説明

フラーレン類の水分散方法

【課題】 安全性の高いフラーレン類の水分散方法を提供する。
【解決手段】 単糖又は少糖の結晶と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加するフラーレン類の水分散方法であって、フラーレン類が水酸化フラーレンであるフラーレン類の水分散方法。単糖又は少糖には、ショ糖、グルコース等を、界面活性剤には、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を使用できる。単糖又は少糖の結晶に代えて、水溶性糖類とKBr、NaCl等の無機塩とを使用することによりフラーレン類水分散液を製造することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン類を安定に水に分散させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素原子が中空の球状に結合してなるフラーレン(C60等)は、機能性材料として注目され、電子材料や触媒材料、医薬品の分野等において様々な研究がなされている。フラーレンの生産量は年々増加しており、その一方で廃棄量も増加していることから、生体や生態系に及ぼす影響について調査することが社会的に要請されている。
【0003】
化学物質の急性毒性試験や生体濃縮試験においては、試験物質を適当な濃度に溶解又は分散させた試験溶液を調製し、試験溶液中で所定の濃度を保ちながら魚介類を飼育することが一般に行われている。
【0004】
フラーレンは骨格が炭素で形成されているため水に対する親和性が低く、一般的な固体微粒子の分散方法である超音波照射や界面活性剤を添加する方法を適用してもフラーレン同士が凝集してしまい、水中に分散させることはできない。
【0005】
従来用いられているフラーレン水分散液の調製法には、フラーレンのベンゼン飽和溶液をTHF又はアセトンで希釈し、水を加えた後ベンゼン等の有機溶媒を留去する方法、フラーレンのトルエン溶液に水を加え、超音波照射と同時にトルエンを留去する方法、水に可溶な有機溶媒にフラーレンを溶解して水と混合した後、溶媒を除去する方法等がある(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、これらはいずれもフラーレンが分散した有機溶媒を水に分散させた後有機溶媒を留去又は除去する方法である。これらの方法により調製したフラーレン水分散液は、有機溶媒を完全に除去することが困難であり、急性毒性試験や生体濃縮試験に用いるに際しては水中に残存する溶剤の影響が懸念される。
【0007】
また、上記生物試験の用途以外にもフラーレンの水分散液は各種工業用途に使用されることが期待される。
【0008】
なお、フラーレンと同様な分子構造物として水酸化フラーレンがある。この水酸化フラーレンは、フラーレンと同様に骨格が炭素で形成されており、フラーレン類に含まれるが、水酸基(OH)を有するため水に対する親和性が高い。しかし、水酸化フラーレンも、水への分散性、急性毒性試験、生体濃縮試験について、フラーレンと同様の問題がある。
【特許文献1】特開2001−348214号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0003])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等が属する研究グループは、上記課題について検討を行ったところ、フラーレンに、界面活性剤と、所定の糖類と、必要により無機塩の結晶とを加えて擂潰した後、水を加えることにより、有機溶媒を使用することなくフラーレンが均一に分散したフラーレン水分散液が得られることを見出し、先に出願した(特願2005−250690)。
【0010】
本発明者等は更に検討を重ねたところ、フラーレンばかりでなく水酸化フラーレンにも、上記分散方法を適用できることを見出した。また、得られた水分散液を所定条件で圧熱処理するにより、フラーレン及び/又は水酸化フラーレン等のフラーレン類が更に均一に分散したフラーレン類水分散液が得られることを見出し本発明を完成するに到った。
【0011】
本発明の目的は、有機溶媒を使用することなく生体に安全な分散助剤を使用してフラーレン類を水中に分散させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
【0013】
〔1〕 単糖又は少糖の結晶と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加するフラーレン類の水分散方法であって、フラーレン類が水酸化フラーレンであるフラーレン類の水分散方法。
【0014】
〔2〕 単糖又は少糖が、ショ糖又はグルコースである〔1〕に記載のフラーレン類の水分散方法。
【0015】
〔3〕 界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである〔1〕に記載のフラーレン類の水分散方法。
【0016】
〔4〕 無機塩の結晶と、水溶性糖類と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加するフラーレン類の水分散方法であって、フラーレン類が水酸化フラーレンであるフラーレン類の水分散方法。
【0017】
〔5〕 無機塩がKBr又はNaClである〔4〕に記載のフラーレン類の水分散方法。
【0018】
〔6〕 水溶性糖類が、ショ糖又はグルコースである〔4〕に記載のフラーレン類の水分散方法。
【0019】
〔7〕 界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである〔4〕に記載のフラーレン類の水分散方法。
【0020】
〔8〕 単糖又は少糖の結晶と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加してフラーレン類の水分散液を得、次いで前記水分散液を圧力0kPa(ゲージ圧)以上、温度80℃以上で10分以上、圧熱処理するフラーレン類の水分散方法。
【0021】
〔9〕 無機塩の結晶と、水溶性糖類と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加してフラーレン類の水分散液を得、次いで前記水分散液を圧力0kPa(ゲージ圧)以上、温度80℃以上で10分以上、圧熱処理するフラーレン類の水分散方法。
【0022】
〔10〕 水溶性多糖と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加してフラーレン類の水分散液を得、次いで前記水分散液を圧力0kPa(ゲージ圧)以上、温度80℃以上で10分以上、圧熱処理するフラーレン類の水分散方法であって、フラーレン類がフラーレンであるフラーレン類の水分散方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、非イオン又は陰イオン界面活性剤と糖類とを分散助剤として使用し、あるいはこれらの分散助剤と共に必要により無機塩の結晶を使用してフラーレン類分散液を得るフラーレン類の水分散方法であって、フラーレン類が水酸化フラーレンである水分散方法である。
【0024】
上記方法により得られるフラーレン類の分散液は、分散助剤として有機溶媒を使用せず、生体に対する毒性が低い非イオン界面活性剤を使用する場合には生体に対する安全性が問題となる添加物を含まないので、急性毒性試験等の試験に使用できる。本発明によれば、上記方法により得られるフラーレン及び/又は水酸化フラーレン等のフラーレン類の分散液を所定条件で圧熱処理しているので、フラーレン類が更に均一に分散したフラーレン類水分散液が得られる。
【0025】
本発明により得られるフラーレン類水分散液は分散安定性が高いので各種の分野において利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明で使用するフラーレン類は、その骨格中の炭素原子が、60、70等、籠状に結合して中空構造を形成したもので、局所的変形構造体や中空部にイオン種を導入したもの、炭素原子の一部を他の原子により置換したものや官能基を結合させたもの等の誘導体も包含される。
【0027】
これらフラーレン類のうちで、炭素数60のフラーレン(C60フラーレン)及び水酸化フラーレン(C60水酸化フラーレン)、炭素数70のフラーレン(C70フラーレン)、並びに、それらの混合物が好ましい。なお、これらフラーレン類の混合比率は、適宜選択される。
【0028】
(第1の水分散方法)
本発明第1の水分散方法は、単糖又は少糖の結晶と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加することによりフラーレン類を水に分散させる方法である。
【0029】
界面活性剤としては、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤が使用できる。これらのうち、生物試験に用いる分散液を調製する場合は生体に対する安全性の観点から非イオン界面活性剤を使用することが好ましい。
【0030】
界面活性剤の使用量は、フラーレン類100質量部に対して100質量部以上とするが、好ましくは150質量部以上である。界面活性剤の使用量に上限はないが、溶液粘度の増加を抑制する観点から、好ましい使用量はフラーレン類100質量部に対し5000質量部程度までである。
【0031】
糖類としては、単糖又は少糖であって、その形態が結晶を形成しているものであればよく、具体的には、グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖;ショ糖、マルトース、ラクトース等の少糖を挙げることができる。
【0032】
なお、単糖又は少糖の結晶は、フラーレン類の分散助剤としての作用に加えて擂潰に際してはフラーレン類を細粒化する作用を有している。結晶を形成している単糖又は少糖を使用する場合であっても、吸湿性が高い結晶の場合には、擂潰するうちに吸湿によりフラーレン類を細粒化する作用効果が喪失してしまう場合があるので、この場合には乾燥雰囲気で擂潰を行うか、後述する第3の水分散方法に記載の無機塩と共に擂潰することが望ましい。
【0033】
単糖又は少糖の使用量は、フラーレン類100質量部に対して100質量部以上とするが、150質量部以上とすることが好ましい。単糖又は少糖の使用量に特に上限はないが、水に対する溶解度から実際に可能な使用量は10000質量部程度までである。
【0034】
水分散液中のフラーレン類の分散性を更に良好にするには、水分散液を圧力0kPa(ゲージ)以上、温度80℃以上で10分以上、圧熱処理することが好ましく、圧力0〜0.235kPa(ゲージ)、温度80〜140℃で10〜60分、圧熱処理することがより好ましい。この圧熱処理により粒度分布は小さい方に移動する。
【0035】
(第2の水分散方法)
本発明第2の水分散方法は、水溶性多糖と、フラーレンと、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加するフラーレン類の水分散方法である。
【0036】
界面活性剤の種類、使用量は上述した第1の水分散方法と同様である。
【0037】
第2の水分散方法において使用する水溶性多糖は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース等が例示できる。
【0038】
水溶性多糖の使用量は、フラーレン100質量部に対し、100質量部以上とするが、150質量部以上とすることが好ましい。水溶性多糖の使用量に上限はないが、粘度の上昇を抑制する観点から5000質量部程度までとすることが好ましい。
【0039】
なお、水溶性多糖と、水酸化フラーレンと、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加して得られるフラーレン類水分散液は、分散性が良好ではない場合があるので、水溶性多糖との混合条件においては、フラーレン類として水酸化フラーレンを使用することが好ましくない場合もある。
【0040】
水分散液中の水酸化フラーレンの分散性を良好にするには、及び/又は、水分散液中のフラーレンの分散性を更に良好にするには、水分散液を圧力0kPa(ゲージ)以上、温度80℃以上で10分以上、圧熱処理することが好ましく、圧力0〜0.235kPa(ゲージ)、温度80〜140℃で10〜60分、圧熱処理することがより好ましい。この圧熱処理により粒度分布は小さい方に移動する。
【0041】
(第3の水分散方法)
本発明第3の水分散方法は、無機塩の結晶と、水溶性糖類と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加するフラーレン類の水分散方法である。
【0042】
界面活性剤の種類、使用量は上述した第1の水分散方法と同様である。
【0043】
第3の水分散方法において使用する水溶性糖類は、結晶性糖類と非晶性糖類の両方を含む。結晶性糖類としては第1の水分散方法において例示した単糖及び少糖を、非晶性糖類としては、第2の水分散方法において例示した多糖や市販の上白糖(主成分としてショ糖を含む)を挙げることができる。第3の水分散方法において使用する水溶性糖類としては、水に溶解する糖類であればその結晶性や形態を制限することなく公知の糖類を使用できる。
【0044】
水溶性糖類の使用量は、フラーレン類100質量部に対し、100質量部以上とするが、150質量部以上とすることが好ましい。水溶性多糖の使用量に特に上限はないが、水溶性糖類の溶解度の観点から実際に添加できる量は5000質量部程度までである。
【0045】
無機塩としては結晶性のものが使用でき、例えば、KBr、NaCl等を挙げることができる。
【0046】
無機塩の使用量は、フラーレン類100質量部に対し、100質量部以上とするが、150質量部以上とすることが好ましい。無機塩の使用量に特に上限はないが、溶解度等の観点から実際に使用できる無機塩の量は5000質量部程度までである。
【0047】
水分散液中のフラーレン類の分散性を更に良好にするには、水分散液を圧力0kPa(ゲージ)以上、温度80℃以上で10分以上、圧熱処理することが好ましく、圧力0〜0.235kPa(ゲージ)、温度80〜140℃で10〜60分、圧熱処理することがより好ましい。この圧熱処理により粒度分布は小さい方に移動する。
【0048】
本発明においては、フラーレン類と、上述した界面活性剤と、上記第1〜第3の水分散方法に応じて適宜選択した糖類と、必要により無機塩とを擂潰し、これらの擂潰混合物に水を添加することにより分散性の良好なフラーレン類水分散液を得ることができる。擂潰は公知の擂潰機で最終的にこれらの成分が混合した擂潰混合物が得られるように行えばよく、各成分を擂潰する順序は特に問わないが、第1の水分散方法と第3の水分散方法においては、最初にフラーレン類と単糖若しくは少糖の結晶又は無機塩とを擂潰した後、他の成分を加えて擂潰することが作業効率の観点から望ましい。
【0049】
擂潰条件は特に制限がないが、市販の擂潰機を使用して通常の条件で15〜120分、好ましくは30〜60分擂潰する方法が例示できる。
【0050】
本発明により調製できるフラーレン類水分散液におけるフラーレン類の濃度の上限値は、使用する糖や界面活性剤の種類、添加量等の条件により異なるが、およそ5g/L程度である。
【実施例】
【0051】
実施例1
2gの氷砂糖を攪拌擂潰機(石川工場製)で約10分間擂り潰した。更に、C60フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製、ナノムパープルN60)0.1gとKBr2gとを加え、15分間擂潰した。その後、2gの非イオン界面活性剤(HCO−40、日光ケミカルズ社製)を加え、30分間擂潰した。この擂潰混合物にフラーレンの濃度が500mg/Lとなるようにイオン交換水を加え、フラーレン水分散液を調製した。
【0052】
使用した界面活性剤HCO−40は、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド(EO)40モル付加物である。HCO−40の化学構造を下記式(1)に示す。
【0053】
【化1】

【0054】
実施例2〜11、比較例1〜6
砂糖、KBr、又は界面活性剤HCO−40に代えて表1に示す糖類、塩類、界面活性剤を組み合わせて使用した以外は実施例1と同様にフラーレン水分散液を調製した。なお、使用した糖類、界面活性剤の詳細は以下に示すとおりである。
【0055】
[糖類]
CMC:カルボキシメチルセルロース、重量平均分子量 約10000
[界面活性剤]
HCO−10(日光ケミカルズ社製):上記式(1)において(l、m、n)及び(x、y、z)がそれぞれその総和の平均値が10となる数を示す非イオン界面活性剤である。
HCO−100(日光ケミカルズ社製):上記式(1)において(l、m、n)及び(x、y、z)がそれぞれその総和の平均値が100となる数を示す非イオン界面活性剤である。
Tween−80:和光純薬工業社製、非イオン界面活性剤
SDS:ドデシルスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業社製)
TDAB:テトラ−n−デシルアンモニウムブロミド(東京化成工業社製)
【0056】
【表1】

【0057】
〔分散性評価〕
実施例1〜11及び比較例1〜6で得られたC60フラーレン水分散液の分散性を、0.15kPa、120℃、20分間の圧熱処理前後について評価した。分散性の評価は、フラーレン水分散液を調製後20時間経過したときに目視により行い、フラーレンの析出が観察されなかった場合を良好、析出が観察された場合を不良と判定した。その結果、表1に示すように圧熱処理前に良好な分散性であった実施例1〜11のC60フラーレン水分散液は、圧熱処理後も良好な分散性であり、圧熱処理前に不良の分散性であった比較例1〜6のC60フラーレン水分散液は、圧熱処理後も不良の分散性であった。
【0058】
実施例1〜11で得られたC60フラーレン水分散液を140℃、120℃、80℃、50℃で加熱し、メタノールで希釈し一晩静置後、析出の有無を確認した(メタノールでの希釈は、フラーレンが析出しやすい条件であって、フラーレン水分散液の分散性の差がはっきりと出やすい傾向にある。)。なお、圧熱処理時間については10、20、60分で検討した。また、実施例1〜11で得られたC60フラーレン水分散液を加熱することなく常温(25℃)でメタノール希釈し、一晩静置したものの析出の有無も確認した。
【0059】
その結果、圧熱処理温度140℃、120℃、80℃においては圧熱処理時間10、20、60分の何れの条件でも析出なし、圧熱処理温度50℃においては圧熱処理時間10、20、60分の何れの条件でも析出の白濁を生じた。また、圧熱処理しなかったメタノール希釈液も析出の白濁を生じた。
【0060】
〔粒度分布測定〕
実施例2で得られたC60フラーレン水分散液について、0.15kPa、120℃、20分間で圧熱処理を実施し、フラーレンの粒度分布及び平均粒径を動的光散乱光度計(大塚電子社製、FPAR−1000)により測定した。キュウムラント法を用い平均粒径を測定したところ、未処理のフラーレンのキュウムラント平均粒径は169nmであったのに対し、圧熱処理を実施したフラーレンのキュウムラント平均粒径は118nmであった。
【0061】
更に、CONTIN法を用いて粒度分布の解析を行った。得られたC60フラーレンの粒度分布を図1に示す。図1から明らかなように、フラーレンの粒径分布はシャープなピークを示していた。また、圧熱処理を実施したフラーレンは、圧熱処理していないフラーレンよりも粒度が小さく、分散性がより良好であることを示していた。圧熱処理を実施したフラーレンの透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図2に示す。
【0062】
実施例12
2gのNaClと2gの砂糖(市販品、非晶性)を攪拌擂潰機(石川工場製)で約10分間擂り潰した。更に、C60フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製、ナノムパープルN60)0.1gを加え、15分間擂潰した。その後、2gの非イオン界面活性剤(HCO−40、日光ケミカルズ社製)を加え、30分間擂潰した。この擂潰混合物にフラーレンの濃度が500mg/Lとなるようにイオン交換水を加え、フラーレン水分散液を調製した。得られた分散液の分散性を評価したところ、分散性は良好であった。また、0.15kPa、120℃、20分間で圧熱処理後の水分散液の分散性も良好であった。
【0063】
比較例7
2gのNaClを攪拌擂潰機(石川工場製)で約10分間擂り潰した。更に、C60フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製、ナノムパープルN60)0.1gを加え、15分間擂潰した。その後、2gの非イオン界面活性剤(HCO−40、日光ケミカルズ社製)を加え、30分間擂潰した。この擂潰混合物にフラーレンの濃度が500mg/Lとなるようにイオン交換水を加え、フラーレン水分散液を調製した。得られた分散液の分散性を評価したところ、フラーレンの析出が観察された。
【0064】
試験例1(急性毒性試験)
実施例2で得られたフラーレン水分散液を使用して生体毒性試験を行った。
【0065】
フラーレン水分散液で満たした水槽に1濃度区あたりヒメダカ2尾を入れた。フラーレン水分散液への曝露は半止水式とし、24時間ごとに換水した。フラーレン水分散液への曝露時間96時間とした。LC50値を測定したところ、>250mg/Lであった。
【0066】
試験例2(濃縮試験)
1尾あたり約5gのコイ10尾をフラーレン水分散液で満たした70L容水槽に入れ、フラーレン水分散液(実施例2で得られた分散液を更に0.02mg/Lに希釈したもの)に曝露させた。フラーレン水分散液への曝露は流水式とし、1155L/日の割合でフラーレン水分散液を水槽に供給した。曝露期間は18日間とした。
【0067】
曝露期間終了後、コイ4尾を採取して2尾/1群ずつ細かく切断し、更にポリトロンにより微細化した後、サンプルとして1群あたり1gを分取した。
【0068】
無水硫酸ナトリウム約8gでサンプルを脱水した後、トルエン20mLを加えてポリトロンにより均一化した。7000×gで5分間遠心分離した後、上澄み液を脱脂綿フィルターで濾過し、40℃のロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮物をトルエン/メタノール混合溶媒(45/55、v/v)に溶解させ20mLとし、この溶液に含まれるフラーレンの濃度をHPLCにより測定した。その結果、フラーレンはいずれの群も不検出であり、供試魚における濃縮倍率は5.8倍以下であった。
【0069】
実施例13〜22、比較例8〜13
60フラーレンに代えて水酸化フラーレン[フロンティアカーボン株式会社製、ナノムスペクトラ HX10−S、分子式C60(OH)n (n=6〜12)]を使用すると共に、砂糖、KBr、又は界面活性剤HCO−40に代えて表2に示す糖類、塩類、界面活性剤を組み合わせて使用した以外は実施例1のC60フラーレン水分散液と同様に水酸化フラーレン水分散液を調製した。なお、使用した糖類、界面活性剤の詳細は前述のとおりである。
【0070】
【表2】

【0071】
〔分散性評価〕
実施例13〜22及び比較例8〜13で得られた水酸化フラーレン水分散液の分散性を、0.15kPa、120℃、20分間の圧熱処理前後について評価した。分散性の評価は、水酸化フラーレン水分散液を調製後20時間経過したときに目視により行い、水酸化フラーレンの若干の析出があるものの、水中で均一分散が観察された場合を良好、明らかな析出が観察された場合を不良と判定した。その結果、表2に示すように圧熱処理前に良好な分散性であった実施例13〜22の水酸化フラーレン水分散液は、圧熱処理後も良好な分散性であり、圧熱処理前に不良の分散性であった比較例8〜13の水酸化フラーレン水分散液は、圧熱処理後も不良の分散性であった。
【0072】
実施例13、14、20及び21で得られた水酸化フラーレン水分散液の分散性を、0.15kPa、120℃、20分間の圧熱処理前後について評価した。分散性の評価は、水酸化フラーレン水分散液を調製後1週間経過したときに目視により行った。その結果、実施例13、14、20及び21で得られた水酸化フラーレン水分散液の何れについても、圧熱処理前の試料は白濁し、水酸化フラーレンの析出が観察された。他方、圧熱処理後の試料には白濁は認められなかった。
【0073】
〔粒度分布測定〕
実施例14で得られた水酸化フラーレン水分散液中の水酸化フラーレンの粒度分布及び平均粒径を動的光散乱光度計(シスメックス製、Nano−ZS)により測定した。キュウムラント法を用い平均粒径を測定したところ、水酸化フラーレンのキュウムラント平均粒径は334nmであった。また、この試料を0.15kPa、120℃、20分間で圧熱処理したところ、水酸化フラーレンのキュウムラント平均粒径は260nmであった。
【0074】
更に、NNLS法を用いて粒度分布の解析を行った。得られた水酸化フラーレンの粒度分布を図3(圧熱処理無し)及び図4(圧熱処理有り)に示す。図3及び4から明らかなように、フラーレンの粒径分布はシャープなピークを示していた。また、圧熱処理を実施したフラーレンは、圧熱処理していないフラーレンよりも粒度が小さく、分散性がより良好であることを示していた。
【0075】
実施例1及び3〜11で得られたフラーレン水分散液についても実施例2と同様に平均粒径と粒径分布を測定したところ、平均粒径は実施例2と同等の値で、粒度分布はシャープなピークを示した。
【0076】
実施例23
1gのNaClと1gの砂糖(市販品、非晶性)を攪拌擂潰機(石川工場製)で約10分間擂り潰した。更に、水酸化フラーレン[フロンティアカーボン株式会社製、ナノムスペクトラ HX10−S、分子式C60(OH)n (n=6〜12)]0.05gを加え、30分間擂潰した。その後、1gの非イオン界面活性剤(HCO−40、日光ケミカルズ社製)を加え、30分間擂潰した。この擂潰混合物に水酸化フラーレンの濃度が250mg/Lとなるようにイオン交換水を加え、水酸化フラーレン水分散液を調製した。得られた分散液の分散性を評価したところ、分散性は良好であった。また、0.15kPa、120℃、20分間で圧熱処理後の水分散液の分散性も良好であった。
【0077】
比較例14
1gのNaClを攪拌擂潰機(石川工場製)で約10分間擂り潰した。更に、水酸化フラーレン[フロンティアカーボン株式会社製、ナノムスペクトラ HX10−S、分子式C60(OH)n (n=6〜12)]0.05gを加え、30分間擂潰した。その後、1gの非イオン界面活性剤(HCO−40、日光ケミカルズ社製)を加え、30分間擂潰した。この擂潰混合物にフラーレンの濃度が250mg/Lとなるようにイオン交換水を加え、水酸化フラーレン水分散液を調製した。得られた分散液の分散性を評価したところ、水酸化フラーレンの明らかな析出が観察された。
【0078】
試験例3(急性毒性試験)
実施例14で得られた水酸化フラーレン水分散液を使用して生体毒性試験を行った。
【0079】
水酸化フラーレン水分散液で満たした水槽に1濃度区あたりヒメダカ2尾を入れた。水酸化フラーレン水分散液への曝露は半止水式とし、24時間ごとに換水した。水酸化フラーレン水分散液への曝露時間96時間とした。LC50値を測定したところ、30〜100mg/Lであった。
【0080】
実施例24〜35及び比較例15〜21
60フラーレンの代わりにC70フラーレン(STREAM CHEMICALS社製)を用いた以外は、実施例1〜12及び比較例1〜7と同様にフラーレン水分散液の分散性の試験を行った。その結果、分散性はC60フラーレンの場合よりも全体として若干劣るものの、実施例1〜12と同じ条件では良好、比較例1〜7と同じ条件では不良であった。
【0081】
実施例24〜35及び比較例15〜21で得られたC70フラーレン水分散液の分散性を、0.15kPa、120℃、20分間の圧熱処理前後について評価した。分散性の評価は、C70フラーレン水分散液を調製後20時間経過したときに目視により行い、C70フラーレンの若干の析出があるものの、水中で均一分散が観察された場合を良好、明らかな析出が観察された場合を不良と判定した。その結果、圧熱処理前に良好な分散性であった実施例24〜35のC70フラーレン水分散液は、圧熱処理後も良好な分散性であり、圧熱処理前に不良の分散性であった比較例15〜21のC70フラーレン水分散液は、圧熱処理後も不良の分散性であった。
【0082】
実施例24〜35で得られたC70フラーレン水分散液を140℃、120℃、80℃、50℃で加熱し、メタノールで希釈し一晩静置後、析出の有無を確認した(メタノールでの希釈は、フラーレンが析出しやすい条件であって、フラーレン水分散液の分散性の差がはっきりと出やすい傾向にある。)。なお、圧熱処理時間については10、20、60分で検討した。また、実施例24〜35で得られたC70フラーレン水分散液を加熱することなく常温(25℃)でメタノール希釈し、一晩静置したものの析出の有無も確認した。
【0083】
その結果、圧熱処理温度140℃、120℃、80℃においては圧熱処理時間10、20、60分の何れの条件でも析出なし、圧熱処理温度50℃においては圧熱処理時間10、20、60分の何れの条件でも析出の白濁を生じた。また、圧熱処理しなかったメタノール希釈液も析出の白濁を生じた。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例2の圧熱処理有り又は無しの条件で得たC60フラーレン水分散液におけるフラーレンの粒度分布を示すグラフである。
【図2】実施例2の圧熱処理有りの条件で得たC60フラーレン水分散液におけるフラーレンの分散状態を示す図面代用の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】実施例14の圧熱処理無しの条件で得た水酸化フラーレン水分散液における水酸化フラーレンの粒度分布を示すグラフである。
【図4】実施例14の圧熱処理有りの条件で得た水酸化フラーレン水分散液における水酸化フラーレンの粒度分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糖又は少糖の結晶と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加するフラーレン類の水分散方法であって、フラーレン類が水酸化フラーレンであるフラーレン類の水分散方法。
【請求項2】
単糖又は少糖が、ショ糖又はグルコースである請求項1に記載のフラーレン類の水分散方法。
【請求項3】
界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである請求項1に記載のフラーレン類の水分散方法。
【請求項4】
無機塩の結晶と、水溶性糖類と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加するフラーレン類の水分散方法であって、フラーレン類が水酸化フラーレンであるフラーレン類の水分散方法。
【請求項5】
無機塩がKBr又はNaClである請求項4に記載のフラーレン類の水分散方法。
【請求項6】
水溶性糖類が、ショ糖又はグルコースである請求項4に記載のフラーレン類の水分散方法。
【請求項7】
界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである請求項4に記載のフラーレン類の水分散方法。
【請求項8】
単糖又は少糖の結晶と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加してフラーレン類の水分散液を得、次いで前記水分散液を圧力0kPa(ゲージ圧)以上、温度80℃以上で10分以上、圧熱処理するフラーレン類の水分散方法。
【請求項9】
無機塩の結晶と、水溶性糖類と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加してフラーレン類の水分散液を得、次いで前記水分散液を圧力0kPa(ゲージ圧)以上、温度80℃以上で10分以上、圧熱処理するフラーレン類の水分散方法。
【請求項10】
水溶性多糖と、フラーレン類と、非イオン又は陰イオン界面活性剤とを擂潰して得られる擂潰混合物に水を添加してフラーレン類の水分散液を得、次いで前記水分散液を圧力0kPa(ゲージ圧)以上、温度80℃以上で10分以上、圧熱処理するフラーレン類の水分散方法であって、フラーレン類がフラーレンであるフラーレン類の水分散方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−94656(P2008−94656A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277832(P2006−277832)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000173566)財団法人化学物質評価研究機構 (14)
【Fターム(参考)】