ブランク材のプレス成形方法
【課題】形成した貫通孔の形状がホットプレス加工装置による焼入れ成形後においても成形時のひずみにより形状変化をさせずにしかも低コスト並びに工数低減したプレス成形品の製作を可能にする。
【解決手段】常温状態のブランク素材4−1に、ブランク型プレス加工装置5の有底孔加工工具5dを用いて材料組織が断裂しない程度に塑性変形させた状態で有底孔7を形成すると共にトリミングしてブランク材4を成形し、次に、ブランク材4を、焼入れ温度まで加熱した上でホットプレス加工装置8により所定形状にプレス成形するとともに焼入れを行なって中間成形品1aを成形し、その後当該中間成形品1aを冷却した上で、別のプレス加工装置15が備える有底孔加工工具15eにより有底孔7の底板部7aを打抜き切除することによって、貫通孔9を有するプレス成形品を成形する。
【解決手段】常温状態のブランク素材4−1に、ブランク型プレス加工装置5の有底孔加工工具5dを用いて材料組織が断裂しない程度に塑性変形させた状態で有底孔7を形成すると共にトリミングしてブランク材4を成形し、次に、ブランク材4を、焼入れ温度まで加熱した上でホットプレス加工装置8により所定形状にプレス成形するとともに焼入れを行なって中間成形品1aを成形し、その後当該中間成形品1aを冷却した上で、別のプレス加工装置15が備える有底孔加工工具15eにより有底孔7の底板部7aを打抜き切除することによって、貫通孔9を有するプレス成形品を成形する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼入れ温度まで加熱したブランク材を低温の金型によって焼入れを行いつつ、貫通孔を有する成形品を成形するブランク材のプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、プレス成形を行うことにより焼入れを行うプレス成形方法は、ホットプレス成形方法(又はダイクエンチ成形方法)と称される成形方法であり、自動車のピラー或いはメンバー類などの高い強度が必要な骨格等の補強部材に広く用いられている。そして、当該製品が孔付きのような場合には、成形時に製品が焼入れ処理されていることから、穿孔加工を行う工程を焼入れ成形工程との関連で焼入れ成形前に行うか焼入れ成形後に行うかについて、穿孔した孔部が成形後の残留応力により遅れ破壊を生じるのを解消したり或いは穿孔工具の長寿命化の観点などから、種々の技術が従来より提案されている。
【0003】
すなわち、例えば従来における一つの技術としては、焼入れ温度によって加熱された鋼材(ブランク材)を上型および下型の型締めにより成形するとともに焼入れする間における鋼材の未硬化状態において、加工刃及びトリム刃を用いて穿孔及びトリミングを行なうという技術が知られている(特許文献1を参照)。
【0004】
また、従来における他の技術として、鋼板(ブランク材)をホットプレス(ホットプレス加工装置)にて焼入れすると共に成形し、その後次工程としてレーザートリムやレーザーピアスといったレーザー加工により穿孔を行なう方法が知られている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−248253号公報
【特許文献2】特開2006−130519号公報 (特に、段落0003〜006等の記載を参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術のうち、特許文献1に記載された技術のように、ブランク材をホットプレス加工装置を用いて焼入れすると共に所定形状に成形する間のブランク材の未硬化状態で穿孔やトリミングをして所定のプレス成形品を製作する場合においては、確かに穿孔やトリミングの場合の工具の急速消耗を防止することができるが、ブランク材の未硬化状態において穿孔した孔形状が、ホットプレス加工装置の金型内で完全硬化するまでの焼入れ成形工程において、孔の位置により成形の際に材料に生じるひずみによって、寸法精度や形状精度を低下させてしまうおそれがあり、そこで、成形の際に材料に生じるひずみの小さい部位へ孔を移すことが必要になる。しかしながら、孔位置は後工程である組立工程の設備や組付ける相手部品との関係から制約を受け、また複雑な形状の部品においては孔を設定できる部位が限られるため、孔位置を変更できない場合が多い。このようなことから、プレス成形品において所望の形状の孔を得ようとする場合には、一品一様に試作トライする必要があり、製品完成までの工数が増大してしまうおそれがある。
【0007】
また、焼入れ成形後の半製品にレーザー加工により穿孔加工を施す方法は、後工程が増加することによる生産効率の観点から採用が難しく、しかもレーザー加工装置が非常に高価となって、加工費の増大の要因ともなってしまう。
【0008】
そこで、この発明は、上記した従来の技術における未解決課題に鑑み、形成した貫通孔の形状がホットプレス加工装置による焼入れ成形後においても成形時のひずみにより形状変化をさせずにしかも低コスト並びに工数低減したプレス成形品が製作可能なブランク材のプレス成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るブランク材のプレス成形方法は、上記した従来の技術における未解決課題に鑑み、常温状態のブランク素材に、ブランク型プレス加工装置の有底孔加工工具を用いて材料組織が断裂しない程度に塑性変形させた状態で有底孔を形成すると共にトリミングしてブランク材を成形し、次に、当該ブランク材を、焼入れ温度まで加熱した上でホットプレス加工装置により所定形状にプレス成形するとともに焼入れを行なって中間成形品を成形し、その後当該中間成形品を冷却した上で、別のプレス加工装置が備える有底孔加工工具により有底孔の底板部を打抜き切除することによって、貫通孔を有するプレス成形品を成形するようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、この発明は、上記した従来の技術における未解決課題に鑑み、常温状態のブランク素材に、ブランク型プレス加工装置の有底孔加工工具を用いて材料組織が断裂しない程度に塑性変形させた状態で有底孔を形成すると共にトリミングしてブランク材を成形し、次に、当該ブランク材を焼入れ温度まで加熱した上でホットプレス加工装置により所定形状にプレス成形するとともに焼入れを行なって中間成形品を成形し、その後当該中間成形品を冷却した上で、同ホットプレス加工装置が備える有底孔加工工具により有底孔の底板部を打抜き切除することによって、貫通孔を有するプレス成形品を成形するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成する上記いずれの発明も、ブランク材を成形、焼入れして中間成形品を成形する際に有底孔は底板部により一般部位に対して材料が組織的につながっているため、成形により生じるひずみで孔が変形することを抑えることができ、その後底板部を打抜き切除した際に底板部の打抜き切除が低荷重で可能となり、しかも、完成したプレス成形品には、加工後貫通孔周りに遅れ破壊を起こす高い残留応力が生じることがなく所望の形状を有する貫通孔を有するプレス成形品を低コストで得ることができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明に係るブランク材のプレス成形方法により成形する自動車のセンタピラーの補強部材の一部を描画した斜視図である。
【図2】この発明に係るブランク材のプレス成形方法の一の実施例として、ブランク素材に有底孔を形成すると共にかかるブランク素材をトリミングすることによりブランク材を形成するためにブランク素材をセットした状態を示すブランク型プレス加工装置の概略縦断面図である。
【図3】図2に示す状態から、上下金型を型締めして、ブランク素材に有底孔を形成すると共に、ブランク素材をトリミングすることによりブランク材を形成する工程を示すブランク型プレス加工装置の概略縦断面図である。
【図4】図3に示すブランク型プレス加工装置により有底孔を形成したブランク材を描画した横断面図である。
【図5】図3に示す工程において製作されたブランク材を所定の形状の中間成形品に成形すると共に焼入れするためにセットした工程を示すホットプレス加工装置の概略縦断面図である。
【図6】同じく、上下型を型締めして、焼入れ温度まで加熱したブランク材を成形すると共に焼入れして中間成形品を成形する工程を描画したホットプレス加工装置の概略縦断面図である。
【図7】同じく、図6に示す工程の後、冷却した中間成形品における有底孔の底板部を打抜き切除して所定の形状の貫通孔を成形してプレス成形品として完成させる工程を描画した別のプレス加工装置の概略縦断面図である。
【図8】図4に示す有底孔を有して製作されたブランク材の材料組織を描画した模式断面図である。
【図9】この発明に係るブランク材のプレス成形方法の他の実施例として、焼入れ温度まで加熱した図3に示すブランク材を所定の形状の中間成形品に成形すると共に焼入れするためにセットした工程を描画したホットプレス加工装置の概略縦断面図である。
【図10】同じく、上下型を型締めして、焼入れ温度まで加熱したブランク材を成形すると共に焼入れして中間成形品を成形する工程を描画した同ホットプレス加工装置の概略縦断面図である。
【図11】図10に示す工程の後、冷却した中間成形品における有底孔の底板部を打抜き切除して所定の形状の貫通孔を成形してプレス成形品として完成させる工程を描画した同ホットプレス加工装置の概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の実施例におけるブランク材のプレス成形方法は、予めブランク材に凹状の有底孔を形成した状態で、焼入れ成形を施した後、当該有底孔の底板部を打抜き切除することによって貫通孔を有する成形品を成形するようにしており、焼入れ成形時においては、有底孔の底板部の存在によって、ブランク材は組織的につながっていることになって、焼入れ成形時に生じるひずみによって有底孔の形状が変形することを抑えることができ、しかも、有底孔の底板部を打抜き切除して貫通孔を形成する際に、底板部の打抜き切除が低荷重で可能となり、更に完成したプレス成形品には、加工後貫通孔周りに遅れ破壊を起こす高い残留応力が生じることがなく所望の形状を有する貫通孔が形成されて、低コスト並びに工数低減したプレス成形品が製作可能なブランク材のプレス成形方法として構成している。
【0014】
先ず、図1により、この発明に係るブランク材のプレス成形方法によって成形するプレス成形品1を説明する。かかるプレス成形品1は、例えば自動車のセンタピラーに添設して当該センタピラーを補強するための補強部材に適用するものである。そして、補強部材としてのプレス成形品1は、断面略コ字状を呈する一対の縦壁2と、縦壁2の各一端部をそれぞれ連結する横壁3とを有して構成しており、横壁3には、ドアハーネスを挿通させる長孔形状の穿孔3−1やその他の取付孔としての穿孔3−2が穿設されており、また、各縦壁2には、ドアロック装置の取付孔としての一対の穿孔2−1が穿設されている。
【0015】
そして、このように構成するプレス成形品1は、穿孔2−1及び穿孔3−1、3−2等を形成して構成しているのであるが、これら穿孔2−1及び穿孔3−1、3−2等のうち、特に縦壁2の穿孔2−1の形状寸法が焼入れ時において生じるひずみにより成形性や材料引かれにより、所定形状を得ることが難しい。そこで、次に説明する実施例のようなプレス成形方法において、この発明は、形成した貫通孔の形状がホットプレス加工装置による焼入れ成形時におけるひずみによる材料引かれなどによる形状変化を生じさせずにしかも低コスト並びに工数低減したプレス成形品が製作可能にしているところである。
【0016】
すなわち、まず、図2及び図3を用いて、この発明の一の実施例におけるブランク型プレス加工装置による有底孔の形成並びにトリミング工程を説明する。かかるブランク型プレス加工装置5は、上型5aと下型5bとを有して構成されている。上型5aは、ブランク型プレス加工装置5のスライドテーブル5cの下面に装着されているとともに、スライドテーブル5cに例えば油圧シリンダなどにより上下移動可能に装着された有底孔加工工具5dが下型5bに向かって挿通するための挿通孔5eを有して構成している。更に、スライドテーブル5cの下面には、上型5aと離間した状態で並んで、トリミング刃5hが設置されている。
【0017】
また、下型5bは、ブランク型プレス加工装置5に固定したボルスターテーブル(図を省略する)上に配置されると共に、下降してきた有底孔加工工具5dを嵌合ガイドするガイド孔5fを有して構成している。ガイド孔5f内には、有底孔加工工具5dによって押圧されたブランク材4を支えるためのダイ5gが設けられている。更に、下型5bには、トリミング刃5hに対向するように、トリミング刃受け凹部5iが設けられている。
【0018】
この発明の実施例1においては、上記のように構成するブランク型プレス加工装置5を用いて、先ず、ブランク素材4−1に有底孔7を形成している。すなわち、図2示す如く、板状のブランク素材4−1を下型5b上にセットする。次に、スライドテーブル5cによって上型5aを下降させて、下型5bとの間でブランク素材4−1を型締めする。かかる上型5aと下型5bとによる型締め状態を保持したまま、スライドテーブル5cに装着された有底孔加工工具5dを油圧シリンダなどにより更に下型5bのガイド孔5fに向かって下降させて嵌合し、有底孔加工工具5dに押圧されたブランク素材4−1をダイ5gによって受け止めながら、当該ブランク素材4−1に有底孔7を形成する。同時に、トリミング刃5hとトリミング刃受け凹部5iとによって、先行する工程において有底孔7が形成されているブランク素材4−1の所定部位をトリミングして、図4に示す有底孔7を有する平板状のブランク材4を形成する。このように、ブランク型プレス加工装置5により、ブランク素材4−1が下型5b上を図中左から右へスライド移動しながら、有底孔7が形成されたブランク材4を順次成形していく。
【0019】
次に、有底孔7を形成したブランク材4を中間成形品1aに成形すると共に焼入れするホットプレス加工装置を図5及び図6を用いて説明する。かかるホットプレス加工装置8は、凹状の成形部8а−1を有する上型8aと、凸状の成形部8b−1を有する下型8bとを有して構成している。上型8aは、スライドテーブル8cの下面に装着されていると共に、成形部8а−1の側壁には、有底孔7を構成する突起部を受入れるための凹部8jが形成されている。また、下型8bは、クッションピン8fおよびスプリング8gにより成るダイクッション手段によってボルスターテーブル8hに浮動状態で設置されていると共に、ブランク材4に形成された有底孔7を受入れるための受入れ孔8iが形成されて構成している。
【0020】
また、上記ホットプレス加工装置8によって焼入れ状態で成形された中間成形品1aにおける有底孔7の底板部7aを打抜き切除して、プレス成形品1を完成させる別のプレス加工装置15を図7を用いて説明する。すなわち、図7に示す別のプレス加工装置15は、上型15aと下型15bとを有して構成されている。上型15aは、スライドテーブル15cの下面に装着されているとともに、例えば油圧シリンダ15jにより上下移動可能に装着された打抜き工具15eが下型に向かって傾斜状態で挿通するためのガイド孔15dを有して構成している。また、下型5bは、不図示のボルスターテーブル上に配置されると共に、打抜き工具15eを案内すると共に打抜き工具15eによって打抜き切除された底板部7aを廃棄するガイド並びに廃棄孔15iを有して構成されている。
【0021】
次に、上記ホットプレス加工装置8を用いて、ブランク材4から中間成形品1aを成形すると共に焼入れする工程を説明する。すなわち、ホットプレス加工装置8を用いる工程において、まず、図5に示すように、下型8b上に不図示の加熱装置により焼入れ温度まで加熱したブランク材4をセットした状態からスライドテーブル8cの動作により上型8aを下降させて、図6に示すように、型締めを行いながらブランク材4を成形しながら焼入れ処理を施して、中間成形品1aを成形する。この時、有底孔7を構成する突起部は、凹部8j内に受け入れられている。
【0022】
次に、下型8bに対して上型8aを上昇させることによって型開きし、成形後の中間成形品1aを型抜きし、図7に示す別のプレス加工装置15を用いて、有底孔7から底板部7aを打抜き切除して、貫通孔9を有するプレス成形品1を完成する。
【0023】
すなわち、図7に示す別のプレス加工装置15において、下型15bの成形部15b−1上に有底孔7が形成された中間成形品1aをセットした上で、上型15aを下降して、成形部15a−1と成形部15b−1との間で中間成形品1aを型締めし、かかる型締めた状態を保持した上で、打抜き工具15eをガイド孔15dに沿ってガイド並びに廃棄孔15iの方向に移動させて、有底孔7の底板部7aを打抜き切除する。切除された底板部7aは、廃棄孔15iから外部へ廃棄されることになる。 この結果、図1に示すような所定形状の貫通孔9を有して断面略コ字状に形成されたプレス成形品1が完成することになる。
【0024】
このように工程によってプレス成形品1は成形されていくのであるが、かかるプレス成形品1の原形となる中間成形品1aを焼入れ成形する前の平板状のブランク材4は、図8に示す半抜き状態の材料組織の模式断面図に示すように、有底孔7に底板部7aが存するために、一般部から有底孔7との境界部に組織的に密なる部分を有することになって、有底孔7が存していたとしても全長に渡って組織的に断裂されることがないことになる。この結果、焼入れ成形時に中間成形品1aに生ずるひずみによって有底孔7の形状が変形することを抑えることができ、しかも、有底孔7の底板部7aを打抜き切除して貫通孔9を形成する際に、底板部7aの打抜き切除が低荷重で可能となり、更に完成したプレス成形品1には、加工後貫通孔9周りに遅れ破壊を起こす高い残留応力が生じることがなく所望の形状を有する貫通孔9が形成されて、低コスト並びに工数低減したプレス成形品が製作することができる。
【0025】
次に、図1に示すようなプレス成形品1を成形する他の実施例について図9乃至図11を用いて説明する。なお、かかる他の実施例におけるブランク材4は、上記一の実施例と同様に、ブランク型プレス加工装置5による図2及び図3に示す工程によって、形成されるものである。
【0026】
そして、このように形成されたブランク材4は、図9乃至図11に示すホットプレス加工装置18により、ブランク材4を焼入れ処理しながら所定形状の中間成形品1aに成形すると共に、かかる中間成形品1aにおける有底孔7の底板部7aを打抜き切除することになる点、上記一の実施例と異なる点である。
【0027】
したがって、図9乃至図11に示すホットプレス加工装置18は、凹状の成形部18a−1を有する上型18aと、凸状の成形部18b−1を有する下型18bとを有して構成している。上型18aは、スライドテーブル18cの下面に装着されていると共に、成形部18a−1の側壁に下向きに傾斜した状態で貫通したガイド孔18dを有している。ガイド孔18dには、例えば油圧シリンダ18kにより傾斜状にスライド移動して、有底孔7の底板部7aを打抜き切除する打抜き工具18eが嵌合挿入されている。
【0028】
また、下型18bは、クッションピン18fおよびスプリング18gにより成るダイクッション手段によってボルスターテーブル18hに浮動設置されていると共に、上型18aの打抜き工具18eを案内しつつ打抜き工具18eによって切除された底板部7aを廃棄するためのガイド並びに廃棄孔18iが形成されて構成している。
【0029】
次に、この発明に係る他の実施例を用いて、プレス成形品1を製作していく工程について説明する。まず、この発明に係る他の実施例においても、上記一の実施例と同様に、図2及び図3に示すブランク型プレス加工装置5を用いて、予め、ブランク素材4−1からブランク材4を形成し、かかるブランク材4は、不図示の加熱装置を用いて焼入れ温度にまで加熱しておく。
【0030】
次に、上記ホットプレス加工装置18を用いて、ブランク材4を成形すると共に焼入れすると共に有底孔7の底板部7aを打ち抜き切除してプレス成形品1を製作するにあたって、まず、図9に示すように、ホットプレス加工装置18において、下型18b上に不図示の加熱装置により焼入れ温度まで加熱したブランク材4をセットした状態からスライドテーブル18cの動作により上型18aを下降させて、図10に示すように、型締めを行いながらブランク材4を成形しながら焼入れ処理を施して、中間成形品1aを成形する。
【0031】
次に、中間成形品1aは、上型18aおよび下型18bを型締めした状態を保持された状態で、冷却されていく。その後、図11に示すように、打抜き工具18eをガイド孔18dに沿ってガイド並びに廃棄孔18iの方向へ移動させて、有底孔7の底板部7aを打抜き切除する。切除された底板部7aは、ガイド並びに廃棄孔18iから外部へ廃棄されることになる。 この結果、図1に示すような所定形状の貫通孔9を有して断面略コ字状に形成されたプレス成形品1が完成することになる。
【0032】
以上説明した工程によってプレス成形品1を成形する他の実施例においても、上記一の実施例と同様に、プレス成形品1を成形する前のブランク材4は、図8に示すように、有底孔7に底板部7aが存するために、一般部から有底孔7との境界部に組織的に密なる部分を有していることから、有底孔7が存していたとしても全長に渡って組織的に断裂されることがないことになる。この結果、焼入れ成形時にブランク材4に生じるひずみによって有底孔7の形状が変形することを抑えることができ、しかも、有底孔7の底板部7aを打抜き切除して貫通孔9を形成する際に、底板部7aの打抜き切除が低荷重で可能となり、更に完成したプレス成形品1には、加工後貫通孔9周りに遅れ破壊を起こす高い残留応力が生じることがなく所望の形状を有する貫通孔9が形成されて、低コスト並びに工数低減したプレス成形品が製作することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上説明したこの発明は、ブランク材を成形、焼入れして中間成形品を成形する際に有底孔は底板部により一般部位に対して材料が組織的につながっているため、成形により生じるひずみで孔が変形することを抑えることができ、その後底板部を打抜き切除した際に底板部の打抜き切除が低荷重で可能となり、しかも、完成したプレス成形品には、加工後貫通孔周りに遅れ破壊を起こす高い残留応力が生じることがなく所望の形状を有する貫通孔を有するプレス成形品を低コストで得ることができるため、焼入れ温度まで加熱したブランク材を低温の金型によって焼入れを行いつつ、貫通孔を有する成形品を成形するブランク材のプレス成形方法等に好適であるといえる。
【符号の説明】
【0034】
1 プレス成形品
4 ブランク材
5 ブランク型プレス加工装置
5d 有底孔加工工具
7 有底孔
7a 底板部
8 ホットプレス加工装置
8e 打抜き工具
9 貫通孔
9a 切り落とし破片
15 別のプレス加工装置
15e 打抜き工具
18 ホットプレス加工装置
18e 打抜き工具
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼入れ温度まで加熱したブランク材を低温の金型によって焼入れを行いつつ、貫通孔を有する成形品を成形するブランク材のプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、プレス成形を行うことにより焼入れを行うプレス成形方法は、ホットプレス成形方法(又はダイクエンチ成形方法)と称される成形方法であり、自動車のピラー或いはメンバー類などの高い強度が必要な骨格等の補強部材に広く用いられている。そして、当該製品が孔付きのような場合には、成形時に製品が焼入れ処理されていることから、穿孔加工を行う工程を焼入れ成形工程との関連で焼入れ成形前に行うか焼入れ成形後に行うかについて、穿孔した孔部が成形後の残留応力により遅れ破壊を生じるのを解消したり或いは穿孔工具の長寿命化の観点などから、種々の技術が従来より提案されている。
【0003】
すなわち、例えば従来における一つの技術としては、焼入れ温度によって加熱された鋼材(ブランク材)を上型および下型の型締めにより成形するとともに焼入れする間における鋼材の未硬化状態において、加工刃及びトリム刃を用いて穿孔及びトリミングを行なうという技術が知られている(特許文献1を参照)。
【0004】
また、従来における他の技術として、鋼板(ブランク材)をホットプレス(ホットプレス加工装置)にて焼入れすると共に成形し、その後次工程としてレーザートリムやレーザーピアスといったレーザー加工により穿孔を行なう方法が知られている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−248253号公報
【特許文献2】特開2006−130519号公報 (特に、段落0003〜006等の記載を参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術のうち、特許文献1に記載された技術のように、ブランク材をホットプレス加工装置を用いて焼入れすると共に所定形状に成形する間のブランク材の未硬化状態で穿孔やトリミングをして所定のプレス成形品を製作する場合においては、確かに穿孔やトリミングの場合の工具の急速消耗を防止することができるが、ブランク材の未硬化状態において穿孔した孔形状が、ホットプレス加工装置の金型内で完全硬化するまでの焼入れ成形工程において、孔の位置により成形の際に材料に生じるひずみによって、寸法精度や形状精度を低下させてしまうおそれがあり、そこで、成形の際に材料に生じるひずみの小さい部位へ孔を移すことが必要になる。しかしながら、孔位置は後工程である組立工程の設備や組付ける相手部品との関係から制約を受け、また複雑な形状の部品においては孔を設定できる部位が限られるため、孔位置を変更できない場合が多い。このようなことから、プレス成形品において所望の形状の孔を得ようとする場合には、一品一様に試作トライする必要があり、製品完成までの工数が増大してしまうおそれがある。
【0007】
また、焼入れ成形後の半製品にレーザー加工により穿孔加工を施す方法は、後工程が増加することによる生産効率の観点から採用が難しく、しかもレーザー加工装置が非常に高価となって、加工費の増大の要因ともなってしまう。
【0008】
そこで、この発明は、上記した従来の技術における未解決課題に鑑み、形成した貫通孔の形状がホットプレス加工装置による焼入れ成形後においても成形時のひずみにより形状変化をさせずにしかも低コスト並びに工数低減したプレス成形品が製作可能なブランク材のプレス成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るブランク材のプレス成形方法は、上記した従来の技術における未解決課題に鑑み、常温状態のブランク素材に、ブランク型プレス加工装置の有底孔加工工具を用いて材料組織が断裂しない程度に塑性変形させた状態で有底孔を形成すると共にトリミングしてブランク材を成形し、次に、当該ブランク材を、焼入れ温度まで加熱した上でホットプレス加工装置により所定形状にプレス成形するとともに焼入れを行なって中間成形品を成形し、その後当該中間成形品を冷却した上で、別のプレス加工装置が備える有底孔加工工具により有底孔の底板部を打抜き切除することによって、貫通孔を有するプレス成形品を成形するようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、この発明は、上記した従来の技術における未解決課題に鑑み、常温状態のブランク素材に、ブランク型プレス加工装置の有底孔加工工具を用いて材料組織が断裂しない程度に塑性変形させた状態で有底孔を形成すると共にトリミングしてブランク材を成形し、次に、当該ブランク材を焼入れ温度まで加熱した上でホットプレス加工装置により所定形状にプレス成形するとともに焼入れを行なって中間成形品を成形し、その後当該中間成形品を冷却した上で、同ホットプレス加工装置が備える有底孔加工工具により有底孔の底板部を打抜き切除することによって、貫通孔を有するプレス成形品を成形するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成する上記いずれの発明も、ブランク材を成形、焼入れして中間成形品を成形する際に有底孔は底板部により一般部位に対して材料が組織的につながっているため、成形により生じるひずみで孔が変形することを抑えることができ、その後底板部を打抜き切除した際に底板部の打抜き切除が低荷重で可能となり、しかも、完成したプレス成形品には、加工後貫通孔周りに遅れ破壊を起こす高い残留応力が生じることがなく所望の形状を有する貫通孔を有するプレス成形品を低コストで得ることができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明に係るブランク材のプレス成形方法により成形する自動車のセンタピラーの補強部材の一部を描画した斜視図である。
【図2】この発明に係るブランク材のプレス成形方法の一の実施例として、ブランク素材に有底孔を形成すると共にかかるブランク素材をトリミングすることによりブランク材を形成するためにブランク素材をセットした状態を示すブランク型プレス加工装置の概略縦断面図である。
【図3】図2に示す状態から、上下金型を型締めして、ブランク素材に有底孔を形成すると共に、ブランク素材をトリミングすることによりブランク材を形成する工程を示すブランク型プレス加工装置の概略縦断面図である。
【図4】図3に示すブランク型プレス加工装置により有底孔を形成したブランク材を描画した横断面図である。
【図5】図3に示す工程において製作されたブランク材を所定の形状の中間成形品に成形すると共に焼入れするためにセットした工程を示すホットプレス加工装置の概略縦断面図である。
【図6】同じく、上下型を型締めして、焼入れ温度まで加熱したブランク材を成形すると共に焼入れして中間成形品を成形する工程を描画したホットプレス加工装置の概略縦断面図である。
【図7】同じく、図6に示す工程の後、冷却した中間成形品における有底孔の底板部を打抜き切除して所定の形状の貫通孔を成形してプレス成形品として完成させる工程を描画した別のプレス加工装置の概略縦断面図である。
【図8】図4に示す有底孔を有して製作されたブランク材の材料組織を描画した模式断面図である。
【図9】この発明に係るブランク材のプレス成形方法の他の実施例として、焼入れ温度まで加熱した図3に示すブランク材を所定の形状の中間成形品に成形すると共に焼入れするためにセットした工程を描画したホットプレス加工装置の概略縦断面図である。
【図10】同じく、上下型を型締めして、焼入れ温度まで加熱したブランク材を成形すると共に焼入れして中間成形品を成形する工程を描画した同ホットプレス加工装置の概略縦断面図である。
【図11】図10に示す工程の後、冷却した中間成形品における有底孔の底板部を打抜き切除して所定の形状の貫通孔を成形してプレス成形品として完成させる工程を描画した同ホットプレス加工装置の概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の実施例におけるブランク材のプレス成形方法は、予めブランク材に凹状の有底孔を形成した状態で、焼入れ成形を施した後、当該有底孔の底板部を打抜き切除することによって貫通孔を有する成形品を成形するようにしており、焼入れ成形時においては、有底孔の底板部の存在によって、ブランク材は組織的につながっていることになって、焼入れ成形時に生じるひずみによって有底孔の形状が変形することを抑えることができ、しかも、有底孔の底板部を打抜き切除して貫通孔を形成する際に、底板部の打抜き切除が低荷重で可能となり、更に完成したプレス成形品には、加工後貫通孔周りに遅れ破壊を起こす高い残留応力が生じることがなく所望の形状を有する貫通孔が形成されて、低コスト並びに工数低減したプレス成形品が製作可能なブランク材のプレス成形方法として構成している。
【0014】
先ず、図1により、この発明に係るブランク材のプレス成形方法によって成形するプレス成形品1を説明する。かかるプレス成形品1は、例えば自動車のセンタピラーに添設して当該センタピラーを補強するための補強部材に適用するものである。そして、補強部材としてのプレス成形品1は、断面略コ字状を呈する一対の縦壁2と、縦壁2の各一端部をそれぞれ連結する横壁3とを有して構成しており、横壁3には、ドアハーネスを挿通させる長孔形状の穿孔3−1やその他の取付孔としての穿孔3−2が穿設されており、また、各縦壁2には、ドアロック装置の取付孔としての一対の穿孔2−1が穿設されている。
【0015】
そして、このように構成するプレス成形品1は、穿孔2−1及び穿孔3−1、3−2等を形成して構成しているのであるが、これら穿孔2−1及び穿孔3−1、3−2等のうち、特に縦壁2の穿孔2−1の形状寸法が焼入れ時において生じるひずみにより成形性や材料引かれにより、所定形状を得ることが難しい。そこで、次に説明する実施例のようなプレス成形方法において、この発明は、形成した貫通孔の形状がホットプレス加工装置による焼入れ成形時におけるひずみによる材料引かれなどによる形状変化を生じさせずにしかも低コスト並びに工数低減したプレス成形品が製作可能にしているところである。
【0016】
すなわち、まず、図2及び図3を用いて、この発明の一の実施例におけるブランク型プレス加工装置による有底孔の形成並びにトリミング工程を説明する。かかるブランク型プレス加工装置5は、上型5aと下型5bとを有して構成されている。上型5aは、ブランク型プレス加工装置5のスライドテーブル5cの下面に装着されているとともに、スライドテーブル5cに例えば油圧シリンダなどにより上下移動可能に装着された有底孔加工工具5dが下型5bに向かって挿通するための挿通孔5eを有して構成している。更に、スライドテーブル5cの下面には、上型5aと離間した状態で並んで、トリミング刃5hが設置されている。
【0017】
また、下型5bは、ブランク型プレス加工装置5に固定したボルスターテーブル(図を省略する)上に配置されると共に、下降してきた有底孔加工工具5dを嵌合ガイドするガイド孔5fを有して構成している。ガイド孔5f内には、有底孔加工工具5dによって押圧されたブランク材4を支えるためのダイ5gが設けられている。更に、下型5bには、トリミング刃5hに対向するように、トリミング刃受け凹部5iが設けられている。
【0018】
この発明の実施例1においては、上記のように構成するブランク型プレス加工装置5を用いて、先ず、ブランク素材4−1に有底孔7を形成している。すなわち、図2示す如く、板状のブランク素材4−1を下型5b上にセットする。次に、スライドテーブル5cによって上型5aを下降させて、下型5bとの間でブランク素材4−1を型締めする。かかる上型5aと下型5bとによる型締め状態を保持したまま、スライドテーブル5cに装着された有底孔加工工具5dを油圧シリンダなどにより更に下型5bのガイド孔5fに向かって下降させて嵌合し、有底孔加工工具5dに押圧されたブランク素材4−1をダイ5gによって受け止めながら、当該ブランク素材4−1に有底孔7を形成する。同時に、トリミング刃5hとトリミング刃受け凹部5iとによって、先行する工程において有底孔7が形成されているブランク素材4−1の所定部位をトリミングして、図4に示す有底孔7を有する平板状のブランク材4を形成する。このように、ブランク型プレス加工装置5により、ブランク素材4−1が下型5b上を図中左から右へスライド移動しながら、有底孔7が形成されたブランク材4を順次成形していく。
【0019】
次に、有底孔7を形成したブランク材4を中間成形品1aに成形すると共に焼入れするホットプレス加工装置を図5及び図6を用いて説明する。かかるホットプレス加工装置8は、凹状の成形部8а−1を有する上型8aと、凸状の成形部8b−1を有する下型8bとを有して構成している。上型8aは、スライドテーブル8cの下面に装着されていると共に、成形部8а−1の側壁には、有底孔7を構成する突起部を受入れるための凹部8jが形成されている。また、下型8bは、クッションピン8fおよびスプリング8gにより成るダイクッション手段によってボルスターテーブル8hに浮動状態で設置されていると共に、ブランク材4に形成された有底孔7を受入れるための受入れ孔8iが形成されて構成している。
【0020】
また、上記ホットプレス加工装置8によって焼入れ状態で成形された中間成形品1aにおける有底孔7の底板部7aを打抜き切除して、プレス成形品1を完成させる別のプレス加工装置15を図7を用いて説明する。すなわち、図7に示す別のプレス加工装置15は、上型15aと下型15bとを有して構成されている。上型15aは、スライドテーブル15cの下面に装着されているとともに、例えば油圧シリンダ15jにより上下移動可能に装着された打抜き工具15eが下型に向かって傾斜状態で挿通するためのガイド孔15dを有して構成している。また、下型5bは、不図示のボルスターテーブル上に配置されると共に、打抜き工具15eを案内すると共に打抜き工具15eによって打抜き切除された底板部7aを廃棄するガイド並びに廃棄孔15iを有して構成されている。
【0021】
次に、上記ホットプレス加工装置8を用いて、ブランク材4から中間成形品1aを成形すると共に焼入れする工程を説明する。すなわち、ホットプレス加工装置8を用いる工程において、まず、図5に示すように、下型8b上に不図示の加熱装置により焼入れ温度まで加熱したブランク材4をセットした状態からスライドテーブル8cの動作により上型8aを下降させて、図6に示すように、型締めを行いながらブランク材4を成形しながら焼入れ処理を施して、中間成形品1aを成形する。この時、有底孔7を構成する突起部は、凹部8j内に受け入れられている。
【0022】
次に、下型8bに対して上型8aを上昇させることによって型開きし、成形後の中間成形品1aを型抜きし、図7に示す別のプレス加工装置15を用いて、有底孔7から底板部7aを打抜き切除して、貫通孔9を有するプレス成形品1を完成する。
【0023】
すなわち、図7に示す別のプレス加工装置15において、下型15bの成形部15b−1上に有底孔7が形成された中間成形品1aをセットした上で、上型15aを下降して、成形部15a−1と成形部15b−1との間で中間成形品1aを型締めし、かかる型締めた状態を保持した上で、打抜き工具15eをガイド孔15dに沿ってガイド並びに廃棄孔15iの方向に移動させて、有底孔7の底板部7aを打抜き切除する。切除された底板部7aは、廃棄孔15iから外部へ廃棄されることになる。 この結果、図1に示すような所定形状の貫通孔9を有して断面略コ字状に形成されたプレス成形品1が完成することになる。
【0024】
このように工程によってプレス成形品1は成形されていくのであるが、かかるプレス成形品1の原形となる中間成形品1aを焼入れ成形する前の平板状のブランク材4は、図8に示す半抜き状態の材料組織の模式断面図に示すように、有底孔7に底板部7aが存するために、一般部から有底孔7との境界部に組織的に密なる部分を有することになって、有底孔7が存していたとしても全長に渡って組織的に断裂されることがないことになる。この結果、焼入れ成形時に中間成形品1aに生ずるひずみによって有底孔7の形状が変形することを抑えることができ、しかも、有底孔7の底板部7aを打抜き切除して貫通孔9を形成する際に、底板部7aの打抜き切除が低荷重で可能となり、更に完成したプレス成形品1には、加工後貫通孔9周りに遅れ破壊を起こす高い残留応力が生じることがなく所望の形状を有する貫通孔9が形成されて、低コスト並びに工数低減したプレス成形品が製作することができる。
【0025】
次に、図1に示すようなプレス成形品1を成形する他の実施例について図9乃至図11を用いて説明する。なお、かかる他の実施例におけるブランク材4は、上記一の実施例と同様に、ブランク型プレス加工装置5による図2及び図3に示す工程によって、形成されるものである。
【0026】
そして、このように形成されたブランク材4は、図9乃至図11に示すホットプレス加工装置18により、ブランク材4を焼入れ処理しながら所定形状の中間成形品1aに成形すると共に、かかる中間成形品1aにおける有底孔7の底板部7aを打抜き切除することになる点、上記一の実施例と異なる点である。
【0027】
したがって、図9乃至図11に示すホットプレス加工装置18は、凹状の成形部18a−1を有する上型18aと、凸状の成形部18b−1を有する下型18bとを有して構成している。上型18aは、スライドテーブル18cの下面に装着されていると共に、成形部18a−1の側壁に下向きに傾斜した状態で貫通したガイド孔18dを有している。ガイド孔18dには、例えば油圧シリンダ18kにより傾斜状にスライド移動して、有底孔7の底板部7aを打抜き切除する打抜き工具18eが嵌合挿入されている。
【0028】
また、下型18bは、クッションピン18fおよびスプリング18gにより成るダイクッション手段によってボルスターテーブル18hに浮動設置されていると共に、上型18aの打抜き工具18eを案内しつつ打抜き工具18eによって切除された底板部7aを廃棄するためのガイド並びに廃棄孔18iが形成されて構成している。
【0029】
次に、この発明に係る他の実施例を用いて、プレス成形品1を製作していく工程について説明する。まず、この発明に係る他の実施例においても、上記一の実施例と同様に、図2及び図3に示すブランク型プレス加工装置5を用いて、予め、ブランク素材4−1からブランク材4を形成し、かかるブランク材4は、不図示の加熱装置を用いて焼入れ温度にまで加熱しておく。
【0030】
次に、上記ホットプレス加工装置18を用いて、ブランク材4を成形すると共に焼入れすると共に有底孔7の底板部7aを打ち抜き切除してプレス成形品1を製作するにあたって、まず、図9に示すように、ホットプレス加工装置18において、下型18b上に不図示の加熱装置により焼入れ温度まで加熱したブランク材4をセットした状態からスライドテーブル18cの動作により上型18aを下降させて、図10に示すように、型締めを行いながらブランク材4を成形しながら焼入れ処理を施して、中間成形品1aを成形する。
【0031】
次に、中間成形品1aは、上型18aおよび下型18bを型締めした状態を保持された状態で、冷却されていく。その後、図11に示すように、打抜き工具18eをガイド孔18dに沿ってガイド並びに廃棄孔18iの方向へ移動させて、有底孔7の底板部7aを打抜き切除する。切除された底板部7aは、ガイド並びに廃棄孔18iから外部へ廃棄されることになる。 この結果、図1に示すような所定形状の貫通孔9を有して断面略コ字状に形成されたプレス成形品1が完成することになる。
【0032】
以上説明した工程によってプレス成形品1を成形する他の実施例においても、上記一の実施例と同様に、プレス成形品1を成形する前のブランク材4は、図8に示すように、有底孔7に底板部7aが存するために、一般部から有底孔7との境界部に組織的に密なる部分を有していることから、有底孔7が存していたとしても全長に渡って組織的に断裂されることがないことになる。この結果、焼入れ成形時にブランク材4に生じるひずみによって有底孔7の形状が変形することを抑えることができ、しかも、有底孔7の底板部7aを打抜き切除して貫通孔9を形成する際に、底板部7aの打抜き切除が低荷重で可能となり、更に完成したプレス成形品1には、加工後貫通孔9周りに遅れ破壊を起こす高い残留応力が生じることがなく所望の形状を有する貫通孔9が形成されて、低コスト並びに工数低減したプレス成形品が製作することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上説明したこの発明は、ブランク材を成形、焼入れして中間成形品を成形する際に有底孔は底板部により一般部位に対して材料が組織的につながっているため、成形により生じるひずみで孔が変形することを抑えることができ、その後底板部を打抜き切除した際に底板部の打抜き切除が低荷重で可能となり、しかも、完成したプレス成形品には、加工後貫通孔周りに遅れ破壊を起こす高い残留応力が生じることがなく所望の形状を有する貫通孔を有するプレス成形品を低コストで得ることができるため、焼入れ温度まで加熱したブランク材を低温の金型によって焼入れを行いつつ、貫通孔を有する成形品を成形するブランク材のプレス成形方法等に好適であるといえる。
【符号の説明】
【0034】
1 プレス成形品
4 ブランク材
5 ブランク型プレス加工装置
5d 有底孔加工工具
7 有底孔
7a 底板部
8 ホットプレス加工装置
8e 打抜き工具
9 貫通孔
9a 切り落とし破片
15 別のプレス加工装置
15e 打抜き工具
18 ホットプレス加工装置
18e 打抜き工具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温状態のブランク素材に、ブランク型プレス加工装置の有底孔加工工具を用いて材料組織が断裂しない程度に塑性変形させた状態で有底孔を形成すると共にトリミングしてブランク材を成形し、次に、当該ブランク材を、焼入れ温度まで加熱した上でホットプレス加工装置により所定形状にプレス成形するとともに焼入れを行なって中間製品を成形し、その後当該中間成形品を冷却した上で、別のプレス加工装置が備える有底孔加工工具により前記有底孔の底板部を打抜き切除することによって、貫通孔を有するプレス成形品を成形するようにしたことを特徴とするブランク材のプレス成形方法。
【請求項2】
常温状態のブランク素材に、ブランク型プレス加工装置の有底孔加工工具を用いて材料組織が断裂しない程度に塑性変形させた状態で有底孔を形成すると共にトリミングしてブランク材を成形し、次に、当該ブランク材を焼入れ温度まで加熱した上でホットプレス加工装置により所定形状にプレス成形するとともに焼入れを行なって中間成形品を成形し、その後当該中間成形品を冷却した上で、同ホットプレス加工装置が備える有底孔加工工具により有底孔の底板部を打抜き切除することによって、貫通孔を有するプレス成形品を成形するようにしたことを特徴とするブランク材のプレス成形方法。
【請求項1】
常温状態のブランク素材に、ブランク型プレス加工装置の有底孔加工工具を用いて材料組織が断裂しない程度に塑性変形させた状態で有底孔を形成すると共にトリミングしてブランク材を成形し、次に、当該ブランク材を、焼入れ温度まで加熱した上でホットプレス加工装置により所定形状にプレス成形するとともに焼入れを行なって中間製品を成形し、その後当該中間成形品を冷却した上で、別のプレス加工装置が備える有底孔加工工具により前記有底孔の底板部を打抜き切除することによって、貫通孔を有するプレス成形品を成形するようにしたことを特徴とするブランク材のプレス成形方法。
【請求項2】
常温状態のブランク素材に、ブランク型プレス加工装置の有底孔加工工具を用いて材料組織が断裂しない程度に塑性変形させた状態で有底孔を形成すると共にトリミングしてブランク材を成形し、次に、当該ブランク材を焼入れ温度まで加熱した上でホットプレス加工装置により所定形状にプレス成形するとともに焼入れを行なって中間成形品を成形し、その後当該中間成形品を冷却した上で、同ホットプレス加工装置が備える有底孔加工工具により有底孔の底板部を打抜き切除することによって、貫通孔を有するプレス成形品を成形するようにしたことを特徴とするブランク材のプレス成形方法。
【図1】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−143778(P2012−143778A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3382(P2011−3382)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000178804)ユニプレス株式会社 (83)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000178804)ユニプレス株式会社 (83)
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