説明

フリーボールベアリングおよびベアリング装置

【課題】構造の簡略化が可能であり、かつパーティクルの飛散を防止することができるフリーボールベアリングを提供する。
【解決手段】半球状凹面21を内面とする球受け用凹所22が形成された球受け部23を有する本体20と、半球状凹面21に配された複数の受け球41と、受け球41を介して半球状凹面21に回転自在に支持された主球42と、ハウジング状のカバー部30と、を備えたフリーボールベアリング10A。カバー部30は、本体20の半球状凹面21と主球42との間に挿入して受け球41の移動を規制することで主球42の回転抵抗を増大させる押さえ片52を有する。本体20は、カバー部30に対し、球受け部23高さ方向に移動可能とされ、この移動によって、押さえ片52が受け球41の移動を規制する位置と、押さえ片52が受け球41から離隔して前記規制が解除された位置とを切り替え可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の搬送あるいは位置決めに用いられる支持テーブル、ターンテーブル等に適用して好適なフリーボールベアリングおよびベアリング装置に係り、例えば半導体基板やプリント配線基板に対する加工、電子部品の実装、フラットパネルの製造、半導体素子や半導体パッケージ等の電子部品の製造、食品や医薬品の製造等にて使用できるフリーボールベアリング、およびこれを用いたベアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば物品を搬送する搬送設備にあっては、全方向に回転自在な1個のボール(主球)が突出された構造のフリーボールベアリングを用いて搬送する物品を移送可能に支持する構成のものが多く採用されている。
このような搬送設備にあっては、搬送中の物品の移動を停止あるいは減速させるために、フリーボールベアリングとは別に、物品を衝突させるストッパ、クッション、物品を接触させるガイド部材などを設けた構成のものがあるが、近年、フリーボールベアリング自体が搬送中の物品に制動力を与えることが可能な構成となっているものが提案されている(例えば特許文献1)。このようなフリーボールベアリングを用いた搬送設備は、ストッパ、クッション、ガイド部材等の設置を不要にできる利点がある。
【0003】
上述の特許文献1の図1(a)、(b)記載のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)は、複数の副球を介して凹球面に主球を回転自在に支持した凹球面部材と、前記主球の上部が突出する内孔を有する蓋部材とを備え、前記内孔の縁部が前記主球との間に微小間隙をもって接近した主球の自由転動状態と、前記内孔の縁部が前記主球に押圧接触した主球の制動状態とが切り換え可能になっている。
また、特許文献1の図2(a)、(b)には、環状の副球接触部を有する加圧部材を駆動手段(具体的には電磁線輪によって構成した電磁石34)によって昇降させ、前記加圧部材の下降時に前記副球接触部を副球群の上縁部に接触させることで副球の転動を拘束して主球の回転に制動作用を与える構成のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−19877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1の図1(a)、(b)記載のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)のように、蓋部材を主球に接触させて主球の制動を行う構成では、長期の使用によって主球を傷付けることがあり、主球表面に形成された溝が物品との間の隙間の原因になって移動する物品に移動抵抗を与えづらくなる、といった不都合がある。
特許文献1の図2(a)、(b)のように、昇降する加圧部材によって副球を押さえ込む構成の方が、物品に所望の移動抵抗を与える性能を長期にわたって安定に維持できる点で有利である。
【0006】
ところで、例えば半導体基板やプリント配線基板に対する加工、電子部品の実装、フラットパネルの製造、半導体素子や半導体パッケージ等の電子部品の製造、食品や医薬品の製造等に用いられるフリーボールベアリングには、高い防塵性が要求される。
上述の特許文献1の図1(a)、(b)記載のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)では蓋部材の主球との接触が起こり、特許文献1の図2(a)、(b)記載のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)では蓋部材(特許文献1において符号5a)の下側にて昇降する加圧部材と副球との接触が起こる。このため、パーティクルの飛散を防止したいという要求があった。
【0007】
また、前記構造のフリーボールベアリングでは、主球の制動を行う構成が複雑であり、小型化および低コスト化が容易ではなかった。
【0008】
本発明は、前記課題に鑑みて、構造の簡略化が可能であり、かつパーティクルの飛散を防止することができるフリーボールベアリングおよびベアリング装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフリーボールベアリングは、半球状凹面を内面とする球受け用凹所が形成された球受け部を有する本体と、前記本体の前記半球状凹面に配された複数の受け球と、前記受け球よりも大径に形成され前記受け球を介して前記半球状凹面に回転自在に支持された主球と、前記本体の前記球受け部を取り囲むように設けられたハウジング状のカバー部と、を備え、前記カバー部に、前記主球の一部を突出させる主球突出用開口部が形成され、前記カバー部が、前記本体の前記半球状凹面と前記主球との間に挿入して前記受け球の移動を規制することで前記主球の回転抵抗を増大させる押さえ片を有し、前記本体は、前記カバー部に対し、前記球受け用凹所の深さ方向に一致する方向である球受け部高さ方向に移動可能とされ、この移動によって、前記押さえ片が受け球の移動を規制する位置と、前記押さえ片が受け球から離隔して前記規制が解除された位置とを切り替え可能であるフリーボールベアリングである。
本発明のフリーボールベアリングは、前記カバー部が、前記本体の球受け部を取り囲む基端側部分を有し、前記本体が、前記球受け部から突出する軸部を有し、前記軸部が、前記基端側部分から突出し、この突出部分を前記球受け部の方向に移動させることで、前記本体を球受け部高さ方向に移動可能であることを特徴とする構成とすることができる。
本発明のフリーボールベアリングは、前記カバー部が、カバー部本体と、前記カバー部本体内に設けられた受け球押さえリングとを備え、前記押さえ片が、前記受け球押さえリングに形成されているフリーボールベアリングである。
本発明のフリーボールベアリングは、前記押さえ片が、前記カバー部に一体に形成されているフリーボールベアリングである。
本発明のフリーボールベアリングは、前記本体を前記押さえ片から離れる方向に付勢する規制解除機構を備えているフリーボールベアリングである。
本発明のベアリング装置は、前記フリーボールベアリングと、前記フリーボールベアリングを支持する支持体と、前記フリーボールベアリングの本体を前記球受け部高さ方向に移動させる昇降機構とを備えているベアリング装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフリーボールベアリングによれば、本体が球受け部高さ方向に移動可能とされ、この本体の移動によって、押さえ片が半球状凹面と主球との間に挿入されて受け球の移動を規制する位置と、規制が解除された位置とを切り替え可能である。
移動規制位置では、半球状凹面と主球との間に押さえ片が挿入されるため、押さえ片は球受け用凹所からのパーティクルの飛散を抑える機能を果たす。
従って、パーティクルの飛散による汚染を防止することができる。
また、本体は、カバー部に囲まれた構造であるため、中央位置において本体を高さ方向に移動させる機構によって前記高さ方向移動を実現できる。
従って、構造を簡略化でき、小型化および低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る第1実施形態のフリーボールベアリングにおいて、受け球押さえリングによる受け球の制動を行っていない状態を示す図であり、(a)は部分断面図であり、(b)は下面図である。
【図2】前図のフリーボールベアリングの受け球の制動状態を示す部分断面図である。
【図3】本発明に係る第2実施形態のフリーボールベアリングにおいて、受け球押さえリングによる受け球の制動を行っていない状態を示す部分断面図である。
【図4】前図のフリーボールベアリングの受け球の制動状態を示す部分断面図である。
【図5】本発明に係る第3実施形態のフリーボールベアリングにおいて、受け球押さえリングによる受け球の制動を行っていない状態を示す部分断面図である。
【図6】前図のフリーボールベアリングの受け球の制動状態を示す部分断面図である。
【図7】本発明に係る第4実施形態のフリーボールベアリングにおいて、受け球押さえリングによる受け球の制動を行っていない状態を示す部分断面図である。
【図8】前図のフリーボールベアリングの受け球の制動状態を示す部分断面図である。
【図9】本発明に係るベアリング装置の一実施形態を示す部分断面図である。
【図10】前図のベアリング装置において、被支持物を支持した状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1および図2を参照して、本発明に係る第1実施形態のフリーボールベアリングを説明する。以下の説明において、図1(a)における上側を上、下側を下とする。
図1は、第1実施形態のフリーボールベアリング10Aを示すもので、(a)は受け球41の制動を行っていない状態の部分断面図であり、(b)は下面図である。図2は、フリーボールベアリング10Aの受け球41の制動状態を示す部分断面図である。
【0013】
フリーボールベアリング10Aは、本体20と、本体20の球受け部23を取り囲むように設けられたハウジング状のカバー部30と、球受け部23の半球状凹面21に配された複数の受け球41と、受け球41を介して半球状凹面21に回転自在に支持された主球42と、本体20を球受け部高さ方向の下方に弾性付勢するスプリング60(規制解除機構)とを備えている。
符号80は被支持物(図示略)を載置する載置テーブルであり、符号80aはフリーボールベアリング10Aが通過可能な通過口である。
【0014】
本体20は、半球状凹面21を内面とする球受け用凹所22が形成されたブロック状の球受け部23と、球受け部23の球受け用凹所22の開口部とは反対側(基端側)の端部から下方に突出された軸部24を有する。
図1(a)において符号20aで示す仮想線は、本体20の軸部24の中心軸線である。本体20の球受け用凹所22の開口部の中央及び球受け用凹所22の最深部は中心軸線20a上に位置している。以下、中心軸線20aを本体軸線とも言う。
本体20は、球受け用凹所22の深さ方向に一致する方向である球受け部高さ方向(図1(a)および図2において上下方向。中心軸線20a方向)に移動可能に構成されている。
【0015】
軸部24は、球受け部23の基端側の端面(底面23a)から突出する軸部本体26と、軸部本体26に取り付けられた受け部材25とを有する。
軸部本体26には、先端部26a(下端部)に開口する取付け孔部26bが形成され、取付け孔部26bには受け部材25が取り付けられている。
【0016】
受け部材25は、スプリング60下端部が当接する受け部となるもので、ヘッド部25aと、ヘッド部25aの上面25bから延出するねじ軸25cとを有し、ねじ軸25cは取付け孔部26bに挿入され、取付け孔部26b内面のねじ部(図示略)に螺着される。
軸部本体26および受け部材25の下端部は、筒状軸部32c(後述)の下端部32iよりも下方に突出している。
図示例では、球受け部23に軸部24を一体成形しているが、本発明はこれに限らず、軸部を球受け部とは別体で構成することも可能である。その場合には、軸部を金属で構成することも可能である。
【0017】
カバー部30は、カバー部本体30Aと、球受け部23とカバー部本体30Aとの間に確保された内側空間11内に設けられた受け球押さえリング50とを備えている。
カバー部本体30Aは、基端側カバー部材32(基端側部分)の外周部に、リング状のキャップ33を取り付けて構成されている。
基端側カバー部材32は、リング状の底板32aと、底板32aの外周に設けられて該底板32aの上面側に突出する周壁部32bと、底板32aの下面側に突出する筒状軸部32cとを備えている。
周壁部32bは、本体20の球受け部23の周囲を取り囲んで形成されている。
【0018】
筒状軸部32c外面には雄ねじ32fが形成されており、筒状軸部32cは、支持体81の雌ネジ穴81aに挿入され、雌ネジ穴81a内面の雌ねじ81bに螺着している。
筒状軸部32cに形成された挿通孔32gの内面には、筒状軸部32cの下端部32iから所定の高さ範囲に薄化凹部32hが形成されている。薄化凹部32hの上端の段部32eは、スプリング60の上端が当接する受け部となる。
図1(a)に示す状態(待機状態)において、基端側カバー部材32の底板32aは、球受け部23の底面23aに当接している。
【0019】
キャップ33は、主球突出用開口部31が形成されているリング状の蓋板部33aと、その外周縁から垂下する側壁部33bとを有する構成であり、蓋板部33aによって球受け部23の球受け用凹所22の開口部の周囲の端面(先端面23b)を覆うように設けられている。
キャップ33は、側壁部33bの内周側に形成された嵌合凸部33cを、基端側カバー部材32の周壁部32bの外周側に形成された嵌合凹部32dに嵌合させることによって基端側カバー部材32に装着される。
【0020】
主球突出用開口部31の内径は、主球42の直径より小さくされて主球42の脱落を阻止でき、しかも主球42の一部を外方(図1(a)において上方)に突出させるよう設定されている。
主球突出用開口部31の内径は、主球42が受け球41に支持された状態において、主球突出用開口部31の内周面と主球42との間に、主球42の遊動を可能にするクリアランスCが確保される大きさとなっている。
【0021】
受け球押さえリング50は、キャップ33の蓋板部33aと球受け部23の先端面23bとの間に配置されたリング状の天板部51と、天板部51の内周端の全周にわたってリブ状に下方に突設されたリング状の押さえ片52とを備えている。
押さえ片52は、本体20の半球状凹面21と主球42との間に挿入して受け球41を移動規制することができるように構成されている。
押さえ片52の外径は球受け用凹所22の開口部の内径よりも若干小さく、本体20が上昇位置にあるとき(図2参照)、押さえ片52は球受け用凹所22の半球状凹面21に接触しない。このとき、押さえ片52は主球42にも接触しない。
【0022】
主球42は、受け球41よりも大径に形成され受け球41を介して半球状凹面21に回転自在に支持されている。
【0023】
図示例のフリーボールベアリング10Aは、本体軸線20aが鉛直の向きで固定されているが、これに限らず、本体軸線20aが鉛直方向に対して傾斜する向きで使用することも可能である。
【0024】
フリーボールベアリング10Aの本体20、カバー部本体30A、受け球41及び主球42、受け球押さえリング50としては、金属製のもの、プラスチック製のもの等を採用できる。
主球42としては、導電性(表面抵抗率は例えば10〜1010Ω/□)ないし半導電性樹脂で構成したものを採用することもできる。
【0025】
主球ボール42を形成する導電性樹脂材料としては、ベース樹脂に導電性金属フィラーを分散混入したものや、ベース樹脂に帯電防止ポリマーを添加したものなどを採用できる。
ベース樹脂としては、POM(ポリアセタール)、PAI(ポリアミドイミド)、PBI(ポリベンゾイミダゾール)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、メラミン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂(アラミド樹脂)等を採用できる。また、LCP(液晶ポリマー)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PES(ポリエーテルサルフォン)、その他の樹脂も用いることができる。真空装置内の環境に対する特性安定性等の点で、ベスペル(芳香族ポリアミド樹脂であるデュポン社の登録商標)やPBIが好適である。
受け球41、本体20は、半導電性樹脂で構成することもできる。
【0026】
本体20、カバー部本体30A、受け球押さえリング50についても、前記導電性樹脂材料によって形成したものを採用可能である。
また、本発明に係るフリーボールベアリングの本体20、カバー部本体30A、受け球41及び主球42、受け球押さえリング50としては、導電性または半導電性を有していない材質(例えば、金属、プラスチック等)によって形成されたものを採用することも可能である。
【0027】
図1(a)に示す状態では、スプリング60によって受け部材25のヘッド部25aが下方に付勢されるため、本体20は下方の待機位置(球受け部23の底面23aが基端側カバー部材32の底板32aに当接する位置)にある。
本体20が待機位置にあるため、受け球押さえリング50は、球受け部23内の受け球41に対し上方に離間した位置にある。この状態では、受け球41の移動が制限されないため、主球42の回転抵抗は比較的小さい。
本体20が待機位置にあるとき、押さえ片52は、球受け用凹所22からの受け球41の飛び出しを防止可能な位置に配置される。
このため、この待機位置にあっても、球受け用凹所22の開口部付近の内面と主球42との間を押さえ片52がほぼ塞いだ状態となるため、押さえ片52は球受け用凹所22からのパーティクルの飛散を抑える機能を果たす。
【0028】
図2に示すように、押し上げシャフト82によって軸部24の突出部分(軸部24が筒状軸部32cから突出した部分)を上方(球受け部23方向)に押圧し、本体20をスプリング60の付勢力に抗して押し上げると、押さえ片52は、球受け部23の球受け用凹所22の開口部側から半球状凹面21と主球42との間に挿入されて、受け球41の移動を規制する。
この結果、球受け部23の受け球41の回転が抑制されて、主球42の回転抵抗が増大する。
図2に示す状態では、受け部材25のヘッド部25aの上面25bが筒状軸部32cの下端部32iに当接して本体20の上方移動が規制される。このため、球受け部23や受け球41に過大な力が加えられて破損が生じるのを防止できる。
また、主球突出用開口部31の内周面と主球42との間に、主球42の遊動を可能にするクリアランスCが確保される。
【0029】
押さえ片52が受け球41の移動を規制する位置(移動規制位置)は、球受け用凹所22の開口部よりも下方(球受け用凹所22の底部側)の位置である上、球受け用凹所22の開口部付近の内面と主球42との間を押さえ片52がほぼ塞いだ状態になっているため、この位置にて押さえ片52と受け球41との接触によって生じたパーティクルの球受け用凹所22からの飛散は生じにくい。
押上げシャフト82を下降させると、スプリング60の付勢力によって本体20は下降して待機位置に戻り、受け球41の移動規制が解除されて、主球42の回転抵抗は再び小さくなる。
【0030】
フリーボールベアリング10Aは、例えば次のように使用できる。
図1(a)に示すように、本体20が待機位置にあって主球42が回転の制限を受けない状態で、主球42上に被支持物(ディスプレイ用マザーガラス、シリコン基板(ウェハ)など)を載せる。
この状態で、位置決め装置(図示略)によって被支持物の位置決め操作(被支持物の面方向の位置決め)を行う。例えば、位置決め部材(図示略)によって被支持物の面方向の位置を確定し、その位置で被支持物の面方向移動を規制する。主球42の回転が抑制されていないため、位置決め操作は容易である。
位置決め装置による位置決めを行った後、図2に示すように、フリーボールベアリング10Aの本体20を押し上げ、受け球押さえリング50によって受け球41を移動規制して受け球41及び主球42の回転を抑制することによって、被支持物の面方向の位置ずれを防ぐことができる。
【0031】
前記位置決め部材による被支持物の移動規制の解除は、主球42の回転を抑制した状態で行うことが好ましい。これによって、位置決め装置による移動規制を解除した後の被支持物の位置ずれを防止できる。
【0032】
受け球押さえリング50による受け球41の移動規制は、受け球41の循環および回転を完全に阻止する必要はなく、受け球41の循環および回転を抑制し、その結果、主球42の回転を抑制できればよい。
また、主球42を、被支持物の微動に追従してわずかに回転可能とすることによって、主球42の回転を完全に停止するよりも被支持物が主球42上で滑りにくくなるため、被支持物を確実に制動することができる。
【0033】
フリーボールベアリング10Aによれば、本体20が球受け部23の高さ方向に移動可能とされ、この本体20の移動によって、押さえ片52が半球状凹面21と主球42との間に挿入されて受け球41の移動を規制する位置と、規制が解除された位置とを切り替え可能である。
移動規制位置では、半球状凹面21と主球42との間に押さえ片52が挿入されるため、押さえ片52は球受け用凹所22からのパーティクルの飛散を抑える機能を果たす。
従って、パーティクルの飛散による汚染を防止することができる。
【0034】
また、フリーボールベアリング10Aでは、本体20がカバー部30に囲まれた構造であるため、中央位置にある軸部24のみを高さ方向に移動させる機構によって、本体20の高さ方向移動を実現できる。
従って、本体20の移動のための構造を簡略化でき、全体の小型化および低コスト化を図ることができる。
【0035】
フリーボールベアリング10Aは、本体20の上昇時に押さえ片52によって受け球41の移動が規制されるため、主球42が上昇した位置で主球42の回転が抑制される。
このため、被支持物の移動規制が必要なときに主球42を被支持物に確実に当接させることができる。従って、被支持物の位置ずれ防止を確実に行うことができる。
【0036】
(第2実施形態)
図3および図4を参照して、本発明に係る第2実施形態のフリーボールベアリングを説明する。以下の説明において、既出の構成については、同一符号を付してその説明を省略または簡略化する。
フリーボールベアリング10Bは、スプリング60を備えていない点で、第1実施形態のフリーボールベアリング10Aと異なる。
【0037】
図3に示す状態では、本体20は自重により待機位置にあり、受け球41の回転が制限されないため、主球42の回転抵抗は比較的小さい。
図4に示すように、本体20を上方移動させると、押さえ片52は半球状凹面21と主球42との間に挿入されて、受け球41の移動を規制する。この結果、受け球41の回転が抑制されて、主球42の回転抵抗が増大する。
押上げシャフト82を下降させると、本体20は、自重により下降して待機位置に戻り、受け球41の回転抑制が解除されて、主球42の回転抵抗は再び小さくなる。
【0038】
フリーボールベアリング10Bにおいても、押さえ片52によって、球受け用凹所22からのパーティクル飛散が抑えられる。
【0039】
(第3実施形態)
図5および図6を参照して、本発明に係る第3実施形態のフリーボールベアリングを説明する。
フリーボールベアリング10Cは、受け球押さえリング50が設けられていない点で、第1実施形態のフリーボールベアリング10Aと異なる。
本体120は、球受け用凹所22が形成された球受け部123と、球受け部123から下方に突出された軸部124を有する。
軸部124の下端部124aは、筒状軸部32cの下端部32iから下方に突出している。
カバー部130のキャップ133は、蓋板部133aと、その外周縁から垂下する側壁部133bと、蓋板部133aの内周縁から下方に突出する押さえ片152とを備えている。
【0040】
押さえ片152は、第1実施形態のフリーボールベアリング10Aにおける受け球押さえリング50の押さえ片52と同様の機能(受け球41の移動規制による主球42の回転規制)を果たすもので、蓋板部133aと一体に形成されている。
図5に示す状態では、本体120は待機位置にあり、受け球41の回転が制限されないため、主球42の回転抵抗は比較的小さい。
図6に示すように、押上げシャフト82によって軸部124を上方に押圧し、本体120を上方移動させると、キャップ133の押さえ片152が半球状凹面21と主球42との間に挿入されて、受け球41の移動を規制する。この結果、受け球41の回転が抑制されて、主球42の回転抵抗が増大する。
図6に示す状態では、押上げシャフト82は、筒状軸部32cに形成された挿通孔32gより径が大きいため筒状軸部32cの下端部32iに当接しており、これによって本体120の上方移動が規制される。このため、球受け部123や受け球41に過大な力が加えられて破損が生じるのを防止できる。
押上げシャフト82を下降させると、本体120は、自重により下降して待機位置に戻り、受け球41の回転抑制が解除されて、主球42の回転抵抗は再び小さくなる。
【0041】
(第4実施形態)
図7および図8を参照して、本発明に係る第4実施形態のフリーボールベアリングを説明する。
フリーボールベアリング10Dは、球受け用凹所22が形成された球受け部223を有する本体220と、カバー部230と、球受け部23の半球状凹面21に配された受け球41と、半球状凹面21に回転自在に支持された主球42と、スプリング260(規制解除機構)とを備えている。
カバー部230のキャップ233は、蓋板部233aと、その外周縁から垂下する側壁部233bと、蓋板部233aの内周縁から下方に突出する押さえ片252とを備えている。
本体220は、球受け用凹所22が形成された球受け部223と、球受け部223から下方に突出された軸部224を有する。
【0042】
軸部224は、球受け部223から下方に延出する中心軸部225と、中心軸部225外面のねじ部225aに螺着されることにより中心軸部225に固定されて下方に延出する延出軸部226と、筒状軸部232c内面のねじ部232gに螺着されるねじ部227aを外面に有する規制筒部227とを有する。
延出軸部226の外面の長さ方向中間位置には、環状凸部226aが形成され、環状凸部226aの上面226bは、スプリング260(規制解除機構)の下端が当接する受け部となる。
延出軸部226の環状凸部226aより下方の部分は、規制筒部227の挿通孔227bに上下動自在に挿通している。環状凸部226aは、規制筒部227の上端に当接して延出軸部226の下方移動を規制できるように形成されている。
延出軸部226の下端部226cは、規制筒部227の下端部227cより下方に突出している。
【0043】
基端側カバー部材232は、リング状の底板232aと、底板232aの下面側に突出する筒状軸部232cとを備えている。
筒状軸部232c外面には雄ねじ232fが形成されており、筒状軸部232cは、支持体81の雌ネジ穴81aに挿入され、雌ネジ穴81a内面の雌ねじ81bに螺着している。
筒状軸部232cの内面232dには、薄化凹部232dが形成されている。薄化凹部232dの上端の段部232eは、スプリング260の上端が当接する受け部となる。
【0044】
図7に示す状態では、スプリング260によって延出軸部226の環状凸部226aが下方に付勢されるため、本体220は待機位置にある。
図8に示すように、押上げシャフト82によって軸部224(延出軸部226の下端部226c)を上方に押圧し、本体220を上方移動させると、キャップ233の押さえ片252は半球状凹面21と主球42との間に挿入されて、受け球41の移動を規制する。この結果、受け球41の回転が抑制されて、主球42の回転抵抗が増大する。
図8に示す状態では、押上げシャフト82は規制筒部227の下端部227cに当接しており、これによって本体220の上方移動が規制されるため、球受け部223や受け球41に過大な力が加えられて破損が生じるのを防止できる。
押上げシャフト82を下降させると、スプリング260の付勢力によって本体220は下降して待機位置に戻り、主球42の回転抵抗は再び小さくなる。
【0045】
図9は、本発明に係るベアリング装置の一実施形態を示すものである。
このベアリング装置は、複数のフリーボールベアリング10Cと、フリーボールベアリング10Cを支持する支持体81と、支持体81が固定される支持テーブル83と、支持体81に挿通する押上げシャフト82を昇降する昇降機構90とを備えている。
昇降機構90は、例えばエアシリンダなどの駆動部91と、駆動部91により昇降する昇降シャフト92と、昇降シャフト92の上端部に設けられた第1基台部93とを備えている。第1基台部93には、押上げシャフト82の基端部が固定される。符号94は、昇降シャフト92上部を収納するベローズであり、ベローズ94の下端は、支持板110に設けられた第2基台部95に取り付けられる。
昇降機構90は、昇降シャフト92を昇降することによって、押上げシャフト82を昇降し、フリーボールベアリング10Cの本体120を高さ方向に移動させることができる。
支持テーブル83は、図示しない昇降機構によって昇降可能である。
【0046】
このベアリング装置は、次のような使用方法が可能である。
図9に示すように、支持テーブル83を上昇させると、フリーボールベアリング10Cが通過口80aを通って載置テーブル80上に突出した状態となる。
ロボットアーム100により被支持物1を搬入し、フリーボールベアリング10Cの主球42上に載置する。
この際、昇降機構90により昇降シャフト92および押上げシャフト82の高さ位置を調整してフリーボールベアリング10Cの本体120を待機位置に配置し、主球42の回転抵抗が小さい状態(図5参照)としておくことによって、被支持物1は、主球42上で容易に移動可能となる。
この状態で、位置決め装置(図示略)によって被支持物1の位置決め操作(被支持物1の面方向の位置決め)を行う。主球42の回転抵抗が小さいため、被支持物1の位置決め操作は容易である。
次いで、昇降機構90によりフリーボールベアリング10Cの本体120を上昇させ、押さえ片152により主球42の回転抵抗を高めることによって(図6参照)、被支持物1が面方向移動により所定の位置からずれるのを防ぐことができる。
【0047】
図10に示すように、支持テーブル83とともにフリーボールベアリング10Cを下降させると、被支持物1は載置テーブル80に載置される。
被支持物1には、必要に応じて製膜等の処理を施すことができる。
【0048】
図9に示すように、支持テーブル83を上昇させ、再びフリーボールベアリング10Cによって被支持物1を持ち上げる。
被支持物1を持ち上げる際には、押さえ片152により主球42の回転抵抗を高めた状態(図6参照)とすることによって、被支持物1の面方向移動による位置ずれを防ぐことができる。
次いで、ロボットアーム100により被支持物1を搬出することができる。
なお、搬出時には、位置決め装置(図示略)によって被支持物1の位置決め操作(被支持物の面方向の位置決め)を行うこともできる。すなわち、本体120を待機位置に配置して主球42の回転抵抗が小さい状態(図5参照)として前記位置決め操作を行い、次いで再び主球42の回転抵抗を高めた状態(図6参照)として被支持物1を搬出することができる。
【0049】
このように、このベアリング装置では、昇降機構90により押上げシャフト82の高さ位置を調整することによって、必要な操作に応じて主球42の回転抵抗を調整することができるため、被支持物1の搬送をスムーズに、かつ正確に行うことができる。
【0050】
本発明に係るフリーボールベアリングは、抑制時には解放時に比べて格段に高い摩擦係数が得られるため、抑制時に主球を回転しないように固定する使用方法も可能である。
本発明に係るフリーボールベアリングは、例えば、ディスプレイ用マザーガラス、シリコン基板(ウェハ)などといった基板を精密に位置決めするための基板用位置決めテーブル(支持テーブル)に好適に用いることができる。
本発明は、例えば半導体基板やプリント配線基板に対する加工、電子部品の実装、フラットパネルの製造、半導体素子や半導体パッケージ等の電子部品の製造の他、食品や医薬品の製造等、クリーンルーム内での物品の搬送(例えば搬送装置の一部としての使用)、位置決め等に幅広く使用することができる。
【符号の説明】
【0051】
10A、10B、10C、10D・・・フリーボールベアリング、20、120、220・・・本体、21・・・半球状凹面、23・・・球受け部、30、130、230・・・カバー部、30A・・・カバー部本体、31・・・主球突出用開口部、41・・・受け球、42・・・主球、50・・・受け球押さえリング、52・・・押さえ片、32、132、232・・・基端側カバー部材(基端側部分)、24、124、224・・・軸部、60、260・・・スプリング(規制解除機構)、81・・・支持体、90・・・昇降機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半球状凹面(21)を内面とする球受け用凹所(22)が形成された球受け部(23)を有する本体(20)と、
前記本体の前記半球状凹面に配された複数の受け球(41)と、
前記受け球よりも大径に形成され前記受け球を介して前記半球状凹面に回転自在に支持された主球(42)と、
前記本体の前記球受け部を取り囲むように設けられたハウジング状のカバー部(30)と、を備え、
前記カバー部に、前記主球の一部を突出させる主球突出用開口部(31)が形成され、
前記カバー部が、前記本体の前記半球状凹面と前記主球との間に挿入して前記受け球の移動を規制することで前記主球の回転抵抗を増大させる押さえ片(52)を有し、
前記本体は、前記カバー部に対し、前記球受け用凹所の深さ方向に一致する方向である球受け部高さ方向に移動可能とされ、この移動によって、前記押さえ片が受け球の移動を規制する位置と、前記押さえ片が受け球から離隔して前記規制が解除された位置とを切り替え可能であることを特徴とするフリーボールベアリング(10A)。
【請求項2】
前記カバー部は、前記本体の球受け部を取り囲む基端側部分(32)を有し、
前記本体は、前記球受け部から突出する軸部(24)を有し、
前記軸部は、前記基端側部分から突出し、この突出部分を前記球受け部の方向に移動させることで、前記本体を球受け部高さ方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載のフリーボールベアリング。
【請求項3】
前記カバー部が、カバー部本体(30A)と、前記カバー部本体内に設けられた受け球押さえリング(50)とを備え、
前記押さえ片は、前記受け球押さえリングに形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のフリーボールベアリング。
【請求項4】
前記押さえ片は、前記カバー部に一体に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のフリーボールベアリング。
【請求項5】
前記本体を前記押さえ片から離れる方向に付勢する規制解除機構(60)を備えていることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のフリーボールベアリング。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のフリーボールベアリングと、前記フリーボールベアリングを支持する支持体(81)と、前記フリーボールベアリングの本体を前記球受け部高さ方向に移動させる昇降機構(90)とを備えていることを特徴とするベアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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