説明

フラットハーネス

【課題】 フラットケーブルを固定部材に安価に且つ安定して固定する。
【解決手段】 フラットハーネスは、複数の導体が非極性ポリマーからなる絶縁被覆により覆われて平面状に並設されたフラットケーブル50と、このフラットケーブルが装着されるケーブル取付部を一方の面に有するプレート状の基台部20及びこの基台部の他方の面に突設されて固定部材に固定されるアンカー部10が一体的に形成された極性ポリマーからなるクリップ10と、フラットケーブル50のケーブル取付部に装着された部分を基台部20と共に封止してフラットケーブル50と基台部20とを固定するモールド部30とを備える。モールド部は、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、C9水添石油樹脂、アモルファスポリオレフィン及びスチレンエチレンプロピレンスチレンゴムを主成分とするホットメルト組成物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等に搭載される電装部品(補機)と、これらの間を接続するフラットケーブル(Flat Cable:FC)等から構成されるフラットハーネスに関し、特にフラットケーブルを固定部材に固定するためのクリップを備えたフラットハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等に用いられているワイヤハーネスをフレームやパネルなどの支持部材に固定するため、ケーブルクリップが使用されている。このケーブルクリップとしては、例えば丸型断面状のワイヤハーネスの外周面を当接させる固定部を備え、この固定部とワイヤハーネスとをテープで巻き付けてクリップを留めるタイプのいわゆるテープ留めクリップが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、テープの代わりに予め備えられたバンド部でワイヤハーネスをクリップに巻き付けて留めるタイプのいわゆるバンド留めクリップも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2002−345129号公報(第3−4頁、第1−7図)
【特許文献2】特開2002−252914号公報(第3−4頁、第1−7図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば特許文献1に記載のテープ留めクリップでは、複数のケーブルが平面状に並設されたいわゆるフラットケーブルを留める場合、テープ巻きの作業がやり辛いものとなり、ハーネスの被覆が難接着性のポリオレフィン系などのノンハロゲン材のときにはテープ自体が使用できない場合がある。このように、テープ留めの場合、テープ巻き作業の工数が掛かりコストが高くなると共に巻き付けるテープの材質を適宜厳選して使用する必要がある。
【0005】
また、例えば特許文献2に記載のバンド留めクリップでは、フラットケーブルを留めることもできるが、留める部分のフラットケーブルが安定して固定されずに丸まってしまうことが考えられ、省スペース性を向上させるフラットケーブルのコンセプトにそぐわない場合がある。
【0006】
この発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、固定部材に安価に、しかも安定して固定することができるフラットハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るフラットハーネスは、複数の導体が非極性ポリマーからなる絶縁被覆により覆われて平面状に並設されたフラットケーブルと、このフラットケーブルが装着されるケーブル取付部を一方の面に有するプレート状の基台部及びこの基台部の他方の面に突設されて固定部材に固定されるアンカー部が一体的に形成された極性ポリマーからなるクリップと、前記フラットケーブルの前記ケーブル取付部に装着された部分を前記基台部と共に封止して前記フラットケーブルと前記基台部とを固定するモールド部とを備え、前記モールド部が、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、C9水添石油樹脂、アモルファスポリオレフィン及びスチレンエチレンプロピレンスチレンゴムを主成分とするホットメルト組成物であることを特徴とする。
【0008】
本発明において、モールド部を形成するホットメルト組成物の各主成分の機能は、次の通りである。すなわち、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂は、本発明に係るモールド樹脂又はホットメルト組成物に極性を持たせるものである。本発明に係るモールド樹脂又はホットメルト組成物は、この樹脂を添加することによって、極性ポリマーであるとともに溶解性パラメーターがオレフィン系とは大きく離れているPBTやPAとも良好に接着することが可能となる。すなわち、マレイン酸変性ポリオレフィンは、オレフィン系のノンハロゲン材料に対する接着性を維持しつつ、通常ポリオレフィン系ホットメルト組成物では接着が困難なPBTやPAなどの極性ポリマーに対する接着性発現に大きく寄与するものである。また、C9水添石油樹脂は、その添加によりタック(初期粘着力)を発現させる機能があり、この機能により、PBTやPAなどの極性ポリマーに対する接着性向上にも大きく寄与することができる。さらに、C9水添石油樹脂は、マレイン酸変性ポリオレフィン等の材料に相溶してホットメルト組成物の溶融粘度を低下せしめ充填作業性を向上させ、かつ材料への濡れ性を発現させることができる。
【0009】
また、C9水添石油樹脂及びアモルファスポリオレフィンは、オレフィン系のベース材料であり、その溶解性パラメーターがオレフィン系のノンハロゲン材料に近いため、これらの樹脂によりオレフィン系のノンハロゲン材料に対する接着性を向上させることができる。また、スチレンエチレンプロピレンスチレンゴムは、熱衝撃性等を向上させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るフラットハーネスによれば、フラットケーブルが、クリップの基台部のケーブル取付部に取り付けられモールド部により基台部から外れないように固定されているので、フラットケーブルをフラットな状態に維持したままクリップを介して固定部材に固定することが可能となる。また、モールド部が、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、C9水添石油樹脂、アモルファスポリオレフィン及びスチレンエチレンプロピレンスチレンゴムを主成分とするホットメルト組成物であるマレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、C9水添石油樹脂、アモルファスポリオレフィン及びスチレンエチレンプロピレンスチレンゴムを主成分としているので、ポリオレフィン系材料などの非極性ポリマーとPBTやPAなどの極性ポリマーの両方に対する接着強度及び耐衝撃性が高く、フラットケーブルと基台部とを強固に固定することが可能になり、フラットケーブルを安定して固定部材に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して、この発明の好ましい実施の形態を説明する。
【0012】
図1及び図2は、この発明の一実施形態に係るフラットハーネスに使用されるクリップの外観斜視図である。
【0013】
図1及び図2に示すように、クリップ1は、PBTやPAなどの極性ポリマーにより形成されたものであり、自動車等に搭載された固定部材としての図示しない固定用パネルの固定穴などに挿入される。クリップ1は、一方の面20bにケーブル取付部22が形成されたプレート状の基台部20と、この基台部20の他方の面20aに突設されたアンカー部10とを一体に形成してなるものである。ケーブル取付部22は、基台部20の一方の面20bと、この面20bの両端に突設された一対の第1位置決めリブ21とにより構成されている。アンカー部10は、アンカー本体11と、このアンカー本体11の基端から斜め前方に延びる一対の押さえ板12a,12bとからなる。アンカー本体11は、先端側から基端側にかけて斜め後方に延びる一対の羽根部13a,13bを有し、これら羽根部13a,13bの自由端側には、挿入時に固定用パネルの固定穴周縁部に係合する段差部14a,14bがそれぞれ形成されている。押さえ板12a,12bは、アンカー本体11が固定穴へ挿入された時に固定用パネルと当接し、その弾性によってクリップ1の取付固定位置を保持するために設けられている。
【0014】
図3は、このクリップ1にフラットケーブル50を装着する様子を示す斜視図である。このフラットケーブル50は、例えばCu又はAlからなる丸型導体の単線や撚り線等の線材からなる導体52を、ポリエチレン(PE)及びポリオレフィン(PO)等の非極性ポリマーからなる絶縁被覆51で覆い、各絶縁被覆51間がそれぞれ互いに絶縁被覆51と同じく非極性ポリマーからなるブリッジ部51aにより結合されたフラットケーブル構造からなるものである。フラットケーブル50は、幅方向の両端が一対の第1位置決めリブ21の内側面21aに案内されてケーブル取付部22に装着される。そして、フラットケーブル50のケーブル取付部22に装着された部分は、図4及び図5に示すように、モールド部30によって基台部20の第1位置決めリブ21と共に封止されて本実施形態のフラットハーネスとなる。このように、このクリップ1を用いれば、フラットケーブル50をフラットな状態のまま固定することができると共に従来のテープ留めクリップなどと比較して固定作業を容易且つ安価に行うことができる。
【0015】
また、モールド部30は、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、C9水添石油樹脂、アモルファスポリオレフィン及びスチレンエチレンプロピレンスチレンゴムを主成分とするホットメルト組成物により形成されている。その物性については、後に詳細に述べるが、このモールド部30は、非極性ポリマー、極性ポリマーの両方に対して良好な接着性を有し、フラットケーブル50と基台部20の両方に対する高い接着性と耐衝撃性とを得ることができる。
【0016】
図6及び図7は、本発明の他の実施形態に係るフラットハーネスに使用されるクリップ1′を示す外観斜視図である。
【0017】
この実施形態のクリップ1′は、基台部20′のケーブル取付部22´が、複数の第1位置決めリブ21を備えると共に、これら第1位置決めリブ21間にフラットケーブル50′の各導体52の絶縁被覆51の被覆外周径に合わせて形成された複数の固定溝部23を備える点と、これら固定溝部23の間の部分にフラットケーブル50′の各導体52間のブリッジ部51aを貫通する複数の第2位置決めリブ24を備える点とが先の実施形態と相違している。また、フラットケーブル50′のブリッジ部51aの第2位置決めリブ24と対応する位置には、第2位置決めリブ24が挿通するスリット25(図8及び図9参照)が形成されている。
【0018】
フラットケーブル50′は、図8及び図9に示すように、ケーブル幅方向の両端部59が第1位置決めリブ21の内側面21aにそれぞれ位置決めされ、固定溝部23に各導体52の絶縁被覆51が嵌まると共にスリット部25に第2位置決めリブ24が挿通された状態でクリップ1′に装着される。
【0019】
このようにしてケーブル取付部22´に取り付けたフラットケーブル50′を、図9に示すように、ケーブル取付部22´の第1及び第2位置決めリブ21,24を包含する状態で樹脂でモールドし、形成されたモールド部30により基台部20′から外れないように固定すれば、フラットケーブル50′をフラットな状態のまま固定し、その固定状態を維持することができると共に固定作業を容易且つ安価に行い、フラットケーブル50′を支持部材に安価に固定することができる。なお、フラットケーブル50′の絶縁被覆51、クリップ1′及びモールド部30の材質は、先の実施形態のものと同様である。
【0020】
次に、以上の各実施形態での使用に適したホットメルト組成物の実施例について説明する。先ず、表1に示す樹脂1乃至5を2軸ニーダーを用いて200℃で溶融混練することによって実施例1乃至に係るホットメルト組成物を得た。なお、実施例及び比較例においてホットメルト組成物の溶融粘度は、JIS K 6862に基づいてブルックフィ−ルド形粘度計を用いて180℃で測定し、軟化点は、JIS K 6863に基づいて測定した。
【0021】
【表1】

【0022】
実験例1
次に、非極性ポリマーであるポリエチレン相互に対する実施例1乃至5に係るホットメルト組成物の接着性を検証するために、剥離試験をJIS K 6854(T型試験:剥離片はたわみ性材料同士)に基づいて行なった。剥離試験1は、初期状態で行なったものであり、剥離試験2は、120℃雰囲気下で24時間放置後、常温状態で行なったものであり、剥離試験3は、−40℃雰囲気下で24時間放置後の状態で行なったものであり、剥離試験4は、水中で沸騰1時間後の状態で行なったものである。これらの結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
次に、比較例1として、ポリエステル系ホットメルト組成物、比較例2としてポリアミド系ホットメルト組成物(TRL社製、テルメルト865)、比較例3としてポリオレフィン系ホットメルト組成物(商品名マクロメルト Q5353、ヘンケル社製)、及び比較例4としてポリアミド系ホットメルト組成物(旭化学合成製、RN−254)を用意し、これらについても実施例1乃至5に係るホットメルト組成物と同様に剥離試験を行なった。その結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
表2及び3から明らかなように、実施例1乃至5に係るホットメルト組成物の方が、比較例1乃至4に係るホットメルト組成物よりも非極性ポリマー相互に対する接着性が優れていることが分かる。
【0027】
実験例2
次に、極性ポリマーであるPBT相互に対する実施例1乃至5に係るホットメルト組成物の接着性を検証するために、実験例1と同様に剥離試験をJIS K 6854によって行なった。その結果を表4に示す。
【0028】
【表4】

【0029】
次に、実験例1で用いた比較例1乃至3に係るホットメルト組成物を用いても同様に2つのPBTの相互に対する接着性の試験を行なった。その結果を表5に示す。
【0030】
【表5】

【0031】
表2乃至表5から明らかなことは、比較例1,2は、極性ポリマーであるPBT相互に対する接着性については比較的良好な接着性を示したものの、非極性ポリマー相互の接着性に劣り、比較例3は、非極性ポリマー相互の接着性については比較的良好な接着性を示したものの、極性ポリマー相互の接着性は著しく劣っているという点である。また、比較例4については、非極性ポリマー相互の接着性に劣るものであった。これに対し、実施例1乃至5に係るホットメルト組成物は、比較例1乃至4に係るホットメルト組成物と比較して、極性ポリマー相互、及び非極性ポリマー相互の接着性が何れも遜色なく良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の一実施形態に係るクリップのケーブル取付部側から見た外観斜視図である。
【図2】同クリップのアンカー部側から見た外観斜視図である。
【図3】同クリップにケーブルを取り付ける状態を示す斜視図である。
【図4】同クリップにケーブルを固定した状態を示す斜視図である。
【図5】同クリップにケーブルを固定した状態の断面図である。
【図6】この発明の他の実施形態に係るクリップのケーブル取付部側から見た外観斜視図である。
【図7】同クリップのアンカー部側から見た外観斜視図である。
【図8】同クリップにケーブルを取り付ける状態を示す斜視図である。
【図9】同クリップにケーブルを固定した状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1,1′…ケーブルクリップ、10…アンカー部、11…アンカー本体、12a,12b…押さえ板、13a,13b…羽根部、14a,14b…段差部、20,20′…基台部、21…第1位置決めリブ、22,22′…ケーブル取付部、23…固定溝部、24…第2位置決めリブ、25…スリット部、30…モールド部、50,50′…フラットケーブル、51…絶縁被覆、51a…ブリッジ部、52…導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体が非極性ポリマーからなる絶縁被覆により覆われて平面状に並設されたフラットケーブルと、
このフラットケーブルが装着されるケーブル取付部を一方の面に有するプレート状の基台部及びこの基台部の他方の面に突設されて固定部材に固定されるアンカー部が一体的に形成された極性ポリマーからなるクリップと、
前記フラットケーブルの前記ケーブル取付部に装着された部分を前記基台部と共に封止して前記フラットケーブルと前記基台部とを固定するモールド部とを備え、
前記モールド部が、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、C9水添石油樹脂、アモルファスポリオレフィン及びスチレンエチレンプロピレンスチレンゴムを主成分とするホットメルト組成物である
ことを特徴とするフラットハーネス。
【請求項2】
前記マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂が5〜25重量%、前記C9水添石油樹脂が15〜50重量%、前記アモルファスポリオレフィンが30〜55重量%、及びスチレンエチレンプロピレンスチレンゴムが1〜20重量%であることを特徴とする請求項1記載のフラットハーネス。
【請求項3】
前記マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂が10〜20重量%、前記C9水添石油樹脂が35〜40重量%、前記アモルファスポリオレフィンが35〜50重量%、及びスチレンエチレンプロピレンスチレンゴムが5〜15重量%であることを特徴とする請求項1記載のフラットハーネス。
【請求項4】
前記基台部のケーブル取付部は、前記フラットケーブルのケーブル幅方向の両端部の位置を規定する第1位置決めリブを複数備える
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のフラットハーネス。
【請求項5】
前記基台部のケーブル取付部は、前記フラットケーブルを構成する各電線の被覆外周径に合わせて形成された複数の位置決め溝部を備える
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のフラットハーネス。
【請求項6】
前記フラットケーブルの前記ケーブル取付部に装着される部分の各電線間の絶縁被覆にはそれぞれスリットが形成され、
前記基台部のケーブル取付部は、前記フラットケーブルを装着したときに前記各スリットを貫通する第2位置決めリブを備えている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のフラットハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−14569(P2006−14569A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192235(P2004−192235)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】