説明

フラーレンベース材料の製造装置、及び、製造方法

【課題】フラーレンベース材料を分離精製するフラーレンベース材料の製造方法を提供する。
【解決手段】イオン性又は分極性のフラーレンベース材料7を、泳動液2中に分散させた後、前記泳動中で複数の電極3,4間に電圧を印加する電気泳動法を用いて、イオン性又は分極性のフラーレンベース材料7を精製する。溶媒に溶けにくいフラーレンベース材料7の効率的な精製を行うことができ、純度の高いフラーレンベース材料7の大量精製が可能になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンベース材料の分離精製に用いる製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来のフラーレンベース材料の精製方法)
フラーレンベース材料、例えば、内包フラーレンは、フラーレンに、アルカリ金属などの内包対象原子を内包した炭素クラスターで、エレクトロニクス、医療などへの応用が期待される材料である。内包フラーレンの製造方法としては、レーザー蒸発法、アーク放電法、イオン注入法、プラズマ照射法などの方法がある。
【0003】
これらの方法で製造された内包フラーレンを含む生成物の中には、内包フラーレン以外に、空のフラーレン、内包されなかった内包対象原子などが不純物として含まれている。そのため、高純度の内包フラーレンを製造するためには、内包フラーレンとこれらの不純物を分離し、内包フラーレンを精製する必要がある。
【0004】
内包フラーレンを精製する方法としては、特定の溶液に対する溶解度の差を利用する方法(溶媒抽出)、カラムの保持時間の差を利用する方法(液体クロマトグラフィー)、又は、溶媒抽出と液体クロマトグラフィーを組み合わせた方法が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「フラーレンの化学と物理」 篠原久典、斎藤弥八 名古屋大学出版会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(溶媒抽出)
フラーレンは一般に無極性溶媒(トルエン、ベンゼンなど)に可溶であり、極性溶媒(水、アルコールなど)に不溶性か難溶性を示す。一方、内包フラーレン、例えば、Li@C60はトルエンに対し難溶性を示す。内包フラーレンの生成物を粉末状にし、トルエンに混合攪拌した後、フィルターで濾過すると、生成物に含まれる空のフラーレンの多くがトルエンに溶解し、トルエンに溶けにくいLi@C60がフィルター内に残渣物として残るので、Li@C60を精製することができる。
【0007】
しかし、空のフラーレンの全てがトルエンに溶解するわけではなく、また、空のフラーレンを含むダイマーやトリマーがトルエンに溶けにくいため、残渣物から完全に空のフラーレンを除去することが困難である。溶媒抽出によれば、Li@C60などの内包フラーレンをせいぜい80%程度の純度までしか精製することができないという問題があった。
【0008】
(液体クロマトグラフィー) 液体クロマトグラフィーは、有機化学の分野で頻繁に使用される分離精製方法である。
液体クロマトグラフィー(オープンカラム液体クロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC))では、分離対象物質を溶媒(移動層)と共にカラム(固定相)の中を移動させる。分離対象物質と不純物で、固液界面でのカラムとの相互作用の違いにより溶出時間が異なる性質を利用して、分離対象物質と不純物を分離する。(非特許文献1)
【0009】
例えば、5PPBをカラムとして用い、ODCB(オルトジクロロベンゼン)を移動相として用いて、Li@C60を分離する場合は、C60が先に溶出し、Li@C60が後に溶出する。しかし、空のフラーレンを含むダイマーやトリマーもLi@C60と同じ時間に溶出するため、やはり、純度の高いLi@C60を精製するのが困難であるという問題があった。さらに、Li@C60のODCBに対する溶解度は十分高いものではなく、そのため移動相の溶媒に溶解し液体クロマトグラフィーで一度に精製できるLi@C60の量は極めて少なく、精製効率が悪いという問題があった。
【0010】
同様に、フラーレンベース材料の他の例として、窒素誘導ヘテロフラーレンC59Nに対し十分高い溶解度を持つ溶媒がみつかっていなかった。そのため、C59Nを液体クロマトグラフィーで効率よく精製することができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(1)は、泳動液の攪拌により前記泳動液中にフラーレンベース材料を含む炭素系物質を分散させた後に、前記泳動液中で複数の電極間に電圧を印加する電気泳動によりフラーレンベース材料を分離精製することを特徴とするフラーレンベース材料の製造方法である。
【0012】
本発明(2)は、超音波振動により前記泳動液を攪拌することを特徴とする前記発明(1)のフラーレンベース材料の製造方法である。
【0013】
本発明(3)は、前記電気泳動の前に、前記フラーレンベース材料を含む物質から未反応の反応対象原子を除去する前処理を行うことを特徴とする前記発明(1)又は前記発明(2)のフラーレンベース材料の製造方法である。
【0014】
本発明(4)は、前記前処理が、水又は酸による処理であることを特徴とする前記発明(3)のフラーレンベース材料の製造方法である。
【0015】
本発明(5)は、前記フラーレンベース材料が、内包フラーレン又はヘテロフラーレンであることを特徴とする前記発明(1)乃至前記発明(4)のフラーレンベース材料の製造方法である。
【0016】
本発明(6)は、前記フラーレンベース材料の原料となるフラーレンが、C60、C70又はこれらの混合フラーレンであることを特徴とする前記発明(5)のフラーレンベース材料の製造方法である。
【0017】
本発明(7)は、前記フラーレンベース材料が、Li@C60、Li@C70、C59N、又はC58BNであることを特徴とする前記発明(6)のフラーレンベース材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
(1)フラーレンベース材料を泳動液に分散して電気泳動により該フラーレンベース材料を分離精製できるので、溶媒に溶けにくいフラーレンベース材料でも高い効率で分離精製できる。
(2)直流電圧を電極に印加して電気泳動を行うことにより、イオン性のフラーレンベー
ス材料を高い効率で分離精製できる。
(3)交流電圧を電極に印加して電気泳動を行うことにより、分極性のフラーレンベース
材料を高い効率で分離精製できる。
(4)電気泳動の前にフラーレンベース材料を入れた泳動液を超音波振動で攪拌することにより、フラーレンベース材料が泳動液中に均一に分散するので、電極上に集積するフラーレンベース材料が増え、フラーレンベース材料の回収効率が向上する。
(5)電気泳動と同時に泳動液を超音波振動で攪拌し続けることにより、電気泳動中のフラーレンベース材料の沈殿を防止でき、フラーレンベース材料の回収効率が向上する。
(6)電気泳動の前に水又は酸による処理などの前処理を行い、未反応の反応対象原子を除去することにより、不要なイオンがフラーレンベース材料と同時に電極上に集積することを防止できる。
(7)フラーレンベース材料を泳動液に分散して電気泳動により該フラーレンベース材料を分離精製できるので、溶媒に溶けにくいLi@C60、Li@C70、C59N、又はC58BNなどエレクトロニクスや医療分野での応用が期待される工業材料の効率的な製造が可能になる。
(8)C60、C70又はこれらの混合フラーレンは、他の高次フラーレンと比較して入手が容易でかつ安価である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のフラーレンベース材料の精製装置の断面図である。
【図2】(a)乃至(c)は、直流電気泳動によりフラーレンベース材料を精製する本発明の製造方法に係る工程順断面図である。
【図3】(a)乃至(c)は、交流電気泳動によりフラーレンベース材料を精製する本発明の製造方法に係る工程順断面図である。
【図4】フラーレンベース材料の製造装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の最良形態について説明する。
【0021】
本発明の請求項1は、泳動液を入れる容器と、前記泳動液の攪拌手段と、前記容器内で互いに向き合う位置に配置された複数の電極と、前記電極間に電圧を印加する電源とを有し、前記泳動液中に分散させたフラーレンベース材料を含む物質から電気泳動によりフラーレンベース材料を分離精製することを特徴とするフラーレンベース材料の製造装置である。
【0022】
(フラーレン、フラーレンベース材料、混合フラーレン)
本明細書中で、「フラーレン」とは、Cn(n=60, 70, 76, 78・・・)で示される中空の炭素クラスター物質であり、例えば、C60やC70を挙げることができる。また、「フラーレンベース材料」とは、フラーレンをベースにして製造した材料のことであり、内包フラーレン、ヘテロフラーレン、化学修飾フラーレン、フラーレン重合体、フラーレンポリマーを含むものとする。
「内包フラーレン」とは、篭状のフラーレン分子の中空部に原子が一個又は複数個閉じ込められたフラーレンのことであり、フラーレンに内包される原子としては、Li、Naなどのアルカリ金属、Ca、Srなどのアルカリ土類金属、Fe、Coなどの遷移金属、Fなどのハロゲン元素が挙げられる。
「ヘテロフラーレン」とは、フラーレン分子を構成する一つ又は複数の炭素原子を炭素以外の原子で置き換えたフラーレンのことであり、炭素原子を置換する原子としては、窒素、ボロンが挙げられる。
「反応対象原子」とは、フラーレンと反応してフラーレンベース材料を生成する原料となる原子のことであり、例えば、内包フラーレンにおける内包対象原子、ヘテロフラーレンにおける置換原子が該当する。
また、原料となるフラーレンとして、混合フラーレンを用いることも可能である。「混合フラーレン」とは、種類の異なる複数のフラーレンが混合した炭素クラスター物質のことである。抵抗加熱法やアーク放電法でフラーレンを製造する場合、生成されたフラーレンの中で、重量比にして、70〜85%がC60、10〜15%がC70、残りがC76、C78、C84などの高次フラーレンとなる。燃焼法によるフラーレンの製造においても、C60、C70の重量比は高次フラーレンよりも大きい。従って、C60、C70は、他の高次フラーレンと比較して入手が容易でかつ安価である。また、C60とC70からなる混合フラーレンも、フロンティアカーボンなどから市販されており、容易に入手してフラーレンベース材料の製造に利
用することができる。
さらに、原料となるフラーレンには、酸化フラーレンを含むものとする。酸化フラーレンは、フラーレンをプラズマ処理し、例えば内包フラーレンなどのフラーレンベース材料を製造するときに大量に合成される副生成物であり、これを再利用して、産業上より価値の高いフラーレンベース材料を製造することが可能である。
【0023】
本発明の請求項8は、前記前処理が、水又は酸による処理であることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項記載のフラーレンベース材料の製造方法である。
【0024】
ここで、「水又は酸による処理」とは、内包フラーレンの生成物に含まれるアルカリ金属などの内包されなかった内包対象原子を除去するために行う処理である。水としては、純水又は精製水など不純物の少ない水を使用し、酸としては、アルカリ金属を溶解(反応して溶解する場合も含む)する酸であって、量産工程で使用する場合は、安全性の高い酸を使用するのが好ましい。例えば、希塩酸などを使用することが可能である。ここにいう「処理」とは、生成物を粉末状にした後、水又は酸に混合攪拌し、又は、水又は酸により洗浄し、フィルターで濾過して、残渣物を回収する工程のことである。水又は酸以外にも、アルカリ金属などの内包対象原子を溶解し、内包フラーレンを溶解しない液体であれば、本発明に係る電気泳動による精製工程の前処理に用いることが可能である。
【0025】
以下、本明細書中で使用される他の用語についても、その意義を明らかにする。「空のフラーレン」とは、フラーレン分子を構成する原子が全て炭素原子から構成されており、フラーレン分子の中空部に原子が内包されていないフラーレンのことである。
【0026】
2分子以上が重合又は結合した分子のことを「重合体」という。
「モノマー」とは、重合体の構成単位となる分子で、他の分子と重合していない分子(単量体)のことである。例えば、フラーレンC60、内包フラーレンLi@ C60はモノマーである。
「ダイマー」とは、2個のモノマーが重合又は結合した分子であり、(C60)2、(Li@ C60)2、(C60)-( Li@ C60)はダイマーである。
「トリマー」とは、3個のモノマーが重合又は結合した分子であり、(C60)3、(Li@ C60)3、(C60) (Li@ C60)2、(C60)2
(Li@ C60)はトリマーである。
【0027】
「生成物」とは、レーザー蒸発法、アーク放電法、イオン注入法、プラズマ照射法などにより製造された未精製のフラーレンベース材料のことを言う。生成物の中には、フラーレンベース材料以外に空のフラーレンなどの不純物が含まれている。
「精製物」とは、精製を行い、純度を向上したフラーレンベース材料のことを言う。純度が100%でない場合も含め、精製物と言う。
【0028】
「不純物」とは、フラーレンベース材料のモノマー、及び、フラーレンベース材料を含む重合体以外の物質のことである。フラーレンベース材料を、例えば、プラズマ照射法で製造すると、生成された物質の中に、フラーレンと反応しなかった反応対象原子、フラーレンが分解して生成された質量数の小さい炭素化合物、空のフラーレンのモノマー、ダイマー、トリマーが含まれる可能性があり、これらの物質は、いずれも、フラーレンベース材料の製造における不純物に該当する。
【0029】
(フラーレンベース材料の製造方法)
本発明に係るフラーレンベース材料は、例えば、真空容器中で加熱した熱電離プレートに対し反応対象原子蒸気を噴射してプラズマ流を発生させ、発生したプラズマ流をプラズマ流の下流に配置した堆積基板に照射し、フラーレンベース材料を堆積させる方法により
製造可能である。
【0030】
例えば、本発明に係るフラーレンベース材料は、図4に示す製造装置で製造することが可能である。フラーレンベース材料の製造装置は、プラズマ発生部、フラーレン導入部、フラーレンベース材料堆積部を有する管状の真空容器31、真空容器31を排気する真空ポンプ32、プラズマを閉じ込めるための電磁コイル33により構成される。最初に、Liなどの反応対象原子材料をオーブン36で加熱し昇華させる。発生した反応対象原子蒸気をプラズマ発生部に導入管37を通して導入し、熱電離プレート35上で反応対象原子プラズマを発生させる。発生した反応対象原子プラズマは、均一磁場に沿って管軸方向に流れる。フラーレン導入部において、オーブン38によりC60などのフラーレンを昇華させた蒸気をプラズマ流に対し噴射することにより、プラズマ流を構成する電子がC60に付着してC60の負イオンが発生する。反応対象原子の正イオンと発生したC60の負イオンからなるプラズマ流は、フラーレンベース材料堆積部において、バイアス電源41により正のバイアス電圧を印加した堆積基板40前面で衝突し、堆積基板40表面にフラーレンベース材料が堆積する。
【0031】
(水又は酸による処理)
図4に示す装置で生成した堆積膜を堆積基板から剥離し、すりつぶして粉末状にする。堆積膜は、フラーレンベース材料以外に空のフラーレン、未反応の反応対象原子などの不純物を含む。反応対象原子として、特に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を用いた場合は、泳動液中でイオン化したときに、フラーレンベース材料及び反応対象原子はいずれも正イオンになりやすい。従って、本発明に係る電気泳動を用いた精製を行う前に、予め、水又は酸による処理を行い、未反応の反応対象原子を除去しておくのが好ましい。反応対象原子は水又は酸に溶解しやすいのに対し、フラーレンベース材料は水又は酸に溶解しにくいので、水又は酸による処理を行うことにより反応対象原子を選択的に除去することができる。予め反応対象原子を除去しておくことにより、電気泳動による分離精製工程において、電極上で回収されるフラーレンベース材料の純度を向上することが可能になる。
【0032】
(精製方法)
図1は、本発明のフラーレンベース材料を分離精製する精製装置の断面図である。
精製装置は、容器1、容器1に取り付けた超音波振動用の圧電体5、圧電体5を駆動する電源6、容器1内に対向して配置した2個の電極3、4、電極3、4に直流又は交流電圧を印加する電源9により構成される。精製は、容器1に泳動液2を入れて、泳動液2の中にフラーレンベース材料生成物の粉末7、8を入れる。超音波振動で泳動液2を攪拌して、泳動液2中に粉末を構成するフラーレンベース材料分子7と空のフラーレンなどの不純物8を分散させる。電極3、4間に直流電圧又は交流電圧を印加して、電気泳動を行う。電気泳動中には、超音波振動を停止してもよいし、振動を続けてもよい。
【0033】
精製するフラーレンベース材料がイオン性の物質である場合は、直流電気泳動により分離精製を行うことができる。フラーレンベース材料が正イオンになる場合は、負電極に集積する。また、フラーレンベース材料が負イオンになる場合は、正電極に集積する。
【0034】
精製するフラーレンベース材料が分極性の物質である場合は、交流電気泳動により分離精製を行うことができる。特に、フラーレンベース材料が内包フラーレンである場合は、フラーレン分子内で内包原子が局在することでフラーレンベース材料が分極する。一方、不純物である空のフラーレンは内包原子がなく、対称性の高い分子であるため分極しない。そのため、電気泳動により交流電界を印加すると、分極したフラーレンベース材料は電極上に集積する。一方、不純物は電極上に集積せず、泳動液中に分散されたままで、一部の不純物は超音波振動を停止すると容器底部に沈殿する。
【0035】
(泳動液)
泳動液としてはフラーレンベース材料生成物を構成するカーボン物質混合物を分散でき、カーボン物質混合物がその液中で電気泳動する溶媒であれば何でも利用できる。該溶媒としては、水性溶媒や有機溶媒又はそれらの混合溶媒が利用でき、例えば、水、酸性溶液、アルカリ性溶液、アルコール、エーテル、石油エーテル、ベンゼン、酢酸エチル、クロロホルム等公知の溶媒が利用できる。より具体的には、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトニトリル、エチルアルコール、アセトン、トルエン等の汎用の有機溶媒が利用できる。
【0036】
(直流電気泳動)
図2(a)乃至(c)は、直流電気泳動によりフラーレンベース材料を精製する本発明の製造方法に係る工程順断面図である。
【0037】
泳動液11の中に、フラーレンベース材料14と不純物15からなる生成物の粉末を入れる(図2(a))。フラーレンベース材料14は、例えば、Li内包フラーレンであり、不純物15は、例えば、空のフラーレンである。圧電体16により泳動液11に超音波振動を与える。フラーレンベース材料14、不純物15などの粒子は泳動液11中に分散する(図2(b))。電極12、13間には、電極12が負極、電極13が正極となるように直流電圧を印加する。電子の移動により、フラーレンベース材料14は正イオンになり、空のフラーレン15は負イオンになる。電気泳動を十分な時間行った後に、正イオンは負極12側に集積し、負イオンは正極13側に集積する(図2(c))。
【0038】
電気泳動の間、超音波攪拌を弱い強度で継続すると粒子が容器底部に沈殿しにくいので、フラーレンベース材料の回収効率が向上する。フラーレンベース材料が正イオンになる場合は、負極を取り出し乾燥させ、負極表面に集積した物質を剥離することによりフラーレンベース材料を回収できる。空のフラーレンは正極側に集積するので、正極を乾燥し、表面に集積した物質を剥離することにより回収できる。空のフラーレンは、例えば、フラーレンベース材料生成の原料として再利用することができる。
【0039】
(交流電気泳動)
図3(a)乃至(c)は、交流電気泳動によりフラーレンベース材料を精製する本発明の製造方法に係る工程順断面図である。
【0040】
泳動液21の中に、フラーレンベース材料24と不純物25からなる生成物の粉末を入れる(図3(a))。フラーレンベース材料24は、例えば、Li内包フラーレンであり、不純物25は、例えば、空のフラーレンである。圧電体26により泳動液21に超音波振動を与える。フラーレンベース材料24、不純物25などの粒子は泳動液21中に分散する(図3(b))。電極22、23間に交流電圧を印加する。フラーレンベース材料は分極し、泳動液21中で電極22又は23に向かって移動する。一方、空のフラーレン25は分極しないので、泳動液21中に分散された状態を維持する(図3(c))。電気泳動を十分な時間行った後に、超音波攪拌を停止すると、フラーレンベース材料は電極12又は電極13に集積する。一方、空のフラーレン25は一部が泳動液に溶解し、一部が容器の底部に沈殿する。
【0041】
電気泳動の間、超音波攪拌を弱い強度で継続すると生成物の粒子が容器底部に沈殿しにくいので、フラーレンベース材料の回収効率が向上する。電極を取り出し乾燥させ、電極表面に集積した物質を剥離することによりフラーレンベース材料を回収できる。一方、泳動液をフィルターで濾過し、残渣物を取り出すことにより、空のフラーレンを回収できる。空のフラーレンは、例えば、フラーレンベース材料生成の原料として再利用することができる。
【0042】
交流電気泳動の周波数は10Hzから10MHzの範囲とするのが好ましい。特に、1kHzから10MHzの高周波を印加するのが好ましい。この周波数範囲にすることにより、特に、フラーレンベース材料の純度を高くすることができる。
【実施例】
【0043】
(Li内包フラーレンの生成)
Liを内包した内包フラーレンの製造に、円筒形状のステンレス製容器の周囲に電磁コイルを配置した構造の、図4に示す構成の製造装置を用いた。使用原料であるLiは、アルドリッチ製の同位体に関し未精製のLiを用い、また、使用原料であるC60は、フロンティアカーボン製のC60を用いた。真空容器31を真空度4.2×10-5Paに排気し、電磁コイル33により、磁場強度0.2Tの磁界を発生させた。内包原子昇華オーブン36に固体状のLiを充填し、480℃の温度に加熱してLiを昇華させ、Li ガスを発生させた。発生したLi ガスを500℃に加熱したガス導入管37を通して導入し、2500℃に加熱した熱電離プレート35に噴射した。Li蒸気が熱電離プレート35表面で電離し、Liの正イオンと電子からなるプラズマ流が発生した。さらに、発生したプラズマ流に、フラーレンオーブン38で610℃に加熱、昇華させたC60蒸気を導入した。プラズマ流と接触する堆積基板40に+10Vのバイアス電圧を印加し、堆積基板40表面に内包フラーレンを含む薄膜を堆積した。約1時間の堆積を行い、厚さ0.9μmの薄膜が堆積した。
【0044】
(希塩酸処理)
堆積基板上に堆積した薄膜を堆積基板から剥離して、粉末状にした内包フラーレン生成物(約5mg)を、500mlの希塩酸に混合し、超音波攪拌を10分間おこなった。攪拌後、常温で1時間静置し、メンブレンフィルターで濾過し、フィルターに残った残渣物を回収した。回収した残渣物を乾燥させ、すりつぶして生成物の粉末を約4mg得た。
【0045】
(Li内包フラーレンの分離精製)
希塩酸処理により、フラーレンに内包されなかったLiを除去した生成物の粉末を、図1に示す精製装置を用いて、AC電気泳動法により分離精製し、高純度のLi内包フラーレンを回収した。
【0046】
円筒形の容器1には100mlのIPAからなる泳動液2を入れた。泳動液2の中には、2個のAl電極3、4を対向して配置した。電極3、4の間隔は0.8mmとした。電極の対向面の面積は3cm×3cmであった。分離精製は、特に加熱や冷却を行わず、約25℃の室温中で行った。泳動液2の中に希塩酸処理済みの生成物の粉末を入れて、まず、圧電体5により泳動液2に対し10分間の超音波振動を与え、泳動液2を攪拌し、泳動液2中に内包フラーレン7と不純物8を分散させた。分散工程は、超音波振動の相対強度を10にして泳動液2の攪拌を行った。次に、超音波振動の相対強度を2に弱めて、電極3、4間に交流電圧を1時間印加し、電気泳動を行った。交流電圧の振幅Vp-pは10Vで、周波数は10MHzとした。電気泳動中、徐々に電極表面の色が茶褐色に変化していった。電極に対する交流電圧印加を停止し、同時に超音波振動も停止し、10分間精製装置を静止させた。10分間の静止の後、容器底部に黒褐色の粉末が沈殿した。
【0047】
(質量分析)
精製装置の電極を泳動液から取り出して乾燥させ、電極上に堆積した茶褐色の物質を剥離し、物質Aとして回収した。また、泳動液をメンブレンフィルターで濾過して、フィルターに残った黒褐色の残渣物を乾燥させ、物質Bとして回収した。回収した物質Aと物質Bに対しレーザー脱離質量分析により組成分析を行った。物質Aでは、質量数727のピークが質量数720のピークに対し、相対強度95:5の割合で現れた。質量数727のピークはLi@C60に対応し、質量数720のピークはC60に対応するので、精製装置により純度95%のLi内包フラーレンが精製できたことが確認された。一方、物質Bでは、質量数727のピークが質量数720のピークに対し、相対強度10:90の割合で現れた。物質Bの中に含まれるLi内包フラーレンの量が少ないことが確認でき、本発明に係る精製方法によりLi内包フラーレンを効率的に回収できることが確認できた。
【符号の説明】
【0048】
1 容器
2、11、21 有機溶媒
3、4、12、13、22、23 電極
5、16、26 圧電体
6 超音波駆動用電源
7、14、24 内包フラーレン
8、15、25 空のフラーレン
9 分離精製用電源
31 真空容器
32 真空ポンプ
33 電磁コイル
34 加熱フィラメント
35 熱電離プレート
36 反応対象原子昇華オーブン
37 反応対象原子蒸気導入管
38 フラーレン昇華オーブン
39 再昇華用円筒
40 堆積基板
41 バイアス電圧印加電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
泳動液の攪拌により前記泳動液中にフラーレンベース材料を含む炭素系物質を分散させた後に、前記泳動液中で複数の電極間に電圧を印加する電気泳動によりフラーレンベース材料を分離精製することを特徴とするフラーレンベース材料の製造方法。
【請求項2】
超音波振動により前記泳動液を攪拌することを特徴とする請求項1記載のフラーレンベース材料の製造方法。
【請求項3】
前記電気泳動の前に、前記フラーレンベース材料を含む物質から未反応の反応対象原子を除去する前処理を行うことを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項記載のフラーレンベース材料の製造方法。
【請求項4】
前記前処理が、水又は酸による処理であることを特徴とする請求項3記載のフラーレンベース材料の製造方法。
【請求項5】
前記フラーレンベース材料が、内包フラーレン又はヘテロフラーレンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のフラーレンベース材料の製造方法。
【請求項6】
前記フラーレンベース材料の原料となるフラーレンが、C60、C70又はこれらの混合フラーレンであることを特徴とする請求項5記載のフラーレンベース材料の製造方法。
【請求項7】
前記フラーレンベース材料が、Li@C60、Li@C70、C59N、又はC58BNであることを特徴とする請求項6記載のフラーレンベース材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−51794(P2012−51794A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233394(P2011−233394)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【分割の表示】特願2006−5983(P2006−5983)の分割
【原出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(510179238)
【Fターム(参考)】