説明

ブプレノルフィンまたは薬理学上同等物質の口腔における投与及び放出用の平らな製剤、並びにその製造方法

【課題】ブプレノルフィンの新規投与方法並びにその為の製剤の製造方法の提供。
【解決手段】水性媒質中において分解可能で、平らなフォイル状、紙状、又はオブラート状の、口腔内での作用物質投与及び放出用の固体製剤。前記製剤が、ブプレノルフィン、ブプレノルフィンに対し薬理学上同等の作用物質、又は治療上適したブプレノルフィンの塩、或いは薬理学上同等の作用物質を含有し、更に当該製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔部又は口腔粘膜部にブプレノルフィン(buprenorphine)または薬理学上同等の作用物質を投与するための製剤に関するものである。特に、平らな形状に形成されたフォイル状、紙状、又は、オブラート(ウエハー(Wafer))状の投与形状の製剤に関するものである。
【発明の概要】
【0002】
平らな作用物質担体は、様々な目的のため既に開発及び製造されている。ドイツ特許出願公開(DE-OS)第2746414号明細書は、この投与形状の基礎とみなすことができる。前記文献には、作用物質、結合剤、及び更なる作用物質のフォイル状テープ剤が記載されており、均一の厚さ、濃度、及び幅を有するため、前記テープ剤の単位長さとその含有作用物質の投薬量の間には直接的関係が存在する。連続投薬特性の長所は、その他の出願人によっても認識されており、明確に独自の形態が記載されている。このように、ドイツ特許公報(DE-PS)第3630603号明細書は、平らな形状の担体物質、例えば、分離層の形状であり、作用物質含有コーティングを有し、後者は、前もって投薬単位に分割された後に前記担体物質から投薬量ごとに剥離可能であることをクレームしている。
【0003】
一般に平らな形状の実用性、及び前記投与形状の製造上及びそのような投与形状を採用した場合の投与上得られる利点は、先行技術において認識されている。
【0004】
更に、そのような投与形状の重量に対し、比較的広い表面を前記投与形状上にプリントでき、摂取上の安全性向上を可能にし、同時にいかなる液体をも利用することなく不連続的摂取を可能にするといった、前記投与形状の更なる利点をも引き出せる。
【0005】
これらの明確な利点にもかかわらず、このような平らな投与形状はこれまで殆ど成功していない。多くの製薬製造業者にとって、従来の投与形状に比較して前記利点が、通常の作用物質を含有するこの種の製品を開発すること、及びその法的薬剤認可を得る努力をすることに匹敵する十分なものでないことは明らかである。更に、既存の製造機械及び既存のノウハウは、これらの新規製品に利用できない。これは、多大な投資が必要となることを意味する。平らなフィルム状又は紙状投与形状の上述した利点にもかかわらず、経口投与も可能である一般的作用物質の投与における治療上及び/又は経済上の利点は、これらの投与形状に切り替える費用を正当化するほど従来の錠剤と比較して十分大きな利点でないのは明らかである。
【0006】
経口投与には殆ど適さない物質の一つに、ブプレノルフィンがあり、長年痛みの治療に効果的に使用されてきたオピエートである。経口投与後は、ほとんど生物有効的なものでなくなる、つまり摂取量の数パーセントという非常にわずかな程度しか循環血流中に見られない(マッケイ アンド ムーア(McQuay & Moore)、ブプレノルフィン、コワン アンド ルイス(Cowan & Lewis)編集、ニューヨーク1995年)。おそらく、生物有効性欠如の理由は、胃腸吸収に続く初回肝臓通過の際に、物質が大量分解されることによるものである(初回通過効果)。経口投与において、初回通過効果を避ける上での可能性としては、作用物質を口腔粘膜上ですでに吸収させることである。中枢体循環に入る上で、口腔粘膜を経て血液中に入る作用物質は、門脈系、延いては前記作用物質を新陳代謝させる肝臓を濃縮状で初回通過する必要がない。しかしながら、必要投薬量を考慮し、口腔又は舌下投与において、口腔粘膜が作用物質に対し十分な透過性を有することが前提条件となる。更に透過性は、かなりな程度まで作用物質の生理化学的性質に左右される。ブプレノルフィンは、非常にわずかな投薬量で効果的であり、且つ、必要とされる生理化学的特質を有するため、口腔又は舌下投与は非常に魅力的なものである。
【0007】
事実、注射可能な投与形状は別として、少なくともドイツでは、経口投与形状のものは市販されておらず、いわゆる舌下錠剤があるだけで、ブプレノルフィンを含むものである(テムゲシック(Temgesic)(登録商標)サブリンガル(sublingual))。このような錠剤が、例え、中でも、服用説明書により舌下投与を示しているだけであり、錠剤そのものにより示しているのではないとしても、作用物質の舌下投与が経口投与よりも好ましいといった事実を考慮していることは事実である。しかしながら、錠剤は、この投与目的に対し重大な欠点を有する賦形剤を使用している。これらの不利な点としては、第一に、僅かとは言えない分解時間が挙げられ、プレス加工した錠剤(pressed tablets)の場合好ましい条件下においてさえ少なくとも数分かかり、市販の錠剤においては一般に約5〜10分かかる。痛烈な、急性の痛みに苦しんでいる患者にとって、この分解時間は、作用開始を遅らせる望ましくないものである。しかしながら、補充療法又は禁断療法においては、投与に必要な時間に関して、治療者に重い負担をかけることになる。なぜならば、治療者は、その錠剤が指示通り使用されているかどうか監視しなければならず、また分解されなかった錠剤の口内からの不適切な除去を防がなければならないからである。錠剤の更なる不利な点は、分解時間中に生じる異物感のみならず、舌下吸収の程度における大きな変動が挙げられ、これは、大部分口腔粘膜と直接接触はしないが唾液中に放出される錠剤の分解中又は分解後の作用物質に起因するものであるが、唾液は飲み込まれるまで非常に多様な時間の間、幾分無計画的に口腔内に保留される。
【0008】
従って、本発明の目的は、平らなフィルム状又は紙状の作用物質担体を基礎として、その一般的利点を有する製剤を造ることであり、前記作用物質担体は、特殊な作用物質との組み合わせにより、錠剤のような従来の投与形状を基礎とした同一作用物質の薬剤に対し、上述したものとは別に、更なる経済上及び/又は治療上の利点を有するものである。更に、前記従来技術において説明した不利な点を持たない一方で、口腔内において作用物質を放出するブプレノルフィン用の投与形状を提供することも同様に本発明の目的である。
【0009】
前記目的は、クレームの特性に従って、平らなフォイル状、紙状、又はオブラート(ウエハー(Wafer))状の作用物質担体を基礎とする投与形状を提供することにより達成される。
【0010】
その投与形状では、作用物質としてブプレノルフィン、又は治療上許容されるその塩の一つ、或いは治療上同等の作用物質を含有する。以下説明するように、クレーム1に係る投与形状は、ブプレノルフィン投与のための従来の投与形状に比べ、経済上及び治療上の相方の観点から遥かに優れたものであり、一方では、痛みの激しい症状における鎮痛剤用に、そして他方では、補充療法又は禁断プログラムにおいて、オピエート又はコカイン嗜癖の治療用に特に適している。
【0011】
クレーム1に係る製剤は、投与に際して、口腔粘膜と直接接触させることができる。平らなデザインにより、投与後即座に投与形状の表面の約半分、いずれにしても広い表面が粘膜上に直接位置する。このようにして放出されたブプレノルフィンが、体内に入る上で特に好ましい二つの要素が見受けられる。即ち、短い拡散経路と広い拡散面積である。これにより、飲み込まれるブプレノルフィンの量を減らすことができる。これは、他の多くの作用剤においては特に問題ではなかった。しかしながら、ブプレノルフィンを用いる場合、その作用物質を飲み込むことはできれば避けるべきであり、又は減らすべきである。なぜならば、上記理由から、飲み込まれたブプレノルフィンは効力を持たないからである。従って、本発明に係る最も簡単な実施形態においてさえ、投与後又は水性媒質への導入後数分の分解時間が与えられた場合、ブプレノルフィン含有錠剤に対し、ブプレノルフィン含有フィルムが優れていることが明白となる。
【0012】
口腔粘膜と製剤の接触は、補助剤の選択により向上させることができる。製薬学において一般に使用されるいくつかの経口的に投与可能な補助剤は、粘膜付着特性を有することが知られている。そのような粘膜付着性物質の例としては、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、トラガント、海藻酸、ゼラチン、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、及びアラビアゴムが挙げられる。更に、様々な非粘膜付着性物質は、一定の混合比で粘膜付着特性を発現させることも知られている。そのような混合物の例としては、84:16の割合のグリセリンモノオレアートと水がある(エングストロームら(Engstroem et al.)ファーム.テク.オイロ.(Pharm.Tech.Eur.)7[1995]、No.2、14〜17頁)。
【0013】
粘膜付着性補助剤が使用される場合、本発明に係る製剤の投与形状は、二層又は多層構造を有することが好ましい。それにより、製剤が粘膜の様々な部分に互いに膠着し、投与中の非常に不快な感覚を引き起こすことを防ぐことができる。
【0014】
更には、そのような場合、前記投与形状は、その非粘膜付着性層が、作用物質に対し粘膜付着性層よりも比較的小さい透過性を持つ構造を有することが好ましい。それにより、作用物質が粘膜に放出される代わりに唾液中に放出されることによる作用物質の損失が起らないようにすることが可能となる。
【0015】
本発明に係る製剤はまた、作用物質ブプレノルフィン又はその薬理学上同等の作用物質とは別に、一つ以上の更なる作用物質を含有するものでもある。そのような製剤は、幾つかの点において有益なものである。一方では、一薬剤中に一定の作用物質を組合せたものを投与することが、同時に起る幾つかの症状又は病気を治療するための公認の方法となっている。これを目的として、本発明に係る製剤にあらゆる治療上適切な作用物質を組み入れることが可能である。他方では、本発明におけるような、オピエート投与の特定のリスクを減らすことのできるオピエート作用物質と他の物質の組合せが特に有効であり有益である。従って、部分的であったとしても、例えば、ナルブフィン、ナロキソン又はナルトレキソンのようなオピエートきっ抗剤をオピエート作用物質と組み合わせることができ、その結果、きっ抗効果を同時に高めること無く投薬量を増やすことはできないことから、その製剤の反復投与に伴う嗜癖又は習慣性のリスクを減らすことができる。この方法の成功は、適したきっ抗剤の選択及びその投薬量比の選択に左右されるものである。
【0016】
ブプレノルフィンは、オプションとして治療上許容可能なその塩の一形状で、最も好ましい作用物質であるが、本発明は、ブプレノルフィンに薬理学上類似又は同等の作用物質にも関連するものである。というのも、ここに説明する本発明の利点は、程度は様々ではあるが、これらの場合においても適用されるからである。「薬理学上類似又は同等」であるとしてここに記載されている、更に適した作用物質は、特に、オピエート又はオピオイドに属する物質である。なぜならば、多くのこれらの物質は、ブプレノルフィンに対し、薬力学上のみならず薬物速度論上の類似性、つまり比較的低投薬量、皮膜を浸透する高容量、および高初回通過効果を示すからである。特に好ましいものは、モルフィン誘導体又はジヒドロモルフィン誘導体、並びにメタドン及びフェンタニールグループからの物質である。
【0017】
あらゆる不適切な投与又は用途に合わない投与を促進しないようにするため、本発明に係る製剤は、一般的に投薬量に前もって分割され、適切な包みでお互いに分離された状態にあり、それによって投薬単位を取り出す場合、ブリスターパックの場合のように、一度に一単位しか取り出すことができず、各投薬単位は深絞りカップ(a deep-drawn cup)に個々に密封されている。しかしながら、オピエート又はコカイン嗜癖の治療プログラムにおいて、例えば、前記製剤が分割されていないシート状又はテープ状の材料であり、投与目的によって投薬単位をそこから分離できるような包装単位の形状の製剤を、診療を行う医師に提供することも有益である。これにより、大量投与を容易にし、その製剤を投与する医師が、一つの同一材料から特定の投与必要量に従って様々な投薬単位を分離できるようにすることができる。
【0018】
本発明に係る製剤は、周知の製剤に比べて生物学的利用能の向上を示すことが期待されるが、恐らく投薬量の調整を必要とするであろう。ブプレノルフィンの場合、個々の鎮痛剤投薬量は、およそ0.1〜1mgである。しかしながら、嗜癖又は補充療法においては、この値はかなり高くなりうる。
【0019】
本発明によると、前記製剤の製造は幾つかの工程において行われる。最終的に個々の投薬量又は全体包装単位に切断又は穴開けにより分離されることになる、ウエブ状(web-shaped)出発材料を作製するために、二つの異なった基本工程が適当である。第一の工程グループは、テープ、又は加工シート或いはフォイルを、より高い粘着性を有する部分となる水性又は溶媒含有液で均等にコーティングし、その後乾燥工程が続くといった工程を含む。これを目的として、まず、コーティング用団塊(a coating mass)を作製するが、その為にはフィルム形成可能な少なくとも一水溶性ポリマー、作用物質、及び適切な気化可能液体が密に混合されていなければならない。必要であれば、分解変性ポリマー(disintegration-modifying polymers)、軟化剤、賦形剤、テクスチャ付与物質(texture-providing substances)、ピグメント、色素、味矯正薬、溶解補助剤、pH調整物質、平滑剤(smoothing agents)、鈍化剤(dulling agents)、分解促進剤等のような更なる補助物質を組み入れることが可能である。その代わりとして、ウエブ状の出発材料を、熱可塑形成により、つまり液体の助けをかりることなく作っても良い。適した工程としては、中でも、あらゆるホットメルトコーティング法及びあらゆる押出し加工法がある。この場合前提条件として、フィルム形成の可能なポリマー又はポリマー混合物は、熱可塑的に形成可能なものでなければならない。必要な成分を混合し、加圧及び/又は加熱の下、押出し、吹き込み、又はテープ、シート或いはフォイルのコーティングにより形成され、凝固後更なる加工のため搬送される。多層構造を有する本発明に係る製剤の製造には、相応に改良された方法が適しており、幾つかのウエブ状材料が同時又は後に製造され組み合わされるかは無関係である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒質中において分解可能で、平らなフォイル状、紙状、又はオブラート状の投与形状を有し、口腔内での作用物質投与及び放出用の固体製剤であって、ブプレノルフィン、ブプレノルフィンに対し薬理学上同等の作用物質、又は治療上適したブプレノルフィンの塩、或いは薬理学上同等の作用物質を含有することを特徴とする固体製剤。
【請求項2】
粘着性促進補助剤又は補助剤混合物の添加により生体付着又は粘膜付着特性を備えていることを特徴とする請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
多層からなり、少なくとも一層が生体付着又は粘膜付着特性を有することを特徴とする請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記生体付着性又は粘膜付着性層と比較して、非生体付着性又は非粘膜付着性層が前記作用物質に対して低い透過性を有することを特徴とする請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
更に少なくとも一つの作用物質を含有することを特徴とする前記請求項の一以上に記載の製剤。
【請求項6】
オピエートに対する嗜癖を防ぐ、緩和する、又は遅延させる上で適した更なる作用物質が含まれていることを特徴とする請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
更なる作用物質が、少なくとも部分的にオピエートきっ抗作用をすることを特徴とする請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
ナルブフィン、ナロキソン又はナルトレキソンを含有することを特徴とする請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
未分割のシート状又はテープ状材料であり、そこから投与目的によって投薬単位を分離できることを特徴とする前記請求項の一以上に記載の製剤。
【請求項10】
投薬量に前もって分割されていることを特徴とする前記請求項の一以上に記載の製剤。
【請求項11】
投薬単位毎に、鎮痛に適した量の作用物質を含有することを特徴とする前記請求項の一以上に記載の製剤。
【請求項12】
投薬単位毎に、オピエート又はコカイン補充療法に適した量の作用物質を含有することを特徴とする前記請求項の一以上に記載の製剤。
【請求項13】
前記請求項の一以上に記載の製剤の製造方法であって、 第一工程において、前記作用物質をフィルム形成の可能な水溶性ポリマーと共に、オプションとして更なる溶解又は懸濁補助剤の存在のもとで、適切な親水性溶剤に溶解し、 第二工程において、前記溶液又は懸濁液を、連続工程において均一な厚さで、テープ又は加工シート又はフォイルに塗付し、 第三工程において、前記溶剤を大部分除去することによってシート状、又はテープ状の出発材料を形成し、その出発材料から、 第四工程において、投薬単位又は複数投薬単位に切断又は穴開けによって分離することを特徴とする製造方法。
【請求項14】
前記請求項の一以上に記載の製剤の製造方法であって、第一工程において、前記作用物質をフィルム形成の可能な水溶性熱可塑性ポリマーと共に、加熱及び/加圧の下、オプションとして更なる補助剤の存在のもとで、シート状又はテープ状の出発材料に形成し、その出発材料から、投薬単位又は複数投薬単位に切断又は穴開けによって分離することを特徴とする製造方法。
【請求項15】
同時又は後に作製される複数のシート状又はテープ状出発材料が、多層材料を形成するように組み合わされ、次に投薬単位又は複数投薬単位に分離することを特徴とする請求項13又は14に記載の製剤の製造方法。

【公開番号】特開2009−242415(P2009−242415A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144244(P2009−144244)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【分割の表示】特願平10−527223の分割
【原出願日】平成9年11月14日(1997.11.14)
【出願人】(397036170)エルティエス ローマン テラピー−ズュステーメ アーゲー (6)
【Fターム(参考)】