説明

ブラシ用毛材、その製造方法およびブラシ

【課題】従来のブラシ用毛材に比べて、表面に大きく起伏した表面凹凸を持ち清掃性に優れ、被洗浄物質に付着した汚れを効率よく落とすことができると共に、研磨粒子が含まれていないため磨耗や毛折れが発生しにくく耐久性にも優れるという両機能を兼ね備えたブラシ用毛材およびこの毛材を使用したブラシの提供。
【解決手段】合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなるブラシ用毛材であって、その表面に深さの平均値が5〜50μmの範囲にある表面凹凸20を50〜10000個/mm有することを特徴とするブラシ用毛材およびこの毛材を使用したブラシ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛材の表面に大きな起伏に富んだ表面凹凸が多数存在し、清掃性および耐久性に優れたブラシ用毛材、その製造方法並びにその毛材を使用したブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からブラシ用毛材には、安価で容易に加工できることから合成樹脂モノフィラメントが使用されている。
【0003】
特に近年では、ブラシに様々な機能が要求されてきており、ブラシに使用される毛材にも様々な形態や機能を持つものが提案されている。
【0004】
例えば、先端部をテーパー加工した歯ブラシ用毛材(例えば、特許文献1参照)は、毛先が歯間に入りやすいために狭い部分の歯垢を落としやすく、また触感性にも優れているために歯茎へのマッサージ効果が得られるなど、従来の歯ブラシ用毛材にはない特異的な機能を発揮するものであった。
【0005】
しかし、先端部をテーパー加工したブラシ用毛材は、毛先が柔らかいために被洗浄体表面の汚れを掻き落とす力が十分ではなかった。
【0006】
また、ブラシによる被洗浄体表面の汚れの除去は、毛先だけではなくブラシ毛材の側面と洗浄体表面との接触によってなされていることから、毛先だけでなくブラシ用毛材の側面に特徴を持たせたブラシ用毛材がこれまでにも様々提案されている。
【0007】
ブラシ用毛材の側面に特徴を持つものとしては、例えば、汚れの除去効果を目的に毛材表面に微粒子を固着したブラシ用繊維体(例えば、特許文献2参照)が知られている。しかし、このブラシ用繊維体は、その表面に微粒子が固着して凹凸状になっているために汚れを除去する能力が高いものの、繰り返し使用していくうちに微粒子が脱落してゆき、汚れを除去する能力が低下してゆくばかりか、脱落した微粒子が被洗浄体表面を傷つけるなどの問題を抱えていた。
【0008】
また、毛先の一端をテーパー加工した毛材であって、この毛材は2層以上の多層構造を有し、多層構造のいずれかの層に研磨粒子を混練してテーパー部またはストレート部の表面に微細の凸部を形成したテーパー用毛(例えば、特許文献3参照)、研磨材を樹脂に練り込んだブラシ材(例えば、特許文献4参照)や、磨き材を含んだ歯ブラシ用のフィラメント(例えば、特許文献5参照)ついても知られているが、これらの毛材は研磨粒子などが毛材内部に練り込まれているために毛材の強度が低く、ブラシとして使用した場合は、繰り返し摩擦や屈曲を受けて磨耗したり毛折れしたりする場合が多かった。
【0009】
そのため、研磨粒子などを添加する方法においては、ブラシ毛材の耐久性を維持するために、研磨粒子などの大きさやその添加量に制限があり、耐久性を維持しつつ、清掃性の高いブラシ用毛材を造ることは極めて難しかった。
【0010】
さらに、研磨粒子を添加せずに毛材の表面に表面凹凸を形成する方法としては、常温水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーを芯成分、その他熱可塑性ポリマーを鞘成分とする複合繊維を常温水に浸漬し、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーを溶解・除去して得られた中空繊維や、多孔性または表面凹凸を有する複合繊維(例えば、特許文献6参照)、テトラフルオロエチレン系重合体からなり、溶融紡糸時に意図的にメルトフラクチャーを発生させて表面に微小な表面凹凸を形成させたブラシ用毛材(例えば、特許文献7参照)が知られている。
【0011】
しかし、これらの毛材は研磨粒子を含んでいないために磨耗や毛折れなどの問題が起こりにくいものの、表面に形成される表面凹凸の大きさが精々数μmと極めて小さいため、清掃性能にはそれほどの改善効果が認められないものであった。
【0012】
このように、表面に大きく起伏した表面凹凸を持ち清掃性に優れると共に、磨耗や毛折れが発生しにくく耐久性にも優れるという両機能を兼ね備えたブラシ用毛材を製造することは、これまでの技術では困難であったため、その実現が求められていた。
【特許文献1】特許第3145213号公報
【特許文献2】特開2002−129477号公報
【特許文献3】特開2005−310号公報
【特許文献4】特開平11−216016号公報
【特許文献5】特表平10−513083号公報
【特許文献6】特開2006−2337号公報
【特許文献7】特開2006−112008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものある。すなわち、本発明は、ブラシに使用した場合に、従来のブラシ用毛材に比べて、毛材の表面に大きな起伏に富んだ表面凹凸が多数存在しているために清掃性に優れると共に、研磨粒子が含まれていないために磨耗や毛折れが発生しにくく、耐久性にも優れたブラシ用毛材およびこの毛材を使用したブラシの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明によれば、合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなるブラシ用毛材であって、その表面に深さの平均値が5〜50μmの範囲にある表面凹凸を50〜10000個/mm有することを特徴とするブラシ用毛材が提供される。
【0015】
なお、本発明のブラシ用毛材においては、合成樹脂がポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂およびフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも一種であること、およびカットブリッスルの片端または両端にテーパーが形成されていることが、いずれも好ましい条件として挙げられ、これらの条件を満たすことによりさらに優れた効果を取得することができる。
【0016】
また、本発明のブラシ用毛材の製造方法は、水溶性ポリマーおよび/またはアルカリ易溶性ポリマーからなる合成樹脂と有機化合物および/または無機化合物からなる硬質粒子との混合物を鞘成分とし、且つ鞘成分とは異なる合成樹脂を芯成分として、これらを複合型溶融紡糸機に供給し、鞘部の厚さが前記硬質粒子の平均粒径の1.0倍〜3.0倍になるように複合口金から共押出し、その後冷却固化および加熱延伸することにより芯鞘複合モノフィラメントを製糸し、次いでこの芯鞘複合モノフィラメントを水、温水またはアルカリ溶液に接触させて鞘部を除去した後、残りの芯部を合成樹脂モノフィラメントとしてカットブリッスルに加工することを特徴とし、この場合には、鞘成分中に硬質粒子が10〜70重量%含有されていること、および鞘成分中の硬質粒子の平均粒径が10〜120μmであることが、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0017】
さらに、本発明のブラシは、上記のブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、特に上記毛材を歯ブラシに使用した場合は、清掃性と耐久性に優れた歯ブラシが得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば下記に説明するとおり、従来のものに比べて、表面に大きく起伏した表面凹凸を持ち清掃性に優れ、被洗浄物質に付着した汚れを効率よく落とすことができると共に、研磨粒子が含まれていないため磨耗や毛折れが発生しにくく耐久性にも優れるという両機能を兼ね備えたブラシ用毛材およびブラシを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0020】
図1は本発明のブラシ用毛材の一例を示した拡大模式図であり、10はブラシ用毛材、20はブラシ毛材10の表面に形成された表面凹凸をそれぞれ示している。
【0021】
また、図2の(a)〜(c)は、本発明のブラシ用毛材10となる合成樹脂モノフィラメント15が形成されていく過程を示した概略図である。
【0022】
さらに詳しく説明すると、図2(a)は、本発明のブラシ用毛材10となる合成樹脂モノフィラメントを溶融紡糸するに際し、溶融紡糸機から共押出しされた合成樹脂および混合物の状態を示した模式図であり、11は樹脂溶融物、12は硬質粒子、13は鞘成分、14は芯成分、30は複合口金、31は複合口金30の口金孔をそれぞれ示している。
【0023】
また、図2(b)は、図2(a)で共押出しされた樹脂溶融物11をさらに冷却固化および加熱延伸して製糸された芯鞘複合モノフィラメントの模式図であり、12は硬質粒子、15は芯鞘複合モノフィラメント、16は芯部、17は鞘部をそれぞれ示している。
【0024】
さらに、図2(c)は、図2(b)で得られた芯鞘複合モノフィラメント15の硬質粒子12および鞘部17を除去した後の状態を示した模式図であり、16は芯部、18は合成樹脂モノフィラメント、20は表面凹凸をそれぞれ示している。
【0025】
本発明のブラシ用毛材10は、図1に示すように、合成樹脂モノフィラメント18のカットブリッスルからなり、この合成樹脂モノフィラメント18には研磨粒子が含まれておらず、その表面に深さの平均値が5〜50μmの範囲にある表面凹凸20を50〜10000個/mm有することを特徴とするものである。
【0026】
すなわち、本発明のブラシ用毛材10は、その表面に大きな起伏に富んだ表面凹凸20が多数存在し、この表面凹凸20は従来のように研磨粒子を添加することによって形成される表面凹凸とは全く異なるものである。
【0027】
これは、研磨粒子を添加することによる摩耗や毛折れなどの耐久性の低下を防ぐために必要な条件である。
【0028】
上述した通り、従来のように研磨粒子を添加する方法は、ブラシ用毛材の耐久性低下の原因となるために、添加する研磨粒子の大きさには制限があった。つまり、研磨粒子の粒径を大きくすると、ブラシ用毛材の表面凹凸が大きくなり清掃性効果が高くなるが、ブラシ用毛材中に占める研磨粒子の体積が大きくなるため、摩耗や毛折れが発生しやすくなっていたのである。
【0029】
しかし、逆に研磨粒子の大きさを小さくすると、摩耗や毛折れの発生を抑えることができるが、ブラシ毛材の表面凹凸が小さくなるために清掃性効果が低くなる。
【0030】
この様に、研磨粒子を添加してブラシ用毛材に表面凹凸を形成させる方法は、耐久性と清掃性との間で二律背反の問題が生じるため、従来の技術では、2つの特性を満足する高性能のブラシ用毛材を得ることが難しかったのである。
【0031】
また、本発明のブラシ用毛材10の表面に存在する表面凹凸20は、深さの平均値が5〜50μm、さらに好ましくは10〜30μmの範囲にあり、これら表面凹凸20の個数が50〜10000個/mm、さらに好ましくは100〜8000個/mmの範囲にあることが必要である。
【0032】
この理由は、表面凹凸20の深さの平均値が上記範囲を下まわったり、その個数が上記範囲を下まわったりする場合は、清掃性に欠けたブラシ用毛材が得られやすく、逆に、表面凹凸20の深さの平均値が上記範囲を上まわったり、その個数が上記範囲を上まわったりする場合は、耐久性に欠けたブラシ用毛材が得られやすくなるからである。
【0033】
ここで、本発明のブラシ用毛材10の構成素材、すなわち芯成分14は、溶融紡糸可能な合成樹脂であれば特に限定はされないが、例えば、ポリカプラミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンセバカミド(以下、ナイロン610と言う)、ポリヘキサメチレンドデカミド、ナイロン46、ナイロンMDX6、ナイロン11、ナイロン12、ポリ(カプラミド/ヘキサメチレンアジパミド)共重合体およびポリ(カプラミド/ラウラミド)共重合体などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと言う)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと言う)、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート(以下、PTTと言う)、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと言う)ポリフッ化ビニリデン、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、PFAと言う)、テトラフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・フッ化ビニリデン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロライド・テトラフルオロエチレン共重合体、フルオロビニルエーテルなどのフッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などから1種類または2種類以上を適宜選択して使用することができる。
【0034】
中でも強伸度、収縮率および屈曲回復性などの各種物性を均衡に兼ね備えたブラシ用毛材が得られやすいことから、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂およびフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも一種、特に、ナイロン610、PET、PBT、PTT、PPSおよびPFAから選ばれた少なくとも一種の使用が好ましい。
【0035】
また、後に説明するアルカリ溶液を使用した減量加工法を利用することにより、ブラシ用毛材10の片端または両端にテーパーを容易に形成させることができることから、本発明のブラシ用毛材10の構成素材にはポリエステル系樹脂、特にPBTが好ましい。
【0036】
なお、本発明のブラシ用毛材10の構成素材にポリエステル系樹脂を使用する場合には、そのポリエステル系樹脂に、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびジオール成分を共重合成分として含有させることもできる。
【0037】
また、本発明のブラシ用毛材10を構成する芯成分には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その目的に応じて、各種無機微粒子、各種金属微粒子および架橋高分子粒子などの粒子類のほか、公知の抗酸化剤、耐光剤、耐侯剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤および各種強化繊維類などを適宜任意に添加することも可能である。
【0038】
一方、本発明のブラシ用毛材10の構成素材、すなわち鞘成分13の構成素材は、後に説明するように、水、温水またはアルカリ溶液などを使用して鞘成分13を硬質粒子12とともに容易に除去することができる素材であることが必要であり、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリリンゴ酸、ポリビニルアルコール(以下、PVAと言う)、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチレエーテル、ポリエーテルなどと言った水溶性ポリマー、PET、PBT、PTTなどのポリエステル系樹脂またはポリエステル成分にイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−2−オキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、セバチン酸、アジピン酸、修酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ポリアルキレングリコールなどの成分を共重合させたポリエステル系共重合体、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート−アジペート、ポリカプロラクトン、ポリ−L−乳酸(以下、PLLAと言う)、ポリ−D−乳酸などと言ったアルカリ易溶性のポリマーを挙げることができる。
【0039】
さらに、芯鞘複合モノフィラメント15の鞘部17に含まれる硬質粒子12は、溶融紡糸するに際して溶融したり、分解または粉砕したりしない有機化合物または無機化合物の粒状物であれば特に限定はされず、例えば、メラミン樹脂粒子、シリカ粒子、セラミック粒子、鉄、銅、銀、アルミニウム、ニッケルなどの金属粒子、ガラス粒子、磁鉄鉱粒子、石英粒子、白雲母粒子、黄鉄鉱粒子、岩塩粒子、方解石粒子、酸化アルミナ粒子、炭化ケイ素粒子、ダイヤモンド粒子などを挙げることができる。
【0040】
なお、使用する硬質粒子12の大きさは、芯部16の表面に形成する表面凹凸20の大きさに応じて適宜選ぶことができるため、特に限定はされないが、溶融紡糸する際の鞘成分13の流動性等を考慮し、10〜120μmが好ましく、さらには10〜80μmがより好ましい。
【0041】
なお、上記鞘成分13は、いずれにしても溶解除去される成分であるから、水溶性ポリマーおよび/またはアルカリ易溶性ポリマー、および硬質粒子としてはなるべく安価でかつ入手し易いものを使用することが経済的に有利であり、この点からは特に、水溶性ポリマーおよび/またはアルカリ易溶性ポリマーとしてPVAを、また硬質粒子としてセラミック粒子、ガラス粒子を使用するのが好ましい。
【0042】
ここで、本発明のブラシ用毛材10は、上記合成樹脂モノフィラメント18のカットブリッスルからなるものであるが、さらにこのカットブリッスルの片端または両端にテーパーを形成させると、毛先が狭い隙間や微小な窪みに入り易く、より一層清掃効果の高いブラシ用毛材が得られることから特に好ましい。
【0043】
また、合成樹脂モノフィラメント18の断面形状については特に限定はなく、使用するブラシの種類に応じて適宜選ぶことができ、例えば、丸形、三角形、四角形、五角形などといった多角形、三葉形、五葉形、八葉形などといった多葉形、楕円形、トラック形などといった扁平形、星形、鉄アレー形、単位形状を複数連結した形状などを挙げることができる。
【0044】
次に、本発明のブラシ用毛材10の製造方法について説明する。
【0045】
本発明のブラシ用毛材10は、上述した通り、まず芯鞘複合モノフィラメント15を溶融紡糸および製糸した後、鞘部17を硬質粒子12と共に除去し、残りの芯部16を合成樹脂モノフィラメント18としてカットブリッスルに加工することを特徴とする。その詳細については次の通りである。
【0046】
まず、水溶性ポリマーおよび/またはアルカリ易溶性ポリマーからなる合成樹脂と有機化合物および/または無機化合物からなる硬質粒子12との混合物を鞘成分13とし、且つ鞘成分とは異なる合成樹脂を芯成分14として、これらを複合型溶融紡糸機に供給し、図2の(a)に示すように、鞘成分13と芯成分14とからなる樹脂溶融物11を複合口金30の口金孔31から押し出す。
【0047】
この際には、製糸後の芯鞘複合モノフィラメント15の鞘部17の厚さが硬質粒子12の平均粒径の1.0〜3.0倍となるように鞘成分13を押出すことが重要であり、もし鞘部17の厚さが上記範囲を下まわる場合は、鞘成分13の流動性が悪くなって鞘部17が芯部16の周りに上手く形成されにくくなり、逆に上記範囲を上まわる場合は、硬質粒子12が芯部16に上手く減り込むことが難しくなって、芯部16の表面に適度な大きさと数の表面凹凸20を形成することが困難となる。
【0048】
また、芯成分13中の硬質粒子12の含有量は10〜70重量%であることが好ましく、さらには15〜50重量%であることが好ましい。この理由は、硬質粒子12の含有量が上記範囲を下まわる場合は、芯部16の表面に適度な大きさと数の表面凹凸20を形成することが困難となり、逆に上記範囲を上まわる場合は、鞘成分13の流動性が悪くなり、芯部16の周りに鞘部17が上手く形成されにくくなるからである。
【0049】
次に、押し出された樹脂溶融物11は冷却槽で冷却固化された後、さらに加熱延伸されて芯鞘複合モノフィラメント15となる。
【0050】
その後、得られた芯鞘複合モノフィラメント15は、水、温水またはアルカリ溶液と接触させて鞘部17を硬質粒子12とともに除去し、芯部16のみを残す。
【0051】
なお、鞘成分13に水溶性ポリマーを使用した場合は、冷却固化および加熱延伸において、冷却媒体および加熱媒体に水または温水を使用することにより、冷却固化および加熱延伸しながら予め鞘部17の一部または全てを除去することも可能である。
【0052】
そして残った芯部16は合成樹脂モノフィラメント18として使用され、さらにカットブリッスルに加工される。
【0053】
さらに、このカットブリッスルをアルカリ溶液などの溶液に浸漬して先端部分を化学的に処理することにより、カットブリッスルの片端または両端にテーパーを形成させることも可能である。
【0054】
さらにまた、本発明のブラシ用毛材10には、例えば、銀イオンを担持させたリン酸塩系、ゼオライト系、ヒドロキシアパタイト系抗菌剤のほか、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、リン酸亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、酢酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、クエン酸亜鉛、フマル産亜鉛、ギ酸亜鉛などの亜鉛化合物、ベンゼトニウム、ベンザルコニウム、セチルピリジウム、クロルヘキシジンなどのカチオン系抗菌剤、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートなどの茶カテキン、アナターゼ型またはルチル型二酸化チタンなどの光触媒を付着および/または含有せしめて抗菌効果を付与することもできる。
【0055】
こうして得られたカットブリッスルは、ブラシ用毛材10として基材の少なくとも一部に植毛される。そして、本発明のブラシ用毛材10は、研磨粒子が含まれておらず、且つ毛材の表面が粗くて起伏に富んでいるために、従来の研磨粒子を含むブラシ用毛材に比べて耐久性が高く、清掃性に優れたブラシを得ることができる。
【0056】
特に本発明のブラシ用毛材10を歯ブラシとして使用した場合には、耐久性および清掃性に優れた歯ブラシを得ることができ、さらにはボディブラシ、クリーニングブラシ、その他に洗浄工程で使用される各種工業用ブラシとして使用した場合にも同様の効果を遺憾なく発揮することができる。
【0057】
また、本発明のブラシ用毛材10の表面にある表面凹凸20は、清掃性効果だけではなく、粉体化粧料や液体化粧料を保持する機能も有することから、各種化粧ブラシとして使用することも可能である。
【実施例】
【0058】
以下、本発明のブラシ用毛材について、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明のブラシ用毛材はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
なお、実施例および比較例におけるブラシ用毛材の各物性およびブラシの実用評価については以下の通り行った。
【0060】
また、ブラシの実用評価では、植毛域9mm×22mmのABS製の基台に34箇所の植毛孔を開け、1穴に20本のブラシ用毛材を毛丈が10mmとなるように植毛したブラシを使用した。
【0061】
[表面凹凸の個数および深さの測定]
長さ1cmの合成樹脂モノフィラメントの全側面を、(株)KEYENCE社製 表面形状測定顕微鏡 VF−7500を使用してスキャニングし、表面凹凸の個数とその深さ(μm)を測定した。なお、表面個数は合成樹脂モノフィラメントの単位表面積当たりの個数(個/mm)に換算し、表面凹凸の深さの平均値は算出平均して求めた。
【0062】
[耐摩耗性]
表面に高さ2mm、波長3mmの波形を有するステンレス板にブラシを押し当て、37℃の温水を滴下しながらブラシを摺動運動させ、摺動運動後のブラシ用毛材の長さ(mm)を測定し、摺動運動前のブラシ用毛材の長さに対する摩耗残存率(%)で耐摩耗性を評価した。
【0063】
なお、ブラシのステンレス板への押し当て荷重は500g、ブラシの摺動回数は20000回で行い、摩耗残存率(%)は摺動運動前のブラシ用毛材の長さをA(mm)、摺動運動後のブラシ用毛材の長さをB(mm)とした場合の式B/A×100で表した。
【0064】
[耐毛折れ性]
上記の耐摩耗性評価において、摺動運動後のブラシ用毛材の状態を次の基準に従って評価した。
A:毛折れ本数0〜5本
B:毛折れ本数6〜15本
C:毛折れ本数16本以上
【0065】
[清掃性]
10mm立方のアクリル板の表面に歯垢染色液(プラークチェック液)を均一に付着させた後、ブラシでアクリル板表面をブラッシングし、歯垢染色液が完全に取り除かれるまでの時間を測定した。
【0066】
なお、ブラシのアクリル板への押し当て荷重は350g、ブラッシングの振幅長は30mm、振幅速度は180往復/分で行った。
【0067】
〔実施例1〕
芯成分にPBT樹脂(東レ(株)製 1200S)を、鞘成分に平均粒径40μmのガラス粒子30重量%とPVA樹脂(クラレ(株)製 エクセバールCP7000)70重量%との混合物を使用し、これらを複合紡糸機に供給して溶融混連した後、複合口金から共押し出した。
【0068】
その後、押し出された樹脂溶融物を冷却固化した後、引き続き温水浴中および乾熱浴中で加熱延伸し、さらに加熱弛緩処理を施して芯鞘複合モノフィラメント製糸した。なお、このとき得られた芯鞘複合モノフィラメントの芯部の直径は203μm、鞘部の厚さは45μmであった。
【0069】
そして製糸した芯鞘複合モノフィラメントを、引き続き温水浴中に導いて鞘部をガラス粒子と共に除去し、残った芯部を合成樹脂モノフィラメントとして巻き取った。
【0070】
そして、巻き取られた合成樹脂モノフィラメントを必要な長さにカットし、得られたカットブリッスルを植毛してブラシを作成した。
【0071】
芯鞘複合モノフィラメントと最終的に得られた合成樹脂モノフィラメントの構成を表1に、また合成樹脂モノフィラメントの評価結果を表4に示す。
【0072】
〔実施例2〜4、比較例1〜2〕
ガラス粒子の平均粒径、含有量および鞘部の厚さを表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0073】
そして、巻き取られた合成樹脂モノフィラメントを必要な長さにカットし、得られたカットブリッスルを植毛してブラシを作成した。
【0074】
芯鞘複合モノフィラメントと最終的に得られた合成樹脂モノフィラメントの構成を表1に、また合成樹脂モノフィラメントの評価結果を表4に示す。
【0075】
〔実施例5〜8〕
芯成分をPBT樹脂からナイロン610樹脂(東レ(株)製 M2001)、PET樹脂(東レ(株)製 T701T)、PTT樹脂(Shell Chemicals社製 CORTERRA CP513000)およびPFA樹脂(旭硝子(株)社製 P−62XP)に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0076】
そして、巻き取られた合成樹脂モノフィラメントを必要な長さにカットし、得られたカットブリッスルを植毛してブラシを作成した。
【0077】
芯鞘複合モノフィラメントと最終的に得られた合成樹脂モノフィラメントの構成を表1に、また合成樹脂モノフィラメントの評価結果を表4に示す。
【0078】
〔実施例9〕
鞘成分をPVA樹脂からPLLA樹脂(三井化学(株)製 レイシア)に変更したこと以外は、実施例5と同じ条件で芯鞘複合モノフィラメントを得た。
【0079】
その後得られた芯鞘複合モノフィラメントを水酸化ナトリウム水溶液浴中に導いて鞘部をガラス粒子と共に除去し、さらに更に水で洗浄後、残った芯部を合成樹脂モノフィラメントとして巻き取った。
【0080】
そして、巻き取られた合成樹脂モノフィラメントを必要な長さにカットし、得られたカットブリッスルを植毛してブラシを作成した。
【0081】
芯鞘複合モノフィラメントと最終的に得られた合成樹脂モノフィラメントの構成を表1に、また合成樹脂モノフィラメントの評価結果を表4に示す。
【0082】
〔実施例10〕
実施例1で得られた合成樹脂モノフィラメントをカットした後、その一端を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、カットブリッスルの先端部分にテーパーを形成させた。そして得られたテーパードブリッスルを洗浄し、植毛してブラシを作成した。
【0083】
芯鞘複合モノフィラメントと最終的に得られた合成樹脂モノフィラメントの構成を表1に、また合成樹脂モノフィラメントの評価結果を表4に示す。
【0084】
〔比較例3〕
PBT樹脂(東レ(株)製 1200S)80重量%と平均粒径5μmのガラス粒子20重量%との混合物を溶融紡糸機に供給して溶融混連した後、紡糸口金から押し出した。
【0085】
押し出された混合物を冷却浴中で冷却固化した後、引き続き温水浴中および乾熱熱風浴中で加熱延伸し、さらに加熱弛緩処理を施してガラス粒子を含有する合成樹脂モノフィラメント製糸した。
【0086】
そして、巻き取られた合成樹脂モノフィラメントを必要な長さにカットし、得られたカットブリッスルを植毛してブラシを作成した。
【0087】
得られた合成樹脂モノフィラメントの構成を表2に、また合成樹脂モノフィラメントの評価結果を表4に示す。
【0088】
〔比較例4〕
ガラス粒子の平均粒径を10μmに変更したこと以外は比較例3と同じ条件で合成樹脂モノフィラメントを製糸した。
【0089】
そして、巻き取られた合成樹脂モノフィラメントを必要な長さにカットし、得られたカットブリッスルを植毛してブラシを作成した。
【0090】
得られた合成樹脂モノフィラメントの構成を表2に、また合成樹脂モノフィラメントの評価結果を表4に示す。
【0091】
〔比較例5〕
ナイロン610樹脂(東レ(株)製 M2001)85重量%とPVA樹脂(クラレ(株)製 エクセバールCP7000)15重量%との混合物を溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後、口金から混合物を押し出した。
【0092】
その後、押し出された混合物を冷却固化した後、引き続き温水浴中および乾熱浴中で加熱延伸し、さらに加熱弛緩処理を施して、海成分をナイロン610、且つ島成分をPVA樹脂とする海島型複合モノフィラメントを製糸した。
【0093】
そして製糸した海島型複合モノフィラメントを引き続き温水浴中に導いて島成分を除去し、残りを合成樹脂モノフィラメントとして巻き取った。
【0094】
そして、巻き取られた合成樹脂モノフィラメントを必要な長さにカットし、得られたカットブリッスルを植毛してブラシを作成した。
【0095】
当初の海島複合モノフィラメントと最終的に得られた海島複合モノフィラメントの構成を表3に、また最終的に得られた海島複合モノフィラメントの評価結果を表4に示す。
【0096】
〔比較例6〕
ナイロン610樹脂をPBT樹脂(東レ(株)製 1200S)に変更したこと以外は比較例5と同じ条件で合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0097】
そして、巻き取られた合成樹脂モノフィラメントを必要な長さにカットし、得られたカットブリッスルを植毛してブラシを作成した。
【0098】
当初の海島複合モノフィラメントと最終的に得られた海島複合モノフィラメントの構成を表3に、また最終的に得られた海島複合モノフィラメントの評価結果を表4に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
表1〜4の結果から明らかなように、本発明のブラシ用毛材(実施例1〜9)は、これとは形態の異なるブラシ用毛材(比較例1〜5)に比べて、清掃性に優れ、摩耗や毛折れが発生しにくく耐久性に優れたものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のブラシ用毛材は、表面に大きく起伏した表面凹凸を持ち清掃性に優れ、被洗浄物質に付着した汚れを効率よく落とすことができると共に、研磨粒子が含まれていないため磨耗や毛折れが発生しにくく耐久性にも優れるという両機能を兼ね備えているため、このブラシ用毛材をブラシに使用した場合には、磨耗や毛折れ等の発生が極めて少なく、且つ清掃性能の高いブラシが得られる。
【0105】
よって、本発明のブラシ用毛材を歯ブラシの少なくとも一部に使用した場合は、これらの機能を遺憾なく発揮することができるばかりか、これらの機能をさらに応用して、ボディブラシ、クリーニングブラシ、その他に洗浄工程で使用される各種工業用ブラシとして使用することもできる。
【0106】
また、本発明のブラシ用毛材の表面にある表面凹凸は、清掃性効果だけではなく、粉体化粧料や液体化粧料を保持する機能も有することから、各種化粧ブラシとして使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は本発明のブラシ用毛材の一例を示した拡大模式図である。
【図2】図2の(a)〜(c)は、本発明のブラシ用毛材に使用される合成樹脂モノフィラメントの形成過程を示した概略図である。
【符号の説明】
【0108】
10 ブラシ用毛材
11 芯鞘複合モノフィラメント
12 硬質粒子
13 鞘成分
14 芯成分
15 芯部
16 鞘部
17 合成樹脂モノフィラメント
20 表面凹凸
30 複合口金
31 口金孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなるブラシ用毛材であって、その表面に深さの平均値が5〜50μmの範囲にある表面凹凸を50〜10000個/mm有することを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項2】
前記合成樹脂がポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂およびフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のブラシ用毛材。
【請求項3】
前記カットブリッスルの片端または両端にテーパーが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のブラシ用毛材。
【請求項4】
水溶性ポリマーおよび/またはアルカリ易溶性ポリマーからなる合成樹脂と有機化合物および/または無機化合物からなる硬質粒子との混合物を鞘成分とし、且つ鞘成分とは異なる合成樹脂を芯成分として、これらを複合型溶融紡糸機に供給し、鞘部の厚さが前記硬質粒子の平均粒径の1.0倍〜3.0倍になるように複合口金から共押出し、その後冷却固化および加熱延伸することにより芯鞘複合モノフィラメントを製糸し、次いでこの芯鞘複合モノフィラメントを水、温水またはアルカリ溶液に接触させて鞘部を除去した後、残りの芯部を合成樹脂モノフィラメントとしてカットブリッスルに加工することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のブラシ用毛材の製造方法。
【請求項5】
前記鞘成分中に硬質粒子が10〜70重量%含有されていることを特徴とする請求項4に記載のブラシ用毛材の製造方法。
【請求項6】
前記鞘成分中の硬質粒子の平均粒径が10〜120μmであることを特徴とする請求項4または5に記載のブラシ用毛材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とするブラシ。
【請求項8】
歯ブラシであることを特徴とする請求項7に記載のブラシ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−86683(P2008−86683A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273744(P2006−273744)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】