フローインジェクション分析装置およびフローインジェクション分析方法
【課題】 酵素に対する活性制御成分の活性特性を測定することを可能とするフローインジェクション分析装置、フローインジェクション分析方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、輸送媒体を送液ポンプから送出し、注入装置により輸送媒体内に試料とカラム内に保持した固定化酵素との反応活性を制御活性制御成分とを交互に注入し、活性制御成分よりも前に注入された試料のピーク高さAと、検出装置により活性制御成分よりも時間的に遅れて注入された試料による固定化酵素との阻害下での反応で与えられるピーク高さBとを検出して阻害率または賦活率を計算し、さらに、その後に注入される試料のピーク高さCを使用して回復率を計算することにより、酵素−活性制御成分の間の生化学的キャラクタリゼーションを行う。
【解決手段】 本発明は、輸送媒体を送液ポンプから送出し、注入装置により輸送媒体内に試料とカラム内に保持した固定化酵素との反応活性を制御活性制御成分とを交互に注入し、活性制御成分よりも前に注入された試料のピーク高さAと、検出装置により活性制御成分よりも時間的に遅れて注入された試料による固定化酵素との阻害下での反応で与えられるピーク高さBとを検出して阻害率または賦活率を計算し、さらに、その後に注入される試料のピーク高さCを使用して回復率を計算することにより、酵素−活性制御成分の間の生化学的キャラクタリゼーションを行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素と酵素の活性を制御する活性制御成分との間の酵素反応のキャラクタリゼーション技術に関し、より詳細には、フローインジェクション分析を使用して、酵素と活性制御剤との間の酵素反応の制御機能の性質の測定を可能とする、フローインジェクション分析装置、およびフローインジェクション分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フローインジェクション分析は、クロマトグラフ分析のみならず、分子量分析、質量分析、酵素のキャラクタリゼーションなど、広範な分析技術と組み合わされ、広く用いられている測定方法である。フローインジェクション分析の原理は、分析対象を、輸送媒体(キャリヤー)を使用して固定層に通過させ、固定層による化学的・物理的な作用を使用して分離したり、分析対象を注入、その試料溶液流れに試薬を混合・反応させたりした後、例えば屈折率、紫外−可視スペクトル、酸素濃度、電気化学的電位、マススペクトルなどを使用して、分析対象の情報を出力させるものである。
【0003】
特に近年では、フローインジェクション技術は、固定化酵素技術と組み合わされて、酵素反応をトレースする方法として使用されるようになっている。たとえば、特開2002−257780号公報(特許文献1)では、緩衝液中にペルオキシダーゼが固定された固定化酵素を使用して被検液と過酸化水素との反応による過酸化水素濃度の減少を測定するフローセルを備えた測定装置が開示されている。また、特開平11−290096号公報(特許文献2)では、リン酸イオン濃度を測定するために、リン酸イオンを含有する資料液とマルトース含有液との混合物を、マルトースホスホリラーゼなどを固定化した固定化酵素に接触させて、フローセル中で化学発光させることによりリン酸イオン濃度を定量するフローインジェクション分析方法が開示されている。また、特開平7−198657号公報(特許文献3)では、固定化酵素単体を充填した固定化酵素リアクタを備えた反応部と、試料中の特定成分が反応した結果生じる変化を検出する検出部を備えるフロー型測定装置であって、記憶された波形からピーク位置を検出して検量線を作成し、未知試料中の特定成分の濃度を算出するフロー型測定装置を開示している。さらに、特開平7−63725号公報(特許文献4)では、水中の有害物質のモニタを行うため、ウレアーゼを固定化した固定化酵素膜と亜硝酸生成細菌を固定化した固定化微生物膜を用いて、溶存酸素量の変化に基づく水中の有害物質をモニタする方法が開示されている。
【0004】
上述したように、固定化酵素技術は、フローインジェクション分析技術と組み合わされ、種々の試料の分析に用いられている。一方で、酵素は、一定の条件下で、継続した酵素反応を生じさせ、抗体または対象物質の酸化・還元・分解などの化学反応を生じさせることが知られているものの、酵素に対しては、酵素機能を阻害する化学的成分、所謂、阻害成分が存在することも知られている。上述した酵素と阻害成分とを使用して、特開平11−124330号公報(特許文献5)では、アンギオテンシン変換酵素阻害成分とカルシウムチャンネル阻害成分との固定用量を組み合わせ、血管疾病の治療薬が提供できることを開示している。
【0005】
また、特開平8−134090号公報(特許文献6)では、ガラクトコウジ酸、その製造法およびそれを含有するチロシナーゼ阻害成分が開示されており、黒変防止、すなわち日焼け止め効果を有する薬剤が開示されている。加えて、特開平2−163097号公報(特許文献7)では、阻害成分が共存する環境下で担体に固定した基質に対して酵素をフロー条件下で作用させ、その分解生成物を測定する酵素活性測定方法が開示されている。上述したように、酵素および阻害成分の組み合わせは、生体内において重要な機能を制御するための薬剤を提供することができることが知られている。また、酵素活性を高めるような成分があることも考えられ、基質−酵素反応に対する活性制御成分のキャラクタリゼーションを行うことが望まれていた。
【0006】
ところで、酵素と阻害成分との間の阻害作用も生化学反応により発現され、特定の酵素に対して、阻害成分の阻害能力や酵素活性の回復性、所謂、活性制御特性が異なる場合がある。このことは、酵素−活性制御成分の組み合わせにより与えられる薬剤活性の薬効および阻害成分の有効な期間が、特定の酵素および特定の活性制御成分の組み合わせにより異なる可能性があるということを示唆する。したがって、特定の酵素に対して親和性の高い阻害成分または親和性の低い阻害成分を使用する場合には、特定の薬剤による薬効を得るための阻害成分濃度および次の投与までの期間が異なり、薬剤処方および投薬周期に対して大きな影響を与えることも想定される。同様に、酵素に対する活性を賦活化させる活性制御成分が存在する場合もありうる。
【0007】
従来、上述した酵素−阻害成分間の阻害特性の評価は、従来バッチ試験により行われている。図12には、従来から知られている酵素阻害特性の測定方法を示す。多くの場合、阻害成分の添加による酵素反応性生物の定量を、吸光光度法または溶存酸素の定量などを使用して、in vitroで行う方法(図12(a))、または特定の酵素を含むインキュベーションした細胞に対して阻害成分を投与し、特定の酵素による生体反応をin vivoで発生させ、細胞内に形成された酵素反応生成物を定量する方法により行われている(図12(b))。これらの従来技術については、例えば、船坂陽子著、「美白効果の機序と評価」、Fragrance Journal, Vol. 30 (9), pp.67-72 (2002)(非特許文献1)を参照することができる。
【0008】
上述したバッチ試験による阻害性の試験は、競合的阻害が発生しない場合の酵素阻害特性については正確に測定することができると言える。ここで、酵素阻害が化学反応に基づいて行われることに鑑みれば、酵素と阻害成分との間の阻害反応にもある程度の化学平衡が成立し、酵素の近傍に阻害成分が存在するにもかかわらず、基質が競合的に酵素と反応する環境が現実的には発生しているものと考えられる。このため、阻害特性は高いものの、酵素−阻害成分の結合性が弱いので早期に阻害成分の機能が消失してしまう場合や、酵素−阻害成分の阻害特性は弱いものの、酵素の周囲に阻害成分が引き止められることにより、長期間に渡り所定の阻害性を示すような阻害成分が存在することも考えられる。また、上述したように、酵素の反応活性を阻害する物質ばかりではなく、酵素と基質との間の反応活性を高める薬剤も存在することがあり得る。したがって、酵素−活性制御成分の組み合わせにより所定の薬効を発揮させるような薬剤において、上記挙動を解明することにより、阻害成分や、賦活成分の新たな特性の評価が可能となり、ひいては、新奇な薬剤組成物の提供や、ドラッグ・デリバリー・システムを提供することが可能となると期待される。
【特許文献1】特開2002−257780号公報
【特許文献2】特開平11−290096号公報
【特許文献3】特開平7−198657号公報
【特許文献4】特開平7−63725号公報
【特許文献5】特開平11−124330号公報
【特許文献6】特開平8−134090号公報
【特許文献7】特開平2−163097号公報
【非特許文献1】船坂陽子著、「美白効果の機序と評価」、Fragrance Journal, Vol. 30 (9), pp.67-72 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、フローインジェクション分析法を使用して、酵素−活性制御剤間における酵素反応制御特性を検出することを可能とする、新奇なフローインジェクション分析装置、およびフローインジェクション分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題に鑑みて鋭意検討を加えてきたところ、特定の酵素を担体に担持させ、フローインジェクション法を使用して、試料と活性制御剤とを所定の間隔で交互インジェクションすることにより、酵素−活性制御剤間の特性を測定することが可能であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、特定の酵素を担持した固定化酵素を含むカラムに対して試料を導入する。その後、試料によるピークがベースラインにまで戻った所定の期間後、阻害成分または阻害成分または賦活成分を注入する。さらにその所定期間後、試料を再度注入し、試料によるピークを検出する。このときに得られるピークは、阻害成分の固定化酵素に対する酵素−基質間の化学的反応性に対応して、ピーク高さを変化させることが見出された。すなわち、本発明者らは、阻害成分などの注入後に注入された基質によるピーク高さが低いほど、長期間にわたり阻害成分が酵素−阻害成分反応を生じさせることができる領域に存在できることを示し、また、ピーク高さが高い場合には、阻害成分が、酵素−阻害成分反応を生じさせる領域に存在できず、早期に酵素活性が回復することを示すこと、および賦活成分の場合には酵素活性化が検出可能であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明によれば、固定化酵素を保持し、輸送媒体と共に試料が通じられるカラムと、前記輸送媒体内に前記試料と前記固定化酵素との反応活性を制御する活性制御成分とを交互に注入する注入装置と、前記活性制御成分よりも時間的に遅れて注入された前記試料と前記固定化酵素との制御下での反応を検出する検出装置と、を含む、フローインジェクション分析装置が提供できる。
【0013】
本発明における前記試料は、美白剤、抗ピロリ菌剤、抗ステロール血症治療薬、抗ウツ剤、抗HIV剤、抗真菌剤、糖尿病治療薬(インスリン非依存)を含む群から選択することができる。前記酵素は、酸化還元酵素であり、前記検出装置は、溶存酸素濃度を検出することができる。前記酵素は、チロシナーゼであり、前記試料は、チロシンとすることができる。
【0014】
本発明によれば、注入装置により輸送媒体内に試料とカラム内に保持した固定化酵素との反応活性を制御する活性制御成分とを交互に注入する段階と、検出装置により前記活性制御成分よりも時間的に遅れて注入された前記試料と前記固定化酵素との制御下での反応を検出する段階とを含む、フローインジェクション分析方法が提供できる。
【0015】
本発明の前記試料と前記阻害成分とを交互に注入する段階は、前記活性制御成分の注入後にさらに同一濃度、同一量の第2の試料を注入する段階を含み、前記活性制御成分の注入後の前記試料の注入までの時間間隔が、前記試料のピーク・リテンションタイムの5〜20倍とすることができる。さらに、前記活性制御成分の注入前に注入された前記試料によるピークと、前記活性制御成分の注入後に注入された前記第2の試料のピークとの比を使用して活性特性を算出する段階を含むことができる。前記試料は、美白剤、抗ピロリ菌剤、抗ステロール血症治療薬、抗ウツ剤、抗HIV剤、抗真菌剤、糖尿病治療薬(インスリン非依存)を含む群から選択することができる。また、前記酵素は、酸化還元酵素であり、前記検出装置は、溶存酸素濃度を検出することが好ましい。本発明では、前記固定化酵素としてチロシナーゼを使用し、前記試料としてチロシンを含む薬剤を注入することができる。本発明では、前記活性特性は、酵素阻害性、酵素賦活性、および酵素阻害からの回復性とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フローインジェクション分析を使用して、基質−酵素反応における活性制御剤と酵素との活性制御特性を評価することが可能となり、阻害成分および賦活成分の評価を可能とし、さらに新奇なドラッグ・デリバリー方法を含む薬剤設計のための新奇な情報を提供することが可能な、新奇なフローインジェクション分析装置、およびフローインジェクション分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図面に示した具体的な実施の形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施の形態に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明のフローインジェクション分析装置(以下、単に分析装置として参照する。)を示した図である。本発明の分析装置10は、概ね高速液体クロマトグラフ装置に類似した構成とされており、送液ポンプ12と、ダンパー14と、インジェクション・バルブ16、18と、カラム20とを含んでいる。送液ポンプ12には、キャリヤー貯め22に蓄えられた緩衝液が供給されている。緩衝液としては、これまで知られたいかなる緩衝液でも使用することができ、例えば100 mM Tris-HCl緩衝液を使用することができる。さらに、本発明においては、使用する基質および阻害成分や賦活成分の種類に応じて、例えば、MOPS-EDTA-酢酸ナトリウム緩衝液、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液、100 mM K-PO4、0.1mM EDTA (pH7.4)、Tris-Ac緩衝液、Tris-Ac-エタノールアミン緩衝液の他、市販のいかなる標準アミノ酸分析用緩衝液キットに含まれる緩衝液を使用することができる。緩衝液は、キャリヤーとして概ね、1.0ml/minの流量で送液されている。ダンパー14は、送液ポンプ12により送られたキャリヤーの脈流を防止するために用いられ、ダンパー14についても市販のいかなるものでも用いることができる。インジェクション・バルブ16、18は、本発明の特定の実施の形態では、ループ付ロータリー・バルブとされ、マイクロシリンジによる注入操作が可能とされていてもよい。また、本発明の別の実施の形態では、インジェクション・バルブに替えて後述するように、オートサンプラーを使用して、プログラミングされた試料注入を実行させることができる。
【0019】
カラム20は、担体に担持された酵素からなる固定化酵素が保持していて、インジェクション・バルブ16、18から注入された基質および阻害成分と生化学的に相互作用して基質の量や、溶存酸素といった被検出物質の量を変化させ、キャリヤーと共に基質および被検出物質を、検出装置22へと移動させている。本発明において使用できる酵素としては、例えば、チロシナーゼ、ウレアーゼ、HMG-CoA還元酵素、モノアミンオキシダーゼ、逆転写酵素、HIVプロテアーゼ、エルゴステロール合成酵素、グルカン合成酵素、α−グルコキシダーゼ、マルトースホスホリラーゼ、アルカリホスファターゼ、アミラーゼ、プロテアーゼなどを挙げることができる。しかしながら、本発明では、上記以外にも適切な阻害成分が知られている酵素や、適切な酵素活性評価法が知られている酵素であれば、特に制限無く適用することができる。また、本発明が適用される試料としては、美白剤、抗ピロリ菌剤、抗ステロール血症治療薬、抗ウツ剤、抗HIV剤、抗真菌剤、糖尿病治療薬(インスリン非依存)を挙げることができるが、上述した酵素と同様に、本発明では特に制限されるものではない。
【0020】
さらに、本発明において阻害成分および賦活成分として使用できる成分としては、コウジ酸、エラグ酸、ブラバスタジン、シンバスタチン、フェネルジン、トラニルシプロミン、イソカルボキサジド、AZT(ジドブジン)、ビラミューン、エファビレンツ、リトナビル、ミコナゾール、イトラキナゾール、フルコナゾール、ミカファンギン、キャスポファンギン、アカルボースなどを挙げることができるが、本発明では、これらの阻害成分や賦活成分に限定されるものではなく、生薬抽出物などから得られる成分を使用することもできる。
【0021】
上述したように、カラム20から排出されたキャリヤーは、キャリヤーの移動に伴って被検出物質を検出装置22へと送り、検出装置22により検出対象の検出が行われる。本発明において酵素反応の検出は、直接的に基質を検出することもできるし、例えば基質−酵素反応で消費される酸素などの特定成分を検出することによって間接的に検出することもできる。本発明において使用することができる検出装置としては、例えばUV−VIS吸光分光光度計、蛍光分光光度計、ポテンシオ/ガルバノスタット、および酸素電極などを挙げることができる。検出装置22には、図示しない適切な増幅装置などを介してレコーダ24が接続されていて、検出装置22からの電圧または電流信号を、時間に対してプロットさせている。
【0022】
また、本発明のよりシステム化された実施の形態では、レコーダの出力は、システム制御装置26へ送られ、ディジタル変換された時間−出力データとして、コンピュータの液晶ディスプレイ、CRT、プラズマディスプレイなどの表示装置に表させることができる構成とすることができる。さらに、本発明においては、操作者が、分析装置を直接駆動して本発明の分析シーケンスを実行させることができる。また、本発明の他の実施の形態では、本発明の分析シーケンスを実行するプログラムを、システム制御装置26に含ませておき、システム制御装置26によりオートサンプラー28を制御させて、分析シーケンスを自動化することもできる。
【0023】
図2は、本発明において使用することができる固定化酵素を保持するカラム20を一部断面として示した図である。図2に示されるカラム20は、概ね、恒温容器30と、恒温容器30内に保持された固定化酵素パッケージ32とを含んで構成されている。恒温容器30には、恒温(約30℃)に保持された水が、インレット34およびアウトレット36を介して循環されていて、恒温容器30内の固定化酵素パッケージ32内の固定化酵素を、一定温度に保持させている。また、恒温容器30内に保持された固定化酵素パッケージ32は、水が漏れたり、キャリヤーが漏れ出したりしないように、流体的に緊密にパッキングされている。より詳細には、固定化酵素パッケージ32は、上流側のキャリヤー通液部32aと、下流側の充填部32bとから形成されており、充填部32bの上流側および下流側には、フィルタ32cが配置されていて、担体の流出が防止されている。
【0024】
充填部32bの内部には、担体に担持された酵素が担体と共に充填されていて、上流側から供給されるキャリヤーに含まれる基質や、阻害成分と生化学的に作用可能とされている。さらに、図2に示されるように、恒温容器30の上流側および下流側には、恒温水の漏れを防止すると共に、流入したキャリヤーが固定化酵素パッケージ32を通過して、恒温容器30から排出されるように、上流側および下流側にパッキング構造またはコネクター38a、38bが備えられている。
【0025】
本発明において使用することができる固定化酵素は、市販のものが利用できる場合には、市販のものを使用することができる。また、上述した固定化処理は、特定の酵素を担体に固定化させることにより行うことができ、酵素の固定化には、種々の固定化方法を使用することができる。例えば酵素の固定化のための方法としては、例えばグルタルアルデヒドなどを利用する架橋法、ヒドロキシアパタイトなどを利用する物理的吸着法、イオン交換樹脂などを利用するイオン結合法、ジアゾニウム塩などを利用する共有結合法、アルギン酸や膜などを利用した包括法など、これまで当業界において知られた固定化方法であればいかなる方法でも用いることができ、特定の方法に限定されるものではない。
【0026】
また、本発明において酵素を固定化させる担体には、シリカ、アルミナ、ケイ藻土、ガラスなど種々の担体を使用することができるものの、細孔の安定性および取扱性といった点から、人工的に合成された微細孔性ガラスを用いることができる。上述した担体の粒子径は、100mm〜数mmの範囲とすることができ、またポアサイズとしては、約10nm〜200nmの範囲で使用することができる。
【0027】
また、上述した担体としては、酵素および使用条件などの特定の用途に対応して、ガラス以外にも、酵素の固定化に用いることのできる白金や金等で作成した電極、寒天、逆ミセルなどを利用することができる。担体に対して酵素を固定させる場合の処理は、種々考えられるものの、所定量の担体を、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の金属−有機カップリング剤で処理して有機物に対する結合性を与え、緩衝溶液を使用して調整した酵素溶液を担体に加えて乾燥する方法を好ましく用いることができる。
【0028】
図3は、本発明における分析シーケンスを、酵素−阻害成分間の活性制御特性を特定する場合のフローチャートとして示した図である。なお、賦活成分または賦活成分についての活性特性を測定するためにも、同様の分析シーケンスを使用することができる。本発明の分析シーケンスは、ステップS100から開始し、ステップS102において、分析シーケンスが開始された後T0が経過したことに応答して、ステップS104において、第1の基質インジェクションが行われる。この第1の基質インジェクションは、その分析シーケンスにおける基準基質ピーク高さ(A)を与えるための操作である。次いで、分析シーケンスは、ステップS106において、阻害成分を注入する時刻(T1)に達したことに応答して、ステップS108へと進んで阻害成分のインジェクションが行われる。ステップS108での阻害成分のインジェクション後、ステップS110で、所定の時間間隔(Td)の後の時刻T2に達したか否かに応答して、ステップS112の第2の基質のインジェクションが行われる。この第2の基質インジェクションが、Td後での阻害成分の阻害率を与えるための、阻害率プローブ・インジェクション(B)である。
【0029】
その後、ステップS114で分析シーケンスにおける時刻がT3になったか否かの判断に応答して、ステップS116において第3の基質インジェクションが行われる。この第3の基質インジェクションは、阻害成分の影響がどの程度残っているかを測定するための回復プローブ・インジェクション(C)である。その後、ステップS118において分析シーケンスは、一連の分析が終了した時間であるシーケンス・タイムアウトの時間に達したことの判断に応答して、ステップS120へと進んで、当該分析シーケンスを終了させる。なお、図3の分析シーケンスは、分析担当者が分析開始および各時刻の到達を判断して分析装置を制御して行うことができるし、本発明では、分析シーケンスを実行するためのプログラムを含むシステム制御装置と、オートサンプラーとを使用して、分析シーケンスを自動実行させる構成とすることもできる。
【0030】
図4は、図3に示した阻害活性を評価する分析シーケンスにしたがって得られるデータを、リテンションタイムを横軸として示し、縦軸にピーク高さ(酸素電極の出力電流値)とした、所謂、クロマトグラムとして示した図である。まず、時刻T0で、第1の基質インジェクションが行われ、所定のリテンションタイム(Tr)の後に、ピークAが検出される。本発明では、成分の注入から、それに対応したピークの検出までの時間を、ピーク・リテンションタイム(Tr)として参照する。その後、時刻T1において阻害成分または賦活成分が注入される。さらに、その後、所定のディレイタイムTdの後に第2の基質インジェクションが行われ、阻害成分による酵素阻害により検出対象物質の濃度が阻害成分の存在しない場合とは異なる強度のピークBとして観測される。また、阻害剤ではなく、賦活剤が注入された場合には、酵素活性の賦活に伴い、破線Baで示されるピーク高さとして観測されることになる。なお、図4に示したチャートは、酵素活性が高い場合には、高いピーク(浅いディップ)を与え、酵素活性が低い場合には、低いピーク(深いディップ)を与えるように検出装置および検出物質を選択した実施の形態に対応する。より具体的には、検出対象を酸素分子とし、検出装置として酸素電極を用い、酵素反応による酸素の消費が少なくなる、すなわち、酵素活性が低くなり、溶存酸素が高くなると、相対的に低いピークを与えるように設定されている。
【0031】
その後T3での第3の基質インジェクションがおこなわれ、それに対応するピークが、ピークCとして観測される。ピークCの強度は、酵素と阻害成分との生化学的な結合性が弱いほど高いピークとして観測され、酵素と阻害成分との生化学的な結合性が高いほど、小さなピークとして観測される。上述した各ピークの強度をそれぞれ対応してA、B、Cとすると阻害率(Inhibition Ability)および回復率(Reactivation Ratio)は、それぞれ、下記式(1)および(2)で与えられる。
【0032】
【数1】
ディレイタイムTdは、活性の度合いおよび活性を制御する機序により応じて、例えば酵素および阻害成分の組み合わせにより適宜設定することができるものの、本発明の分析装置における基質ピークの検出までの時間(リテンションタイムTr)がインジェクションから数10秒程度であることから、5min〜30min程度の時間とすることができる。また、賦活成分または賦活成分の添加により酵素活性が高められる場合には、賦活率を、例えば賦活率=(Ba/A-1) × 100により得ることができる。また、第2の基質インジェクションから、第3の基質インジェクションまでの時間間隔は、特に限定されるものではないが、分析シーケンスの全体の長さを考慮して、Td程度とすることができる。
【0033】
また、本発明では、試料のリテンションタイムをTrとして、ディレイタイムを、Tdとしたとき、Td/Tr=3〜20の範囲で交互インジェクション設定することが好ましい。Td/Trの値が、3よりも小さくなると、それ以前の試料注入による空気などのベースライン変動を受けやすく、測定精度を低下させる傾向にあり、Td/Trの値が20を越えると、競合阻害が主な阻害成分では、充分な阻害性を示さなくなると共に、回復率の値も精度が低下する傾向にあるためである。本発明の特定の実施の形態では特に、Td/Trの値が、約4.5〜約18の範囲で、多くの阻害成分に対し、阻害率および回復率の両方に対して良好な結果が得られることが見出された。図5には、酵素としてチロシナーゼを用い、阻害成分を、コウジ酸とした実施の形態における阻害率のディレイタイムTd依存性をプロットした図である。■が、阻害成分濃度が0.5mg/mlの場合であり、◆が、阻害成分濃度が5mg/lの場合に得られた阻害率(%)を示す。
【0034】
図5に示されるように、ディレイタイムTdが、大きくなるにつれて阻害率が低下するのが示されている。この理由は、時間の経過に伴い阻害成分が流出し、酵素の近くに存在しなくなるためである。また、阻害成分濃度が高い場合には、ディレイタイムTdを長くしても阻害率の低下、すなわち酵素活性の回復が飽和する傾向が見られた。このことは、阻害成分がある程度酵素に結合したままとなる場合があることを示唆するものと考えられる。すなわち、従来のバッチ式の阻害率の測定方法では、常に阻害成分が酵素に生化学的に作用し得る位置に存在するので、酵素−基質反応と競合的に発生する阻害反応の場合、不可逆的な阻害反応に加え、競合的阻害の影響も加えられ、阻害率を実際よりも高く与えることが考えられる。このため、本発明においては、上述した競合阻害が主要な場合でも、また不可逆的な阻害反応の場合でも、これらを分離して、正確に酵素−阻害成分の競合的阻害/不可逆的阻害の評価を行うことができることが示される。同様に、酵素−賦活成分の反応機序についても評価することを可能とする。
【0035】
図6は、本発明の分析装置のシステムおよびソフトウェア構成を示した図である。図6に示した本発明の分析装置40は、オートサンプラー42と、固定化酵素を恒温に保持させ、カラムを保持するカラムホルダ(or カラムオーブン)44とを備えている。オートサンプラー42は、後述するコンピュータなどを含むシステム制御装置46により制御され、システム制御装置46による指令により、分析シーケンスが開始されると、システム制御装置46の指令に基づき、基質および阻害成分または賦活成分のインジェクションを実行する。その後、キャリヤーにより検出装置にまで被検出物質が達すると、検出装置は、出力信号を変化させ、データ取得を可能とする。
【0036】
また、システム制御装置46は、オートサンプラー42による基質および阻害成分のインジェクションに応答した検出装置からのA/D変換されたディジタル・データを受け取って、サンプリングチャネルと対応させて、例えばメモリなどに格納し、上述したピーク検索および阻害率や回復率の値を計算させる。さらに、図6において示した分析装置では、分析シーケンスが終了した段階で、サンプリングチャネルを横軸とし、ピーク高さを縦軸として分析シーケンスの時間−ピーク強度チャートを、ディスプレイ装置46a上に表示させることができる。図6に示した実施の形態では、ディスプレイ装置46a上に、時間−ピーク高さのグラフおよび、阻害率、回復率が表示されているのが示されている。
【0037】
なお、検出信号のA/D変換は、システム制御装置46の指令に基づき、オートサンプラー42またはカラムホルダ44に充分なスペースがある場合には、オートサンプラー42またはカラムホルダ44に含まれるA/Dコンバータ/メモリによって実行および記憶されても良いし、また検出装置からのアナログ出力をシステム制御装置46に直接システム制御装置46がA/D変換を実行して、メモリに格納させることができる。
【0038】
さらに、本発明の図6に示したシステム制御装置46は、本発明の分析シーケンスを分析装置に実行させるためのプログラムを含んでいて、キーボードや、マウス、またはスタイラス・ペンなどの入力に応答して、初期値の設定、分析開始・終了、およびデータ解析を可能とさせている。さらに、本発明の別のシステムの実施の形態では、酵素カラムを複数本用意して、並列に評価し、システム制御装置46により一括してデータ処理を行う構成とすることもできるし、多数ウェル(例えば96ウェル)のマイクロタイタープレートを用い、酵素をウェルに固定化し、システム制御装置46により溶液や試薬を注入、吸引することにより送液ポンプによるキャリヤーのフローに類似する条件を生成させ、一度に多数のサンプルを処理する構成とすることができる。
【0039】
以下、さらに、本発明の分析装置および分析方法を実際の酵素−阻害成分システムおよび酵素−賦活成分システムに適用した実施例をもってより詳細に説明する。本発明の分析装置および分析方法を、メラニンを生体内で生成させることが知られている、チロシン−チロシナーゼ系に対して適用して、その効果を検討した。
【0040】
図7には、生体内反応においてチロシンからメラニンの形成が行われる反応機序を示す。図7に示されるように、生体内のチロシンは、皮膚組織表面近傍に存在する色素細胞内のチロシナーゼにより酸化され、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)を生成する。生成されたL−DOPAは、更にチロシナーゼにより酸化されて中間生成物であるドーパキノンを生成する。生成されたドーパキノンは、ロイコドーパクロム、ドーパクロム、5,6-ヒドロキシインドール、インドール-5,6-キノンといった複数の中間生成物を経て、最終的にはメラニンとして蓄積される。図7中、太枠で囲われた化合物は、多くの場合にバッチ法で検出される被検出物質である。メラニンは、日焼けまたはシミといった皮膚の黒変を生じさせる原因物質であり、その生成に、チロシン−チロシナーゼの基質−酵素反応が関与している。このため、メラニンの生成・蓄積を防止する酵素阻害成分が有効であることが知られており、美白剤として利用されていることに鑑みて、本発明の分析装置および分析方法の効果を検証するに最も適した生体化学反応系と考えられる。
【実施例】
【0041】
A.分析装置の作成
(1)基質
基質としては、市販のL−チロシン(シグマ−アルドリッチジャパン株式会社製)を使用した。
(2)酵素
酵素として、チロシナーゼ(マッシュルーム由来、シグマ−アルドリッチジャパン株式会社製、EC:1.14.18.1)を使用した。最適pHは、6〜7である。
(3)酵素の固定化処理
担体としては、多孔質ガラス(CPG−10、メッシュ200/400、ポア径24.2nm、表面積88.1m2/g、フナコシ薬品株式会社)を使用した。固定化処理は、まず、微細孔性ガラスを3g秤量し、pH3.45に調整した10%のγ-アミノプロピルトリエトキシシラン(γ-APTES)を加えて75℃で3時間反応させ、担体をアルキルアミノ化した。その後、アルキルアミノ化された担体1.0gに対して、10mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)を用いて調製した2.5%グルタルアルデヒド溶液を架橋剤として加えてアルデヒド化した後、乾燥させた。その後、10mMリン酸塩緩衝液上10mg/mlに調製したチロシナーゼ溶液を加えて固定化を行った。その後、酵素の固定化された担体を還元剤(NaBH4)で処理した。
(4)カラムの作成
固定化後還元された酵素を、固定化酵素ホルダーに充填し、固定化酵素ホルダーを、恒温容器内にセットして、図2に詳細を説明したカラムを作成した。恒温容器は、恒温水を循環させて、約20℃に保持した。
(5)送液系および検出系
分析装置は、日本分光株式会社製の市販のHPLC装置(送液ポンプPU−1580i)を、本発明の分析方法が適用できるように改造して作成した。具体的には、検出装置として、市販の酸素電極(BO−P、株式会社バイオット製)を使用し、室温に保持した。酸素電極からの出力は、電流計(HOKUTODENKO HA−104、北斗電工株式会社製)により検出し、検出された電流を電圧変換してレコーダ(株式会社理化電機製、MULTI-PEN RECORDER (R-62MB))に出力させた。なお、送液条件は、流速1ml/min、試料注入量0.1ml、キャリヤーとして、50mMリン酸緩衝液+1MNaCl(pH=6.5)を使用した。
【0042】
B.分析装置の検出リニアリティの測定
上述した分析装置を使用して、検出装置を含めた分析装置の感度特性について検討を加えた。図8には、本発明により得られた装置の感度特性について、横軸に基質(チロシン)濃度とし、縦軸に酸素電極からの出力電流としたプロットを示す。図8に示されるように、チロシン基質については、概ね0〜2mMの範囲でリニアリティが確認された。このため、本発明では、試料注入濃度を、1mMとし、チロシンの濃度によるピーク強度に対する補正が必要ない範囲で検討を行った。
【0043】
C.阻害成分の調整
阻害成分は、阻害剤と知られているコウジ酸(和光純薬工業株式会社製)の他、生薬抽出物を使用した。生薬からの薬効成分の抽出は、生薬3gを秤量し、50%エタノール溶液30mlで2日間、成分を抽出させた後、減圧留去してエタノールを除去した。その後、凍結乾燥を行い、生薬抽出物を粉末として得た。得られた生薬抽出物の粉末を、ジメチルスルホキシドに溶解後、所定の終濃度(0.5mg/mlおよび5mg/ml)となるようキャリヤーを用いて調整し、阻害成分溶液を作成した(ジメチルスルホキシドの終濃度は0.5%以下)。図9に使用した阻害成分をリストする。
【0044】
D.阻害率および回復率の測定
(実験例1)
セクションAで記載した分析装置の送液ポンプおよび酸素電極を起動させ、チャートレコーダのベースラインが安定した後、マイクロシリンジで、チロシン1mMを、0.1ml注入した。これを第1の基質インジェクションとした。その後、第1の基質インジェクションのピークのテールが安定した時点で0.5mg/mlの阻害成分0.1mlをマイクロシリンジで注入した。この阻害成分注入の6min(Td/Tr=12)後、第2の基質インジェクションを、第1の基質インジェクションと同一の条件で行った。さらにその約6min後、第3の基質インジェクションを、同様にして行った。
【0045】
図10には、得られたクロマトグラムを示す。また、図10には、本発明におけるTrおよびTdの値の算出基準を示している。Trは、基質のインジェクションから、基質のピークが観測されるまでの時間であり、図10に示した実施の形態では、Tr=56secである。また、基質のピークは、ピークがベースラインにまで戻った時刻Tend≒3minで終了する。また、Tdは、活性制御成分の注入から第2の基質インジェクションまでの間隔として定義することができ、また、第3の基質インジェクションまでの時間間隔も同様にして得ることができる。
【0046】
上述した4回の交互インジェクションにより、図4および図10に示す3つのピークA、B、Cが得られた。得られたピークのピーク高さを使用して式(1)および式(2)にしたがって、阻害率および回復率を計算した。
【0047】
(実験例2)
また、阻害成分の濃度を、5mg/mlとして実験1と同様の実験を行ない、阻害率および回復率を算出した。
【0048】
その結果を、図11に示す。図11においては、阻害活性については、阻害率を使用して判断し、阻害率の高い阻害成分については、+++で示し、以下、阻害率が低くなるにつれて++、+、−として記した。また、回復率については、回復率を使用して判断を行い、回復率の低い阻害成分から順に+++から++、+、−として記した。したがって、+の数を合計したものは、競合阻害を含めて阻害活性の高い成分であるといえる。表1には、阻害成分を、上述した+の合計が多いものから順にA群〜E群として分類した結果を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示されるように、本発明により、チロシナーゼに対してコウジ酸よりも高い阻害活性を有する阻害成分として、アマチャ、カンゾウ末など、表1のA群およびB群に分類される生薬を特定することができた。また、図11を参照すると、阻害剤として周知のコウジ酸については、阻害活性が高いものの、回復性も高いことが示されている。このことは生薬抽出成分とコウジ酸のチロシナーゼ阻害機序が異なることを示している。このため、コウジ酸は、表1中C群に分類された。この理由は、コウジ酸では、投与直後は高い阻害能を示すものの、すぐに効果を失ってしまうことによる。このことから、コウジ酸のチロシナーゼに対する阻害は、競合的阻害が主な阻害機構となっていることが示された。
【0051】
E.比較実験
比較実験として、チロシナーゼに対する阻害活性を、リン酸緩衝溶液でコウジ酸とチロシンと混合した溶液に共存させ、酸素電極を使用して溶存酸素をモニタすることにより、バッチ試験により測定した。このときの阻害率は、阻害成分の存在しない条件での酸素消費量をA、阻害成分が存在する条件での酸素消費量をB(A>B)とし、(1−B/A)×100として算出した。チロシナーゼは、チロシナーゼをアミノ化PAN膜(サクラ精機株式会社製)にグルタルアルデヒド架橋法により固定化した。チロシンの濃度は終濃度で1mMとなるようにし、コウジ酸の濃度を、5mg/ml、0.5mg/ml、0.05mg/ml、5×10−3mg/ml、5×10−4mg/mlで変化させた。その結果を、表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示されるように、バッチ試験では、コウジ酸の阻害率は、かなり濃度の低い領域にまで100%の阻害率を有する結果が得られた。一方で、本発明の分析装置により得られた結果(フロー(FIA))では、コウジ酸の阻害率は、77.5(5mg/ml)および41.2(0.5mg/ml)として得られ、それ以下の濃度では充分な阻害率が得られていないことが示された。
【0054】
この結果は、図11にも示されるように、コウジ酸が高い阻害率を示すものの、回復率の大きなことを考えると、競合阻害が存在する条件においてバッチ試験では競合阻害による効果が過大に評価されてしまっていることを示すものである。なお、今回測定した生薬成分では、賦活活性を示すサンプルは得られなかったものの、同様の分析シーケンスを使用すれば、酵素−基質反応の賦活活性を評価することができることは、当業者であれば容易に理解できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
上述したように、本発明によれば、酵素−基質反応に対する活性制御成分の活性特性、具体的には、阻害性、回復性、賦活性などを解明するための新奇なフローインジェクション分析装置およびフローインジェクション分析方法が提供でき、新たな阻害成分のスクリーニング、新奇な薬剤組成物の生成、およびドラッグ・デリバリー・システムの構築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明のフローインジェクション分析装置(以下、単に分析装置として参照する。)を示した図。
【図2】本発明において使用することができる固定化酵素が充填されたカラム20を一部断面として示した図。
【図3】本発明における分析シーケンスを、フローチャートとして示した図。
【図4】図3に示した分析シーケンスにしたがって得られるデータを、リテンションタイムを横軸として示した、所謂、クロマトグラムとして示した図。
【図5】酵素としてチロシナーゼを用い、阻害成分を、コウジ酸とした実施の形態における阻害率のディレイタイムTd依存性をプロットした図。
【図6】本発明の分析装置のシステム構成を示した正面図。
【図7】生体内反応においてチロシンからメラニンの形成が行われる反応機序を示した図。
【図8】本発明により得られた装置の感度特性について、横軸に基質(チロシン)濃度とし、縦軸に酸素電極からの出力電流としたプロットを示した図。
【図9】本発明において使用した阻害成分(生薬抽出物およびコウジ酸)を示した図。
【図10】本発明において得られたチロシン−チロシナーゼ系におけるクロマトグラムよび各時間基準を示した図。
【図11】本発明のフローインジェクション分析方法により得られた阻害率および回復率を示した図。
【図12】従来のバッチ試験による阻害率の測定方法を示した概略図。
【符号の説明】
【0057】
10…分析装置、12…送液ポンプ、14…ダンパー、16、18…インジェクション・バルブ、20…カラム、22…検出装置、24…レコーダ、26…システム制御装置、28…オートサンプラー、30…恒温容器、32…固定化酵素パッケージ、34…恒温水インレット、36…恒温水アウトレット、38a、38b…パッキング構造、40…分析装置、42…オートサンプラー、44…カラムホルダ、46…システム制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素と酵素の活性を制御する活性制御成分との間の酵素反応のキャラクタリゼーション技術に関し、より詳細には、フローインジェクション分析を使用して、酵素と活性制御剤との間の酵素反応の制御機能の性質の測定を可能とする、フローインジェクション分析装置、およびフローインジェクション分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フローインジェクション分析は、クロマトグラフ分析のみならず、分子量分析、質量分析、酵素のキャラクタリゼーションなど、広範な分析技術と組み合わされ、広く用いられている測定方法である。フローインジェクション分析の原理は、分析対象を、輸送媒体(キャリヤー)を使用して固定層に通過させ、固定層による化学的・物理的な作用を使用して分離したり、分析対象を注入、その試料溶液流れに試薬を混合・反応させたりした後、例えば屈折率、紫外−可視スペクトル、酸素濃度、電気化学的電位、マススペクトルなどを使用して、分析対象の情報を出力させるものである。
【0003】
特に近年では、フローインジェクション技術は、固定化酵素技術と組み合わされて、酵素反応をトレースする方法として使用されるようになっている。たとえば、特開2002−257780号公報(特許文献1)では、緩衝液中にペルオキシダーゼが固定された固定化酵素を使用して被検液と過酸化水素との反応による過酸化水素濃度の減少を測定するフローセルを備えた測定装置が開示されている。また、特開平11−290096号公報(特許文献2)では、リン酸イオン濃度を測定するために、リン酸イオンを含有する資料液とマルトース含有液との混合物を、マルトースホスホリラーゼなどを固定化した固定化酵素に接触させて、フローセル中で化学発光させることによりリン酸イオン濃度を定量するフローインジェクション分析方法が開示されている。また、特開平7−198657号公報(特許文献3)では、固定化酵素単体を充填した固定化酵素リアクタを備えた反応部と、試料中の特定成分が反応した結果生じる変化を検出する検出部を備えるフロー型測定装置であって、記憶された波形からピーク位置を検出して検量線を作成し、未知試料中の特定成分の濃度を算出するフロー型測定装置を開示している。さらに、特開平7−63725号公報(特許文献4)では、水中の有害物質のモニタを行うため、ウレアーゼを固定化した固定化酵素膜と亜硝酸生成細菌を固定化した固定化微生物膜を用いて、溶存酸素量の変化に基づく水中の有害物質をモニタする方法が開示されている。
【0004】
上述したように、固定化酵素技術は、フローインジェクション分析技術と組み合わされ、種々の試料の分析に用いられている。一方で、酵素は、一定の条件下で、継続した酵素反応を生じさせ、抗体または対象物質の酸化・還元・分解などの化学反応を生じさせることが知られているものの、酵素に対しては、酵素機能を阻害する化学的成分、所謂、阻害成分が存在することも知られている。上述した酵素と阻害成分とを使用して、特開平11−124330号公報(特許文献5)では、アンギオテンシン変換酵素阻害成分とカルシウムチャンネル阻害成分との固定用量を組み合わせ、血管疾病の治療薬が提供できることを開示している。
【0005】
また、特開平8−134090号公報(特許文献6)では、ガラクトコウジ酸、その製造法およびそれを含有するチロシナーゼ阻害成分が開示されており、黒変防止、すなわち日焼け止め効果を有する薬剤が開示されている。加えて、特開平2−163097号公報(特許文献7)では、阻害成分が共存する環境下で担体に固定した基質に対して酵素をフロー条件下で作用させ、その分解生成物を測定する酵素活性測定方法が開示されている。上述したように、酵素および阻害成分の組み合わせは、生体内において重要な機能を制御するための薬剤を提供することができることが知られている。また、酵素活性を高めるような成分があることも考えられ、基質−酵素反応に対する活性制御成分のキャラクタリゼーションを行うことが望まれていた。
【0006】
ところで、酵素と阻害成分との間の阻害作用も生化学反応により発現され、特定の酵素に対して、阻害成分の阻害能力や酵素活性の回復性、所謂、活性制御特性が異なる場合がある。このことは、酵素−活性制御成分の組み合わせにより与えられる薬剤活性の薬効および阻害成分の有効な期間が、特定の酵素および特定の活性制御成分の組み合わせにより異なる可能性があるということを示唆する。したがって、特定の酵素に対して親和性の高い阻害成分または親和性の低い阻害成分を使用する場合には、特定の薬剤による薬効を得るための阻害成分濃度および次の投与までの期間が異なり、薬剤処方および投薬周期に対して大きな影響を与えることも想定される。同様に、酵素に対する活性を賦活化させる活性制御成分が存在する場合もありうる。
【0007】
従来、上述した酵素−阻害成分間の阻害特性の評価は、従来バッチ試験により行われている。図12には、従来から知られている酵素阻害特性の測定方法を示す。多くの場合、阻害成分の添加による酵素反応性生物の定量を、吸光光度法または溶存酸素の定量などを使用して、in vitroで行う方法(図12(a))、または特定の酵素を含むインキュベーションした細胞に対して阻害成分を投与し、特定の酵素による生体反応をin vivoで発生させ、細胞内に形成された酵素反応生成物を定量する方法により行われている(図12(b))。これらの従来技術については、例えば、船坂陽子著、「美白効果の機序と評価」、Fragrance Journal, Vol. 30 (9), pp.67-72 (2002)(非特許文献1)を参照することができる。
【0008】
上述したバッチ試験による阻害性の試験は、競合的阻害が発生しない場合の酵素阻害特性については正確に測定することができると言える。ここで、酵素阻害が化学反応に基づいて行われることに鑑みれば、酵素と阻害成分との間の阻害反応にもある程度の化学平衡が成立し、酵素の近傍に阻害成分が存在するにもかかわらず、基質が競合的に酵素と反応する環境が現実的には発生しているものと考えられる。このため、阻害特性は高いものの、酵素−阻害成分の結合性が弱いので早期に阻害成分の機能が消失してしまう場合や、酵素−阻害成分の阻害特性は弱いものの、酵素の周囲に阻害成分が引き止められることにより、長期間に渡り所定の阻害性を示すような阻害成分が存在することも考えられる。また、上述したように、酵素の反応活性を阻害する物質ばかりではなく、酵素と基質との間の反応活性を高める薬剤も存在することがあり得る。したがって、酵素−活性制御成分の組み合わせにより所定の薬効を発揮させるような薬剤において、上記挙動を解明することにより、阻害成分や、賦活成分の新たな特性の評価が可能となり、ひいては、新奇な薬剤組成物の提供や、ドラッグ・デリバリー・システムを提供することが可能となると期待される。
【特許文献1】特開2002−257780号公報
【特許文献2】特開平11−290096号公報
【特許文献3】特開平7−198657号公報
【特許文献4】特開平7−63725号公報
【特許文献5】特開平11−124330号公報
【特許文献6】特開平8−134090号公報
【特許文献7】特開平2−163097号公報
【非特許文献1】船坂陽子著、「美白効果の機序と評価」、Fragrance Journal, Vol. 30 (9), pp.67-72 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、フローインジェクション分析法を使用して、酵素−活性制御剤間における酵素反応制御特性を検出することを可能とする、新奇なフローインジェクション分析装置、およびフローインジェクション分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題に鑑みて鋭意検討を加えてきたところ、特定の酵素を担体に担持させ、フローインジェクション法を使用して、試料と活性制御剤とを所定の間隔で交互インジェクションすることにより、酵素−活性制御剤間の特性を測定することが可能であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、特定の酵素を担持した固定化酵素を含むカラムに対して試料を導入する。その後、試料によるピークがベースラインにまで戻った所定の期間後、阻害成分または阻害成分または賦活成分を注入する。さらにその所定期間後、試料を再度注入し、試料によるピークを検出する。このときに得られるピークは、阻害成分の固定化酵素に対する酵素−基質間の化学的反応性に対応して、ピーク高さを変化させることが見出された。すなわち、本発明者らは、阻害成分などの注入後に注入された基質によるピーク高さが低いほど、長期間にわたり阻害成分が酵素−阻害成分反応を生じさせることができる領域に存在できることを示し、また、ピーク高さが高い場合には、阻害成分が、酵素−阻害成分反応を生じさせる領域に存在できず、早期に酵素活性が回復することを示すこと、および賦活成分の場合には酵素活性化が検出可能であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明によれば、固定化酵素を保持し、輸送媒体と共に試料が通じられるカラムと、前記輸送媒体内に前記試料と前記固定化酵素との反応活性を制御する活性制御成分とを交互に注入する注入装置と、前記活性制御成分よりも時間的に遅れて注入された前記試料と前記固定化酵素との制御下での反応を検出する検出装置と、を含む、フローインジェクション分析装置が提供できる。
【0013】
本発明における前記試料は、美白剤、抗ピロリ菌剤、抗ステロール血症治療薬、抗ウツ剤、抗HIV剤、抗真菌剤、糖尿病治療薬(インスリン非依存)を含む群から選択することができる。前記酵素は、酸化還元酵素であり、前記検出装置は、溶存酸素濃度を検出することができる。前記酵素は、チロシナーゼであり、前記試料は、チロシンとすることができる。
【0014】
本発明によれば、注入装置により輸送媒体内に試料とカラム内に保持した固定化酵素との反応活性を制御する活性制御成分とを交互に注入する段階と、検出装置により前記活性制御成分よりも時間的に遅れて注入された前記試料と前記固定化酵素との制御下での反応を検出する段階とを含む、フローインジェクション分析方法が提供できる。
【0015】
本発明の前記試料と前記阻害成分とを交互に注入する段階は、前記活性制御成分の注入後にさらに同一濃度、同一量の第2の試料を注入する段階を含み、前記活性制御成分の注入後の前記試料の注入までの時間間隔が、前記試料のピーク・リテンションタイムの5〜20倍とすることができる。さらに、前記活性制御成分の注入前に注入された前記試料によるピークと、前記活性制御成分の注入後に注入された前記第2の試料のピークとの比を使用して活性特性を算出する段階を含むことができる。前記試料は、美白剤、抗ピロリ菌剤、抗ステロール血症治療薬、抗ウツ剤、抗HIV剤、抗真菌剤、糖尿病治療薬(インスリン非依存)を含む群から選択することができる。また、前記酵素は、酸化還元酵素であり、前記検出装置は、溶存酸素濃度を検出することが好ましい。本発明では、前記固定化酵素としてチロシナーゼを使用し、前記試料としてチロシンを含む薬剤を注入することができる。本発明では、前記活性特性は、酵素阻害性、酵素賦活性、および酵素阻害からの回復性とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フローインジェクション分析を使用して、基質−酵素反応における活性制御剤と酵素との活性制御特性を評価することが可能となり、阻害成分および賦活成分の評価を可能とし、さらに新奇なドラッグ・デリバリー方法を含む薬剤設計のための新奇な情報を提供することが可能な、新奇なフローインジェクション分析装置、およびフローインジェクション分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図面に示した具体的な実施の形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施の形態に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明のフローインジェクション分析装置(以下、単に分析装置として参照する。)を示した図である。本発明の分析装置10は、概ね高速液体クロマトグラフ装置に類似した構成とされており、送液ポンプ12と、ダンパー14と、インジェクション・バルブ16、18と、カラム20とを含んでいる。送液ポンプ12には、キャリヤー貯め22に蓄えられた緩衝液が供給されている。緩衝液としては、これまで知られたいかなる緩衝液でも使用することができ、例えば100 mM Tris-HCl緩衝液を使用することができる。さらに、本発明においては、使用する基質および阻害成分や賦活成分の種類に応じて、例えば、MOPS-EDTA-酢酸ナトリウム緩衝液、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液、100 mM K-PO4、0.1mM EDTA (pH7.4)、Tris-Ac緩衝液、Tris-Ac-エタノールアミン緩衝液の他、市販のいかなる標準アミノ酸分析用緩衝液キットに含まれる緩衝液を使用することができる。緩衝液は、キャリヤーとして概ね、1.0ml/minの流量で送液されている。ダンパー14は、送液ポンプ12により送られたキャリヤーの脈流を防止するために用いられ、ダンパー14についても市販のいかなるものでも用いることができる。インジェクション・バルブ16、18は、本発明の特定の実施の形態では、ループ付ロータリー・バルブとされ、マイクロシリンジによる注入操作が可能とされていてもよい。また、本発明の別の実施の形態では、インジェクション・バルブに替えて後述するように、オートサンプラーを使用して、プログラミングされた試料注入を実行させることができる。
【0019】
カラム20は、担体に担持された酵素からなる固定化酵素が保持していて、インジェクション・バルブ16、18から注入された基質および阻害成分と生化学的に相互作用して基質の量や、溶存酸素といった被検出物質の量を変化させ、キャリヤーと共に基質および被検出物質を、検出装置22へと移動させている。本発明において使用できる酵素としては、例えば、チロシナーゼ、ウレアーゼ、HMG-CoA還元酵素、モノアミンオキシダーゼ、逆転写酵素、HIVプロテアーゼ、エルゴステロール合成酵素、グルカン合成酵素、α−グルコキシダーゼ、マルトースホスホリラーゼ、アルカリホスファターゼ、アミラーゼ、プロテアーゼなどを挙げることができる。しかしながら、本発明では、上記以外にも適切な阻害成分が知られている酵素や、適切な酵素活性評価法が知られている酵素であれば、特に制限無く適用することができる。また、本発明が適用される試料としては、美白剤、抗ピロリ菌剤、抗ステロール血症治療薬、抗ウツ剤、抗HIV剤、抗真菌剤、糖尿病治療薬(インスリン非依存)を挙げることができるが、上述した酵素と同様に、本発明では特に制限されるものではない。
【0020】
さらに、本発明において阻害成分および賦活成分として使用できる成分としては、コウジ酸、エラグ酸、ブラバスタジン、シンバスタチン、フェネルジン、トラニルシプロミン、イソカルボキサジド、AZT(ジドブジン)、ビラミューン、エファビレンツ、リトナビル、ミコナゾール、イトラキナゾール、フルコナゾール、ミカファンギン、キャスポファンギン、アカルボースなどを挙げることができるが、本発明では、これらの阻害成分や賦活成分に限定されるものではなく、生薬抽出物などから得られる成分を使用することもできる。
【0021】
上述したように、カラム20から排出されたキャリヤーは、キャリヤーの移動に伴って被検出物質を検出装置22へと送り、検出装置22により検出対象の検出が行われる。本発明において酵素反応の検出は、直接的に基質を検出することもできるし、例えば基質−酵素反応で消費される酸素などの特定成分を検出することによって間接的に検出することもできる。本発明において使用することができる検出装置としては、例えばUV−VIS吸光分光光度計、蛍光分光光度計、ポテンシオ/ガルバノスタット、および酸素電極などを挙げることができる。検出装置22には、図示しない適切な増幅装置などを介してレコーダ24が接続されていて、検出装置22からの電圧または電流信号を、時間に対してプロットさせている。
【0022】
また、本発明のよりシステム化された実施の形態では、レコーダの出力は、システム制御装置26へ送られ、ディジタル変換された時間−出力データとして、コンピュータの液晶ディスプレイ、CRT、プラズマディスプレイなどの表示装置に表させることができる構成とすることができる。さらに、本発明においては、操作者が、分析装置を直接駆動して本発明の分析シーケンスを実行させることができる。また、本発明の他の実施の形態では、本発明の分析シーケンスを実行するプログラムを、システム制御装置26に含ませておき、システム制御装置26によりオートサンプラー28を制御させて、分析シーケンスを自動化することもできる。
【0023】
図2は、本発明において使用することができる固定化酵素を保持するカラム20を一部断面として示した図である。図2に示されるカラム20は、概ね、恒温容器30と、恒温容器30内に保持された固定化酵素パッケージ32とを含んで構成されている。恒温容器30には、恒温(約30℃)に保持された水が、インレット34およびアウトレット36を介して循環されていて、恒温容器30内の固定化酵素パッケージ32内の固定化酵素を、一定温度に保持させている。また、恒温容器30内に保持された固定化酵素パッケージ32は、水が漏れたり、キャリヤーが漏れ出したりしないように、流体的に緊密にパッキングされている。より詳細には、固定化酵素パッケージ32は、上流側のキャリヤー通液部32aと、下流側の充填部32bとから形成されており、充填部32bの上流側および下流側には、フィルタ32cが配置されていて、担体の流出が防止されている。
【0024】
充填部32bの内部には、担体に担持された酵素が担体と共に充填されていて、上流側から供給されるキャリヤーに含まれる基質や、阻害成分と生化学的に作用可能とされている。さらに、図2に示されるように、恒温容器30の上流側および下流側には、恒温水の漏れを防止すると共に、流入したキャリヤーが固定化酵素パッケージ32を通過して、恒温容器30から排出されるように、上流側および下流側にパッキング構造またはコネクター38a、38bが備えられている。
【0025】
本発明において使用することができる固定化酵素は、市販のものが利用できる場合には、市販のものを使用することができる。また、上述した固定化処理は、特定の酵素を担体に固定化させることにより行うことができ、酵素の固定化には、種々の固定化方法を使用することができる。例えば酵素の固定化のための方法としては、例えばグルタルアルデヒドなどを利用する架橋法、ヒドロキシアパタイトなどを利用する物理的吸着法、イオン交換樹脂などを利用するイオン結合法、ジアゾニウム塩などを利用する共有結合法、アルギン酸や膜などを利用した包括法など、これまで当業界において知られた固定化方法であればいかなる方法でも用いることができ、特定の方法に限定されるものではない。
【0026】
また、本発明において酵素を固定化させる担体には、シリカ、アルミナ、ケイ藻土、ガラスなど種々の担体を使用することができるものの、細孔の安定性および取扱性といった点から、人工的に合成された微細孔性ガラスを用いることができる。上述した担体の粒子径は、100mm〜数mmの範囲とすることができ、またポアサイズとしては、約10nm〜200nmの範囲で使用することができる。
【0027】
また、上述した担体としては、酵素および使用条件などの特定の用途に対応して、ガラス以外にも、酵素の固定化に用いることのできる白金や金等で作成した電極、寒天、逆ミセルなどを利用することができる。担体に対して酵素を固定させる場合の処理は、種々考えられるものの、所定量の担体を、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の金属−有機カップリング剤で処理して有機物に対する結合性を与え、緩衝溶液を使用して調整した酵素溶液を担体に加えて乾燥する方法を好ましく用いることができる。
【0028】
図3は、本発明における分析シーケンスを、酵素−阻害成分間の活性制御特性を特定する場合のフローチャートとして示した図である。なお、賦活成分または賦活成分についての活性特性を測定するためにも、同様の分析シーケンスを使用することができる。本発明の分析シーケンスは、ステップS100から開始し、ステップS102において、分析シーケンスが開始された後T0が経過したことに応答して、ステップS104において、第1の基質インジェクションが行われる。この第1の基質インジェクションは、その分析シーケンスにおける基準基質ピーク高さ(A)を与えるための操作である。次いで、分析シーケンスは、ステップS106において、阻害成分を注入する時刻(T1)に達したことに応答して、ステップS108へと進んで阻害成分のインジェクションが行われる。ステップS108での阻害成分のインジェクション後、ステップS110で、所定の時間間隔(Td)の後の時刻T2に達したか否かに応答して、ステップS112の第2の基質のインジェクションが行われる。この第2の基質インジェクションが、Td後での阻害成分の阻害率を与えるための、阻害率プローブ・インジェクション(B)である。
【0029】
その後、ステップS114で分析シーケンスにおける時刻がT3になったか否かの判断に応答して、ステップS116において第3の基質インジェクションが行われる。この第3の基質インジェクションは、阻害成分の影響がどの程度残っているかを測定するための回復プローブ・インジェクション(C)である。その後、ステップS118において分析シーケンスは、一連の分析が終了した時間であるシーケンス・タイムアウトの時間に達したことの判断に応答して、ステップS120へと進んで、当該分析シーケンスを終了させる。なお、図3の分析シーケンスは、分析担当者が分析開始および各時刻の到達を判断して分析装置を制御して行うことができるし、本発明では、分析シーケンスを実行するためのプログラムを含むシステム制御装置と、オートサンプラーとを使用して、分析シーケンスを自動実行させる構成とすることもできる。
【0030】
図4は、図3に示した阻害活性を評価する分析シーケンスにしたがって得られるデータを、リテンションタイムを横軸として示し、縦軸にピーク高さ(酸素電極の出力電流値)とした、所謂、クロマトグラムとして示した図である。まず、時刻T0で、第1の基質インジェクションが行われ、所定のリテンションタイム(Tr)の後に、ピークAが検出される。本発明では、成分の注入から、それに対応したピークの検出までの時間を、ピーク・リテンションタイム(Tr)として参照する。その後、時刻T1において阻害成分または賦活成分が注入される。さらに、その後、所定のディレイタイムTdの後に第2の基質インジェクションが行われ、阻害成分による酵素阻害により検出対象物質の濃度が阻害成分の存在しない場合とは異なる強度のピークBとして観測される。また、阻害剤ではなく、賦活剤が注入された場合には、酵素活性の賦活に伴い、破線Baで示されるピーク高さとして観測されることになる。なお、図4に示したチャートは、酵素活性が高い場合には、高いピーク(浅いディップ)を与え、酵素活性が低い場合には、低いピーク(深いディップ)を与えるように検出装置および検出物質を選択した実施の形態に対応する。より具体的には、検出対象を酸素分子とし、検出装置として酸素電極を用い、酵素反応による酸素の消費が少なくなる、すなわち、酵素活性が低くなり、溶存酸素が高くなると、相対的に低いピークを与えるように設定されている。
【0031】
その後T3での第3の基質インジェクションがおこなわれ、それに対応するピークが、ピークCとして観測される。ピークCの強度は、酵素と阻害成分との生化学的な結合性が弱いほど高いピークとして観測され、酵素と阻害成分との生化学的な結合性が高いほど、小さなピークとして観測される。上述した各ピークの強度をそれぞれ対応してA、B、Cとすると阻害率(Inhibition Ability)および回復率(Reactivation Ratio)は、それぞれ、下記式(1)および(2)で与えられる。
【0032】
【数1】
ディレイタイムTdは、活性の度合いおよび活性を制御する機序により応じて、例えば酵素および阻害成分の組み合わせにより適宜設定することができるものの、本発明の分析装置における基質ピークの検出までの時間(リテンションタイムTr)がインジェクションから数10秒程度であることから、5min〜30min程度の時間とすることができる。また、賦活成分または賦活成分の添加により酵素活性が高められる場合には、賦活率を、例えば賦活率=(Ba/A-1) × 100により得ることができる。また、第2の基質インジェクションから、第3の基質インジェクションまでの時間間隔は、特に限定されるものではないが、分析シーケンスの全体の長さを考慮して、Td程度とすることができる。
【0033】
また、本発明では、試料のリテンションタイムをTrとして、ディレイタイムを、Tdとしたとき、Td/Tr=3〜20の範囲で交互インジェクション設定することが好ましい。Td/Trの値が、3よりも小さくなると、それ以前の試料注入による空気などのベースライン変動を受けやすく、測定精度を低下させる傾向にあり、Td/Trの値が20を越えると、競合阻害が主な阻害成分では、充分な阻害性を示さなくなると共に、回復率の値も精度が低下する傾向にあるためである。本発明の特定の実施の形態では特に、Td/Trの値が、約4.5〜約18の範囲で、多くの阻害成分に対し、阻害率および回復率の両方に対して良好な結果が得られることが見出された。図5には、酵素としてチロシナーゼを用い、阻害成分を、コウジ酸とした実施の形態における阻害率のディレイタイムTd依存性をプロットした図である。■が、阻害成分濃度が0.5mg/mlの場合であり、◆が、阻害成分濃度が5mg/lの場合に得られた阻害率(%)を示す。
【0034】
図5に示されるように、ディレイタイムTdが、大きくなるにつれて阻害率が低下するのが示されている。この理由は、時間の経過に伴い阻害成分が流出し、酵素の近くに存在しなくなるためである。また、阻害成分濃度が高い場合には、ディレイタイムTdを長くしても阻害率の低下、すなわち酵素活性の回復が飽和する傾向が見られた。このことは、阻害成分がある程度酵素に結合したままとなる場合があることを示唆するものと考えられる。すなわち、従来のバッチ式の阻害率の測定方法では、常に阻害成分が酵素に生化学的に作用し得る位置に存在するので、酵素−基質反応と競合的に発生する阻害反応の場合、不可逆的な阻害反応に加え、競合的阻害の影響も加えられ、阻害率を実際よりも高く与えることが考えられる。このため、本発明においては、上述した競合阻害が主要な場合でも、また不可逆的な阻害反応の場合でも、これらを分離して、正確に酵素−阻害成分の競合的阻害/不可逆的阻害の評価を行うことができることが示される。同様に、酵素−賦活成分の反応機序についても評価することを可能とする。
【0035】
図6は、本発明の分析装置のシステムおよびソフトウェア構成を示した図である。図6に示した本発明の分析装置40は、オートサンプラー42と、固定化酵素を恒温に保持させ、カラムを保持するカラムホルダ(or カラムオーブン)44とを備えている。オートサンプラー42は、後述するコンピュータなどを含むシステム制御装置46により制御され、システム制御装置46による指令により、分析シーケンスが開始されると、システム制御装置46の指令に基づき、基質および阻害成分または賦活成分のインジェクションを実行する。その後、キャリヤーにより検出装置にまで被検出物質が達すると、検出装置は、出力信号を変化させ、データ取得を可能とする。
【0036】
また、システム制御装置46は、オートサンプラー42による基質および阻害成分のインジェクションに応答した検出装置からのA/D変換されたディジタル・データを受け取って、サンプリングチャネルと対応させて、例えばメモリなどに格納し、上述したピーク検索および阻害率や回復率の値を計算させる。さらに、図6において示した分析装置では、分析シーケンスが終了した段階で、サンプリングチャネルを横軸とし、ピーク高さを縦軸として分析シーケンスの時間−ピーク強度チャートを、ディスプレイ装置46a上に表示させることができる。図6に示した実施の形態では、ディスプレイ装置46a上に、時間−ピーク高さのグラフおよび、阻害率、回復率が表示されているのが示されている。
【0037】
なお、検出信号のA/D変換は、システム制御装置46の指令に基づき、オートサンプラー42またはカラムホルダ44に充分なスペースがある場合には、オートサンプラー42またはカラムホルダ44に含まれるA/Dコンバータ/メモリによって実行および記憶されても良いし、また検出装置からのアナログ出力をシステム制御装置46に直接システム制御装置46がA/D変換を実行して、メモリに格納させることができる。
【0038】
さらに、本発明の図6に示したシステム制御装置46は、本発明の分析シーケンスを分析装置に実行させるためのプログラムを含んでいて、キーボードや、マウス、またはスタイラス・ペンなどの入力に応答して、初期値の設定、分析開始・終了、およびデータ解析を可能とさせている。さらに、本発明の別のシステムの実施の形態では、酵素カラムを複数本用意して、並列に評価し、システム制御装置46により一括してデータ処理を行う構成とすることもできるし、多数ウェル(例えば96ウェル)のマイクロタイタープレートを用い、酵素をウェルに固定化し、システム制御装置46により溶液や試薬を注入、吸引することにより送液ポンプによるキャリヤーのフローに類似する条件を生成させ、一度に多数のサンプルを処理する構成とすることができる。
【0039】
以下、さらに、本発明の分析装置および分析方法を実際の酵素−阻害成分システムおよび酵素−賦活成分システムに適用した実施例をもってより詳細に説明する。本発明の分析装置および分析方法を、メラニンを生体内で生成させることが知られている、チロシン−チロシナーゼ系に対して適用して、その効果を検討した。
【0040】
図7には、生体内反応においてチロシンからメラニンの形成が行われる反応機序を示す。図7に示されるように、生体内のチロシンは、皮膚組織表面近傍に存在する色素細胞内のチロシナーゼにより酸化され、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)を生成する。生成されたL−DOPAは、更にチロシナーゼにより酸化されて中間生成物であるドーパキノンを生成する。生成されたドーパキノンは、ロイコドーパクロム、ドーパクロム、5,6-ヒドロキシインドール、インドール-5,6-キノンといった複数の中間生成物を経て、最終的にはメラニンとして蓄積される。図7中、太枠で囲われた化合物は、多くの場合にバッチ法で検出される被検出物質である。メラニンは、日焼けまたはシミといった皮膚の黒変を生じさせる原因物質であり、その生成に、チロシン−チロシナーゼの基質−酵素反応が関与している。このため、メラニンの生成・蓄積を防止する酵素阻害成分が有効であることが知られており、美白剤として利用されていることに鑑みて、本発明の分析装置および分析方法の効果を検証するに最も適した生体化学反応系と考えられる。
【実施例】
【0041】
A.分析装置の作成
(1)基質
基質としては、市販のL−チロシン(シグマ−アルドリッチジャパン株式会社製)を使用した。
(2)酵素
酵素として、チロシナーゼ(マッシュルーム由来、シグマ−アルドリッチジャパン株式会社製、EC:1.14.18.1)を使用した。最適pHは、6〜7である。
(3)酵素の固定化処理
担体としては、多孔質ガラス(CPG−10、メッシュ200/400、ポア径24.2nm、表面積88.1m2/g、フナコシ薬品株式会社)を使用した。固定化処理は、まず、微細孔性ガラスを3g秤量し、pH3.45に調整した10%のγ-アミノプロピルトリエトキシシラン(γ-APTES)を加えて75℃で3時間反応させ、担体をアルキルアミノ化した。その後、アルキルアミノ化された担体1.0gに対して、10mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)を用いて調製した2.5%グルタルアルデヒド溶液を架橋剤として加えてアルデヒド化した後、乾燥させた。その後、10mMリン酸塩緩衝液上10mg/mlに調製したチロシナーゼ溶液を加えて固定化を行った。その後、酵素の固定化された担体を還元剤(NaBH4)で処理した。
(4)カラムの作成
固定化後還元された酵素を、固定化酵素ホルダーに充填し、固定化酵素ホルダーを、恒温容器内にセットして、図2に詳細を説明したカラムを作成した。恒温容器は、恒温水を循環させて、約20℃に保持した。
(5)送液系および検出系
分析装置は、日本分光株式会社製の市販のHPLC装置(送液ポンプPU−1580i)を、本発明の分析方法が適用できるように改造して作成した。具体的には、検出装置として、市販の酸素電極(BO−P、株式会社バイオット製)を使用し、室温に保持した。酸素電極からの出力は、電流計(HOKUTODENKO HA−104、北斗電工株式会社製)により検出し、検出された電流を電圧変換してレコーダ(株式会社理化電機製、MULTI-PEN RECORDER (R-62MB))に出力させた。なお、送液条件は、流速1ml/min、試料注入量0.1ml、キャリヤーとして、50mMリン酸緩衝液+1MNaCl(pH=6.5)を使用した。
【0042】
B.分析装置の検出リニアリティの測定
上述した分析装置を使用して、検出装置を含めた分析装置の感度特性について検討を加えた。図8には、本発明により得られた装置の感度特性について、横軸に基質(チロシン)濃度とし、縦軸に酸素電極からの出力電流としたプロットを示す。図8に示されるように、チロシン基質については、概ね0〜2mMの範囲でリニアリティが確認された。このため、本発明では、試料注入濃度を、1mMとし、チロシンの濃度によるピーク強度に対する補正が必要ない範囲で検討を行った。
【0043】
C.阻害成分の調整
阻害成分は、阻害剤と知られているコウジ酸(和光純薬工業株式会社製)の他、生薬抽出物を使用した。生薬からの薬効成分の抽出は、生薬3gを秤量し、50%エタノール溶液30mlで2日間、成分を抽出させた後、減圧留去してエタノールを除去した。その後、凍結乾燥を行い、生薬抽出物を粉末として得た。得られた生薬抽出物の粉末を、ジメチルスルホキシドに溶解後、所定の終濃度(0.5mg/mlおよび5mg/ml)となるようキャリヤーを用いて調整し、阻害成分溶液を作成した(ジメチルスルホキシドの終濃度は0.5%以下)。図9に使用した阻害成分をリストする。
【0044】
D.阻害率および回復率の測定
(実験例1)
セクションAで記載した分析装置の送液ポンプおよび酸素電極を起動させ、チャートレコーダのベースラインが安定した後、マイクロシリンジで、チロシン1mMを、0.1ml注入した。これを第1の基質インジェクションとした。その後、第1の基質インジェクションのピークのテールが安定した時点で0.5mg/mlの阻害成分0.1mlをマイクロシリンジで注入した。この阻害成分注入の6min(Td/Tr=12)後、第2の基質インジェクションを、第1の基質インジェクションと同一の条件で行った。さらにその約6min後、第3の基質インジェクションを、同様にして行った。
【0045】
図10には、得られたクロマトグラムを示す。また、図10には、本発明におけるTrおよびTdの値の算出基準を示している。Trは、基質のインジェクションから、基質のピークが観測されるまでの時間であり、図10に示した実施の形態では、Tr=56secである。また、基質のピークは、ピークがベースラインにまで戻った時刻Tend≒3minで終了する。また、Tdは、活性制御成分の注入から第2の基質インジェクションまでの間隔として定義することができ、また、第3の基質インジェクションまでの時間間隔も同様にして得ることができる。
【0046】
上述した4回の交互インジェクションにより、図4および図10に示す3つのピークA、B、Cが得られた。得られたピークのピーク高さを使用して式(1)および式(2)にしたがって、阻害率および回復率を計算した。
【0047】
(実験例2)
また、阻害成分の濃度を、5mg/mlとして実験1と同様の実験を行ない、阻害率および回復率を算出した。
【0048】
その結果を、図11に示す。図11においては、阻害活性については、阻害率を使用して判断し、阻害率の高い阻害成分については、+++で示し、以下、阻害率が低くなるにつれて++、+、−として記した。また、回復率については、回復率を使用して判断を行い、回復率の低い阻害成分から順に+++から++、+、−として記した。したがって、+の数を合計したものは、競合阻害を含めて阻害活性の高い成分であるといえる。表1には、阻害成分を、上述した+の合計が多いものから順にA群〜E群として分類した結果を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示されるように、本発明により、チロシナーゼに対してコウジ酸よりも高い阻害活性を有する阻害成分として、アマチャ、カンゾウ末など、表1のA群およびB群に分類される生薬を特定することができた。また、図11を参照すると、阻害剤として周知のコウジ酸については、阻害活性が高いものの、回復性も高いことが示されている。このことは生薬抽出成分とコウジ酸のチロシナーゼ阻害機序が異なることを示している。このため、コウジ酸は、表1中C群に分類された。この理由は、コウジ酸では、投与直後は高い阻害能を示すものの、すぐに効果を失ってしまうことによる。このことから、コウジ酸のチロシナーゼに対する阻害は、競合的阻害が主な阻害機構となっていることが示された。
【0051】
E.比較実験
比較実験として、チロシナーゼに対する阻害活性を、リン酸緩衝溶液でコウジ酸とチロシンと混合した溶液に共存させ、酸素電極を使用して溶存酸素をモニタすることにより、バッチ試験により測定した。このときの阻害率は、阻害成分の存在しない条件での酸素消費量をA、阻害成分が存在する条件での酸素消費量をB(A>B)とし、(1−B/A)×100として算出した。チロシナーゼは、チロシナーゼをアミノ化PAN膜(サクラ精機株式会社製)にグルタルアルデヒド架橋法により固定化した。チロシンの濃度は終濃度で1mMとなるようにし、コウジ酸の濃度を、5mg/ml、0.5mg/ml、0.05mg/ml、5×10−3mg/ml、5×10−4mg/mlで変化させた。その結果を、表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示されるように、バッチ試験では、コウジ酸の阻害率は、かなり濃度の低い領域にまで100%の阻害率を有する結果が得られた。一方で、本発明の分析装置により得られた結果(フロー(FIA))では、コウジ酸の阻害率は、77.5(5mg/ml)および41.2(0.5mg/ml)として得られ、それ以下の濃度では充分な阻害率が得られていないことが示された。
【0054】
この結果は、図11にも示されるように、コウジ酸が高い阻害率を示すものの、回復率の大きなことを考えると、競合阻害が存在する条件においてバッチ試験では競合阻害による効果が過大に評価されてしまっていることを示すものである。なお、今回測定した生薬成分では、賦活活性を示すサンプルは得られなかったものの、同様の分析シーケンスを使用すれば、酵素−基質反応の賦活活性を評価することができることは、当業者であれば容易に理解できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
上述したように、本発明によれば、酵素−基質反応に対する活性制御成分の活性特性、具体的には、阻害性、回復性、賦活性などを解明するための新奇なフローインジェクション分析装置およびフローインジェクション分析方法が提供でき、新たな阻害成分のスクリーニング、新奇な薬剤組成物の生成、およびドラッグ・デリバリー・システムの構築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明のフローインジェクション分析装置(以下、単に分析装置として参照する。)を示した図。
【図2】本発明において使用することができる固定化酵素が充填されたカラム20を一部断面として示した図。
【図3】本発明における分析シーケンスを、フローチャートとして示した図。
【図4】図3に示した分析シーケンスにしたがって得られるデータを、リテンションタイムを横軸として示した、所謂、クロマトグラムとして示した図。
【図5】酵素としてチロシナーゼを用い、阻害成分を、コウジ酸とした実施の形態における阻害率のディレイタイムTd依存性をプロットした図。
【図6】本発明の分析装置のシステム構成を示した正面図。
【図7】生体内反応においてチロシンからメラニンの形成が行われる反応機序を示した図。
【図8】本発明により得られた装置の感度特性について、横軸に基質(チロシン)濃度とし、縦軸に酸素電極からの出力電流としたプロットを示した図。
【図9】本発明において使用した阻害成分(生薬抽出物およびコウジ酸)を示した図。
【図10】本発明において得られたチロシン−チロシナーゼ系におけるクロマトグラムよび各時間基準を示した図。
【図11】本発明のフローインジェクション分析方法により得られた阻害率および回復率を示した図。
【図12】従来のバッチ試験による阻害率の測定方法を示した概略図。
【符号の説明】
【0057】
10…分析装置、12…送液ポンプ、14…ダンパー、16、18…インジェクション・バルブ、20…カラム、22…検出装置、24…レコーダ、26…システム制御装置、28…オートサンプラー、30…恒温容器、32…固定化酵素パッケージ、34…恒温水インレット、36…恒温水アウトレット、38a、38b…パッキング構造、40…分析装置、42…オートサンプラー、44…カラムホルダ、46…システム制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定化酵素を保持し、輸送媒体と共に試料が通じられるカラムと、
前記輸送媒体内に前記試料と前記固定化酵素との反応活性を制御する活性制御成分とを交互に注入する注入装置と、
前記活性制御成分よりも時間的に遅れて注入された前記試料と前記固定化酵素との制御下での反応を検出する検出装置と
を含む、フローインジェクション分析装置。
【請求項2】
前記試料は、美白剤、抗ピロリ菌剤、抗ステロール血症治療薬、抗ウツ剤、抗HIV剤、抗真菌剤、糖尿病治療薬(インスリン非依存)を含む群から選択される、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記酵素は、酸化還元酵素であり、前記検出装置は、溶存酸素濃度を検出する、請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記酵素は、チロシナーゼであり、前記試料は、チロシンである、請求項3に記載の分析装置。
【請求項5】
注入装置により輸送媒体内に試料とカラム内に保持した固定化酵素との反応活性を制御する活性制御成分とを交互に注入する段階と、
検出装置により前記活性制御成分よりも時間的に遅れて注入された前記試料と前記固定化酵素との制御下での反応を検出する段階と
を含む、フローインジェクション分析方法。
【請求項6】
前記試料と前記活性制御成分とを交互に注入する段階は、前記活性制御成分の注入後にさらに同一濃度、同一量の第2の試料を注入する段階を含み、前記活性制御成分の注入後の前記試料の注入までの時間間隔が、前記試料のピーク・リテンションタイムの3〜20倍とされる、請求項5に記載の分析方法。
【請求項7】
さらに、前記活性制御成分の注入前に注入された前記試料によるピークと、前記活性制御成分の注入後に注入された前記第2の試料のピークとの比を使用して活性特性を算出する段階を含む、請求項5に記載の分析方法。
【請求項8】
前記試料は、美白剤、抗ピロリ菌剤、抗ステロール血症治療薬、抗ウツ剤、抗HIV剤、抗真菌剤、糖尿病治療薬(インスリン非依存)を含む群から選択される、請求項6に記載の分析方法。
【請求項9】
前記酵素は、酸化還元酵素であり、前記検出装置は、溶存酸素濃度を検出する、請求項6に記載の分析方法。
【請求項10】
前記固定化酵素としてチロシナーゼを使用し、前記試料としてチロシンを含む薬剤を注入する、請求項9に記載のフローインジェクション分析方法。
【請求項11】
前記活性特性は、酵素阻害性、酵素賦活性、および酵素阻害からの回復性である、請求項7に記載の分析方法。
【請求項1】
固定化酵素を保持し、輸送媒体と共に試料が通じられるカラムと、
前記輸送媒体内に前記試料と前記固定化酵素との反応活性を制御する活性制御成分とを交互に注入する注入装置と、
前記活性制御成分よりも時間的に遅れて注入された前記試料と前記固定化酵素との制御下での反応を検出する検出装置と
を含む、フローインジェクション分析装置。
【請求項2】
前記試料は、美白剤、抗ピロリ菌剤、抗ステロール血症治療薬、抗ウツ剤、抗HIV剤、抗真菌剤、糖尿病治療薬(インスリン非依存)を含む群から選択される、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記酵素は、酸化還元酵素であり、前記検出装置は、溶存酸素濃度を検出する、請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記酵素は、チロシナーゼであり、前記試料は、チロシンである、請求項3に記載の分析装置。
【請求項5】
注入装置により輸送媒体内に試料とカラム内に保持した固定化酵素との反応活性を制御する活性制御成分とを交互に注入する段階と、
検出装置により前記活性制御成分よりも時間的に遅れて注入された前記試料と前記固定化酵素との制御下での反応を検出する段階と
を含む、フローインジェクション分析方法。
【請求項6】
前記試料と前記活性制御成分とを交互に注入する段階は、前記活性制御成分の注入後にさらに同一濃度、同一量の第2の試料を注入する段階を含み、前記活性制御成分の注入後の前記試料の注入までの時間間隔が、前記試料のピーク・リテンションタイムの3〜20倍とされる、請求項5に記載の分析方法。
【請求項7】
さらに、前記活性制御成分の注入前に注入された前記試料によるピークと、前記活性制御成分の注入後に注入された前記第2の試料のピークとの比を使用して活性特性を算出する段階を含む、請求項5に記載の分析方法。
【請求項8】
前記試料は、美白剤、抗ピロリ菌剤、抗ステロール血症治療薬、抗ウツ剤、抗HIV剤、抗真菌剤、糖尿病治療薬(インスリン非依存)を含む群から選択される、請求項6に記載の分析方法。
【請求項9】
前記酵素は、酸化還元酵素であり、前記検出装置は、溶存酸素濃度を検出する、請求項6に記載の分析方法。
【請求項10】
前記固定化酵素としてチロシナーゼを使用し、前記試料としてチロシンを含む薬剤を注入する、請求項9に記載のフローインジェクション分析方法。
【請求項11】
前記活性特性は、酵素阻害性、酵素賦活性、および酵素阻害からの回復性である、請求項7に記載の分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−94837(P2006−94837A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287710(P2004−287710)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】
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