴とするフッ素樹脂接合体。
【請求項2】
前記2つのフッ素樹脂体は、その突き合わせ部位を融着して密閉空間を形成する容器とその蓋体とからなるものである請求項1に記載のフッ素樹脂接合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−207559(P2008−207559A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107883(P2008−107883)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【分割の表示】特願2002−161671(P2002−161671)の分割
【原出願日】平成14年6月3日(2002.6.3)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】