説明

フライの製造方法

【課題】常温保存、冷蔵庫内での保存、冷凍保存等、いずれの方法によってもサクサク感を喪失することなく好適に保存することができ、また、電子レンジによって再加熱した場合であっても、サクサク感が損なわれず、揚げたての食感を維持することができるフライの製造方法を提供する。
【解決手段】具材の表面につけ粉、バッタ液、パン粉を付けたものを油で揚げるというフライの製造方法において、具材を、予めアルカリイオン水中に1分間以上浸漬して下処理を行うことを特徴とする。尚、つけ粉として、小麦粉を加工したものを焼成したのちに粉砕して得られた粉を使用し、また、バッタ液として、アルカリイオン水中にカードランを溶解させたアルカリ性カードラン溶液を配合してなるものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造後時間が経過しても、また、電子レンジによって再加熱した場合であっても、サクサク感が損なわれず、揚げたての食感を維持することができるフライの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、フライは、表面にバッタ液(小麦粉や片栗粉などの粉を水や卵などで溶いたもの)を付着させた具材を、熱した揚げ油中に投入し、加熱調理することによって製造されている。この「油で揚げる」という調理方法は、熱した揚げ油の熱伝導によって、具材や衣の中の水分を急速に蒸発させ、これによって生じた空洞内へ揚げ油を浸入させることにより、つまり、「水と油の交代」を起こさせることを利用した調理方法である。
【0003】
このような方法によって調理されたフライは、具材の急速な加熱により、内部の旨味が閉じこめられるため、非常に美味しく感じられ、また、香ばしくサクサクとした衣の食感を楽しむことができる。
【特許文献1】特開2002−335875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらフライは、製造後ある程度時間が経過すると、常温下で保存した場合であっても、冷蔵庫内で保存した場合であっても、具材中の水分等が次第にしみ出して、これが衣の中に浸入して、衣のサクサク感が損なわれてしまうという問題がある。
【0005】
尚、製造したフライを急速冷凍した場合には、保存中における具材中の水分のしみ出しを阻止できるので、サクサク感の喪失という問題を回避できるように思えるが、電子レンジによって解凍、再加熱する過程で水分がしみ出して衣に移行してしまうため、結局はサクサク感の喪失という問題を根本的に解決することはできなかった。
【0006】
本発明は、上記のような従来方法によって製造したフライにおける問題点を解決するためになされたものであって、常温保存、冷蔵庫内での保存、冷凍保存等、いずれの方法によってもサクサク感を喪失することなく好適に保存することができ、また、電子レンジによって再加熱した場合であっても、サクサク感が損なわれず、揚げたての食感を維持することができるフライの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るフライの製造方法は、具材の表面につけ粉、バッタ液、パン粉を付けたものを油で揚げるというフライの製造方法において、具材を、予めアルカリイオン水中に1分間以上(好ましくは10〜30分間)浸漬して下処理を行うことを特徴としている。尚、具材の下処理に使用するアルカリイオン水としては、粘土鉱物が溶解している原料水を電気分解して得られたpH10以上(より好ましくはpH12以上)の強アルカリ性のものを使用することが好ましい。
【0008】
また、つけ粉としては、小麦粉を加工したものを焼成したのちに粉砕して得られた粉を使用することが好ましく、更に、バッタ液としては、アルカリイオン水中にカードランを溶解させたアルカリ性カードラン溶液を配合してなるもの(配合量:バッタ液全体の5〜50重量%)を使用することが好ましい。
【0009】
また、パン粉としては、アルカリイオン水中にカードランを溶解させたアルカリ性カードラン溶液を予めスプレーしたものを使用することが好ましく、更に、カードランの添加量が全体の5〜10重量%であるアルカリ性カードラン溶液を、130gあたり10±5mlの割合でスプレーしたパン粉を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るフライの製造方法によれば、常温保存、冷蔵庫内での保存、冷凍保存等、いずれの方法によってもサクサク感を喪失することなく好適に保存することができ、また、電子レンジによって再加熱した場合であっても、サクサク感が損なわれず、揚げたての食感を維持することができる。
【0011】
また、本発明に係る方法によれば、具材、バッタ液、パン粉のいずれについても、アルカリ性に改質してから加熱処理されるため、従来の方法によって製造されたフライと比べ、劣化しにくいという効果を期待することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ここで、本発明に係る「フライの製造方法」を実施するための最良の形態について説明する。本発明に係る方法によってフライを製造する場合、まず、具材に対し、アルカリイオン水を用いて下処理を行う。
【0013】
この下処理において使用されるアルカリイオン水は、化学的なアルカリ剤を用いることなく、物理的に水酸イオンを多くすることにより、水素イオン濃度でいうところのアルカリ性を呈するものであれば、どのようなものであっても良いが、ここでは、粘土鉱物が溶解している原料水を電気分解して得られたpH10以上の強アルカリ性のアルカリイオン水(特に、特許第2949322号に記載されている方法によって生成したアルカリイオン水、或いは、それに塩を溶解させたもの)を使用し、具材を当該アルカリイオン水中に少なくとも1分間以上(好ましくは10〜30分間)浸漬する。
【0014】
次に、具材をアルカリイオン水中から引き上げ、軽く水を切ってから、具材の表面につけ粉をまぶす。つけ粉としては、小麦粉を加工したものを焼成したのちに粉砕して得られた粉を使用する。
【0015】
次に、具材をバッタ液に浸け、具材表面にバッタ液を付着させる。ここでは、バッタ液として、アルカリイオン水(粘土鉱物が溶解している原料水を電気分解して得られたpH10以上の強アルカリ性のアルカリイオン水)中にカードラン(β−1,3−グルコシド結合を主体とする加熱凝固性の多糖類)を溶解させたアルカリ性カードラン溶液(特開2006−191859に記載されている食品組成物)を配合したものを使用する。尚、このバッタ液に配合するアルカリ性カードラン溶液としては、総量の1〜5重量%に相当する量のカードランがアルカリイオン水中に溶解しているものを使用する。
【0016】
当該バッタ液におけるアルカリ性カードラン溶液の配合量は、本実施形態においては、バッタ液全体の25重量%となっている。但し、この配合量には限定されず、5〜50重量%の範囲で適宜配合することができる。バッタ液は、例えば、水70重量部に対してアルカリ性カードラン溶液を30重量部加え、更に、小麦粉20重量部を加え、それらをよく混ぜ合わせて作る。
【0017】
次に、表面にバッタ液を付着させた具材を、パン粉の山に埋め、軽く押さえてから取り出し、軽く叩いて成形する。尚、パン粉としては、アルカリ性カードラン溶液を予めスプレーしたものを使用する。ここでは、アルカリ性カードラン溶液として、総量の5〜10重量%に相当する量のカードランがアルカリイオン水中に溶解しているものを使用する。更に、アルカリ性カードラン溶液のスプレー量は、パン粉130gに対して10(±5)ml程度とする。また、パン粉全体に対しカードラン溶液を均一に噴霧できるように、スプレーを行う際には、パン粉を適宜かき回しながら行う。
【0018】
そして最後に、このようにして処理した具材(表面に、つけ粉、バッタ液、及び、パン粉がまぶされた状態の具材)を油で揚げる。上述の通り、従来方法によって製造したフライは、製造後ある程度時間が経過すると、常温下で保存した場合であっても、冷蔵庫内で保存した場合であっても、具材中の水分等が次第にしみ出してしまい、これが衣の中に浸入してサクサク感がなくなってしまう、という問題があり、また、電子レンジ等によって再加熱した場合も、加熱という外的刺激を受けて、具材中の水分がしみ出して、同様の問題が生じていたが、本実施形態に係る方法によって製造したフライにおいては、常温、冷蔵、チルド、又は、冷凍保存した場合であっても、また、電子レンジで再加熱した場合であっても、衣のサクサク感が損なわれず、揚げたての食感を維持することができる。これは、次のような理由(理由1〜5)による。
【0019】
(理由1:アルカリイオン水による具材の下処理)
食材の中に存在している水分には、「結合水(細胞内のタンパク質等の成分或いは組織と結合した状態で存在している水分)」と、「自由水(細胞内の成分或いは組織等から遊離した状態で存在している水分)」とがある。フライの製造後において、時間の経過と共に、或いは、再加熱によって具材からしみ出してくる水分は、具材中において「自由水」として存在している水分である。具材中の「結合水」は、比較的安定した状態にあり、フライの製造後、ある程度時間が経過しても、また、電子レンジによって再加熱した場合でも、しみ出しにくい状態となっている。
【0020】
本実施形態の場合、つけ粉を付ける前に、具材をアルカリイオン水中に浸漬するという下処理を行うことにより、具材中の結合水を改質することができる。これは、アルカリイオン水特有の性質(具体的には、浸透性が高く、浸透圧により結合水を置換する性質)に起因している。
【0021】
この点についてより詳細に説明すると、具材をアルカリイオン水中に一定時間以上浸漬した場合、アルカリイオン水は具材内の奥深くまで迅速に浸透して、具材内において「結合水」として存在している水分をアルカリ性側に改質させることになる。そして、それらの改質された水分(即ち、アルカリイオン水)は、具材内でより安定した結合水となる。
【0022】
つまり、具材中にアルカリ性に改質された結合水が多くあると、時間の経過とともに(或いは、再加熱によって)具材からしみ出す水分の量が減り、衣の中へ水分が浸入することによって生じていた問題(即ち、サクサク感の喪失という問題)を好適に回避することができる。
【0023】
(理由2:バッタ液−カードラン)
本実施形態においては、バッタ液として、カードランを配合したものを使用しており、これにより、水分や油分を吸収しにくい性状の衣を形成することができる。
【0024】
より詳細に説明すると、カードランは、80℃以上の温度で加熱すると、熱不可逆性のゲルとなる性質を有しており、このゲルは、水分や油分を内部へ吸収しにくい構造で、かつ、温度条件に対して幅広い安定性を有している(つまり、高温で加熱しても、また、冷凍した場合でも、性状が殆ど変化しない)。フライを製造する場合、通常160℃以上に加熱した油が使用されるため、カードランを所定の割合で配合したバッタ液を具材表面に付着させてフライを製造した場合、バッタ液が凝固して形成される衣は、上記のような熱不可逆性ゲルとしての特性を得るに至り、このため、製造後ある程度の時間が経過した場合でも、また、電子レンジによって再加熱を行った場合でも、水分や油分が衣内へ浸入することを好適に回避することができ、その結果、サクサク感が損なわれず、揚げたての食感を維持することができる。
【0025】
(理由3:バッタ液−アルカリイオン水)
本実施形態においては、バッタ液として、アルカリイオン水を配合したものが使用されている。このことも、水分や油分を吸収しにくい性状の衣を形成することに寄与している。
【0026】
フライを製造する際、表面にバッタ液を付着させた具材を高温の油で揚げると、バッタ液中の水分が抜けて、層の中に多数の気泡や空洞が形成された状態でバッタ液が凝固し、スポンジ状の衣が形成される。ここで、衣の内部に形成される気泡等の大きさや位置は、凝固前のバッタ液中に分散していた水の分子の大きさや分散状態と関係があると考えられる。
【0027】
従来より使用されている一般的なバッタ液においては、分散している水の分子の大きさがまちまちであり、分散位置もランダムであったため、油調により衣内部に形成される気泡等は、大きさや形成位置が揃っていなかった。このため、油調直後においては一時的にサクサクとなるが、時間の経過とともに再び衣の内部に水分や油分が吸収されて、サクサク感が損なわれてしまう結果を招来していた。
【0028】
本実施形態においては、使用するバッタ液にアルカリイオン水が配合されており、このアルカリイオン水がバッタ液中の水の分子の大きさを揃えるとともに、バッタ液中において水分を均一に分散させることになり、このため、油調の際、衣の中に形成される気泡等の大きさ及び形成位置が均一になり(即ち、肌理が揃い)、水蒸気がバッタ液の衣の中を通り抜けやすい状態となる。その結果、水分や油分を吸収しにくい性状の衣が形成され、常温、冷蔵、チルド、又は、冷凍保存した場合であっても、また、電子レンジで再加熱した場合であっても、衣のサクサク感が損なわれず、揚げたての食感を維持することができる。
【0029】
(理由4:パン粉−カードラン)
本実施形態においては、パン粉として、カードラン(アルカリ性カードラン溶液)を予めスプレーしたものを使用しており、これにより、水分や油分を吸収しにくい性状の衣(パン粉の衣)を形成することができる。
【0030】
上述したように、カードランは、80℃以上の温度で加熱すると、熱不可逆性のゲルとなる性質を有しており、このゲルは、水分や油分を内部へ吸収しにくい構造で、かつ、温度条件に対して幅広い安定性を有している。このため、パン粉に予めカードラン(アルカリ性カードラン溶液)をスプレーした場合、油調の際、パン粉の一粒一粒が熱不可逆性ゲルによってコーティングされることになる。その結果、製造後ある程度の時間が経過した場合でも、また、電子レンジによって再加熱を行った場合でも、水分や油分が衣(パン粉の衣)の内部へ浸入することを好適に回避することができ、その結果、サクサク感が損なわれず、揚げたての食感を維持できるフライを製造することができる。
【0031】
(理由5:つけ粉)
本実施形態においては、つけ粉として、小麦粉を加工したものを焼成したのちに粉砕して得られた粉を使用している。従来方法による場合、つけ粉として、小麦粉等の穀粉がそのまま使用されていたが、本発明の発明者らが行った実験によると、そのまま使うよりも、穀粉を一度焼成し、その後粉砕して得られた粉を使った方が、具材からしみ出てくる水分をより吸収し、衣への水分の移行を阻止する効果が高い、ということが確認されている。つまり、穀粉を一度焼成し、その後粉砕して得られた粉を、つけ粉として使用した場合、製造後ある程度の時間が経過した場合でも、また、電子レンジによって再加熱を行った場合でも、水分や油分が衣の内部へ浸入することを好適に回避することができ、その結果、サクサク感が損なわれず、揚げたての食感を維持できるフライを製造できる、ということになる。
【0032】
更に、本実施形態に係る方法によって製造したフライにおいては、次のような効果も期待することができる。
【0033】
従来の方法によってフライを製造する場合、具材、バッタ液、パン粉のいずれも酸性であるのに対し、本実施形態の方法による場合、具材、バッタ液、パン粉のいずれについても、アルカリ性に改質してから(具材については、アルカリイオン水に浸漬することにより、バッタ液については、アルカリ性カードラン溶液を配合することにより、パン粉については、アルカリ性カードラン溶液をスプレーすることにより、アルカリ性に改質してから)、加熱処理しているため、従来の方法によって製造したフライと比べ、酸化しにくく、劣化を防止できるという効果を期待することができる。
【0034】
また、従来の方法によってフライを製造する場合、具材を油で揚げる際に、揚げ油が、凝固したバッタ液(即ち、衣)、或いは、凝固途上のバッタ液の層内部に浸入、通過して、具材中の油分(旨み成分)と接触したり、逆に、具材中の油分がバッタ液の層を通過して外側へ流出してしまうという現象が生じることがあり、この場合、旨み成分の流出による味の低下という問題や、内部に揚げ油が必要以上に吸収された状態で衣が凝固することにより、衣がベタベタになってしまうという問題が生じていたが、本実施形態のように、カードランを所定の割合で配合したバッタ液を使用した場合、油で揚げている際に、必要以上に油を含ませることなくバッタ液を凝固させることができ、サクサクとした衣を形成することができる。また、油で揚げている際に、具材の周囲に熱不可逆性ゲルが順次形成されていくため、外側の揚げ油と、内側の具材中の油分との接触が遮断され、旨み成分を衣の内側に封じ込めることができ、その結果、美味しいフライを製造することができる、という効果も期待することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
具材の表面につけ粉、バッタ液、パン粉を付けたものを油で揚げてフライを製造する方法において、
前記具材を、予めアルカリイオン水中に1分間以上浸漬して下処理を行うことを特徴とするフライの製造方法。
【請求項2】
前記アルカリイオン水として、粘土鉱物が溶解している原料水を電気分解して得られたpH10以上の強アルカリ性のものを使用することを特徴とする、請求項1に記載のフライの製造方法。
【請求項3】
前記つけ粉として、小麦粉を加工したものを焼成したのちに粉砕して得られた粉を使用することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のフライの製造方法。
【請求項4】
前記バッタ液として、アルカリイオン水中にカードランを溶解させたアルカリ性カードラン溶液を配合してなるものを使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のフライの製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ性カードラン溶液の配合量が、前記バッタ液全体の5〜50重量%であることを特徴とする、請求項4に記載のフライの製造方法。
【請求項6】
前記パン粉として、アルカリイオン水中にカードランを溶解させたアルカリ性カードラン溶液を予めスプレーしたものを使用することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のフライの製造方法。
【請求項7】
カードランの添加量が全体の5〜10重量%であるアルカリ性カードラン溶液を、130gあたり10±5mlの割合でスプレーしたパン粉を使用することを特徴とする、請求項6に記載のフライの製造方法。