説明

フルオロアルキルホスフェート組成物

式(I)又は(II)
【化1】


(式中、rおよびqは独立して1〜3の整数であり、Rfは炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基であり、jは整数0又は1、又はこれらの混合であり、xは1又は2であり、Zは−O−又は−S−であり、Xは水素又はMであり、Mはアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、又はアルカノールアンモニウムイオンである)の化合物を含む組成物を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフッ素化された鎖中にフッ化ビニリデンテロマー結合を含有するポリフッ素化化合物の分野に関し、特にこのようなフルオロホスフェート、および界面活性剤、紙、木材、セラミックス、タイル、セメント、又は石などの基材に撥水性、撥油性および撥脂性を付与するコーティング又は処理剤の添加剤としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフッ素化組成物は、様々な表面処理材料の調製に使用される。これらのポリフッ素化組成物は、典型的には、ヒドロキシル基、カルボン酸基、およびハロゲン化物基などの更に反応し得る非フッ素化官能基に直接又は間接的に結合した過フッ素化炭素鎖で構成されている。過フッ素化組成物から製造される様々な材料は、基材に表面効果を付与する界面活性剤又は処理剤として有用であることが知られている。表面効果としては、水分、汚れ、および染みをはじく性質などが挙げられ、これらは、繊維基材および硬質表面などの他の基材に特に有用である。このような界面活性剤および処理剤の多くは、フッ素化ポリマー又はコポリマーである。
【0003】
基材に表面効果を付与する処理剤として有用なほとんどの市販のフッ素化ポリマーは、所望の特性を付与するため、パーフルオロアルキル鎖の炭素数が主に8以上である。Hondaらは、Macromolecules, 2005,38, 5699−5705で、炭素数が8より大きいパーフルオロアルキル鎖ではパーフルオロアルキル基(Rf基と示される)の配向は平行な配置に維持されるが、炭素数6未満のこのような鎖では再配向が起こることを教示している。この再配向は、接触角などの表面特性を低下させる。従って、より鎖短のパーフルオロアルキルを含有するポリマーは、従来、商業的に成功しなかった。
【0004】
欧州特許第1238004号明細書(Longoriaら)は、石、メーソンリー、および他の硬質表面に耐汚染性(stain resistance)を付与するのに使用されるフルオロアルキルホスフェートとフルオロアクリレートポリマーの混合物を開示している。
【0005】
特定の表面効果を改善し、且つフッ素有効性を増加させること、即ち、同レベルの性能を達成するのに必要な高価なフッ素化組成物がより少量で済むように、又は、同レベルのフッ素を使用してより良好な性能が達成されるように、処理剤の有効性又は性能を向上させることが望ましい。パーフルオロアルキル基の鎖長を減少させ、それによって、存在するフッ素の量を減少させると共に、依然として同じ又はより優れた表面効果を達成することが望ましい。
【0006】
基材用のフッ素化処理剤のはじく性質および耐汚染性を著しく改善すると共に、より低レベルのフッ素を使用する組成物が必要とされている。耐ブロッキング性および長いオープンタイム延長(open time extension)を付与するため、塗料、ステイン、又は透明塗料などのコーティング中の添加剤として有用な組成物も必要とされている。本発明は、このような組成物を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、式(I)又は(II)の1種類以上の化合物を含む組成物であり:
【0008】
【化1】

【0009】
式中、
rおよびqは、独立して1〜3の整数であり、
fは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基であり、
jは、整数0又は1、又はその混じり合ったものであり、
xは、1又は2であり、
Zは、−O−又は−S−であり、
Xは、水素又はMであり、
Mは、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、又はアルカノールアンモニウムイオンである。
【0010】
本発明の別の態様は、基材を、式(I)又は(II)の1種類以上の化合物を含む組成物と接触させることを含む、基材に撥水性、撥油性、および耐汚染性を付与する方法である。
【0011】
本発明の別の態様は、コーティング組成物が積層される基材に耐ブロッキング性、オープンタイム延長および撥油性を付与する方法であって、基材に積層する前にコーティング組成物に、式(I)又は(II)の1種類以上の化合物を含む組成物を添加することを含む方法である。
【0012】
本発明の別の実施形態は、式(I)又は(II)の1種類以上の化合物を含む組成物が塗布された基材である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、商標は大文字で示される。
【0014】
本発明は、基材表面に塗布されると、改善された撥油性、撥水性、および耐汚染性を付与する水性フッ素化組成物、並びに本発明の組成物でこのような基材を処理するプロセスを含む。本発明の組成物は、また、このような組成物でコーティングされた基材にある一定の表面特性を付与するため、コーティング組成物に添加する時に有用である。本発明の他の実施形態は、撥油性および染みをはじく性質(stain repellency)などの改善された表面特性を有する基材を含む。
【0015】
本発明の様々な実施形態に有用な前述の式(I)および(II)のフッ素化化合物は、次の図式による合成で入手可能である:
【0016】
【化2】

【0017】
フッ化ビニリデン(VDF)と直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキルアイオダイドとのテロメリゼーションは周知であり、構造式Rf(CH2CF2pIの化合物を製造し、式中、pは1〜3又はそれより大きく、RfはC1〜C6パーフルオロアルキル基である。例えば、Balagueら、「Synthesis of fluorinated telomers, Part 1, Telomerization of vinylidene fluoride with perfluoroalkyl iodides」,J.Flour Chem.(1995),70(2),215−23を参照されたい。特定のテロマーアイオダイド(V)は、分留によって単離される。米国特許第3,979,469号明細書(Ciba−Geigy、1976年)に記載の手順により、テロマーアイオダイド(V)をエチレンで処理し、テロマーエチレンアイオダイド(VI)を得ることができ、式中、qは1〜3又はそれより大きい。国際公開第95/11877号パンフレット(Elf Atochem S.A.)に開示されている手順に従って、テロマーエチレンアイオダイド(VI)をオレウムで処理し、加水分解し、対応するテロマーアルコール(VII)を得ることができる。高圧の過剰のエチレンを用いてテロマーエチレンアイオダイド(VI)のより大きい同族体(q=2、3)を得ることができる。J.Fluorine Chemistry, 104,2 173−183(2000)に記載の手順に従って、テロマーエチレンアイオダイド(VI)を様々な試薬で処理し、対応するチオールを得ることができる。一例は、テロマーエチレンアイオダイド(VI)をチオ酢酸ナトリウムと反応させた後、加水分解することである。
【0018】
フッ化ビニリデンとエチレンのテロメリゼーションから誘導され、本発明に有用な特定のフッ素化テロマーアルコールを表1Aに列挙する。
【0019】
【表1】

【0020】
本発明の化合物を形成するのに有用な特定のフルオロエーテルチオールとしては、表1Bに列挙されるものが挙げられる。
【0021】
【表2】

【0022】
式(I)および(II)のフルオロアルキルホスフェートは、Longoriaらにより米国特許第6,271,289号明細書に、および、BraceおよびMackenzieにより米国特許第3,083,224号明細書に記載されている方法に従って調製され、これらの文献はそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。典型的には、五酸化リン(P25)又はオキシ塩化リン(POCl3)をフルオロアルキルアルコール又はフルオロアルキルチオールと反応させてモノ−およびビス(フルオロアルキル)リン酸の混合物を得る。アンモニウム又は水酸化ナトリウムなどの一般的な塩基、又はアルカノールアミン(例えば、ジエタノールアミン(DEA))を使用して中和すると、対応するホスフェートが得られる。過剰のフルオロアルキルアルコール又はフルオロアルキルチオールをP25と反応させた後、中和すると、モノ(フルオロアルキル)ホスフェートとビス(フルオロアルキル)ホスフェートの混合物が得られる。米国特許第4,145,382号明細書のHayashiおよびKawakamiの方法を使用すると、ビス(フルオロアルキル)ホスフェートとモノ(フルオロアルキル)ホスフェートの比が大きくなる。同様の方法でホスファイト組成物とホスフィネート組成物が調製される。
【0023】
次いで、得られる組成物を水、水と溶媒との混合物で希釈するか、又は、更に、基材に最終的に塗布するための溶媒(以下、「塗布溶媒」)として好適な単純なアルコールおよびケトンを含む群から選択される溶媒中に分散若しくは溶解させる。或いは、界面活性剤を用いて従来の方法で製造された水性分散体は、蒸発による溶媒の除去および当業者に既知の乳化又は均質化手順の使用により調製される。溶媒を含まないこのような乳濁液は、可燃性および揮発性有機化合物(VOC)の問題を最小限にするのに好ましい場合がある。基材に塗布される最終製品は、分散体(水をベースにする場合)、又は溶液であってもよい。
【0024】
最大の収量、生産性又は製品品質を得るために、前述の手順のいずれか又は全てに多くの変更を使用して、反応条件を最適化してもよいことが当業者には明らかである。
【0025】
本発明は、塩基、好ましくはジアルカノールアミン塩基などのアミンで中和されたアニオン性フルオロアルキルリン酸、亜リン酸、又はホスホン酸水溶液の混合物を含む水性フッ素化混合物を含む。組成物はpH約5〜約10、好ましくは約6〜約9、最も好ましくは約6〜約8に中和される。
【0026】
フルオロアルコール又はフルオロチオール、酸、および塩基の様々なモル比をフォーマット(a:1:b)で識別することができる:従って、(2:1:1)塩は、例えば、ビス(フルオロアルキル)ホスフェートアミン塩であり、(1:1:2)塩は、例えば、フルオロアルキルホスフェートビス(アミン塩)であり、(1:1:1)塩は、例えば、フルオロアルキルホスフェートアミン塩である。好ましくは、(2:1:1)塩は、ビス(フルオロアルキル)ホスフェートジエタノールアミン塩であり、(1:1:2)塩は、フルオロアルキルホスフェートビス(ジエタノールアミン塩)であり、(1:1:1)塩は、フルオロアルキルホスフェートジエタノールアミン塩である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態は、式(I)又は(II)の組成物であり、式中、Rfは炭素数4〜6であり、r、qおよびjはそれぞれ=1である。他の好ましい実施形態は、Mがアンモニウム又はアルカノールアンモニウムイオンである組成物である。本発明の他の好ましい組成物は、式(I)のモノ(フルオロアルキル)ホスフェート(式中、x=1)を約15〜80モル%、および式(I)のビス(フルオロアルキル)ホスフェート(式中、x=2)を約20〜約85モル%を含む。これらの好ましい組成物は、本明細書に記載の塗布方法および処理された基材を含む本発明の他の全ての実施形態に有用であり、好ましい。
【0028】
フルオロアルキルホスフェートの塩は、水に対する溶解度が高いため、米国特許第3,083,224号明細書に概述されている対応する酸より好ましい。
【0029】
本発明は、更に、基材を、前述の式(I)又は(II)の組成物又はこれらの混合物と接触させることを含む、基材に撥水性、撥油性、および耐汚染性を付与する方法を含む。本発明の組成物は、典型的には、以下に限定されないが、刷毛、スプレー、ローラー、ドクターブレード、ワイプ、浸漬、ディップ法、発泡、液体注入、およびキャスティングを含む従来の手段で基材を組成物と接触させることによって塗付される。任意に、2つ以上の被膜を特に多孔質表面に使用することができる。
【0030】
基材の製造中に本発明の組成物を添加剤として使用することができる。それらは製造中の任意の好適な時点で添加することができる。例えば、紙の場合、それらをサイズプレスで製紙用パルプに添加することができる。好ましくは、組成物の乾燥固形分および乾燥紙繊維を基準にして本発明の組成物を約0.3重量%〜約0.5重量%、製紙用パルプに添加する。
【0031】
本発明の組成物は、紙の表面処理剤として使用されるとき、典型的には水で希釈され、固形分を基準にして組成物を約0.01重量%〜約20重量%、好ましくは約0.1重量%〜約10重量%、最も好ましくは約0.5重量%〜約5重量%有する塗布溶液が得られる。紙に塗布される時の塗布量は、塗布溶液約10g/m2〜約200g/m2、好ましくは約10g/m2〜約100g/m2である。好ましくは、塗布の結果、固形分約0.1g/m2〜約5.0g/m2が紙に塗布される。
【0032】
本発明の組成物は、石、タイル、および他の硬質表面に使用されるとき、典型的には水で希釈され、固形分を基準にして組成物を約0.1重量%〜約20重量%、好ましくは約1.0重量%〜約10重量%、最も好ましくは約2.0重量%〜約5.0重量%有する塗布溶液が得られる。基材に塗布される時の塗布量は、半多孔質基材(例えば、石灰石)では一平方メートル当たり塗布溶液約100g(g/m2)であり、多孔質基材(例えば、サルティヨ(Saltillo))では200g/m2である。好ましくは、塗布の結果、固形分約0.1g/m2〜約2.0g/m2が表面に塗布される。
【0033】
本発明の組成物はそれ自体で、又は他の1種類以上の仕上剤若しくは表面処理剤と組み合わせて、基材に塗布されるか又は基材と接触させられる。本発明の組成物は、任意に、追加の表面効果を達成するための処理剤若しくは仕上剤などの追加の成分、又は一般にこのような処理剤若しくは仕上剤と一緒に使用される添加剤を更に含む。このような追加の成分は、染みをはじく性質、染み除去性、汚れをはじく性質(soil repellency)、汚れ除去性、撥水性、撥油性、抗微生物保護、および類似の効果などの表面効果を付与する化合物又は組成物を含む。このような処理剤又は仕上剤の1つ以上を本発明の組成物とブレンドし、基材に塗布することができる。
【0034】
一般にこのような処理剤又は仕上剤と一緒に使用される他の添加剤(界面活性剤、pH調整剤、レベリング剤、湿潤剤、および当業者に既知の他の添加剤など)が存在してもよい。このような仕上剤又は処理剤の例としては、加工助剤、発泡剤、潤滑剤、および防汚剤(anti−stains)などが挙げられる。組成物は、製造施設、小売業者のところで、又は、取り付けおよび使用の前に、又は消費者のところで塗布される。
【0035】
本発明は、更に、基材に積層する前に上式(I)又は(II)又はこれらの混合の組成物をコーティング組成物に添加することを含む、コーティング組成物が積層される基材に耐ブロッキング性、オープンタイム延長、および撥油性を付与する方法を含む。本明細書で「コーティングベース」の用語で称される好適なコーティング組成物としては、アルキドコーティング、タイプIウレタンコーティング、不飽和ポリエステルコーティング、又は水分散コーティングの組成物、典型的には液体配合物が挙げられ、これらは基材表面に耐久性皮膜を作り出すために基材に塗付される。これらは、従来の塗料、ステインおよび類似のコーティング組成物である。
【0036】
「アルキドコーティング」の用語は、本明細書で使用される時、アルキド樹脂をベースにする従来の液体コーティング、典型的には塗料、透明塗料、又はステインを意味する。アルキド樹脂は、不飽和脂肪酸残基を含有する複雑な分岐および架橋ポリエステルである。従来のアルキドコーティングは、バインダ又は皮膜形成成分として硬化性又は乾性アルキド樹脂を使用する。アルキド樹脂コーティングは、乾性油から誘導された不飽和脂肪酸残基を含有する。これらの樹脂は、酸素又は空気の存在下で自発的に重合し、固い保護膜を形成する。重合は、「乾燥」又は「硬化」と称され、大気中の酸素による油の脂肪酸成分中の不飽和炭素−炭素結合の自動酸化の結果として起こる。配合アルキドコーティングの薄い液層として表面に塗付されるとき、形成する硬化皮膜は比較的硬質で、非溶融性であり、非酸化アルキド樹脂又は乾性油の溶媒又は希釈剤の役割をする多くの有機溶媒に実質的に不溶性である。このような乾性油は、油をベースにするコーティングの原料として使用され、文献に記載されている。
【0037】
「ウレタンコーティング」の用語は、以下で使用される時、タイプIウレタン樹脂をベースにする従来の液体コーティング、典型的には塗料、透明塗料、又はステインを意味する。ウレタンコーティングは、典型的にはポリイソシアネート(通常はトルエンジイソシアネート)と乾性油の酸の多価アルコールエステルとの反応生成物を含有する。ウレタンコーティングは、ASTM D−1により5つのカテゴリーに分類される。タイプIウレタンコーティングは、前述のSurface Coatings Vol.Iに記載の予備反応した自動酸化性バインダを含有する。これらはウラルキド、ウレタン変性アルキド、油変性ウレタン、ウレタン油、又はウレタンアルキドとしても知られ、ポリウレタンコーティングの最大のカテゴリーであり、これらには塗料、透明塗料、又はステインが含まれる。バインダ中の不飽和乾性油残基の空気酸化および重合によって、硬化したコーティングが形成される。
【0038】
「不飽和ポリエステルコーティング」の用語は、以下で使用される時、モノマー中に溶解し、必要に応じて開始剤と触媒を含有する不飽和ポリエステル樹脂をベースにする従来の液体コーティング、典型的には塗料、透明塗料又はゲルコート配合物を意味する。不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和プレポリマーとして、1,2−プロピレングリコール又は1,3−ブチレングリコールなどのグリコールと、酸無水物の形態のマレイン酸(又は、マレイン酸と、飽和酸、例えば、フタル酸)などの不飽和酸との重縮合から得られる生成物を含有する。不飽和プレポリマーは、鎖中に不飽和を含有する直鎖ポリマーである。これは、例えば、スチレンなどの好適なモノマー中に溶解し、最終樹脂を生成する。フリーラジカル機構による直鎖ポリマーとモノマーとの共重合により皮膜が形成される。熱により、又は、より一般的には、別々に包装され使用前に添加されるベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物の添加によりフリーラジカルを発生させることができる。このようなコーティング組成物は、「ゲルコート」仕上剤と称されることが多い。硬化が室温で起こり得るように、過酸化物のフリーラジカルへの分解はある一定の金属イオン、通常はコバルトによって触媒される。塗布する前に、過酸化物とコバルト化合物の溶液を混合物に別々に添加し、十分攪拌する。フリーラジカル機構によって硬化する不飽和ポリエステル樹脂も、例えば、紫外線を使用する照射硬化に適している。熱が発生しないこの硬化形態は、木材又は板の皮膜に特に適している。例えば、電子線硬化などの他の放射線源も使用される。
【0039】
「水分散コーティング」の用語は、本明細書で使用される時、水相中に分散した皮膜形成材料の乳濁液、ラテックス、又は懸濁液などの、水を必須分散成分として構成される基材の装飾又は保護を目的としたコーティングを意味する。「水分散コーティング」は、多数の配合物を表す一般的な分類であり、前述の分類の要素並びに他の分類の要素を含む。水分散コーティングは、一般に、他の一般的なコーティング成分を含有する。水分散コーティングの例としては、ラテックス塗料などの顔料コーティング、ウッドシーラー、ステイン、および仕上剤などの非顔料コーティング、メーソンリーおよびセメント用のコーティング、並びに水をベースにするアスファルト乳剤が挙げられるが、これらに限定されない。水分散コーティングは、任意に、界面活性剤、保護コロイドおよび増粘剤、顔料および体質顔料、防腐剤、殺真菌剤、凍解安定剤、消泡剤、pH調整剤、融合助剤(coalescing aids)、および他の成分を含有する。ラテックス塗料では、皮膜形成材は、アクリレート、アクリル、ビニル−アクリル、ビニル、又はこれらの混合物のラテックスポリマーである。このような水分散コーティング組成物は、C.R.Martensによって「Emulsion and Water−Soluble Paints and Coatings」(Reinhold Publishing Corporation, New York, NY, 1965)に記載されている。
【0040】
「乾燥コーティング」の用語は、本明細書で使用される時、コーティング組成物が乾燥、固化又は硬化した後に得られる最終的な装飾および/又は保護皮膜を意味する。このような最終皮膜は、例えば、硬化、融合(coalescing)、重合、相互侵入、放射線硬化、紫外線硬化、又は蒸発によって得ることができるが、これらに限定されない。最終皮膜は、また、ドライコーティングにおけるように乾燥した最終的な状態で塗布することもできる。
【0041】
ブロッキングは、コーティングされた2つの表面が押し合わせられたときの、又は長時間互いに接触して配置されたときの望ましくない付着である。ブロッキングが起こったとき、表面を分離させると、その結果、一方の又は両方の表面のコーティングが破壊する可能性がある。従って、耐ブロッキング性の改善は、例えば、窓枠におけるように、コーティングされた2つの表面が接触していなければならない多くの場合に有利である。
【0042】
「オープンタイム延長(open time extension)」の用語は、本明細書では、液体コーティング組成物の層を隣接する液体コーティング組成物層に、塗り継ぎむら(lap mark)、刷毛目、又は他の塗布跡を示すことなく溶け込ませることができる時間を意味するのに使用される。それはウエットエッジタイム(wet−edge time)とも称される。低沸点の揮発性有機化学物質(VOC)を含有するラテックス塗料は、高沸点のVOC溶媒を含まないため、所望されるより短いオープンタイムを有する。オープンタイム延長がないと、重なった刷毛目又は他の跡などの表面欠損が生じる。コーティングされた表面の外観が重要であるときは、オープンタイム延長が長い方が有利であるが、その理由は、1つのコーティング層とそれに隣接するコーティング層が重なった領域に、重なり跡、刷毛目、又は他の塗布跡を残すことなくコーティングを塗布することができるからである。
【0043】
本発明の組成物は、添加剤として使用されるとき、室温又は周囲温度で入れて完全に攪拌することにより、コーティングベース又は他の組成物に有効に導入される。振盪機を使用すること又は熱若しくは他の方法の提供することなどの、より入念な混合を使用することができる。このような方法は必要ではなく、最終組成物を実質的に改善しない。本発明の組成物は、ラテックス塗料の添加剤として使用されるとき、一般に湿潤塗料中に本発明の組成物の乾燥重量で約0.001重量%〜約5重量%添加される。好ましくは約0.01重量%〜約1重量%、より好ましくは0.1重量%〜約0.5重量%が使用される。
【0044】
本発明は、また、本発明の組成物で処理された基材も含む。好適な基材としては、繊維基材と硬質表面基材が挙げられる。繊維基材としては、木材、紙、および皮革が挙げられる。硬質表面基材としては、ガラス、石、メーソンリー、コンクリート、非施釉タイル、レンガ、多孔質粘土、および表面多孔性を有する他の様々な基材などの多孔質および非多孔質の鉱物表面が挙げられる。このような基材の特定の例としては、非施釉コンクリート、レンガ、タイル、石(花こう岩、石灰石、および大理石を含む)、グラウト、モルタル、彫像用材、モニュメント、木材、テラゾーなどの複合材料、および、石膏ボードで製造されたものを含む壁および天井パネルが挙げられる。これらは、建築物、道路、駐車場(parking ramps)、ドライブウェイ、フローリング、暖炉、暖炉炉床、カウンタートップの建造、並びに、内装および外装用途における他の装飾的用途に使用される。
【0045】
本発明の組成物は、処理された基材に優れた撥水性、撥油性、および耐汚染性の1つ以上を付与するのに有用である。それらは、本発明の組成物が添加されたコーティング組成物でコーティングされる基材に耐ブロッキング性、オープンタイム延長、および撥油性を付与するのに有用である。これらの特性は、従来のパーフルオロカーボン表面処理剤と比較して低いフッ素濃度を使用して得られ、処理された表面の保護において改善された「フッ素効果」を付与する。本発明の組成物は、従来のフルオロケミカル表面保護剤のフッ素濃度の約二分の一から三分の一のフッ素濃度で有効である。また、本発明の組成物は、フッ素化された炭素原子の数が6以下である、より短いフルオロアルキル基の使用が可能であるが、従来の市販の表面処理製品は、フルオロアルキル基の炭素数が8未満である場合、典型的には撥油性と撥水性性能が不良である。
【0046】
材料および試験方法
本明細書の実施例に以下の材料および試験方法を使用した。表1Aおよび表1Bの特定のアルコールおよびチオールのリストおよび本明細書の実施例に記載されているC37基、C49基、およびC613基は、別途明記されない限り、直鎖パーフルオロアルキル基を指す。化合物番号は、表1Aのアルコールのリストを指す。
【0047】
化合物6
49CH2CF2I(217g)およびd−(+)−リモネン(1g)が投入されたオートクレーブにエチレン(25g)を導入し、反応器を240℃で12時間加熱した。真空蒸留で生成物を単離し、C49CH2CF2CH2CH2Iを得た。
【0048】
49CH2CF2CH2CH2I50gに発煙硫酸(70mL)をゆっくりと添加し、混合物を60℃で1.5時間攪拌した。1.5重量%の氷冷Na2SO3水溶液で反応を急冷し、95℃で0.5時間加熱した。下層を分離し、10重量%の酢酸ナトリウム水溶液で洗浄し、蒸留して、化合物6(2mmHg(267パスカル)で沸点54〜57℃)を得た。
【0049】
化合物7
49(CH2CF22I(181g)およびd−(+)−リモネン(1g)が投入されたオートクレーブにエチレン(18g)を導入し、反応器を240℃で12時間加熱した。生成物を蒸留し、C49(CH2CF22CH2CH2Iを得た。
【0050】
49(CH2CF22CH2CH2I(10g)とN−メチルホルムアミド(8.9mL)を150℃に26時間加熱した。反応を100℃に冷却した後、水を添加して、粗エステルを分離した。粗エステルにエチルアルコール(3mL)とp−トルエンスルホン酸(0.09g)を添加し、反応を70℃で15分間攪拌した。次いで、ギ酸エチルおよびエチルアルコールを留去して粗生成物を得た。粗アルコールをエーテルに溶解し、亜硫酸ナトリウム水溶液、水、および食塩水で連続して洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。生成物を蒸留し、化合物7(2mmHg(257パスカル)で沸点90〜94℃)を得た。
【0051】
化合物11
613CH2CF2I(170g)およびd−(+)−リモネン(1g)が投入されたオートクレーブにエチレン(15g)を導入した後、反応器を240℃で12時間加熱した。生成物を真空蒸留により単離し、C613CH2CF2CH2CH2Iを得た。
【0052】
613CH2CF2CH2CH2I(112g)に発煙硫酸(129mL)をゆっくりと添加した。混合物を60℃で1.5時間攪拌した。1.5重量%の氷冷Na2SO3水溶液で反応を急冷し、95℃で0.5時間加熱した。下層を分離し、10%の酢酸ナトリウム水溶液で洗浄し、蒸留して、化合物11(融点38℃)を得た。
【0053】
化合物12
613(CH2CF22I(714g)およびd−(+)−リモネン(3.2g)が投入されたオートクレーブにエチレン(56g)を導入し、反応器を240℃で12時間加熱した。生成物を真空蒸留により単離し、C613(CH2CF22CH2CH2Iを得た。C613(CH2CF22CH2CH2I(111g)とN−メチルホルムアミド(81mL)を150℃に26時間加熱した。反応を100℃に冷却した後、水を添加して、粗エステルを分離した。粗エステルにエチルアルコール(21mL)とp−トルエンスルホン酸(0.7g)を添加し、反応を70℃で15分間攪拌した。次いで、ギ酸エチルおよびエチルアルコールを留去して粗アルコールを得た。粗アルコールをエーテルに溶解し、亜硫酸ナトリウム水溶液、水、および食塩水で順番に洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。生成物を真空下で蒸留し、化合物12(融点42℃)を得た。
【0054】
試験方法1−紙での撥油性
AATCCキット試験手順(AATCC Kit Test Procedure)(118−1977)を使用して紙の撥油性を試験した。各試験片を清浄な平面に試験面を上にして、試験される領域に触れないように注意して配置した。約1インチ(2.5cm)の高さから、中間のキット番号の試験瓶からの試験溶液を1滴、試験領域に滴下した。液滴がついた時、ストップウォッチをスタートさせた。正確に15秒後、過剰な流体を清浄なコットン紙の布切れで除去し、濡れた領域を直ぐに検査した。小さい領域でも液滴の下で浸透により試験片の顕著な暗色化が起こっていれば不合格とした。必要に応じて手順を繰り返し、他のキット番号の瓶からの液滴が非接触領域に滴下されたことを確認した。結果は、不合格になることなく15秒間試料の表面に存在した番号の最も大きい溶液であるキット評価(Kit Rating)として報告した。5つの試験片の平均キット評価を最も近い0.5整数にまるめて(to the nearest 0.5 integer)報告した。
【0055】
【表3】

【0056】
aKaydol(CAS#8020−83−5)は、Pfaltz & Bauer, Waterbury, CT, USAから入手可能な軽質鉱油である。
【0057】
試験方法2−建築用ラテックス塗料の耐ブロッキング性
本明細書に記載の試験方法は、これによって明確に参照により組み込まれるASTM D4946−89、建築用塗料の耐ブロッキング性の標準試験方法(Standard Test Method for Blocking Resistance of Architectural Paints)の変更である。
【0058】
試験される塗料の向かい合わせでの耐ブロッキング性をこの試験で評価した。ブロッキングは、この試験の目的では、塗装された2つの表面が押し合わせられたときの又は長時間互いに接触して配置されたときの望ましくない付着と定義される。
【0059】
試験される塗料を、アプリケータブレードを使用してポリエステル試験パネル上に流延した。塗装されたパネルは全て、油脂、油、指紋、塵埃などから保護されなければならない;表面汚染は耐ブロッキング性の結果に影響を及ぼす。典型的には、結果は塗料を流延した24時間後に求められる。所望の時間、試験方法に明記されているように空調された室内でパネルを調整した後、塗装された試験パネルから6つの正方形(3.8cm×3.8cm)を切り取った。試験される各塗料について、切り取った部分(3対)を塗料面が向かい合うようにして配置する。向かい合わせにした試験片を大理石のトレイに載せて50℃のオーブンに入れた。直径の小さい方が試験片と接触するようにして8番の栓を上に載せた後、1000gの重りを栓の上に載せた。この結果、試験片に1.8psi(12,400パスカル)の圧力がかかった。試験される各試験片について、1つの重りと栓を使用した。ちょうど30分後に栓と重りを試験片から取り除き、試験片をオーブンから取り出して、耐ブロッキング性を決定する前に30分間空調された室内で冷却した。
【0060】
冷却後、ゆっくりとした一定の力で剥離することにより、試験片を分離した。耐ブロッキング性を、この方法の実施者によって決定される主観的タック評価(塗装された試験片の分離時に出る音)又は封着(塗装された2つの表面の完全な接着)に対応する0〜10で評価した。タックの程度が実際に聞こえるように試験片を耳の近くに置いた。評価システムを表2Bに記載する。試験片の外観と接着する塗料表面の分率から封着の程度を評価した。塗料が試験パネル支持体から剥離するのは封着を示す。数字が大きいほど耐ブロッキング性が良好であることを示す。
【0061】
【表4】

【0062】
試験方法3−表面張力測定
Kruess Tensiometer, K11 Version 2.501を使用し、装置使用説明書に従って表面張力を測定する。Wilhelmyプレート法を使用する。既知の周長の垂直板を天秤に取り付け、濡れによる力を測定する。各希釈について10個の複製を試験し、次の機械設定を使用する:
方法:プレート法SFT
間隔:1.0s
湿潤長さ:40.2mm
読み限界:10
最小標準偏差:2ダイン/cm
重力加速度:9.80665m/s2
【0063】
試験方法4−接触角測定
A.W.AdamsonによってThe Physical Chemistry of Surfaces, Fifth Edition, Wiley & Sons, New York, NY, 1990に記載されている液滴法で接触角を測定する。接触角を測定するための装置および手順についての更なる情報は、R.H.Dettreらによって「Wettability」, Ed.by J.C.Berg, Mercel Dekker, New York, NY, 1993に記載されている。
【0064】
液滴法では、Rame−Hart光学ベンチ(Rame−Hart Inc., 43 Bloomfield Ave., Mountain Lakes, NJから入手可能)を使用して基材を水平位置に保持する。接触角は、同製造業者製の伸縮型のゴニオメータを用いて所定の温度で測定する。試験液を1滴、ポリエステルスクラブ試験パネル(Leneta P−121ダルブラック又は同等物、Leneta Company, Mahwah, NY)につけて、液滴と表面の接触点で正接を正確に測定する。液体の液滴のサイズを大きくすることによって前進角を測定し、液体の液滴のサイズを小さくすることによって後退角を測定する。データは、典型的には前進および後退接触面として表される。
【0065】
水と有機液体の接触角の関係、並びに表面の清浄性および汚れの保持性は前述のA.W.Adamsonによって記載されている。一般に、ヘキサデカン接触角が大きいほど、表面は汚れ(dirt)や汚れ(soil)をはじく性質が大きく、表面を容易に清浄化できることを示す。
【0066】
添加剤として本発明の組成物を含有する乾燥コーティング組成物の水およびヘキサデカンの前進角を、Leneta Company, Mahwah, NJから入手可能なLenataパネル上に流延したコーティング上で測定した。対照は、同じコーティング組成物であったが、本発明の組成物は添加されていなかった。
【0067】
試験方法5−オープンタイム延長
オープンタイムは、塗布される液体コーティング組成物の層を隣接する液体コーティング組成物層に、塗り継ぎむら、刷毛目又は他の塗布跡を示すことなく溶け込ませることができる時間である。それはウエットエッジタイム(wet−edge time)とも称される。低VOCラテックス塗料は、高沸点のVOC溶媒を含まないため、所望されるより短いオープンタイムを有する。十分なオープンタイムがないと、その結果、重なった刷毛目又は他の跡が生じる。オープンタイム試験は、本明細書に記載のサムプレス法(thumb press method)と称される十分に受け入れられている業界の慣例によって実施される。対照試料と試験される試料の活性成分0.1%を有する試料のダブルストリップドローダウンパネルを使用した。試験されるコーティング組成物と対照は同じコーティング組成物であるが、対照は試験される添加剤を含有しておらず、試験される試料は添加剤として本発明の組成物を含有する。パネルは、7cmのドクターブレードを用いて20〜25℃、相対湿度40〜60%で作製される。次いで、各試料に並行して1〜2分の間隔で同じ圧力でダブルサムプレスを行う。終点は、親指に塗料残留物が観察されない時点である。ドローダウンを行った時点から終点までの時間をオープンタイムとして記録する。対照と添加剤を含有する試料とのパーセント差をオープンタイム延長パーセントとして記録する。本発明の組成物は半光沢ラテックス塗料中で試験した。
【0068】
試験方法6−撥水性および撥油性の決定
この試験方法は、石灰石と花こう岩を含む硬質表面基材上での撥水性を試験する手順を記載する。石灰石(Euro Beige)と花こう岩(White Cashmere)の12インチ四方(30.5cm2)の正方形のタイルを4インチ(10.2cm)×12インチ(30.5cm)の試料に切断した。切断後、試料を洗浄して塵埃や汚れを取り除き、完全に、典型的には少なくとも24時間乾燥させた。本発明の組成物と脱イオン水を混合し、フッ素0.8重量%のフッ素濃度にすることによって浸透溶液を調製した。1/2インチ(1.3cm)の塗料刷毛を使用して溶液を各基材表面の試料に塗布した。次いで、表面を15分間乾燥させた。必要に応じて、処理液中に浸漬した布で表面を拭き、余剰を取り除いた。処理した基材を一晩乾燥させた後、脱イオン水3滴とキャノーラ油3滴を各基材につけて、5分間放置した。視覚的接触角測定を使用して撥水性と撥油性を決定した。次の評価チャートを使用し、以下に示すように0〜5のスケールを使用して接触角を決定した:
撥水撥油性評価5(優れている):接触角100〜120°
撥水撥油性評価4(非常に良好):接触角75〜90°
撥水撥油性評価3(良好):接触角45〜75°
撥水撥油性評価2(可):接触角25〜45°
撥水撥油性評価1(不良):接触角10〜25°
撥水撥油性評価0(浸透):接触角<10°
数字が大きいほど、撥水撥油性が大きいことを示し、2〜5の評価が許容可能である。データを水玉形成(water beading)および油玉形成(oil beading)として表に報告する。
【0069】
試験方法7−耐汚染性の決定
この方法を使用して石灰石基材と花こう岩基材上での耐汚染性を決定した。石灰石(Euro Beige)試料と花こう岩(White Cashmere)試料の12インチ四方(30.5cm2)の正方形のタイルを、4インチ(10.2cm)×12インチ(30.5cm)の試料に切断した。切断後、試料を洗浄して埃塵や汚れを取り除き、完全に、典型的には少なくとも24時間乾燥させた。本発明の組成物と脱イオン水を混合し、フッ素0.8重量%のフッ素濃度にすることによって浸透溶液を調製した。1/2インチ(1.3cm)の塗料刷毛を使用して溶液を各基材表面の試料に塗布した。次いで、表面を15分間乾燥させた。必要に応じて、処理液中に浸漬した布で表面を拭き、余剰を取り除いた。処理した基材を一晩乾燥させた後、次の食物の染み:1)熱いベーコンの油脂、2)コーラ、3)ブラックコーヒー、4)グレープジュース、5)イタリアンサラダドレッシング、6)ケチャップ、7)レモンジュース、8)マスタード、9)キャノーラ油、および10)モーター油を基材の表面に間隔を空けてつけた。24時間後、食物の染みを基材表面から吸取紙で吸い取った又は軽く擦り取った。基材の表面を水および1%の石鹸溶液で洗浄し、硬い剛毛ブラシを使用して表面を10サイクル前後に擦った。次いで、基材を水で洗浄し、評価する前に24時間乾燥させた。
【0070】
清浄にした後にタイル表面に残存する染みを次のように0〜4のスケールにより視覚的に評価した:0=染みなし;1=非常に薄い染み;2=薄い染み;3=中程度の染み;および4=濃い染み。各基材タイプについての評価を各染みについて合計し、各タイプについて複合評価を得た。1つの基材についての最大合計スコアは、10個の染み×最大スコア4=40である。スコアが低いほど防汚性(stain protection)が良好であり、20以下のスコアが許容可能であり、ゼロは染みが存在しない最良の防汚性を示す。
【実施例】
【0071】
実施例1
五酸化リン(1.44g、0.0102mol)を化合物6(10g、0.03mol、表1A)に85℃で添加し、混合物を100℃に16時間加熱した。次いで、イソプロピルアルコール(17.05mL)を反応混合物に85℃で添加し、0.5時間攪拌した後、脱イオン(DI)水(21.66mL)を添加した。1.5時間後、ジエタノールアミン(DEA、3.0mL、0.031mol)を添加し、反応を2時間65℃で攪拌し、式(I)(式中、r、qおよびj=1、Rf=−C49、およびX++NH2(CH2CH2OH)2である)のホスフェート1を得た。
【0072】
実施例2〜4
化合物11、7および12(表1A)を実施例1に記載されているのと同様に処理し、ホスフェート2(r、qおよびj=1、Rf=−C613)、ホスフェート3(r=2、qおよびj=1、Rf=−C49)、およびホスフェート4(r=2、qおよびj=1、Rf=−C613)をそれぞれ得たが、式中、各X++NH2(CH2CH2OH)2である。
【0073】
比較例A
式F(CF2aCH2CH2OHのパーフルオロアルキルエチルアルコール混合物(平均分子量471、式中、aは6〜14の範囲であり、主に6、8、および10である)を同等量使用したこと以外、実施例1の手順を使用した。典型的な混合物は次の通りであった:a=6が27%〜37%、a=8が28%〜32%、a=10が14%〜20%、a=12が8%〜13%、およびa=14が3%〜6%。
【0074】
実施例の試験
実施例1〜4と比較例Aの生成物を、同じ重量%の固形分になるように希釈し、紙試料にパッドを当てることによって紙に塗布した。乾燥後、試験方法1を使用して紙試料の撥油性を試験した。試験に使用した紙は、白紙(漂白された50番の紙)であった。結果を表3に記載する。
【0075】
【表5】

【0076】
これらの結果から、上記実施例は紙基材に塗布されると優れた撥油性を付与し、フッ化ビニリデンテロマー結合を含有しない炭素数6〜8のパーフルオロアルキル基を有する比較例に匹敵するか、又は、幾つかの場合、比較例より優れていることが実証された。
【0077】
実施例4の生成物を石灰石および花こう岩に塗布し、試験方法6を使用して撥水性と撥油性を試験し、試験方法7を使用して耐汚染性を試験した。結果を表4および表5に記載する。
【0078】
【表6】

【0079】
【表7】

【0080】
表4のデータから、実施例4の組成物で処理された石灰石は耐汚染性、撥油性および撥水性が改善されたことが分かり、従って、硬質多孔質表面保護シーラーとしての有効性が実証されている。表5のデータから、実施例4の組成物で処理された花こう岩も耐汚染性、撥油性および撥水性が改善されたことが分かり、従って、硬質多孔質表面保護シーラーとしての有効性が実証されている。
【0081】
試験方法3に従って実施例1〜4の表面張力も試験した。結果を表6に記載する。実施例1〜4を半光沢ラテックス塗料に湿潤塗料中の実施例の乾燥重量で0.03%の量で添加し、試験方法4を使用して接触角を試験し、試験方法2を使用して耐ブロッキング性を試験した。結果を表7と表8に記載する。実施例3および実施例4を半光沢ラテックス塗料に湿潤塗料中の実施例の乾燥重量で0.01%の量で添加し、試験5を使用してオープンタイム延長を試験した。結果を表9に記載する。
【0082】
実施例5
五酸化リン(0.99g、0.007mol)を化合物6(5g、0.016mol)に85℃で添加し、混合物を100℃に14時間加熱した。イソプロピルアルコール(5.31mL)を反応混合物に65℃で添加し、1時間、50℃で攪拌した後、DI水(6.72mL)を添加した。5分後、アンモニア(1.05mL、30%水溶液、0.027mol)を添加し、反応を1時間32℃で攪拌し、ホスフェート5(r、qおよびj=1、Rf=−C49)を得たが、式中、X++NH4である。生成物の31P NMRは、ビス(フルオロアルキル)ホスフェート(x=2)46.3mol%およびフルオロアルキルホスフェート(x=1)31.8mol%を示した。後述のように、得られた生成物の表面張力、接触角、耐ブロッキング性、およびオープンタイム延長を試験したが、その結果を表6〜9に記載する。
【0083】
実施例6〜8
化合物11、7および12(表1A)を実施例5に記載されているのと同様に処理し、ホスフェート6(r、qおよびj=1、Rf=−C613)、ホスフェート7(r=2、qおよびj=1、Rf=−C49)、およびホスフェート8(r=2、qおよびj=1、Rf=−C613)をそれぞれ得たが、式中、各X++NH4である。ホスフェート6の31P NMRは、ビス(フルオロアルキル)ホスフェート(x=2)43.1mol%およびフルオロアルキルホスフェート(x=1)28.9mol%を示した。ホスフェート7の31P NMRは、ビス(フルオロアルキル)ホスフェート(x=2)54.1mol%およびフルオロアルキルホスフェート(x=1)25.9mol%を示した。後述のように、得られた生成物の表面張力、接触角、耐ブロッキング性、およびオープンタイム延長を試験したが、その結果を表6〜9に記載する。
【0084】
実施例9
五酸化リン(0.96g、0.0068mol)を化合物6(5g、0.015mol)に85℃で添加し、混合物を105℃に14時間加熱した。エチレングリコール(12.5g、EG)を反応混合物に95℃で添加し、25分間攪拌した後、Sigma Aldrich, St.Louis, MOから入手可能なTERGITOL 15−S−9界面活性剤(1.16g)を86℃で添加した。10分後、アンモニア(0.95mL、0.0153mol、30%)を添加し、反応を10分間70℃で攪拌した。水(30mL)を添加し、反応を70℃で1時間攪拌し、アンモニア(1.6mL、30%)を添加して、pHを9.8に調整し、ホスフェート9(r、qおよびj=1、Rf=−C49)を得たが、式中、X++NH4である。後述のように、得られた生成物の表面張力、接触角、耐ブロッキング性、およびオープンタイム延長を試験したが、その結果を表6〜9に記載する。
【0085】
実施例10〜12
化合物11、7および12を実施例9に記載されているのと同様に処理し、ホスフェート10(r、qおよびj=1、Rf=−C613)、ホスフェート11(r=2、qおよびj=1、Rf=−C49)、およびホスフェート12(r=2、qおよびj=1、Rf=−C613)をそれぞれ得たが、各X++NH4である。後述のように、得られた生成物の表面張力、接触角、耐ブロッキング性、およびオープンタイム延長を試験したが、その結果を表6〜9に記載する。
【0086】
実施例の試験
実施例1〜12の生成物を、固形分(重量%)を基準にして脱イオン水に添加し、試験方法3に従って表面張力を試験した。得られたデータを表6に記載する。
【0087】
実施例1〜12の生成物を半光沢ラテックス塗料に、湿潤塗料中の本発明の組成物の乾燥重量で0.03重量%の量で添加した。試験方法4を使用して接触角を試験したが、得られたデータを表7に記載する。試験方法2に従って耐ブロッキング性を測定したが、その結果を表8に記載する。
【0088】
実施例1〜12の生成物を半光沢ラテックス塗料に、湿潤塗料中の本発明の組成物の乾燥重量で0.10重量%の量で添加した。試験方法5を使用してオープンタイム延長を測定したが、その結果を表9に記載する。
【0089】
【表8】

【0090】
脱イオン水の通常の表面張力は約72ダイン/cmである(表に添加剤0%として示す)。これらの試験の結果によれば、本発明の全ての実施例から優れた表面張力低下が見られる。
【0091】
【表9】

【0092】
ヘキサデカンの前進接触角は撥油性と相関関係がある。実施例1〜12の生成物は、ヘキサデカン(油)の接触角データによって優れた撥油性を実証した。
【0093】
比較例B
式F(CF2aCH2CH2OHのパーフルオロアルキルエチルアルコール混合物(式中、aは6〜14の範囲であり、主に6、8、および10である)を使用したこと以外、実施例5の手順を使用した。典型的な混合物は次の通りであった:a=6が27%〜37%、a=8が28%〜32%、a=10が14%〜20%、a=12が8%〜13%、およびa=14が3%〜6%。後述のように、得られた生成物の耐ブロッキング性およびオープンタイム延長を試験した。結果を表8および9に記載する。
【0094】
比較例C
式F(CF2bCH2CH2OHのパーフルオロアルキルエチルアルコール混合物(式中、bは6〜14の範囲であり、主に6、8、および10である)を使用したこと以外、実施例9の手順を使用した。典型的な混合物は次の通りであった:b=6が27%〜37%、b=8が28%〜32%、b=10が14%〜20%、b=12が8%〜13%、およびb=14が3%〜6%。後述のように、得られた生成物の耐ブロッキング性およびオープンタイム延長を試験した。結果を表8および9に記載する。
【0095】
実施例の試験
実施例1〜12および比較例Bおよび比較例Cを、半光沢ラテックス塗料に湿潤塗料中の組成物の乾燥重量で0.03重量%の量で添加し、試験方法2を使用して耐ブロッキング性を試験した。得られたデータを表8に記載する。実施例1〜12および比較例Bおよび比較例Cを、半光沢ラテックス塗料に湿潤塗料中の組成物の乾燥重量で0.10重量%の量で添加し、試験方法5を使用してオープンタイム延長を試験した。得られたデータ結果を表9に記載する。
【0096】
【表10】

【0097】
表8の結果によれば、実施例1〜12の生成物では優れた耐ブロッキング性が見られ、実施例の多くは比較例Bおよび比較例Cより性能が優れていた。
【0098】
【表11】

【0099】
表9の結果によれば、実施例3〜12の生成物を含有する塗料では、優れたオープンタイム延長の値の増加が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)又は(II)の化合物を含む組成物であって:
【化1】

式中、
rおよびqが独立して1〜3の整数であり、
fが炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基であり、
jが整数0又は1、又はこれらの混合であり、
xが1又は2であり、
Zが−O−又は−S−であり、
Xが水素又はMであり、
Mがアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、又はアルカノールアンモニウムイオンである、組成物。
【請求項2】
fの炭素数が4〜6であり、r、qおよびjがそれぞれ1であり、Mがアンモニウム又はアルカノールアンモニウムイオンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(I)のモノ(フルオロアルキル)ホスフェート(式中、xは1である)を約15〜約80mol%、および式(I)のビス(フルオロアルキル)ホスフェート(式中、x=2)を約20〜約85mol%含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
a)染みをはじく性質、染み除去性、汚れをはじく性質、汚れ除去性、撥水性、撥油性、および抗微生物保護からなる群から選択される少なくとも1つの表面効果を付与する薬剤、
b)界面活性剤、pH調整剤、湿潤剤、レベリング剤、又は
c)これらの混合物、
を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
基材に請求項1に記載の組成物を接触させることを含む、基材に撥水性、撥油性および耐汚染性を付与する方法。
【請求項6】
コーティング組成物が積層される基材に耐ブロッキング性、オープンタイム延長、および撥油性を付与する方法であって、前記基材に積層する前に、前記コーティング組成物に請求項1に記載の組成物を添加することを含む、方法。
【請求項7】
前記コーティング組成物が、水分散コーティング、アルキドコーティング、タイプIウレタンコーティング、又は不飽和ポリエステルコーティングである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
fの炭素数が4〜6であり、r、qおよびjがそれぞれ1であり、Mがアンモニウム又はアルカノールアンモニウムイオンである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
請求項5又は6に記載の方法に従って処理された基材。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物が塗布された基材。

【公表番号】特表2010−509395(P2010−509395A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537141(P2009−537141)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/020527
【国際公開番号】WO2008/060352
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】