説明

フルーツソース及びそれを用いるソフトヨーグルトの製造方法

【課 題】 加熱殺菌された軟弱固形物が形崩れしないで均一に分散してなるパウチ容器入りフルーツソースの提供。
【解決手段】 パウチ容器に、40〜70%の軟弱固形物と100〜4,000cPの安定剤粘液を入れて密封し、回転混合し加熱殺菌し冷却することによって形崩れのない均一分散のパウチ容器入りフルーツソースを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形崩れのない軟弱果肉や軟弱果肉等の果肉具材の製造方法に関する。
また、本発明は、加熱殺菌時に形崩れし易い果肉具材を連続的に製造する方法に関する。
さらに詳しくは、本発明は、軟弱果肉具材、増粘剤及び糖液をパウチに充填し、該パウチをパウチ回転殺菌機によって加熱殺菌し、冷却することによって形崩れのない果肉入りフルーツソースを連続的に製造する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の果肉入りフルーツソースの製品は、周知である。例えば、果肉、糖類、果汁、安定剤、香料等を釜で溶解し、殺菌後に容器に充填し包装する方法((1)特開平05−041944号公報)があるが、果肉を撹拌混合するため形崩れが激しく、保形性が悪くなるので、保形性のある未完熟の果肉を使用することが多く、果実によっては完熟果実の有する本来の美味しさを提供できなかった。
また、果肉の形崩れを避けるために容器への果肉の充填後に、加熱、冷却する方法として、果肉原料と安定剤とを加熱することなく容器に充填し、加熱殺菌する方法((2)特開平11−243877号公報)、冷凍果肉を容器に充填後、予め増粘剤、香料、色素等を分散混合した糖液を加え、加熱冷却する方法((3)特開2003−102443号公報)があるが、いずれも果肉と糖液等との撹拌混合工程がないために内容物の分散が悪くなる問題があった。また、このために、予め果肉原料をスプーン状のくり貫き器でくりぬき、角のない形状として、糖液等とを加熱撹拌して殺菌した後に、容器に充填した、冷却して果肉崩れのない、香味・外観が改善された果肉加工品も知られている((4)特開平08−116907号公報)が、くり抜き工程が煩雑で、果肉原料の利用効率が悪いという問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開平05−041944号公報
【特許文献2】特開平11−243877号公報
【特許文献3】特開2003−102443号公報
【特許文献4】特開平08−116907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来方法には上述するようにそれぞれ欠点があり、前記文献(1)の方法では、加熱殺菌による果肉の形崩れが大きく、また、(2)、(3)の方法では、パウチ容器等に果肉等の固形物を投入し、香料・色素・糖・増粘剤からなる増粘液を投入しただけでは、撹拌混合しないため容器内で容易に内容物が満遍なく均一に分散せず、層状又は不均一な状態となり、風味、物性、色に偏りが生じ、最悪の場合殺菌も不十分となることがあり、何れの方法によるものも、結果的に商品価値が失われるという問題があった。また、文献(4)の方法のものは、パウチ容器入りフルーツソースではない。上記従来法によれば、軟弱果肉を用いた場合は、果肉の形崩れ現象がさらに著しいという致命的な問題があった。
そこで、本発明は、上記のような従来法の問題点を解決し、果肉原料の形崩れ現象がなく、軟弱固形物を均一に分散させたフルーツソースを連続的に製造することができる方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、パウチ容器等に果肉等の固形物の量と、さらに香料、色素、糖、増粘剤からなる増粘液の粘性とを調整してパウチ容器に投入密封し、適度な回転を与えることにより軟弱固形物の均一分散を可能とし、商品価値の高い製品を得ることに着目し、その結果、固形量及び増粘液の粘度を調製することにより、パウチ容器内の軟弱固形物の形崩れがなく、軟弱固形物が均一に分散するフルーツソースの工業的製造方法の開発に成功した。
【0006】
すなわち、本発明では、軟弱果肉具材をパウチ容器に充填して、その後、増粘剤と糖液、香料、色素及び水を混合調製した安定剤粘液を該パウチ容器に充填し、密封して、パウチ回転殺菌機で回転混合し加熱殺菌し、冷却することによって、軟弱固形物の形崩れがなく、軟弱固形物を均一に分散させるフルーツソースを連続的に製造することができる。
【0007】
また、本発明は、パウチ容器に充填する場合、増粘剤と糖液からなる安定剤粘液を先に充填した後、軟弱果肉具材を投入してもよく、あるいは増粘剤と糖液からなる安定剤粘液と軟弱果肉具材を一緒にパウチ容器に投入してもよい。
【0008】
本発明の製造方法では、40〜70%の軟弱果肉、100〜4,000cPの安定剤粘液を使用する。また、本製造方法で得られるフルーツソースを使用して、ソフトヨーグルトを混合し、容器に充填してなる軟弱固形物入りソフトヨーグルトを製造する方法も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記のような従来法の欠点を解決して、軟弱果肉の形崩れがなく、軟弱果肉の固形物を均一に分散させたパウチ容器入りフルーツソースを工業的に連続的に製造できる。また、得られたフルーツソースとソフトヨーグルトを混合し容器に充填することで、新規な軟弱果肉の形崩れのない固形率の高いソフトヨーグルトも製造可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明におけるパウチ回転殺菌機を用いたフルーツソースの製造方法を図1で説明するが、本発明は図面の説明に限定されるわけではない。
先ず、40〜70%程度の軟弱果肉具材と、増粘剤と糖液、香料及び色素を混合調製した、粘度100〜4,000cP程度の安定剤粘液を未殺菌パウチ容器に充填し、これをパウチ回転殺菌機のバケットに投入し、加熱殺菌槽中でバケットを回転させつつ進行させる(図中、左方向)。0.2〜0.5rpm程度の容器回転速度で、80〜100℃の範囲で、20〜40分程度で、加熱殺菌する。回転速度、進行速度及び加熱温度の条件は、果肉材料等において、適宜変更する。
本発明で使用するバケットコンベアは、加熱殺菌槽に隣接して設置する通常の冷却水を溜めた冷却槽中を通過させる。冷却槽を通過後にバケットより殺菌済のパウチ容器を取り出す。
【0011】
本発明で使用する軟弱固形物は、冷凍果実、生果実を問わず、完熟果肉、みかん房、バナナ、マンゴー等の果肉部が軟らかい果実等を使用することができるが、格別これらの果実に限定されるわけではない。本発明の方法では、特に、従来、形崩れの激しかった完熟果実の細片を形崩れなく製造できることは本発明の特筆すべき特徴である。
また、本発明において使用する増粘剤としては、流動性をもたせるために用いるもので、適当な増粘剤としては、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、加工澱粉(スターチ)、ペクチン等を使用するが、特にグアーガム、キサンタンガムが好ましい。
増粘剤と糖、香料、色素及び水を混合調製した安定剤粘液の粘度は、流動性を持たせるため、100〜4,000cPが好ましい。100cP以下では、果肉固形物は粘液の中で自由に流動し、静置すると、果肉固形物は分離するので好ましくない。
また、4,000cP以上では、粘液の中に含まれる果肉固形物や着色料は粘液の中で混合分散せず、風味、物性、色に偏りが生じ、商品価値が失われるので好ましくない。
【0012】
以下に試験例、実施例及び比較例によって本発明を説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0013】
[試験例]
増粘剤と砂糖、色素、香料、水を混合し調製した安定剤粘液の粘度と、軟弱固形物の固形量を調製したものを、各々パウチ容器に充填し、パウチ回転殺菌機で回転しながら加熱殺菌し冷却後の軟弱固形物の均一分散性及び軟弱固形物の保形性との関係について、以下のとおり試験を行った。
(1)軟弱固形物の均一分散性及び回転混合による軟弱固形物の保形性試験
軟弱固形物としてシロップ漬けみかん(房状)を各々固形量を調製したものをパウチ容器に投入し、予め粘度が2,000cP以下、2,000〜4,000cP、5,000cP以上(B型粘度計4号ローター30rpm、10℃で30秒間)となるよう各々調製した安定剤粘液をパウチ容器に投入し、最後に分散性確認のための香料及び色素を混合調製した着色液を投入し、パウチ容器を密封し、パウチ回転殺菌機(B.S.C型リフトスチーマーZ、旭工業(株)社製)にて0.4rpmの容器回転速度で、90℃、30分間加熱殺菌し、冷却した。
各々のパウチ容器内の軟弱固形物の分散性を表1に、軟弱固形物の保形性について表2に示した。
なお、果肉フルーツソースの保形性は、4.75mm目開きのザルに果肉ソースを静かに開け、シャワーで増粘液部を洗い流した後、ザル上に残っている軟弱固形物の全重量である固形重量を測定した。
【0014】
【表1】

【0015】
[表1の測定評価基準]
・良好:果肉及び着色液の混合分散が均一である
・やや良好:果肉及び着色液の混合分散にややまばらな部分がある
・やや不良:果肉及び着色液の混合分散にまばらな部分がある
・不良:果肉及び着色液の混合分散していない
【0016】
【表2】

【0017】
[保形性の評価基準]
・良好:みかん房の形崩れ極めて少なく房状がしっかりしている(保形率90%以上)
・やや良好:みかん房の形崩れが少なく房状が残る(保形率85%以上90%未満)
・やや不良:みかん房の形崩れがあるが房状が残る(保形率80%以上85%未満)
・不良:みかん房の形崩れがあり、さのう部が多い(保形率80%未満)
【0018】
[表1・2の総括]
以上から、本発明の目的とする形崩れのないフルーツソースを製造するには、安定剤粘液の粘度4,000cP以下かつ軟弱固形物の固形率70%以下が望ましい。さらに望ましくは、安定剤粘液の粘度2,000cP以下かつ軟弱固形物の固形率60%以下が望ましいことがわかった。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施例及び比較例について述べる。
本発明方法である実施例1と従来のフルーツソース製造(以下、「従来法」という)で用いられる混合釜による軟弱固形物と安定剤粘液との混合したもの(比較例1)を下記の工程によって調製する。
〔本法(実施例1)〕
みかん果肉6.0kgをパウチ容器に投入後、グアーガム21.0g、キサンタンガム3.5g、砂糖500g及び水の一部を混合した増粘液、色素10g、香料50g及び水の一部を混合調製した着色香料液を投入して密封し、パウチ回転殺菌機にて0.4rpmの容器回転速度で90℃、30分間加熱殺菌して、冷却水で30分間冷却した。このときに用いた安定剤粘液の粘度は、3,060cPであった。
〔従来法(比較例1)〕
みかん果肉6.0kg及び水の一部を釜に投入後、あらかじめ分散溶解した増粘剤(グアーガム21.0g、キサンタンガム3.5g)、砂糖500g、色素10g、香料50gを投入し、撹拌羽でムラなく均一に分散する程度に撹拌混合し、90℃、30分間加熱殺菌した後、充填冷却した。
〔配合処方〕
上記実施例1試料及び比較例1試料は、いずれも以下の表3に示す配合処方である。
【0020】
【表3】

【0021】
<形崩れの状態>
従来法と本法とで製造した果肉フルーツソースの果肉崩れを比較するため、4.75mm目開きのザルに果肉ソース500gを静かに開け、シャワーで増粘液部を洗い流した後、ザル上に残っている軟弱固形物の全重量である固形重量及び形状のしっかりした房状の固形個数を測定し、形崩れ状態の対比結果を表4に示す。
【0022】
【表4】

【0023】
〔結果の総括〕
従来法と本発明法で得られたものは、ともに軟弱固形物の果肉分散は満遍なく均一であった。しかし、従来法のものは増粘液層部分がオレンジ色に濁り、みかんの房が破損し、房が崩れさのう状態のものが本発明法により得られたものに比べ明らかに多かった。
以上から、従来法のものに比べ本発明法のものの方が、みかんの果肉崩れが少なく果肉がしっかり残っていることが確認できた。
【実施例2】
【0024】
(ソフトヨーグルトの調製)
ソフトヨーグルトは、常法に従い、牛乳原料ミックスにスターターを接種、発酵し、発酵終了後、発酵乳を撹拌、冷却して製造する。
具体的には、牛乳70.0kg、脱脂粉乳5.0kg、砂糖5.0kg、水20.0kgを調合し、65℃で150kg/cm2の圧力で均質化した。この原料ミックスを90℃、30分殺菌後、40℃まで冷却し、予め調製しておいたスターター(L. bulgaricus, S. thermophilus)を2.0kg接種し、40℃で6時間発酵した。発酵終了後、発酵乳を10℃まで撹拌冷却し、ソフトヨーグルトを得た。
【0025】
(果肉入りソフトヨーグルトの製造)
本発明の製法で得られたフルーツソース部20%とソフトヨーグルト部80%とを定量送液ポンプにてそれぞれ送液し、混合器(スタティックミキサー)により満遍なく混合して、軟弱固形物入りソフトヨーグルトを容器に充填した。
また、比較例2として従来法(比較例1)で得たフルーツソース部20%を配合し、実施例2と同様の方法で製造した。
さらに、比較例3として本発明に使用した実施例2と同量のシロップ漬けみかん(缶詰品)を果肉抜きのソースと混合したソフトヨーグルトに手入れにて充填し製造した。
これら実施例及び比較例において得られた製品の形崩れの評価結果を表5に示す。
【0026】
【表5】

【0027】
〔結果の総括〕
本発明品である実施例2のものは、比較例3のものよりやや果肉崩れは認められるが、ほぼ同等の果肉残りの良いフルーツヨーグルトができた。
また、手作業による果肉等の充填は、効率性、衛生性、人件費等、工業化の面では課題が多く、本発明の軟弱固形物入りソースを用いると、従来の果肉入りソフトヨーグルトの製造設備等を改造することなく、比較例3のものの軟弱果肉を手入れしたものとほぼ同等の製品が工業的に効率よく生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のパウチ回転殺菌機の模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果肉固形物を安定剤粘液とともにパウチ容器に入れ、該パウチ容器を回転混合して加熱殺菌されてなることを特徴とする果肉固形物が形崩れなく均一に分散してなるパウチ容器入りフルーツソース。
【請求項2】
果肉固形物が、軟弱果肉具材であることを特徴とする請求項1に記載のパウチ容器入りフルーツソース。
【請求項3】
果肉固形物が、40〜70%(全体重量基準)、安定剤粘液の粘度100〜4,000cPであることを特徴とする請求項1又は2に記載のパウチ容器入りフルーツソース。
【請求項4】
パウチ容器に、40〜70%の軟弱固形物と100〜4,000cPの安定剤粘液を入れて密封し、回転混合し、加熱殺菌し、冷却することを特徴とするパウチ容器入りフルーツソースの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかで得られるフルーツソースとソフトヨーグルトを混合し、容器に充填してなることを特徴とする軟弱固形物入りソフトヨーグルトの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−158311(P2006−158311A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355731(P2004−355731)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(503058751)日本ミルクコミュニティ株式会社 (12)
【出願人】(504451793)壽高原食品株式會社 (1)
【Fターム(参考)】