説明

フレキシブルプリント基板用シート及びこれを用いたフレキシブルプリント基板

【課題】 本発明は、優れた耐熱性を有しており、フレキシブルプリント基板の製造時に加えられる熱にかかわらず優れた寸法安定性を有し、緻密な回路形成を可能にするフレキシブルプリント基板用シートを提供する。
【解決手段】 本発明のフレキシブルプリント基板用シートは、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一対の引抜ロール間に通して引抜延伸した後に上記引抜延伸方向に延伸することによって得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れ、フレキシブルプリント基板の製造時に加えられる加熱にもかかわらず熱収縮の小さなフレキシブルプリント基板用シート及びこれを用いたフレキシブルプリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パソコン、プリンターなどの電子機器、自動車の電子部品などにフレキシブルプリント基板が多数、用いられている。このフレキシブルプリント基板は、フレキシブルプリント基板用シートの表面に回路を形成することによって製造されている。
【0003】
このようなフレキシブルプリント基板用シートとしては、耐熱性、屈曲性が必要なため、ポリイミドシートが従来から使用されてきた。しかしながら、最近の低価格化競争の激化に伴い、高価なポリイミドシートを使用することは難しくなっているだけでなく、ポリイミド自体の吸湿性が高く、吸湿時の寸法安定性が悪い、加工性が悪いなどの欠点を有している。
【0004】
そこで、安価で吸湿性が低く、耐薬品性に優れ、絶縁性に良好なポリエステルシートが見直されているが、耐熱性、屈曲性に問題があるなどの欠点を有していた。
【0005】
そこで、特許文献1には、ポリエステルとポリイミドからなり、ポリイミドが1〜150重量%含まれているフレキシブルプリント基板用二軸配向フィルムが開示されている。
【0006】
しかしながら、上記フィルムは、延伸倍率を上げることができず、線膨張係数が高く、屈曲性も低下するという欠点があった。
【0007】
更に、特許文献2にはフレキシブルプリント基板の配線パターンを形成しない側にポリエステルフィルムに銅箔を張り合わせた基板が開示されている。しかしながら、この基板は配線を組み込んだ際に絶縁性が不良となるという欠点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−244587号公報
【特許文献2】特開2000−315840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた耐熱性を有しており且つ線膨張係数が小さく、更に、屈曲性にも優れたフレキシブルプリント基板用シート及びこれを用いたフレキシブルプリント基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフレキシブルプリント基板用シートは、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一対の引抜ロール間に通して引抜延伸した後に上記引抜延伸方向に延伸することによって得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを含むことを特徴とする。
【0011】
引抜延伸に用いられる原反となる熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレナジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレートなどが挙げられ、耐熱性の優れたポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0012】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂の極限粘度は、低すぎると、シート作成時にドローダウンを起こしやすく、高すぎると、引抜延伸の延伸倍率を大きくすることが困難となることがあるので、0.6〜1.0が好ましい。なお、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂の極限粘度は、JIS K7367−1に準拠して測定されたものをいう。
【0013】
原反となる熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みは特に限定されないが、0.5〜4mmが好ましい。熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みが0.5mm未満では、延伸後のシート厚みが薄くなりすぎ、取扱いに際しての強度が十分な大きさとならないことがあり、4mmを超えると延伸が困難となることがあるからである。
【0014】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが原反として用いられることが好ましく、その結晶化度は特に限定されるものではないが、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満であることが好ましく、5%未満がより好ましい。非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの結晶化度は、密度法により測定されたものをいう。
【0015】
引抜延伸する際の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度は、低温であると、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが白化し、或いは、硬すぎて裂けて引き抜くことができないことがあるので、引抜延伸する前に予め(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20)℃以上に予熱することが好ましい。なお、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121−1987に準拠して測定されたものをいう。
【0016】
上記引抜延伸する際の一対の引抜ロールの温度は、低温すぎると、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度が低下して延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが白化し、高温すぎると、引抜延伸の際の摩擦熱などにより樹脂温度が上昇して分子配向が緩和するので、(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20)℃以上で且つ(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20)℃未満であることが好ましい。
【0017】
又、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引き抜く際に、一対のロールをこれらの対向面が共に引抜方向となるように回転させることで引抜延伸の際の抵抗を低減して延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの波うちの発生を抑えることができ好ましい。
【0018】
本発明においては、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜延伸することによって得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを上記引抜延伸と同一方向に延伸している。
【0019】
特に、引抜延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのポリエステル系樹脂は、延伸の阻害要因となる熱による等方的な結晶化及び配向が抑えられた状態で分子鎖は高度に配向しているが結晶化度は低いので、加熱されると配向は容易に緩和されて機械的強度が低下するという欠点を有している。
【0020】
そこで、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、好ましくは、一対の引抜ロールの温度より高い温度で引抜延伸方向に延伸することにより配向が緩和されることなく結晶化度が上昇し、加熱されても配向が容易に緩和されない機械的強度に優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを得ることができる。
【0021】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜延伸方向に延伸する方法としてはロール延伸法が好適に用いられる。なお、ロール延伸法とは、一対のロールを所定間隔を存して配設してなるロール対を二組用意し、この二組のロール対を所定間隔を存して配設し、二組のロール対間に延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを配設すると共に、各ロール対のロール間に延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを挟持させ、一方のロール対の回転速度と、他方のロール対の回転速度とを相違させ、且つ、下流側のロール対の回転速度を上流側のロール対の回転速度より速くすることにより、加熱状態の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに引張力を加えて延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引っ張る方法であり一方向のみに強く分子配向させることができる。なお、ロール対間の速度比が延伸倍率となる。
【0022】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜延伸方向に延伸する際の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度は、低いと、必要な延伸倍率が得られないことがあり、高いと、引抜延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが溶融して切断されるので、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂を昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量分析によって測定して得られる示差走査熱量曲線において、熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピーク温度の立ち上がり温度以上で且つ融解ピークの立ち上がり温度以下が好ましい。
【0023】
なお、ポリエチレンテレフタレートの結晶化ピークの立ち上がり温度は約120℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約230℃である。従って、延伸ポリエチレンテレフタレートシートを引抜延伸方向に延伸する際は120〜230℃で延伸するのが好ましい。
【0024】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートにおいて、引抜延伸の延伸倍率と、引抜延伸方向の延伸の延伸倍率との合計の延伸倍率は、低いと、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの機械的強度が低下し、高いと、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが延伸方向に沿って割れやすくなるので、2.5〜8倍が好ましい。
【0025】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートにおける引抜延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの機械的強度が低下することがあり、高いと、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが延伸方向に沿って割れやすくなるので、3〜7倍が好ましく、4〜6倍がより好ましい。なお、引抜延伸の延伸倍率は、延伸後のシートの長さを延伸前のシートの長さで除したものをいう。
【0026】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの引抜延伸方向の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの機械的強度が低下することがあり、高いと、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが延伸方向に沿って割れやすくなるので、1.01〜1.2倍が好ましく、1.03〜1.1倍がより好ましい。
【0027】
上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、上記引抜延伸の方向に直交する方向に延伸してもよい。このように、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをその引抜延伸の方向に直交する方向に延伸することによって、二軸延伸となり、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを常温にて引抜延伸の方向に沿って屈曲させた場合にあっても延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに割れなどが発生することはない。
【0028】
更に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、引抜延伸の方向に加え、引抜延伸の方向に直交する方向の引張強度にも優れ、又、熱を加えた際の膨張率も、引抜延伸の方向及びこの方向に直交する方向において低い。
【0029】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをその引抜延伸の方向に直交する方向に延伸する方法としては、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートにおける引抜延伸の方向に直交する方向の両端部を一対の把持具を用いて把持し、把持具を互いに離間する方向に移動させることによって延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを延伸する方法が挙げられる。
【0030】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをその引抜延伸の方向に直交する方向に延伸する際の延伸倍率は、低いと、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをその引抜延伸の方向に沿って屈曲させて賦形加工した際に延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに割れなどが発生し、又、引抜延伸の方向に直交する方向において、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの強度も低く、熱を加えた際の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの膨張率も大きくなり、高いと、引抜延伸方向において、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの強度が低下し或いは熱を加えた際の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの膨張率が大きくなるので、2倍が好ましい。なお、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをその引抜延伸の方向に直交する方向に延伸する際の延伸倍率は、延伸後の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートにおける延伸方向の長さと厚みとを乗じた値を、延伸前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートにおける延伸方向の長さと厚みとを乗じた値で除した値をいう。
【0031】
又、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをその引抜延伸の方向に直交する方向に延伸する際の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度は、低いと、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに裂けが発生することがあり、高いと、熱可塑性ポリエステル系樹 脂分子が緩和して、引抜延伸に直交する方向の延伸が得られず、又、引抜延伸に直交する方向の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの強度も低下するので、60〜220℃が好ましく、110〜150℃がより好ましい。
【0032】
又、引抜延伸方向に延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの結晶化度は、低いと、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの機械的強度が低下し、高いと、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが割れやすくなるので、20〜50%が好ましく、30〜45%がより好ましい。なお、引抜延伸方向に延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの結晶化度は、密度法により測定されたものをいう。
【0033】
更に、引抜延伸方向に延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、その機械的強度を向上させるために熱固定されるのが好ましい。
【0034】
引抜延伸方向に延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの熱固定温度は、引抜延伸方向の延伸時の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度(引抜延伸方向の延伸温度)より低いと、熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化が進まず機械的強度が向上しないので、引抜延伸方向への延伸温度以上が好ましいが、原反となる熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂を昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量分析によって測定して得られる示差走査熱量曲線における融解ピークの立ち上がり温度より高くなると、熱可塑性ポリエステル系樹脂が溶解して延伸(配向)が消滅し、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの機械的強度が低下するので、引抜延伸方向の延伸温度以上で且つ原反となる熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂を昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量分析によって測定して得られる示差走査熱量曲線における融解ピークの立ち上がり温度以下がより好ましい。
【0035】
又、引抜延伸方向に延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを熱固定する際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに負荷がかかっていると延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが延伸され、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートがフリーの状態では延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに収縮が生じるので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに負荷はかかっていないが熱により収縮しないように固定した状態で行うことが好ましく、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに圧力もかかっていないことが好ましい。例えば、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両端をピンチロールなどで負荷がかからないように保持した状態で、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの熱固定を行なうのが好ましい。なお、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの加熱は、熱風、ヒーターなどで行うのが好ましい。
【0036】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを熱固定する時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さや熱固定温度により異なるが、10秒〜5分が好ましい。
【0037】
上述のようにして得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートはフレキシブルプリント基板用シートとして用いられ、このフレキシブルプリント基板用シートの表面に回路を形成することによってフレキシブルプリント基板を製造することができる。
【0038】
フレキシブルプリント基板用シートの表面に回路を形成する方法としては、特に限定されず、例えば、フレキシブルプリント基板用シートの表面に接着剤などの公知の手段を介して回路パターンに打ち抜き形成された銅箔などの金属箔を貼り合わせる方法、フレキシブルプリント基板用シートの表面に銅などの金属をパターン状にメッキ処理して回路を形成する方法、フレキシブルプリント基板用シートの表面に導電ペーストをスクリーン印刷などの公知の印刷手段によって回路パターンに印刷し、導電ペーストを加熱して硬化させて回路を形成する方法などが挙げられる。
【0039】
更に、フレキシブルプリント基板の回路上に半導体素子を半田付けなどの汎用の方法で電気的に接続一体化させることによって電子機器などの部品として用いられる。このように、フレキシブルプリント基板用シート上に回路を形成する時や、フレキシブルプリント基板の回路上に半導体素子を接続一体化させる時などに、フレキシブルプリント基板用シートに熱が加えられるが、フレキシブルプリント基板用シートは、優れた耐熱性を有しており、上述の工程時に加えられる熱によって熱収縮が生じることは殆どなく、フレキシブルプリント基板用シート上に緻密な回路を正確に形成することができると共に、フレキシブルプリント基板用シート上に形成した回路を破壊することなく回路上に半導体素子を半田付けなどの公知の要領で電気的に接続して実装することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明のフレキシブルプリント基板用シートは、上述の如き構成を有しており、優れた耐熱性を有し且つ線膨張係数が小さいと共に屈曲性にも優れていることから、表面に緻密な回路を汎用の要領で正確に形成することができると共に、緻密な回路上に半導体素子を半田付けなどの汎用の要領で簡単に実装することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製 商品名「NEH2070」、極限粘度:0.88)を押出機に供給して溶融混練しTダイから押出すことによって厚さ2mmで且つ幅600mmの非晶状態のポリエチレンテレフタレートシートを得た。なお、ポリエチレンテレフタレートシートの結晶化度は2.5%であった。
【0043】
なお、ポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度は76.7℃、ポリエチレンテレフタレートを昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量分析によって測定して得られた示差走査熱量曲線において、ポリエチレンテレフタレートの結晶化ピークの立ち上がり温度は139.8℃で、融解ピークの立ち上がり温度は234℃であった。
【0044】
一対の直径が500mmの引抜ロールを用意し、この引抜ロールをその対向面間の距離(隙間)が0.7mmとなるように配設した。そして、ポリエチレンテレフタレートシートAに温風を吹き付けて60℃に予熱した後、このポリエチレンテレフタレートシートAを65℃に保持された引抜ロール間に通して6m/分の速度で引き抜いて引抜延伸を行って延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。延伸ポリエチレンテレフタレートシートの延伸倍率は5.5倍であった。なお、引抜ロールは、これら引抜ロールの対向面が共に引抜方向となるように回転速度1.32m/分にて回転していた。
【0045】
次に、190℃に保持された熱風槽内に、一対のロールを0.5mmの間隔を存して上下に配設してなるロール対を二組用意し、この二組のロール対を10mの間隔を存して配設し、二組のロール対間に延伸ポリエチレンテレフタレートシートを配設すると共に、各ロール対のロール間に延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを挟持させ、上流(入口)側のロール対の回転速度を6m/分、下流(出口)側のロール対の回転速度を6.3m/分とし、加熱状態の延伸ポリエチレンテレフタレートシートに引張力を加えて延伸ポリエチレンテレフタレートシートを上記引抜延伸と同一方向に一軸延伸してフレキシブルプリント基板用シートを製造した。なお、フレキシブルプリント基板用シートの結晶化度は、37%であった。
【0046】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られたポリエチレンテレフタレートシートを長手方向に90℃で3.3倍に延伸した後、50℃の冷却ロールで冷却した。次に、ポリエチレンテレフタレートシートの幅方向の両端部をクリップで把持した上でポリエチレンテレフタレートシートを第一テンターに導き、ポリエチレンテレフタレートシートをその幅方向に95℃で3.4倍に延伸した。
【0047】
しかる後、ポリエチレンテレフタレートシートを245℃に加熱した。次に、ポリエチレンテレフタレートシートを150℃に制御された雰囲気中にて長手方向に1%の弛緩処理を行った後、ポリエチレンテレフタレートシートを100℃に制御された雰囲気中にて2%の弛緩処理を行い、続いて、ポリエチレンテレフタレートシートを室温まで冷却した上でポリエチレンテレフタレートシートの幅方向の両端部を除去して厚さが600μmの二軸延伸シートを得た。
【0048】
実施例1で得られたフレキシブルプリント基板用シート及び比較例1で得られた二軸延伸シートの耐熱性、線膨張係数及び屈曲性を以下の方法で測定した。
【0049】
(耐熱性(ガラス転移温度))
動的粘弾性装置(アイティー計測制御社製 型式「DVA−320」)を用いてフレキシブルプリント基板用シート及び二軸延伸シートを構成しているポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度を測定した。実施例1のフレキシブルプリント基板用シートを構成しているポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度は130℃、比較例1で得られた二軸延伸シートを構成しているポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度は110℃であった。
【0050】
(線膨張係数)
得られたフレキシブルプリント基板用シート及び二軸延伸シートを23℃、相対湿度50%の雰囲気下に24時間に亘って放置した後、フレキシブルプリント基板用シート及び二軸延伸シートの表面に引抜延伸の方向に直交する方向に平行に50mmの長さの直線を描いた。しかる後、フレキシブルプリント基板用シート及び二軸延伸シートを73℃、相対湿度50%の雰囲気下に30分に亘って放置した後、フレキシブルプリント基板用シート及び二軸延伸シートの表面の直線の長さL(mm)を測定し、下記式に基づいて線膨張係数を測定した。実施例1のフレキシブルプリント基板用シートの線膨張係数は−0.5×10-5(/deg)、比較例1の二軸延伸シートは2×10-5(/deg)であった。
線膨張係数(/deg)=〔(L−50)/50〕50
【0051】
(屈曲性)
得られたフレキシブルプリント基板用シート及び二軸延伸シートを引抜延伸方向に沿って二つ折りした後、元の形状に戻すという操作を1回として100回繰り返して行った。実施例1のフレキシブルプリント基板用シートでは割れは発生しなかったが、比較例1の二軸延伸シートは5回目の操作で二軸延伸シートに割れが発生した。
【0052】
(実施例2)
実施例1で得られたフレキシブルプリント基板用シートの表面にコロナ放電処理による表面活性処理を施した後、フレキシブルプリント基板用シートを縦45cm、横50cmの平面長方形状の大きさに裁断し、このフレキシブルプリント基板用シートの表面に導電ペーストをスクリーン印刷法によって径6mmの円形接点及びマーカーのモデルパターンに印刷し、赤外線ヒーターを用いて導電ペースト中の溶媒を乾燥、除去した。なお、導電ペーストの塗膜の厚さは15μmに調節した。
【0053】
しかる後、フレキシブルプリント基板用シート上に印刷した導電ペーストを熱硬化させるために、フレキシブルプリント基板用シートを熱風オーブンに供給して150℃にて30分間に亘って熱処理して、フレキシブルプリント基板用シートの表面に回路を形成してフレキシブルプリント基板を得た。
【0054】
得られたフレキシブルプリント基板を目視で観察したが、フレキシブルプリント基板に亀裂は発生していなかった。
【0055】
(比較例2)
比較例1で得られた二軸延伸シートを用いて実施例2と同様にプリント基板を作成したところ、二軸延伸シートに多数の亀裂が発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一対の引抜ロール間に通して引抜延伸した後に上記引抜延伸方向に延伸することによって得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを含むことを特徴とするフレキシブルプリント基板用シート。
【請求項2】
請求項1に記載のフレキシブルプリント基板用シートの表面に回路が形成されてなることを特徴とするフレキシブルプリント基板。

【公開番号】特開2012−9621(P2012−9621A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144126(P2010−144126)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】