説明

フローセル、フローセルの製造方法及び粒子測定装置

【課題】 高圧状態の試料を測定装置に導入することができるフローセルを提供する。
【解決手段】 流路2の断面形状のコーナ部3がR加工されたフローセル1を備え、このフローセル1に形成される流路2に高圧状態の測定試料を流し、この測定試料中に存在する粒子を測定する。測定試料は、1MPa以上の液体状態、気体状態又は超臨界状態である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧状態の試料を測定装置に導入するためのフローセルと、このフローセルの製造方法及びこのフローセルを用いた粒子測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの生産プロセスに使用される材料ガスや機械駆動・ジェットガン用のコンプレッサエアなどには、高圧流体が使用されている。高圧流体には、液体状態・気体状態・超臨界状態がある。中でも半導体などの電子デバイスの生産プロセスに使用される高圧流体では、流体に含有する小さな粒子の管理が要求される。現状では、市販の微粒子測定器で0.7MPaの圧力まで計測可能である。高圧ガスの場合では、レギュレータで圧力を0.7MPaまで下げて測定している。粒径の大きなものでは、コンプレッサエアなどでも粒子の管理がされているが、この場合は大気圧に下げて測定している。濃度計や組成分析装置においても、高圧状態のまま試料を測定することができず、圧力を下げて測定をしている。
【0003】
従来の粒子検出装置に用いられているフローセルとしては、図7に示すように、4枚の光学的に透明な矩形状平板100,…103を溶着により張り合わせて流路104を形成した角筒状のフローセル105が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3530078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の粒子検出装置においては、石英やサファイアなどのフローセルを用いて、液体中や反応性ガス中の粒子を浮遊状態で計測する別の手段が既存するが、フローセルの耐圧限界などにより、実用化されている試料圧力は0.7MPaが限界である。
【0006】
また、1MPaまでの高圧の気体(空気/不活性ガス)中の浮遊粒子測定手段の一つとして、フローセルを用いずに、ノズルを経由して耐高圧チャンバー(粒子検出領域)内に試料を導入する方法があるが、この方法では試料とチャンバー内既存の媒体(通常は空気)が混合するため、液体や反応性ガス、超臨界状態中の粒子測定には原理的に応用できず、ノズルを用いた複雑な機構構造になり1MPa以上の耐圧性能を得ることも困難である。
【0007】
また、レギュレータで圧力を落として粒子を測定する方法では、レギュレータによる発塵などの擾乱が発生する。また、液体状態や超臨界状態については、圧力を下げるとその状態が維持できない事もあり、圧力を維持して粒子を測定する必要がある。
【0008】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高圧状態の試料を測定装置に導入することができるフローセルと、このフローセルの製造方法及びこのフローセルを用いた粒子測定装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、高圧状態の測定試料が流れる流路を形成するフローセルであって、前記流路の断面形状のコーナ部(角部)がR加工されているものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、高圧状態の測定試料が流れる流路を形成するフローセルであって、前記流路の断面形状が、円形状、略円形状又はコーナ部(角部)がR加工された形状であると共に、流路方向の長さが流路口径の最大値の10倍以上である。
【0011】
請求項3に係る発明は、流路の断面形状が、円形状、略円形状又はコーナ部(角部)がR加工された形状であるフローセルの製造方法であって、透明材料のブロックの一面に、断面が半円形状、略半円形状又はコーナ部をR加工した形状の溝を設ける溝加工工程と、この溝加工工程で溝を設けた2つのブロックを接合して前記流路を形成する接合工程を備えた。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1又は2記載のフローセル若しくは請求項3記載の製造方法で製造したフローセルを備え、このフローセルに形成される流路に高圧状態の測定試料を流し、この測定試料中に浮遊する粒子を測定することを特徴とする粒子測定装置である。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項4記載の粒子測定装置において、前記測定試料が、1MPa以上の液体状態、気体状態又は超臨界状態である。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項4又は5記載の粒子測定装置において、前記測定試料の主成分が、二酸化炭素である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、流路の断面形状のコーナ部(角部)をR加工することで、従来角部に集中していた応力が分散されるので、測定対象試料が高圧であってもフローセルは破断しない。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、測定対象試料が高圧であってもフローセルは破断せず、しかも流路が長いので、例えば粒子測定装置に適用した場合、流路内で層流状態を作りやすくなる。また流路が長いとレーザ光源を配置しやすくなるので、粒子検出装置への組み込みが容易となる。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、溝を設けた透明材料のブロック同士を接合させる製造方法なので、流路の長さに関係なく溝加工の仕上げ精度を維持することができる。
【0018】
請求項4に係る発明によれば、高圧流体に含有する粒子を、高圧状態を維持したまま測定することができる。また、圧力変化によって測定試料の状態が変化しても流体中に浮遊する粒子を測定することができる。
【0019】
請求項5に係る発明によれば、1MPa以上の液体状態、気体状態又は超臨界状態である高圧流体に含有する粒子を測定することができる。
【0020】
請求項6に係る発明によれば、主成分が二酸化炭素である高圧流体に含有する粒子を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係るフローセルの第1実施の形態の斜視図、図2は同じく製造方法の説明図、図3は本発明に係るフローセルの第2実施の形態の斜視図、図4は同じく製造方法の説明図、図5は本発明に係る粒子測定装置の構成図、図6はフローセルと金属配管の接合部の断面図である。
【0022】
第1実施の形態のフローセル1は、図1に示すように、流路2の断面形状が略四角形で、その四隅のコーナ部(角部)3がR加工されている。
フローセル1の製造方法は、図2に示すように、先ず透明な材料である石英のブロック5の最も大きな面5aに、断面形状が四角形で、その2つのコーナ部(角部)3をR加工(例えば、R0.1)した形状の溝6を設ける(溝加工工程)。次いで、溝6の壁面及び面5aを光学研磨して所望の精度に仕上げる(研磨工程)。このような溝6を設けたブロック5を2個作製する。ここで、直方体であるブロック5のサイズは、例えば10mm×5mm×30mmで、溝6の幅は0.5mm、深さは0.25mmである。
【0023】
次いで、溝6を設けた2個のブロック5を、面5a及び溝6を対向させ、溝6の幅を一致させて互いの面5aを溶着により接合して流路2を形成する(接合工程)。すると、所望の径の流路2を有するフローセル1が完成する。なお、ブロック5としては、石英の他、サファイアなどの透明材料を用いてもよい。サファイアの場合には、密着させながら融点より低い温度で加熱することで接合させる。
【0024】
また、接合工程の後に、接合したブロック5,5に熱を加えて長手方向(流路方向)に延ばし、所望の径の流路2を形成する工程(延ばし工程)をいれることができる。この延ばし工程をいれることで、より細い径の流路を容易に形成することが可能となり、さらに量産による原価低減の効果がある。延ばし加工により面の表面精度の劣化や脈理がおこるものの検出感度の許容範囲内である場合には十分に効果がある。
【0025】
第2実施の形態のフローセル11は、図3に示すように、流路12の断面形状が円形に加工されている。
フローセル11の製造方法は、図4に示すように、先ず透明な材料である石英のブロック15の最も大きな面15aに、断面が半円形状の溝16を設ける(溝加工工程)。次いで、溝16の壁面及び面15aを光学研磨して所望の精度に仕上げる(研磨工程)。このような溝16を設けたブロック15を2個作製する。ここで、直方体であるブロック15のサイズは、例えば10mm×5mm×30mmで、溝16のサイズは、断面が半径0.25mmの半円である。
【0026】
次いで、溝16を設けた2個のブロック15を、面15a及び溝16を対向させ、溝16の幅を一致させて互いの面15aを溶着により接合して流路12を形成する(接合工程)。すると、所望の径の流路12を有するフローセル11が完成する。なお、ブロック15としては、石英の他、サファイアなどの透明材料を用いてもよい。サファイアの場合には、密着させながら融点より低い温度で加熱することで接合させる。第1実施の形態と同様に接合工程の後に、延ばし工程を入れることができる。
【0027】
このようなフローセル1を用いた本発明に係る粒子測定装置20は、図5に示すように、光を用いて試料中の粒子を検出する粒子検出部21と、粒子を粒径区分毎に捉える波高分析部22と、粒径区分ごとに粒子数をカウントするカウンタ部23と、カウンタ部23の処理結果を出力する出力部24からなる。
【0028】
粒子検出部21は、フローセル1などにより形成される測定試料を流す流路2と、流路2にレーザ光Laを照射して粒子検出領域を形成する光源27と、粒子検出領域を通過する粒子が発する散乱光Lsを集光する集光レンズ28と、集光レンズ28が集光した光を光の強さに応じた電圧に変換する光電変換器29などを備えている。なお、8は流路2に測定試料を導く金属配管である。
【0029】
波高分析部22は、粒子検出部21の出力信号を受けて、所定レベル以上の信号をそのレベルに相当する粒径の粒子として粒径区分に従って各チャンネルにパルスを出力する。カウンタ部23は、波高分析部22の出力信号を受け、粒径区分に対応するパルスをカウントする。
【0030】
また、図6に示すように、フローセル1に形成される流路2に測定試料を導く金属配管8とフローセル1との接合部には、ゴム製のOリング9が配設されている。金属配管8の接合面8aとフローセル1の接合面1aは、互いに平行になるように形成され、Oリング9は均等な力で所定の潰し量まで変形させている。これにより、十分な耐圧とリーク防止が実現される。なお、10は測定試料に含有する粒子である。流路2の断面形状が略四角形のフローセル1の替わりに流路12の断面形状が円形のフローセル11を用いることもできる。
【0031】
以上のように構成した本発明に係る粒子測定装置20の動作について説明する。測定試料の主成分は、超臨界状態の二酸化炭素である。
【0032】
先ず、粒子測定装置20の流路2に圧力が約20MPa、温度が35℃で超臨界状態となった二酸化炭素を主成分とする測定試料を超臨界状態のまま流入する。測定試料は流路2に従ってフローセル1へ流れ込む。光源27から照射されたレーザ光Laは、フローセル1を構成する石英ブロックを通過して流路2に達し、測定試料内に浮遊する粒子にあたって散乱する。この粒子によって散乱した散乱光Lsは集光レンズ28で集光され光電変換器29に達する。光電変換器29では光の強さに応じた電圧を出力する。
【0033】
次いで、波高分析器22は、粒子検出部21の出力を受けて、粒径区分に従って各チャンネルにパルス状の信号を出力する。カウンタ部23が波高分析部22の出力信号を受け、選択された粒径区分に対応するパルス信号を計数し、結果を出力部24に出力する。
【0034】
本装置20は、測定試料の圧力に応じた状態変化に対応し、気体状態であっても、液体状態であっても、超臨界状態であっても測定試料に含有する粒子を計測することが可能である。本発明の実施の形態では、測定試料の主成分が、超臨界状態の二酸化炭素を用いているが、これに限らず、約1MPaから30MPaの圧力範囲にある高圧状態のガスや液体であってもそこに浮遊する粒子の計測を可能とする。第1の実施例に記載したフローセルついては、実際に30MPa(50℃)の水で耐圧試験し、フローセルは破断せず、流路から漏れのないことを確認した。
【0035】
以上、特許請求の範囲に記載した発明の実施の形態について具体的に説明してきたが、本発明はこれらの実施の形態で説明したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、上記では粒子測定に特化した測定装置に本発明を適用することついて説明したが、これは一例にすぎず、これ以外にも例えば、組成分析装置、濃度計、濁度計など流体の性質を測定する装置全般に、本発明を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る粒子測定装置によれば、高圧流体に含有する粒子を、高圧状態を維持したまま浮遊状態で測定することができ、また圧力変化によって測定試料の状態が変化しても流体に含有する粒子を測定することができるので、粒子測定装置としての適用範囲の拡大が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るフローセルの第1実施の形態の斜視図
【図2】本発明に係るフローセルの第1実施の形態の製造方法の説明図
【図3】本発明に係るフローセルの第2実施の形態の斜視図
【図4】本発明に係るフローセルの第2実施の形態の製造方法の説明図
【図5】本発明に係る粒子測定装置の構成図
【図6】フローセルと金属配管の接合部の断面図
【図7】従来のフローセルの製造方法の説明図
【符号の説明】
【0038】
1,11…フローセル、2,12…流路、3…コーナ部(角部)、5,15…ブロック、5a,15a…面、6,16…溝、8…金属配管、20…粒子測定装置、21…粒子検出部、22…波高分析部、23…カウンタ部、24…出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧状態の測定試料が流れる流路を形成するフローセルであって、前記流路の断面形状のコーナ部がR加工されていることを特徴とするフローセル。
【請求項2】
高圧状態の測定試料が流れる流路を形成するフローセルであって、前記流路の断面形状が、円形状、略円形状又はコーナ部がR加工された形状であると共に、流路方向の長さが流路口径の最大値の10倍以上であることを特徴とするフローセル。
【請求項3】
流路の断面形状が、円形状、略円形状又はコーナ部がR加工された形状であるフローセルの製造方法であって、透明材料のブロックの一面に、断面が半円形状、略半円形状又はコーナ部をR加工した形状の溝を設ける溝加工工程と、この溝加工工程で溝を設けた2つのブロックを接合して前記流路を形成する接合工程を備えたことを特徴とするフローセルの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のフローセル若しくは請求項3記載の製造方法で製造したフローセルを備え、このフローセルに形成される流路に高圧状態の測定試料を流し、この測定試料中に浮遊する粒子を測定することを特徴とする粒子測定装置。
【請求項5】
前記測定試料が、1MPa以上の液体状態、気体状態又は超臨界状態である請求項4記載の粒子測定装置。
【請求項6】
前記測定試料の主成分が、二酸化炭素である請求項4又は5記載の粒子測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−224342(P2008−224342A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61267(P2007−61267)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000115636)リオン株式会社 (128)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(591124363)鈴木商工株式会社 (2)
【Fターム(参考)】