説明

フロキュレータ

【課題】1槽式でありながら、調質作業を連続して円滑に行うことができ、短時間で効率よくフロックを形成することができるフロキュレータを提供する。
【解決手段】一つの槽内に、異なる速度にて回転させることができる複数の攪拌羽根8a,8bを備え、一つの槽内で急速攪拌と緩速攪拌を同時に行えるように構成した。攪拌羽根8a,8bは、シャフト7a,7bを介して個別に接続された複数のモータ6a,6bにより回転駆動力がそれぞれ供給されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥等の脱水システムにおいて、脱水機に供給される汚泥等を予め調質するために用いられるフロキュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥等の処理原液を脱水しようとする場合、脱水処理をなるべく効率よく行えるように、予め処理原液に高分子凝集剤を添加して、処理原液中に凝集フロックを形成するという工程(調質)が実施されている。
【0003】
処理原液の調質には、従来より、図6に示すようなフロキュレータ(凝集槽)31が広く用いられている。一般的な脱水システムにおいては、フロキュレータ31は脱水機の上流側に配置され、フロキュレータ31において調質された処理原液が、順次脱水機へ流下していくような構成となっている。
【0004】
フロキュレータ31には、通常、モータ36、シャフト37、攪拌羽根38等によって構成される攪拌装置35が取り付けられている。図6の例では、モータ36の回転駆動力がシャフト37を介して攪拌羽根38に伝達され、攪拌羽根38がシャフト37周りに所望の速度で回転するようになっている。
【0005】
図6のフロキュレータ31を用いて処理原液の調質を行う場合、まず、処理原液の流出口33に接続される管路上のバルブ(図示せず)を閉じた状態で、処理原液を流入口32から供給し、槽内に貯留する。このとき、処理原液の流入量に対して適正な割合の高分子凝集剤を注入口34から添加する。流入した処理原液が槽内において所定のレベルにまで達したら、攪拌装置35によって(攪拌羽根38を回転させて)、処理原液と高分子凝集剤を混合する。そうすると、処理原液中に浮遊、分散している固形物粒子が次第に凝集し、フロックが形成されていく。高分子凝集剤が充分に反応し、フロックが十分に形成されたら、フロックを含む処理原液を流出口33から排出し、脱水機等へ供給する。
【0006】
尚、効率よくフロックを形成するためには、攪拌装置35を一定の速度で単純に駆動させるのではなく、段階に応じて攪拌速度を適宜加減することが好ましい。例えば、最初は攪拌羽根38を激しく回転させて(急速攪拌)、処理原液中の固形物粒子と高分子凝集剤とを衝突させ、それらが充分に混合されたら攪拌速度を緩め(緩速攪拌)、フロックの形成を促すようにすれば、効率よくフロックを形成できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図6のフロキュレータ31による調質の際に、上記のような攪拌速度の加減を行う場合、処理原液の貯留、急速攪拌、緩速攪拌、処理原液の排出、というように工程数が増えてしまい、調質作業を連続して円滑に行うことができないという問題がある。
【0008】
そこで、二つの貯留槽(第1槽及び第2槽)を直列に配置し、第1槽を急速攪拌用、第2槽を緩速攪拌用とし、処理原液が順次流下していくように構成したもの(2槽式フロキュレータ)なども存在するが、2槽式フロキュレータは、図6のような1槽式のものと比べて、より広い設置スペースを必要とするため、スペースが充分でない場合には設置が難しいという問題がある。また、従来の2槽式フロキュレータは、第1槽から第2槽への処理原液の供給をオーバーフローによって行っていた(つまり、第1槽からオーバーフローさせた処理原液が第2槽へ流下していくような構成となっていた)ため、フロキュレータを閉鎖管路に組み込み、処理原液をポンプによって圧送することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の問題を解決すべくなされたものであって、1槽式でありながら、調質作業を連続して円滑に行うことができ、短時間で効率よくフロックを形成することができるフロキュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフロキュレータは、一つの槽内に、異なる速度にて回転させることができる複数の攪拌羽根が備えられており、一つの槽内で急速攪拌と緩速攪拌を同時に行えるように構成されていることを特徴としている。尚、前記複数の攪拌羽根は、それぞれ個別に接続された複数のモータにより回転駆動力が供給されるように構成してもよいし、一つのモータに対して、適当な動力分配手段(ギヤ或いはプーリなど)を介して複数の攪拌羽根を接続し、それらの攪拌羽根がそれぞれ異なる速度で回転するように構成してもよい。
【0011】
また、容量を変更できるように構成することが好ましく、フロキュレータの壁の一部或いは底部等が所定の方向へ移動可能なように構成することによって、容量可変とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフロキュレータによれば、一つの槽内で急速攪拌と緩速攪拌を同時に行えるため、1槽式でありながら、調質作業を連続して円滑に行うことができ、短時間で効率よくフロックを形成することができる。また、従来は適用が困難であった「2液法」を適用することができる。
【0013】
更に、槽内の容量を自在に変更できるように構成した場合には、処理原液の供給量が変化した場合や、処理原液の性状が変化した場合等において適切に対処することができ、その結果、調質及びその後の脱水処理等を最適化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面に沿って、本発明に係るフロキュレータを実施するための最良の形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係るフロキュレータ1の構成図である。この図において2は処理原液の流入口、3は流出口、4は高分子凝集剤の注入口、5(5a,5b)は攪拌装置である。
【0015】
図示されているように、本実施形態においては、攪拌装置5が上下に2基取り付けられている。これらの攪拌装置5a,5bは、モータ6a,6b、シャフト7a,7b、攪拌羽根8a,8bによってそれぞれ構成されており、下側の攪拌装置5bは、上側の攪拌装置5aよりも低速で駆動するように構成されている。
【0016】
本実施形態のフロキュレータ1は、これらの2基の攪拌装置5a,5bを同時に駆動させることにより、急速攪拌と緩速攪拌を同時に行うことができ、1槽式でありながら、調質作業を円滑に行うことができる。
【0017】
より具体的には、まず、処理原液の流出口3に接続される管路上のバルブ(図示せず)を閉じた状態で、処理原液を流入口2から流入させるとともに、処理原液の流入量に対して適正な割合の高分子凝集剤を注入口4から添加する。流入した処理原液が槽内において所定のレベルにまで達したら、攪拌装置5a,5bを駆動させる。
【0018】
このとき、上側の攪拌装置5aは高速で駆動し、下側の攪拌装置5bは低速で駆動するため、フロキュレータ1の上半部においては、急速攪拌によって処理原液中の固形物粒子と高分子凝集剤とを衝突させ、速やかに混合することができる。そして、高分子凝集剤と充分に混合された処理原液は次第に下半部へ下降し、下半部における緩速攪拌により、フロックの形成が促されるため、凝集効果の向上、調質作業の円滑化を実現できる。
【0019】
尚、調質方法の一つとして、「2液法」と呼ばれる方法(鉄系、或いは、アルミニウム系の無機凝集剤と、高分子凝集剤(両性)とを併用する調質方法)がある。この方法は、主として2槽式のフロキュレータにおいて実施されており、従来の1槽式のフロキュレータにおいては適用が困難であったが、本実施形態のフロキュレータ1は、1槽式でありながら、この2液法を適用することができる。
【0020】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図2は、本発明の第2の実施形態に係るフロキュレータ1の構成図である。図示されているように、このフロキュレータ1においては、4基の攪拌装置5a〜5dが上下方向に並列して配置されている。
【0021】
図1のフロキュレータ1においては、攪拌装置5a,5bのシャフト7a,7bは垂直方向へ延在し、攪拌羽根8a,8bは垂直軸線周りに回転するように構成されていたが、本実施形態のフロキュレータ1においては、シャフト7a〜7dは水平方向へ延在し、攪拌羽根8a〜8dは水平軸線周りに回転するように構成されている。
【0022】
これらの攪拌装置5a〜5dのうち、2段目の攪拌装置5bは最上段の攪拌装置5aよりも若干遅く、3段目の攪拌装置5cは2段目の攪拌装置5bよりも若干遅く、最下段の攪拌装置5dは3段目の攪拌装置5cよりも若干遅く駆動するように構成されている。つまり、上段から下段にかけて、攪拌羽根8の回転速度が次第に低くなっていくように構成されている。
【0023】
本実施形態のフロキュレータ1は、これらの4基の攪拌装置5a〜5dを同時に駆動させることにより、より理想的な形で、高分子凝集剤との混合、及び、フロック形成の促進を図ることができる。具体的には、フロキュレータ1の最上部において、急速攪拌によって処理原液中の固形物粒子と高分子凝集剤とを衝突させて速やかに混合し、そこから処理原液が下降していくに従って、次第に攪拌速度が低くなっていくので、混合に適した状態からフロック形成に適した状態へと滑らかに遷移させることができ、凝集効果の更なる向上、調質作業の円滑化を実現することができる。
【0024】
尚、図2のフロキュレータ1においては、4基の攪拌装置5a〜5dに対し、4台のモータ6a〜6dが使用され、シャフト7乃至は攪拌羽根8と、モータ6とが1対1の対応関係となっているが、図3に示すように、1台のモータ6a(6c)に対し、2本のシャフト7a,7b(7c,7d)を接続するような構成とすることもでき、更に、図4に示すように、1台のモータ6に対し、3本のシャフト7a〜7cを接続するような構成とすることもできる。
【0025】
これらの場合、動力を伝達するためのプーリ9a〜9d(動力分配手段)の大きさを適宜調整することにより、例えば、図3(或いは図4)のフロキュレータ1において、最上段のプーリ9aよりも、その下段のプーリ9bを大きくし、最下段のプーリ9d(9c)よりも、その上段のプーリ9c(9b’)を小さくすること等により、上段から下段にかけて、攪拌羽根8の回転速度が次第に低くなっていくように構成することが好ましい。このような構成とした場合、モータ6のイニシャルコスト、及び、ランニングコストを縮減することができる。尚、動力分配手段は、図3、図4に示したようなプーリ9には限定されず、ギヤ機構等を用いることもできる。
【0026】
続いて、本発明の第3の実施形態について説明する。図5は、本発明の第3の実施形態に係るフロキュレータ1の構成図である。図示されているように、このフロキュレータ1においては、図1のフロキュレータ1と同様に、上下に2基の攪拌装置5a,5bが上下方向に並列して配置されており、急速攪拌と緩速攪拌を同時に行えるようになっている。
【0027】
図5のフロキュレータ1においては、底部11が上下方向へ摺動可能なように構成されており、これによりフロキュレータ1の容量を自在に変更できるようになっている。より具体的には、底部11は、図5において実線で示されている位置から破線で示されている位置の範囲内で、図示しない駆動装置(電動、油圧、空気圧、或いは、蒸気圧等を利用して駆動力を供給する装置)により上下方向へ移動可能なようになっており、接触部分(フロキュレータ1の内周面に接する底部11の外周面)には、槽内の処理原液が外部へ漏出しないような措置が施され、槽内の水密性が保持される構成となっている。
【0028】
また、底部11が可動式であることに対応して、このフロキュレータ1においては、3つの処理原液の流出口3a〜3cが上下方向へ並列して設けられており、底部11の位置に応じて適宜選択された一つの流出口3から、処理原液が排出されるようになっている。より具体的には、底部11を図5の実線の位置にセットして調質を行う場合には、最下段の流出口3aを開いて処理原液を排出し、底部11を図5の破線の位置にセットして調質を行う場合には、最上段の流出口3cを開いて排出する。また、底部11を中間位置にセットして調質を行う場合には、中段の流出口3bを開いて処理原液を排出する。
【0029】
本実施形態のフロキュレータ1においては、上述の通り、底部11が可動式となっており、容量を自在に変更できるように構成されているため、処理原液の供給量が変化した場合や、処理原液の性状が変化した場合等において適切に対処することができ、その結果、調質及びその後の脱水処理等を最適化することができる。
【0030】
例えば、本実施形態のフロキュレータ1乃至はこれを含む脱水システムを汚泥処理に使用する場合であって、フロキュレータ1の下流側に複数チャンネルの脱水機(ロータリプレスフィルタ等)を接続して使用する際に、チャンネル数を変更して汚泥供給量を変化させる必要がある場合、フロキュレータ1の容量を変更することによって、脱水機へ供給する汚泥の量を適切にコントロールすることができる。
【0031】
また、汚泥の含水率等の性状が変化した場合において、供給量が一定であると、脱水機から排出される汚泥ケーキ(脱水ケーキ)の含水率等が均一でなくなる可能性があるが、連続処理される汚泥の含水率等をセンサーによって常時モニタリングしておいて、性状変化に応じた適切な供給量を計算し、フロキュレータ1の容量を変更する、といった対応が可能になる。
【0032】
尚、図5のフロキュレータ1においては、下側の攪拌装置5bのシャフト7bが底部11を貫通しており、底部11が上下方向へ移動する際には、モータ6b、シャフト7b、攪拌羽根8bもこれと一緒に移動するように構成されているが、必ずしもかかる構成に限定されるものではなく、例えば、図2に示したようなフロキュレータ1において、図5に示した可動式の底部11を適用する場合には、底部11が、図2に示すシャフト7(特に、7d,7c)や攪拌羽根8(特に、8d,8c)等と干渉しない位置で移動するように構成することもできるし、底部11を移動させる際に、干渉する位置にあるシャフト7や攪拌羽根8が、干渉しない位置に退避するように、或いは、適宜取り外すことができるように構成することもできる。
【0033】
また、底部11ではなく、壁面の一部を可動式とすることにより、槽内の容量を変更できるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るフロキュレータ1の構成図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るフロキュレータ1の構成図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るフロキュレータ1の他の構成例を示す図。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るフロキュレータ1の他の構成例を示す図。
【図5】本発明の第3の実施形態に係るフロキュレータ1の構成図。
【図6】従来のフロキュレータ31の構成図。
【符号の説明】
【0035】
1,31:フロキュレータ、
2,32:処理原液の流入口、
3,3a,3b,3c,33:処理原液の流出口、
4,34:高分子凝集剤の注入口、
5,5a〜5d,35:攪拌装置、
6,6a〜6d,36:モータ、
7,7a〜7d,37:シャフト、
8,8a〜8d,38:攪拌羽根、
9,9a〜9d:プーリ、
10a,10b:ベルト、
11:底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの槽内に、異なる速度にて回転させることができる複数の攪拌羽根を備え、一つの槽内で急速攪拌と緩速攪拌を同時に行えるように構成したことを特徴とするフロキュレータ。
【請求項2】
前記複数の攪拌羽根が、それぞれ個別に接続された複数のモータにより回転駆動力を供給されるように構成したことを特徴とする、請求項1に記載のフロキュレータ。
【請求項3】
前記複数の攪拌羽根が、動力分配手段を介して一つのモータに接続され、それぞれ異なる速度にて回転するように構成したことを特徴とする、請求項1に記載のフロキュレータ。
【請求項4】
壁の一部或いは底部が所定方向へ移動可能なように構成することによって、容量を変更できるように構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフロキュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−68153(P2008−68153A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246194(P2006−246194)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(591162022)巴工業株式会社 (32)
【Fターム(参考)】