説明

フレキシブルプリント配線基板材料の製造方法

【課題】フレキシブルプリント配線基板材料の製造方法において、ベースフィルムの吸湿や吸水の影響をうけることなく導体層を内側とした反りとなるようなCOF用フレキシブルプリント配線基板材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】形成される導体層の線膨張係数よりも小さい値の線膨張係数を示すポリイミドフィルムを使用して、(1)乾式めっき法でポリイミドフィルム上に金属シード層を形成する工程、(2)前記(1)工程により得られた金属シード層上に湿式めっき法により導体層を形成する工程、を含有するフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法において、前記(2)工程において、形成される導体層の厚みが1μmを超えるまでの時間が5分以内であり、搬送張力が8N/cm以下であることを特徴とするフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にチップオンフィルム(以下、COFともいう)用途に好適に用いることができるフレキシブルプリント配線基板材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶用ドライバICは、主にチップオンフィルム方式(COF方式)等にて実装されており、使用されるフレキシブルプリント配線基板材料(以下、FCCLともいう)は、主に例えば物理気相蒸着法(以下、PVD法ともいう)に代表されるような乾式めっき法によりポリイミドフィルム上に直接金属シード層を形成した後に、そのシード層上に湿式めっき法により導体層を形成するというような製造方法により作製されている。
【0003】
ところで、ポリイミドフィルムは熱を加えることにより膨張し、また吸湿や吸水することによっても膨張するといった特性を有している。したがってフレキシブルプリント配線基板材料を製造する際にポリイミドフィルムと導体層はそれぞれのもつ膨張率にて膨張されることとなる。この膨張させられた状態は、温度や湿度が下がると、それぞれがほぼもとの状態にまで収縮させられることとなる。
【0004】
そのため、例えばポリイミドフィルムの線膨張係数が導体層よりも小さいと、導体層の熱による膨張よりも小さい膨張状態でポリイミドフィルムが導体層と一体化されることとなるが、その後作製されたフレキシブルプリント配線基板材料の温度が下がったあとのポリイミドフィルムの収縮は導体層の収縮よりも小さくなる(導体層の収縮の方が大きくなる)ため、結果としてフレキシブルプリント配線基板材料は、導体層側を内側にした反りが生じることとなる。フレキシブルプリント配線基板材料に生じる反りは、その後の回路形成やIC実装時に問題を起こす場合があることが知られている。従って、使用される用途に応じてベースフィルムとなるポリイミドフィルムの線膨張係数をコントロールすることでフレキシブルプリント配線基板材料の反りの方向や反りの量をコントロールする方法が種々提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
一般的にCOF用フレキシブルプリント配線基板材料においては、高密度配線化に伴い、ベースフィルムに対して高い寸法安定性が要求されている。特に、COF用フィルムキャリアテープに液晶用ドライバICを実装する工程では、高い位置精度が求められており、COF用フィルムキャリアテープを真空吸着により固定しながらドライバICの実装が行われる場合がある。この場合において、それらに使用されるCOF用フィルムキャリアテープは、導体層側を内側に反りが生じていることが好ましい。上述したように導体層を内側にした反りを生じさせるためには、ベースフィルムの線膨張係数を導体層の線膨張係数よりも小さくすることで達成できる。
【0006】
しかしながらフィルムの吸脱湿や吸脱水による寸法変化が起こりやすいポリイミドフィルムを使用した場合、PVD法により製造されるCOF用フレキシブルプリント配線基板材料は、その製造工程において湿式めっき工程が存在するために、ベースフィルムの線膨張係数が導体層より小さくても上述したような導体層を内側にした反りが生じない場合がある。このようなポリイミドフィルムを使用して製造されたCOF用フレキシブルプリント配線基板材料を使用すると、言い換えれば導体層を外側にした反りのCOF用フィルムキャリアテープを使用すると、液晶用ドライバIC実装時に、真空吸着によるCOF用フィルムキャリアテープの固定を行う場合に、フィルムキャリアテープの固定を行うことができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3356560号公報
【特許文献2】特許第3912610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フレキシブルプリント配線基板材料の製造方法において、フィルムの吸湿や吸水により寸法変化が起こりやすいポリイミドフィルムを使用した場合に、これらの寸法変化の影響が抑制され、導体層を内側とした反りとなるようなフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法、およびそれを用いたCOF用フィルムキャリアテープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、以下の製造方法を用いることにより、ベースフィルムの吸湿や吸水による影響が抑制されており、導体層を内側とした反りとなるようなフレキシブルプリント配線基板材料を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第一は、形成される導体層の線膨張係数よりも小さい値の線膨張係数を示すポリイミドフィルムを使用して、(1)乾式めっき法でポリイミドフィルム上に金属シード層を形成する工程、(2)前記(1)工程により得られた金属シード層上に湿式めっき法により導体層を形成する工程、を含有するフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法において、前記(2)工程において、形成される導体層の厚みが1μmを超えるまでの時間が5分以内であり、搬送張力が8N/cm以下であることを特徴とするフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法に関する。
【0011】
好ましい実施態様は、前記(2)工程において、形成される導体層の厚みが1μmを超えるまでの時間が2.5分以内であることを特徴とする前記のフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法に関する。
【0012】
好ましい実施態様は、前記ポリイミドフィルムが、ピロメリット酸二無水物、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、パラフェニレンジアミン、4,4´−オキシジアニリン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを必須成分としてなり、弾性率が5〜10GPa、100〜200℃の平均線膨張係数が5〜15ppm/℃であり、また、温度50℃における40〜70%RHの湿度変化に伴う吸湿膨張係数が5〜15ppm/%RHであり、さらに温度50℃において10分以内の速度で湿度を40%RHから70%RHに変化させた時のフィルムの寸法変化速度が30分以内であることを特徴とする前記いずれかのフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法に関する。
【0013】
好ましい実施態様は、前記(1)工程においてポリイミドフィルム上に形成される金属シード層が、Ni、Cu、Mo、Ta、Ti、V、Cr、Fe、Co、Al、Snから選ばれる少なくとも1種を含有し、かつ(2)工程の湿式めっき法により形成される導体層がCuであることを特徴とする前記いずれかに記載のフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法に関する。
【0014】
好ましい実施態様は、前記いずれかに記載の方法により製造されたフレキシブルプリント配線基板材料であって、該配線基板材料を35×35mmの大きさに切り出したサンプルの反り量が、温度20〜40℃、湿度40〜60%RHの環境下において、導体層を内側として10mm以下となることを特徴とするフレキシブルプリント配線基板材料に関する。
【0015】
本発明の第二は、前記いずれかに記載の製造方法にて製造されたフレキシブルプリント配線基板材料を用いたチップオンフィルム用フィルムキャリアテープに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフレキシブルプリント配線基板の製造方法によれば、ベースフィルムの吸湿や吸水による寸法変化の影響が抑制されており、導体層を内側とした反りとなるようなフレキシブルプリント配線基板材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の一形態を詳細に説明する。
【0018】
まず、本発明において使用されうるポリイミドフィルムについて説明する。一般にポリイミドはその前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸ともいう)から得ることができるが、本発明において前記ポリアミド酸の製造方法は公知のあらゆる方法を用いることができる。
【0019】
通常、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンを実質的等モル量にて有機溶媒中に溶解させて、得られたポリアミド酸溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。これらのポリアミド酸溶液は、通常5〜35重量%、好ましくは10〜30重量%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得ることができる。
【0020】
重合方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、特に好ましい重合方法として次のような方法が挙げられる。すなわち、
芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モル量の芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
芳香族テトラカルボン酸とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここに芳香族ジアミン化合物を追加添加後、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて反応させる方法。
芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
などのような方法である。
【0021】
本発明においては、上記のいかなる方法を用いて得られるポリアミド酸を用いてもよく、重合方法は特に限定されるものでは無い。本発明においては、ポリマー中の分子配列を制御したり、高価なモノマーを使用しても、もちろん効果を得ることができる。
【0022】
これら方法の中で、安定的に工程を制御するという観点から、全工程において用いられる芳香族ジアミン成分すべてを有機溶剤に溶解し、その後実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン成分を添加して重合反応を行う方法を用いるのがより好ましい。
【0023】
次に、上記ポリアミド酸の製造に用いられる材料について説明する。本発明において用いることができる適当な酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2´,3,3´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2´−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの誘導物を含み、これらを単独または任意の割合の混合物が好ましく用いられ得る。
【0024】
これら酸二無水物の中では、特に3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の使用が好ましい。さらには3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物の使用がより好ましい。これらは単独または他の酸二無水物と併用することができる。好ましい使用量は、ピロメリット酸二無水物が全酸二無水物に対して、10〜70mol%、好ましくは15〜70mol%、さらに好ましくは15〜60mol%であり、及び/又は3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物の使用量が全酸二無水物に対して10〜50mol%、好ましくは15〜50mol%、さらに好ましくは15〜40mol%である。3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が、この使用範囲を下回ると、得られるポリイミドフィルムの機械特性等が劣る場合がある。また、この範囲を上回るとガラス転移温度が低くなりすぎる傾向があり、フィルム製造の焼成工程で不具合を生じることもある。また、ピロメリット酸二無水物が、この使用範囲を下回るとガラス転移温度が低くなりすぎる傾向があり、フィルム製造の焼成工程で不具合を生じる場合もある。一方、この範囲を上回ると、得られるポリイミドフィルムの機械特性等が劣る場合がある。
【0025】
本発明において、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の製造に使用し得る適当なジアミン成分としては、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらを単独または複数併用することができる。これらの例は主成分として好適に用いられる例であり、副成分としていかなるジアミンを用いることもできる。これらの中で特に好ましく用い得るジアミンの例として、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、が挙げられる。これらジアミン類の中で特には、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、4,4´−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミンの使用が好ましい。これらは単独または他のジアミンと併用することができる。
【0026】
好ましい4,4´−オキシジアニリンとp−フェニレンジアミンの使用量は、全ジアミン化合物に対して10〜70mol%、好ましくは15〜70mol%、さらに好ましくは15〜60mol%である。p−フェニレンジアミンと4,4´−オキシジアニリンの使用量がこの範囲を外れると、得られるポリイミドフィルムの機械特性等が劣る場合があり、この範囲を上回るとフィルム製造の焼成工程で不具合を生じる場合もある。また、上記2つのジアミン以外にも適宜2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを使用することができる。好ましい使用量は、全ジアミン化合物に対して、10〜50mol%、好ましくは20〜40mol%である。2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンの使用量がこの範囲を上回るとガラス転移温度が低くなりすぎる傾向があり、フィルム製造の焼成工程で不具合を生じる場合もある。また、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンの使用量がこの範囲を下回るとフィルムの吸湿膨張係数が大きくなる傾向があり、他の機械特性が良好な場合でも本発明の効果を十分に発揮しない場合がある。
【0027】
次に、ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒、すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられ得る。
【0028】
また、すべり性、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的で、例えばポリアミド酸溶液中にフィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0029】
フィラーの粒子径は改質すべきフィルム特性と添加するフィラーの種類によって決定されるため、特に限定されるものではないが、一般的には数平均粒子径が0.05〜100μm、好ましくは0.1〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜25μmである。粒子径がこの範囲を下回ると滑り性等の改質効果が現れにくくなり、逆にこの範囲を上回ると表面性を大きく損なったり、機械的特性が大きく低下したりする虞がある。また、フィラーの添加部数についても改質すべきフィルム特性やフィラー粒子径などにより決定されるため特に限定されるものではない。一般的にフィラーの添加量はポリイミド100重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは0.01〜90重量部、更に好ましくは0.02〜80重量部である。フィラー添加量がこの範囲を下回るとフィラーによる改質効果が現れにくく、この範囲を上回るとフィルムの機械的特性が大きく損なわれる虞がある。
【0030】
上記フィラーの添加は、
1.重合前または途中に重合反応液に添加する方法
2.重合完了後、3本ロールなどを用いてフィラーを混錬する方法
3.フィラーを含む分散液を用意し、これをポリアミド酸有機溶媒溶液に混合する方法などいかなる方法を用いてもよいが、フィラーを含む分散液をポリアミド酸溶液に混合する方法、特に製膜直前に混合する方法が製造ラインのフィラーによる汚染が最も少なくすむため、好ましい。フィラーを含む分散液を用意する場合、ポリアミド酸の重合溶媒と同じ溶媒を用いるのが好ましい。また、フィラーを良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等をフィルム物性に影響を及ぼさない範囲内で用いることもできる。
【0031】
特に、COF用フレキシブルプリント配線基板用ベースフィルムのすべり性改善のために添加する場合、平均粒子径は0.1〜5μmが好ましく、より好ましくは0.1〜1μmである。粒子径がこの範囲を下回るとすべり性の効果が発現しにくく、この範囲を上回ると高精細な配線パターンを作成し難くなる傾向にある。またさらにこの場合、フィラーの分散状態も重要であり、10μm以上のフィラーの凝集物がポリイミドフィルム中に50個/m2以下にするのが好ましく、より好ましくは40個/m2以下である。10μm以上のフィラー凝集物がこの範囲よりも多いと、高精細配線パターンを作成したときに密着面積の減少をきたして信頼性を落とす傾向にある。
【0032】
これら上述のポリアミド酸溶液からポリイミドフィルムを製造する方法については従来公知の方法を用いることができる。この方法には、例えば熱イミド化法と化学イミド化法が挙げられ、どちらの方法を用いてフィルムを製造してもかまわない。しかしながら、化学イミド化法によるイミド化を用いる方が本発明に好適に用いられる諸特性を有したポリイミドフィルムを得やすい傾向にあることからより好ましい。
【0033】
また、本発明においてポリイミドフィルムの製造工程は、
a)有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させてポリアミド酸溶液を得る工程、
b)上記ポリアミド酸溶液を含む製膜ドープを支持体上に流延する工程、
c)支持体上で加熱した後、支持体からゲルフィルムを引き剥がす工程、
d)更に加熱して、残ったアミド酸をイミド化し、かつ乾燥させる工程、
を含むことが特に好ましい。
【0034】
上記工程において無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤と、イソキノリン、β−ピコリン、ピリジン等の第三級アミン類等に代表されるイミド化触媒とを含む硬化剤を用いても良い。
【0035】
以下、本発明の好ましい一形態、化学イミド化法を一例にとり、ポリイミドフィルムの製造工程を説明するが、製膜条件や加熱条件は、ポリアミド酸の種類、フィルムの厚さ等により、変動し得るものである。
【0036】
まず、脱水剤及びイミド化触媒を低温でポリアミド酸溶液中に混合して製膜ドープを得る。引き続いてこの製膜ドープをガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラムなどの支持体上にフィルム状にキャストし、支持体上で80℃〜200℃、好ましくは100℃〜180℃の温度領域で加熱することで、脱水剤及びイミド化触媒を活性化する。これによってアミド酸を部分的に硬化及び/または乾燥した後、支持体から剥離して一部がイミド化したポリアミド酸フィルム(以下、ゲルフィルムともいう)を得る。ゲルフィルムは、ポリアミド酸からポリイミドへの硬化の中間段階にあり、自己支持性を有し、下記式(1)から算出される揮発分含量は5〜500重量%の範囲、好ましくは5〜200重量%、より好ましくは5〜150重量%の範囲にある。
(A−B)×100/B・・・・(1)
式(1)中、A,Bは以下のものを表す。
A:ゲルフィルムの重量
B:ゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量
焼成過程でフィルム破断、乾燥ムラによるフィルムの色調ムラ、特性ばらつき等の不具合が起こることがあるので、揮発分含量がこの範囲のフィルムを用いることが好適である。
【0037】
脱水剤の好ましい量は、ポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して0.5〜5モル、好ましくは1.0〜4モルである。また、イミド化触媒の好ましい量はポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して0.05〜3モル、好ましくは0.2〜2モルである。脱水剤及びイミド化触媒が上記範囲を下回ると化学的イミド化が不十分で、焼成途中で破断したり、機械的強度が低下したりすることがある。また、これらの量が上記範囲を上回ると、イミド化の進行が早くなりすぎ、フィルム状にキャストすることが困難となることがある。
【0038】
前記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避して乾燥し、水、残留溶媒、残存脱水剤及びイミド化触媒を除去し、そして残ったアミド酸を完全にイミド化して、本発明のポリイミドフィルムを得ることができる。
【0039】
この時、最終的に400〜650℃の温度で5〜400秒程度加熱するのが好ましい。この温度より高い及び/または時間が長いと、フィルムの熱劣化が起こり、問題が生じることがある。また、フィルム中に残留している内部応力を緩和させるためにフィルムを搬送するに必要最低限の張力下において加熱処理をすることもできる。この加熱処理はフィルム製造工程において行ってもよいし、また、別途この工程を設けても良い。加熱条件はフィルムの特性や用いる装置に応じて変動するため一概に決定することはできないが、一般的には200℃以上500℃以下、好ましくは250℃以上500℃以下、特に好ましくは300℃以上450℃以下の温度で、1〜300秒、好ましくは2〜250秒、特に好ましくは5〜200秒程度の熱処理により内部応力を緩和することができる。
【0040】
ここで、得られたポリイミドフィルムの本発明における好ましい諸特性について説明する。ポリイミドが有するその平均線膨張係数は、導体層の平均線膨張係数よりも低いことが好ましい。より好ましくは、例えばセイコー電子社製のTMA装置(TMA120C)にて測定される100〜200℃での平均線膨張係数が1〜15ppm/℃の範囲であり、さらに好ましくは5〜15ppm/℃の範囲である。平均線膨張係数が上記範囲を上回ると、フィルム吸湿や吸水の影響を受けずとも導体層を外側とした反りとなってしまい、逆に上記範囲を下回るとフィルムがもろくなり連続処理による加工が行えない虞がある。また、上述の方法にて得られたポリイミドフィルムの弾性率は、平均線膨張係数と同様に、連続処理による(2)湿式めっき工程での搬送の影響によるフィルムの変形を受けない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは4GPa以上、より好ましくは5〜10GPaである。
【0041】
本発明の効果を発揮する上での重要な特性として吸湿膨張係数とフィルムの吸水による寸法変化速度があげられる。ここで、本発明における吸湿膨張係数とフィルムの寸法変化速度は、具体的に以下の方法により算出できる。
【0042】
上記吸湿膨張係数は、水蒸気システム付TMA装置を用いて、サンプルサイズ:巾5mm・長さ15mm、荷重5gで温度50℃にホールドした状態で、変化が10分以内になるように湿度を40%RHから70%RHに変化させた時の、それに伴うフィルムの膨張量から算出する。
【0043】
上記寸法変化速度は、水蒸気システム付TMA装置を用いて、サンプルサイズ:巾5mm・長さ15mm、荷重5gで温度50℃にホールドした状態で、変化が10分以内になるよう湿度を40%RHから70%RHに変化させた時、その時のTMAによるフィルムの膨張が安定領域に達するまでの時間を求めることで算出する。なお、上記の「フィルムの膨張が安定領域に達する」とは、TMAによるフィルムの寸法変化が「0.1μm/H」以下になった状態のことを「安定領域に達した」として判断すればよい。
【0044】
上記算出による好ましいフィルムの吸湿膨張係数は、15ppm/%RH以下であり、より好ましくは5〜15ppm/%RHの範囲である。また、フィルムの吸水による寸法変化速度は、60分以内であることが好ましい。より好ましくは30分以内である。
【0045】
次に、フレキシブルプリント配線基板材料の製造方法における(1)乾式めっき法によりポリイミドフィルム上にシード層を形成する工程、及び(2)前記(1)工程で得られたシード層上に湿式めっきにより導体層を形成する工程、について述べる。
【0046】
以下に述べる導体層形成処理は、上述のポリイミドフィルムを裁断したフィルム片を解反し、連続処理して金属化ポリイミドフィルムロールとして巻き上げる事が好ましい。
【0047】
(1)工程
乾式めっきは、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、化学的気相成長法(CVD)法など公知のあらゆる方法を用いることができるが、中でもスパッタリング法がより好ましい。スパッタリング法は特に制限されるわけではないが、直流2極スパッタリング、高周波スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲットスパッタリング、ECRスパッタリング、バイアススパッタリング、プラズマ制御型スパッタリング、マルチターゲットスパッタリングなどを用いることができる。スパッタリング処理時の出力、プラズマ発生のためのガス圧力、処理温度に関しても格別な制限は無く、スパッタリング装置の扱える範囲であればよい。出力は通常10〜1000W、ガス圧力は通常0.01〜10Pa、温度は通常20℃〜400℃、好ましくは100〜300℃である。また成膜レートは0.1〜1000Å/秒、好ましくは1〜100Å/秒である。成膜レートが高すぎるとフィルムとシード層の密着性が低下する虞がある。
【0048】
基材としてポリイミドフィルムの表面に導体層を形成するに際し、まず下地(シード層)としてNi、Cu、Mo、Ta、Ti、V、Cr、Fe、Co、Al、Snから選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、フィルムとシード層の密着性という観点から、Ni、Cr、Mo、Alを多く含むことが好ましい。また、その下地の厚さは、20〜2000Å、好ましくは40〜1000Åが好ましく、さらに好ましくは40〜500Åである。2000Åをこえると製造に時間がかかりすぎるために実用的ではない。乾式めっきにおいて、成膜中のフィルムは好ましくは100〜400℃、さらには150〜350℃に保持されることがより好ましい。この温度を下回るとシード層形成時にピンホールが発生する虞があり、逆にこの温度を上回るとフィルムの熱劣化が起こり、問題が生じることがある。また、乾式めっきによる成膜処理の前にシード層との密着性という観点から、ポリイミドフィルム表面を、カップリング剤による処理、サンドブラスト処理、ホーリング処理、コロナ処理、プラズマ処理、薬液によるエッチング処理、などに供してもよい。
【0049】
(2)工程
湿式めっき法により上記金属化ポリイミドフィルムのシード層上に形成する導体層としてはCu(線膨張係数は概ね17ppm/℃)が好ましく、その厚みは1〜12μmが好ましく、より好ましくは1〜9μmである。上記導体層の厚みが12μmより厚くなると、シード層金属種の違いによるエッチングレート差の影響が大きく、パターン作成時に不具合が生じやすい傾向があり、また狭ピッチな配線パターンが求められるCOF用途に適さない場合もある。
【0050】
(2)工程の湿式めっきによる導体層の形成は、例えば、電気めっきや無電解めっきを用いることができる。電気めっき法としては、ピロリン酸銅めっき、あるいは硫酸銅めっきを好ましく用いることができる。湿式めっき処理についても乾式めっき後のロールとして巻き上げた金属化ポリイミドフィルムを連続処理して最終的なフレキシブルプリント配線基板材料として巻き上げることが好ましい。また、(2)湿式めっき工程での搬送張力は8N/cm以下であり、好ましくは1N/cm以上8N/cm以下である。張力が8N/cmを超えた状態で搬送を行うと、ポリイミドフィルムの弾性変形が生じてしまい、本発明の効果を発揮できない場合がある。また、搬送張力が1N/cmを下回ると(2)湿式めっき工程での搬送が困難な状態になる場合がある。
【0051】
本発明における(2)工程の湿式めっき法により上記金属化ポリイミドフィルムのシード層上に導体層を形成させる際には、(1)工程で得られたシード層上に導体層が形成され、その厚みが増すにつれて、その導体層の影響により吸湿及び吸水に基づくポリイミドフィルムの寸法変化が抑制されると考えられる。このベースフィルムであるポリイミドフィルムの寸法が固定されるタイミングは、搬送中のフィルムが吸水により膨張を完了するよりも速いことが好ましい。言い換えると、フィルムが十分に吸水し、フィルムが膨張した状態で導体層が積層され、その寸法が固定されると、作製されたフレキシブルプリント配線基板材料の反りが導体層を外側にした反りとなってしまい本発明の目的を達成できない虞がある。つまり、具体的には、(2)湿式めっき工程において、シード層上に導体層が積層され、ポリイミドフィルムの寸法が固定されるまでの時間が、上述のフィルムの寸法変化速度よりも速くなくてはならない。この観点から、ポリイミドフィルムの寸法が固定されるまでの時間は、5分以内であることが好しい。
【0052】
ここで本発明における、ポリイミドフィルムの寸法が固定されるまでの時間とは、湿式めっき工程において導体層の厚みが1μmを超えるまでの時間を言う。湿式めっき工程において導体層の厚みが1μmを超えるまでの時間が5分を超えてしまうと、フィルムの寸法の固定化が起こら無いまま導体層が積層されてしまい、結果としてフィルムが膨張しつづけた状態で導体層が形成されることとなり、本発明の効果を発揮しないことがある。本発明における(2)湿式めっき工程において、導体層の厚みが1μmを超えるまでの好ましい時間は5分以内であり、より好ましくは2.5分以内である。
【0053】
本発明における(2)工程の湿式めっき処理の前に、例えば次亜塩素酸イオンなどのような、金属化ポリイミドフィルムのシード層の洗浄処理を目的とした薬液による処理をおこなっても良い。また、湿式めっきにより導体層が形成された後に得られた金属化ポリイミドフィルムを100℃〜350℃の範囲で熱処理することが好ましい。この熱処理は、120℃〜330℃で行うのがより好ましく、150℃〜300℃が特に好ましい。該熱処理により基材フィルムの有している歪や金属化ポリイミドフィルムの製造工程で生じる歪が緩和され、本発明の効果をより一層効果的に発現することができる。前記熱処理温度が100℃未満では歪を緩和する効果が小さくなり、逆に350℃を超える場合は基材のポリイミドフィルムの劣化が起こる虞がある。
【0054】
本発明における(2)工程の湿式めっき終了後に得られたフレキシブルプリント配線基板材料の反り量は、下記の方法により測定することができる。フレキシブルプリント配線基板材料を35mm×35mm四角に切り出したサンプルを、温度20〜40℃、湿度40〜60%RHの環境下に保持し、高さゲージを用いてそのサンプルの角4点の浮き上がり高さを測定し、その浮き上がり高さの平均値を算出する。
【0055】
本発明における製造方法により得られるフレキシブルプリント配線基板材料は、導体層を内側として反りを示すことが好ましいだけでなく、その反り量も重要である。好ましくは、反りが10mm以下である。この反り量をこえた状態になると、パターン作成時に不具合が生じやすい傾向がある。また、本発明の製造方法により得られたフレキシブルプリント配線基板材料の最適な使用環境は、得られたフレキシブルプリント配線基板が、導体層を内側とした反りとなるという観点から、温度20〜40℃、湿度40〜60%RHの環境下で行うことが好ましい。この環境範囲を下回ると導体層を内側にした反り挙動となるが、そのカール量が所望の範囲を外れてしまう場合がある。
【0056】
このようにして得られたフレキシブルプリント配線基板材料は、フレキシブルプリント配線基板(FPC)やTABテープ、COFテープ等のフィルムキャリアテープとして用いられる。特に、例えば温度20〜40℃、湿度40〜60%RHの環境下に置かれた際に導体層側を内側とした反りとなるため、COF用フィルムキャリアテープに適したフレキシブルプリント配線基板材料を得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものでは無い。
【0058】
(平均線膨張係数)
100〜200℃の線膨張係数の測定は、セイコー電子(株)社製TMA120Cを用いて、サンプルサイズ:幅3mm・長さ10mm、荷重3gで10℃/minで10〜400℃まで一旦昇温させた後、10℃まで冷却し、さらに10℃/minで昇温させて2回目の昇温時の100〜200℃における熱膨張から平均値として計算した。
【0059】
(反り測定)
反り測定は、以下の手段で作成されたフレキシブルプリント配線基板材料を35×35mm四角に切り出したサンプルを、下記実施例および比較例に記載の温湿度環境において、高さゲージを用いてそのサンプルの角4点の浮き上がり高さを測定し、その浮き上がり高さの平均値を反り量とした。
【0060】
(吸湿膨張係数)
吸湿膨張係数の測定は、株式会社リガク製の水蒸気システム付TMAを用いて、サンプルサイズ:巾5mm・長さ15mm、荷重5gで温度50℃にホールドした状態で、変化が10分以内になるよう湿度を40〜70%RHに変化させ、それに伴うフィルムの膨張量から算出した。
【0061】
(寸法変化速度)
フィルムの吸水による寸法変化速度は、水蒸気システム付TMA装置を用いて、サンプルサイズ:巾5mm・長さ15mm、荷重5gで温度50℃にホールドした状態で、変化が10分以内になるよう湿度を40%RHから70%RHに変化させた際のTMAによるフィルムの膨張が安定領域に達するまでの時間を求めることで算出した。
【0062】
(参考例)
本発明において使用されたポリイミドフィルムの作製例と、反り測定用フレキシブルプリント配線基板材料サンプルの作製方法を以下に例示する。なお、本発明において、以下の略は以下に示すモノマーを表す。
ODA:4,4´−オキシジアニリン
BAPP:2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン
PDA:パラフェニレンジアミン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BTDA:3,3´,4,4´―ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
【0063】
ODA/BAPP/PDA/PMDA/BTDAをモル比で、25/25/50/60/40の割合で合成したポリアミド酸の15重量%ジメチルフォルムアミド(以下、DMFともいう)溶液を合成した。イソキノリン/無水酢酸/DMFを4.93g/15.58g/19.49gの割合で混合した硬化剤を前記ポリアミド酸100gに対して40gの割合ですばやく攪拌混合し、遠心脱泡した。混合・脱泡工程は、0℃にて実施した。この硬化剤を混合したポリアミド酸溶液を、コンマコーターを用いて室温に保ったアルミ箔上に流延した。90℃、10m/minでノズルから噴き出す熱風を、このアルミ箔上の塗膜及びアルミ箔の裏側に垂直に吹き付けて10分乾燥し、自己支持性を有するゲルフィルム得て、これを引き剥がした(残揮発成分量55重量%)。次いで、このゲルフィルムを40×40cmの金属製の枠に四辺を固定し、250℃×2分、350℃×2分、450℃×2分の条件で乾燥イミド化させ、35μm厚のポリイミドフィルムを得た。
【0064】
このときのポリイミドフィルムの弾性率は6.5GPa、100〜200℃における平均線膨張係数は12ppm/℃、温度50℃における40〜70%RHの湿度変化に伴う吸湿膨張係数は10ppm/%RH、吸湿膨張係数測定時の寸法変化速度は30分であった。
【0065】
得られたポリイミドフィルムの上にスパッタリングによりNi/Cr(重量比80/20)の合金を厚み300Åで形成し、シード層を有した金属化ポリイミドフィルムを形成した。その金属化ポリイミドフィルムの上に、スパッタリングによりCuを1000Åの厚みで形成後、硫酸銅ハイスローめっき浴にて導体層の厚みが8μmになるように厚み増しを実施し、厚み増し終了後のサンプルを150℃×2時間乾燥することで、めっき時に蓄積された歪を除去した。最終的に得られた金属化ポリイミドフィルムを35mm×35mmに切り出し、反り測定用サンプルを取得した。
【0066】
(実施例1)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を1N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が1分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度23℃湿度55%RHの環境下で測定したところ、導体層を内側にした反りであり、その反り量は8mmであった。
【0067】
(実施例2)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を1N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が2分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度40℃湿度60%RHの環境下で測定したところ、導体層を内側にした反りであり、その反り量は6mmであった。
【0068】
(実施例3)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を1N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が3分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度20℃湿度40%RHの環境下で測定したところ、導体層を内側にした反りであり、その反り量は9mmであった。
【0069】
(実施例4)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を1N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が3分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度23℃湿度55%RHの環境下で測定したところ、導体層を内側にした反りであり、その反り量は3mmであった。
【0070】
(実施例5)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を1N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が5分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度23℃湿度55%RHの環境下で測定したところ、導体層を内側にした反りであり、その反り量は1mmであった。
【0071】
(比較例1)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を1N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が10分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度23℃湿度55%RHの環境下で測定したところ、導体層を外側にした反り挙動を示した。
【0072】
(比較例2)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を1N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が30分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度23℃湿度55%RHの環境下で測定したところ、導体層を外側にした反り挙動を示した。
【0073】
(実施例6)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を5N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が5分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度23℃湿度55%RHの環境下で測定したところ、導体層を内側にした反りであり、その反り量は8mmであった。
【0074】
(実施例7)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を5N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が5分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度40℃湿度60%RHの環境下で測定したところ、導体層を内側にした反りであり、その反り量は6mmであった。
【0075】
(実施例8)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を8N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が5分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度23℃湿度55%RHの環境下で測定したところ、導体層を内側にした反りであり、その反り量は3mmであった。
【0076】
(比較例3)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を10N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が5分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度23℃湿度55%RHの環境下で測定したところ、導体層を外側にした反り挙動を示した。
【0077】
(比較例4)
上記反り測定用サンプルの作製において、湿式めっき法により導体層が形成されている間の搬送張力を12N/cmにし、硫酸銅ハイスローめっき処理を厚み1μmになるまでの時間が5分になるようにしながら導体層の厚みが8μmになるまで厚み増しを実施した。このサンプルの反りを温度23℃湿度55%RHの環境下で測定したところ、導体層を外側にした反り挙動を示した。
【0078】
(比較例5)
上述のポリイミドの組成を、ODA/PMDAをモル比で100/100の割合に変更して合成したポリアミド酸の17重量%DMF溶液を合成した。このポリアミド酸を用いて上述の方法にてポリイミドフィルムを作製した。このときのポリイミドフィルムの弾性率は3.2GPa、100〜200℃における平均線膨張係数は32ppm/℃、温度50℃における40〜70%RHの湿度変化に伴う吸湿膨張係数は30ppm/%RH、吸湿膨張係数測定時の寸法変化速度は120分であった。このポリイミドフィルムを使用して実施例1の方法で反り測定用サンプルを作製しところ導体層を外側にした反り挙動を示した。
【0079】
(比較例6)
比較例5のポリイミドフィルムを使用して、実施例4の方法で反り測定用サンプルを作製したところ導体層を外側にした反り挙動を示した。
【0080】
(反り評価結果の合否判定)
反り評価結果において、導体層を内側にした反り方向を示し、その反り量が10mm以下であった場合は○と判定した。また、導体層を外側にした反り挙動を示した、もしくは導体層を内側に反り挙動を示してもその反り量が10mmを超える結果となった場合は×と判定した。
【0081】
【表1】

【0082】
表1より、(2)工程において形成される導体層の厚みが1μmを超えるまでの時間と搬送張力により、得られたフレキシブルプリント配線基板材料の反り方向に影響することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
得られたフレキシブルプリント配線基板材料は、フレキシブルプリント配線基板(FPC)やテープオートメイティッドボンディング(TAB)テープ、COFテープ等のフィルムキャリアテープとして用いられる。特に温度40℃以下、湿度60%RH以下の環境下に置かれた際に導体層側を内側とした反りとなるため、COFテープ用に適したフレキシブルプリント配線基板材料を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形成される導体層の線膨張係数よりも小さい値の線膨張係数を示すポリイミドフィルムを使用して、
(1)乾式めっき法でポリイミドフィルム上に金属シード層を形成する工程、
(2)前記(1)工程により得られた金属シード層上に湿式めっき法により導体層を形成する工程、
を含有するフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法において、
前記(2)工程において、形成される導体層の厚みが1μmを超えるまでの時間が5分以内であり、搬送張力が8N/cm以下であることを特徴とするフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法。
【請求項2】
前記(2)工程において、形成される導体層の厚みが1μmを超えるまでの時間が2.5分以内であることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法。
【請求項3】
前記ポリイミドフィルムが、ピロメリット酸二無水物、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、パラフェニレンジアミン、4,4´−オキシジアニリン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを必須成分としてなり、弾性率が5〜10GPa、100〜200℃の平均線膨張係数が5〜15ppm/℃であり、また、温度50℃における40%RHから70%RHの湿度変化に伴う吸湿膨張係数が5〜15ppm/%RHであり、さらに温度50℃において10分以内の速度で湿度を40%RHから70%RHに変化させた時のフィルムの寸法変化速度が30分以内であることを特徴とする請求項1または2に記載のフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法。
【請求項4】
前記(1)工程においてポリイミドフィルム上に形成される金属シード層が、Ni、Cu、Mo、Ta、Ti、V、Cr、Fe、Co、Al、Snから選ばれる少なくとも1種を含有し、かつ(2)工程の湿式めっき法により形成される導体層がCuであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフレキシブルプリント配線基板材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法により製造されたフレキシブルプリント配線基板材料であって、該配線基板材料を35×35mmの大きさに切り出したサンプルの反り量が、温度20〜40℃、湿度40〜60%RHである環境下において、導体層を内側として10mm以下となることを特徴とするフレキシブルプリント配線基板材料。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法にて製造されたフレキシブルプリント配線基板材料を用いたチップオンフィルム用フィルムキャリアテープ。