説明

フローコーティング可能なPFAフューザートップコート

【課題】部材の製造費用を下げ、寿命を延ばすことが可能なフューザー部材を備える、電子写真式印刷デバイスに用いられるフュージング装置のための材料および製造方法を提供する。
【解決手段】基材110とトップコート層120とを備え、該トップコート層120が、フローコーティングされたフルオロ樹脂を含み、トップコートを、約100℃〜約280℃の範囲の第1の温度まで加熱することと、約285℃〜約380℃の範囲の第2の温度まで加熱し、フューザー部材100Aの上に均一なトップコートを作成することを含む、表面エネルギーが約25mN/m以下である、フューザー部材100Aを備えるフュージング装置のための材料および製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本教示は、一般的に、電子写真式印刷デバイスに用いられるフューザー部材に関し、より特定的には、フューザー部材のトップコート層に使用するフローコーティング可能なフルオロ樹脂、これを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な電子写真式の複製装置では、複写される元々の画像の光像は、感光部材の上に静電潜像の形態で記録される。この潜像は、次いで、一般的にトナーと呼ばれる電気を帯びた熱可塑性樹脂粒子を塗布することによって可視化される。可視化されたトナー画像は、固定されていない粉末形態であり、通常は、中間体または印刷媒体であってもよい支持材(例えば、普通紙)の上でフュージング装置を用いて融合される。
【0003】
従来のフュージング装置は、フューザー部材と加圧部材とを備えており、加圧した状態で接触が維持されるロール対、または加圧した状態でロール部材と接触しているベルト部材を備えた構成であってもよい。融合プロセスでは、フューザー部材、加圧部材のどちらか、または両方を加熱することによって熱を加えてもよい。
【0004】
フューザー部材を、(良好な剥離特性を維持するために)表面エネルギーが低く、十分に可とう性であり、良好な熱伝導性、および/または(フューザー部材の寿命を延ばすために)機械的な耐久性を有する材料層(例えば、トップコート)でコーティングしてもよい。しかし、すべての特性が望ましい状態の材料は少ない。表面エネルギーの低い材料の中には、比較的に機械強度が低いものも多く、フューザー部材の寿命は短い。機械的な耐久性を有する他の材料は、熱伝導性が悪いことがある。したがって、材料の組み合わせを注意深く選ばなければならない。
【0005】
フルオロポリマー(例えば、ペルフルオロアルコキシ(PFA)樹脂)は、表面エネルギーが低く、機械強度が高いため、フューザー部材のトップコートに使用されることが多い。スプレーコーティング、フローコーティング、粉末コーティング、浸漬コーティングを含む、トップコート塗布に利用可能なコーティングプロセスの中で、フローコーティングは、他のプロセスと比べて、移動効率が大きく(例えば、フローコーティングは、効率の良い計量コーティングプロセスを与え、その結果、噴霧飛沫による目減りを含むスプレーコーティングと比較して、コーティング材料の無駄が少ない)、製造速度が速く、空気中を浮遊する毒性のある霧状PFA粒子を避けることができるという利点がある。
【0006】
PFAトップコートは、通常は、水性分散物からのスプレーコーティングまたは浸漬コーティング、PFA粉末を用いた粉末コーティングによってコーティングとして調製されるか、またはPFA樹脂を押出成型することによってスリーブとして調製される。ペルフルオロプラスチック(例えば、PFA、PTFE、FEP)は、高度に結晶性のフルオロポリマーであるため、これらのプラスチックは、典型的には有機溶媒に溶けず、高温(すなわち、約260℃〜約327℃)で融解する。PFA樹脂粒子および同様のフルオロプラスチックを分散物の状態でフローコーティングするには、安定で、適切なレオロジーを有するコーティング分散剤が必要である。適切な安定したフローコーティング可能なフルオロプラスチックトップコート配合物は、現在の製造技術では現時点で知られていない。
【0007】
フューザー部材の製造費用を下げ、寿命を延ばすために、望ましい特性(例えば、低表面エネルギー、十分な可とう性、良好な熱伝導性、機械的な耐久性など)を有し、フローコーティング法によって塗布することが可能なフューザー部材用材料を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0008】
本明細書に示される実施形態によれば、基材を提供することと;少なくとも1つのフルオロ樹脂、少なくとも1つの犠牲ポリマーバインダー、少なくとも1つの溶媒を含む分散物を提供することと;フローコーティングによって前記分散物を前記基材に塗布し、トップコートを作成することと;このトップコートを、約100℃〜約280℃の範囲の第1の温度まで加熱することと;このトップコートを、約285℃〜約380℃の範囲の第2の温度まで加熱し、フューザー部材の上に均一なトップコートを作成することとを含む、フューザー部材を製造する方法が提供される。
【0009】
一実施形態によれば、基材とトップコート層とを備え、トップコート層が、フローコーティングされたフルオロ樹脂を含み、表面エネルギーが約25mN/m以下であるような、フューザー部材と;前記フューザー部材のトップコート層とともに接触爪を形成し、この接触爪を通る印刷媒体の上でトナー画像を融合するような構成の加圧部材とを備える、フューザー装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】図1Aは、本教示の種々の実施形態にかかる、本明細書に開示されている例示的な不織布を含む例示的なフューザーロールを示す。
【図1B】図1Bは、本教示の種々の実施形態にかかる、本明細書に開示されている例示的な不織布を含む例示的なフューザーロールを示す。
【図2A】図2Aは、本教示の種々の実施形態にかかる、図1A〜1Bのフューザーロールを備える例示的なフュージング装置を示す。
【図2B】図2Bは、本教示の種々の実施形態にかかる、図1A〜1Bのフューザーロールを備える例示的なフュージング装置を示す。
【図3A】図3Aは、本教示の種々の実施形態にかかる、本明細書に開示されている例示的な不織布を含む例示的なフューザーベルトを示す。
【図3B】図3Bは、本教示の種々の実施形態にかかる、本明細書に開示されている例示的な不織布を含む例示的なフューザーベルトを示す。
【図4A】図4Aは、本教示の種々の実施形態にかかる、図3A〜3Bのフューザーベルトを備える例示的なフュージング装置を示す。
【図4B】図4Bは、本教示の種々の実施形態にかかる、図3A〜3Bのフューザーベルトを備える例示的なフュージング装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
例示的な実施形態は、電子写真式印刷デバイスで用いられるフューザー部材およびフュージング装置を製造する材料および方法を提供する。フューザー部材は、フローコーティング法によって塗布され、融合プロセスに適した望ましい表面特性を与えるフルオロ樹脂(本明細書では、「フローコーティング可能なフルオロ樹脂」とも呼ぶ)を含むトップコートを備えていてもよい。本明細書に開示されているように、用語「フローコーティング可能な」は、当該技術分野で既知のフローコーティング法によって塗布し、滑らかで均一なコーティングを達成することが可能な材料を指す。
【0012】
フローコーティング可能なフルオロ樹脂に使用する例示的な材料としては、フルオロプラスチックおよびフッ素化ポリエーテルのようなフルオロ樹脂を挙げることができる。いくつかの実施形態では、フルオロ樹脂の特定の例としては、限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー樹脂(PFA)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ペルフルオロプロピルビニルエーテル)、フッ素化エチレンプロピレンコポリマー(FEP)、他の同様のフルオロ樹脂、およびこれらの組み合わせが挙げられる。非限定的な市販のフルオロ樹脂としては、TEFLON(登録商標)PFA(ポリフルオロアルコキシポリテトラフルオロエチレン)、TEFLON(登録商標)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、またはTEFLON(登録商標)FEP(フッ素化エチレンプロピレンコポリマー)が挙げられ、これらはE.I.DuPont de Nemours、Inc.(ウィルミントン、DE)から入手可能である。TEFLON(登録商標)という名称は、E.I.DuPont de Nemours,Inc.の商標である。
【0013】
本明細書に開示されているように、フルオロ樹脂は、犠牲ポリマーバインダーとともに溶液中で溶解または分散させ、分散物を作成することができる。一局面では、分散物は、溶液中でフルオロ樹脂を安定化させる犠牲ポリマーバインダーを含む。犠牲ポリマーバインダーの非限定的で例示的な材料としては、ポリ(アルキレンカーボネート)、例えば、ポリ(プロピレンカーボネート)、ポリ(エチレンカーボネート)、ポリ(ブチレンカーボネート)、ポリ(シクロヘキセンカーボネート)など、およびこれらの組み合わせを挙げることができる。一実施形態では、犠牲ポリマーバインダーは、重量平均分子量が、約50,000〜約500,000、例えば、約75,000〜約400,000、例えば、約100,000〜約200,000の範囲であってもよい。一局面では、犠牲ポリマーバインダーは、ポリ(アルキレンカーボネート)であってもよい。非限定的な市販の犠牲ポリマーバインダー材料としては、分解温度が約250℃のポリ(プロピレンカーボネート)、例えば、Empower Materials(ニューキャッスル、DE)から入手可能な、二酸化炭素と1つ以上のエポキシドとの共重合によって製造されるものが挙げられる。犠牲ポリマーバインダーの重要な特徴は、最終的なトップコートから除去される能力であり、任意の残渣が、最終的なトップコートに対して不活性なままでなければならない。言い換えると、犠牲ポリマーバインダーは、分解した後でさえ、トップコートの最終的な特性に影響を与えてはならない。犠牲ポリマーバインダーは、フルオロ樹脂の融点より低い温度で分解するように選択されるべきである。高温(例えば、>320℃)で分解するバインダー(例えば、ポリビニルブチラール(PVB)およびアクリルポリマー)は、本発明にとって望ましくない。一実施形態では、犠牲ポリマーバインダーは、ポリ(プロピレンカーボネート)などであってもよく、分解して水と二酸化炭素になる。
【0014】
フルオロ樹脂は、分散物中に、犠牲ポリマーバインダーとともに、分散物の合計重量を基準として、約20〜約60%、例えば、約25〜約50%、例えば、約30〜約40%の範囲の量で存在していてもよい。犠牲ポリマーバインダーは、分散物中に、分散物の全固形分を基準として、約1〜約30%、例えば、約2〜約20%、例えば、約5〜約10%の範囲の量で存在してもよい。全固形分は、当該技術分野で知られている任意の方法によって計算することができる。例えば、Determination of Total Solids in Resin Solutions、McKinneyら、Ind.Eng.Chem.Anal.Ed.、1946、18(1)、pp14−16を参照。分散物は、粘度が約50cP〜約1,000cPの範囲であってもよい。
【0015】
理論によって束縛されないが、犠牲ポリマーバインダーは、分散物中でフローコーティング可能なフルオロ樹脂を安定化することができ、その結果、分散物をフローコーティング方法によって基材に均一にコーティングし、なめらかで均一なトップコート層を作成することができると考えられる。言い換えると、適切な分子量と、溶媒媒体中での粘度を有する犠牲ポリマーバインダーによって、フローコーティング法を用いて塗布することができるような安定性および適切なレオロジーを有する分散剤を提供することができる。フルオロエラストマー(例えば、典型的には溶媒に可溶性のVitonエラストマー)とは異なり、フルオロプラスチック(例えば、上述のPFAフルオロ樹脂)は、典型的には不溶性であり、フローコーティング法で使用するのは困難である。この様式で、犠牲ポリマーバインダーによって、フローコーティング可能なフルオロ樹脂を分散物に安定に懸濁させやすくすることができる。次いで、分散物を、フローコーティング法を用いて塗布することができる。
【0016】
次いで、フローコーティングの後、犠牲ポリマーバインダーの融点よりも高い温度で加熱することによって、犠牲ポリマーバインダーを除去することができる(例えば、分解、エバポレーション、焼き切るなどによって)。そのため、犠牲ポリマーバインダーは、最終的なPFAトップコートから除去され、したがって、トップコートの最終的な特性に影響を与えない。
【0017】
この様式で、これ以外の方法では溶液または分散物で安定化させることが困難なフルオロ樹脂をフローコーティング法に用い、フューザートップコートを作成してもよい。一実施形態では、フューザー部材は、基材、基材の上のシリコーン層、シリコーン層の上のPFAトップコート層をフローコーティングすることによって、1回の製造プロセスで製造することができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、分散物は、少なくとも1つの溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、水性溶媒および/または有機溶媒、または溶媒混合物であってもよい。例示的な有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、メトキシエチルエーテル、塩化メチレンなど、およびこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、溶媒は、メチルエチルケトン(MEK)、またはMEKとシクロヘキサノンの混合物である。
【0019】
いくつかの実施形態では、分散物は、添加剤材料をさらに含んでいてもよく、添加剤材料としては、限定されないが、シリカ、クレイ、金属酸化物、ナノ粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどが挙げられる。
【0020】
いくつかの実施形態では、分散物は、界面活性剤をさらに含んでいてもよい。界面活性剤は、メタクリレート系フルオロ界面活性剤であってもよい。この種の界面活性剤は、米国特許第7,462,395号に記載されており、この開示内容は、全体的に本明細書に参考として組み込まれる。メタクリレート系フルオロ界面活性剤の市販例としては、限定されないが、東亞合成化学工業から入手可能なGF300および/またはGF400(ポリ(フルオロアクリレート)−グラフト−ポリ(メタクリル酸メチル)など、およびこれらの組み合わせが挙げられる。界面活性剤は、分散物中に、フルオロ樹脂粒子の合計重量を基準として、約0.1wt%〜約5wt%、例えば、約0.5〜約3wt%、例えば、約1〜約3XX wt%の範囲の量で存在してもよい。理論によって束縛されないが、界面活性剤は、フルオロ樹脂、任意のフッ素化フィラーを分散物に均一に分散し、不均一なフルオロ樹脂の凝集を避けることができる。したがって、分散物は、基材の上に簡単かつ均一にコーティングすることができ、コーティングの欠陥(例えば、「バーバーポール」)が最低限になるか、無くなる。
【0021】
分散物を、フローコーティング法を用いて塗布してもよい。一実施形態では、分散物を基材の上にフローコーティングしてもよい。別の実施形態では、分散物を、一度にすべてを行う製造様式で、基材の上にシリコーン層とともにフローコーティングしてもよい。開示した分散物を基材の上にフローコーティングした後、コーティングされた基材を、次いで、第1の温度まで、または犠牲ポリマーバインダーの融点より高い温度で、フルオロ樹脂の融点よりも低い温度に加熱し、次いで、フルオロ樹脂の融点以上の第2の温度まで加熱してもよい。例えば、コーティングされた基材を、約100℃〜約280℃、例えば、約150℃〜約270℃、例えば、約200℃〜約250℃の範囲の第1の温度まで加熱してもよい。理論によって束縛されないが、第1の温度まで加熱すると、トップコート層から犠牲ポリマーバインダーを(例えば、分解、エバポレーション、焼き切るなどによって)除去することができると考えられる。しかし、不完全な除去によって、トップコート層に痕跡量のバインダーが残ることがある。一局面では、第1の温度まで加熱した後、犠牲バインダーは、トップコート層中に、トップコート組成物の合計重量に対し、約0重量%〜約5重量%、例えば、約0.1〜約3wt%、例えば、約0.5〜約1wt%の量で存在してもよい。
【0022】
コーティングされた基材を、約285℃〜約380℃、例えば、約300℃〜約360℃、例えば、約310℃〜約350℃の範囲の第2の温度まで加熱してもよい。第2の温度まで加熱すると、フルオロ樹脂が溶融し、連続コーティング(すなわち、トップコート層)を作成することができる。
【0023】
トップコート層は、望ましい表面エネルギーを有していてもよく、例えば、約25mN/m以下、例えば、表面エネルギーが、約25mN/m〜約1mN/m、または約22mN/m〜約5mN/m、または約20mN/m〜約10mN/mであってもよい。この低い表面エネルギーによって、例えば、電子写真式印刷デバイスのフューザー部材の表面剥離性能を制御することができる。
【0024】
トップコート層は、望ましい機械特性を有していてもよい。例えば、トップコート層は、引張強度が約500psi〜約5,000psi、または約1,000psi〜約4,000psi、または約1,500psi〜約3,500psiであってもよく、伸長度%が、約20%〜約1000%、または約50%〜約500%、または約100%〜約400%であってもよく、靱性が、約500in.−lbs./in.〜約10,000in.−lbs./in.、または約1,000in.−lbs./in.〜約5,000in.−lbs./in.、または約2,000in.−lbs./in.〜約4,000in.−lbs./in.であってもよく、初期弾性率が、約100psi〜約2,000psi、または約500psi〜約1,500psi、または約800psi〜約1,000psiであってもよい。
【0025】
トップコート層は、約0.01mm/s〜約0.5mm/s、または約0.05mm/s〜約0.25mm/s、または約0.1mm/s〜約0.15mm/sの範囲の望ましい熱拡散率を有していてもよく、約0.01W/mK〜約1.0W/mK、または約0.1W/mK〜約0.75W/mK、または約0.25W/mK〜約0.5W/mKの範囲の望ましい平均熱伝導性を有していてもよい。
【0026】
いくつかの実施形態では、トップコート層は、任意の適切な電子写真式部材およびデバイスで使用することができる。例えば、トップコート層を、電子写真式デバイスの印刷部材(限定されないが、フューザー部材、加圧部材および/またはドナー部材)に使用してもよい。トップコート層は、薄くてもよく、厚みが約50nm〜約3μm、または約100nm〜約3μm、または約500nm〜約2μmであってもよい。
【0027】
プリンター部材は、例えば、ロール、ドラム、円筒形、または図1A〜1Bおよび図2A〜2Bに示されるようなロール部材の形態であってもよい。いくつかの実施形態では、プリンター部材は、ベルト、ドレルト、平板、シート、または図3A〜3Bおよび図4A〜4Bに示されるようなベルト部材の形態であってもよい。
【0028】
図1A〜1Bを参照すると、フューザー部材100A〜Bは、基材110と、基材110の上に作られたトップコート層120とを備えていてもよい。トップコート層120は、例えば、本明細書に記載のフローコーティング可能なフルオロ樹脂を含んでいてもよい。
【0029】
いくつかの実施形態では、基材110は、円筒管の形(例えば、内部に加熱ランプを備える中空構造を有するもの、または中身が詰まった円筒状のシャフト)をした円筒形基材であってもよい。基材110は、限定されないが、金属、ポリマー(例えば、プラスチック)および/またはセラミックを含む材料から作ることができる。例えば、金属としては、アルミニウム、陽極酸化アルミニウム、鋼、ニッケルおよび/または銅が挙げられる。プラスチックとしては、例えば、ポリイミド、ポリエステル、ポリケトン、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエーテルイミド、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリフェニレンスルフィド、フルオロポリイミドおよび/またはフルオロポリウレタンが挙げられる。
【0030】
トップコート層120は、図1Aに例示的に示されているように、基材110の上に直接作成されていてもよい。種々の実施形態では、1つ以上のさらなる機能性層は、部材の用途によっては、トップコート層120と基材110の間に形成されていてもよい。例えば、部材100Bは、柔軟層/弾性層130(例えば、シリコーンゴム層)がトップコート層120と基材110の間に配置されている2層構造であってもよい。別の例では、例示的なフューザー部材は、例えば、弾性層130と基材110の間、または弾性層130とトップコート層120の間に形成された接着層(示していない)を備えていてもよい。
【0031】
本明細書に開示されるように、例示的なフューザー部材100A〜Bを従来のフュージングシステムで使用し、フュージング性能を高めることができる。図2A〜2Bは、図1A〜1Bの開示されている部材100Aまたは100Bを用いた例示的なフュージング装置200A〜Bを示す。
【0032】
例示的なフュージング装置200A〜Bは、適切な基材110(例えば、任意の適切な金属から加工される中空の円筒形)の上にトップコート層120を備える例示的なフューザー部材100A/Bを備えていてもよい。フューザー部材200A/Bは、基材110の中空部分に配置された、円筒形と同延の適切な加熱要素210がさらに組み込まれていてもよい。バックアップ(または加圧)ロール230(図2Aを参照)またはバックアップ(または加圧)ベルト250(図2Bを参照)をフューザー部材200A/Bと協働させ、接触爪Nを形成してもよく、この接触爪Nを介し、印刷媒体212(例えば、コピー紙または他の印刷基材)が通過し、印刷媒体212の上のトナー画像214が、融合プロセス中にトップコート層120と接する。機械的な要素235は、協働して加圧ベルト218を動かす1個以上のロールを備えていてもよい。融合プロセスは、約60℃(140°F)〜約300℃(572°F)、または約93℃(200°F)〜約232℃(450°F)、または約160℃(320°F)〜約232℃(450°F)の範囲の温度で行ってもよい。融合プロセスの後、印刷媒体212が接触爪Nを介して通過した後、融合したトナー画像216が、印刷媒体212の上に作られてもよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、フューザー部材は、図3A〜3Bに示されるように、ベルト基材310の上にトップコート層320が作られたフューザーベルトであってもよい。他の実施形態では、層330(例えば、柔軟/弾性層または接着層)は、トップコート層320と基材310との間に配置されていてもよい。本明細書で記載されるように、トップコート層320は、本明細書に開示されているフローコーティング可能なフルオロ樹脂を含んでいてもよい。
【0034】
図1A〜1Bに示されるフューザーロール100A〜Bと比較すると、フューザーベルト300A〜Bは、ベルト基材310を有していてもよい。ベルト基材310は、当業者に既知の任意の適切なベルト基材であってもよい。例えば、ベルト基材310は、高い屈曲強度および高い屈曲弾性率を示すことが可能な高温プラスチックを含んでいてもよい。または、ベルト基材310は、膜、シートなどを含んでいてもよく、厚みが、25μm〜約250μmの範囲であってもよい。ベルト基材310としては、例えば、ポリイミド、ポリエステル、ポリケトン(例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK))、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエーテルイミド、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリフェニレンスルフィド、フルオロポリイミドおよび/またはフルオロポリウレタンが挙げられる。
【0035】
図4A〜4Bは、本教示の種々の実施形態にかかる、図3A〜3Bのフューザーベルトを用いた例示的なフュージング装置400A〜Bを示す。装置400A/Bは、例えば、図4Aの加圧ロール430または図2Bの加圧ベルト445とともに接触爪を形成するフューザーベルト300A/Bを含んでいてもよい。次いで、固定されていないトナー画像(示されていない)を有する印刷媒体420は、接触爪Nを介して通過し、印刷媒体420の上にある、固定されていないトナー画像を融合させてもよい。いくつかの実施形態では、加圧ロール430または加圧ベルト445を、加熱ランプと組み合わせて用い、印刷媒体420の上にあるトナー画像を融合させるために圧力および熱を加えてもよい。それに加え、装置400A/Bは、フューザーベルト300A/Bを動かし、トナー画像を融合させ、印刷媒体420の上に画像を作成する機械的な要素410を備えていてもよい。機械的な要素410は、1個以上のロール410a〜cを備えていてもよく、これらのロールは、必要な場合には加熱ロールとして用いられてもよい。
【0036】
一局面では、本明細書には、基材を提供することと;少なくとも1つのフルオロ樹脂、少なくとも1つの犠牲ポリマーバインダー、少なくとも1つの溶媒を含む分散物を提供することと;フローコーティングによって前記分散物を前記基材に塗布し、トップコートを作成することと;このトップコートを、約100℃〜約280℃の範囲の第1の温度まで加熱することと;このトップコートを、約285℃〜約380℃の範囲の第2の温度まで加熱することとを含む、フューザー部材を製造する方法が開示されている。
【0037】
別の局面では、フューザー部材を備えるフューザー装置が開示されている。フューザー部材は、基材とトップコート層とを備え、トップコート層は、フローコーティングされたフルオロ樹脂を含み、表面エネルギーが25mN/m以下である。フューザー装置は、さらに、フューザー部材のトップコート層とともに接触爪を形成し、この接触爪を通る印刷媒体の上でトナー画像を融合するような構成の加圧部材を備えていてもよい。
【0038】
広範囲の開示内容を設定する数値範囲およびパラメーターは、概算値であるが、特定の実施例で記載される数値範囲は、できる限り正確に報告している。しかし、いかなる数値も、それぞれの試験による測定値にみられる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含んでいる。さらに、本明細書に開示されているすべての範囲は、その範囲の任意の部分範囲およびすべての部分範囲を包含すると理解されるべきである。
【実施例】
【0039】
(比較例1)
約40重量%のPFA粉末(MP320、E.I.du Pont de Nemours,Inc.から入手可能)をメチルエチルケトン(MEK)溶媒に分散させ、複数回音波処理し、PFA分散物を作成した。PFA分散物を、フローコーティングによって、透明プライマーを有するシリコーンロール(Olympia roll)に塗布した。このロールを250℃で30分間焼き、次いで、さらに350℃で8分間焼き、PFAトップコートを備えるフューザーロールを作成した。トップコートは、厚みが約20〜30μmであり、平らではなく、不均一であることが観察された。フローコーティングによって、(理論によって束縛されることを意図しないが)溶媒が蒸発するにつれて、ロール表面をPFA粒子が移動し、トップコート中に平らではなく、不均一なPFA片が生じると考えられるため、PFA分散物を含む完全なフィルムを製造することはできなかった。したがって、引張強度、靱性、熱拡散率などのPFAトップコートの特性を決定することはできなかった。
【0040】
(本発明の実施例1)
約40重量%のPFA粉末(MP320、E.I.du Pont de Nemours,Inc.から入手可能)をMEK溶媒に分散させ、複数回音波処理し、PFA分散物を作成した。このPFA分散物に、約20重量%の分子量が265,000g/molポリ(プロピレンカーボネート)(PPC)(QPAC(登録商標)40、Empower Materialsから入手可能)を含む別個のMEK溶液を加え、10重量%のポリ(プロピレンカーボネート)を含む安定なコーティング分散物を作成した。安定なコーティング分散物を、フローコーティングによって、透明プライマーを有するシリコーンロール(Olympia roll)に塗布した。このロールを250℃で30分間焼いてポリ(プロピレンカーボネート)を除去し、次いで、さらに350℃で8分間焼いてPFAを溶融させ、PFAトップコートを備えるフューザーロールを作成した。トップコートは、厚みが約50μmであり、なめらかで平らであることが観察された。このトップコートは、表面エネルギーが約19〜21mN/mであった。
【0041】
Instron(登録商標)3367で、ASTM D638プロトコルにしたがう本発明の実施例1(硬化させた後にロールから剥がした)の機械試験は、以下の表1に示されるように、従来のスプレーコーティングしたPFA膜と非常によく似た引張特性を示した。
【表1】

【0042】
表1から示されるように、本発明の実施例1のフューザートップコート(PFA分散物を用い、フローコーティング法によって作成した)は、従来のスプレーコーティングしたトップコートの機械評価と同様に行った。さらに、本発明の実施例1をフローコーティングによって塗布し、このプロセスは、スプレーコーティングに関連する有害な副次的影響(例えば、空気中を浮遊する毒性のある霧状PFA粒子および噴霧飛沫による目減り)を引き起こさず、もっと効率的な計量コーティングプロセスを与える。また、本発明の実施例1は、既存の製造ラインを利用することによって費用対効果の高い製造プロセスを与え、それによって、スプレーコーティング法と比較して、製造資本費用が低くなる。
【0043】
(本発明の実施例2)
約40重量%のPFA粉末(MP320)をMEK溶媒に分散させ、複数回音波処理し、PFA分散物を作成した。次いで、このPFA分散物に、約1重量%のGF300界面活性剤(東亞合成株式会社)を加えた。このPFA分散物に、約20重量%のPPC(QPAC(登録商標)40)を含む別個のMEK溶液を加え、約5重量%のPPCを含む安定なコーティング分散物を作成した。安定なコーティング分散物中、PFAの凝集は最小であることが観察された。安定なコーティング分散物を、フローコーティングによって、透明プライマーを有するシリコーンロール(Olympia roll)に塗布した。このロールを160℃で30分間焼き、次いで、さらに350℃で12分間焼いてPFAを溶融させ、PFAトップコートを備えるフューザーロールを作成した。このトップコートは、厚みが≧30μmであり、欠陥がないことが観察された。このトップコートは、表面エネルギーが約19〜21mN/mであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を提供することと;
少なくとも1つのフルオロ樹脂、少なくとも1つの犠牲ポリマーバインダー、少なくとも1つの溶媒を含む分散物を提供することと;
フローコーティングによって前記分散物を前記基材に塗布し、トップコートを作成することと;
このトップコートを、約100℃〜約280℃の範囲の第1の温度まで加熱することと;
このトップコートを、約285℃〜約380℃の範囲の第2の温度まで加熱し、フューザー部材の上に均一なトップコートを作成することとを含む、フューザー部材を製造する方法。
【請求項2】
前記フルオロ樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー樹脂(PFA)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ペルフルオロプロピルビニルエーテル)、フッ素化エチレンプロピレンコポリマー(FEP)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記犠牲ポリマーバインダーが、ポリ(プロピレンカーボネート)、ポリ(エチレンカーボネート)、ポリ(ブチレンカーボネート)、ポリ(シクロヘキセンカーボネート)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるポリ(アルキレンカーボネート)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリ(アルキレンカーボネート)が、約50,000〜約500,000の範囲の重量平均分子量を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記分散物が、約50cP〜約1000cPの粘度範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記分散物が、シリカ、クレイ、金属酸化物、ナノ粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される添加剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記分散物が、メタクリレート系フルオロ界面活性剤を、フルオロ樹脂粒子の合計重量を基準として約0.1wt%〜約5wt%の範囲の量でさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記犠牲ポリマーバインダーが、分散物中に、分散物の全固形分を基準として約1〜約30%の範囲の量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
基材とトップコート層とを備え、トップコート層が、フローコーティングされたフルオロ樹脂を含み、表面エネルギーが約25mN/m以下であるような、フューザー部材と;
前記フューザー部材のトップコート層とともに接触爪を形成し、この接触爪を通る印刷媒体の上でトナー画像を融合するような構成の加圧部材とを備える、フュージング装置。
【請求項10】
前記フローコーティングされたフルオロ樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー樹脂(PFA)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ペルフルオロプロピルビニルエーテル)、フッ素化エチレンプロピレンコポリマー(FEP)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項9に記載のフュージング装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2013−20255(P2013−20255A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−155277(P2012−155277)
【出願日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】