説明

フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物および該組成物を含む表面処理剤並びに該表面処理剤で表面処理された物品

【課題】基材への密着性に優れ、撥水撥油性、低動摩擦性、耐擦傷性に優れた被膜を形成するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物、およびそれを含む表面処理剤、並びに該表面処理剤で処理された物品の提供。
【解決手段】下記式(1)で表される片末端加水分解性基含有直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーと、両末端加水分解性基含有直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーとを含有し、両者の合計モル数に対する、後者の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であることを特徴とするポリマー組成物。(式中、Rf基は−(CF−(OC(OCF−O(CF−であり、Aは末端が−CFHである1価のフッ素含有基であり、Qは2価の有機基であり、Zはシロキサン結合を有する2〜8価のオルガノポリシロキサン残基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基等であり、Xは加水分解性基含有である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物に関し、詳細には、基材への密着性に優れ、撥水撥油性、低動摩擦性、耐擦傷性に優れた被膜を形成するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物、およびそれを含む表面処理剤、並びに該表面処理剤で処理された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外観や視認性をよくするためにディスプレイの表面に指紋を付きにくくする技術や、汚れを落とし易くする技術の要求が年々高まってきており、これらの要求に応えることのできる材料の開発が望まれている。特にタッチパネルディスプレイの表面は指紋汚れが付着しやすいため撥水撥油層を設けることが望まれている。しかし従来の撥水撥油層は耐摩耗性が悪く使用中に防汚性能が劣化してしまうという問題点があった。
【0003】
一般に、パーフルオロオキシアルキレン基含有化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性などを有する。その性質を利用して、工業的には紙・繊維などの撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜など、幅広く利用されている。しかし、その性質は同時に他の基材に対する非粘着性、非密着性であることを意味しており、基材表面に塗布することはできても、その被膜を密着させることは困難であった。
【0004】
ガラスや布などの基材表面と有機化合物とを結合させる剤として、シランカップリング剤が良く知られており、各種基材表面のコーティング剤として幅広く利用されている。シランカップリング剤は、1分子中に有機官能基と反応性シリル基(一般にはアルコキシシリル基)を有する。アルコキシシリル基は、空気中の水分などによって自己縮合反応を起こして被膜を形成する。該被膜は、アルコキシシリル基がガラスや金属などの表面と化学的・物理的に結合することにより耐久性を有する強固な被膜となる。
【0005】
特許文献1は、下記式で示されるフルオロアミノシラン化合物を記載しており、ガラスに対する高い撥水撥油性を実現している。しかし、該化合物はパーフルオロオキシアルキレン鎖が短く、潤滑性、離型性、防汚性を十分に出すことができない。
【化1】

(式中、R、Rは炭素数1〜4のアルキル基、RはCHCHCH又はCHCHNHCHCHCH、hは0〜8の整数、iは2又は3である)
【0006】
特許文献2は、下記式で示される分岐状の長鎖パーフルオロオキシアルキレン基を含有するパーフルオロポリエーテル変性アミノシランを記載している。該パーフルオロポリエーテル変性アミノシランは撥水撥油角が高いが、主鎖に分岐構造を有するため汚れ拭取り性や潤滑性が十分ではない。
【化2】

(式中、Xは加水分解性基、Rは一価炭化水素基、Rは水素原子又は一価炭化水素基、RはNH基を介在してもよいアルキレン基を示す。jは14〜49の整数、kは2又は3である。)
【0007】
特許文献3は、下記式で示される直鎖状のパーフルオロオキシアルキレン基を含有するパーフルオロポリエーテル変性シランを記載している。該パーフルオロポリエーテル変性シランで処理したレンズや反射防止膜は、滑り性、離型性、及び耐摩耗性に優れるが、両末端が基材に固定されるため潤滑性が不十分である。
【化3】

(式中、Rfは二価の直鎖型パーフルオロポリエーテル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基、Xは加水分解性基、lは0〜2、mは1〜5の整数、aは2又は3である。)
【0008】
特許文献4は、潤滑性を向上させた処理剤として下記式に示されるパーフルオロポリエーテル変性シランを記載している。しかし、該化合物は末端にフッ素含有基を有さないため撥水撥油性、低動摩擦性、離型性に劣っている。
【化4】

(式中、Rfは2価のパーフロロエーテル残基を含む基、Qは2価の有機基、Z及びZはオルガノポリシロキサン残基、Aは末端反応性シリル基を有する一価の基を示す。αは1〜8の整数、βは0より大きく2未満の数である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58−167597号公報
【特許文献2】特開2000−143991号公報
【特許文献3】特開2003−238577号公報
【特許文献4】特開2007−297589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
タッチパネルディスプレイの表面に被覆する撥水撥油層は、傷付き防止性及び指紋拭取り性の観点から動摩擦係数が低いことが望ましく、耐擦傷性に優れ、かつ動摩擦係数が低い撥水撥油層の開発が要求されている。本発明者らは先に、一方の片末端にフッ素原子を有し他方の片末端に加水分解性基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーと、両末端に加水分解性基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーの混合物より成るフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物を発明したが(特願2009−247032)、該組成物から形成される膜は耐擦傷性が十分ではない。そこで本発明は、耐擦傷性及び低動摩擦性に優れた撥水撥油層を形成することができるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
主鎖にフルオロオキシアルキレン構造を有し、分子鎖の片末端に加水分解性基を含有する直鎖状ポリマーは、両末端に加水分解性基を含有する直鎖状ポリマーと比較して膜に優れた耐擦傷性を付与することができる。また−(OC(OCFO−を主鎖構造とするフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーは動摩擦係数が低い。本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、−(OC(OCFO−を主鎖構造とし、片末端に加水分解性基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーと両末端に加水分解性基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーの混合物より成る組成物において、両末端に加水分解性基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを0.1モル%以上10モル%未満で含有する組成物が耐擦傷性及び低動摩擦性に優れた撥水撥油層を形成できる事を見出し本発明に至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記式(1)
【化5】

(式中、Rf基は−(CF−(OC(OCF−O(CF−であり、Aは末端が−CF2Hである1価のフッ素含有基であり、Qは2価の有機基であり、Zはシロキサン結合を有する2〜8価のオルガノポリシロキサン残基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3、bは1〜7の整数、cは1〜20の整数であり、αは0または1であり、dはそれぞれ独立に0または1〜5の整数、eは0〜80の整数、fは0〜80の整数であり、かつ、e+f=5〜100の整数であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい)
で表される直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、片末端加水分解性ポリマーと称す)と、
下記式(2)
【化6】

(式中、Rf、Q、Z、R、X、a、b、c、αは上記式(1)と同じである)
で表される直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、両末端加水分解性ポリマーと称す)を含むフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物であって、
片末端加水分解性ポリマーと両末端加水分解性ポリマーとの合計モルに対する両末端加水分解性ポリマーの含有量が0.1モル%以上10モル%未満であることを特徴とするフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物である。
【0013】
さらに本発明は、一方の末端にカルボキシル基を有し、他方の末端にヒドロキシル基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、片末端カルボキシル基含有ポリマーと称す)及び両末端にヒドロキシル基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、両末端ヒドロキシル基含有ポリマーと称す)を含有する混合物を吸着処理及び/又は分子蒸留処理し、混合物中の両末端ヒドロキシル基含有ポリマーの含有量を、片末端カルボキシル基含有ポリマー及び両末端ヒドロキシル基含有ポリマーの合計モルに対し0.1モル%以上10モル%未満にする工程を含むことを特徴とする上記フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物の硬化物から形成される膜は動摩擦係数が低く、撥水撥油性及び耐摩耗性に優れ、特に耐擦傷性に優れる。従って、本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物を含有する表面処理剤で処理することによって、各種物品に優れた撥水撥油性、低動摩擦性、耐摩耗性及び耐擦傷性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、上記式(1)で示される片末端加水分解性ポリマーと上記式(2)で示される両末端加水分解性ポリマーとを含有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物であり、片末端加水分解性ポリマーと両末端加水分解性ポリマーとの合計モルに対する両末端加水分解性ポリマーの含有量が0.1モル%以上10モル%未満、好ましくは0.3〜9.9モル%、より好ましくは0.5〜9.8モル%、さらに好ましくは1〜9.7モル%であることを特徴とする。両末端加水分解性ポリマーの含有量が前記範囲内であることにより、耐擦傷性に優れる膜を形成することができる。また、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーが−(CF−(OC(OCF−O(CF−を主鎖構造とすることによって、動摩擦係数の低い膜を形成することができる。前記式において、dはそれぞれ独立に0または1〜5の整数、eは0〜80の整数、fは0〜80の整数であり、かつ、e+f=5〜100の整数であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。e+fは、好ましくは10〜80、より好ましくは15〜60である。e+fが上記上限値より大きいと密着性や硬化性が悪くなる可能性があり、上記下限値より小さいとフルオロオキシアルキレン基の特徴を十分に発揮することができない。
【0016】
上記式(1)において、Aは末端が−CF2Hである1価のフッ素含有基である。好ましくは炭素数1〜6の直鎖状フルオロアルキル基であり、中でも−CFH基が好ましい。
【0017】
上記式(1)及び(2)において、Xは互いに異なっていてよい加水分解性基である。このようなXとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜10のオキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、塩素原子が好適である。
【0018】
上記式(1)及び(2)において、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、又はフェニル基であり、中でもメチル基が好適である。aは2又は3であり、反応性、基材に対する密着性の観点から、3が好ましい。bは1〜7、好ましくは1〜4の整数、cは1〜20の整数、好ましくは2〜16の整数、さらに好ましくは6〜12の整数である。
【0019】
上記式(1)及び(2)において、Qは2価の有機基であり、Rf基とZ基との連結基、またはRf基と−(CH−基との連結基である。好ましくは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、又はビニル結合から成る群より選ばれる1以上の結合を含んでよい炭素数2〜12の有機基、好ましくは前記結合を含んでよい、非置換または置換の、炭素数2〜12の炭化水素基であり、炭化水素基の水素原子の一部が塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換されていてもよく、例えば下記の基が挙げられる。
【0020】
【化7】

【0021】
上記式(1)及び(2)において、Zはシロキサン結合を有する2〜8価のオルガノポリシロキサン残基であり、ケイ素原子数2〜13個、好ましくは、ケイ素原子数2〜5個の直鎖状または環状オルガノポリシロキサン残基である。但し、2つのケイ素原子がアルキレン基で結合されたシルアルキレン構造、即ちSi−(CH−Si、を含んでよい(前記式においてnは2〜6の整数)。本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物は、分子中にシロキサン結合を有することにより耐摩耗性、耐擦傷性に優れたコーティングを与えることができる。
【0022】
該オルガノポリシロキサン残基は、炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、又はフェニル基を有するものが良い。また、シルアルキレン結合におけるアルキレン基は、炭素数2〜6、好ましくは炭素数2〜4であるのが良い。このようなZとしては、下記に示されるものが挙げられる。
【0023】
【化8】

【0024】
【化9】

【0025】
【化10】

【0026】
【化11】

【0027】
【化12】

【0028】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物は、さらに下記式(3)
【化13】

(式中、Rf及びAは前記式(1)及び(2)のために記載したものと同じ)
で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、無官能性ポリマーと称す)を含有していてもよい。
【0029】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物が上記無官能性ポリマーを含有する場合には、前述した片末端加水分解性ポリマー、両末端加水分解性ポリマー、及び当該無官能性ポリマーの合計モルに対する片末端加水分解性ポリマーの割合が80モル%以上、好ましくは84モル%以上、より好ましくは88モル%以上であり、かつ両末端加水分解性ポリマーの割合が0.1モル%以上10モル%未満、好ましくは0.3〜9.5モル%、より好ましくは0.5〜9.2モル%、さらに好ましくは1〜9モル%である。特には、無官能性ポリマーの割合が1〜15モル%、好ましくは2〜10モル%であるのがよい。
【0030】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物は、片末端にカルボキシル基を有し、他方の末端にヒドロキシル基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、片末端カルボキシル基含有ポリマーと称す)と、両末端にヒドロキシル基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、両末端ヒドロキシル基含有ポリマーと称す)を含む混合物から製造される。該混合物は両末端にカルボキシル基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、両末端カルボキシル基含有ポリマーと称す)を含んでいてもよく、例えば下記(a)〜(c)に示すポリマーの混合物が挙げられる(式中、Rf基は−(OC(OCFO−であり、e及びfは上述の通り)。
【化14】

【0031】
上記混合物は両末端にカルボキシル基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを、金属水素化物を用いた還元反応、あるいは貴金属触媒を用いた接触水素化反応に供し、末端カルボキシル基をヒドロキシル基にすることで得られる。当該反応において添加する触媒の量を調整することによりヒドロキシル基の導入率を適宜調整することができる。
【0032】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物の製造方法は、片末端カルボキシル基含有ポリマーおよび両末端ヒドロキシル基含有ポリマーを含有する混合物を、吸着処理及び/または分子蒸留処理し、混合物中の両末端ヒドロキシル基含有ポリマーの含有量を、片末端カルボキシル基含有ポリマーおよび両末端ヒドロキシル基含有ポリマーの合計モルに対し0.1モル%以上10モル%未満、好ましくは0.3〜9.9モル%、より好ましくは0.5〜9.8モル%、さらに好ましくは1〜9.7モル%とする工程を含むことを特徴とする。従来、−(OC(OCFO−を主鎖構造とするフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーであって、片末端に加水分解性基を含有するポリマーを高濃度で含有する組成物を製造するのは困難であった。本発明の製造方法は、上記工程を含むことにより、片末端加水分解性ポリマーと両末端加水分解性ポリマーとの合計モルに対する両末端加水分解性ポリマーの割合が0.1モル%以上10モル%未満であるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物を製造することを可能にする。
【0033】
吸着処理は、例えば陰イオン交換樹脂等の酸吸着剤を使用する方法が挙げられる。吸着処理工程の例としては、先ず、フッ素系溶媒で分散させた陰イオン交換樹脂と、片末端カルボキシル基含有ポリマーおよび両末端ヒドロキシル基含有ポリマーを含有する混合物を攪拌・混合し、陰イオン交換樹脂に末端にカルボキシル基を有するポリマーを吸着させる。次いで、フッ素系溶媒で樹脂を洗浄することにより両末端ヒドロキシル基含有ポリマーを取り除く。その後、フッ素系溶媒及び強酸によりカルボキシル基含有ポリマーを吸着した陰イオン交換樹脂を洗い流す。該洗浄工程により強酸が陰イオン交換樹脂に吸着され、代わりにカルボキシル基を末端に有するポリマーがフッ素系溶媒中に溶出される。尚、混合物が両末端カルボキシル基含有ポリマーを含有する場合には、両末端カルボキシル基含有ポリマーより片末端カルボキシル基含有ポリマーの方が先に溶出される。上記方法により、片末端カルボキシル基含有ポリマーを高濃度で含有する組成物を得ることができる。
【0034】
酸吸着剤はポリマーの混合物100gに対し10〜500g使用するのがよい。両末端ヒドロキシル基含有ポリマーを取り除く工程での攪拌処理条件は好ましくは10〜40℃で、1〜48時間である。フッ素系溶媒及び強酸で樹脂を洗い流す工程は、フッ素系溶媒と樹脂とを混合した中へ強酸を適量、例えば50g加え10〜30℃で0.5〜3時間攪拌することによって行う。該工程に用いる強酸は特に制限されないが、例えば塩酸が使用できる。攪拌した後、混合液を静置するとフッ素系溶媒層(下層)と、強酸と樹脂の混合層(上層)に分かれるため、フッ素系溶媒層を分取する。フッ素系溶媒を減圧留去し、片末端カルボン酸基含有ポリマーを高濃度で含有する組成物が得られる。
【0035】
陰イオン交換樹脂は各種公知のもの、例えば強塩基性(I型、II型)、弱塩基性のものを特に制限なく用いることができ、具体的には、スチレン−ジビニルベンゼン系架橋ポリスチレンや、アクリル酸系ポリアクリレート、エーテル基またはカルボニル基を導入した耐熱性芳香族ポリマー等を母体とし、陰イオン交換基としてアミノ基や置換アミノ基、第4級アンモニウム基、カルボキシル基等を導入したものが用いられる。該陰イオン交換樹脂の市販品としては、例えばB20−HG(オルガノ社製)、ダイヤイオンSAシリーズ、PA300シリーズ、PA400シリーズ、UBA120、HPA25(三菱化学社製)等が挙げられる。
【0036】
分子蒸留処理に使用する分子蒸留装置は、例えばポット分子蒸留装置、流下膜式分子蒸留装置、遠心式分子蒸留装置、実験遠心式分子蒸留装置等が挙げられる。処理条件は適宜選択すればよいが、好ましくは圧力10−5Pa〜10−1Pa、温度は150〜400℃である。該方法では、分子末端に官能基が少ない方が温和な条件で蒸発する。また、ヒドロキシル基(−CFOH)の方がカルボキシル基(−CFCOOH)より先に分取されてくる。従って、先ず両末端ヒドロキシル基含有ポリマーを分取し、次に片末端カルボキシル基含有ポリマーを分取することができる。該方法では、次いで各成分を所望の比率となるように混合する工程を含んでいてよい。当該工程により、片末端カルボキシル基含有ポリマーを高濃度で含有する組成物を得ることができる。尚、吸着処理及び分子蒸留処理は組み合わせて行ってもよい。
【0037】
吸着処理及び/または分子蒸留処理によって得られた組成物中の片末端カルボキシル基含有ポリマー、両末端ヒドロキシル基含有ポリマー及び両末端カルボキシル基含有ポリマーの含有比率は、例えば下記に示す方法により決定できる。まず、混合物をフッ素系溶剤に溶解させ、酸吸着剤(例えば、キョーワード500(協和化学社製)などのハイドロタルサイト系イオン交換樹脂等)に両末端カルボキシル基含有ポリマーと片末端カルボキシル基含有ポリマーを吸着させ、両末端ヒドロキシル基含有ポリマーのみを分取して、混合物中の両末端ヒドロキシル基含有ポリマーの含有比率を決定する。その後、19F-NMRにより測定される−CF2OHと−CFCOOHのモル比率により、両末端カルボキシル基含有ポリマーと片末端カルボキシル基含有ポリマーの含有比率を決定する。
【0038】
以下に、本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物の製造方法をさらに詳細に説明する。
【0039】
両末端にカルボン酸を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを、金属水素化物を用いた還元、あるいは貴金属触媒を用いた接触水素化に供し、末端カルボキシル基の一部をヒドロキシル基にする工程は従来公知の方法に従えばよい。金属水素化物としては水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等が使用できる。貴金属触媒としてはルテニウムが使用できる。該工程で得られたポリマーの混合物を上述した吸着処理及び/又は分子蒸留処理に供し、片末端カルボキシル基含有ポリマーを高濃度で含有するポリマー組成物を調製する。
【0040】
次に、ポリマーの末端ヒドロキシル基に末端に炭素-炭素二重結合を有する炭化水素基を導入する。導入方法は従来公知の方法に従えばよい。末端に炭素-炭素二重結合を有する炭化水素基としては、例えば炭素数2〜21のアルケニル基が挙げられる。例えば、ポリマー組成物と臭化アリル等のハロゲン化アルケニル化合物を硫酸水素テトラブチルアンモニウムの存在下で反応させた後、水酸化ナトリウムを滴下してアルカリ性にすることで、ポリマーの末端にアリル基等のアルケニル基が導入される。また、当該工程においてポリマーの末端CFCOOH基はCFH基となる。例えば、下記に示すようなポリマー組成物が製造される(式中、Rfは上述の通り)。
【化15】

【0041】
次に、末端に炭素-炭素二重結合を有するポリマーに加水分解性シリル基を導入する。導入は、上記炭素-炭素二重結合を導入する工程により得られたポリマー組成物と、一方の末端にSiH基を有し他方の末端に加水分解性基を有する有機ケイ素化合物を付加反応させることにより行う。加水分解性基はXのために上述したものが挙げられる。該有機ケイ素化合物としては、末端アルコキシ基含有オルガノハイドロジェンシラン等が挙げられる。例えば、上記(a’)〜(c’)で示されるポリマーを含む組成物にトリメトキシシラン(HSi(OCH)を付加反応させた場合には、下記に示すような組成物が製造される(式中、Rfは上述の通り)。付加反応は公知の反応条件で行えばよく、付加反応触媒、例えば白金族化合物の存在下で行えばよい。
【0042】
【化16】

【0043】
また、当該付加反応工程は、脂肪族不飽和基を導入する工程により得られたポリマー組成物とSiH結合を多数有する有機ケイ素化合物、例えば2〜8個のSiH基を有する有機ケイ素化合物を反応させて行ってもよい。該反応によって得られるポリマーは分子中にSiH基を多数有する。該ポリマーと、脂肪族不飽和結合及び加水分解性基を有する有機ケイ素化合物、例えばビニルトリメトキシシラン等とを反応させることにより、ポリマーの末端に導入する加水分解性基の数を増やすことができる。
【0044】
また、当該付加反応工程は、脂肪族不飽和基を導入する工程により得られたポリマー組成物と、テトラメチルジシロキサン(HM)とビニルトリメトキシシラン(VMS)の1:1付加反応物とを付加反応させることにより行ってもよい。該反応により、下記に示すような、パーフルオロオキシアルキレン基と末端の加水分解性シリル基とがシロキサン構造を介して連結しているポリマーを含有する組成物を得ることができる(式中、Rfは上述の通り)。付加反応は公知の反応条件で行えばよく、付加反応触媒、例えば白金族化合物の存在下で行えばよい。
【0045】
【化17】

【0046】
本発明はさらに、上記方法により製造されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物を含有する表面処理剤を提供する。該表面処理剤は、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物の末端加水分解性基を予め公知の方法により部分的に加水分解し、縮合させて得られる部分加水分解縮合物を含んでいてもよい。
【0047】
表面処理剤には、必要に応じて、加水分解縮合触媒、例えば、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸、フッ素変性カルボン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を添加してもよい。これらの中では、特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫、フッ素変性カルボン酸などが望ましい。添加量は触媒量であり、通常、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物及び/又はその部分加水分解縮合物100質量部に対して0.01〜5質量部、特に0.1〜1質量部である。
【0048】
表面処理剤は溶媒を含んでよい。溶媒としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶媒(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶媒(m−キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンなど)、フッ素変性エーテル系溶媒(メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶媒(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶媒(石油ベンジン、ミネラルスピリッツ、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。中でも、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素変性された溶媒が望ましく、特には、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、m−キシレンヘキサフルオライド、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロトリブチルアミン、及びエチルパーフルオロブチルエーテルが好ましい。
【0049】
上記溶媒はその2種以上を混合してもよく、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー及びその部分加水分解縮合物を均一に溶解させることが好ましい。なお、溶媒に溶解させるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物の最適濃度は、表面処理剤の使用方法に応じて適宜選択すればよく制限されるものではない。通常は0.01〜30重量%、好ましくは0.02〜20重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%となるように溶解させる。
【0050】
表面処理剤は、刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で基材に施与することができる。蒸着処理時の加熱方法は特に限定されるものではなく、例えば抵抗加熱方式、または電子ビーム加熱方式を使用することができる。硬化条件は表面処理方法に応じて適宜選択すればよい。例えば刷毛塗りやディッピングで施与する場合は、室温(20±15℃)から200℃の範囲が望ましい。また、硬化は加湿下で行われることが反応を促進する上で望ましい。硬化被膜の膜厚は、処理する基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1nm〜100nm、特に1〜20nmである。
【0051】
本発明の表面処理剤で処理される基材は特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミック、石英など各種材質のものであってよい。本発明の表面処理剤は前記基板に撥水撥油性、低動摩擦性、及び耐擦傷性を付与することができる。特に、SiO処理されたガラスまたは石英基板の表面処理剤として好適に使用することができる。
【0052】
本発明の表面処理剤で処理される物品としては、例えばカーナビゲーション、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、カーオーディオ、ゲーム機器、眼鏡レンズ、カメラレンズ、レンズフィルター、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、PC、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ、保護フイルム、及び反射防止フイルム、など光学物品が挙げられる。本発明の表面処理剤は、各種物品に指紋及び皮脂が付着するのを防止し、さらに傷つき防止性を付与する事ができる。特に、タッチパネルディスプレイ、及び反射防止フイルムの表面に撥水撥油層を形成するための処理剤として有用である。
【0053】
また、本発明の表面処理剤は、浴槽、洗面台のようなサニタリー製品の撥水、防汚コーティング;自動車、電車、航空機などの窓ガラスまたは強化ガラス、ヘッドランプカバー等の防汚コーティング;外壁用建材の撥水・防汚コーティング;台所用建材の油汚れ防止コーティング;電話ボックスの撥水・防汚コーティング及び貼り紙・落書き防止コーティング;美術品などの撥水性付与コーティング及び指紋付着防止コーティング;コンパクトディスク、DVDなどの指紋付着防止コーティング;ナノインプリント用金型等の離型剤として、あるいは塗料添加剤、樹脂改質剤、及び無機質充填剤の流動性改質剤または分散性改質剤、テープ、フィルムなどの潤滑性向上剤としても有用である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
(i)下記式で表されるポリマー500gを、
【化18】

1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン400gとテトラヒドロフラン100gの混合溶媒に溶解し、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの40%トルエン溶液80gを滴下した。室温で3時間撹拌後、適量の塩酸を加え、十分に攪拌し水洗した。さらに、下層を取り出し、溶媒を留去したところ、液状の生成物440gを得た。19F−NMRにより、得られた生成物は下記(4a)50モル%、(4b)48モル%及び(4c)2モル%より成る混合物であることを確認した。
【0056】
【化19】

【0057】
(ii)反応容器に、上記反応で得られた(4a)50モル%、(4b)48モル%及び(4c)2モル%より成る混合物300gをフッ素系溶媒(PF5060 3M社製)2.5kgに溶解させた。次いで、陰イオン交換樹脂B20−HG(オルガノ社製)600gを加え、20℃で3時間攪拌し、(4a)及び(4c)で示されるポリマーを陰イオン交換樹脂に吸着させた。PF5060で陰イオン交換樹脂を洗浄して(4b)で示されるポリマーを除去した。さらにPF5060 3kgを樹脂へ添加し、混合した中へ塩酸を適量加え20℃で3時間攪拌した。攪拌後30分静置したところフッ素溶媒層(下層)と、塩酸と樹脂の混合層(上層)に分かれた。フッ素溶媒層を取り出し、PF5060を減圧留去して液状の生成物90gを得た。得られた生成物を19F−NMRにより測定したところ、(4a)92モル%、(4b)5モル%及び(4c)3モル%の混合物であった((4a)と(4b)の合計モルに対する(4b)の含有量は5.2モル%)。
【0058】
(iii)反応容器に、上記工程(ii)で得られた(4a)92モル%、(4b)5モル%及び(4c)3モル%より成る混合物40g、臭化アリル3.5g、硫酸水素テトラブチルアンモニウム0.4gを入れて50℃で3時間攪拌した後、得られた混合物に、30%水酸化ナトリウム水溶液5.2gを滴下して55℃で12時間熟成した。その後、PF5060と塩酸を適量加え攪拌した後、十分に水洗した。下層を取り出し、溶媒を減圧留去し、液状の生成物32gを得た。19F−NMR及びH−NMRにより、下記(5a)92モル%、(5b)5モル%及び(5c)3モル%より成る混合物であることを確認した。
【化20】

【0059】
(iv)次に、上記工程(iii)で得られた混合物30g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20g、トリメトキシシラン3g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.10g(Pt単体として2.5×10−8モルを含有)を混合し、70℃で3時間熟成させた。その後、溶媒及び未反応物を減圧留去し、液状の生成物29gを得た。
【0060】
得られた生成物のH-NMRのピークは下記の通りであった。
【0061】

H-NMRにより、得られた生成物は下記式に示される(6a)92モル%、(6b)5モル%及び(6c)3モル%より成る混合物であることを確認した(組成物1)((6a)と(6b)の合計モルに対する(6b)の含有量は5.2モル%)。
【化21】

【0062】
[実施例2]
上記工程(iii)で得られた混合物30gを1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20gに溶解させ、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.10g(Pt単体として2.5×10−8モルを含有)と、テトラメチルジシロキサン(HM)とビニルトリメトキシシラン(VMS)の1:1付加反応物(HM−VMS)2.5gを滴下して、90℃で2時間熟成した。次いで、溶媒及び未反応物を減圧溜去し、液状の生成物30gを得た。
【0063】
なお、上記HM−VMSは下記の方法で調製した。
テトラメチルジシロキサン(HM)40gとトルエン40gとを混合し、80℃に加熱した。ビニルトリメトキシシラン(VMS)44.2gと塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2g(Pt単体として1.1×10−7モルを含有)の混合物をゆっくりと滴下した。得られた混合物を蒸留精製し、下記に示す1:1付加反応物(HM−VMS)84gを得た。
【化22】

【0064】
実施例2で得られた生成物のH-NMRのピークは以下の通りである。

【0065】
H-NMRにより、得られた生成物は下記式に示される(7a)92モル%、(7b)5モル%及び(7c)3モル%より成る混合物であることを確認した(組成物2)((7a)と(7b)の合計モルに対する(7b)の含有量は5.2モル%)。
【化23】

【0066】
[実施例3、4、比較例1、2]
実施例3、4及び比較例1、2の組成物は、実施例1で得られた組成物1に更に上記式(6b)で示されるポリマーを加え、下記表1に示す混合比(モル%)となるように調製した。
【0067】
【表1】

【0068】
[実施例5]
上記工程(iii)で得られた混合物30g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20g、下記式で表わされる環状シロキサン化合物8.12g、
【化24】

塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.10g(Pt単体として2.5×10−8モルを含有)を混合し、80℃で3時間熟成した。その後、溶媒及び未反応物を減圧留去し、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20g、アリルトリメトキシシラン3.28g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.10g(Pt単体として2.5×10−8モルを含有)を添加し、混合して、90℃で3時間熟成した。その後、溶媒及び未反応物を減圧留去し、液状の生成物を得た。
【0069】
実施例5で得られた生成物のH-NMRのピークは以下の通りである。

【0070】
H-NMRにより、得られた生成物は下記式に示される(8a)92モル%、(8b)5モル%及び(8c)3モル%より成る混合物であることを確認した(組成物3)((8a)と(8b)の合計モルに対する(8b)の含有量は5.2モル%)。
【化25】

【0071】
[実施例6]
上記工程(iii)で得られた混合物30g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20g、下記式で表わされる環状シロキサン化合物8.12g、
【化26】

塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.10g(Pt単体として2.5×10−8モルを含有)を混合し、80℃で3時間熟成した。その後、溶媒及び未反応物を減圧留去し、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20g、9−デセン−1−トリメトキシシラン5.27g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.10g(Pt単体として2.5×10−8モルを含有)を添加し、混合して、90℃で3時間熟成した。その後、溶媒及び未反応物を減圧留去し、液状の生成物を得た。
【0072】
実施例6で得られた生成物のH-NMRのピークは以下の通りである。

【0073】
H-NMRにより、得られた生成物は下記式に示される(9a)92モル%、(9b)5モル%及び(9c)3モル%より成る混合物であることを確認した(組成物4)((9a)と(9b)の合計モルに対する(9b)の含有量は5.2モル%)。
【化27】

【0074】
[比較例3〜9]
比較例3〜9の化合物または組成物を以下に示す。
[比較例3]
【化28】

【0075】
[比較例4]
下記(10a)95モル%と(10b)5モル%から成る混合物。
【化29】

【0076】
[比較例5]
【化30】

【0077】
[比較例6]
下記式で示され、(11a)50モル%、(11b)25モル%及び(11c)25モル%の混合物より成る組成物。
【化31】

【0078】
[比較例7]
【化32】

【0079】
[比較例8]
【化33】

【0080】
[比較例9]
【化34】

【0081】
表面処理剤の調製及び硬化被膜の形成
実施例1〜6及び比較例1〜9のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物または化合物を、濃度20wt%になるように1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに溶解させて表面処理剤を調製した。最表面にSiOを10nm処理したガラス(コーニング社製 Gorilla)に、各表面処理剤10mgを真空蒸着し(処理条件は、圧力:9.0×10−4Pa、温度:740℃)、40℃、湿度80%の雰囲気下で2時間硬化させて硬化被膜を形成した。
【0082】
得られた硬化被膜を下記の方法により評価した。結果を表2に示す。
【0083】
[撥水撥油性の評価]
接触角計DropMaster(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜の水に対する接触角(撥水性)及びオレイン酸に対する接触角(撥油性)を測定した。
【0084】
[動摩擦係数の測定]
ベンコット(旭化成社製)に対する動摩擦係数を、表面性測定機14FW(新東科学社製)を用いて下記条件で測定した。
接触面積:35mm×35mm
荷重:200g
【0085】
[耐摩耗性の評価]
ラビングテスター(新東科学社製)を用いて、下記に示す各条件で硬化被膜の表面を擦った後の、硬化被膜の水に対する接触角(撥水性)を評価した。試験環境条件は25℃、湿度40%である。
【0086】
1.耐布摩耗性
布:ベンコット(旭化成社製)
移動距離(片道):30mm
移動速度:1800mm/分
荷重:2kg/cm
擦り回数:50,000回
【0087】
2.耐消しゴム摩耗性
消しゴム:EB−SNP(トンボ社製)
移動距離(片道):30mm
移動速度:1800mm/分
荷重:1kg/cm
擦り回数:10,000回
【0088】
3.耐スチールウール摩耗性
スチールウール:BONSTAR#0000(日本スチールウール株式会社製)
移動距離(片道):30mm
移動速度:1800mm/分
荷重:1kg/cm
擦り回数:10,000回
【0089】
【表2】

【0090】
両末端加水分解性ポリマーを10モル%以上含有するポリマー組成物から形成された比較例1及び2の硬化被膜は耐擦傷性(耐スチールウール摩耗性)に劣る。両末端加水分解性ポリマーを全く含まない表面処理剤から形成された比較例3の硬化被膜は耐摩耗性に劣る。主鎖に−(OC(OCF−構造を有さない片末端加水分解性ポリマーを含む表面処理剤から形成された比較例4の硬化被膜は動摩擦係数が高く、耐摩耗性に劣る。また、片末端加水分解性ポリマーを含まない表面処理剤から形成された比較例5及び7の硬化被膜は動摩擦係数が高く、また撥水撥油性及び耐摩耗性に劣る。末端にフッ素原子を含有しないポリマーの組成物から形成された比較例6の硬化被膜は撥水撥油性及び耐摩耗性に劣る。分岐型のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを有する表面処理剤から形成された比較例8及び9の硬化被膜は動摩擦係数が非常に高く、かつ耐摩耗性に劣る。これに対し、実施例1〜6の表面処理剤は、撥水撥油性に優れ、動摩擦係数が小さく、且つ耐摩耗性に優れており、特に耐擦傷性に優れ、多数回スチールウールで擦っても硬化被膜の特性を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物は、撥水撥油性、低動摩擦性、耐摩耗性、特に耐擦傷性に優れた硬化被膜を与えることができる。また、本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物は、特願2009−247032に記載されている表面処理剤よりもさらに優れた耐擦傷性を有する硬化被膜を形成することができる。このため、本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物を含有する表面処理剤は、特に、タッチパネルディスプレイ、及び反射防止フイルムなど、各種光学物品の表面に撥水撥油層を形成するための処理剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、Rf基は−(CF−(OC(OCF−O(CF−であり、Aは末端が−CF2Hである1価のフッ素含有基であり、Qは2価の有機基であり、Zはシロキサン結合を有する2〜8価のオルガノポリシロキサン残基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3、bは1〜7の整数、cは1〜20の整数であり、αは0または1であり、dはそれぞれ独立に0または1〜5の整数、eは0〜80の整数、fは0〜80の整数であり、かつ、e+f=5〜100の整数であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい)
で表される直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、片末端加水分解性ポリマーと称す)と、
下記式(2)
【化2】

(式中、Rf、Q、Z、R、X、a、b、c、αは上記式(1)と同じである)
で表される直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、両末端加水分解性ポリマーと称す)を含むフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物であって、
片末端加水分解性ポリマーと両末端加水分解性ポリマーとの合計モルに対する両末端加水分解性ポリマーの含有量が0.1モル%以上10モル%未満であることを特徴とするフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物。
【請求項2】
更に、下記式(3)
【化3】

(式中、Rf及びAは前記と同じ)
で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、無官能性ポリマーと称す)を含有し、かつ、片末端加水分解性ポリマーと両末端加水分解性ポリマーと無官能性ポリマーとの合計モルに対する片末端加水分解性ポリマーの割合が80モル%以上であり、かつ両末端加水分解性ポリマーの割合が0.1モル%以上10モル%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物。
【請求項3】
片末端加水分解性ポリマー、両末端加水分解性ポリマー及び無官能性ポリマーの合計モルに対する無官能性ポリマーの割合が1〜15モル%である請求項2に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物。
【請求項4】
Zが、ケイ素原子2〜5個の直鎖状または環状オルガノポリシロキサン残基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物。
【請求項5】
Qが、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、及びビニル結合からなる群より選ばれる1以上の結合を含んでよい、非置換または置換の、炭素数2〜12の炭化水素基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物。
【請求項6】
加水分解性基Xが、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のオキシアルコキシ基、炭素数1〜10のアシロキシ基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物及び/又は該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物の部分加水分解縮合物を含有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物を含有する表面処理剤。
【請求項8】
請求項1〜6に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物の製造方法であって、片末端にカルボキシル基を有し、他方の末端にヒドロキシル基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、片末端カルボキシル基含有ポリマーと称す)及び両末端にヒドロキシル基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、両末端ヒドロキシル基含有ポリマーと称す)を含有する混合物を吸着処理及び/又は分子蒸留処理し、混合物中の両末端ヒドロキシル基含有ポリマーの含有量を、片末端カルボキシル基含有ポリマー及び両末端ヒドロキシル基含有ポリマーの合計モルに対し0.1モル%以上10モル%未満にする工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7に記載の表面処理剤で処理された物品。
【請求項10】
請求項7に記載の表面処理剤で処理された光学物品。
【請求項11】
請求項7に記載の表面処理剤で処理されたタッチパネルディスプレイ。
【請求項12】
請求項7に記載の表面処理剤で処理された反射防止フイルム。
【請求項13】
請求項7に記載の表面処理剤で処理された、SiO処理されたガラス。
【請求項14】
請求項7に記載の表面処理剤で処理された強化ガラス。
【請求項15】
請求項7に記載の表面処理剤で処理された石英基板。

【公開番号】特開2012−233157(P2012−233157A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−64363(P2012−64363)
【出願日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】