フラジェリンに基づく新規の免疫アジュバント化合物及びその使用
本発明は、in vivoで免疫アジュバント活性を示す、ネズミチフス菌に由来するフラジェリンから得られる新規ペプチド化合物に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体又は動物における免疫応答の誘導及び/又は刺激に関する。
【0002】
具体的には、免疫原性組成物及びワクチン組成物に有用な新規の免疫アジュバント化合物に関する。
【背景技術】
【0003】
安全かつ有効なワクチンの開発は、依然として世界的公衆衛生における主要な目標である。
【0004】
特に、「粘膜ワクチン」と呼ばれるワクチンが注射ワクチンに代わる魅力的で有望なものとして出現している。
【0005】
粘膜投与は、多くの望ましい特性を有する可能性がある。恐らく粘膜ワクチン送達技術を開発する最も説得力のある理由は、多くの侵入病原体が入り込む粘膜部位で局部免疫を誘発することよる、免疫防御の第一線の形成であろう。
【0006】
さらに、研究者の中には、共通の粘膜免疫系が存在するため、1つの部位に誘導された粘膜免疫が、遠位の粘膜部位での免疫をもたらすことができると報告している者もいる(McGhee, J. R.ら、The mucosal immune system: from fundamental concepts to vaccine development. Vaccine 1992, 10:75-88)。
【0007】
さらに、粘膜部位を介して抗原を送達することにより、全身免疫応答も誘発する可能性がある。
【0008】
このことは、様々な粘膜部位から侵入しうる非常に多様な病原体に対する免疫を誘発する上で、非侵襲性経路、例えば鼻内又はその他の粘膜経路でのワクチンの送達により、有意な有益性が達成されうることを示唆している。
【0009】
今日のワクチン(粘膜ワクチンなど)の大部分は、2つの主要成分:(i)治療対象の標的抗原と、(ii)上記抗原に対する免疫原性を刺激及び/又は誘導する免疫アジュバント化合物から構成されている。
【0010】
公知の免疫アジュバントの種類は非常に多様であるが、こうした免疫アジュバントとして、具体的には、鉱油、細菌抽出物、生存及び弱毒化生物、並びに水酸化アルミニウム金属の懸濁液がある。
【0011】
アジュバントが免疫応答の増大をもたらすとしても、その使用により、特にそれらが投与された経路に応じて、有害な副作用を誘発する可能性もある。従って、承認され、かつヒトに有効な多数のアジュバントは、依然としてかなり制限されたままである。
【0012】
自然免疫の分野における進歩により、宿主免疫応答の調節を制御する細胞メカニズム及び分子メカニズムの両方についての理解が深められた。
【0013】
免疫系についての理解が深められたことにより、有用であることが見込まれる新規の免疫アジュバントの研究及び開発が可能になった。
【0014】
特に、トール様受容体(TLR)は、哺乳動物における自然免疫及び獲得免疫の協調誘導を助ける。TLRは非常に多種の細胞型により発現されることから、身体全体に免疫を誘発することができる。
【0015】
病原微生物による感染後、TLRは、微生物分子パターン(MAMP)と呼ばれる保存モチーフを認識する。TLRが結合すると、病原性微生物の自然クリアランス及びこれに対する獲得免疫の両方に向けられた遺伝子発現プログラムを誘導する。例えば、TLRは、ケモカインの産生を誘導し、これらケモカインは、自然微生物クリアランスに直接関与する多形核好中球(PMN)を特異的に誘引する。さらに、TLRは、多面的免疫メディエーター(例えば、TNFα)の分泌及びリンパ球に対する抗原提示を専門とする樹状細胞(DC)の機能的成熟を促進する。
【0016】
結果として、TLRアゴニストは、「広範に特異的な」炎症促進性免疫応答を刺激するだけではなく、規定の抗原に対する獲得免疫応答も増強するため、免疫アジュバントであると考えられる。
【0017】
こうした潜在的に有益な効果にもかかわらず、MAMPの全身毒性のために、MAMP活性をアジュバンシーに向ける誘導体を開発する努力が必要とされた。実際に、ユニークな特性を有する分子の作製は免疫応答を操作する上での大きな課題である。
【0018】
細菌フラジェリン(多くの細菌病原体における主要な鞭毛成分)は、TLR5活性化のための特異的かつユニークなアゴニストである。
【0019】
ネズミチフス菌(S. Typhimurium)由来のFliCフラジェリンは、鞭毛構造機能、免疫及びTLR5シグナル伝達に関する研究の実例である。
【0020】
これは、2つの異なるドメインを有する494アミノ酸タンパク質である。アミノ末端及びカルボキシ末端の「保存」領域は、TLR5活性化に必須のドメインを形成する。
【0021】
フラジェリンFliCの中央ドメインは、TLR5シグナル伝達に必須ではないアミノ酸を含む。これは、細菌種によって一次配列の組成及びサイズが大きく異なることから、「超可変」領域と呼ばれている。対照的に、超可変領域はフラジェリン抗原性に必須であることがわかっている。
【0022】
フラジェリンの静脈内(i.v.)注射は、全身応答を促進するが、この応答は炎症促進性メディエーター(例えば、TNFα又はIL-6)の産生及びDC活性化を特徴とする。
【0023】
さらに、フラジェリンは、粘膜特異的な自然及び獲得防御メカニズムを誘発する。例えば、上皮細胞系及び肺粘膜は、CXCL8(IL-8)及びCCL20のようなケモカインの産生を上方制御し、それらケモカインは、それぞれ粘膜PMN及びDCを動員する。
【0024】
また様々な著者が、フラジェリンは、フラジェリン自体と同時投与した抗原の両方に対する(i)血清及び/又は分泌抗体応答並びに(ii)Th1及びTh2細胞応答を誘発する強力な全身及び粘膜免疫アジュバントであることも報告している。
【0025】
その強力な全身及び粘膜免疫アジュバント活性によって、フラジェリンはワクチン、具体的には粘膜ワクチンタイプのワクチンの開発のために特に注目に値するものであろう。
【0026】
しかし、上記フラジェリンタイプの免疫アジュバントの大部分は、こうしたワクチンへの適用、特に粘膜ワクチン戦略に完全に適しているわけではない。
【0027】
実際、公知のフラジェリンアジュバントは、重大な副作用、具体的には、in vivoで投与したとき、内因性抗原活性及び全身炎症促進性を示す。
【0028】
さらに、公知のフラジェリンタイプのアジュバントの大部分は、in vivoで投与する場合、強力な免疫応答を誘発するために、標的抗原と物理的に連結させる必要がある。この要件によって、好適なフラジェリン−抗原連結、並びに最終的な有用免疫原性物質を取得するための追加の複雑な操作が必要になってくる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
従って、特に、重大な全身炎症の副作用を誘発することなく、具体的には抗原に対する粘膜免疫応答を誘導及び/又は増強するために、免疫アジュバントとして用いることができる新規の化合物が求められる。
【0030】
こうした新規の化合物はまた、有利には、標的抗原との単純な混合物により免疫応答を誘発する能力がなくてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0031】
そこで本発明は、上記の要求を満たすと共に、免疫原性組成物及びワクチン(特に粘膜タイプのもの)の作製に特に有用となりうる新規の免疫アジュバント化合物を提案する。
【0032】
発明の概要
本発明によれば、本明細書の実施例に例示するように、in vivoで免疫アジュバント活性を示す、配列番号1タイプのネズミチフス菌(Salmonella enterica Serovar Typhimurium; S. Typhimurium)に由来するフラジェリンから得られる新規のペプチド化合物が見いだされた。
【0033】
また、本発明によれば、上記の新規アジュバント化合物は、重大な全身炎症促進作用を引き起こすことなく、特に粘膜アジュバント特性を示すことも明らかにされている。
【0034】
本発明の新規フラジェリン由来化合物は、従って、免疫アジュバント物質として、有利なことに、粘膜免疫応答を誘導する、及び/又は増強する上で特に有用である。
【0035】
本発明は、従って、
a)配列番号1の1位に位置するアミノ酸残基から開始し、配列番号1の99〜173位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するN末端ペプチドと;
b)配列番号1の401〜406位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基から開始し、配列番号1の494位に位置するアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するC末端ペプチドと
を含む免疫アジュバント化合物であって、
ここで、上記N末端ペプチドとC末端ペプチドは、互いに直接連結されているか、又は
上記N末端ペプチドとC末端ペプチドは、スペーサー鎖を介して互いに間接的に連結されている、
上記免疫アジュバント化合物に関する。
【0036】
本発明の免疫アジュバント化合物の好ましい実施形態は本明細書にて後に定義する。
【0037】
本発明はまた、1以上の薬学的に許容される賦形剤とともに上記(又は以下の明細書に記載)の免疫アジュバント化合物を含む医薬組成物にも関する。
【0038】
本発明の医薬組成物は、1以上の抗原とともに、上記の免疫アジュバント化合物を含む。
【0039】
上記医薬組成物は、従って、有利には免疫原性組成物(すなわち、例えば抗体を産生させるために、抗原に対する免疫応答を誘導することを目的とする組成物)又はワクチン組成物(すなわち、疾患を治療又は予防するために、被験体若しくは動物において免疫応答を誘導することを目的とする組成物)である。
【0040】
好ましい実施形態によれば、上記免疫原性組成物又は上記ワクチンは、上記の1以上の抗原に共有結合していない本発明の免疫アジュバント化合物を含むのが有利である。
【0041】
本発明はまた、医薬品として用いる(具体的には、粘膜アジュバント活性を誘導及び/又は増強するために)ための、上記の免疫アジュバント化合物にも関する。
【0042】
本発明はまた、医薬組成物を製造するための、特にフラジェリンタンパク質以外の1以上の抗原に対する免疫応答を(具体的には、粘膜経路による投与後、粘膜コンパートメントにおいて)誘導及び/又は増強するための医薬組成物を製造するための、、本発明の免疫アジュバント化合物の使用に関する。
【0043】
本発明はまた、上記で開示した免疫アジュバントペプチド化合物をコードする核酸、(ii)挿入された上記核酸を含む組換えベクター、(iii)上記核酸又は組換えベクターでトランスフェクト又は形質転換された宿主細胞にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】超可変領域欠失フラジェリンの特徴及び交差反応性を示す図である。(A)組換えフラジェリンの概略的3次元(3D)図。野生型フラジェリンFliCの構造を、Pymol(http://www.pymol.org)を用いて左側パネルに示す。単量体では、末端領域(1〜170及び400〜494)がαヘリックスに固く折りたたまれ、鞭毛機能に関与する構造ドメインを形成する。モチーフ89〜96(黒色)は、TLR5シグナル伝達に必須である。FliC「超可変」ドメインは、主としてβ構造及びβターンから構成される。スイスモデル(http://www.expasy.org/spdbv/)を用いて、FliCΔ204-292 及びFliCΔ174-400について全体構造を予測したところ、それぞれ超可変領域の部分的欠失及び完全な欠失を示した。FliCΔ191-352については、欠失の境界となるアミノ酸の位置を左側のパネルに示す。FliCΔ174-400及びFliCΔ191-352は欠失結合部にGAAG及びLELEリンカーをそれぞれ含む。(B、C)FliC特異的血清の交差反応性。初回免疫のためにCFAとともに製剤化したフラジェリンを皮下投与し、次いでIFA追加免疫を実施後、超免疫血清を取得した。FliCΔ204-292 、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400についてELISAで血清の力価測定を行った。結果は2つの実験を代表するものである。(B)抗FliC血清の交差反応性。(C)抗FliCΔ174-400血清の交差反応性。統計的有意性(マン・ホイットニー検定においてp>0.05)をアスタリスクで示す。
【図2】超可変領域欠失フラジェリンの上皮及び粘膜炎症促進活性を示す図である。(A、B)組換えフラジェリンによる上皮細胞の活性化。ヒト上皮細胞を、表示濃度のフラジェリンFliC、FliCΔ204-292 、FliCΔ191-352、FliCΔ174-400又はFliCΔ174-400/89-96*で活性化した。レポーター融合CCL20-lucを保有するCaco-Rumbo細胞を6時間活性化し、ルシフェラーゼ活性を、飽和FliCレベルで測定した最大活性に対して標準化した(A)。BEAS-2B気管支上皮細胞を16時間刺激した後、上清中のIL-8レベルを測定した。結果は2つの独立した実験のうち1つを表すものである(B)。(C〜D)欠失フラジェリンによる粘膜自然応答の刺激。組換えフラジェリン又はトリプシン処理調製物(1μg相当量)を麻酔したマウス(n=3〜5)に鼻内投与した。リアルタイムqRT-PCRを用いて、2時間後の全肺におけるCCL20特異的mRNAレベルを決定した(C)。点滴注入から6時間後、BAL(塗りつぶし棒)及び肺(白抜き棒)を採取して、CCL20濃度を測定した(D)。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニー検定で決定した。
【図3】超可変領域欠失を有するフラジェリンのアジュバント作用を示す図である。第1日及び第21日にマウス(n=8)をオボアルブミン(OVA)±フラジェリン又はコレラ毒素(CT)で鼻内免疫した。第35日に、OVA特異的IgG力価を血清(A)及びBAL(B)において測定した。BAL中のOVA特異的IgAの濃度を測定した(C)。結果は、2つの独立した実験のうちの1つを表すものである。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニー検定で決定した。
【図4】超可変領域を欠失したフラジェリンの内因性抗原特性を示す図である。第1日及び第21日にマウス(n=8)をオボアルブミン(OVA)±フラジェリン又はコレラ毒素(CT)又はLPSで鼻内免疫した。第35日に、FliC特異的IgG力価を血清(A)及びBAL(B)において測定した。結果は、2つの独立した実験のうちの1つを表すものである。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニー検定で決定した。
【図5】フラジェリン特異的抗体によるTLR5シグナル伝達の中和を示す図である。第1週に、1μgのフラジェリンFliC及びCFAでNMRIマウスを皮下免疫した後、第3、5、7週にFliC及びIFAで追加免疫した。模擬条件では、動物(マウス)をオボアルブミンとアジュバント、又はアジュバントのみで同様に処置した。実験を第8週に実施した。(A)フラジェリン特異的免疫血清のin vitro TLR5中和活性。レポーター構築物CCL20-lucを保有するCaco-Rumbo上皮細胞を、50%v/v FliC超免疫血清(白抜き丸)又は模擬血清(塗りつぶし丸)と一緒にインキュベートしたフラジェリンFliCで6時間活性化した。ルシフェラーゼ活性を測定し、100 ng/ml FliCで得られた活性に対して標準化した。結果は、3つの独立した実験のうちの1つを表すものである。(B、C)フラジェリン特異的免疫血清のin vivo TLR5中和活性。免疫したマウス(n=3)にPBS(塗りつぶし棒)又は0.1μgのフラジェリンFliC(グレーの棒)若しくは1μgのフラジェリンFliC(白抜き棒)を静脈内注射した。2時間後、血清を収集し、CCL20(B)及びCXCL2(C)の濃度をELISAにより決定した。(D)免疫血清の中和活性。動物(マウス)(1用量につきn=3)に様々な量のフラジェリン特異的血清又は模擬血清を静脈内経路で受動移入し、1時間後、表示のように組換えフラジェリンで静脈内処置した。チャレンジの2時間後の血清におけるケモカイン産生をELISAにより測定した。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニー検定で決定した。
【図6】フラジェリンFliC及びFliCΔ174-400の鼻内用量応答活性を示す図である。マウス(n=3〜5)に様々な量のフラジェリンFliC(塗りつぶし四角)又はFliCΔ174-400(白抜き四角)を鼻内点滴注入した。6時間後、BALにおいてCCL20(A)及びCXCL2(B)の濃度をELISAにより測定した。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニーU検定で決定した。
【図7】超可変領域欠失フラジェリンFliCΔ174-400の全身活性化能力の改変を示す図である。様々な量のフラジェリンFliC(塗りつぶし四角)又はFliCΔ174-400(白抜き四角)を静脈内投与した。2時間後、血清中のCCL20(A)及びCXCL2(B)の濃度をELISAにより測定した。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニー検定で決定した。
【図8】様々な組換え超可変領域欠失フラジェリンのSDS PAGE解析を示す図である。図8は、クーマシーブルーで染色後の、組換えにより作製したFliCΔ174-400、FliCΔ161-405、FliCΔ138-405及びFliCΔ100-405のSDS PAGE電気泳動の写真からなる。
【図9】様々な組換え超可変領域欠失フラジェリンのイムノブロット解析を示す図である。図9は、抗FliC抗体で染色後の、組換えにより作製したFliCΔ174-400、FliCΔ161-405、FliCΔ138-405及びFliCΔ100-405のウエスタンブロット電気泳動の写真からなる。
【図10】様々な組換え超可変領域欠失フラジェリンによるCCL20ケモカイン産生の誘導を示す図である。欠失フラジェリンによる全身自然応答の誘発。組換えフラジェリン又はトリプシン処理調製物(10μg相当量)をマウス(n=2)に腹腔内投与した。注射から2時間後、血清を採取して、CCL20濃度を測定した。
【図11】様々な組換え超可変領域欠失フラジェリンによるCXCL2ケモカイン産生誘発の誘導を示す図である。欠失フラジェリンによる全身自然応答の誘発。組換えフラジェリン又はトリプシン処理調製物(10μg相当量)をマウス(n=2)に腹腔内投与した。注射から2時間後、血清を採取して、CXCL2濃度を測定した。
【図12】HIVウイルス由来のgp140抗原に対する免疫のための組換えFliCΔ174-400のアジュバント作用を示す図である。マウス(n=6)を第1日及び第21日にgp140(5μg)±フラジェリン(1μg)で鼻内免疫した。第35日に、gp140特異的IgG力価を血清(塗りつぶし記号)及びBAL(白抜き記号)において測定した。結果は2つの独立した実験のうちの1つを表すものである。
【図13】抗FliCΔ174-400マウスモノクローナル抗体を固定化した免疫アフィニティー基質上でのFliCの精製サイクルの280 nmでのクロマトグラフィープロフィールを示す図である。
【図14】抗FliCΔ174-400マウスモノクローナル抗体を固定化した免疫アフィニティー基質上でのFliCの精製サイクル中に回収した様々なクロマトグラフィー画分の電気泳動解析を示す図である。図14は、クーマシーブルーで染色後、図13に示すように回収した画分のSDS PAGE電気泳動の写真からなる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
発明の詳細な説明
本発明によれば、新規の化合物は、対応する好適な抗原とともにこれを投与すると、in vivoで粘膜免疫アジュバント活性を誘導し、標的抗原に対する免疫応答の誘導を可能にすることが示された。
【0046】
特に、本発明の新規のアジュバント化合物は、マウスへの鼻内投与後にもその免疫アジュバント特性を発揮することが示されている。従って、本発明の免疫アジュバント化合物は、全身及び粘膜免疫応答を増強することができる。
【0047】
また、本発明のフラジェリン由来免疫アジュバント化合物は、TLR5媒介の粘膜アジュバント特性を有し、in vivo粘膜炎症促進効果を伴うが、全身注射後に重大な全身炎症促進効果を一切示さないことも証明されている。
【0048】
さらに、本明細書の実施例に含まれる結果から、上記のフラジェリン由来免疫アジュバント化合物が重大な内因性抗原性作用を示さない、すなわち、目的の分子は、鼻内経路により投与した場合、特に血清又は気管支肺胞洗浄液(BAL)中へのフラジェリン特異的抗体を誘発する効果を防止若しくは減弱することがわかる。
【0049】
上記の結果は、本発明のフラジェリン由来の免疫アジュバント化合物は、特に粘膜免疫応答を誘導するための免疫応答の有効なアジュバントとして用いることができることを示している。
【0050】
従って、前記ペプチド化合物は、特に、(i)被験体生物体内で粘膜免疫応答を誘導することにより疾患を予防若しくは治療するための粘膜ワクチン組成物、又は(ii)所望の抗原に対して免疫応答を増強又は誘発するための免疫原性組成物に含まれるとき、有用となりうる。
【0051】
具体的には、本明細書の実施例に示すように、本発明者らは、思いがけなく、新たな具体的FliCΔ174-400フラジェリン(すなわち、ネズミチフス菌(Salmonella enterica Serovar Typhimurium)ATCC14028フラジェリンFliCに由来するペプチド配列(配列番号1)が、174位から400位まで欠失している、フラジェリン由来ペプチド)は粘膜では免疫を刺激するが、重大な全身炎症促進作用は欠いていることから、TLR5シグナル伝達が区画化されていることを見出だした。
【0052】
本発明者らはまた、FliCΔ174-400フラジェリンが、中和fliC特異的抗体を産生する能力が乏しいために、極めて有益な特性を有することも確認した。
【0053】
さらに、FliCΔ174-400フラジェリンは、野生型フラジェリンと比較して全身シグナル伝達については強度に減弱されるが、粘膜活性は影響されないこともわかっている。
【0054】
また、その他の超可変領域欠失フラジェリン、例えばFliCΔ161-405及びFliCΔ138-405が、免疫アジュバント特性を有していることも示されている。
【0055】
本発明の免疫アジュバントペプチド
上記の知見によって、本発明者らは、FliCΔ174-400、FliCΔ161-405及びFliCΔ138-405フラジェリンと同じ特性及び利点を有すると考えられるペプチドファミリーを設計することが可能になる。
【0056】
上記ペプチドファミリーは、本明細書の実施例で研究されるFliCΔ174-400、FliCΔ161-405及びFliCΔ138-405フラジェリンを始めとし、フラジェリンペプチド配列(配列番号1)及び該ペプチドの結晶構造に基づくものとして定義され、これにより、残留TLR5刺激活性を有しうる末端切断型形態も予測される。
【0057】
本発明は、従って、有利なことに、以下:
a)配列番号1の1位に位置するアミノ酸残基から開始し、配列番号1の99〜173位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列を有するN末端ペプチドと;
b)配列番号1の401〜406位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基から開始し、配列番号1の位置494に位置するアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列を有するC末端ペプチドと
を含む免疫アジュバント化合物であって、ここで
上記C末端ペプチドは、上記N末端ペプチドに直接連結されているか、又は
上記N末端ペプチドとC末端ペプチドは、中間スペーサー鎖を介して、互いに間接的に連結されている、
免疫アジュバント化合物に関する。
【0058】
本明細書で用いる場合の「含む/含んでいる」及びその文法上の変形は、記載される特徴、整数、ステップ若しくは成分又はこれらの群の存在を具体的に記載するものと解釈すべきであるが、1以上の他の特徴、整数、ステップ、成分若しくはこれらの群の存在又は追加を排除するわけではない。
【0059】
本発明の化合物は、本明細書において互換的に「免疫アジュバント化合物」又は「フラジェリン由来ペプチド」と呼ばれうる。
【0060】
「免疫アジュバント化合物」という用語により、本発明のフラジェリン由来ペプチドが被験体又は動物に投与された場合、抗原に対する免疫応答を誘導及び/又は増強することができることが理解される。
【0061】
また、これは、特定の抗原に対する特異的免疫応答を加速する、持続させる、又はその質を高めるように作用する物質も意味するものとする。
【0062】
本明細書に記載するように、上記免疫アジュバント化合物は、1以上の抗原及び薬学的に許容される賦形剤とともに、ワクチン又は免疫原性組成物に用いることができる。
【0063】
前述した配列番号1のペプチド配列は、ネズミチフス菌ATCC14028フラジェリンFliC(アクセッション番号AAL20871)に由来する。
【0064】
ポリペプチドの番号付けは、最終的なN末端メチオニン(配列番号1には示していない)の後の最初のアミノ酸から始まり、該メチオニンは、典型的には、後述する細菌宿主細胞においてメチオニンアミノペプチダーゼにより切除される。
【0065】
本発明のフラジェリン由来ペプチドのN末端及びC末端ペプチドは、配列番号1の対応するアミノ酸配列部分と少なくとも90%、及びそれ以上のアミノ酸同一性を有する。
【0066】
同一性の説明及びどのようにしてこれを決定するかは、当業者には周知である。
【0067】
本明細書においては、所与の目的のアミノ酸配列が、参照アミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、69%、97%、98%、99%若しくは99.5%アミノ酸同一性を有する場合、該目的のアミノ酸配列は、参照アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものとする。
【0068】
2つのアミノ酸配列同士の同一性の割合を決定するために、最適な比較の目的で、両配列をアラインメントする。例えば、第1及び第2アミノ酸配列の一方又は両方にギャップを導入することができ、非相同配列を比較目的では無視することができる。
【0069】
最適な比較を目的として、2つのアミノ酸配列の同一性の割合(%)は、以下のパラメーターを用いたCLUSTAL W(バージョン1.82)を用いて達成することができる:(1)CPU MODE = ClustalW mp;(2)ALIGNMENT= << full >>;(3)OUTPUT FORMAT = << aln w/numbers >>;(4)OUTPUT ORDER = << aligned >>;(5)COLOR ALIGNMENT= << no >>;(6)KTUP(word size)= << default >>;(7)WINDOW LENGTH = << default >>;(8)SCORE TYPE = << percent >>;(9)TOPDIAG = << default >>;(10)PAIRGAP = << default >>;(11)PHYLOGENETIC TREE/TREE TYPE = << none >>;(12)MATRIX = << default >>;(13)GAP OPEN = << default >>;(14)END GAPS = << default >>;(15)GAP EXTENSION = << default >>;(16)GAP DISTANCES = << default >>;(17)TREE TYPE = << cladogram >>及び(18)TREE GRAP DISTANCES = <<hide >>。
【0070】
特に、本発明のフラジェリン由来ペプチドの利点及び活性を損なうことなく、微小な改変を行いうることは理解されよう。
【0071】
こうした改変は、重大な全身炎症促進性副作用を一切起こすことなく、特定の免疫活性、特にTLR5媒介粘膜アジュバント特性が保存される限り、本発明の用語「免疫アジュバント化合物」又は「フラジェリン由来ペプチド」の意味に含まれる。
【0072】
さらに、本発明のフラジェリン由来ペプチドに、様々な分子を共有又は非共有結合により結合させることができ、このような分子として、例えば、別のポリペプチド、炭水化物、核酸若しくは脂質がある。
【0073】
これらの結合した分子は、最終的には、免疫応答の対象とすべき抗原中に存在する。こうした改変は本発明の定義に含まれる。
【0074】
マイナーな改変はまた、例えば、天然に存在するアミノ酸の保存的置換、並びに非天然のアミノ酸、アミノ酸類似体及び機能的模倣物を含む構造的改変物にも関する。例えば、リシンアミノ酸残基は、アルギニンアミノ酸残基の保存的置換物であると考えられる。
【0075】
従って、本明細書で意図するように、参照用の第2ポリペプチドと少なくとも90%のアミノ酸同一性を有する第1ポリペプチドは、参照用の第2ポリペプチドと比較して1以上のアミノ酸の相違を含む第1ポリペプチドを包含し、上記アミノ酸の相違は、(i)1以上のアミノ酸置換、(ii)1以上のアミノ酸欠失並びに(iii)1以上のアミノ酸付加、又は(i)、(ii)及び(iii)の任意の組合せからなる群より選択される。
【0076】
概して、本発明は、参照ポリペプチドと比較して、1以上のアミノ酸の置換、欠失若しくは付加、好ましくは参照ポリペプチドと比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10のアミノ酸置換、及び/又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10のアミノ酸欠失、及び/又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10のアミノ酸付加を有する変異体ポリペプチドを包含する。
【0077】
当業者であれば、どの構造が機能的に同等なアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣物を構成するかがわかるか、あるいはこれを判定することができる。
【0078】
前述したように、本発明のフラジェリン由来ペプチドのC末端及びN末端ペプチドは直接連結することができ、ペプチド結合により有利に共有結合することができる。
【0079】
別の実施形態では、本発明のフラジェリン由来ペプチドのN末端及びC末端ペプチドは、スペーサー鎖を介して、互いに間接的に連結している。
【0080】
上記スペーサー鎖は、最終化合物の生物活性を妨害しないように、また、最終化合物の免疫原性が顕著に増大しないように、選択すべきである。
【0081】
上記スペーサー鎖は、好ましくはペプチド結合により互いに連結され、かつ、本発明のフラジェリン由来ペプチドのN末端及びC末端配列同士が共有結合しているアミノ酸から構成される。従って、好ましい実施形態では、上記スペーサー鎖は、ペプチド結合により連結した1〜20個のアミノ酸を含み、該アミノ酸は、20種の天然に存在するアミノ酸から選択される。より好ましい実施形態では、1〜20種のアミノ酸は、Gly、Ala、Pro、Asn、Gln、Cys、Lysから選択される。さらに好ましくは、上記スペーサー鎖は、NH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOH配列から構成される。
【0082】
非ペプチドリンカーもまた可能であり、例えば、アルキルリンカーがある。こうしたアルキルリンカーは、任意の非立体障害性基、低級アシル、ハロゲン、CN、NH2、フェニルなどでさらに置換してもよい。別のタイプの非ペプチドリンカーはポリエチレングリコール基である。
【0083】
当業者には、これらのスペーサー鎖は周知であり、特に互いに連結しなければならないN末端ペプチド及びC末端ペプチド配列に応じて、好適なスペーサー鎖を選択することができる。
【0084】
さらに、配列番号1のアミノ酸位置488に位置する、C末端配列のアスパラギンアミノ酸残基はセリン残基で置換するのが有利である。
【0085】
この置換は、本発明のフラジェリン由来ペプチドを特異的に標識するために導入されている。こうした置換は、TLR5刺激活性を改変することなく、レジオネラ・ニューモフィラ菌のような他の細菌種のフラジェリン中に天然に存在する。他の置換を、アジュバントTLR5刺激活性を改変しない位置に導入して、本発明のフラジェリン由来ペプチドをさらに標識することもできる。
【0086】
本発明のフラジェリン由来ペプチドの好ましい実施形態
好ましい実施形態では、フラジェリンペプチド配列(配列番号1)及び結晶構造を考慮して、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列1〜99、1〜137、1〜160及び1〜173からなる群より選択するのが有利である。
【0087】
特に、フラジェリンFliCの3次元構造は、N末端ドメインが、3つのαヘリックスに組織化されており、これらはβターン、次にβシート及びβターンにより隔てられていることを示している。N末端での二次構造の保持部分は、TLR5刺激活性(また、具体的には粘膜TLR5刺激活性)を保持するのに十分なものでよい。すなわち配列番号1のアミノ酸配列1〜99は最初の2つのαヘリックスを含み、配列番号1のアミノ酸配列1〜137は最初の3つのαヘリックスを含み、配列番号1のアミノ酸配列1〜173は、FliCΔ174-400フラジェリンに認められるN末端構造を含む。
【0088】
さらに好ましい実施形態では、免疫アジュバント化合物の上記C末端ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列401〜494及び406〜494からなる群より選択される。
【0089】
具体的には、フラジェリンFliCの3次元構造は、βターンにより隔てられる2つのαヘリックスに組織化されていることを示している。N末端におけるこれら二次構造の保持部分は、TLR5刺激活性(また、具体的には粘膜TLR5刺激活性)を保持するのに十分なものでよい。すなわち配列番号1のアミノ酸配列401〜494はFliCΔ174-400フラジェリンに存在する配列であるのに対し、配列番号1のアミノ酸配列406〜494は2つのC末端αヘリックス二次構造のみを含む。
【0090】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドは、配列番号1の1位に位置するアラニン残基から開始し、かつ137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172及び173位に位置するアミノ酸残基からなる群より選択される配列番号1の位置に位置するアミノ酸残基で終了する、アミノ酸配列からなる。
【0091】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明の免疫アジュバントのC末端ペプチドは、401、402、403、404、405及び406位に位置するアミノ酸残基からなる群より選択される配列番号1の位置に位置するアミノ酸残基から開始し、かつ配列番号1の494位に位置するアルギニン残基で終了する、アミノ酸配列からなる。
【0092】
上記の好ましい実施形態の具体的態様では、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチド及びC末端ペプチドは、前述のNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHスペーサー鎖を介して(すなわち、欠失した配列174〜400に置換して)連結させるのが有利であり;また、配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基は、セリン残基により置換するのが有利である。
【0093】
こうした免疫アジュバント化合物の例示的実施形態は、本明細書の実施例に示すFliCΔ174-400、FliCΔ161-405及びFliCΔ138-405を含み、これらについてはまた下記でさらに詳しく説明する。
【0094】
別の実施形態では、目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドは、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜173及び401〜494からなる。
【0095】
さらに別の実施形態では、目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドは、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜160及び406〜494からなる。
【0096】
また別の実施形態では、目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドは、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜137及び406〜494からなる。
【0097】
いくつかの実施形態では、本発明の免疫アジュバント化合物は、特に該化合物が細菌細胞において組換えタンパク質として産生される場合、N末端に追加のメチオニン残基を含む。
【0098】
目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列1〜173及び401〜494からなる実施形態において、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、アミノ酸174位からアミノ酸400位までのアミノ酸配列が欠失した、アミノ酸配列(配列番号1)からなる。本発明の上記フラジェリン−ペプチド配列はまた、本明細書において「FliCΔ174-400」又は「FliCΔ174-400フラジェリン」とも呼ばれる。
【0099】
好ましい実施形態によれば、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチド及びC末端ペプチドは、前述のNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHスペーサー鎖を介して(すなわち、欠失した配列174〜400に置換して)、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドとC末端ペプチドを連結させるのが有利であり;配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基もセリン残基で置換することが有利である。
【0100】
このようにして得られる本発明のフラジェリン由来ペプチドは、271アミノ酸配列であり、そのペプチド配列は配列番号2に示す。
【0101】
ポリペプチドの番号付けは、最終的なN末端メチオニン(配列番号2には示していない)の後の最初のアミノ酸から開始し、該N末端メチオニンは、一般的には、以下に開示する細菌宿主細胞においてメチオニンアミノペプチダーゼにより切除される。
【0102】
目的の免疫アジュバントのN末端及びC末端ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列1〜160及び406〜494からなる実施形態において、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、アミノ酸161位からアミノ酸405位までのアミノ酸配列が欠失した、アミノ酸配列(配列番号1)からなる。本発明の上記フラジェリン−ペプチド配列はまた、本明細書では「FliCΔ161-405」又は「FliCΔ161-405フラジェリン」とも呼ばれる。
【0103】
好ましい実施形態では、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドとC末端ペプチドは、前述のNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHスペーサー鎖を介して(すなわち、欠失した配列161〜405に置換して)連結させるのが有利であり;また、配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基はセリン残基で置換するのが有利である。
【0104】
このようにして得られる本発明のフラジェリン由来ペプチドは、253アミノ酸配列であり、そのペプチド配列は配列番号25に示す。
【0105】
ポリペプチドの番号付けは、最終的なN末端メチオニン(配列番号25には示していない)の後の最初のアミノ酸から開始し、該N末端メチオニンは、一般的には、以下に開示する細菌宿主細胞においてメチオニンアミノペプチダーゼにより切除される。
【0106】
目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列1〜137及び406〜494からなる実施形態において、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、アミノ酸位置138からアミノ酸位置405までのアミノ酸配列が欠失した、アミノ酸配列(配列番号1)からなる。本発明の該フラジェリン−ペプチド配列はまた、本明細書では「FliCΔ138-405」又は「FliCΔ138-405フラジェリン」とも呼ばれる。
【0107】
好ましい実施形態では、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドとC末端ペプチドは、前述のNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHスペーサー鎖を介して(すなわち、欠失した配列138〜405に置換して)連結させるのが有利であり;また、配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基はセリン残基で置換するのが有利である。
【0108】
このようにして得られる本発明のフラジェリン由来ペプチドは、230アミノ酸配列であり、そのペプチド配列は配列番号26に示す。
【0109】
ポリペプチドの番号付けは、最終的なN末端メチオニン(配列番号26には示していない)の後の最初のアミノ酸から開始し、該N末端メチオニンは、一般的には、以下に開示する細菌宿主細胞においてメチオニンアミノペプチダーゼにより切除される。
【0110】
目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列1〜99及び406〜494からなる実施形態において、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、アミノ酸100位からアミノ酸405位までのアミノ酸配列が欠失した、アミノ酸配列(配列番号1)からなる。本発明の上記フラジェリン−ペプチド配列はまた、本明細書では「FliCΔ100-405」又は「FliCΔ100-405フラジェリン」とも呼ばれる。
【0111】
好ましい実施形態によれば、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドとC末端ペプチドは、前述のNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHスペーサー鎖を介して(すなわち、欠失した配列100〜405に置換して)連結させるのが有利であり;また、配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基もセリン残基で置換することが有利である。
【0112】
このようにして得られる本発明のフラジェリン由来ペプチドは、192アミノ酸配列であり、そのペプチド配列は配列番号27に示す。
【0113】
ポリペプチドの番号付けは、最終的なN末端メチオニン(配列番号27には示していない)の後の最初のアミノ酸から開始し、該N末端メチオニンは、一般的には、以下に開示する細菌宿主細胞においてメチオニンアミノペプチダーゼにより切除される。
【0114】
本発明の免疫アジュバントペプチドの合成
本発明のフラジェリン由来ペプチドは、遺伝子工学により得られる組換え細胞により、又は化学合成若しくは酵素ペプチド合成のいずれかにより、合成することができ、これら合成法は当業者には周知である。
【0115】
1.組換え細胞による合成
本発明のフラジェリン由来ペプチドは、核酸でトランスフェクトされた組換え細胞により、組換え的に生産することができ、該核酸は、そのアミノ酸配列をコードし、かつトランスフェクトされた細胞内で上記ペプチドの有効な生産を可能にするものである。
【0116】
本発明のフラジェリン由来ペプチドをコードする核酸配列
上記フラジェリンペプチド配列の改変は、組換えDNA突然変異誘発技術を用いて達成することができる。
【0117】
DNA配列を構築して、改変する多数の方法が当業者には周知であり、その組換え方法の選択も当業者により理解されるであろう。
【0118】
「組換え突然変異誘発」技術には、例えば、部位指定突然変異誘発及びPCR突然変異誘発がある(特に、Current Protocols in Molecular Biology, 2007 by John Wiley and Sons, Inc., 第8章及び第15章を参照)。
【0119】
上記ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、非常に多様な突然変異の方法及び用途に特に有用である。PCR突然変異誘発方法により、任意の標的DNAを容易かつ効率的に改変及び操作することができる。これは、例えば、点突然変異、欠失又は挿入の導入を含む。
【0120】
これらの技術は、例えば、配列番号1により特定されるフラジェリンペプチドをコードするネズミチフス菌株ATCC14028から単離した、配列番号3の野生型fliC遺伝子に対して実施する。
【0121】
好ましい実施形態では、前述したfliC遺伝子は、本発明のペプチドのために求められる所望のN末端及びC末端配列の機能で選択した好適なプライマー対を用いて、PCR突然変異誘発(特にCurrent Protocols in Molecular Biology, 2007 by John Wiley and Sons, Inc., 第8章及び第15章を参照)によりその配列の中央部分を欠失させる。
【0122】
例えば、自身のプロモーターの制御下に配列番号3の野生型fliC遺伝子を有するpBR322由来プラスミドに基づき、以下のプライマー対をPCR突然変異誘発技術に用いてもよい:
配列番号1のアミノ酸配列1〜99及び401〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号4及び配列番号5;
配列番号1のアミノ酸配列1〜99及び406〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号4及び配列番号6;
配列番号1のアミノ酸配列1〜137及び401〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号7及び配列番号5;
配列番号1のアミノ酸配列1〜137及び406〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号7及び配列番号6;
配列番号1のアミノ酸配列1〜160及び401〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号8及び配列番号5;
配列番号1のアミノ酸配列1〜160及び406〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号8及び配列番号6;
配列番号1のアミノ酸配列1〜173及び401〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号9及び配列番号5;
配列番号1のアミノ酸配列1〜173及び406〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号9及び配列番号6;
配列番号1の488位のアスパラギンをセリンに変更するためには、例えば、以下のプライマー:配列番号10及び配列番号11による部位指定突然変異誘発を用いることができる。
【0123】
フラジェリン組換えペプチドの1〜99、1〜137、1〜160又は1〜173と401〜494又は406〜494との結合部にNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHリンカーを導入するために、以下のDNA配列:GGTGCAGCTGGAをプライマー配列(配列番号5及び配列番号6)の5'末端に付加してもよく、これによって、それぞれ配列番号12の配列の「F-リンカー-401」及び配列番号13の配列の「F-リンカー-406」と呼ばれるプライマーが得られる。
【0124】
本発明のフラジェリン由来ペプチドFliCΔ174-400を生産するのに適したDNA配列は、例えば配列番号14の配列である。
【0125】
本発明のフラジェリン由来ペプチドFliCΔ161-405を生産するのに適した核酸は、例えば配列番号28の配列である。
【0126】
本発明のフラジェリン由来ペプチドFliCΔ138-405を生産するのに適した核酸は、例えば配列番号29の配列である。
【0127】
本発明のフラジェリン由来ペプチドFliCΔ100-405を生産するのに適した核酸は、例えば配列番号30の配列である。
【0128】
複製可能なベクターの選択及び使用
目的のフラジェリン由来ペプチドをコードする本明細書に記載の核酸配列は、クローニング(DNAの増幅)又は発現用の複製可能なベクターに挿入することができる。
【0129】
様々なベクターが一般に入手可能である。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス粒子、若しくはファージの形態であってもよい。好適な核酸配列を様々な方法によりベクターに挿入することができる。一般に、当分野で公知の技術を用いて、DNAを適切な制限エンドヌクレアーゼ部位に挿入することができる。
【0130】
ベクター成分としては一般に、限定するものではないが、配列を分泌させようとする場合には1以上のシグナル配列、複製起点、1以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列がある。
【0131】
これらの成分の1以上を含む好適なベクターの構築には、当業者には知られている標準的連結技術を用いる。
【0132】
目的のフラジェリン由来ペプチドは、組換えで直接生産することができるだけではなく、異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドとしても生産することができ、該異種ポリペプチドは、シグナル配列でもよいし、又は成熟タンパク質若しくはペプチドのN末端に特定の切断部位を有する他のポリペプチドでもよい。一般に、シグナル配列は、ベクターの1成分でもよいし、あるいはベクターに挿入する目的のポリペプチドをコードするDNAの一部であってもよい。シグナル配列は、例えばアルカリ性ホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、若しくは熱安定性エンテロトキシンIIリーダーからなる群より選択される、原核性シグナル配列でもよい。酵母分泌の場合には、シグナル配列は、例えば酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー(サッカロミセス及びクルベロマイセスα因子リーダー;後者は米国特許第5,010,182号に記載されている)、又は酸性ホスファターゼリーダー、カンジダ・アルビカンスグルコミラーゼリーダー(1990年4月4日に公開されたEP 362,179)、あるいは1990年11月15日に公開されたWO 90/13646に記載されているシグナルでありうる。哺乳動物細胞発現では、哺乳動物シグナル配列を用いて、タンパク質の直接分泌を誘導することができ、このようなシグナル配列として、例えば同じ種又は関連種の分泌ポリペプチド由来のシグナル配列、並びにウイルス分泌リーダーがある。
【0133】
発現ベクター及びクローニングベクターのいずれも、1以上の選択宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。こうした配列は、様々な細菌、酵母、及びウイルスについてよく知られている。プラスミドpBR322からの複製起点は、ほとんどのグラム陰性菌に好適であり、2.mu.プラスミド複製起点は酵母に好適であり、また様々なウイルス複製起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV、又はBPV)が哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。
【0134】
発現及びクローニングベクターは、一般に、選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含む。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質又はその他の毒素、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、若しくはテトラサイクリンに対する耐性を賦与するタンパク質、(b)栄養要求性欠損を相補するタンパク質、又は(c)複合培地から得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードするが、このような遺伝子として、例えばバチルス属についてはDアラニンラセマーゼをコードする遺伝子がある。
【0135】
哺乳動物細胞に好適な選択マーカーの一例として、DHFR又はチミジンキナーゼのように、目的のフラジェリン由来ペプチドをコードする核酸を取り込む能力がある細胞の識別を可能にするものがある。野生型DHFRを用いる場合に適切な宿主細胞は、DHFR活性が欠失したCHO細胞系であり、これは、Urlaubら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77: 4216 (1980)により記載のように作製して、増殖させる。酵母に用いるのに好適な選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7に存在するtrp 1遺伝子である。Stinchcombら、Nature, 282: 39 (1979);Kingsmanら、Gene, 7: 141 (1979);Tschemperら、Gene, 10: 157 (1980)。trp1遺伝子は、トリプトファン中で増殖する能力を欠いた酵母の突然変異株(例えば、ATCC No. 44076又はPEP4-1)に対して選択マーカーを賦与する。Jones, Genetics, 85: 12 (1977)。
【0136】
発現及びクローニングベクターは、一般に、フラジェリン由来ペプチドをコードする核酸配列に機能的に連結されて、mRNA合成を指令するプロモーターを含む。多種の有望な宿主細胞により認識されるプロモーターが周知である。原核宿主とともに用いるのに好適なプロモーターとしては、βラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系(Changら、Nature, 275: 615 (1978);Goeddelら、Nature, 281: 544 (1979))、アルカリ性ホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddel, Nucleic Acids Res., 8:4057 (1980);EP 36,776)、並びにハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーター(deBoerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80: 21-25 (1983))が挙げられる。細菌系に用いるプロモーターはまた、目的のフラジェリン由来ペプチドをコードするDNAに機能的に結合したシャイン・ダルガルノ(S.D.)配列も含む。
【0137】
酵母宿主とともに用いるのに好適なプロモーター作用性配列の例として、以下のものがある:3-ホスホグリセリン酸キナーゼのプロモーター(Hitzemanら、J. Biol. Chem., 255: 2073 (1980))又は他の解糖酵素のプロモーター(Hessら、J. Adv. Enzyme Reg., 7: 149 (1968); Holland, Biochemistry, 17: 4900 (1978))、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、並びにグルコキナーゼのプロモーター。
【0138】
増殖条件により制御される転写の別の利点を有する誘導性プロモーターである他の酵母プロモーターとして、以下のものがある:アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロームC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関連する分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、並びにマルトース及びガラクトースの利用に関与する酵素のプロモーター領域がある。酵母発現に用いるのに好適なベクター及びプロモーターについてはEP 73,657にさらに詳しく記載されている。
【0139】
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの目的の核酸の転写は、例えば、ウイルス、例えばポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス(1989年7月5日に公開された英国特許第2,211,504号)、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス2)、ウシパピローマウイルス、トリ肉種ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及びシミアンウイルス40(SV40)のゲノムから得られるプロモーターにより;異種哺乳動物プロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーターにより;並びに熱ショックプロモーターにより、それらプロモーターが宿主細胞系と適合性である限りにおいて、制御される。
【0140】
高等真核生物による、目的のフラジェリン由来ペプチドをコードするDNAの転写は、ベクターにエンハンサー配列を挿入することにより増大させることができる。エンハンサーは、プロモーターに作用してその転写を増大させるDNAのシス作用エレメント(通常、約10〜300 bp)である。現在、哺乳動物遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、αフェトプロテイン、及びインスリン)由来の多くのエンハンサー配列が知られている。しかし、典型的には、真核細胞ウイルスからのエンハンサーを用いる。例として、複製起点の後期側のSV40エンハンサー(bp 100〜270)、サイトメガロウイルス早期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーがある。上記エンハンサーは、目的のポリペプチドをコードする配列の5'及び3'側の部位でベクターにつなぎ合わせてもよいが、好ましくはプロモーターから5'側の部位に位置する。
【0141】
真核宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒトの細胞、又は他の多細胞生物由来の有核細胞)はまた、転写の終結及びmRNAの安定化に必要な配列も含みうる。こうした配列は、真核又はウイルスDNA若しくはcDNAの5'側、及び場合によっては3'側の非翻訳領域から一般に取得可能である。これらの領域は、目的のフラジェリン由来ペプチドをコードするmRNAの非翻訳部分におけるポリアデニル化断片として転写されたヌクレオチドセグメントを含む。
【0142】
組換え脊椎動物細胞培養物における目的のフラジェリン由来ペプチドの合成に適合させるのに好適な、さらに別の方法、ベクター及び宿主細胞についてはGethingら、Nature, 293: 620-625 (1981);Manteiら、Nature, 281: 40-46 (1979);EP 117,060;及びEP 117,058に記載されている。
【0143】
宿主細胞の選択及び形質転換
宿主細胞は、フラジェリン由来ペプチド生産のための本明細書に記載した発現ベクター又はクローニングベクターでトランスフェクト又は形質転換し、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、あるいは所望の配列をコードする遺伝子の増幅のために必要に応じて改変した従来の栄養培地において培養する。
【0144】
培地、温度、pHなどの培養条件は、過度の実験をすることなく、当業者により選択することができる。一般に、細胞培養物の生産性を最大化するための原理、プロトコル、及び実際の技術は、Mammalian Cell Biotechnology: A Practical Approach, M. Butler, (IRL Press, 1991)に見出だすことができる。
【0145】
トランスフェクションの方法は、当業者には公知であり、例えばCaPO4処理及びエレクトロポレーションがある。用いる宿主細胞に応じて、該細胞に適した標準的技術を用いて、形質転換を実施する。Sambrookら(前掲)に記載の塩化カルシウムを用いたカルシウム処理、又はエレクトロポレーションは、頑丈な細胞壁バリアを含む原核細胞又はその他の細胞に用いられる。アグロバクテリウム・ツメファシエンスによる感染は、Shawら、Gene 23: 315 (1983)及び1989年6月29日に公開されたWO 89/05859に記載されているように、ある種の植物細胞の形質転換に用いられる。こうした細胞壁のない哺乳動物細胞の場合には、Graham及びvan der Eb, Virology, 52:456-457 (1978)のリン酸カルシウム沈殿法を用いることができる。哺乳動物細胞宿主系形質転換の一般的態様は、米国特許第4,399,216号に記載されている。酵母への形質転換は、一般的に、Van Solingenら、J. Bact., 130: 946 (1977)及びHsiaoら、Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 76: 3829 (1979)の方法に従って実施する。しかし、細胞にDNAを導入する別の方法、例えば、核マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、インタクトな細胞との細菌プロトフラスト融合、又はポリカチオン、例えばポリブレン若しくはポリオルニチンなどによる方法を用いてもよい。哺乳動物細胞を形質転換するための各種方法については、Keownら、Methods in Enzymology, 185: 527-537 (1990)及びMansourら、Nature, 336: 348-352 (1988)を参照されたい。
【0146】
本明細書において、ベクターにDNAをクローニング又は発現させるための好適な宿主細胞としては、原核生物、酵母、又は高等真核細胞がある。
【0147】
好適な原核生物としては、限定するものではないが、真正細菌、例えばグラム陰性菌又はグラム陽性菌、例えば、腸内細菌科の菌、例えば大腸菌がある。様々な大腸菌株が一般に入手可能であり、例えば大腸菌K12株MM294(ATCC 31,446);大腸菌X1776(ATCC 31,537);大腸菌株W3110(ATCC 27,325);及びK5772(ATCC 53,635)などがある。その他の好適な原核宿主細胞としては、腸内細菌科、例えばエシェキリア属(例:大腸菌)、エンテロバクター属、エルウィニア属、クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属(例:ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium))、セラチア属(例;セラチア・マルセッセンス)、及びシゲラ属、並びにバチルス属、例えば枯草菌及びバチルス・リチェニホルミス(例:1989年4月12日に公開されたDD 266,710に開示のバチルス・リチェニホルミス41P)、緑膿菌などのシュードモナス属、並びにストレプトマイセス属が挙げられる。これらの例は、限定的ではなく、例示的なものである。
【0148】
ネズミチフス菌(fliC fljB)のSIN41株は、これら原核宿主細胞はフラジェリンを一切分泌しない(Proc Natl Acad Sci U S A. 2001;98:13722-7)ことから、フラジェリン由来ペプチドの生産について特に関心が寄せられる。しかし、フラジェリンは、専門の分泌系、いわゆる「III型分泌系」から分泌される。興味深いことに、SIN41株は、最適なフラジェリン分泌に必要なIII型分泌系の全成分を産生する。fliCプロモーター下に新規のフラジェリンペプチドをコードする配列をクローニングすることにより、SIN41株において目的のフラジェリン由来ペプチドの大量分泌が可能になる。
【0149】
W3110株は、組換えDNA産物発酵のための共通の宿主株であるため、これもまた興味深い。好ましくは、宿主細胞は、最小量のタンパク質分解酵素を分泌する。例えばW3110株は、宿主に内因性のタンパク質をコードする遺伝子において遺伝的突然変異を引き起こすように改変することができ、こうした宿主の例として、以下のものがある:完全遺伝子型tonAを有する大腸菌W3110株1A2;完全遺伝子型tonA ptr3を有する大腸菌W3110株9E4;完全遺伝子型tonA ptr3 phoA E15 (argF-lac)169 degP ompT kan.sup.rを有する大腸菌W3110株27C7(ATCC 55,244);完全遺伝子型tona ptr3 phoA E15 (argF-lac)169 degP ompT rbs7 ilvG kan.sup.rを有する大腸菌W3110株37D6;非カナマイシン耐性degP欠失突然変異を有する37D6株である、大腸菌W3110株40B4;1990年8月7日に発行された米国特許第4,946,783号に開示の突然変異型ペリプラズム性プロテアーゼを有する大腸菌株。大腸菌株MG1655、MG1655 ΔfimA-H又はMKS12、fliD-及びfimA-H-欠失MG1655株もまた、分泌タンパク質として組換えフラジェリンを産生させるための興味深い候補である(Nat Biotechnol. 2005;(4):475-81)。あるいは、クローニングのin vitro方法、例えば、PCR又はその他の核酸ポリメラーゼ反応が好適である。
【0150】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母などの真核微生物も、フラジェリン由来ペプチドをコードするベクターの好適なクローニング又は発現宿主である。
【0151】
サッカロミセス・セレビシエは、一般的に用いられる下等真核宿主微生物である。この他にも以下のものが挙げられる:シゾサッカロミセス・ポンベ(Beach及びNurse, Nature, 290: 140 [1981];1985年3月2日に公開されたEP 139,383);クリベロミセス宿主(米国特許第4,943,529号;Fleerら、Bio/Technology, 9: 968-975 (1991))、例えばクリベロミセス・ラクチス(MW98-8C、CBS683、CBS4574;Louvencourtら、J. Bacteriol., 737 [1983])、クリベロミセス・フラギリス(ATCC 12,424)、クリベロミセス・ブルガリクス(ATCC 16,045)、クリベロミセス・ウィケラミイ(ATCC 24,178)、クリベロミセス・ワルティイ(ATCC 56,500)、クリベロミセス・ドロソフィラルム(ATCC 36,906; Van den Bergら、Bio/Technology, 8:135 (1990))、クリベロミセス・サーモトレランス、及びクリベロミセス・マルキシアヌス;ヤロウィア(EP 402,226);ピキア・パトリス(EP 183,070;Sreekrishnaら、J. Basic Microbiol., 28: 265-278 [1988]);カンジダ;トリコデルマ・リーゼィ(EP 244,234);アカパンカビ(Caseら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76: 5259-5263 [1979]);シュワニオマイセス、例えばシュワニオマイセス・オキシデンタリス(1990年10月31日に公開されたEP 394,538);並びに糸状菌、例えばニューロスポラ属、ペニシリウム属、トリポクラジウム属(1991年1月10日に公開されたWO 91/00357)、及びアスペルギルス属宿主、例えばアスペルギルス・ニデュランス(Ballanceら、Biochem. Biophys. Res. Commun., 112: 284-289 [1983];Tilburnら、Gene, 26: 205-221 [1983]; Yeltonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 1470-1474 [1984])及びアスペルギルス・ニガー(Kelly及びHynes, EMBO J., 4: 475-479 [1985])。メチロトローフ酵母は、本明細書において好適であり、限定するものではないが、ハンセヌラ、カンジダ、クロッケラ、ピキア、サッカロミセス、トルロプシス、及びロドトルラからなる属より選択される、メタノール上で増殖可能な酵母が挙げられる。このクラスの酵母を例示する具体的な種の一覧は、C. Anthony, The Biochemistry of Methylotrophs, 269 (1982)に見出すことができる。
【0152】
目的のフラジェリン由来ペプチドをコードする核酸の発現のための好適な宿主細胞は、多細胞生物に由来するものである。無脊椎動物細胞の例として、ショウジョウバエS2及びスポドプテラSf9などの昆虫細胞、並びに植物細胞がある。有用な哺乳動物宿主細胞系の例として、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)及びCOS細胞がある。さらに具体的な例としては、SV40により形質転換したサル腎CV1細胞系(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胎児由来腎細胞系(293細胞又は懸濁培養での増殖のためにサブクローニングした293細胞、Grahamら、J. Gen. Virol., 36: 59 (1977));チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub及びChasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, Biol. Reprod., 23:243-251 (1980));ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);並びにマウス乳癌細胞(MMT 060562、ATCC CCL51)。適切な宿主細胞の選択は、当業者の技術の範囲内である。
【0153】
目的のフラジェリン由来ペプチドの精製のための一般的方法
様々な形態の目的のフラジェリン由来ペプチドを培地又は宿主細胞溶解物から回収することができる。
【0154】
膜結合している場合には、好適な界面活性剤溶液(例えば、TRITON--X.TM. 100)を用いて、又は酵素的切断によって、膜から放出させることができる。
【0155】
目的のフラジェリン由来ペプチドをコードする核酸の発現に用いる細胞は、様々な物理的又は化学的手段、例えば凍結解凍サイクル、音波処理、機械的破砕、若しくは細胞溶解剤により破砕することができる。
【0156】
組換え細胞タンパク質又はポリペプチドから目的のポリペプチドを精製することが望ましい場合もある。好適な精製方法の例として以下の方法がある:イオン交換カラムでの分画;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカ上又はDEAEのようなカチオン交換樹脂上でのクロマトグラフィー;等電点電気泳動;SDS-PAGE;硫安沈殿;例えばSephadex G-75を用いた、ゲル濾過;IgGなどの混入物質を除去するためのプロテインAセファロースカラム;並びに目的のフラジェリン由来ペプチドのエピトープタグ化形態に結合させる金属キレート化カラムによるもの。
【0157】
タンパク質精製の様々な方法を用いることができ、こうした方法は当分野で知られており、例えばDeutscher, Methods in Enzymology, 182 (1990);Scopes, Protein Purification: Principles and Practice(Springer-Verlag: New York, 1982)に記載されている。選択する精製ステップは、例えば、用いた生産方法の性質や、生産される具体的フラジェリン由来ペプチドに応じて異なる。
【0158】
好ましい実施形態では、フラジェリン由来ペプチドは、実施例に開示するように、組換えネズミチフス菌SIN41(fliC fljB)の上清から精製する。
【0159】
具体的には、サルモネラ菌をルリア−ベルターニ(LB)培地において37℃で6〜18時間増殖させる。上清を濾過して、60%硫酸アンモニア(Sigma Aldrich、米国)で飽和させた。沈殿した物質を遠心分離により回収し、20mM Tris/HCl pH7.5に溶解させた後、透析した。タンパク質をハイドロキシアパタイト、アニオン交換、及びサイズ排除クロマトグラフィー(Bio-Rad Laboratories、米国;GE Healthcare、スエーデン)の連続ラウンドによりさらに精製した。最後に、ポリミキシンBカラム(Pierce、米国)を用いて、上記タンパク質からリポ多糖(LPS)を枯渇させた。リムルスアッセイ(Associates of Cape Cod Inc.、米国)を用いて、残留LPS濃度を、組換えフラジェリンμg当たり30 pg以下のLPSであると決定した。
【0160】
免疫アフィニティークロマトグラフィーによる目的のフラジェリン由来ペプチドの精製
別の実施形態では、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、免疫アフィニティークロマトグラフィー基質での分離により精製してもよい。
【0161】
上記免疫アフィニティークロマトグラフィー基質は、そこに固定化された抗フラジェリン抗体を含む。「抗フラジェリン」抗体とは、本明細書では、天然フラジェリン又は超可変領域欠失フラジェリンのいずれかに結合する抗体を意味するものとし、本発明に包含されるものを含む。
【0162】
好ましくは、抗フラジェリン抗体は、モノクローナル抗体からなり、例えば、マウス抗フラジェリン抗体がある。
【0163】
本発明によれば、本明細書の別の箇所に開示される超可変領域欠失フラジェリンFliCΔ174-400でマウスを免疫するステップを含む方法により得られる抗フラジェリン抗体は、天然フラジェリン、並びに本明細書に開示する超可変領域欠失フラジェリンのいずれか1つの両方を認識することが示されている。
【0164】
従って、免疫アフィニティークロマトグラフィー基質のいくつかの好ましい実施形態では、上記基質は、FliCΔ174-400に対して誘導されたマウスモノクローナル抗体を含む。
【0165】
上記の好ましい免疫アフィニティークロマトグラフィー基質は、以下のように調製することができる:
− 抗FliCΔ174-400モノクローナル抗体を含むマウス腹水をEcono-PacプロテインAカラム(#732-2022 Affi-gel;Bio-Rad)で精製した。
【0166】
− 得られた精製抗FliCΔ174-400モノクローナル抗体(「B23C5」と呼ばれることもある)を、一次アミノ基を介してN-ヒドロキシスクシンイミド活性化Sepharose(商標)高速カラム(GE Healthcareからの# 17-0716-01 Hitrap NHS活性化HP)と共有結合させることにより、フラジェリン特異的アフィニティーカラムを作製した。結合収率は、98%であった。
【0167】
本明細書の実施例に示すように、上記フラジェリン特異的アフィニティーカラムにより、出発サンプルに含まれる他のタンパク質成分又は非タンパク質成分からの、天然フラジェリン、さらにまた、本明細書に開示する超可変領域欠失フラジェリンのいずれか1つの高度に特異的な分離が可能になる。
【0168】
フラジェリン、又は本明細書に開示するいずれか1つの超可変領域欠失フラジェリンを精製する方法を以下に記載する:
− 組換えネズミチフス菌SIN41又は大腸菌の培養物からフラジェリン含有上清を遠心分離し、0.22μm膜でろ過し、結合バッファー(75mM Tris-HCl pH8)で1対1希釈した後、前述のフラジェリン特異的アフィニティーカラムにアプライした。
【0169】
− 次に、フラジェリン特異的アフィニティーカラムを15〜20 CV(カラム体積)の結合バッファーで洗浄した。
【0170】
− 次いで、タンパク質を3 CVの溶出バッファー(100 mMグリシン−HCl、0.5 M NaCl、oH2.7)で溶出させた後、画分を直ちに500μL Tris 1.5M pH8.9で中和することにより、酸性pHへの長時間にわたる暴露を回避した。
【0171】
− 次いで、カラムを10CVの結合バッファーで再生してから、0.02%アジ化ナトリウムを加えて4℃で保存した。
【0172】
典型的なクロマトグラフィープロフィールを図13に示す。尚、図13は、(i)280 nmでの吸光度(O.D.)曲線(塗りつぶし四角をつないだ線)と(ii)導電率曲線の両方を示している。図13において矢印で示す数字は、カラムから流出する液体の画分をフラジェリン含量のさらなる分析のために連続的に収集した時間に一致する(図14及び以下のパラグラフを参照)。番号付けした画分は、それぞれ以下のものからなる:
− No.1:アプライ(3μg)する前の5μLのサンプル=投入総量=900μg
− No.2:カラムラン後にアプライしたサンプルからの20μL
− No.3:カラム洗浄液からの20μL
− No.4:カラム洗浄液からの20μL
− No.5、6及び7:溶出バッファー後のそれぞれの画分からの20μL:総量はほぼ900μg
− No.8:カラム再平衡からの20μL
図14は、各出発材料として図13に示した画分1〜8を用いて実施したウエスタンブロットアッセイの写真である。
【0173】
2.化学合成
特定の実施形態では、本発明のペプチドは、化学ペプチド合成の従来技術により合成することができる。
【0174】
例えば、目的のフラジェリン由来ペプチド配列は、固相技術、例えばStewartら、Solid-Phase ペプチド Synthesis(W.H. Freeman Co.: カリフォルニア州サンフランシスコ(1969);Merrifield, J. Am. Chem. Soc., 85: 2149-2154 (1963);Fields GB, Noble RL;1990;Int. J. Pept. Protein Res.;第35巻: 161-214)に記載されているものを用いて、直接ペプチド合成により作製することができる。
【0175】
マニュアル技術を用いて、又は自動化技術によりin vitroタンパク質合成を実施してもよい。自動化合成は、例えば、Applied Biosystemsペプチド合成装置(カリフォルニア州フォスターシティ)により、製造者の指示書に従い達成することができる。
【0176】
目的のペプチドの様々な部分を化学的に別個に合成して、化学的又は酵素による方法で結合させることにより、目的の全長ペプチドを作製することもできる。
【0177】
本発明のフラジェリン由来ペプチドを含む組成物
本発明の別の目的は、組成物、具体的には、特に1種以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて本明細書に定義するアジュバント化合物を含む、医薬組成物である。
【0178】
本発明はまた、1種以上の抗原とともに本明細書に定義する免疫アジュバント化合物を含む免疫原性組成物にも関する。
【0179】
「免疫原性組成物」は、被験体又は動物にいったん投与されると、それに含まれる上記の1種以上の抗原に対して防御免疫応答を誘発する。
【0180】
本発明はまた、1種以上の抗原とともに、本明細書に定義する免疫アジュバント化合物を含むワクチン組成物にも関する。
【0181】
本明細書で用いるワクチン組成物は、被験体又は動物にいったん投与されると、例えば微生物に対する防御免疫応答を誘導するか、又は感染から被験体又は動物を効果的に保護する。
【0182】
ワクチン組成物は、好ましくは免疫応答調節に応答する病的状態を予防又は改善する上で有用である。
【0183】
免疫アジュバント
前述のように、「免疫アジュバント」という用語は、免疫原性組成物又はワクチンに関して用いるとき、一般に、抗原に対する特異的免疫応答の質を加速し、持続させる、又は増強するように作用する物質を意味するものとする。
【0184】
免疫アジュバントはまた、有利なことに、防御免疫に必要な免疫の回数又は抗原の量を減らすこともできる。
【0185】
抗原
免疫原性又はワクチンタイプの化合物若しくは製剤において、様々な物資を抗原として用いることができる。例えば、弱毒化及び不活性化ウイルス並びに細菌病原体、精製高分子、多糖、トキソイド、組換え抗原、病原体由来の外来遺伝子を含む生物、合成ペプチド、ポリ核酸、抗体及び腫瘍細胞を用いて、(i)個体に免疫応答を誘導するのに有用な免疫原性組成物又は(ii)病的状態を治療するのに有用なワクチンを調製することができる。
【0186】
従って、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、非常に多様な抗原と組み合わせて、個体に免疫応答を誘導するのに有用な免疫原性組成物又はワクチンを調製することができる。
【0187】
当業者であれば、特定の病的状態を治療するのに適切な抗原を選択することができ、粗抗原又は単離抗原が特定のワクチン製剤化に好ましいかどうかを決定する方法を認識するであろう。
【0188】
また当業者であれば、本発明の免疫アジュバントを1種以上の抗原に共有結合するのが好ましいか共有結合させないのが好ましいのかを判断することができる。
【0189】
本in vivo試験により、粘膜経路、特に鼻内経路を介して一緒に投与する場合、粘膜アジュバント活性は、目的のフラジェリン由来ペプチドと標的抗原との間にどんな結合も必要としないことが証明された。
【0190】
当分野で周知の様々な方法を用いて、単離抗原を調製することができる。免疫原性ポリペプチドをコードする遺伝子は、例えば、細菌、酵母、昆虫、爬虫類又は哺乳動物細胞において、当分野で周知の組換え方法を用いて単離し、クローニングすることができるが、このような方法は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning : A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1992)及びAnsubelら、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Baltimore, MD (1998)に記載されている。ウイルス、細菌及び原生動物病原体由来の表面抗原をコードする多くの遺伝子が首尾よくクローニングされ、発現され、ワクチン開発のための抗原として用いられている。例えば、B型肝炎ウイルス、HbsAg、コレラ毒素のPサブユニット、大腸菌のエンテロトキシン、マラリア原虫のスポロゾイト周囲タンパク質、並びにエプスタイン−バールウイルス由来の糖タンパク質膜抗原、並びに腫瘍細胞抗原が様々な周知のベクター/宿主系において発現され、精製され、ワクチンに用いられている。
【0191】
本発明のフラジェリン由来ペプチドは、組換え抗原に対する免疫応答を有益に増強することができるTLR5媒介粘膜系を介して自然免疫応答を誘導する。
【0192】
ワクチン中に用いる病理学的に異常な細胞は、任意の供給源、例えば病的状態を有する1以上の個体、又はこうした1以上の個体から取得したex vivo若しくはin vitro培養細胞から得ることができ、該個体には、得られるワクチンで処置しようとする特定の個体も含まれる。
【0193】
免疫調節分子
個体における免疫応答を改変するために、本発明のフラジェリン由来ペプチドと組み合わせて様々な免疫調節分子を用いることができる。所望する改変の種類によって、本発明のフラジェリン由来ペプチドと組み合わせるべく選択される免疫調節分子の種類を決定する。
【0194】
例えば、自然免疫応答を増強するために、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、自然免疫応答を促進する別の免疫調節分子、例えば、自然免疫応答を誘導することが知られる、又はそのように思われる他のPAMP又は保存領域と組み合わせることができる。様々なPAMPがトール様受容体ファミリーの様々なメンバーの活性を刺激することが知られている。
【0195】
こうしたPAMPは、有益なサイトカインプロフィールを誘導するトール様受容体の特定の組合せを刺激するように組み合わせることができる。例えば、PAMPは、Th1又はTh2免疫応答を誘導するサイトカインプロフィールを刺激するように組み合わせることができる。
【0196】
体液性又は細胞性免疫応答を促進する他の種類の免疫調節分子を本発明のフラジェリン由来ペプチドと組み合わせることができる。例えば、サイトカインを投与して、Th1及びTh2免疫応答のバランスを改変することができる。当業者であれば、特定の病的状態に対する免疫応答において有益な改変を達成するのに有用である、適切なサイトカインを測定する方法は認識しているであろう。
【0197】
本発明のフラジェリン由来ペプチドの投与
本発明のフラジェリン由来ペプチドは、1以上の分子、例えば抗原又は別の免疫調節分子とともに「免疫原性量」で投与するが、これは、免疫応答を誘発するのに必要な量を意味するものとする。
【0198】
本発明のフラジェリン由来ペプチドの、独立の、又は1以上の分子と組み合わせた用量は、例えば、治療しようとする病的状態、個体の体重及び状態、並びに以前の治療又は同時に行う治療に依存する。本方法の具体的適用のための免疫原性用量と考えられる適切な量は、当業者により決定することができる。当業者であれば、治療の経過を通じて患者の状態をモニタリングする必要があること、また、投与する組成物の量を、治療に対する患者の応答に応じて調節することができることは理解されよう。
【0199】
ワクチン免疫アジュバントとして、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、例えば、高度精製又は組換え抗原のようなより弱い抗原の免疫原性を増強し、免疫応答に必要な抗原の量を低減し、防御免疫応答を賦与するのに必要な免疫の回数を減らすことにより、ワクチンの有効性に寄与し、免疫応答が低下しているか又は弱い個体、例えば新生児、高齢者、及び免疫無防備状態の個体におけるワクチンの効果を改善し、標的組織での免疫、例えば粘膜免疫を増強することができ、あるいは特定のサイトカインプロフィールを誘発することにより、細胞性又は体液性免疫を促進することができる。
【0200】
本発明のフラジェリン由来ペプチドは、粘膜経路により投与すると、TLR5系の活性化による自然免疫応答、本発明では特にTLR5媒介粘膜応答を誘導する。
【0201】
特に、in vivo試験により、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、標的抗原に対する全身応答及び粘膜応答を増強することができる、粘膜アジュバント活性を発揮することが示されている。
【0202】
自然免疫応答は、獲得免疫応答を刺激することにより、抗原に対する免疫応答を増強する。従って、本発明のフラジェリン由来ペプチドと1種以上の抗原との組合せにより、個体に免疫応答を誘導するための有効な免疫原性組成物又はワクチンを提供する。
【0203】
抗原及び/又は免疫調節分子と本発明のフラジェリン由来ペプチドとの組合せは、当分野において周知の様々な前臨床毒性試験及び安全性試験で試験することができる。
【0204】
例えば、こうした組合せは、抗原が免疫原性であることがわかっており、しかもヒト臨床試験について提案されているのと同じ経路によって再現性よく免疫が可能な動物モデルにおいて評価することができる。
【0205】
抗原及び/又は免疫調節分子と本発明のフラジェリン由来ペプチドの組合せは、例えば、生物学的製剤評価研究センター/米食品医薬品局及び米国立アレルギー感染症研究所(Goldenthal, KLら、AID Res Hum Retroviruses, 9: S45-9 (1993))により記載された手法により試験することができる。
【0206】
当業者であれば、抗原及び/又は免疫調節分子と本発明のフラジェリン由来ペプチドの特定の組合せについて、特定の動物種における特定の病態を治療するのに有用な、適切な抗原負荷量、免疫の経路、投与体積、抗原の精製度、並びにワクチン接種計画を決定する方法を認識するであろう。
【0207】
免疫応答を誘導するための本発明の免疫原性組成物又はワクチンは、薬学的に許容される媒質と一緒に溶液又は懸濁液として投与することができる。
【0208】
こうした薬学的に許容される媒質は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、通常の食塩水若しくは他の生理学的緩衝食塩水、あるいはその他の溶媒若しくはビヒクル、例えば、グリコール、グリセロール、並びにオリーブ油などの油、又は注射用有機エステルでよい。薬学的に許容される媒質はまた、リポソーム又はミセルを含んでもよいし、界面活性剤及びグリコシド、例えばQuil Aと一緒にポリペプチド又はペプチド抗原を混合することにより調製した免疫刺激性複合体を含んでもよい。
【0209】
薬学的に許容される媒質中の本発明のフラジェリン由来ペプチドを調製及び投与する別の方法は、TLR5媒介粘膜応答を誘導する化合物に関して、以下に記載する。
【0210】
本発明の免疫原性組成物又はワクチンは、様々な経路により投与して免疫応答を刺激することができる。例えば、上記免疫調節分子は、皮下、内皮、リンパ内、筋内、腫瘍内、膀胱内、腹腔内及び大脳内に送達することができる。
【0211】
当業者であれば、本発明のフラジェリン由来ペプチドの特定製剤に適切な送達経路を選択する方法を認識するであろう。
【0212】
本発明の好ましい実施形態では、哺乳動物における感染を治療又は予防するためのワクチン接種方法は、特に粘膜(例えば、眼、鼻内、口腔、胃、肺、腸、直腸、膣、若しくは尿道)表面から投与する本発明のワクチンの使用を含む。
【0213】
鼻内送達経路は、粘膜及び全身免疫応答の両方を誘導するのに有用であろう。鼻腔及び肺組織への製剤の好都合かつ有効な送達のための様々なデバイスが考えられる。
【0214】
鼻内送達経路は、本発明のフラジェリン由来ペプチドが、重大な全身炎症促進性副作用を一切伴わずに、粘膜区画において有意なアジュバント活性を示すことから、特に関心が寄せられる。
【0215】
ワクチン接種プロトコルでは、ワクチンは、初回/追加免疫法に従い、単回投与で、あるいは好ましくは、一週又は一ヶ月間隔で数回、例えば2回、3回若しくは4回、粘膜経路により有利に投与することができる。適切な投与量は、様々なパラメーターに依存する。
【0216】
ワクチン接種プロトコルは、厳密な粘膜プロトコルでもよいし、あるいは、例えば鼻内経路により経粘膜でワクチンの初回用量を投与し、さらに追加用量を非経口投与するか、又はその逆の混合プロトコルであってもよい。
【0217】
製剤化
医薬製剤又は組成物を調整する方法は、活性成分を担体、及び、任意で1以上の補助成分と一緒にするステップを含む。
【0218】
一般に、製剤は、活性成分を液体担体、又は微粉砕した固体担体、あるいはその両方と、均質にかつ密に一緒にした後、必要であれば、その産物を成形することにより、調製する。
【0219】
活性成分の経口投与のための液体投与形態は、薬学的に許容されるエマルション剤、マイクロエマルション剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤を含む。活性成分に加えて、液体投与形態は、当分野で一般に用いられている不活性の希釈剤、例えば水又はその他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(具体的には、綿実油、ピーナッツ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにこれらの混合物を含んでもよい。
【0220】
不活性希釈剤の他に、経口組成物は、湿潤剤、乳化及び懸濁剤、甘味料、香味料、着色剤、香料及び保存剤などの補助剤を含んでもよい。
【0221】
懸濁剤は、活性成分に加えて、懸濁化剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微晶質セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、アガーアガー及びトラガカント、並びにこれらの混合物を含んでもよい。
【0222】
直腸又は膣内投与のための本発明の医薬組成物の製剤は、座薬として提供することができ、これは、活性成分を1種以上の好適な非炎症性賦形剤又は担体と混合することにより調製することができ、こうした賦形剤又は担体は、例えばココアバター、ポリエチレングリコール、座薬用ワックス又はサリチレートを含み、これらは室温で固体であるが、体温では液体になり、従って直腸又は膣腔内で融解し、活性成分を放出する。膣内投与に適した本発明の製剤としてはまた、ペッサリー、タンポン、クリーム、ジェル、ペースト、フォーム又はスプレー製剤があり、該製剤は当分野で適切であることがわかっているそのような担体を含む。
【0223】
非経口投与に適した本発明の医薬組成物は、1以上の薬学的に許容される無菌等張水性溶液又は非水性溶液、分散液、懸濁液若しくはエマルション、又は無菌粉末(使用の直前に無菌注射液若しくは分散液で再構成することができる)と組み合わせて活性成分を含み、、このような溶液若しくは分散液は、抗酸化剤、バッファー、該製剤を意図するレシピエントの血液と等張性にする溶質、又は懸濁剤若しくは増粘剤を含んでいてもよい。
【0224】
本発明の医薬組成物に用いることができる好適な水性及び非水性担体の例として、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、これらの好適な混合物、植物油、例えばオリーブ油、並びに注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルがある。適正な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング材の使用により、分散液の場合には要求される粒度の維持により、及び界面活性剤の使用により、維持することができる。
【0225】
上記の組成物はまた、湿潤剤、乳化剤及び分散剤などの補助剤を含んでいてもよい。また、組成物中に、糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を含有させるのが望ましい場合もある。さらに、注射可能な医薬形態の持続的吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを含めることにより達成することができる。
【0226】
注射可能なデポー剤形は、ポリラクチド−ポリグリコリドのような生分解性ポリマー中の活性成分のマイクロカプセルマトリックスを形成させることにより調製される。ポリマーに対する活性成分の比率、並びに使用する特定のポリマーの性質に応じて、活性成分の放出速度を制御することができる。別の生分解性ポリマーの例として、ポリオルトエステル及びポリ無水物がある。デポー注射製剤はまた、身体組織と適合性のリポソーム又はマイクロエマルション中に活性成分を閉じ込めることにより調製される。注射可能薬剤は、例えば細菌保持フィルターを介した濾過により滅菌することができる。
【0227】
製剤は、単位用量又は複数回用量密封容器、例えば、アンプル及びバイアル中で提供してもよいし、凍結乾燥状態で保存してもよく、これは使用の直前に無菌液体担体、例えば注射用水を添加するだけでよい。即時注射溶液及び懸濁液は、前述したタイプの無菌の粉末、顆粒及び錠剤から調製することができる。
【0228】
本発明のワクチン組成物中の抗原、及び免疫アジュバント化合物の量、投与量は、具体的抗原、具体的動物又は患者の年齢、性別、体重、生物種及び状態、並びに投与経路などの要因を考慮に入れて、製剤分野の当業者には周知の方法で決定する。
【0229】
好ましい実施形態では、本発明のワクチン組成物はさらに、界面活性剤、吸収促進剤、吸水ポリマー、酵素分解阻害物質、アルコール、有機溶剤、油、pH調整剤、保存剤、浸透圧調節剤、噴射剤、水及びこれらの混合物からなる群より選択される1以上の成分を含む。
【0230】
本発明のワクチン組成物はさらに、薬学的に許容される担体をさらに含むことができる。該担体の量は、他の成分について選択された量、抗原の所望濃度、経口又は非経口投与経路の選択などに応じて変動する。担体は、任意の好都合なときにワクチンに添加することができる。凍結乾燥ワクチンの場合には、担体は、例えば、投与の直前に添加することができる。あるいは、最終製剤を担体と一緒に製造することもできる。
【0231】
適切な担体の例として、限定するものではないが、無菌水、生理食塩水、バッファー、リン酸緩衝生理食塩水、緩衝塩化ナトリウム、植物油、最少必須培地(MEM)、HEPESバッファー含有MEMなどがある。
【0232】
場合により、本発明のワクチン組成物は、前記アジュバント及び所望の結果に応じて変動する量で従来の第2アジュバントを含んでもよい。通常量は、他の成分及び所望の作用に応じて、約0.02%〜約20重量%の範囲である。
【0233】
好適な第2アジュバントの例として、限定するわけではないが、以下のものが挙げられる:安定剤;乳化剤;水酸化アルミニウム;リン酸アルミニウム;pH調整剤、例えば水酸化ナトリウム、塩酸など;界面活性剤、例えばTween.RTM. 80(ポリソルベート80、Sigma Chemical Co.(ミズーリ州サントルイス)から市販されている);リポソーム;イスコムアジュバント;合成グリコペプチド、例えばムラミルジペプチド;増量剤、例えば、デキストラン又は、例えばリン酸アルミニウムとのデキストラン組合せ物;カルボキシポリメチレン;細菌細胞壁、例えばマイコバクテリア細胞壁抽出物;これらの誘導体、例えばコルネバクテリウム・パルバム;プロピオニバクテリウム・アクネ;ウシ型結核菌、例えばカルメットゲランウシ型結核菌(BCG);ワクシニア又は動物ポックスウイルスタンパク質;オルビウイルスなどのサブウイルス粒子アジュバント;コレラ毒素;N,N-ジオクタデシル-N',N'-ビス(2-ヒドロキシエチル)-プロパンジアミン(ピリジン);モノホスホリルリピドA;ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA、Kodak(ニューヨーク州ロチェスター)から市販);これらの合成物及び混合物。望ましくは、水酸化アルミニウムは、別の二次アジュバント又はQuil Aのような免疫アジュバントと混合する。
【0234】
好適な安定剤の例として、限定するものではないが、スクロース、ゼラチン、ペプトン、消化タンパク質抽出物、例えばNZ-Amine又はNZ-Amine ASがある。乳化剤の例として、注射用又は鼻内ワクチン組成物に有用な、鉱油、植物油、ピーナッツ油及びその他の標準的代謝可能な非毒性油がある。
【0235】
本発明の目的のために、これらのアジュバントは、前述の免疫アジュバント化合物(これはRho GTPaseアクチベーターからなり、抗原性物質と組み合わせて該抗原物質に対する体液性免疫応答を有意に増強するその作用のために本ワクチン組成物における必須成分である)と単に対比させるために、「第2」のものとして特定する。第2アジュバントは、ある種のアジュバントはある程度まで免疫を増強する特性を備え、二重の目的を有するが、主に工程助剤としてワクチン組成物に含まれる。
【0236】
従来の保存剤を約0.0001重量%〜約0.1重量%の範囲の有効量でワクチン組成物に添加することができる。製剤に用いられる保存剤に依存して、この範囲に前後する量が有用なこともある。典型的保存剤として、例えば、ソルビン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、フェノール、メチルパラベン、プロピルバラベン、チメロサールなどがある。
【0237】
不活性化し、改変された、又は別の種類のワクチン組成物の選択、並びに本発明の改善されたワクチン組成物製剤の調製方法は、当業者には周知であるか、あるいは容易に決定される。
【0238】
薬理学的に有効な量の本発明の免疫アジュバント化合物は、抗原の免疫原性を増強する、加速する、若しくは持続させる目的で、例えば経口、非経口、又はその他の経路で、好ましくは粘膜経路で、抗原性物質の投与と同時に、逐次的に、若しくは直後に投与することができる。
【0239】
ワクチン組成物の用量は、特に、ワクチン接種した、又はワクチン接種すべき宿主の抗原、生物種などに応じて変動するが、ワクチン組成物の薬理学的に有効な量の投与量は、通常、用量当たり約0.01μg〜約500μg(特に50μg〜約500μg)の本発明の免疫アジュバント化合物である(特に図6に示す結果に基づく)。
【0240】
併用する特定の抗原性物質の量は、免疫応答を改善するのに必要な本発明の免疫アジュバント化合物の量に影響を与えるが、医師は、個々の状況に合うように、慣用的試験により免疫アジュバント化合物の有効な投与量を容易に調製することができる。
【0241】
一般に、本発明のワクチン組成物は、好都合に経口、非経口(皮下、筋内、静脈内、皮内、又は腹腔内)、口腔内、鼻内、又は経皮投与される。本発明により意図される投与経路は、抗原性物質及び共調製剤(co-formulant)に応じて変動する。例えば、ワクチン組成物がサポニンを含む場合には、経口又は鼻内では非毒性であるが、サポニゲングリコシドは強力な溶血物質として作用するためサポニゲングリコシドを血流に注射しないように注意しなければならない。また、多くの抗原は経口投与すると、有効ではなくなる。好ましくは、ワクチン組成物は、皮下、筋内又は鼻内投与する。
【0242】
ワクチン組成物の投与量は、特に、選択した抗原、投与経路、生物種及びその他の標準的要因に応じて変動する。当業者であれば、各抗原に対する免疫原性応答のために適切な投与量を容易に力価測定して有効な免疫化量及び投与方法を達成することができる。
【0243】
本明細書の他の箇所に既に記載したように、本発明のさらなる目的は、粘膜表面への投与のための本発明のワクチン組成物である。
【0244】
この投与方法は、大きな利点を提供する。実際、粘膜は、多数の樹状細胞及びランゲハンス細胞を含み、これらの細胞は優れた抗原検出性及び抗原提示性細胞である。粘膜はまた、粘膜関連リンパ組織と呼ばれるリンパ器官にも接続しており、他の粘膜領域に対する免疫応答を促進することができる。このような上皮の例として鼻上皮膜があり、これは実質的に単層の上皮細胞(多列上皮)からなり、上気道の粘膜は2つのリンパ組織、すなわち、アデノイド及び扁桃に接続している。高密度のB細胞及びT細胞からなる鼻粘膜下の広範な毛細血管網は、抗原の迅速な認識を可能にし、高速な免疫応答をもたらすのに特に適している。
【0245】
好ましくは、粘膜表面は、鼻、肺、口、眼、耳、胃腸管、生殖管、腟、直腸、及び皮膚の粘膜表面からなる群より選択される。
【実施例】
【0246】
実施例1:超可変領域欠失フラジェリンの免疫アジュバント作用
材料及び方法
組換えフラジェリンの作製
組換えフラジェリンは、ネズミチフス菌ATCC14028フラジェリンFliC(アクセッション番号AAL20871)に由来するものであった。
【0247】
フラジェリンFliC及びFliCΔ205-293は、以前記載されている(Yoshiokaら、1995. Flagellar filament structure and cell motility of Salmonella typhimurium mutants lacking part of the outer domain of flagellin. J. Bacteriol. 177:1090-1093; Didierlaurentら、2004. Flagellin Promotes Myeloid Differentiation Factor 88-Dependent Development of Th2-Type Response. J. Immunol. 172:6922-6930; Sierroら、2001, Flagellin stimulation of intestinal epithelial cells triggers CCL20-mediated migration of dendritic cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:13722-13727))ように、ネズミチフス菌株SIN22(fljB)及びSJW46から単離するか、又はAlexis Biochemicals(スイス)から購入した。
【0248】
FliCΔ174-400及びFliCΔ191-352をコードする構築物は、配列番号3の野生型fliC遺伝子を有するpBR322由来のプラスミド上のPCRにより、それ自身のプロモーターの制御下に、以下のプライマー対を用いて作製した:AGCACCattcagcgtatccagacc(配列番号15)/GCTGGTgctacaaccaccgaaaac(配列番号16)及びTCGAGatatcctgtaacagttgcagcc(配列番号17)/ACTCGAGgacggtacatccaaaactgcac(配列番号18)(リンカーをコードする塩基をイタリックで表す)。
【0249】
また、TLR5検出に関与する残基89-96(QRVRELAV)を非シグナル伝達フラジェリン由来の対応する配列(DTVKVKAT)で置換するために、FliCΔ174-400を有するプラスミドについて部位指定突然変異誘発を実施した。こうして得られたタンパク質は、FliCΔ174-400/89-96*であった。
【0250】
FliCΔ174-400、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400/89-96*において、末端から6残基に位置するアスパラギンをセリンに改変した。
【0251】
末端切断型フラジェリンを以下のように組換えネズミチフス菌SIN41(fliC fljB)の上清から精製した。サルモネラ菌をルリア・ベルタニ(LB)培地において37℃で18時間撹拌しながら増殖させた。上清を濾過し、60%硫酸アンモニウム(Sigma Aldrich、米国)で飽和させた。沈殿物質を遠心分離し、20mM Tris/HCl pH7.5に溶解させた後、透析により回収した。ハイドロキシアパタイト及びアニオン交換クロマトグラフィー(Bio-Rad Laboratories、米国)の連続的ラウンドにより、タンパク質をさらに精製した。最後に、ポリミキシンBカラム(Pierce、米国)を用いて、タンパク質からリポ多糖(LPS)を枯渇させた。リムルスアッセイ(Associates of Cape Cod Inc.、米国)を用いて、残留LPS濃度を測定したところ、組換えフラジェリン1μg当たり30 pg以下のLPSであった。
【0252】
詳細には、フラジェリンを0.017%トリプシン-EDTA(Invitrogen、米国)で37℃にて1時間処理することにより、タンパク質を完全に加水分解した後、70℃で1時間加熱することにより、トリプシンを不活性化した。タンパク質は、標準的SDS-PAGE、並びにFliC特異的ポリクローナル抗体を用いたイムノブロッティングにより解析した。
【0253】
動物実験
雌のNMRIマウス(6〜8週齢)をCharles River Laboratories(フランス)から購入し、認可機関(#A59107;Institut Pasteur de Lille)における特定の無菌施設内で維持した。実験はすべて現行の国内及び施設内規定及び倫理ガイドラインに従って実施した。
【0254】
超免疫のために、動物(マウス)に、第1日に200μlの完全フロイントアジュバント(CFA)/PBS中、また第21日、第35日及び第49日に不完全フロイントアジュバント(CFA)/PBS中に乳化したフラジェリンFliC(注射1回当たり1μg)を皮下(s.c.)注射した。第63日には、マウスに200μlのフラジェリン/PBSを静脈内投与し、2時間後、血清及び組織サンプル採取及び解析のために、5 mgのペントバルビタールナトリウム(CEVA Sante Animale、フランス)の腹腔内(i.p.)注射により死なせた。
【0255】
粘膜自然応答及びアジュバント特性を特性決定するために、マウス25 g当たり1.5 mgのケタミン(Merial、フランス)及び0.3 mgのキシラジン(Bayer、ドイツ)で麻酔したマウスに、20μlのPBS±タンパク質を鼻内投与(i.n.)した。
【0256】
炎症促進性応答を調べるために、2時間後(RNA及び遺伝子発現アッセイのため)又は6時間後(サイトカイン産生を調べるため)にマウスからサンプルを採取した。
【0257】
免疫アッセイのために、第1日及び第21日に、マウスにPBS± LPS枯渇オボアルブミン(OVA)(20μg、Sigma、グレードVII、米国)±フラジェリン(1μg)を鼻内投与した。第35日に気管支肺胞洗浄液(BAL)及び血清を採取した。
【0258】
中和を評価するために、免疫血清及び模擬血清を56℃で30分加熱することにより、補体を不活性化した。フラジェリンでの全身活性化の1時間前に、連続血清希釈物(200μlのPBS中)を動物に静脈内経路により受動移入させた。いくつかの実験では、PBSで希釈したフラジェリンと血清を混合した後、粘膜中和を試験するために鼻内投与した。
【0259】
コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル(Roche、スイス)を含む1 mlのPBSの気管内注射後、BALを回収して、遠心分離により清澄化した。
【0260】
血液サンプルを収集し、室温で凝固させた後、遠心分離により血清を分離した。
【0261】
プロテアーゼインヒビターを添加した2 ml T-PER組織タンパク質抽出試薬(Pierce、米国)で組織をホモジナイズすることにより、肺タンパク質抽出物を調製した。サンプルはすべて、解析まで−80℃で保存した。
【0262】
抗原特異的抗体応答の解析
血清及びBALサンプル中のOVA特異的抗体又はフラジェリン特異的抗体のレベルを、ELISAを用いて評価した。
【0263】
簡単に説明すると、OVA(リン酸バッファー0.2 M pH6.5中ウェル当たり20μg)及びフラジェリンFliC(PBS中ウェル当たり100ng)を4℃で一晩MaxiSorpマイクロプレート(Nalge Nunc Int,、米国)に塗布した。すべてのマイクロプレートをPBS/Tween20 0.05%で洗浄し、室温で1時間にわたりPBS/粉乳1%でブロッキングした。
【0264】
展開の前に、サンプルの連続希釈物を室温で1時間インキュベートした。ビオチニル化抗マウスIgG又はIgA抗体(Southern Biotechnology Associates、米国)、HRP結合ストレプトアビジン(GE Healthcare、米国)及び3,3',5,5' テトラメチルベンジジン(Becton Dickinson Bioscience、米国)を展開試薬として用いた。H2SO4の添加により反応を停止し、450 nmでODを測定した。
【0265】
IgG力価は、吸光度の値がOVAについては0.15 OD、またFliCについては0.5 ODをもたらした最高サンプル希釈度の逆数として定義し、これを基準血清と系統的に比較した。力価は個々のマウスからの力価の幾何平均として与えられる。
【0266】
BAL中の全IgA及びOVA特異的IgAレベルを測定し、商業用マウスIgA(Sigma)との較正曲線を用いて標準化した。特異的IgA率(全IgA 1μg当たりのOVA特異的IgAをngで表す)を各マウスについて決定した。
【0267】
サイトカイン特異的ELISA及び遺伝子発現
市販のELISAキット(R&D Systems、米国)を用いて、マウスCXCL2及びCCL20並びにヒトIL-8(CXCL8)レベルを血清、BAL、全肺及び/又は細胞培養上清中で測定した。
【0268】
マウス肺からの全RNAをNucleospin RNA IIキット(Macherey Nagel、ドイツ)で抽出し、High-Capacity cDNA Archive Kit(Applied Biosystems、米国)で逆転写した。得られたcDNAは、SYBR Greenに基づくリアルタイムPCR(Applied Biosystems)を用いて増幅した。
【0269】
特異的プライマーは以下の通りである:CGTCATCCATGGCGAACTG(配列番号19)/ GCTTCTTTGCAGCTCCTTCGT(配列番号20)(ACTB、βアクチンをコードする)、TTTTGGGATGGAATTGGACAC(配列番号21)/TGCAGGTGAAGCCTTCAACC(配列番号22)(CCL20)、及びCCCTCAACGGAAGAACCAAA(配列番号23)/CACATCAGGTACGATCCAGGC(配列番号24)(CXCL2)。相対mRNAレベル(2-ΔΔCt)は、以前記載されている(Sierroら、2001, Flagellin stimulation of intestinal epithelial cells triggers CCL20-mediated migration of dendritic cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:13722-13727)ように、(a)目的の遺伝子とACTBについてのPCRサイクル閾値(Ct)を比較し(ΔCt)、(b)処置グループと対照グループについてのΔCt値を比較する(ΔΔCt)ことにより決定した。
【0270】
細胞ベースのアッセイ
Caco-2ヒト結腸腺癌細胞系を、ヒトCCL20プロモーターの制御下にルシフェラーゼ遺伝子を有するプラスミドで安定にトランスフェクトして(Rumboら、2004, Lymphotoxin beta receptor signaling induces the chemokine CCL20 in intestinal epithelium. Gastroenterol. 127:213-223)、Caco-Rumbo系を作製した。
【0271】
上記の腸上皮細胞は、10%胎児ウシ血清、10 mM HEPES、非必須アミノ酸1X、ペニシリン(100 U/ml)及びストレプトマイシン(100 U/ml)並びに(トランスジーン選択用に)0.7 mg/mL G418(Invitrogen)を添加したダルベッコ改変イーグルス培地で増殖させた。
【0272】
ヒト気管支上皮細胞系BEAS-2Bを、Caco-Rumbo培地の場合と同様の添加を行いさらに1 mMピルビン酸ナトリウム及びインスリン−トランスフェリン−セレンミックス(Invitrogen)を添加したカイグ(Kaigh's)F12栄養培地中で培養した。
【0273】
ルシフェラーゼアッセイの場合には6時間、又はELISAの場合には上清を回収する前に16時間、細胞を組換えフラジェリンで刺激した。
【0274】
細胞抽出物中のルシフェラーゼ活性を、Bright Glo Luciferase Assay(Promega、米国)を用いて測定した。相対ルミネセンス(RLU)を、組換えフラジェリンを用いた活性化試験についての野生型フラジェリンでの最大活性に対する比率(%)として標準化した。In vitro中和試験について、RLUを各タンパク質の最大活性に対する比率(%):[(RLU処置/RLU非処置)/(RLU最大/RLU非処置)]×100として標準化した。
【0275】
統計解析
統計的有意差をマン−ホイットニー検定を用いて解析し、p値<0.05であれば有意であるとした。特に記載のない限り、結果は算術平均±標準偏差として表す。
【0276】
結果
フラジェリンの超可変領域の欠失は抗原性を損なうが、TLR5刺激活性は改変しない
2つの新規フラジェリン分子(それぞれ336アミノ酸及び271アミノ酸から構成されるFliCΔ191-352及びFliCΔ174-400)を内部欠失により構築した(図1A)。
【0277】
対照として、以前に特性決定されている変異体FliCΔ204-292を用いたが、これは、抗原性ドメインに部分的欠失を有する(Yoshiokaら、1995, Flagellar filament structure and cell motility of Salmonella typhimurium mutants lacking part of the outer domain of flagellin. J. Bacteriol. 177:1090-1093)(図1A)。
【0278】
In vitro及びin vivo実験の負の対照として、TLR5シグナル伝達を損なう突然変異をFliCΔ174-400に導入して、組換えタンパク質FliCΔ174-400/89-96*を得た。
【0279】
各フラジェリンの予測構造は、モチーフ89-96及び保存領域の全体構造が不変であることを示すものであった(図1A)。
【0280】
FliCΔ204-292を除いて、変異体は、フラジェリン欠失細菌の運動性を相補することができず、培養物上清中に分泌された。
【0281】
次に、組換えフラジェリンの固有の抗原性を評価した。このために、飽和濃度のフラジェリンをマイクロプレートに塗布してから、FliC又はFliCΔ174-400に特異的な超免疫血清を用いたELISAによりプローブした。
【0282】
図1Bに示すように、抗FliC血清をFliC変異体に対して力価測定したところ、野生型FliCに対するものと比較して、3〜10倍低い抗体力価を観察した。
【0283】
対照的に、FliCΔ174-400に特異的な超免疫血清の反応性は、標的フラジェリンが何であれ同様であった(図1C)。
【0284】
これらの結果は、中央の超可変領域が抗フラジェリン抗体の主要標的であることを示している。
【0285】
最後に、組換え分子がTLR5刺激活性を保持しているか否かを確認しようとした。
【0286】
Caco-Rumboレポーター細胞及び肺上皮細胞系BEAS-2Bを用いて、用量応答分析を実施した。活性化は、Caco-Rumbo細胞中のルシフェラーゼ活性と、BEAS-2B細胞によるIL-8分泌を測定することにより評価した(ヒト腸上皮細胞系は、「肝活性化及び調節性ケモカイン」若しくは「LARC」としても知られるケモカインCCL20、並びにIL-8の発現に基づく、フラジェリン/TLR5刺激活性のユニークなレポーターである)。
【0287】
図2A〜Bに示すように、FliCΔ204-292、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400はすべて強力な細胞アクチベーターであった。フラジェリンそれぞれのEC50値は、細胞型によってわずかに異なるが、以前記載されたng/mLの範囲内であった(Smithら、2003, Toll-like receptor 5 recognizes a conserved site on flagellin protofilament formation and bacterial motility. Nat. Immunol. 4:1247-1253)。
【0288】
FliCΔ174-400/89-96*が上皮細胞を活性化することができなかったことから、組換えフラジェリンの活性は、TLR5に完全に依存性であることがわかった。
【0289】
TLR5シグナル伝達についての要件を、TLR5欠失マウスに由来する骨髄マクロファージを用いてさらに確認した。細胞は、組換えフラジェリンによる刺激時にIL-12 p40を全く合成しなかった(データは示していない)。
【0290】
欠失フラジェリンはTLR5依存性粘膜自然応答を刺激する
組換えフラジェリンによるTLR5刺激を粘膜経路によりin vivoで試験した。
【0291】
このために、フラジェリンで鼻内処置したマウスの肺におけるCCL20及びCXCL2発現をqRT-PCRにより定量した(図2C)。
【0292】
2時間以内で、CCL20 mRNA肺レベルは、模擬物処置動物と比較して、野生型又は組換えフラジェリンで処置した動物において約30倍高かった。
【0293】
さらに、CCL20ケモカイン産生が、肺ホモジネート及びBALの両方で、点滴注入から6時間後に検出された(図2D)。対照実験では、FliCΔ174-400/89-96*及びトリプシン消化フラジェリンはこの種の作用を誘導しなかった。同様の発見がCXCL2についても観察された(データは示していない)。
【0294】
上記の結果から、in vivo炎症促進性応答が、もっぱら組換えフラジェリンによるものであることを確認した。
【0295】
全体として、超可変領域に欠失を有するフラジェリンは、野生型FliC対応物と同等の粘膜炎症促進性を示した。
【0296】
組換えフラジェリンは粘膜アジュバント活性を示す
本発明の組換え分子のアジュバント活性を特性決定するために、血清における抗体応答及び分泌を鼻内免疫後に試験した。
【0297】
オボアルブミン(OVA)をモデル抗原として用いて、ゴールドスタンダード粘膜アジュバントとしての各種フラジェリンとともに、又はフラジェリンを用いずに、あるいはコレラ毒素(CT)とともに製剤化した。
【0298】
OVAとともにFliCを共投与すると、OVA単独で免疫した動物と比較して、OVA特異的IgG応答を有意に増強した(血清及びBALの両方で、それぞれ約300倍及び100倍)(図3A〜B)。
【0299】
さらに、OVA特異的IgA応答はBAL中で増強したが、これは、FliCが粘膜アジュバントの典型的な分泌抗体応答を促進することを示している(図3C)。興味深いことに、FliCの作用はCTの作用と類似していた。
【0300】
FliCと同様に、組換えフラジェリンFliCΔ204-292、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400も全身及び粘膜応答を増強することができた。
【0301】
対照的に、FliCΔ174-400/89-96*及びトリプシン処理フラジェリンには効力がなかった(図3及び表1)。
【0302】
従って、フラジェリンの超可変領域の欠失は、TLR5媒介粘膜アジュバント特性に有意に影響しなかった。また、データから、自然免疫及び獲得免疫に対する組換え分子のそれぞれの効果が相関していることも示された。
【0303】
超可変領域の欠失は、抗フラジェリン抗体を惹起する能力を損なう
抗原性ドメインが欠失すると、特に投与を繰り返した場合、フラジェリン特異的免疫応答が低減し、従って、TLR5媒介免疫のあらゆる中和が低減することが予想される。
【0304】
そのため、本発明者らは、FliC特異的抗体の誘導に関して鼻内免疫の有効性を評価することを決定した。
【0305】
図に示されるように、FliCは血清及びBALにおいて強力なIgG応答を誘発した(表1及び図4)。対照的に、FliCΔ204-292は、FliCの場合と比較していずれの液体においても10倍低い抗体レベルを誘発し、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400での免疫後に、より顕著な効果が観察された。
【0306】
結論として、フラジェリンの抗原性ドメインと免疫刺激性ドメインは機能的に連結していない。従って、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400は、中和活性を有するフラジェリン特異的抗体の産生を阻止又は低減するための目的の分子である。
【0307】
フラジェリン特異的抗体はTLR5媒介シグナル伝達を中和する
細菌フラジェリンは、強力な抗体応答を誘発することがわかっており、この応答は主として超可変領域に対して向けられる。本発明者らは、抗フラジェリン抗体がフラジェリンのTLR5刺激活性を中和すると仮定した。
【0308】
従って、フラジェリンFliC又は模擬調製物(PBC単独、若しくはCFA中に調製した無関係の抗原オボアルブミン(OVA))で皮下免疫した後、IFAで追加免疫した。ELISA解析により、抗FliC血清が特異的IgG力価>106を示したのに対し、模擬物血清の力価はアッセイの検出閾値(102)を下回ることが明らかにされた。
【0309】
前述のように、ヒト腸上皮細胞系は、ケモカインCCL20(また「肝活性化及び調節性ケモカイン」、LARCとしても知られる)の発現に基づく、フラジェリン/TLR5刺激活性のユニークなレポーターとして有用である。
【0310】
従って、CCL20プロモーターの制御下にルシフェラーゼ遺伝子を有するCaco-Rumbo細胞を用いて、抗FliC血清がFliCのTLR5アゴニスト活性を十分に中和することができることが本発明で証明された(図5A)。
【0311】
TLR5シグナル伝達に対するFliC特異的抗体の中和作用を、免疫マウスにおいて直接評価した。このために、FliCの静脈内注射後、マウスにおける全身炎症促進性応答(CCL20及びCXCL2ケモカインの産生)を調べた(図5B〜C)。
【0312】
模擬物免疫マウスでは、FliCチャレンジが、PBSチャレンジと比較して、CCL20及びCXCL2の血清レベルの有意な増加を誘発した。
【0313】
対照的に、FliC免疫マウスにおけるケモカイン産生は、いずれのチャレンジによっても増強されなかった。ナイーブマウスへの受動血清移入を用いて、図5Dに示すように、注射した抗体の量と全身自然応答との間に密接な相関を見出した。
【0314】
結論として、フラジェリンに対する先在免疫は、フラジェリンのTLR5刺激活性をin vitro及びin vivoの両方で中和することができる。
【0315】
これは、図4を参照にして上に開示したように、中和抗体を含むフラジェリン特異的抗体の産生を促進する能力が強度に損なわれたFliCΔ174-400については当てはまらない。
【0316】
鼻内経路によりTLR5媒介自然応答を開始するのに必要な有効用量を決定した。FliC及びFliCΔ174-400は類似の用量応答プロフィールを示しており、続く中和アッセイについては0.1μgの用量を選択した(図6)。
【0317】
このために、マウスをFliCで鼻内経路により過剰免疫することにより、強力なFliC特異的粘膜IgG応答(平均力価約45,000)を誘発し、次に0.1μgのFliC又はFliCΔ174-400フラジェリンでチャレンジした。BAL中の炎症促進性ケモカイン産生をモニタリングした。
【0318】
FliC又はFliCΔ174-400でのチャレンジにより、ナイーブマウスに観察されるようにCCL20産生(模擬物及びFliC免疫マウスにおいてそれぞれ、4.28 ± 1.98 対 1.08 ± 0.54 ng/ml及び2.48 ± 1.22 対 0.93 ± 0.48 ng/ml)が起こった。
【0319】
粘膜及び全身TLR5依存性応答は異なる程度で超可変フラジェリン領域に依存する
本発明者らは、組換えフラジェリンの静脈内注射後に誘導されるTLR5依存性応答のフラジェリン特異的抗体による中和を調べたいと考えた。
【0320】
自然免疫の全身活性を解析するため、循環中の炎症促進性ケモカインCCL20及びCXCL2の産生を血清中のElISAにより測定した(図7)。
【0321】
意外にも、FliCΔ174-400は野生型FliCと比較して、全身炎症促進作用を誘発する能力が約100倍損なわれていることを確認した。
【0322】
10μgのFliCΔ174-400はわずかなケモカイン産生を刺激したが、TLR5モチーフ内に突然変異を起こした変異体FliCΔ174-400/89-96*は活性を欠いていた(CCL20について0.85 ± 0.27 対 0.02 ± 0.00 ng/ml)。
【0323】
これは、いずれもFliC同様に強力なアクチベーターであるFliCΔ204-292及びFliCΔ191-352とは対照的であった。
【0324】
従って、超可変領域上の(又はこれに依存する)いくつかの分子決定基が全身TLR5刺激に必要であるが、粘膜TLR5刺激には必要ではない。全体として、得られた結果は、粘膜及び全身区画内のTLR5活性化が、別々のメカニズムにより制御されていることを示している。
【0325】
実施例2:FliCΔ174-400、FliCΔ161-405、及びFliCΔ138-405からなる群より選択される超可変領域欠失フラジェリンの生物活性
組換え超可変領域欠失フラジェリンの産生
前記実施例1に開示したのと同じ方法を実施することによって、様々な超可変領域欠失フラジェリン、すなわちFliCΔ174-400、FliCΔ161-405、FliCΔ138-405及びFliCΔ100-405を組換えにより作製した。
【0326】
図8及び9は、組換えにより作製したタンパク質の解析を示す。
【0327】
図8は、TCAによるタンパク質沈殿のステップの後に、対応する組換えネズミチフス菌SIN41細菌細胞由来の培養上清から回収した組換えタンパク質について実施したSDS PAGE電気泳動の結果を示す。
【0328】
図9は、抗FliCポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果を示す。このウエスタンブロッティングは、TCAによるタンパク質沈殿のステップの後に、対応する組換えネズミチフス菌SIN41細菌細胞由来の培養上清について実施した。
【0329】
超可変領域欠失フラジェリンFliCΔ174-400、FliCΔ161-405、及びFliCΔ138-405の生物活性
実施例1に記載したサイトカイン特異的ELISAアッセイを実施することにより、CCL20及びCXCL2の誘導に対するFliCΔ174-400、FliCΔ161-405、及びFliCΔ138-405の効果をアッセイした。
【0330】
簡単に説明すると、174〜400位、161〜405位及び138〜405位が欠失した様々な組換えフラジェリン10μgとともに、C3H/HeJ(TLR4欠失)を腹腔内注射した。
【0331】
2時間後、血清を採取し、サイトカイン特異的ELISA(CCL20及びCXCL2)について処理した。
【0332】
フラジェリン調製物は、事前に硫酸アンモニアで沈殿させ、透析した組換えサルモネラ菌の上清から取得した(図8及び9)。これらの粗調製物は内毒素が混入している可能性があることから、LPSは粗調製物における主要混入因子であると考えられるため、TR4シグナル伝達の欠失したマウスを用いた。さらに、生物活性が粗調製物のタンパク質画分に存在することを証明するために、トリプシン処理を用いた。
【0333】
得られた結果を図10(CCL20の誘導)及び図11(CXCL2の誘導)に示す。
【0334】
図10及び図11の結果は、組換えフラジェリンFliCΔ161-405及びFliCΔ138-405が、FliCΔ174-400について記載されているのと同様に、in vivoでシグナル伝達する能力があることを示している。
【0335】
上記の結果は、FliCΔ161-405及びFliCΔ138-405が有効なTLR5アゴニストであり、従って、有効なアジュバント化合物を提供しうることを示している。
【0336】
実施例3:HIVウイルス由来のgp140抗原に対する免疫応答に対するFliCΔ174-400のアジュバント活性
免疫プトロコル及び抗原特異的抗体応答の解析は、以下に記載する具体的特徴を除いて、実施例1に記載したものと同じである。
【0337】
簡単に説明すると、HIV1抗原gp140に対する天然フラジェリンFliC及び組換えFliCΔ174-400のアジュバント活性を以下のように実施した:FliC若しくはFliCΔ174-400(マウス当たり1μg)とともに又はそれ無しでgp140(マウス当たり5μg)を含む20μlのPBSで鼻内経路によりNMRIマウス(n=8)を第1日及び第21日に免疫した。
【0338】
血清及び気管支肺胞洗浄液(BAL)を第35日に採取し、gp140特異的ELISAにより抗体力価を測定した。
【0339】
結果を図12に示すが、図中、各記号は個別のマウスを表し、バーは幾何学平均を示す。
【0340】
記号は、それぞれ(i)丸:HIV1gp140単独;(ii)ひし形:HIV1gp140 + FliCΔ174-400;(iii)三角形:gp140 + FliCを鼻内投与されたマウスを意味する。
【0341】
血清サンプルから得た抗体力価は、図12の左側に黒塗り記号として表す(塗りつぶし記号)。気管支肺胞洗浄液から得た抗体力価は、図12の右側に白抜き記号として表す。
【0342】
その結果は、本明細書に記載した様々な超可変領域欠失フラジェリンが、有効な免疫アジュバント化合物からなることを示す。
【表1】
【0343】
【表2】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体又は動物における免疫応答の誘導及び/又は刺激に関する。
【0002】
具体的には、免疫原性組成物及びワクチン組成物に有用な新規の免疫アジュバント化合物に関する。
【背景技術】
【0003】
安全かつ有効なワクチンの開発は、依然として世界的公衆衛生における主要な目標である。
【0004】
特に、「粘膜ワクチン」と呼ばれるワクチンが注射ワクチンに代わる魅力的で有望なものとして出現している。
【0005】
粘膜投与は、多くの望ましい特性を有する可能性がある。恐らく粘膜ワクチン送達技術を開発する最も説得力のある理由は、多くの侵入病原体が入り込む粘膜部位で局部免疫を誘発することよる、免疫防御の第一線の形成であろう。
【0006】
さらに、研究者の中には、共通の粘膜免疫系が存在するため、1つの部位に誘導された粘膜免疫が、遠位の粘膜部位での免疫をもたらすことができると報告している者もいる(McGhee, J. R.ら、The mucosal immune system: from fundamental concepts to vaccine development. Vaccine 1992, 10:75-88)。
【0007】
さらに、粘膜部位を介して抗原を送達することにより、全身免疫応答も誘発する可能性がある。
【0008】
このことは、様々な粘膜部位から侵入しうる非常に多様な病原体に対する免疫を誘発する上で、非侵襲性経路、例えば鼻内又はその他の粘膜経路でのワクチンの送達により、有意な有益性が達成されうることを示唆している。
【0009】
今日のワクチン(粘膜ワクチンなど)の大部分は、2つの主要成分:(i)治療対象の標的抗原と、(ii)上記抗原に対する免疫原性を刺激及び/又は誘導する免疫アジュバント化合物から構成されている。
【0010】
公知の免疫アジュバントの種類は非常に多様であるが、こうした免疫アジュバントとして、具体的には、鉱油、細菌抽出物、生存及び弱毒化生物、並びに水酸化アルミニウム金属の懸濁液がある。
【0011】
アジュバントが免疫応答の増大をもたらすとしても、その使用により、特にそれらが投与された経路に応じて、有害な副作用を誘発する可能性もある。従って、承認され、かつヒトに有効な多数のアジュバントは、依然としてかなり制限されたままである。
【0012】
自然免疫の分野における進歩により、宿主免疫応答の調節を制御する細胞メカニズム及び分子メカニズムの両方についての理解が深められた。
【0013】
免疫系についての理解が深められたことにより、有用であることが見込まれる新規の免疫アジュバントの研究及び開発が可能になった。
【0014】
特に、トール様受容体(TLR)は、哺乳動物における自然免疫及び獲得免疫の協調誘導を助ける。TLRは非常に多種の細胞型により発現されることから、身体全体に免疫を誘発することができる。
【0015】
病原微生物による感染後、TLRは、微生物分子パターン(MAMP)と呼ばれる保存モチーフを認識する。TLRが結合すると、病原性微生物の自然クリアランス及びこれに対する獲得免疫の両方に向けられた遺伝子発現プログラムを誘導する。例えば、TLRは、ケモカインの産生を誘導し、これらケモカインは、自然微生物クリアランスに直接関与する多形核好中球(PMN)を特異的に誘引する。さらに、TLRは、多面的免疫メディエーター(例えば、TNFα)の分泌及びリンパ球に対する抗原提示を専門とする樹状細胞(DC)の機能的成熟を促進する。
【0016】
結果として、TLRアゴニストは、「広範に特異的な」炎症促進性免疫応答を刺激するだけではなく、規定の抗原に対する獲得免疫応答も増強するため、免疫アジュバントであると考えられる。
【0017】
こうした潜在的に有益な効果にもかかわらず、MAMPの全身毒性のために、MAMP活性をアジュバンシーに向ける誘導体を開発する努力が必要とされた。実際に、ユニークな特性を有する分子の作製は免疫応答を操作する上での大きな課題である。
【0018】
細菌フラジェリン(多くの細菌病原体における主要な鞭毛成分)は、TLR5活性化のための特異的かつユニークなアゴニストである。
【0019】
ネズミチフス菌(S. Typhimurium)由来のFliCフラジェリンは、鞭毛構造機能、免疫及びTLR5シグナル伝達に関する研究の実例である。
【0020】
これは、2つの異なるドメインを有する494アミノ酸タンパク質である。アミノ末端及びカルボキシ末端の「保存」領域は、TLR5活性化に必須のドメインを形成する。
【0021】
フラジェリンFliCの中央ドメインは、TLR5シグナル伝達に必須ではないアミノ酸を含む。これは、細菌種によって一次配列の組成及びサイズが大きく異なることから、「超可変」領域と呼ばれている。対照的に、超可変領域はフラジェリン抗原性に必須であることがわかっている。
【0022】
フラジェリンの静脈内(i.v.)注射は、全身応答を促進するが、この応答は炎症促進性メディエーター(例えば、TNFα又はIL-6)の産生及びDC活性化を特徴とする。
【0023】
さらに、フラジェリンは、粘膜特異的な自然及び獲得防御メカニズムを誘発する。例えば、上皮細胞系及び肺粘膜は、CXCL8(IL-8)及びCCL20のようなケモカインの産生を上方制御し、それらケモカインは、それぞれ粘膜PMN及びDCを動員する。
【0024】
また様々な著者が、フラジェリンは、フラジェリン自体と同時投与した抗原の両方に対する(i)血清及び/又は分泌抗体応答並びに(ii)Th1及びTh2細胞応答を誘発する強力な全身及び粘膜免疫アジュバントであることも報告している。
【0025】
その強力な全身及び粘膜免疫アジュバント活性によって、フラジェリンはワクチン、具体的には粘膜ワクチンタイプのワクチンの開発のために特に注目に値するものであろう。
【0026】
しかし、上記フラジェリンタイプの免疫アジュバントの大部分は、こうしたワクチンへの適用、特に粘膜ワクチン戦略に完全に適しているわけではない。
【0027】
実際、公知のフラジェリンアジュバントは、重大な副作用、具体的には、in vivoで投与したとき、内因性抗原活性及び全身炎症促進性を示す。
【0028】
さらに、公知のフラジェリンタイプのアジュバントの大部分は、in vivoで投与する場合、強力な免疫応答を誘発するために、標的抗原と物理的に連結させる必要がある。この要件によって、好適なフラジェリン−抗原連結、並びに最終的な有用免疫原性物質を取得するための追加の複雑な操作が必要になってくる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
従って、特に、重大な全身炎症の副作用を誘発することなく、具体的には抗原に対する粘膜免疫応答を誘導及び/又は増強するために、免疫アジュバントとして用いることができる新規の化合物が求められる。
【0030】
こうした新規の化合物はまた、有利には、標的抗原との単純な混合物により免疫応答を誘発する能力がなくてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0031】
そこで本発明は、上記の要求を満たすと共に、免疫原性組成物及びワクチン(特に粘膜タイプのもの)の作製に特に有用となりうる新規の免疫アジュバント化合物を提案する。
【0032】
発明の概要
本発明によれば、本明細書の実施例に例示するように、in vivoで免疫アジュバント活性を示す、配列番号1タイプのネズミチフス菌(Salmonella enterica Serovar Typhimurium; S. Typhimurium)に由来するフラジェリンから得られる新規のペプチド化合物が見いだされた。
【0033】
また、本発明によれば、上記の新規アジュバント化合物は、重大な全身炎症促進作用を引き起こすことなく、特に粘膜アジュバント特性を示すことも明らかにされている。
【0034】
本発明の新規フラジェリン由来化合物は、従って、免疫アジュバント物質として、有利なことに、粘膜免疫応答を誘導する、及び/又は増強する上で特に有用である。
【0035】
本発明は、従って、
a)配列番号1の1位に位置するアミノ酸残基から開始し、配列番号1の99〜173位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するN末端ペプチドと;
b)配列番号1の401〜406位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基から開始し、配列番号1の494位に位置するアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するC末端ペプチドと
を含む免疫アジュバント化合物であって、
ここで、上記N末端ペプチドとC末端ペプチドは、互いに直接連結されているか、又は
上記N末端ペプチドとC末端ペプチドは、スペーサー鎖を介して互いに間接的に連結されている、
上記免疫アジュバント化合物に関する。
【0036】
本発明の免疫アジュバント化合物の好ましい実施形態は本明細書にて後に定義する。
【0037】
本発明はまた、1以上の薬学的に許容される賦形剤とともに上記(又は以下の明細書に記載)の免疫アジュバント化合物を含む医薬組成物にも関する。
【0038】
本発明の医薬組成物は、1以上の抗原とともに、上記の免疫アジュバント化合物を含む。
【0039】
上記医薬組成物は、従って、有利には免疫原性組成物(すなわち、例えば抗体を産生させるために、抗原に対する免疫応答を誘導することを目的とする組成物)又はワクチン組成物(すなわち、疾患を治療又は予防するために、被験体若しくは動物において免疫応答を誘導することを目的とする組成物)である。
【0040】
好ましい実施形態によれば、上記免疫原性組成物又は上記ワクチンは、上記の1以上の抗原に共有結合していない本発明の免疫アジュバント化合物を含むのが有利である。
【0041】
本発明はまた、医薬品として用いる(具体的には、粘膜アジュバント活性を誘導及び/又は増強するために)ための、上記の免疫アジュバント化合物にも関する。
【0042】
本発明はまた、医薬組成物を製造するための、特にフラジェリンタンパク質以外の1以上の抗原に対する免疫応答を(具体的には、粘膜経路による投与後、粘膜コンパートメントにおいて)誘導及び/又は増強するための医薬組成物を製造するための、、本発明の免疫アジュバント化合物の使用に関する。
【0043】
本発明はまた、上記で開示した免疫アジュバントペプチド化合物をコードする核酸、(ii)挿入された上記核酸を含む組換えベクター、(iii)上記核酸又は組換えベクターでトランスフェクト又は形質転換された宿主細胞にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】超可変領域欠失フラジェリンの特徴及び交差反応性を示す図である。(A)組換えフラジェリンの概略的3次元(3D)図。野生型フラジェリンFliCの構造を、Pymol(http://www.pymol.org)を用いて左側パネルに示す。単量体では、末端領域(1〜170及び400〜494)がαヘリックスに固く折りたたまれ、鞭毛機能に関与する構造ドメインを形成する。モチーフ89〜96(黒色)は、TLR5シグナル伝達に必須である。FliC「超可変」ドメインは、主としてβ構造及びβターンから構成される。スイスモデル(http://www.expasy.org/spdbv/)を用いて、FliCΔ204-292 及びFliCΔ174-400について全体構造を予測したところ、それぞれ超可変領域の部分的欠失及び完全な欠失を示した。FliCΔ191-352については、欠失の境界となるアミノ酸の位置を左側のパネルに示す。FliCΔ174-400及びFliCΔ191-352は欠失結合部にGAAG及びLELEリンカーをそれぞれ含む。(B、C)FliC特異的血清の交差反応性。初回免疫のためにCFAとともに製剤化したフラジェリンを皮下投与し、次いでIFA追加免疫を実施後、超免疫血清を取得した。FliCΔ204-292 、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400についてELISAで血清の力価測定を行った。結果は2つの実験を代表するものである。(B)抗FliC血清の交差反応性。(C)抗FliCΔ174-400血清の交差反応性。統計的有意性(マン・ホイットニー検定においてp>0.05)をアスタリスクで示す。
【図2】超可変領域欠失フラジェリンの上皮及び粘膜炎症促進活性を示す図である。(A、B)組換えフラジェリンによる上皮細胞の活性化。ヒト上皮細胞を、表示濃度のフラジェリンFliC、FliCΔ204-292 、FliCΔ191-352、FliCΔ174-400又はFliCΔ174-400/89-96*で活性化した。レポーター融合CCL20-lucを保有するCaco-Rumbo細胞を6時間活性化し、ルシフェラーゼ活性を、飽和FliCレベルで測定した最大活性に対して標準化した(A)。BEAS-2B気管支上皮細胞を16時間刺激した後、上清中のIL-8レベルを測定した。結果は2つの独立した実験のうち1つを表すものである(B)。(C〜D)欠失フラジェリンによる粘膜自然応答の刺激。組換えフラジェリン又はトリプシン処理調製物(1μg相当量)を麻酔したマウス(n=3〜5)に鼻内投与した。リアルタイムqRT-PCRを用いて、2時間後の全肺におけるCCL20特異的mRNAレベルを決定した(C)。点滴注入から6時間後、BAL(塗りつぶし棒)及び肺(白抜き棒)を採取して、CCL20濃度を測定した(D)。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニー検定で決定した。
【図3】超可変領域欠失を有するフラジェリンのアジュバント作用を示す図である。第1日及び第21日にマウス(n=8)をオボアルブミン(OVA)±フラジェリン又はコレラ毒素(CT)で鼻内免疫した。第35日に、OVA特異的IgG力価を血清(A)及びBAL(B)において測定した。BAL中のOVA特異的IgAの濃度を測定した(C)。結果は、2つの独立した実験のうちの1つを表すものである。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニー検定で決定した。
【図4】超可変領域を欠失したフラジェリンの内因性抗原特性を示す図である。第1日及び第21日にマウス(n=8)をオボアルブミン(OVA)±フラジェリン又はコレラ毒素(CT)又はLPSで鼻内免疫した。第35日に、FliC特異的IgG力価を血清(A)及びBAL(B)において測定した。結果は、2つの独立した実験のうちの1つを表すものである。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニー検定で決定した。
【図5】フラジェリン特異的抗体によるTLR5シグナル伝達の中和を示す図である。第1週に、1μgのフラジェリンFliC及びCFAでNMRIマウスを皮下免疫した後、第3、5、7週にFliC及びIFAで追加免疫した。模擬条件では、動物(マウス)をオボアルブミンとアジュバント、又はアジュバントのみで同様に処置した。実験を第8週に実施した。(A)フラジェリン特異的免疫血清のin vitro TLR5中和活性。レポーター構築物CCL20-lucを保有するCaco-Rumbo上皮細胞を、50%v/v FliC超免疫血清(白抜き丸)又は模擬血清(塗りつぶし丸)と一緒にインキュベートしたフラジェリンFliCで6時間活性化した。ルシフェラーゼ活性を測定し、100 ng/ml FliCで得られた活性に対して標準化した。結果は、3つの独立した実験のうちの1つを表すものである。(B、C)フラジェリン特異的免疫血清のin vivo TLR5中和活性。免疫したマウス(n=3)にPBS(塗りつぶし棒)又は0.1μgのフラジェリンFliC(グレーの棒)若しくは1μgのフラジェリンFliC(白抜き棒)を静脈内注射した。2時間後、血清を収集し、CCL20(B)及びCXCL2(C)の濃度をELISAにより決定した。(D)免疫血清の中和活性。動物(マウス)(1用量につきn=3)に様々な量のフラジェリン特異的血清又は模擬血清を静脈内経路で受動移入し、1時間後、表示のように組換えフラジェリンで静脈内処置した。チャレンジの2時間後の血清におけるケモカイン産生をELISAにより測定した。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニー検定で決定した。
【図6】フラジェリンFliC及びFliCΔ174-400の鼻内用量応答活性を示す図である。マウス(n=3〜5)に様々な量のフラジェリンFliC(塗りつぶし四角)又はFliCΔ174-400(白抜き四角)を鼻内点滴注入した。6時間後、BALにおいてCCL20(A)及びCXCL2(B)の濃度をELISAにより測定した。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニーU検定で決定した。
【図7】超可変領域欠失フラジェリンFliCΔ174-400の全身活性化能力の改変を示す図である。様々な量のフラジェリンFliC(塗りつぶし四角)又はFliCΔ174-400(白抜き四角)を静脈内投与した。2時間後、血清中のCCL20(A)及びCXCL2(B)の濃度をELISAにより測定した。統計的有意性(p>0.05)をマン・ホイットニー検定で決定した。
【図8】様々な組換え超可変領域欠失フラジェリンのSDS PAGE解析を示す図である。図8は、クーマシーブルーで染色後の、組換えにより作製したFliCΔ174-400、FliCΔ161-405、FliCΔ138-405及びFliCΔ100-405のSDS PAGE電気泳動の写真からなる。
【図9】様々な組換え超可変領域欠失フラジェリンのイムノブロット解析を示す図である。図9は、抗FliC抗体で染色後の、組換えにより作製したFliCΔ174-400、FliCΔ161-405、FliCΔ138-405及びFliCΔ100-405のウエスタンブロット電気泳動の写真からなる。
【図10】様々な組換え超可変領域欠失フラジェリンによるCCL20ケモカイン産生の誘導を示す図である。欠失フラジェリンによる全身自然応答の誘発。組換えフラジェリン又はトリプシン処理調製物(10μg相当量)をマウス(n=2)に腹腔内投与した。注射から2時間後、血清を採取して、CCL20濃度を測定した。
【図11】様々な組換え超可変領域欠失フラジェリンによるCXCL2ケモカイン産生誘発の誘導を示す図である。欠失フラジェリンによる全身自然応答の誘発。組換えフラジェリン又はトリプシン処理調製物(10μg相当量)をマウス(n=2)に腹腔内投与した。注射から2時間後、血清を採取して、CXCL2濃度を測定した。
【図12】HIVウイルス由来のgp140抗原に対する免疫のための組換えFliCΔ174-400のアジュバント作用を示す図である。マウス(n=6)を第1日及び第21日にgp140(5μg)±フラジェリン(1μg)で鼻内免疫した。第35日に、gp140特異的IgG力価を血清(塗りつぶし記号)及びBAL(白抜き記号)において測定した。結果は2つの独立した実験のうちの1つを表すものである。
【図13】抗FliCΔ174-400マウスモノクローナル抗体を固定化した免疫アフィニティー基質上でのFliCの精製サイクルの280 nmでのクロマトグラフィープロフィールを示す図である。
【図14】抗FliCΔ174-400マウスモノクローナル抗体を固定化した免疫アフィニティー基質上でのFliCの精製サイクル中に回収した様々なクロマトグラフィー画分の電気泳動解析を示す図である。図14は、クーマシーブルーで染色後、図13に示すように回収した画分のSDS PAGE電気泳動の写真からなる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
発明の詳細な説明
本発明によれば、新規の化合物は、対応する好適な抗原とともにこれを投与すると、in vivoで粘膜免疫アジュバント活性を誘導し、標的抗原に対する免疫応答の誘導を可能にすることが示された。
【0046】
特に、本発明の新規のアジュバント化合物は、マウスへの鼻内投与後にもその免疫アジュバント特性を発揮することが示されている。従って、本発明の免疫アジュバント化合物は、全身及び粘膜免疫応答を増強することができる。
【0047】
また、本発明のフラジェリン由来免疫アジュバント化合物は、TLR5媒介の粘膜アジュバント特性を有し、in vivo粘膜炎症促進効果を伴うが、全身注射後に重大な全身炎症促進効果を一切示さないことも証明されている。
【0048】
さらに、本明細書の実施例に含まれる結果から、上記のフラジェリン由来免疫アジュバント化合物が重大な内因性抗原性作用を示さない、すなわち、目的の分子は、鼻内経路により投与した場合、特に血清又は気管支肺胞洗浄液(BAL)中へのフラジェリン特異的抗体を誘発する効果を防止若しくは減弱することがわかる。
【0049】
上記の結果は、本発明のフラジェリン由来の免疫アジュバント化合物は、特に粘膜免疫応答を誘導するための免疫応答の有効なアジュバントとして用いることができることを示している。
【0050】
従って、前記ペプチド化合物は、特に、(i)被験体生物体内で粘膜免疫応答を誘導することにより疾患を予防若しくは治療するための粘膜ワクチン組成物、又は(ii)所望の抗原に対して免疫応答を増強又は誘発するための免疫原性組成物に含まれるとき、有用となりうる。
【0051】
具体的には、本明細書の実施例に示すように、本発明者らは、思いがけなく、新たな具体的FliCΔ174-400フラジェリン(すなわち、ネズミチフス菌(Salmonella enterica Serovar Typhimurium)ATCC14028フラジェリンFliCに由来するペプチド配列(配列番号1)が、174位から400位まで欠失している、フラジェリン由来ペプチド)は粘膜では免疫を刺激するが、重大な全身炎症促進作用は欠いていることから、TLR5シグナル伝達が区画化されていることを見出だした。
【0052】
本発明者らはまた、FliCΔ174-400フラジェリンが、中和fliC特異的抗体を産生する能力が乏しいために、極めて有益な特性を有することも確認した。
【0053】
さらに、FliCΔ174-400フラジェリンは、野生型フラジェリンと比較して全身シグナル伝達については強度に減弱されるが、粘膜活性は影響されないこともわかっている。
【0054】
また、その他の超可変領域欠失フラジェリン、例えばFliCΔ161-405及びFliCΔ138-405が、免疫アジュバント特性を有していることも示されている。
【0055】
本発明の免疫アジュバントペプチド
上記の知見によって、本発明者らは、FliCΔ174-400、FliCΔ161-405及びFliCΔ138-405フラジェリンと同じ特性及び利点を有すると考えられるペプチドファミリーを設計することが可能になる。
【0056】
上記ペプチドファミリーは、本明細書の実施例で研究されるFliCΔ174-400、FliCΔ161-405及びFliCΔ138-405フラジェリンを始めとし、フラジェリンペプチド配列(配列番号1)及び該ペプチドの結晶構造に基づくものとして定義され、これにより、残留TLR5刺激活性を有しうる末端切断型形態も予測される。
【0057】
本発明は、従って、有利なことに、以下:
a)配列番号1の1位に位置するアミノ酸残基から開始し、配列番号1の99〜173位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列を有するN末端ペプチドと;
b)配列番号1の401〜406位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基から開始し、配列番号1の位置494に位置するアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列を有するC末端ペプチドと
を含む免疫アジュバント化合物であって、ここで
上記C末端ペプチドは、上記N末端ペプチドに直接連結されているか、又は
上記N末端ペプチドとC末端ペプチドは、中間スペーサー鎖を介して、互いに間接的に連結されている、
免疫アジュバント化合物に関する。
【0058】
本明細書で用いる場合の「含む/含んでいる」及びその文法上の変形は、記載される特徴、整数、ステップ若しくは成分又はこれらの群の存在を具体的に記載するものと解釈すべきであるが、1以上の他の特徴、整数、ステップ、成分若しくはこれらの群の存在又は追加を排除するわけではない。
【0059】
本発明の化合物は、本明細書において互換的に「免疫アジュバント化合物」又は「フラジェリン由来ペプチド」と呼ばれうる。
【0060】
「免疫アジュバント化合物」という用語により、本発明のフラジェリン由来ペプチドが被験体又は動物に投与された場合、抗原に対する免疫応答を誘導及び/又は増強することができることが理解される。
【0061】
また、これは、特定の抗原に対する特異的免疫応答を加速する、持続させる、又はその質を高めるように作用する物質も意味するものとする。
【0062】
本明細書に記載するように、上記免疫アジュバント化合物は、1以上の抗原及び薬学的に許容される賦形剤とともに、ワクチン又は免疫原性組成物に用いることができる。
【0063】
前述した配列番号1のペプチド配列は、ネズミチフス菌ATCC14028フラジェリンFliC(アクセッション番号AAL20871)に由来する。
【0064】
ポリペプチドの番号付けは、最終的なN末端メチオニン(配列番号1には示していない)の後の最初のアミノ酸から始まり、該メチオニンは、典型的には、後述する細菌宿主細胞においてメチオニンアミノペプチダーゼにより切除される。
【0065】
本発明のフラジェリン由来ペプチドのN末端及びC末端ペプチドは、配列番号1の対応するアミノ酸配列部分と少なくとも90%、及びそれ以上のアミノ酸同一性を有する。
【0066】
同一性の説明及びどのようにしてこれを決定するかは、当業者には周知である。
【0067】
本明細書においては、所与の目的のアミノ酸配列が、参照アミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、69%、97%、98%、99%若しくは99.5%アミノ酸同一性を有する場合、該目的のアミノ酸配列は、参照アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものとする。
【0068】
2つのアミノ酸配列同士の同一性の割合を決定するために、最適な比較の目的で、両配列をアラインメントする。例えば、第1及び第2アミノ酸配列の一方又は両方にギャップを導入することができ、非相同配列を比較目的では無視することができる。
【0069】
最適な比較を目的として、2つのアミノ酸配列の同一性の割合(%)は、以下のパラメーターを用いたCLUSTAL W(バージョン1.82)を用いて達成することができる:(1)CPU MODE = ClustalW mp;(2)ALIGNMENT= << full >>;(3)OUTPUT FORMAT = << aln w/numbers >>;(4)OUTPUT ORDER = << aligned >>;(5)COLOR ALIGNMENT= << no >>;(6)KTUP(word size)= << default >>;(7)WINDOW LENGTH = << default >>;(8)SCORE TYPE = << percent >>;(9)TOPDIAG = << default >>;(10)PAIRGAP = << default >>;(11)PHYLOGENETIC TREE/TREE TYPE = << none >>;(12)MATRIX = << default >>;(13)GAP OPEN = << default >>;(14)END GAPS = << default >>;(15)GAP EXTENSION = << default >>;(16)GAP DISTANCES = << default >>;(17)TREE TYPE = << cladogram >>及び(18)TREE GRAP DISTANCES = <<hide >>。
【0070】
特に、本発明のフラジェリン由来ペプチドの利点及び活性を損なうことなく、微小な改変を行いうることは理解されよう。
【0071】
こうした改変は、重大な全身炎症促進性副作用を一切起こすことなく、特定の免疫活性、特にTLR5媒介粘膜アジュバント特性が保存される限り、本発明の用語「免疫アジュバント化合物」又は「フラジェリン由来ペプチド」の意味に含まれる。
【0072】
さらに、本発明のフラジェリン由来ペプチドに、様々な分子を共有又は非共有結合により結合させることができ、このような分子として、例えば、別のポリペプチド、炭水化物、核酸若しくは脂質がある。
【0073】
これらの結合した分子は、最終的には、免疫応答の対象とすべき抗原中に存在する。こうした改変は本発明の定義に含まれる。
【0074】
マイナーな改変はまた、例えば、天然に存在するアミノ酸の保存的置換、並びに非天然のアミノ酸、アミノ酸類似体及び機能的模倣物を含む構造的改変物にも関する。例えば、リシンアミノ酸残基は、アルギニンアミノ酸残基の保存的置換物であると考えられる。
【0075】
従って、本明細書で意図するように、参照用の第2ポリペプチドと少なくとも90%のアミノ酸同一性を有する第1ポリペプチドは、参照用の第2ポリペプチドと比較して1以上のアミノ酸の相違を含む第1ポリペプチドを包含し、上記アミノ酸の相違は、(i)1以上のアミノ酸置換、(ii)1以上のアミノ酸欠失並びに(iii)1以上のアミノ酸付加、又は(i)、(ii)及び(iii)の任意の組合せからなる群より選択される。
【0076】
概して、本発明は、参照ポリペプチドと比較して、1以上のアミノ酸の置換、欠失若しくは付加、好ましくは参照ポリペプチドと比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10のアミノ酸置換、及び/又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10のアミノ酸欠失、及び/又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10のアミノ酸付加を有する変異体ポリペプチドを包含する。
【0077】
当業者であれば、どの構造が機能的に同等なアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣物を構成するかがわかるか、あるいはこれを判定することができる。
【0078】
前述したように、本発明のフラジェリン由来ペプチドのC末端及びN末端ペプチドは直接連結することができ、ペプチド結合により有利に共有結合することができる。
【0079】
別の実施形態では、本発明のフラジェリン由来ペプチドのN末端及びC末端ペプチドは、スペーサー鎖を介して、互いに間接的に連結している。
【0080】
上記スペーサー鎖は、最終化合物の生物活性を妨害しないように、また、最終化合物の免疫原性が顕著に増大しないように、選択すべきである。
【0081】
上記スペーサー鎖は、好ましくはペプチド結合により互いに連結され、かつ、本発明のフラジェリン由来ペプチドのN末端及びC末端配列同士が共有結合しているアミノ酸から構成される。従って、好ましい実施形態では、上記スペーサー鎖は、ペプチド結合により連結した1〜20個のアミノ酸を含み、該アミノ酸は、20種の天然に存在するアミノ酸から選択される。より好ましい実施形態では、1〜20種のアミノ酸は、Gly、Ala、Pro、Asn、Gln、Cys、Lysから選択される。さらに好ましくは、上記スペーサー鎖は、NH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOH配列から構成される。
【0082】
非ペプチドリンカーもまた可能であり、例えば、アルキルリンカーがある。こうしたアルキルリンカーは、任意の非立体障害性基、低級アシル、ハロゲン、CN、NH2、フェニルなどでさらに置換してもよい。別のタイプの非ペプチドリンカーはポリエチレングリコール基である。
【0083】
当業者には、これらのスペーサー鎖は周知であり、特に互いに連結しなければならないN末端ペプチド及びC末端ペプチド配列に応じて、好適なスペーサー鎖を選択することができる。
【0084】
さらに、配列番号1のアミノ酸位置488に位置する、C末端配列のアスパラギンアミノ酸残基はセリン残基で置換するのが有利である。
【0085】
この置換は、本発明のフラジェリン由来ペプチドを特異的に標識するために導入されている。こうした置換は、TLR5刺激活性を改変することなく、レジオネラ・ニューモフィラ菌のような他の細菌種のフラジェリン中に天然に存在する。他の置換を、アジュバントTLR5刺激活性を改変しない位置に導入して、本発明のフラジェリン由来ペプチドをさらに標識することもできる。
【0086】
本発明のフラジェリン由来ペプチドの好ましい実施形態
好ましい実施形態では、フラジェリンペプチド配列(配列番号1)及び結晶構造を考慮して、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列1〜99、1〜137、1〜160及び1〜173からなる群より選択するのが有利である。
【0087】
特に、フラジェリンFliCの3次元構造は、N末端ドメインが、3つのαヘリックスに組織化されており、これらはβターン、次にβシート及びβターンにより隔てられていることを示している。N末端での二次構造の保持部分は、TLR5刺激活性(また、具体的には粘膜TLR5刺激活性)を保持するのに十分なものでよい。すなわち配列番号1のアミノ酸配列1〜99は最初の2つのαヘリックスを含み、配列番号1のアミノ酸配列1〜137は最初の3つのαヘリックスを含み、配列番号1のアミノ酸配列1〜173は、FliCΔ174-400フラジェリンに認められるN末端構造を含む。
【0088】
さらに好ましい実施形態では、免疫アジュバント化合物の上記C末端ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列401〜494及び406〜494からなる群より選択される。
【0089】
具体的には、フラジェリンFliCの3次元構造は、βターンにより隔てられる2つのαヘリックスに組織化されていることを示している。N末端におけるこれら二次構造の保持部分は、TLR5刺激活性(また、具体的には粘膜TLR5刺激活性)を保持するのに十分なものでよい。すなわち配列番号1のアミノ酸配列401〜494はFliCΔ174-400フラジェリンに存在する配列であるのに対し、配列番号1のアミノ酸配列406〜494は2つのC末端αヘリックス二次構造のみを含む。
【0090】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドは、配列番号1の1位に位置するアラニン残基から開始し、かつ137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172及び173位に位置するアミノ酸残基からなる群より選択される配列番号1の位置に位置するアミノ酸残基で終了する、アミノ酸配列からなる。
【0091】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明の免疫アジュバントのC末端ペプチドは、401、402、403、404、405及び406位に位置するアミノ酸残基からなる群より選択される配列番号1の位置に位置するアミノ酸残基から開始し、かつ配列番号1の494位に位置するアルギニン残基で終了する、アミノ酸配列からなる。
【0092】
上記の好ましい実施形態の具体的態様では、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチド及びC末端ペプチドは、前述のNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHスペーサー鎖を介して(すなわち、欠失した配列174〜400に置換して)連結させるのが有利であり;また、配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基は、セリン残基により置換するのが有利である。
【0093】
こうした免疫アジュバント化合物の例示的実施形態は、本明細書の実施例に示すFliCΔ174-400、FliCΔ161-405及びFliCΔ138-405を含み、これらについてはまた下記でさらに詳しく説明する。
【0094】
別の実施形態では、目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドは、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜173及び401〜494からなる。
【0095】
さらに別の実施形態では、目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドは、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜160及び406〜494からなる。
【0096】
また別の実施形態では、目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドは、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜137及び406〜494からなる。
【0097】
いくつかの実施形態では、本発明の免疫アジュバント化合物は、特に該化合物が細菌細胞において組換えタンパク質として産生される場合、N末端に追加のメチオニン残基を含む。
【0098】
目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列1〜173及び401〜494からなる実施形態において、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、アミノ酸174位からアミノ酸400位までのアミノ酸配列が欠失した、アミノ酸配列(配列番号1)からなる。本発明の上記フラジェリン−ペプチド配列はまた、本明細書において「FliCΔ174-400」又は「FliCΔ174-400フラジェリン」とも呼ばれる。
【0099】
好ましい実施形態によれば、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチド及びC末端ペプチドは、前述のNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHスペーサー鎖を介して(すなわち、欠失した配列174〜400に置換して)、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドとC末端ペプチドを連結させるのが有利であり;配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基もセリン残基で置換することが有利である。
【0100】
このようにして得られる本発明のフラジェリン由来ペプチドは、271アミノ酸配列であり、そのペプチド配列は配列番号2に示す。
【0101】
ポリペプチドの番号付けは、最終的なN末端メチオニン(配列番号2には示していない)の後の最初のアミノ酸から開始し、該N末端メチオニンは、一般的には、以下に開示する細菌宿主細胞においてメチオニンアミノペプチダーゼにより切除される。
【0102】
目的の免疫アジュバントのN末端及びC末端ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列1〜160及び406〜494からなる実施形態において、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、アミノ酸161位からアミノ酸405位までのアミノ酸配列が欠失した、アミノ酸配列(配列番号1)からなる。本発明の上記フラジェリン−ペプチド配列はまた、本明細書では「FliCΔ161-405」又は「FliCΔ161-405フラジェリン」とも呼ばれる。
【0103】
好ましい実施形態では、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドとC末端ペプチドは、前述のNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHスペーサー鎖を介して(すなわち、欠失した配列161〜405に置換して)連結させるのが有利であり;また、配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基はセリン残基で置換するのが有利である。
【0104】
このようにして得られる本発明のフラジェリン由来ペプチドは、253アミノ酸配列であり、そのペプチド配列は配列番号25に示す。
【0105】
ポリペプチドの番号付けは、最終的なN末端メチオニン(配列番号25には示していない)の後の最初のアミノ酸から開始し、該N末端メチオニンは、一般的には、以下に開示する細菌宿主細胞においてメチオニンアミノペプチダーゼにより切除される。
【0106】
目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列1〜137及び406〜494からなる実施形態において、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、アミノ酸位置138からアミノ酸位置405までのアミノ酸配列が欠失した、アミノ酸配列(配列番号1)からなる。本発明の該フラジェリン−ペプチド配列はまた、本明細書では「FliCΔ138-405」又は「FliCΔ138-405フラジェリン」とも呼ばれる。
【0107】
好ましい実施形態では、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドとC末端ペプチドは、前述のNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHスペーサー鎖を介して(すなわち、欠失した配列138〜405に置換して)連結させるのが有利であり;また、配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基はセリン残基で置換するのが有利である。
【0108】
このようにして得られる本発明のフラジェリン由来ペプチドは、230アミノ酸配列であり、そのペプチド配列は配列番号26に示す。
【0109】
ポリペプチドの番号付けは、最終的なN末端メチオニン(配列番号26には示していない)の後の最初のアミノ酸から開始し、該N末端メチオニンは、一般的には、以下に開示する細菌宿主細胞においてメチオニンアミノペプチダーゼにより切除される。
【0110】
目的の免疫アジュバント化合物のN末端及びC末端ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列1〜99及び406〜494からなる実施形態において、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、アミノ酸100位からアミノ酸405位までのアミノ酸配列が欠失した、アミノ酸配列(配列番号1)からなる。本発明の上記フラジェリン−ペプチド配列はまた、本明細書では「FliCΔ100-405」又は「FliCΔ100-405フラジェリン」とも呼ばれる。
【0111】
好ましい実施形態によれば、本発明の免疫アジュバント化合物のN末端ペプチドとC末端ペプチドは、前述のNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHスペーサー鎖を介して(すなわち、欠失した配列100〜405に置換して)連結させるのが有利であり;また、配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基もセリン残基で置換することが有利である。
【0112】
このようにして得られる本発明のフラジェリン由来ペプチドは、192アミノ酸配列であり、そのペプチド配列は配列番号27に示す。
【0113】
ポリペプチドの番号付けは、最終的なN末端メチオニン(配列番号27には示していない)の後の最初のアミノ酸から開始し、該N末端メチオニンは、一般的には、以下に開示する細菌宿主細胞においてメチオニンアミノペプチダーゼにより切除される。
【0114】
本発明の免疫アジュバントペプチドの合成
本発明のフラジェリン由来ペプチドは、遺伝子工学により得られる組換え細胞により、又は化学合成若しくは酵素ペプチド合成のいずれかにより、合成することができ、これら合成法は当業者には周知である。
【0115】
1.組換え細胞による合成
本発明のフラジェリン由来ペプチドは、核酸でトランスフェクトされた組換え細胞により、組換え的に生産することができ、該核酸は、そのアミノ酸配列をコードし、かつトランスフェクトされた細胞内で上記ペプチドの有効な生産を可能にするものである。
【0116】
本発明のフラジェリン由来ペプチドをコードする核酸配列
上記フラジェリンペプチド配列の改変は、組換えDNA突然変異誘発技術を用いて達成することができる。
【0117】
DNA配列を構築して、改変する多数の方法が当業者には周知であり、その組換え方法の選択も当業者により理解されるであろう。
【0118】
「組換え突然変異誘発」技術には、例えば、部位指定突然変異誘発及びPCR突然変異誘発がある(特に、Current Protocols in Molecular Biology, 2007 by John Wiley and Sons, Inc., 第8章及び第15章を参照)。
【0119】
上記ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、非常に多様な突然変異の方法及び用途に特に有用である。PCR突然変異誘発方法により、任意の標的DNAを容易かつ効率的に改変及び操作することができる。これは、例えば、点突然変異、欠失又は挿入の導入を含む。
【0120】
これらの技術は、例えば、配列番号1により特定されるフラジェリンペプチドをコードするネズミチフス菌株ATCC14028から単離した、配列番号3の野生型fliC遺伝子に対して実施する。
【0121】
好ましい実施形態では、前述したfliC遺伝子は、本発明のペプチドのために求められる所望のN末端及びC末端配列の機能で選択した好適なプライマー対を用いて、PCR突然変異誘発(特にCurrent Protocols in Molecular Biology, 2007 by John Wiley and Sons, Inc., 第8章及び第15章を参照)によりその配列の中央部分を欠失させる。
【0122】
例えば、自身のプロモーターの制御下に配列番号3の野生型fliC遺伝子を有するpBR322由来プラスミドに基づき、以下のプライマー対をPCR突然変異誘発技術に用いてもよい:
配列番号1のアミノ酸配列1〜99及び401〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号4及び配列番号5;
配列番号1のアミノ酸配列1〜99及び406〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号4及び配列番号6;
配列番号1のアミノ酸配列1〜137及び401〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号7及び配列番号5;
配列番号1のアミノ酸配列1〜137及び406〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号7及び配列番号6;
配列番号1のアミノ酸配列1〜160及び401〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号8及び配列番号5;
配列番号1のアミノ酸配列1〜160及び406〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号8及び配列番号6;
配列番号1のアミノ酸配列1〜173及び401〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号9及び配列番号5;
配列番号1のアミノ酸配列1〜173及び406〜494からなるN末端及びC末端ペプチドについては、それぞれ配列番号9及び配列番号6;
配列番号1の488位のアスパラギンをセリンに変更するためには、例えば、以下のプライマー:配列番号10及び配列番号11による部位指定突然変異誘発を用いることができる。
【0123】
フラジェリン組換えペプチドの1〜99、1〜137、1〜160又は1〜173と401〜494又は406〜494との結合部にNH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHリンカーを導入するために、以下のDNA配列:GGTGCAGCTGGAをプライマー配列(配列番号5及び配列番号6)の5'末端に付加してもよく、これによって、それぞれ配列番号12の配列の「F-リンカー-401」及び配列番号13の配列の「F-リンカー-406」と呼ばれるプライマーが得られる。
【0124】
本発明のフラジェリン由来ペプチドFliCΔ174-400を生産するのに適したDNA配列は、例えば配列番号14の配列である。
【0125】
本発明のフラジェリン由来ペプチドFliCΔ161-405を生産するのに適した核酸は、例えば配列番号28の配列である。
【0126】
本発明のフラジェリン由来ペプチドFliCΔ138-405を生産するのに適した核酸は、例えば配列番号29の配列である。
【0127】
本発明のフラジェリン由来ペプチドFliCΔ100-405を生産するのに適した核酸は、例えば配列番号30の配列である。
【0128】
複製可能なベクターの選択及び使用
目的のフラジェリン由来ペプチドをコードする本明細書に記載の核酸配列は、クローニング(DNAの増幅)又は発現用の複製可能なベクターに挿入することができる。
【0129】
様々なベクターが一般に入手可能である。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス粒子、若しくはファージの形態であってもよい。好適な核酸配列を様々な方法によりベクターに挿入することができる。一般に、当分野で公知の技術を用いて、DNAを適切な制限エンドヌクレアーゼ部位に挿入することができる。
【0130】
ベクター成分としては一般に、限定するものではないが、配列を分泌させようとする場合には1以上のシグナル配列、複製起点、1以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列がある。
【0131】
これらの成分の1以上を含む好適なベクターの構築には、当業者には知られている標準的連結技術を用いる。
【0132】
目的のフラジェリン由来ペプチドは、組換えで直接生産することができるだけではなく、異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドとしても生産することができ、該異種ポリペプチドは、シグナル配列でもよいし、又は成熟タンパク質若しくはペプチドのN末端に特定の切断部位を有する他のポリペプチドでもよい。一般に、シグナル配列は、ベクターの1成分でもよいし、あるいはベクターに挿入する目的のポリペプチドをコードするDNAの一部であってもよい。シグナル配列は、例えばアルカリ性ホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、若しくは熱安定性エンテロトキシンIIリーダーからなる群より選択される、原核性シグナル配列でもよい。酵母分泌の場合には、シグナル配列は、例えば酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー(サッカロミセス及びクルベロマイセスα因子リーダー;後者は米国特許第5,010,182号に記載されている)、又は酸性ホスファターゼリーダー、カンジダ・アルビカンスグルコミラーゼリーダー(1990年4月4日に公開されたEP 362,179)、あるいは1990年11月15日に公開されたWO 90/13646に記載されているシグナルでありうる。哺乳動物細胞発現では、哺乳動物シグナル配列を用いて、タンパク質の直接分泌を誘導することができ、このようなシグナル配列として、例えば同じ種又は関連種の分泌ポリペプチド由来のシグナル配列、並びにウイルス分泌リーダーがある。
【0133】
発現ベクター及びクローニングベクターのいずれも、1以上の選択宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。こうした配列は、様々な細菌、酵母、及びウイルスについてよく知られている。プラスミドpBR322からの複製起点は、ほとんどのグラム陰性菌に好適であり、2.mu.プラスミド複製起点は酵母に好適であり、また様々なウイルス複製起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV、又はBPV)が哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。
【0134】
発現及びクローニングベクターは、一般に、選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含む。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質又はその他の毒素、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、若しくはテトラサイクリンに対する耐性を賦与するタンパク質、(b)栄養要求性欠損を相補するタンパク質、又は(c)複合培地から得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードするが、このような遺伝子として、例えばバチルス属についてはDアラニンラセマーゼをコードする遺伝子がある。
【0135】
哺乳動物細胞に好適な選択マーカーの一例として、DHFR又はチミジンキナーゼのように、目的のフラジェリン由来ペプチドをコードする核酸を取り込む能力がある細胞の識別を可能にするものがある。野生型DHFRを用いる場合に適切な宿主細胞は、DHFR活性が欠失したCHO細胞系であり、これは、Urlaubら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77: 4216 (1980)により記載のように作製して、増殖させる。酵母に用いるのに好適な選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7に存在するtrp 1遺伝子である。Stinchcombら、Nature, 282: 39 (1979);Kingsmanら、Gene, 7: 141 (1979);Tschemperら、Gene, 10: 157 (1980)。trp1遺伝子は、トリプトファン中で増殖する能力を欠いた酵母の突然変異株(例えば、ATCC No. 44076又はPEP4-1)に対して選択マーカーを賦与する。Jones, Genetics, 85: 12 (1977)。
【0136】
発現及びクローニングベクターは、一般に、フラジェリン由来ペプチドをコードする核酸配列に機能的に連結されて、mRNA合成を指令するプロモーターを含む。多種の有望な宿主細胞により認識されるプロモーターが周知である。原核宿主とともに用いるのに好適なプロモーターとしては、βラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系(Changら、Nature, 275: 615 (1978);Goeddelら、Nature, 281: 544 (1979))、アルカリ性ホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddel, Nucleic Acids Res., 8:4057 (1980);EP 36,776)、並びにハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーター(deBoerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80: 21-25 (1983))が挙げられる。細菌系に用いるプロモーターはまた、目的のフラジェリン由来ペプチドをコードするDNAに機能的に結合したシャイン・ダルガルノ(S.D.)配列も含む。
【0137】
酵母宿主とともに用いるのに好適なプロモーター作用性配列の例として、以下のものがある:3-ホスホグリセリン酸キナーゼのプロモーター(Hitzemanら、J. Biol. Chem., 255: 2073 (1980))又は他の解糖酵素のプロモーター(Hessら、J. Adv. Enzyme Reg., 7: 149 (1968); Holland, Biochemistry, 17: 4900 (1978))、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、並びにグルコキナーゼのプロモーター。
【0138】
増殖条件により制御される転写の別の利点を有する誘導性プロモーターである他の酵母プロモーターとして、以下のものがある:アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロームC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関連する分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、並びにマルトース及びガラクトースの利用に関与する酵素のプロモーター領域がある。酵母発現に用いるのに好適なベクター及びプロモーターについてはEP 73,657にさらに詳しく記載されている。
【0139】
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの目的の核酸の転写は、例えば、ウイルス、例えばポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス(1989年7月5日に公開された英国特許第2,211,504号)、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス2)、ウシパピローマウイルス、トリ肉種ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及びシミアンウイルス40(SV40)のゲノムから得られるプロモーターにより;異種哺乳動物プロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーターにより;並びに熱ショックプロモーターにより、それらプロモーターが宿主細胞系と適合性である限りにおいて、制御される。
【0140】
高等真核生物による、目的のフラジェリン由来ペプチドをコードするDNAの転写は、ベクターにエンハンサー配列を挿入することにより増大させることができる。エンハンサーは、プロモーターに作用してその転写を増大させるDNAのシス作用エレメント(通常、約10〜300 bp)である。現在、哺乳動物遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、αフェトプロテイン、及びインスリン)由来の多くのエンハンサー配列が知られている。しかし、典型的には、真核細胞ウイルスからのエンハンサーを用いる。例として、複製起点の後期側のSV40エンハンサー(bp 100〜270)、サイトメガロウイルス早期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーがある。上記エンハンサーは、目的のポリペプチドをコードする配列の5'及び3'側の部位でベクターにつなぎ合わせてもよいが、好ましくはプロモーターから5'側の部位に位置する。
【0141】
真核宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒトの細胞、又は他の多細胞生物由来の有核細胞)はまた、転写の終結及びmRNAの安定化に必要な配列も含みうる。こうした配列は、真核又はウイルスDNA若しくはcDNAの5'側、及び場合によっては3'側の非翻訳領域から一般に取得可能である。これらの領域は、目的のフラジェリン由来ペプチドをコードするmRNAの非翻訳部分におけるポリアデニル化断片として転写されたヌクレオチドセグメントを含む。
【0142】
組換え脊椎動物細胞培養物における目的のフラジェリン由来ペプチドの合成に適合させるのに好適な、さらに別の方法、ベクター及び宿主細胞についてはGethingら、Nature, 293: 620-625 (1981);Manteiら、Nature, 281: 40-46 (1979);EP 117,060;及びEP 117,058に記載されている。
【0143】
宿主細胞の選択及び形質転換
宿主細胞は、フラジェリン由来ペプチド生産のための本明細書に記載した発現ベクター又はクローニングベクターでトランスフェクト又は形質転換し、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、あるいは所望の配列をコードする遺伝子の増幅のために必要に応じて改変した従来の栄養培地において培養する。
【0144】
培地、温度、pHなどの培養条件は、過度の実験をすることなく、当業者により選択することができる。一般に、細胞培養物の生産性を最大化するための原理、プロトコル、及び実際の技術は、Mammalian Cell Biotechnology: A Practical Approach, M. Butler, (IRL Press, 1991)に見出だすことができる。
【0145】
トランスフェクションの方法は、当業者には公知であり、例えばCaPO4処理及びエレクトロポレーションがある。用いる宿主細胞に応じて、該細胞に適した標準的技術を用いて、形質転換を実施する。Sambrookら(前掲)に記載の塩化カルシウムを用いたカルシウム処理、又はエレクトロポレーションは、頑丈な細胞壁バリアを含む原核細胞又はその他の細胞に用いられる。アグロバクテリウム・ツメファシエンスによる感染は、Shawら、Gene 23: 315 (1983)及び1989年6月29日に公開されたWO 89/05859に記載されているように、ある種の植物細胞の形質転換に用いられる。こうした細胞壁のない哺乳動物細胞の場合には、Graham及びvan der Eb, Virology, 52:456-457 (1978)のリン酸カルシウム沈殿法を用いることができる。哺乳動物細胞宿主系形質転換の一般的態様は、米国特許第4,399,216号に記載されている。酵母への形質転換は、一般的に、Van Solingenら、J. Bact., 130: 946 (1977)及びHsiaoら、Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 76: 3829 (1979)の方法に従って実施する。しかし、細胞にDNAを導入する別の方法、例えば、核マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、インタクトな細胞との細菌プロトフラスト融合、又はポリカチオン、例えばポリブレン若しくはポリオルニチンなどによる方法を用いてもよい。哺乳動物細胞を形質転換するための各種方法については、Keownら、Methods in Enzymology, 185: 527-537 (1990)及びMansourら、Nature, 336: 348-352 (1988)を参照されたい。
【0146】
本明細書において、ベクターにDNAをクローニング又は発現させるための好適な宿主細胞としては、原核生物、酵母、又は高等真核細胞がある。
【0147】
好適な原核生物としては、限定するものではないが、真正細菌、例えばグラム陰性菌又はグラム陽性菌、例えば、腸内細菌科の菌、例えば大腸菌がある。様々な大腸菌株が一般に入手可能であり、例えば大腸菌K12株MM294(ATCC 31,446);大腸菌X1776(ATCC 31,537);大腸菌株W3110(ATCC 27,325);及びK5772(ATCC 53,635)などがある。その他の好適な原核宿主細胞としては、腸内細菌科、例えばエシェキリア属(例:大腸菌)、エンテロバクター属、エルウィニア属、クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属(例:ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium))、セラチア属(例;セラチア・マルセッセンス)、及びシゲラ属、並びにバチルス属、例えば枯草菌及びバチルス・リチェニホルミス(例:1989年4月12日に公開されたDD 266,710に開示のバチルス・リチェニホルミス41P)、緑膿菌などのシュードモナス属、並びにストレプトマイセス属が挙げられる。これらの例は、限定的ではなく、例示的なものである。
【0148】
ネズミチフス菌(fliC fljB)のSIN41株は、これら原核宿主細胞はフラジェリンを一切分泌しない(Proc Natl Acad Sci U S A. 2001;98:13722-7)ことから、フラジェリン由来ペプチドの生産について特に関心が寄せられる。しかし、フラジェリンは、専門の分泌系、いわゆる「III型分泌系」から分泌される。興味深いことに、SIN41株は、最適なフラジェリン分泌に必要なIII型分泌系の全成分を産生する。fliCプロモーター下に新規のフラジェリンペプチドをコードする配列をクローニングすることにより、SIN41株において目的のフラジェリン由来ペプチドの大量分泌が可能になる。
【0149】
W3110株は、組換えDNA産物発酵のための共通の宿主株であるため、これもまた興味深い。好ましくは、宿主細胞は、最小量のタンパク質分解酵素を分泌する。例えばW3110株は、宿主に内因性のタンパク質をコードする遺伝子において遺伝的突然変異を引き起こすように改変することができ、こうした宿主の例として、以下のものがある:完全遺伝子型tonAを有する大腸菌W3110株1A2;完全遺伝子型tonA ptr3を有する大腸菌W3110株9E4;完全遺伝子型tonA ptr3 phoA E15 (argF-lac)169 degP ompT kan.sup.rを有する大腸菌W3110株27C7(ATCC 55,244);完全遺伝子型tona ptr3 phoA E15 (argF-lac)169 degP ompT rbs7 ilvG kan.sup.rを有する大腸菌W3110株37D6;非カナマイシン耐性degP欠失突然変異を有する37D6株である、大腸菌W3110株40B4;1990年8月7日に発行された米国特許第4,946,783号に開示の突然変異型ペリプラズム性プロテアーゼを有する大腸菌株。大腸菌株MG1655、MG1655 ΔfimA-H又はMKS12、fliD-及びfimA-H-欠失MG1655株もまた、分泌タンパク質として組換えフラジェリンを産生させるための興味深い候補である(Nat Biotechnol. 2005;(4):475-81)。あるいは、クローニングのin vitro方法、例えば、PCR又はその他の核酸ポリメラーゼ反応が好適である。
【0150】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母などの真核微生物も、フラジェリン由来ペプチドをコードするベクターの好適なクローニング又は発現宿主である。
【0151】
サッカロミセス・セレビシエは、一般的に用いられる下等真核宿主微生物である。この他にも以下のものが挙げられる:シゾサッカロミセス・ポンベ(Beach及びNurse, Nature, 290: 140 [1981];1985年3月2日に公開されたEP 139,383);クリベロミセス宿主(米国特許第4,943,529号;Fleerら、Bio/Technology, 9: 968-975 (1991))、例えばクリベロミセス・ラクチス(MW98-8C、CBS683、CBS4574;Louvencourtら、J. Bacteriol., 737 [1983])、クリベロミセス・フラギリス(ATCC 12,424)、クリベロミセス・ブルガリクス(ATCC 16,045)、クリベロミセス・ウィケラミイ(ATCC 24,178)、クリベロミセス・ワルティイ(ATCC 56,500)、クリベロミセス・ドロソフィラルム(ATCC 36,906; Van den Bergら、Bio/Technology, 8:135 (1990))、クリベロミセス・サーモトレランス、及びクリベロミセス・マルキシアヌス;ヤロウィア(EP 402,226);ピキア・パトリス(EP 183,070;Sreekrishnaら、J. Basic Microbiol., 28: 265-278 [1988]);カンジダ;トリコデルマ・リーゼィ(EP 244,234);アカパンカビ(Caseら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76: 5259-5263 [1979]);シュワニオマイセス、例えばシュワニオマイセス・オキシデンタリス(1990年10月31日に公開されたEP 394,538);並びに糸状菌、例えばニューロスポラ属、ペニシリウム属、トリポクラジウム属(1991年1月10日に公開されたWO 91/00357)、及びアスペルギルス属宿主、例えばアスペルギルス・ニデュランス(Ballanceら、Biochem. Biophys. Res. Commun., 112: 284-289 [1983];Tilburnら、Gene, 26: 205-221 [1983]; Yeltonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 1470-1474 [1984])及びアスペルギルス・ニガー(Kelly及びHynes, EMBO J., 4: 475-479 [1985])。メチロトローフ酵母は、本明細書において好適であり、限定するものではないが、ハンセヌラ、カンジダ、クロッケラ、ピキア、サッカロミセス、トルロプシス、及びロドトルラからなる属より選択される、メタノール上で増殖可能な酵母が挙げられる。このクラスの酵母を例示する具体的な種の一覧は、C. Anthony, The Biochemistry of Methylotrophs, 269 (1982)に見出すことができる。
【0152】
目的のフラジェリン由来ペプチドをコードする核酸の発現のための好適な宿主細胞は、多細胞生物に由来するものである。無脊椎動物細胞の例として、ショウジョウバエS2及びスポドプテラSf9などの昆虫細胞、並びに植物細胞がある。有用な哺乳動物宿主細胞系の例として、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)及びCOS細胞がある。さらに具体的な例としては、SV40により形質転換したサル腎CV1細胞系(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胎児由来腎細胞系(293細胞又は懸濁培養での増殖のためにサブクローニングした293細胞、Grahamら、J. Gen. Virol., 36: 59 (1977));チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub及びChasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, Biol. Reprod., 23:243-251 (1980));ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);並びにマウス乳癌細胞(MMT 060562、ATCC CCL51)。適切な宿主細胞の選択は、当業者の技術の範囲内である。
【0153】
目的のフラジェリン由来ペプチドの精製のための一般的方法
様々な形態の目的のフラジェリン由来ペプチドを培地又は宿主細胞溶解物から回収することができる。
【0154】
膜結合している場合には、好適な界面活性剤溶液(例えば、TRITON--X.TM. 100)を用いて、又は酵素的切断によって、膜から放出させることができる。
【0155】
目的のフラジェリン由来ペプチドをコードする核酸の発現に用いる細胞は、様々な物理的又は化学的手段、例えば凍結解凍サイクル、音波処理、機械的破砕、若しくは細胞溶解剤により破砕することができる。
【0156】
組換え細胞タンパク質又はポリペプチドから目的のポリペプチドを精製することが望ましい場合もある。好適な精製方法の例として以下の方法がある:イオン交換カラムでの分画;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカ上又はDEAEのようなカチオン交換樹脂上でのクロマトグラフィー;等電点電気泳動;SDS-PAGE;硫安沈殿;例えばSephadex G-75を用いた、ゲル濾過;IgGなどの混入物質を除去するためのプロテインAセファロースカラム;並びに目的のフラジェリン由来ペプチドのエピトープタグ化形態に結合させる金属キレート化カラムによるもの。
【0157】
タンパク質精製の様々な方法を用いることができ、こうした方法は当分野で知られており、例えばDeutscher, Methods in Enzymology, 182 (1990);Scopes, Protein Purification: Principles and Practice(Springer-Verlag: New York, 1982)に記載されている。選択する精製ステップは、例えば、用いた生産方法の性質や、生産される具体的フラジェリン由来ペプチドに応じて異なる。
【0158】
好ましい実施形態では、フラジェリン由来ペプチドは、実施例に開示するように、組換えネズミチフス菌SIN41(fliC fljB)の上清から精製する。
【0159】
具体的には、サルモネラ菌をルリア−ベルターニ(LB)培地において37℃で6〜18時間増殖させる。上清を濾過して、60%硫酸アンモニア(Sigma Aldrich、米国)で飽和させた。沈殿した物質を遠心分離により回収し、20mM Tris/HCl pH7.5に溶解させた後、透析した。タンパク質をハイドロキシアパタイト、アニオン交換、及びサイズ排除クロマトグラフィー(Bio-Rad Laboratories、米国;GE Healthcare、スエーデン)の連続ラウンドによりさらに精製した。最後に、ポリミキシンBカラム(Pierce、米国)を用いて、上記タンパク質からリポ多糖(LPS)を枯渇させた。リムルスアッセイ(Associates of Cape Cod Inc.、米国)を用いて、残留LPS濃度を、組換えフラジェリンμg当たり30 pg以下のLPSであると決定した。
【0160】
免疫アフィニティークロマトグラフィーによる目的のフラジェリン由来ペプチドの精製
別の実施形態では、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、免疫アフィニティークロマトグラフィー基質での分離により精製してもよい。
【0161】
上記免疫アフィニティークロマトグラフィー基質は、そこに固定化された抗フラジェリン抗体を含む。「抗フラジェリン」抗体とは、本明細書では、天然フラジェリン又は超可変領域欠失フラジェリンのいずれかに結合する抗体を意味するものとし、本発明に包含されるものを含む。
【0162】
好ましくは、抗フラジェリン抗体は、モノクローナル抗体からなり、例えば、マウス抗フラジェリン抗体がある。
【0163】
本発明によれば、本明細書の別の箇所に開示される超可変領域欠失フラジェリンFliCΔ174-400でマウスを免疫するステップを含む方法により得られる抗フラジェリン抗体は、天然フラジェリン、並びに本明細書に開示する超可変領域欠失フラジェリンのいずれか1つの両方を認識することが示されている。
【0164】
従って、免疫アフィニティークロマトグラフィー基質のいくつかの好ましい実施形態では、上記基質は、FliCΔ174-400に対して誘導されたマウスモノクローナル抗体を含む。
【0165】
上記の好ましい免疫アフィニティークロマトグラフィー基質は、以下のように調製することができる:
− 抗FliCΔ174-400モノクローナル抗体を含むマウス腹水をEcono-PacプロテインAカラム(#732-2022 Affi-gel;Bio-Rad)で精製した。
【0166】
− 得られた精製抗FliCΔ174-400モノクローナル抗体(「B23C5」と呼ばれることもある)を、一次アミノ基を介してN-ヒドロキシスクシンイミド活性化Sepharose(商標)高速カラム(GE Healthcareからの# 17-0716-01 Hitrap NHS活性化HP)と共有結合させることにより、フラジェリン特異的アフィニティーカラムを作製した。結合収率は、98%であった。
【0167】
本明細書の実施例に示すように、上記フラジェリン特異的アフィニティーカラムにより、出発サンプルに含まれる他のタンパク質成分又は非タンパク質成分からの、天然フラジェリン、さらにまた、本明細書に開示する超可変領域欠失フラジェリンのいずれか1つの高度に特異的な分離が可能になる。
【0168】
フラジェリン、又は本明細書に開示するいずれか1つの超可変領域欠失フラジェリンを精製する方法を以下に記載する:
− 組換えネズミチフス菌SIN41又は大腸菌の培養物からフラジェリン含有上清を遠心分離し、0.22μm膜でろ過し、結合バッファー(75mM Tris-HCl pH8)で1対1希釈した後、前述のフラジェリン特異的アフィニティーカラムにアプライした。
【0169】
− 次に、フラジェリン特異的アフィニティーカラムを15〜20 CV(カラム体積)の結合バッファーで洗浄した。
【0170】
− 次いで、タンパク質を3 CVの溶出バッファー(100 mMグリシン−HCl、0.5 M NaCl、oH2.7)で溶出させた後、画分を直ちに500μL Tris 1.5M pH8.9で中和することにより、酸性pHへの長時間にわたる暴露を回避した。
【0171】
− 次いで、カラムを10CVの結合バッファーで再生してから、0.02%アジ化ナトリウムを加えて4℃で保存した。
【0172】
典型的なクロマトグラフィープロフィールを図13に示す。尚、図13は、(i)280 nmでの吸光度(O.D.)曲線(塗りつぶし四角をつないだ線)と(ii)導電率曲線の両方を示している。図13において矢印で示す数字は、カラムから流出する液体の画分をフラジェリン含量のさらなる分析のために連続的に収集した時間に一致する(図14及び以下のパラグラフを参照)。番号付けした画分は、それぞれ以下のものからなる:
− No.1:アプライ(3μg)する前の5μLのサンプル=投入総量=900μg
− No.2:カラムラン後にアプライしたサンプルからの20μL
− No.3:カラム洗浄液からの20μL
− No.4:カラム洗浄液からの20μL
− No.5、6及び7:溶出バッファー後のそれぞれの画分からの20μL:総量はほぼ900μg
− No.8:カラム再平衡からの20μL
図14は、各出発材料として図13に示した画分1〜8を用いて実施したウエスタンブロットアッセイの写真である。
【0173】
2.化学合成
特定の実施形態では、本発明のペプチドは、化学ペプチド合成の従来技術により合成することができる。
【0174】
例えば、目的のフラジェリン由来ペプチド配列は、固相技術、例えばStewartら、Solid-Phase ペプチド Synthesis(W.H. Freeman Co.: カリフォルニア州サンフランシスコ(1969);Merrifield, J. Am. Chem. Soc., 85: 2149-2154 (1963);Fields GB, Noble RL;1990;Int. J. Pept. Protein Res.;第35巻: 161-214)に記載されているものを用いて、直接ペプチド合成により作製することができる。
【0175】
マニュアル技術を用いて、又は自動化技術によりin vitroタンパク質合成を実施してもよい。自動化合成は、例えば、Applied Biosystemsペプチド合成装置(カリフォルニア州フォスターシティ)により、製造者の指示書に従い達成することができる。
【0176】
目的のペプチドの様々な部分を化学的に別個に合成して、化学的又は酵素による方法で結合させることにより、目的の全長ペプチドを作製することもできる。
【0177】
本発明のフラジェリン由来ペプチドを含む組成物
本発明の別の目的は、組成物、具体的には、特に1種以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて本明細書に定義するアジュバント化合物を含む、医薬組成物である。
【0178】
本発明はまた、1種以上の抗原とともに本明細書に定義する免疫アジュバント化合物を含む免疫原性組成物にも関する。
【0179】
「免疫原性組成物」は、被験体又は動物にいったん投与されると、それに含まれる上記の1種以上の抗原に対して防御免疫応答を誘発する。
【0180】
本発明はまた、1種以上の抗原とともに、本明細書に定義する免疫アジュバント化合物を含むワクチン組成物にも関する。
【0181】
本明細書で用いるワクチン組成物は、被験体又は動物にいったん投与されると、例えば微生物に対する防御免疫応答を誘導するか、又は感染から被験体又は動物を効果的に保護する。
【0182】
ワクチン組成物は、好ましくは免疫応答調節に応答する病的状態を予防又は改善する上で有用である。
【0183】
免疫アジュバント
前述のように、「免疫アジュバント」という用語は、免疫原性組成物又はワクチンに関して用いるとき、一般に、抗原に対する特異的免疫応答の質を加速し、持続させる、又は増強するように作用する物質を意味するものとする。
【0184】
免疫アジュバントはまた、有利なことに、防御免疫に必要な免疫の回数又は抗原の量を減らすこともできる。
【0185】
抗原
免疫原性又はワクチンタイプの化合物若しくは製剤において、様々な物資を抗原として用いることができる。例えば、弱毒化及び不活性化ウイルス並びに細菌病原体、精製高分子、多糖、トキソイド、組換え抗原、病原体由来の外来遺伝子を含む生物、合成ペプチド、ポリ核酸、抗体及び腫瘍細胞を用いて、(i)個体に免疫応答を誘導するのに有用な免疫原性組成物又は(ii)病的状態を治療するのに有用なワクチンを調製することができる。
【0186】
従って、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、非常に多様な抗原と組み合わせて、個体に免疫応答を誘導するのに有用な免疫原性組成物又はワクチンを調製することができる。
【0187】
当業者であれば、特定の病的状態を治療するのに適切な抗原を選択することができ、粗抗原又は単離抗原が特定のワクチン製剤化に好ましいかどうかを決定する方法を認識するであろう。
【0188】
また当業者であれば、本発明の免疫アジュバントを1種以上の抗原に共有結合するのが好ましいか共有結合させないのが好ましいのかを判断することができる。
【0189】
本in vivo試験により、粘膜経路、特に鼻内経路を介して一緒に投与する場合、粘膜アジュバント活性は、目的のフラジェリン由来ペプチドと標的抗原との間にどんな結合も必要としないことが証明された。
【0190】
当分野で周知の様々な方法を用いて、単離抗原を調製することができる。免疫原性ポリペプチドをコードする遺伝子は、例えば、細菌、酵母、昆虫、爬虫類又は哺乳動物細胞において、当分野で周知の組換え方法を用いて単離し、クローニングすることができるが、このような方法は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning : A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1992)及びAnsubelら、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Baltimore, MD (1998)に記載されている。ウイルス、細菌及び原生動物病原体由来の表面抗原をコードする多くの遺伝子が首尾よくクローニングされ、発現され、ワクチン開発のための抗原として用いられている。例えば、B型肝炎ウイルス、HbsAg、コレラ毒素のPサブユニット、大腸菌のエンテロトキシン、マラリア原虫のスポロゾイト周囲タンパク質、並びにエプスタイン−バールウイルス由来の糖タンパク質膜抗原、並びに腫瘍細胞抗原が様々な周知のベクター/宿主系において発現され、精製され、ワクチンに用いられている。
【0191】
本発明のフラジェリン由来ペプチドは、組換え抗原に対する免疫応答を有益に増強することができるTLR5媒介粘膜系を介して自然免疫応答を誘導する。
【0192】
ワクチン中に用いる病理学的に異常な細胞は、任意の供給源、例えば病的状態を有する1以上の個体、又はこうした1以上の個体から取得したex vivo若しくはin vitro培養細胞から得ることができ、該個体には、得られるワクチンで処置しようとする特定の個体も含まれる。
【0193】
免疫調節分子
個体における免疫応答を改変するために、本発明のフラジェリン由来ペプチドと組み合わせて様々な免疫調節分子を用いることができる。所望する改変の種類によって、本発明のフラジェリン由来ペプチドと組み合わせるべく選択される免疫調節分子の種類を決定する。
【0194】
例えば、自然免疫応答を増強するために、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、自然免疫応答を促進する別の免疫調節分子、例えば、自然免疫応答を誘導することが知られる、又はそのように思われる他のPAMP又は保存領域と組み合わせることができる。様々なPAMPがトール様受容体ファミリーの様々なメンバーの活性を刺激することが知られている。
【0195】
こうしたPAMPは、有益なサイトカインプロフィールを誘導するトール様受容体の特定の組合せを刺激するように組み合わせることができる。例えば、PAMPは、Th1又はTh2免疫応答を誘導するサイトカインプロフィールを刺激するように組み合わせることができる。
【0196】
体液性又は細胞性免疫応答を促進する他の種類の免疫調節分子を本発明のフラジェリン由来ペプチドと組み合わせることができる。例えば、サイトカインを投与して、Th1及びTh2免疫応答のバランスを改変することができる。当業者であれば、特定の病的状態に対する免疫応答において有益な改変を達成するのに有用である、適切なサイトカインを測定する方法は認識しているであろう。
【0197】
本発明のフラジェリン由来ペプチドの投与
本発明のフラジェリン由来ペプチドは、1以上の分子、例えば抗原又は別の免疫調節分子とともに「免疫原性量」で投与するが、これは、免疫応答を誘発するのに必要な量を意味するものとする。
【0198】
本発明のフラジェリン由来ペプチドの、独立の、又は1以上の分子と組み合わせた用量は、例えば、治療しようとする病的状態、個体の体重及び状態、並びに以前の治療又は同時に行う治療に依存する。本方法の具体的適用のための免疫原性用量と考えられる適切な量は、当業者により決定することができる。当業者であれば、治療の経過を通じて患者の状態をモニタリングする必要があること、また、投与する組成物の量を、治療に対する患者の応答に応じて調節することができることは理解されよう。
【0199】
ワクチン免疫アジュバントとして、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、例えば、高度精製又は組換え抗原のようなより弱い抗原の免疫原性を増強し、免疫応答に必要な抗原の量を低減し、防御免疫応答を賦与するのに必要な免疫の回数を減らすことにより、ワクチンの有効性に寄与し、免疫応答が低下しているか又は弱い個体、例えば新生児、高齢者、及び免疫無防備状態の個体におけるワクチンの効果を改善し、標的組織での免疫、例えば粘膜免疫を増強することができ、あるいは特定のサイトカインプロフィールを誘発することにより、細胞性又は体液性免疫を促進することができる。
【0200】
本発明のフラジェリン由来ペプチドは、粘膜経路により投与すると、TLR5系の活性化による自然免疫応答、本発明では特にTLR5媒介粘膜応答を誘導する。
【0201】
特に、in vivo試験により、本発明のフラジェリン由来ペプチドは、標的抗原に対する全身応答及び粘膜応答を増強することができる、粘膜アジュバント活性を発揮することが示されている。
【0202】
自然免疫応答は、獲得免疫応答を刺激することにより、抗原に対する免疫応答を増強する。従って、本発明のフラジェリン由来ペプチドと1種以上の抗原との組合せにより、個体に免疫応答を誘導するための有効な免疫原性組成物又はワクチンを提供する。
【0203】
抗原及び/又は免疫調節分子と本発明のフラジェリン由来ペプチドとの組合せは、当分野において周知の様々な前臨床毒性試験及び安全性試験で試験することができる。
【0204】
例えば、こうした組合せは、抗原が免疫原性であることがわかっており、しかもヒト臨床試験について提案されているのと同じ経路によって再現性よく免疫が可能な動物モデルにおいて評価することができる。
【0205】
抗原及び/又は免疫調節分子と本発明のフラジェリン由来ペプチドの組合せは、例えば、生物学的製剤評価研究センター/米食品医薬品局及び米国立アレルギー感染症研究所(Goldenthal, KLら、AID Res Hum Retroviruses, 9: S45-9 (1993))により記載された手法により試験することができる。
【0206】
当業者であれば、抗原及び/又は免疫調節分子と本発明のフラジェリン由来ペプチドの特定の組合せについて、特定の動物種における特定の病態を治療するのに有用な、適切な抗原負荷量、免疫の経路、投与体積、抗原の精製度、並びにワクチン接種計画を決定する方法を認識するであろう。
【0207】
免疫応答を誘導するための本発明の免疫原性組成物又はワクチンは、薬学的に許容される媒質と一緒に溶液又は懸濁液として投与することができる。
【0208】
こうした薬学的に許容される媒質は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、通常の食塩水若しくは他の生理学的緩衝食塩水、あるいはその他の溶媒若しくはビヒクル、例えば、グリコール、グリセロール、並びにオリーブ油などの油、又は注射用有機エステルでよい。薬学的に許容される媒質はまた、リポソーム又はミセルを含んでもよいし、界面活性剤及びグリコシド、例えばQuil Aと一緒にポリペプチド又はペプチド抗原を混合することにより調製した免疫刺激性複合体を含んでもよい。
【0209】
薬学的に許容される媒質中の本発明のフラジェリン由来ペプチドを調製及び投与する別の方法は、TLR5媒介粘膜応答を誘導する化合物に関して、以下に記載する。
【0210】
本発明の免疫原性組成物又はワクチンは、様々な経路により投与して免疫応答を刺激することができる。例えば、上記免疫調節分子は、皮下、内皮、リンパ内、筋内、腫瘍内、膀胱内、腹腔内及び大脳内に送達することができる。
【0211】
当業者であれば、本発明のフラジェリン由来ペプチドの特定製剤に適切な送達経路を選択する方法を認識するであろう。
【0212】
本発明の好ましい実施形態では、哺乳動物における感染を治療又は予防するためのワクチン接種方法は、特に粘膜(例えば、眼、鼻内、口腔、胃、肺、腸、直腸、膣、若しくは尿道)表面から投与する本発明のワクチンの使用を含む。
【0213】
鼻内送達経路は、粘膜及び全身免疫応答の両方を誘導するのに有用であろう。鼻腔及び肺組織への製剤の好都合かつ有効な送達のための様々なデバイスが考えられる。
【0214】
鼻内送達経路は、本発明のフラジェリン由来ペプチドが、重大な全身炎症促進性副作用を一切伴わずに、粘膜区画において有意なアジュバント活性を示すことから、特に関心が寄せられる。
【0215】
ワクチン接種プロトコルでは、ワクチンは、初回/追加免疫法に従い、単回投与で、あるいは好ましくは、一週又は一ヶ月間隔で数回、例えば2回、3回若しくは4回、粘膜経路により有利に投与することができる。適切な投与量は、様々なパラメーターに依存する。
【0216】
ワクチン接種プロトコルは、厳密な粘膜プロトコルでもよいし、あるいは、例えば鼻内経路により経粘膜でワクチンの初回用量を投与し、さらに追加用量を非経口投与するか、又はその逆の混合プロトコルであってもよい。
【0217】
製剤化
医薬製剤又は組成物を調整する方法は、活性成分を担体、及び、任意で1以上の補助成分と一緒にするステップを含む。
【0218】
一般に、製剤は、活性成分を液体担体、又は微粉砕した固体担体、あるいはその両方と、均質にかつ密に一緒にした後、必要であれば、その産物を成形することにより、調製する。
【0219】
活性成分の経口投与のための液体投与形態は、薬学的に許容されるエマルション剤、マイクロエマルション剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤を含む。活性成分に加えて、液体投与形態は、当分野で一般に用いられている不活性の希釈剤、例えば水又はその他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(具体的には、綿実油、ピーナッツ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにこれらの混合物を含んでもよい。
【0220】
不活性希釈剤の他に、経口組成物は、湿潤剤、乳化及び懸濁剤、甘味料、香味料、着色剤、香料及び保存剤などの補助剤を含んでもよい。
【0221】
懸濁剤は、活性成分に加えて、懸濁化剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微晶質セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、アガーアガー及びトラガカント、並びにこれらの混合物を含んでもよい。
【0222】
直腸又は膣内投与のための本発明の医薬組成物の製剤は、座薬として提供することができ、これは、活性成分を1種以上の好適な非炎症性賦形剤又は担体と混合することにより調製することができ、こうした賦形剤又は担体は、例えばココアバター、ポリエチレングリコール、座薬用ワックス又はサリチレートを含み、これらは室温で固体であるが、体温では液体になり、従って直腸又は膣腔内で融解し、活性成分を放出する。膣内投与に適した本発明の製剤としてはまた、ペッサリー、タンポン、クリーム、ジェル、ペースト、フォーム又はスプレー製剤があり、該製剤は当分野で適切であることがわかっているそのような担体を含む。
【0223】
非経口投与に適した本発明の医薬組成物は、1以上の薬学的に許容される無菌等張水性溶液又は非水性溶液、分散液、懸濁液若しくはエマルション、又は無菌粉末(使用の直前に無菌注射液若しくは分散液で再構成することができる)と組み合わせて活性成分を含み、、このような溶液若しくは分散液は、抗酸化剤、バッファー、該製剤を意図するレシピエントの血液と等張性にする溶質、又は懸濁剤若しくは増粘剤を含んでいてもよい。
【0224】
本発明の医薬組成物に用いることができる好適な水性及び非水性担体の例として、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、これらの好適な混合物、植物油、例えばオリーブ油、並びに注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルがある。適正な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング材の使用により、分散液の場合には要求される粒度の維持により、及び界面活性剤の使用により、維持することができる。
【0225】
上記の組成物はまた、湿潤剤、乳化剤及び分散剤などの補助剤を含んでいてもよい。また、組成物中に、糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を含有させるのが望ましい場合もある。さらに、注射可能な医薬形態の持続的吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを含めることにより達成することができる。
【0226】
注射可能なデポー剤形は、ポリラクチド−ポリグリコリドのような生分解性ポリマー中の活性成分のマイクロカプセルマトリックスを形成させることにより調製される。ポリマーに対する活性成分の比率、並びに使用する特定のポリマーの性質に応じて、活性成分の放出速度を制御することができる。別の生分解性ポリマーの例として、ポリオルトエステル及びポリ無水物がある。デポー注射製剤はまた、身体組織と適合性のリポソーム又はマイクロエマルション中に活性成分を閉じ込めることにより調製される。注射可能薬剤は、例えば細菌保持フィルターを介した濾過により滅菌することができる。
【0227】
製剤は、単位用量又は複数回用量密封容器、例えば、アンプル及びバイアル中で提供してもよいし、凍結乾燥状態で保存してもよく、これは使用の直前に無菌液体担体、例えば注射用水を添加するだけでよい。即時注射溶液及び懸濁液は、前述したタイプの無菌の粉末、顆粒及び錠剤から調製することができる。
【0228】
本発明のワクチン組成物中の抗原、及び免疫アジュバント化合物の量、投与量は、具体的抗原、具体的動物又は患者の年齢、性別、体重、生物種及び状態、並びに投与経路などの要因を考慮に入れて、製剤分野の当業者には周知の方法で決定する。
【0229】
好ましい実施形態では、本発明のワクチン組成物はさらに、界面活性剤、吸収促進剤、吸水ポリマー、酵素分解阻害物質、アルコール、有機溶剤、油、pH調整剤、保存剤、浸透圧調節剤、噴射剤、水及びこれらの混合物からなる群より選択される1以上の成分を含む。
【0230】
本発明のワクチン組成物はさらに、薬学的に許容される担体をさらに含むことができる。該担体の量は、他の成分について選択された量、抗原の所望濃度、経口又は非経口投与経路の選択などに応じて変動する。担体は、任意の好都合なときにワクチンに添加することができる。凍結乾燥ワクチンの場合には、担体は、例えば、投与の直前に添加することができる。あるいは、最終製剤を担体と一緒に製造することもできる。
【0231】
適切な担体の例として、限定するものではないが、無菌水、生理食塩水、バッファー、リン酸緩衝生理食塩水、緩衝塩化ナトリウム、植物油、最少必須培地(MEM)、HEPESバッファー含有MEMなどがある。
【0232】
場合により、本発明のワクチン組成物は、前記アジュバント及び所望の結果に応じて変動する量で従来の第2アジュバントを含んでもよい。通常量は、他の成分及び所望の作用に応じて、約0.02%〜約20重量%の範囲である。
【0233】
好適な第2アジュバントの例として、限定するわけではないが、以下のものが挙げられる:安定剤;乳化剤;水酸化アルミニウム;リン酸アルミニウム;pH調整剤、例えば水酸化ナトリウム、塩酸など;界面活性剤、例えばTween.RTM. 80(ポリソルベート80、Sigma Chemical Co.(ミズーリ州サントルイス)から市販されている);リポソーム;イスコムアジュバント;合成グリコペプチド、例えばムラミルジペプチド;増量剤、例えば、デキストラン又は、例えばリン酸アルミニウムとのデキストラン組合せ物;カルボキシポリメチレン;細菌細胞壁、例えばマイコバクテリア細胞壁抽出物;これらの誘導体、例えばコルネバクテリウム・パルバム;プロピオニバクテリウム・アクネ;ウシ型結核菌、例えばカルメットゲランウシ型結核菌(BCG);ワクシニア又は動物ポックスウイルスタンパク質;オルビウイルスなどのサブウイルス粒子アジュバント;コレラ毒素;N,N-ジオクタデシル-N',N'-ビス(2-ヒドロキシエチル)-プロパンジアミン(ピリジン);モノホスホリルリピドA;ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA、Kodak(ニューヨーク州ロチェスター)から市販);これらの合成物及び混合物。望ましくは、水酸化アルミニウムは、別の二次アジュバント又はQuil Aのような免疫アジュバントと混合する。
【0234】
好適な安定剤の例として、限定するものではないが、スクロース、ゼラチン、ペプトン、消化タンパク質抽出物、例えばNZ-Amine又はNZ-Amine ASがある。乳化剤の例として、注射用又は鼻内ワクチン組成物に有用な、鉱油、植物油、ピーナッツ油及びその他の標準的代謝可能な非毒性油がある。
【0235】
本発明の目的のために、これらのアジュバントは、前述の免疫アジュバント化合物(これはRho GTPaseアクチベーターからなり、抗原性物質と組み合わせて該抗原物質に対する体液性免疫応答を有意に増強するその作用のために本ワクチン組成物における必須成分である)と単に対比させるために、「第2」のものとして特定する。第2アジュバントは、ある種のアジュバントはある程度まで免疫を増強する特性を備え、二重の目的を有するが、主に工程助剤としてワクチン組成物に含まれる。
【0236】
従来の保存剤を約0.0001重量%〜約0.1重量%の範囲の有効量でワクチン組成物に添加することができる。製剤に用いられる保存剤に依存して、この範囲に前後する量が有用なこともある。典型的保存剤として、例えば、ソルビン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、フェノール、メチルパラベン、プロピルバラベン、チメロサールなどがある。
【0237】
不活性化し、改変された、又は別の種類のワクチン組成物の選択、並びに本発明の改善されたワクチン組成物製剤の調製方法は、当業者には周知であるか、あるいは容易に決定される。
【0238】
薬理学的に有効な量の本発明の免疫アジュバント化合物は、抗原の免疫原性を増強する、加速する、若しくは持続させる目的で、例えば経口、非経口、又はその他の経路で、好ましくは粘膜経路で、抗原性物質の投与と同時に、逐次的に、若しくは直後に投与することができる。
【0239】
ワクチン組成物の用量は、特に、ワクチン接種した、又はワクチン接種すべき宿主の抗原、生物種などに応じて変動するが、ワクチン組成物の薬理学的に有効な量の投与量は、通常、用量当たり約0.01μg〜約500μg(特に50μg〜約500μg)の本発明の免疫アジュバント化合物である(特に図6に示す結果に基づく)。
【0240】
併用する特定の抗原性物質の量は、免疫応答を改善するのに必要な本発明の免疫アジュバント化合物の量に影響を与えるが、医師は、個々の状況に合うように、慣用的試験により免疫アジュバント化合物の有効な投与量を容易に調製することができる。
【0241】
一般に、本発明のワクチン組成物は、好都合に経口、非経口(皮下、筋内、静脈内、皮内、又は腹腔内)、口腔内、鼻内、又は経皮投与される。本発明により意図される投与経路は、抗原性物質及び共調製剤(co-formulant)に応じて変動する。例えば、ワクチン組成物がサポニンを含む場合には、経口又は鼻内では非毒性であるが、サポニゲングリコシドは強力な溶血物質として作用するためサポニゲングリコシドを血流に注射しないように注意しなければならない。また、多くの抗原は経口投与すると、有効ではなくなる。好ましくは、ワクチン組成物は、皮下、筋内又は鼻内投与する。
【0242】
ワクチン組成物の投与量は、特に、選択した抗原、投与経路、生物種及びその他の標準的要因に応じて変動する。当業者であれば、各抗原に対する免疫原性応答のために適切な投与量を容易に力価測定して有効な免疫化量及び投与方法を達成することができる。
【0243】
本明細書の他の箇所に既に記載したように、本発明のさらなる目的は、粘膜表面への投与のための本発明のワクチン組成物である。
【0244】
この投与方法は、大きな利点を提供する。実際、粘膜は、多数の樹状細胞及びランゲハンス細胞を含み、これらの細胞は優れた抗原検出性及び抗原提示性細胞である。粘膜はまた、粘膜関連リンパ組織と呼ばれるリンパ器官にも接続しており、他の粘膜領域に対する免疫応答を促進することができる。このような上皮の例として鼻上皮膜があり、これは実質的に単層の上皮細胞(多列上皮)からなり、上気道の粘膜は2つのリンパ組織、すなわち、アデノイド及び扁桃に接続している。高密度のB細胞及びT細胞からなる鼻粘膜下の広範な毛細血管網は、抗原の迅速な認識を可能にし、高速な免疫応答をもたらすのに特に適している。
【0245】
好ましくは、粘膜表面は、鼻、肺、口、眼、耳、胃腸管、生殖管、腟、直腸、及び皮膚の粘膜表面からなる群より選択される。
【実施例】
【0246】
実施例1:超可変領域欠失フラジェリンの免疫アジュバント作用
材料及び方法
組換えフラジェリンの作製
組換えフラジェリンは、ネズミチフス菌ATCC14028フラジェリンFliC(アクセッション番号AAL20871)に由来するものであった。
【0247】
フラジェリンFliC及びFliCΔ205-293は、以前記載されている(Yoshiokaら、1995. Flagellar filament structure and cell motility of Salmonella typhimurium mutants lacking part of the outer domain of flagellin. J. Bacteriol. 177:1090-1093; Didierlaurentら、2004. Flagellin Promotes Myeloid Differentiation Factor 88-Dependent Development of Th2-Type Response. J. Immunol. 172:6922-6930; Sierroら、2001, Flagellin stimulation of intestinal epithelial cells triggers CCL20-mediated migration of dendritic cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:13722-13727))ように、ネズミチフス菌株SIN22(fljB)及びSJW46から単離するか、又はAlexis Biochemicals(スイス)から購入した。
【0248】
FliCΔ174-400及びFliCΔ191-352をコードする構築物は、配列番号3の野生型fliC遺伝子を有するpBR322由来のプラスミド上のPCRにより、それ自身のプロモーターの制御下に、以下のプライマー対を用いて作製した:AGCACCattcagcgtatccagacc(配列番号15)/GCTGGTgctacaaccaccgaaaac(配列番号16)及びTCGAGatatcctgtaacagttgcagcc(配列番号17)/ACTCGAGgacggtacatccaaaactgcac(配列番号18)(リンカーをコードする塩基をイタリックで表す)。
【0249】
また、TLR5検出に関与する残基89-96(QRVRELAV)を非シグナル伝達フラジェリン由来の対応する配列(DTVKVKAT)で置換するために、FliCΔ174-400を有するプラスミドについて部位指定突然変異誘発を実施した。こうして得られたタンパク質は、FliCΔ174-400/89-96*であった。
【0250】
FliCΔ174-400、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400/89-96*において、末端から6残基に位置するアスパラギンをセリンに改変した。
【0251】
末端切断型フラジェリンを以下のように組換えネズミチフス菌SIN41(fliC fljB)の上清から精製した。サルモネラ菌をルリア・ベルタニ(LB)培地において37℃で18時間撹拌しながら増殖させた。上清を濾過し、60%硫酸アンモニウム(Sigma Aldrich、米国)で飽和させた。沈殿物質を遠心分離し、20mM Tris/HCl pH7.5に溶解させた後、透析により回収した。ハイドロキシアパタイト及びアニオン交換クロマトグラフィー(Bio-Rad Laboratories、米国)の連続的ラウンドにより、タンパク質をさらに精製した。最後に、ポリミキシンBカラム(Pierce、米国)を用いて、タンパク質からリポ多糖(LPS)を枯渇させた。リムルスアッセイ(Associates of Cape Cod Inc.、米国)を用いて、残留LPS濃度を測定したところ、組換えフラジェリン1μg当たり30 pg以下のLPSであった。
【0252】
詳細には、フラジェリンを0.017%トリプシン-EDTA(Invitrogen、米国)で37℃にて1時間処理することにより、タンパク質を完全に加水分解した後、70℃で1時間加熱することにより、トリプシンを不活性化した。タンパク質は、標準的SDS-PAGE、並びにFliC特異的ポリクローナル抗体を用いたイムノブロッティングにより解析した。
【0253】
動物実験
雌のNMRIマウス(6〜8週齢)をCharles River Laboratories(フランス)から購入し、認可機関(#A59107;Institut Pasteur de Lille)における特定の無菌施設内で維持した。実験はすべて現行の国内及び施設内規定及び倫理ガイドラインに従って実施した。
【0254】
超免疫のために、動物(マウス)に、第1日に200μlの完全フロイントアジュバント(CFA)/PBS中、また第21日、第35日及び第49日に不完全フロイントアジュバント(CFA)/PBS中に乳化したフラジェリンFliC(注射1回当たり1μg)を皮下(s.c.)注射した。第63日には、マウスに200μlのフラジェリン/PBSを静脈内投与し、2時間後、血清及び組織サンプル採取及び解析のために、5 mgのペントバルビタールナトリウム(CEVA Sante Animale、フランス)の腹腔内(i.p.)注射により死なせた。
【0255】
粘膜自然応答及びアジュバント特性を特性決定するために、マウス25 g当たり1.5 mgのケタミン(Merial、フランス)及び0.3 mgのキシラジン(Bayer、ドイツ)で麻酔したマウスに、20μlのPBS±タンパク質を鼻内投与(i.n.)した。
【0256】
炎症促進性応答を調べるために、2時間後(RNA及び遺伝子発現アッセイのため)又は6時間後(サイトカイン産生を調べるため)にマウスからサンプルを採取した。
【0257】
免疫アッセイのために、第1日及び第21日に、マウスにPBS± LPS枯渇オボアルブミン(OVA)(20μg、Sigma、グレードVII、米国)±フラジェリン(1μg)を鼻内投与した。第35日に気管支肺胞洗浄液(BAL)及び血清を採取した。
【0258】
中和を評価するために、免疫血清及び模擬血清を56℃で30分加熱することにより、補体を不活性化した。フラジェリンでの全身活性化の1時間前に、連続血清希釈物(200μlのPBS中)を動物に静脈内経路により受動移入させた。いくつかの実験では、PBSで希釈したフラジェリンと血清を混合した後、粘膜中和を試験するために鼻内投与した。
【0259】
コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル(Roche、スイス)を含む1 mlのPBSの気管内注射後、BALを回収して、遠心分離により清澄化した。
【0260】
血液サンプルを収集し、室温で凝固させた後、遠心分離により血清を分離した。
【0261】
プロテアーゼインヒビターを添加した2 ml T-PER組織タンパク質抽出試薬(Pierce、米国)で組織をホモジナイズすることにより、肺タンパク質抽出物を調製した。サンプルはすべて、解析まで−80℃で保存した。
【0262】
抗原特異的抗体応答の解析
血清及びBALサンプル中のOVA特異的抗体又はフラジェリン特異的抗体のレベルを、ELISAを用いて評価した。
【0263】
簡単に説明すると、OVA(リン酸バッファー0.2 M pH6.5中ウェル当たり20μg)及びフラジェリンFliC(PBS中ウェル当たり100ng)を4℃で一晩MaxiSorpマイクロプレート(Nalge Nunc Int,、米国)に塗布した。すべてのマイクロプレートをPBS/Tween20 0.05%で洗浄し、室温で1時間にわたりPBS/粉乳1%でブロッキングした。
【0264】
展開の前に、サンプルの連続希釈物を室温で1時間インキュベートした。ビオチニル化抗マウスIgG又はIgA抗体(Southern Biotechnology Associates、米国)、HRP結合ストレプトアビジン(GE Healthcare、米国)及び3,3',5,5' テトラメチルベンジジン(Becton Dickinson Bioscience、米国)を展開試薬として用いた。H2SO4の添加により反応を停止し、450 nmでODを測定した。
【0265】
IgG力価は、吸光度の値がOVAについては0.15 OD、またFliCについては0.5 ODをもたらした最高サンプル希釈度の逆数として定義し、これを基準血清と系統的に比較した。力価は個々のマウスからの力価の幾何平均として与えられる。
【0266】
BAL中の全IgA及びOVA特異的IgAレベルを測定し、商業用マウスIgA(Sigma)との較正曲線を用いて標準化した。特異的IgA率(全IgA 1μg当たりのOVA特異的IgAをngで表す)を各マウスについて決定した。
【0267】
サイトカイン特異的ELISA及び遺伝子発現
市販のELISAキット(R&D Systems、米国)を用いて、マウスCXCL2及びCCL20並びにヒトIL-8(CXCL8)レベルを血清、BAL、全肺及び/又は細胞培養上清中で測定した。
【0268】
マウス肺からの全RNAをNucleospin RNA IIキット(Macherey Nagel、ドイツ)で抽出し、High-Capacity cDNA Archive Kit(Applied Biosystems、米国)で逆転写した。得られたcDNAは、SYBR Greenに基づくリアルタイムPCR(Applied Biosystems)を用いて増幅した。
【0269】
特異的プライマーは以下の通りである:CGTCATCCATGGCGAACTG(配列番号19)/ GCTTCTTTGCAGCTCCTTCGT(配列番号20)(ACTB、βアクチンをコードする)、TTTTGGGATGGAATTGGACAC(配列番号21)/TGCAGGTGAAGCCTTCAACC(配列番号22)(CCL20)、及びCCCTCAACGGAAGAACCAAA(配列番号23)/CACATCAGGTACGATCCAGGC(配列番号24)(CXCL2)。相対mRNAレベル(2-ΔΔCt)は、以前記載されている(Sierroら、2001, Flagellin stimulation of intestinal epithelial cells triggers CCL20-mediated migration of dendritic cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:13722-13727)ように、(a)目的の遺伝子とACTBについてのPCRサイクル閾値(Ct)を比較し(ΔCt)、(b)処置グループと対照グループについてのΔCt値を比較する(ΔΔCt)ことにより決定した。
【0270】
細胞ベースのアッセイ
Caco-2ヒト結腸腺癌細胞系を、ヒトCCL20プロモーターの制御下にルシフェラーゼ遺伝子を有するプラスミドで安定にトランスフェクトして(Rumboら、2004, Lymphotoxin beta receptor signaling induces the chemokine CCL20 in intestinal epithelium. Gastroenterol. 127:213-223)、Caco-Rumbo系を作製した。
【0271】
上記の腸上皮細胞は、10%胎児ウシ血清、10 mM HEPES、非必須アミノ酸1X、ペニシリン(100 U/ml)及びストレプトマイシン(100 U/ml)並びに(トランスジーン選択用に)0.7 mg/mL G418(Invitrogen)を添加したダルベッコ改変イーグルス培地で増殖させた。
【0272】
ヒト気管支上皮細胞系BEAS-2Bを、Caco-Rumbo培地の場合と同様の添加を行いさらに1 mMピルビン酸ナトリウム及びインスリン−トランスフェリン−セレンミックス(Invitrogen)を添加したカイグ(Kaigh's)F12栄養培地中で培養した。
【0273】
ルシフェラーゼアッセイの場合には6時間、又はELISAの場合には上清を回収する前に16時間、細胞を組換えフラジェリンで刺激した。
【0274】
細胞抽出物中のルシフェラーゼ活性を、Bright Glo Luciferase Assay(Promega、米国)を用いて測定した。相対ルミネセンス(RLU)を、組換えフラジェリンを用いた活性化試験についての野生型フラジェリンでの最大活性に対する比率(%)として標準化した。In vitro中和試験について、RLUを各タンパク質の最大活性に対する比率(%):[(RLU処置/RLU非処置)/(RLU最大/RLU非処置)]×100として標準化した。
【0275】
統計解析
統計的有意差をマン−ホイットニー検定を用いて解析し、p値<0.05であれば有意であるとした。特に記載のない限り、結果は算術平均±標準偏差として表す。
【0276】
結果
フラジェリンの超可変領域の欠失は抗原性を損なうが、TLR5刺激活性は改変しない
2つの新規フラジェリン分子(それぞれ336アミノ酸及び271アミノ酸から構成されるFliCΔ191-352及びFliCΔ174-400)を内部欠失により構築した(図1A)。
【0277】
対照として、以前に特性決定されている変異体FliCΔ204-292を用いたが、これは、抗原性ドメインに部分的欠失を有する(Yoshiokaら、1995, Flagellar filament structure and cell motility of Salmonella typhimurium mutants lacking part of the outer domain of flagellin. J. Bacteriol. 177:1090-1093)(図1A)。
【0278】
In vitro及びin vivo実験の負の対照として、TLR5シグナル伝達を損なう突然変異をFliCΔ174-400に導入して、組換えタンパク質FliCΔ174-400/89-96*を得た。
【0279】
各フラジェリンの予測構造は、モチーフ89-96及び保存領域の全体構造が不変であることを示すものであった(図1A)。
【0280】
FliCΔ204-292を除いて、変異体は、フラジェリン欠失細菌の運動性を相補することができず、培養物上清中に分泌された。
【0281】
次に、組換えフラジェリンの固有の抗原性を評価した。このために、飽和濃度のフラジェリンをマイクロプレートに塗布してから、FliC又はFliCΔ174-400に特異的な超免疫血清を用いたELISAによりプローブした。
【0282】
図1Bに示すように、抗FliC血清をFliC変異体に対して力価測定したところ、野生型FliCに対するものと比較して、3〜10倍低い抗体力価を観察した。
【0283】
対照的に、FliCΔ174-400に特異的な超免疫血清の反応性は、標的フラジェリンが何であれ同様であった(図1C)。
【0284】
これらの結果は、中央の超可変領域が抗フラジェリン抗体の主要標的であることを示している。
【0285】
最後に、組換え分子がTLR5刺激活性を保持しているか否かを確認しようとした。
【0286】
Caco-Rumboレポーター細胞及び肺上皮細胞系BEAS-2Bを用いて、用量応答分析を実施した。活性化は、Caco-Rumbo細胞中のルシフェラーゼ活性と、BEAS-2B細胞によるIL-8分泌を測定することにより評価した(ヒト腸上皮細胞系は、「肝活性化及び調節性ケモカイン」若しくは「LARC」としても知られるケモカインCCL20、並びにIL-8の発現に基づく、フラジェリン/TLR5刺激活性のユニークなレポーターである)。
【0287】
図2A〜Bに示すように、FliCΔ204-292、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400はすべて強力な細胞アクチベーターであった。フラジェリンそれぞれのEC50値は、細胞型によってわずかに異なるが、以前記載されたng/mLの範囲内であった(Smithら、2003, Toll-like receptor 5 recognizes a conserved site on flagellin protofilament formation and bacterial motility. Nat. Immunol. 4:1247-1253)。
【0288】
FliCΔ174-400/89-96*が上皮細胞を活性化することができなかったことから、組換えフラジェリンの活性は、TLR5に完全に依存性であることがわかった。
【0289】
TLR5シグナル伝達についての要件を、TLR5欠失マウスに由来する骨髄マクロファージを用いてさらに確認した。細胞は、組換えフラジェリンによる刺激時にIL-12 p40を全く合成しなかった(データは示していない)。
【0290】
欠失フラジェリンはTLR5依存性粘膜自然応答を刺激する
組換えフラジェリンによるTLR5刺激を粘膜経路によりin vivoで試験した。
【0291】
このために、フラジェリンで鼻内処置したマウスの肺におけるCCL20及びCXCL2発現をqRT-PCRにより定量した(図2C)。
【0292】
2時間以内で、CCL20 mRNA肺レベルは、模擬物処置動物と比較して、野生型又は組換えフラジェリンで処置した動物において約30倍高かった。
【0293】
さらに、CCL20ケモカイン産生が、肺ホモジネート及びBALの両方で、点滴注入から6時間後に検出された(図2D)。対照実験では、FliCΔ174-400/89-96*及びトリプシン消化フラジェリンはこの種の作用を誘導しなかった。同様の発見がCXCL2についても観察された(データは示していない)。
【0294】
上記の結果から、in vivo炎症促進性応答が、もっぱら組換えフラジェリンによるものであることを確認した。
【0295】
全体として、超可変領域に欠失を有するフラジェリンは、野生型FliC対応物と同等の粘膜炎症促進性を示した。
【0296】
組換えフラジェリンは粘膜アジュバント活性を示す
本発明の組換え分子のアジュバント活性を特性決定するために、血清における抗体応答及び分泌を鼻内免疫後に試験した。
【0297】
オボアルブミン(OVA)をモデル抗原として用いて、ゴールドスタンダード粘膜アジュバントとしての各種フラジェリンとともに、又はフラジェリンを用いずに、あるいはコレラ毒素(CT)とともに製剤化した。
【0298】
OVAとともにFliCを共投与すると、OVA単独で免疫した動物と比較して、OVA特異的IgG応答を有意に増強した(血清及びBALの両方で、それぞれ約300倍及び100倍)(図3A〜B)。
【0299】
さらに、OVA特異的IgA応答はBAL中で増強したが、これは、FliCが粘膜アジュバントの典型的な分泌抗体応答を促進することを示している(図3C)。興味深いことに、FliCの作用はCTの作用と類似していた。
【0300】
FliCと同様に、組換えフラジェリンFliCΔ204-292、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400も全身及び粘膜応答を増強することができた。
【0301】
対照的に、FliCΔ174-400/89-96*及びトリプシン処理フラジェリンには効力がなかった(図3及び表1)。
【0302】
従って、フラジェリンの超可変領域の欠失は、TLR5媒介粘膜アジュバント特性に有意に影響しなかった。また、データから、自然免疫及び獲得免疫に対する組換え分子のそれぞれの効果が相関していることも示された。
【0303】
超可変領域の欠失は、抗フラジェリン抗体を惹起する能力を損なう
抗原性ドメインが欠失すると、特に投与を繰り返した場合、フラジェリン特異的免疫応答が低減し、従って、TLR5媒介免疫のあらゆる中和が低減することが予想される。
【0304】
そのため、本発明者らは、FliC特異的抗体の誘導に関して鼻内免疫の有効性を評価することを決定した。
【0305】
図に示されるように、FliCは血清及びBALにおいて強力なIgG応答を誘発した(表1及び図4)。対照的に、FliCΔ204-292は、FliCの場合と比較していずれの液体においても10倍低い抗体レベルを誘発し、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400での免疫後に、より顕著な効果が観察された。
【0306】
結論として、フラジェリンの抗原性ドメインと免疫刺激性ドメインは機能的に連結していない。従って、FliCΔ191-352及びFliCΔ174-400は、中和活性を有するフラジェリン特異的抗体の産生を阻止又は低減するための目的の分子である。
【0307】
フラジェリン特異的抗体はTLR5媒介シグナル伝達を中和する
細菌フラジェリンは、強力な抗体応答を誘発することがわかっており、この応答は主として超可変領域に対して向けられる。本発明者らは、抗フラジェリン抗体がフラジェリンのTLR5刺激活性を中和すると仮定した。
【0308】
従って、フラジェリンFliC又は模擬調製物(PBC単独、若しくはCFA中に調製した無関係の抗原オボアルブミン(OVA))で皮下免疫した後、IFAで追加免疫した。ELISA解析により、抗FliC血清が特異的IgG力価>106を示したのに対し、模擬物血清の力価はアッセイの検出閾値(102)を下回ることが明らかにされた。
【0309】
前述のように、ヒト腸上皮細胞系は、ケモカインCCL20(また「肝活性化及び調節性ケモカイン」、LARCとしても知られる)の発現に基づく、フラジェリン/TLR5刺激活性のユニークなレポーターとして有用である。
【0310】
従って、CCL20プロモーターの制御下にルシフェラーゼ遺伝子を有するCaco-Rumbo細胞を用いて、抗FliC血清がFliCのTLR5アゴニスト活性を十分に中和することができることが本発明で証明された(図5A)。
【0311】
TLR5シグナル伝達に対するFliC特異的抗体の中和作用を、免疫マウスにおいて直接評価した。このために、FliCの静脈内注射後、マウスにおける全身炎症促進性応答(CCL20及びCXCL2ケモカインの産生)を調べた(図5B〜C)。
【0312】
模擬物免疫マウスでは、FliCチャレンジが、PBSチャレンジと比較して、CCL20及びCXCL2の血清レベルの有意な増加を誘発した。
【0313】
対照的に、FliC免疫マウスにおけるケモカイン産生は、いずれのチャレンジによっても増強されなかった。ナイーブマウスへの受動血清移入を用いて、図5Dに示すように、注射した抗体の量と全身自然応答との間に密接な相関を見出した。
【0314】
結論として、フラジェリンに対する先在免疫は、フラジェリンのTLR5刺激活性をin vitro及びin vivoの両方で中和することができる。
【0315】
これは、図4を参照にして上に開示したように、中和抗体を含むフラジェリン特異的抗体の産生を促進する能力が強度に損なわれたFliCΔ174-400については当てはまらない。
【0316】
鼻内経路によりTLR5媒介自然応答を開始するのに必要な有効用量を決定した。FliC及びFliCΔ174-400は類似の用量応答プロフィールを示しており、続く中和アッセイについては0.1μgの用量を選択した(図6)。
【0317】
このために、マウスをFliCで鼻内経路により過剰免疫することにより、強力なFliC特異的粘膜IgG応答(平均力価約45,000)を誘発し、次に0.1μgのFliC又はFliCΔ174-400フラジェリンでチャレンジした。BAL中の炎症促進性ケモカイン産生をモニタリングした。
【0318】
FliC又はFliCΔ174-400でのチャレンジにより、ナイーブマウスに観察されるようにCCL20産生(模擬物及びFliC免疫マウスにおいてそれぞれ、4.28 ± 1.98 対 1.08 ± 0.54 ng/ml及び2.48 ± 1.22 対 0.93 ± 0.48 ng/ml)が起こった。
【0319】
粘膜及び全身TLR5依存性応答は異なる程度で超可変フラジェリン領域に依存する
本発明者らは、組換えフラジェリンの静脈内注射後に誘導されるTLR5依存性応答のフラジェリン特異的抗体による中和を調べたいと考えた。
【0320】
自然免疫の全身活性を解析するため、循環中の炎症促進性ケモカインCCL20及びCXCL2の産生を血清中のElISAにより測定した(図7)。
【0321】
意外にも、FliCΔ174-400は野生型FliCと比較して、全身炎症促進作用を誘発する能力が約100倍損なわれていることを確認した。
【0322】
10μgのFliCΔ174-400はわずかなケモカイン産生を刺激したが、TLR5モチーフ内に突然変異を起こした変異体FliCΔ174-400/89-96*は活性を欠いていた(CCL20について0.85 ± 0.27 対 0.02 ± 0.00 ng/ml)。
【0323】
これは、いずれもFliC同様に強力なアクチベーターであるFliCΔ204-292及びFliCΔ191-352とは対照的であった。
【0324】
従って、超可変領域上の(又はこれに依存する)いくつかの分子決定基が全身TLR5刺激に必要であるが、粘膜TLR5刺激には必要ではない。全体として、得られた結果は、粘膜及び全身区画内のTLR5活性化が、別々のメカニズムにより制御されていることを示している。
【0325】
実施例2:FliCΔ174-400、FliCΔ161-405、及びFliCΔ138-405からなる群より選択される超可変領域欠失フラジェリンの生物活性
組換え超可変領域欠失フラジェリンの産生
前記実施例1に開示したのと同じ方法を実施することによって、様々な超可変領域欠失フラジェリン、すなわちFliCΔ174-400、FliCΔ161-405、FliCΔ138-405及びFliCΔ100-405を組換えにより作製した。
【0326】
図8及び9は、組換えにより作製したタンパク質の解析を示す。
【0327】
図8は、TCAによるタンパク質沈殿のステップの後に、対応する組換えネズミチフス菌SIN41細菌細胞由来の培養上清から回収した組換えタンパク質について実施したSDS PAGE電気泳動の結果を示す。
【0328】
図9は、抗FliCポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果を示す。このウエスタンブロッティングは、TCAによるタンパク質沈殿のステップの後に、対応する組換えネズミチフス菌SIN41細菌細胞由来の培養上清について実施した。
【0329】
超可変領域欠失フラジェリンFliCΔ174-400、FliCΔ161-405、及びFliCΔ138-405の生物活性
実施例1に記載したサイトカイン特異的ELISAアッセイを実施することにより、CCL20及びCXCL2の誘導に対するFliCΔ174-400、FliCΔ161-405、及びFliCΔ138-405の効果をアッセイした。
【0330】
簡単に説明すると、174〜400位、161〜405位及び138〜405位が欠失した様々な組換えフラジェリン10μgとともに、C3H/HeJ(TLR4欠失)を腹腔内注射した。
【0331】
2時間後、血清を採取し、サイトカイン特異的ELISA(CCL20及びCXCL2)について処理した。
【0332】
フラジェリン調製物は、事前に硫酸アンモニアで沈殿させ、透析した組換えサルモネラ菌の上清から取得した(図8及び9)。これらの粗調製物は内毒素が混入している可能性があることから、LPSは粗調製物における主要混入因子であると考えられるため、TR4シグナル伝達の欠失したマウスを用いた。さらに、生物活性が粗調製物のタンパク質画分に存在することを証明するために、トリプシン処理を用いた。
【0333】
得られた結果を図10(CCL20の誘導)及び図11(CXCL2の誘導)に示す。
【0334】
図10及び図11の結果は、組換えフラジェリンFliCΔ161-405及びFliCΔ138-405が、FliCΔ174-400について記載されているのと同様に、in vivoでシグナル伝達する能力があることを示している。
【0335】
上記の結果は、FliCΔ161-405及びFliCΔ138-405が有効なTLR5アゴニストであり、従って、有効なアジュバント化合物を提供しうることを示している。
【0336】
実施例3:HIVウイルス由来のgp140抗原に対する免疫応答に対するFliCΔ174-400のアジュバント活性
免疫プトロコル及び抗原特異的抗体応答の解析は、以下に記載する具体的特徴を除いて、実施例1に記載したものと同じである。
【0337】
簡単に説明すると、HIV1抗原gp140に対する天然フラジェリンFliC及び組換えFliCΔ174-400のアジュバント活性を以下のように実施した:FliC若しくはFliCΔ174-400(マウス当たり1μg)とともに又はそれ無しでgp140(マウス当たり5μg)を含む20μlのPBSで鼻内経路によりNMRIマウス(n=8)を第1日及び第21日に免疫した。
【0338】
血清及び気管支肺胞洗浄液(BAL)を第35日に採取し、gp140特異的ELISAにより抗体力価を測定した。
【0339】
結果を図12に示すが、図中、各記号は個別のマウスを表し、バーは幾何学平均を示す。
【0340】
記号は、それぞれ(i)丸:HIV1gp140単独;(ii)ひし形:HIV1gp140 + FliCΔ174-400;(iii)三角形:gp140 + FliCを鼻内投与されたマウスを意味する。
【0341】
血清サンプルから得た抗体力価は、図12の左側に黒塗り記号として表す(塗りつぶし記号)。気管支肺胞洗浄液から得た抗体力価は、図12の右側に白抜き記号として表す。
【0342】
その結果は、本明細書に記載した様々な超可変領域欠失フラジェリンが、有効な免疫アジュバント化合物からなることを示す。
【表1】
【0343】
【表2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号1の1位に位置するアミノ酸残基から開始し、配列番号1の99〜173位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するN末端ペプチドと;
b)配列番号1の401〜406位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基から開始し、配列番号1の494位に位置するアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するC末端ペプチドと
を含む免疫アジュバント化合物であって、
ここで上記N末端ペプチドは、上記C末端ペプチドに直接連結されているか、又は
上記N末端ペプチドとC末端ペプチドは、スペーサー鎖を介して互いに間接的に連結されている、
上記免疫アジュバント化合物。
【請求項2】
前記N末端ペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列1〜99、1〜137、1〜160及び1〜173からなる群より選択される、請求項1に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項3】
前記C末端ペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列401〜494および406〜494からなる群より選択される、請求項1又は2のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項4】
前記N末端ペプチド及びC末端ペプチドが、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜173及び401〜494からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項5】
前記N末端およびC末端ペプチドが、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜160及び406〜494からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項6】
前記N末端ペプチド及びC末端ペプチドが、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜137及び406〜494からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項7】
前記N末端ペプチド及びC末端ペプチドが、NH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHペプチド配列からなる中間スペーサー鎖を介して互いに間接的に連結されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項8】
配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基をセリンに置換する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項9】
前記化合物が、N末端に追加のメチオニン残基を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項10】
1種以上の薬学的に許容される賦形剤とともに、請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物を含む、医薬組成物。
【請求項11】
1種以上の抗原とともに、請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物を含む免疫原性組成物。
【請求項12】
1種以上の抗原とともに、請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物を含むワクチン組成物。
【請求項13】
前記免疫アジュバント化合物が、前記の1種以上の抗原に共有結合していない、請求項11に記載の免疫原性組成物又は請求項12に記載のワクチン組成物。
【請求項14】
医薬品として用いるための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項15】
医薬組成物を製造するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物の使用。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物をコードする核酸。
【請求項17】
請求項16に記載の核酸が挿入されている、組換えベクター。
【請求項18】
請求項16に記載の核酸または請求項17に記載の組換えベクターでトランスフェクトまたは形質転換された宿主細胞。
【請求項1】
a)配列番号1の1位に位置するアミノ酸残基から開始し、配列番号1の99〜173位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するN末端ペプチドと;
b)配列番号1の401〜406位に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基から開始し、配列番号1の494位に位置するアミノ酸残基で終了するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するC末端ペプチドと
を含む免疫アジュバント化合物であって、
ここで上記N末端ペプチドは、上記C末端ペプチドに直接連結されているか、又は
上記N末端ペプチドとC末端ペプチドは、スペーサー鎖を介して互いに間接的に連結されている、
上記免疫アジュバント化合物。
【請求項2】
前記N末端ペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列1〜99、1〜137、1〜160及び1〜173からなる群より選択される、請求項1に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項3】
前記C末端ペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列401〜494および406〜494からなる群より選択される、請求項1又は2のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項4】
前記N末端ペプチド及びC末端ペプチドが、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜173及び401〜494からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項5】
前記N末端およびC末端ペプチドが、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜160及び406〜494からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項6】
前記N末端ペプチド及びC末端ペプチドが、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列1〜137及び406〜494からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項7】
前記N末端ペプチド及びC末端ペプチドが、NH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOHペプチド配列からなる中間スペーサー鎖を介して互いに間接的に連結されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項8】
配列番号1の488位に位置するアスパラギンアミノ酸残基をセリンに置換する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項9】
前記化合物が、N末端に追加のメチオニン残基を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項10】
1種以上の薬学的に許容される賦形剤とともに、請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物を含む、医薬組成物。
【請求項11】
1種以上の抗原とともに、請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物を含む免疫原性組成物。
【請求項12】
1種以上の抗原とともに、請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物を含むワクチン組成物。
【請求項13】
前記免疫アジュバント化合物が、前記の1種以上の抗原に共有結合していない、請求項11に記載の免疫原性組成物又は請求項12に記載のワクチン組成物。
【請求項14】
医薬品として用いるための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物。
【請求項15】
医薬組成物を製造するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物の使用。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の免疫アジュバント化合物をコードする核酸。
【請求項17】
請求項16に記載の核酸が挿入されている、組換えベクター。
【請求項18】
請求項16に記載の核酸または請求項17に記載の組換えベクターでトランスフェクトまたは形質転換された宿主細胞。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2011−525371(P2011−525371A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515356(P2011−515356)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057836
【国際公開番号】WO2009/156405
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(510337562)インセルム(インスティチュート ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル) (1)
【出願人】(510337573)インスティチュート パスツール ドゥ リール (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057836
【国際公開番号】WO2009/156405
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(510337562)インセルム(インスティチュート ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル) (1)
【出願人】(510337573)インスティチュート パスツール ドゥ リール (1)
【Fターム(参考)】
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