説明

フルオロオレフィン化合物の製造方法

【課題】フルオロオレフィン化合物の製造方法。
【解決手段】2〜6つの炭素原子と、少なくとも2つのフッ素原子と、少なくとも一つの水素原子とを有する少なくとも一種の化合物(ただし、少なくとも一つの水素原子と一つのフッ素原子は互いに隣接する炭素原子上にある)を、水酸化カルシウムを含む固体反応物と接触させることを特徴とする(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物の連続または半連続的な製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、フルオロオレフィン化合物の製造方法にある。本発明は特にヒドロフルオロプロペンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒドロフルオロカーボン(HFC)、特にヒドロフルオロオレフィン(HFO), 例えば2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン (HFO-1234yf)はその冷媒流体および熱交換流体、消火剤、推進剤、発泡剤(foaming agent)、発泡剤(blowing agent)、気体誘電体、重合媒体またはモノマーとしての特性、キャリヤー流体、研磨剤、乾燥剤およびエネルギー生産設備用流体の特性で知られた化合物である。オゾン層にとって潜在的に危険となるCFCおよびHCFCとは違って、HFOは塩素を含まないのでオゾン層にとって問題とならない。
【0003】
1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン (HFO-1225ye) は2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン (HFO-1234yf) 製造での合成中間体である。
【0004】
ヒドロフルオロオレフィンの製造方法の大部分は脱水素ハロゲン反応である。
【0005】
特許文献1(国際特許第WO 03/027051号公報)には、式CF3C(R1aR2b)C(R3cR4d)(ここで、R1, R2, R3およびR4は独立して水素原子またはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素の中から選択されるハロゲン原子を表し、ただし、R1, R2, R3およびR4の少なくとも一つはハロゲン原子であり、少なくとも一つの水素原子および一つのハロゲン原子が隣接する炭素原子上にあり、aおよびbは独立してゼロ、1または2の値を取ることができ、ただし、(a + b) = 2であり、cおよびdは独立してゼロ、1、2または3の値を取ることができ、ただし、(c + d) = 3である)の化合物を少なくとも一種のアルカリ金属水酸化物と相間移動触媒の存在下で接触させることを含む式 CF3CY=CXnHp (ここで、Xは水素原子またはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素の中から選択されるハロゲン原子を表し、nおよびpは整数で且つ独立してゼロ、1または2の値を取ることができ、ただし(n+p)=2である)のフルオロオレフィンの製造方法が記載されている。
この特許の実施例2には、相間移動触媒の非存在下では室温および加圧下で1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン (HFC-245fa) を50重量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液と24時間接触させても反応しないことが記載されている。
さらに、この文献には反応温度は−20℃〜80℃であると記載されているが、アルカリ土類金属水酸化物の使用はその水への溶解度が限られていることによって勧められていない。
【0006】
特許文献2(国際特許第WO 2008/075017号公報)には、脱ハロゲン化水素処理方法が開示されている。この方法は、ヒドロ(ハロ)フルオロアルカンを塩基と、必要に応じて溶剤の存在下で接触させることを含む。この文献には、溶剤の非存在下で、ヒドロ(ハロ)フルオロアルカンを高温条件下または溶融状態で塩基上に送ることができることが記載されている。
この文献には、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン (HFC-236ea) を50重量%のKOH水溶液の存在下で150℃で脱フッ化水素反応して1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン (HFO-1225ye) を生成する方法が記載されている。相間移動触媒の非存在下では3時間半後の変換率は57.8%で、HFO-1225yeの選択率は52.4 % (テスト1)である。相間移動触媒の存在下では選択率は事実上変わらないが、わずか2.5時間後にこの変換率に達する(テスト4)。この特許の表2に示されているように、HFO-1225yeの選択率を上げるためには有機溶剤を用いる必要がある。
【0007】
特許文献3(国際特許第WO 2007/056194号公報)には、触媒、特にニッケル、炭素またはこれらを組み合わせたものをベースにした触媒の存在下で、KOH水溶液を用いてまたは気相で1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン (HFC-245eb) を脱フッ化水素処理してHFO-1234yf を製造する方法が記載されている。
特許文献4(国際特許第WO 2008/030440号公報)には、HFC-245ebを部分的に混合できる非水および非アルコール溶剤の存在下で塩基性水溶液を用いた1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンの脱フッ化水素処理の実施例が記載されている。
【0008】
非特許文献1(Knunyants達, ソビエト連邦科学アカデミーのジャーナル、化学部, "フルオロオレフィン反応", レポート 13, 「ぺルフルオロオレフィンの触媒水素化」、1960)にはフッ素化化合物に対する種々の化学反応が明確に記載されている。この文献には、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン (236ea)を、ジブチルエーテルで調製したKOH粉末の懸濁液に通して脱フッ化水素処理することによって、1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロペン(HFO-1225ye)を製造することが記載されているが、収率はわずか60%である。この文献には1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン (HFC-245eb) をジブチルエーテルで調製したKOH粉末の懸濁液に通して脱フッ化水素処理することで2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン (HFO-1234yf) を製造することも記載されているが、その収率はわずか70%である。
【0009】
さらに、非特許文献2(Sianesi Dario達, in Annali di Chimica, Societa Chimica Italiana, Rome, Italy,vol.55 nos.8-9, 1 January 1965, pages 850-861)には、KOHを用いた1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの脱フッ化水素処理が記載されている。
上記の脱フッ化水素処理反応の結果、所望のヒドロフルオロオレフィン化合物の他に、水およびフッ化カリウムが生成する。しかも、このような反応の連続的実施は工業規模では容易ではない。これは少なくとも3つの相(気体、液体、固体)を用いることおよび化学量論量で生じるフッ化カリウムの除去に問題があることによる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際特許第WO 03/027051号公報
【特許文献2】国際特許第WO 2008/075017号公報
【特許文献3】国際特許第WO 2007/056194号公報
【特許文献4】国際特許第WO 2008/030440号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Knunyants達, ソビエト連邦科学アカデミーのジャーナル、化学部, "フルオロオレフィン反応", レポート 13, 「ぺルフルオロオレフィンの触媒水素化」1960
【非特許文献2】Sianesi Dario達, in Annali di Chimica, Societa Chimica Italiana, Rome, Italy,vol.55 nos.8-9, 1 January 1965 pages, 850-861
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の問題点を解決できる(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物の連続または半連続的な製造方法を提供する。本発明方法で用いられる反応は気固反応である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の対象は、(i)2〜6つの炭素原子と、少なくとも2つのフッ素原子と、少なくとも一つの水素原子とを有する少なくとも一種の化合物(ただし、少なくとも一つの水素原子と一つのフッ素原子とは互いに隣接する炭素原子上にある)を、水酸化カルシウムを含む固体反応物と接触させて、有価物としてのフッ化カルシウムを同時形成させる、(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物の連続または半連続的な製造方法にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明方法は、3つの炭素原子を含む(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物、好ましく、有利には式(I)で表される(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物を提供する:
CF3CY=CXnHp (I)
(ここで、Yは水素原子またはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素の中から選択されるハロゲン原子を表し、Xはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素の中から選択されるハロゲン原子を表し、nおよびpは整数で且つ独立してゼロ、1または2の値を取ることができ、ただし(n+p)=2である)
この化合物は、式 CF3CYRCR' XnHp(ここで、X、Y、nおよびpは式(I)と同じ意味を有し、RはR’が水素原子の場合にはフッ素原子を表し、R’がフッ素原子の場合には水素原子を表す)の化合物を水酸化カルシウムを含む固体反応物と接触させて得られる。
【0015】
本発明は特に、式(Ia)の化合物を製造するのに適している:
CF3-CF=CHZ (Ia)
(ここで、Zは水素またはフッ素原子を表す)
この化合物は式CF3CFRCHR' Z(ここで、Zは式(Ia)と同じ意味を有し、RはR’が水素原子の場合にはフッ素原子を表し、R’がフッ素原子の場合には水素原子を表す)の化合物から製造される。
【0016】
すなわち、水酸化カルシウムを含む固体反応物との1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパンの脱フッ化水素処理で2,3,3,3−テトラフルオロプロペンが得られ、および/または、水酸化カルシウムを含む固体反応物との1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの脱フッ化水素処理で1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンが得られる。1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンはシスおよび/またはトランス異性体の形にすることができる。
【0017】
本発明はさらに、水酸化カルシウムを含む固体反応物を用いた1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロパンの脱フッ化水素処理で、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造するのに使用できる。
本発明方法では、固体反応物は基本的に水酸化カルシウムから成るか、水酸化カルシウムを主とし且つ他の金属水酸化物、例えばNaOH、KOH、Mg(OH)2およびBa(OH)2を含むことができる。
【0018】
固体反応物としてはソーダ石灰(soda lime)を使用するのが有利であり、このソーダ石灰は数重量パーセントのNaOHおよびKOHを含む水酸化カルシウムである。
固体反応物のKOH含水率は0.1〜5重量%、好ましくは2〜4重量%であるのが有利である。固体反応物のNaOH含水率は0.1〜5重量%、好ましく1〜3重量%であるのが有利である。
【0019】
水酸化カルシウムを含む固体反応物は粉末の形、または好ましくは顆粒の形、有利には多孔度の高い顆粒の形で使用できる。顆粒の粒径は1〜10mmであるのが好ましい。
固体反応物の含水率は1〜20重量%であるのが好ましく、有利には7〜20重量%、特に10〜15重量%である。
固体反応物の例としてはソーダ石灰、特にGrace社から商品名Sodasorb HPで市販のものが挙げられる。
【0020】
本発明方法は好ましくは100〜170℃の温度、有利には120〜150℃の温度で行う。130〜140℃の温度が特に好ましい。本発明方法による脱フッ化水素反応は周囲圧力で実施できるが、周囲圧力を超える圧力、例えば1〜10バールの絶対圧力で運転するのが好ましい。この圧力は5〜10バールの絶対圧力であるのが有利である。
【0021】
反応は工業的に気体と固体との反応で使用される通常の手段、例えば微粉末の固体反応物を用いる流動床反応器または多孔質顆粒の形の固体反応物を用いる固定床反応器またはセメントキルン型回転反応器内で実施できる。
【0022】
本発明方法は交互運転される一つまたは複数の管状固定床反応器、例えば分子篩を用いた気体処理法に従って半連続的に行うのが好ましい。反応後、部分的または完全にフッ化カルシウムに変換した固体反応物を反応器から排出する。フッ化カルシウムは、必要に応じて未反応水酸化カルシウムを分離した後、フッ化水素酸の製造で出発材料として用いることができる。
本発明方法には脱フッ化水素処理段階の未反応反応物の再循環操作を含むことができる。
【実施例】
【0023】
実施例1
500gのソーダ石灰(Sigma Aldrich、粒径0.15mm)を電気抵抗で140℃に加熱した長さが850mmで、直径が43mmの管状反応器に導入する。0.41モル/時のHFC-236eaと0.2モル/時の不活性ガスとから成るガス流を反応器に通す。
反応器から出てくるガスを10℃の還流冷却器に通して水蒸気を除去し、次いで、コールドトラップで凝縮する。80分間連続運転した後のHFC-236eaの全変換率は98%であり、HFO-1225yeの全選択率は99%である。
【0024】
実施例2
575gのソーダ石灰(Sodasorb 4-8 REG HP(Grace)、粒径3〜6mmおよび含水率14〜19重量%)を実施例1と同じ装置に導入する。
反応器の入口での反応物流量は0.49モル/時のHFC-236eaおよび0.17モル/時の不活性ガスである。
管を135℃に加熱し、管から出てくるガスをコールドトラップで回収し、分析する。
100分間の運転でHFC-236eaの100%の変換率が観察される。
HFO-1225yeの選択率は99%以上である。
【0025】
実施例3
690gのソーダ石灰(Sodasorb 4-8 REG HP(Grace)、粒径3〜6mmおよび含水率14〜19重量%)を実施例1と同じ装置に導入する。
管を120℃に加熱し、HFC-245ebを0.5モル/時の流量で導入する。
管から出てくるガスをコールドトラップで分析および回収する。
4時間35分間連続運転した後のHFC-245ebの変換率は100%であり、1234yfの選択率は99%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2〜6つの炭素原子と、少なくとも2つのフッ素原子と、少なくとも一つの水素原子とを有する少なくとも一種の化合物(ただし、少なくとも一つの水素原子と一つのフッ素原子は互いに隣接する炭素原子上にある)を、水酸化カルシウムを含む固体反応物と接触させることを特徴とする(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物の連続または半連続的な製造方法。
【請求項2】
式CF3CYRCR' XnHp(ここで、X、Y、nおよびpは下記の式(I)と同じ意味を有し、RはR’が水素原子の場合にはフッ素原子を表し、R’がフッ素原子の場合には水素原子を表す)の化合物を水酸化カルシウムを含む固体反応物と接触させることによって、請求項1に記載の下記式(I)の(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物を製造する方法:
CF3CY=CXnHp (I)
(ここで、Yは水素原子またはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素の中から選択されるハロゲン原子を表し、Xはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素の中から選択されるハロゲン原子を表し、nおよびpは整数で且つ独立してゼロ、1または2の値を取ることができ、ただし(n+p)=2である)
【請求項3】
式CF3CFRCHR' Z(ここで、Zは下記の式(Ia)と同じ意味を有し、RはR’が水素原子の場合にはフッ素原子を表し、R’がフッ素原子の場合には水素原子を表す)の化合物を固体水酸化カルシウムを含む固体反応物と接触させることによって、請求項1に記載の下記式(Ia)の(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物を製造する方法:
CF3-CF=CHZ (Ia)
(ここで、Zは水素またはフッ素原子を表す)
【請求項4】
1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパンを水酸化カルシウムを含む固体反応物と接触させることによって2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る、および/または、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを水酸化カルシウムを含む固体反応物と接触させることによって1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを得る請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
固体反応物が0.1〜5重量%のKOHを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
固体反応物が0.1〜5重量%のNaOHを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
固体反応物の含水率が1〜20重量%である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
100〜170℃の温度で行う請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1〜10バールの絶対圧力で行う請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
固体反応物が1〜10mmの顆粒の形である請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−528837(P2012−528837A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513652(P2012−513652)
【出願日】平成22年5月4日(2010.5.4)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050847
【国際公開番号】WO2010/139873
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】