説明

フルオレン含有ポリエステルの効率的製造方法

【課題】 光学材料や高強度材料等として利用できるフルオレノン含有ポリエステルを効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】 フルオレノン含有ジオールを、エチレングリコール又はポリエチレングリコールの存在下又は不在下で、ジカルボン酸又はその誘導体とマイクロ波照射下で反応させ、一般式(IV)


(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはアルキレン基、アリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、又はアリーレンアルキレンアリーレン基を示す。環上の水素原子の一部やRの水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。)で表されるフルオレン含有ポリエステルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン等のフルオレン誘導体(以下、「BPEF類」とする。)を、エチレングリコール又はポリエチレングリコールの存在下又は不在下で、ジカルボン酸又はその誘導体と反応させて得られるフルオレン含有ポリエステルの効率的製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フルオレン環とジオール構造を有するBPEF類から製造されるポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂等は、透明性、高屈折性、耐熱性、高強度性等に優れた高機能材料として、光学レンズ、光学フィルム、光ファイバー、高強度材料等への応用が期待されている。
この中のフルオレン含有ポリエステルの製造方法としては、BPEF類とジカルボン酸又はジエステルを反応させる方法が知られているが(たとえば特許文献1、2)、高分子量のポリエステルを得るために長時間の加熱(たとえば200℃以上で数時間)が必要であり、工業的に有利な方法とはいえなかった。
【特許文献1】特開2000−319366号公報
【特許文献2】特開2000−344878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、BPFE類とジカルボン酸又はその誘導体から、高分子量のフルオレン含有ポリエステルを、短時間でより効率的に製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上記反応が、マイクロ波照射により著しく加速されることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記の一般式(I)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示す。環上の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。)
で表されるフルオレン誘導体を、下記の一般式(II)
HO(CHCHO)H (II)
(式中、mは1以上の整数である。)
で表されるエチレングリコール又はポリエチレングリコールの存在下又は不在下で、下記の一般式(IIIA)又は(IIIB)
C−R−CO (IIIA)
【化2】

(式中、Rは、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、又はアリーレンアルキレンアリーレン基を示す。それら基の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。Rは水素原子又はアルキル基である。)
で表されるジカルボン酸又はその誘導体と、マイクロ波を照射して反応させることを特徴とする、下記の一般式(IV)
【化3】

(式中、R、R、及びmは前記と同じ意味であり、pは1以上の整数であり、qは0以上の整数である。)
で表されるポリエステルの製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の製法方法を用いることにより、従来の通常加熱に比べ短時間で高分子量のフルオレン含有ポリエステルが得られるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法では、BPEF類を、エチレングリコール又はポリエチレングリコールの存在下又は不在下で、ジカルボン酸又はその誘導体と、マイクロ波を照射して反応させることを特徴とする。
【0007】
本発明において使用されるBPEF類は、下記の一般式(I)
【化1】

で表されるもので、式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、環上の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。
BPEF類の具体例としては、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン等を挙げることができる。
【0008】
また、本発明で使用されるエチレングリコール又はポリエチレングリコールは、下記の一般式(II)
HO(CHCHO)H (II)
で表されるもので、式中、mは1以上の整数であり、好ましくは1以上10000以下、より好ましくは1以上8000以下である。エチレングリコール又はポリエチレングリコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができる。
【0009】
さらに、本発明で使用されるジカルボン酸又はその誘導体は、下記一般式(IIIA)又は(IIIB)
C−R−CO (IIIA)
【化2】

で表されるもので、式中、Rは、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、又はアリーレンアルキレンアリーレン基を示し、それら基の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。
アルキレン基、アリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、又はアリーレンアルキレンアリーレン基の具体例としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、1,3−又は1,4−シクロヘキシレン基、シクロヘキシレン−1,3−又は−1,4−ジメチレン基、ビス(1,4−シクロヘキシレン)メチレン基、1,3−又は1,4−フェニレン基、2,4−トルイレン基、1,4−,1,5−,2,6−,又は2,7−ナフチレン基、4,4’−ジフェニレン基、1,3−又は1,4−フェニレンジメチレン基、ビス(1,4−フェニレン)メチレン基等を挙げることができる。
また、Rは水素原子又はアルキル基であり、アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等を挙げることができる。
【0010】
したがって、ジカルボン酸又はその誘導体の具体例としては、一般式(IIIA)のものとしては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,3−又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−又は1,4−シクロヘキサン二酢酸、ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)メタン、イソフタル酸、テレフタル酸、2,4−トルエンジカルボン酸、1,4−,1,5−,2,6−,又は2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、1,3−又は1,4−ベンゼン二酢酸、ビス(4−カルボキシフェニル)メタン等、及び、それらのジメチルエステル、ジエチルエステル等が挙げられ、一般式(IIIB)のものとしては、2,3−ノルボルネンジカルボン酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0011】
本発明で製造されるポリエステルは、下記の一般式(IV)
【化3】

(式中、R及びRは前記と同じ意味であり、nは2以上の整数である。)
で表されるもので、R及びRの具体例としては前記のもの等が挙げられる。また、pは1以上の整数であり、好ましくは1以上100000以下、より好ましくは1以上80000以下の整数である。一方、qは0以上の整数であり、好ましくは0以上100000以下、より好ましくは0以上80000以下である。
【0012】
本発明の反応で使用されるBPEF類、エチレングリコール又はポリエチレングリコール、ジカルボン酸又はその誘導体のモル比は、目的とするポリエステルの構造や性状に応じて任意に決めることができる。通常は、BPEFを1モルに対し、エチレングリコール又はポリエチレングリコールは0〜1000モルであり、ジカルボン酸又はその誘導体は、0.1〜1000モルである。
【0013】
本発明では、無触媒でも反応は進行するが、より効率よく反応を進行させるために、ポリエステル製造において従来公知の各種の触媒を用いることができる。
それら触媒の具体例としては、ゲルマニウム、スズ、アンチモン、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、リチウム、コバルト、マンガン等の金属を含む化合物や硫酸、p−トルエンスルホン酸等の酸性化合物が挙げられ、金属を含む化合物をより具体的に示せば、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酸化ゲルマニウム、酸化アンチモン、塩化スズ、テトライソプロポキシゲルマニウム、オクタン酸スズ、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム等が挙げられる。
【0014】
反応の温度は、−20℃以上、好ましくは0〜320℃、より好ましくは40〜300℃であり、反応時間は反応温度にもよるが、1〜120分、好ましくは1〜100分、より好ましくは1〜80分程度である。
【0015】
また、反応は、溶媒の有無にかかわらず実施できるが、溶媒を用いる場合には、デカリン、デカン等の炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジブチルエーテル等のエーテル等、原料と反応するものを除いた各種の溶媒が使用可能で、2種以上混合して用いることもできる。
【0016】
本発明の方法は、密封系でも行うことができるが、副生する水又はアルコールを効率よく除去するために、開放系で空気又は窒素等を流しながら行うことができる。また、密封系では、反応系を減圧下にすることにより、より効率よく反応を進行させることができる。減圧の条件としては、通常0.01〜200mmHgで、好ましくは0.01〜100mmHg、さらに好ましくは0.01〜50mmHgである。
【0017】
本発明の反応におけるマイクロ波の照射では、接触式または非接触式の温度センサーを備えた各種の市販装置等を使用できる。さらに、マイクロ波照射の出力、キャビティの種類(マルチモード、シングルモード)、照射の形態(連続的、断続的)等は、反応のスケールや種類等に応じて任意に決めることができる。
【0018】
本発明の方法ではポリエステルがほぼ定量的に得られるが、高分子量成分を分画するための精製は、再沈殿、クロマトグラフィー等の通常用いられる手段により容易に達せられる。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(Ia) 1.0mmol、エチレングリコール(IIa) 1.0mmol、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(IIIA−a) 2.0mmol、テトライソプロポキシゲルマニウム 1.7mg、デカリン 0.5mlの混合物を反応管に入れ、放射温度計を備えたマイクロ波照射装置(CEM社製、Discover、シングルモード型)を用いて、攪拌しながら5分で220℃まで昇温させた後、反応管を減圧(約15mmHg)にして、220℃でさらに10分間反応を行った。得られた固体生成物をGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー、ポリスチレン標準)で分析した結果、重量平均分子量4700のポリエステル(IVa)がほぼ定量的に生成したことがわかった。
【0020】
(実施例2〜14)
反応条件(触媒、反応方法等)を変えて、実施例1と同様に反応及び分析を行い、生成したポリエステル(IVa)の分子量を測定した結果を表1に示す。
【表1】

1)Ge(O-i-Pr)4:テトライソプロポキシゲルマニウム、Mn(OAc)2:酢酸マンガン、
Ca(OAc)2:酢酸カルシウム(触媒量はいずれも1.7mg)
2)方法A:5分で220℃まで昇温させた後、減圧下(約15mmHg)で反応を継続。
方法B:5分で220℃まで昇温させた後、常圧で10分反応を行い、さらに減圧下
(約15mmHg)で反応を継続。
方法C:反応管に窒素を流しながら反応を実行。
方法D:反応管を封管にして反応を実行。
3)マイクロ波の照射を始めてから停止までの時間。
【0021】
(実施例15)
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(Ia) 1.0mmol、エチレングリコール(IIa) 1.0mmol、テレフタル酸ジメチル(IIIA−b) 2.0mmol、酢酸カルシウム 3.2mg、酸化ゲルマニウム 1.0mgの混合物を反応管に入れ、密封した後、放射温度計を備えたマイクロ波照射装置(CEM社製、Discover、シングルモード型)を用いて、攪拌しながら250℃で60分反応させた。得られた固体生成物をGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー、ポリスチレン標準)で分析した結果、重量平均分子量2100のポリエステル(IVb)が生成したことがわかった。
【0022】
(実施例16)
酸化ゲルマニウムの代わりに酸化アンチモンを用い、反応温度、時間を300℃、60分として、実施例15と同様に反応及び分析を行った結果、重量平均分子量1600のポリエステル(IVb)が生成したことがわかった。
【0023】
(実施例17)
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(Ia) 1.0mmol、エチレングリコール(IIa) 1.0mmol、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル (IIIA−c) 2.0mmolの混合物を反応管に入れ、密封した後、反応温度、時間を280℃、60分として実施例15と同様に反応及び分析を行った結果、重量平均分子量2200のポリエステル(IVc)が生成したことがわかった。
【0024】
(実施例18)
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(Ia) 1.0mmol、エチレングリコール(IIa) 1.0mmol、2,3−ノルボルネンジカルボン酸無水物(IIIB−a) 2.0mmol、酢酸カルシウム 3.2mg、酸化ゲルマニウム 1.0mgの混合物を反応管に入れ、密封した後、反応温度、時間を220℃、30分として実施例15と同様に反応及び分析を行った結果、重量平均分子量700のポリエステル(IVd)が生成したことがわかった。
【0025】
(比較例1)
マイクロ波照射装置の代わりにオイルバスを用いる他は実施例5と同様に反応を行い、GPCで生成したIVaを分析した結果、その重量平均分子量は1200であり、実施例5で得られた重量平均分子量4500よりも低いものであった。このことは、マイクロ波照射の反応が、同じ反応温度・時間でのオイルバスによる通常加熱の反応に比べ、短時間でより高分子量のポリエステルを与えることを示している。
【0026】
(比較例2〜4)
他の実施例において、比較例1と同様に、オイルバスでの反応を行いGPCで生成したポリエステルを分析した結果を、対応する実施例の結果と共に表2に示す。
【表2】

【0027】
いずれの比較例においても、ポリエステルの分子量は対応する実施例の値よりも小さく、マイクロ波照射を用いることにより、触媒の種類等の反応条件に関わりなく、高分子量のポリエステルをより効率的に製造できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の方法により、各種機能性材料として広範に利用されている高分子量のフルオレン含有ポリエステルを、より効率的かつ安全に製造できる。特に、本発明により得られるポリエステルは、耐熱性、透明性、高屈折性、高強度性等に優れ、光学レンズ、光学フィルム等の光学材料や高強度材料等への応用が期待される高機能材料用として有用であり、本発明の工業的意義は多大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示す。環上の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。)
で表されるフルオレン誘導体を、下記の一般式(II)
HO(CHCHO)H (II)
(式中、mは1以上の整数である。)
で表されるエチレングリコール又はポリエチレングリコールの存在下又は不在下で、下記の一般式(IIIA)又は(IIIB)
C−R−CO (IIIA)
【化2】

(式中、Rは、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、又はアリーレンアルキレンアリーレン基を示す。それら基の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。Rは水素原子又はアルキル基である。)
で表されるジカルボン酸又はその誘導体と、マイクロ波を照射して反応させることを特徴とする、下記の一般式(IV)
【化3】

(式中、R、R、及びmは前記と同じ意味であり、pは1以上の整数であり、qは0以上の整数である。)
で表されるポリエステルの製造方法。
【請求項2】
触媒を共存させて反応を行うことを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
前記触媒として、ゲルマニウム、マンガン、カルシウムの化合物を用いることを特徴とする請求1又は2の方法。

【公開番号】特開2009−167267(P2009−167267A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5584(P2008−5584)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月1日 インターネットアドレス「http://www.spsj.or.jp/ppc10/ppctop.html」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発・省エネルギー技術開発プログラム/革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】