説明

ブリーダキャップ及びディスクブレーキ

【課題】スカート部の捲れ込みが防止されて、組付工数の増加が抑制されると共に組付けを自動化するに向けて好適なブリーダキャップ及び該ブリーダキャップを備えるディスクブレーキを提供する。
【解決手段】スカート部1bの基部1gの肉厚を薄肉に形成したので、基部1gの剛性が低くなり、開口縁部1hが座面4aに押付けられた時に、スカート部1bに作用する応力が基部1gを変形させることにより吸収される。したがって、スカート部1bが膨らんで開口縁部1hが内側へ捲れ込むことがない。これにより、捲れ込みを修正する必要がないので、組付工数を削減することができると共に、組付けを自動化するに向けて好適なブリーダキャップ1及び該ブリーダキャップを備えるディスクブレーキを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧機器のエア抜き用通路に螺着されたブリーダスクリュに装着されるブリーダキャップ及び該ブリーダキャップを備えるディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のディスクブレーキにおいては、シリンダに配置されるエア抜き用通路の開口部にブリーダスクリュが螺着されて、該エア抜き用通路の開口部が閉塞される。このディスクブレーキでは、ブリーダスクリュを緩めることにより、当該ブリーダスクリュに形成される排気孔を介して液圧回路に混入したエアが排出される。このブリーダスクリュには、当該ブリーダスクリュの突出部(露出した部分全体)を被覆して、排気孔並びにねじ部に雨水等が浸入するのを防止するためのブリーダキャップが装着される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図3に従来のブリーダキャップ11の軸断面図を示す。なお、この図において、ブリーダキャップ11は、中心線CLの向かって左側が装着前の状態、中心線CLの向かって右側が装着後の状態が示されている。ブリーダキャップ11は、合成ゴム等によって形成されており、この図に示されるように、ブリーダスクリュ2の頭部2e及び頸部2fに装着されるキャップ本体11aと、該キャップ本体11aの下部周縁に設けられる筒形状のスカート部11bとによって構成される。このブリーダキャップ11は、ブリーダスクリュ2に対して軸方向へ押込まれて、ブリーダスクリュ2の突出部(シリンダ4の座面4a上に露出した部分)に装着される。このブリーダキャップ11がブリーダスクリュ2の突出部に装着された状態では、ブリーダキャップ11のスカート部11bがブリーダスクリュ2の工具係合部2dに沿って拡径変形されて、該スカート部11bの開口縁部11hがシリンダ4の座面4aに密着される。
【0004】
ところで、従来のブリーダキャップ11では、スカート部11bの肉厚がほぼ一定で剛性が低いことから、ブリーダスクリュ2への装着時に、図4に示されるように、スカート部11bが膨らんでその開口縁部11hが内側へ捲れ込む(図4における中心線CLの向かって右側の状態)ことがしばしばある。この場合、ブリーダキャップ11を回転させて正規の状態(図4における中心線CLの向かって左側の状態)にする必要があるが、組付工数を増大させる要因になるのに加えて、ブリーダキャップ11が正規の状態に装着されているか否かを検査する工程も必要になる。そして、ブリーダキャップ11の装着を自動化する際には、上述したスカート部11bの捲れ込みの問題を解消する必要がある。
【特許文献1】実開昭53−77250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、スカート部の捲れ込みが防止されるブリーダキャップ及びこのブリーダキャップを装着するディスクブレーキを提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、液圧機器のエア抜き孔に螺着されたブリーダスクリュのノズル部に嵌合される有底筒状のキャップ本体と、筒状に形成されて基部が前記キャップ本体に接続されると共に開口部が前記液圧機器の座面に密着されるスカート部とを含み、前記ブリーダスクリュにおける前記液圧機器の前記座面から突出される部分を被覆するブリーダキャップであって、前記スカート部は、その肉厚が前記基部から前記開口部に向けて逓増されることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のブリーダキャップにおいて、前記スカート部は、前記開口部の外側角部に面取り部が形成されることを特徴とする。
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項3に記載の発明は、エア抜き孔に螺着されたブリーダスクリュに、前記ブリーダスクリュのノズル部に嵌合されるキャップ本体と、筒状に形成されて基部が前記キャップ本体に接続されると共に開口部が座面に密着されるスカート部と、からなるブリーダキャップが装着されるディスクブレーキであって、前記ブリーダキャップは、前記スカート部の肉厚が前記基部から前記開口部に向けて逓増されることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のディスクブレーキにおいて、前記ブリーダキャップは、前記スカート部の前記開口部の外側角部に面取り部が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1、2に記載のブリーダキャップによれば、スカート部の捲れ込みが防止されて、組付工数の増加が抑制されると共に組付けを自動化するに向けて好適なブリーダキャップを提供することができる。
請求項3、4に記載のディスクブレーキによれば、ブリーダキャップのスカート部の捲れ込みが防止されて、ブリーダキャップの組付工数の増加が抑制されると共にブリーダキャップの組付けを自動化するに向けて好適なディスクブレーキを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の一実施形態を図1及び図2に基いて説明する。なお、本実施形態では、ディスクブレーキ3(液圧機器)のシリンダ4のエア抜き孔5に螺着されたブリーダスクリュ2の突出部(シリンダ4の座面4a上に露出した部分)を被覆するブリーダキャップ1を説明する。また、上述した従来のブリーダキャップ11、ブリーダスクリュ2及びディスクブレーキ3と同一あるいは相当する構成要素については、同一の名称及び符号を付与する。
図1に示されるように、ブリーダスクリュ2は、ディスクブレーキ3(図2参照)のシリンダ4のエア抜き孔5に螺合させるねじ部2aと、該ねじ部2aの先端側(図1における下側)に配置される軸部2bと、該軸部2bの先端部に配置されてテーパ状に形成される弁体2cと、上記ねじ部2aの基部側(図1における上側)に配置されて六角柱状に形成される工具係合部2dと、該工具係合部2dのねじ部2aに対して反対側に配置されて頭部2eと頸部2fとによって構成されるノズル部2gと、が同軸上に配置される。なお、ブリーダスクリュ2は、軸部2bの外周面に、ノズル部2gに連通する排気孔6が設けられる。
【0009】
シリンダ4は、座面4aの中央にエア抜き孔5が形成されており、該エア抜き孔5の座面4a側(図1における上側)には、ブリーダスクリュ2のねじ部2aが螺合されるねじ孔5aが螺設される。エア抜き孔5は、ねじ部2aの奥側(図1における下側)に、ブリーダスクリュ2の軸部2bを収容する大径部5bが配置される。また、エア抜き孔5は、ブリーダスクリュ2の軸部2bよりも小径に形成されてディスクブレーキ3の液圧回路に連通する小径部5dを有して、該小径部5dと大径部5bとの間には、テーパ状に形成されてブリーダスクリュ2の弁体2cが着座可能な弁座5cが設けられる。このように構成することで、ブリーダスクリュ2の工具係合部2dに工具を係合させて当該ブリーダスクリュ2を緩めることにより、弁体2cと弁座5cとによって構成される弁が開弁される。これにより、エア抜き孔5の大径部5bと小径部5dとが連通されて、液圧回路中のエアが、排気孔6を介してブリーダスクリュ2のノズル部2gから外部(大気中)へ排出される。
【0010】
ブリーダキャップ1は、合成ゴム等によって形成されており、有底筒状に形成されてブリーダスクリュ2のノズル部2gに装着されるキャップ本体1aと、該キャップ本体1aの下部周縁に設けられて筒状に形成されるスカート部1bとによって構成される。なお、図1において、中心線CLの向かって左側がブリーダキャップ1の装着前の状態、中心線CLの向かって右側がブリーダキャップ1の装着後の状態を示す。キャップ本体1aは、その内側の、ブリーダスクリュ2の頭部2eに相対する部分1cの内径が当該頭部2eの外径よりも小さく形成されると共に、ブリーダスクリュ2の頸部2fに相対する部分1dの内径が当該頸部2fの外径よりも小さく形成される。なお、キャップ本体1aの外周面には環状に形成されたフランジ部1eが設けられる。
【0011】
ブリーダキャップ1は、スカート部1bが、ブリーダスクリュ2の工具係合部2dの外径よりも小さく且つねじ部2aの外径よりも大きい内径を有する内円筒面1fを有する。また、ブリーダキャップ1は、図1に示されるように、スカート部1bの肉厚が、基部1g(キャップ本体1aに接続される部分)から開口縁部1hへ向けて逓増されている。スカート部1bは、内円筒面1fの下端部に連続する開口縁部1hの内周面1jが、下方へ向けて拡径されるテーパ状に形成される。また、スカート部1bは、開口縁部1hの端部(シリンダ4の座面4aに対向する部分)に面取り部1kが形成されており、該面取り部1kと開口縁部1hの内周面1jとは略90°の角度をなす。
【0012】
次に、本実施形態のブリーダキャップ1の作用を説明する。ここでは、ブリーダキャップ1をディスクブレーキ3(液圧機器)のシリンダ4のエア抜き孔5に螺着されたブリーダスクリュ2の突出部に装着される場合を説明する。
まず、ブリーダキャップ1のキャップ本体1aの底面1mの中央に開口した孔を、ブリーダスクリュ2のノズル部2gの頭部2eに係合させて、この状態で、ブリーダキャップ1をブリーダスクリュ2に対して押込む。ここで、ノズル部2gの頭部2eがテーパ状に形成されていることから、ブリーダキャップ1のキャップ本体1aをブリーダスクリュ2のノズル部2gに対して容易に押込むことが可能であり、加えて、ノズル部2gの顎部2hを、キャップ本体1a内側の頭部2eに相対する部分1cと頸部2fに相対する部分1dとの境界に形成される段部に食込ませることにより、ブリーダスクリュ2のノズル部2gに対するブリーダキャップ1のキャップ本体1aの抜けが防止される。
【0013】
上述したブリーダキャップ1のキャップ本体1aをブリーダスクリュ2のノズル部2gに押込む過程では、ブリーダキャップ1のスカート部1bは、まず、開口縁部1hのテーパ状に形成された内周面1jが、ブリーダスクリュ2の工具係合部2dの角部に当接して、キャップ本体1aがブリーダスクリュ2に押込まれるに伴い、工具係合部2dによって押し広げられて拡径変形される。そして、スカート部1bの開口縁部1hが、シリンダ4の座面4aに押付けられて押し広げられた状態で当該座面4aに密着する。ここで、スカート部1bは、開口縁部1hの内周面1jがテーパ状に形成されると共に端部に面取り部1kが設けられることにより、開口縁部1hが座面4aに引っ掛かることなく円滑に拡径変形することができる。
【0014】
加えて、スカート部1bは、基部1gの肉厚が当該スカート部1bの他の部分と比較して薄肉であることから、基部1gの剛性(曲げ強度)が当該スカート部1bの他の部分と比較して低くなる。その結果、開口縁部1hがシリンダ4の座面4aに押付けられた時に、スカート部1bに作用する応力(ここでは、スカート部1bの開口縁部1hを除く部分に作用する応力を指す)が基部1gに集中して、当該スカート部1bに作用する応力が、基部1g(薄肉部分)を変形させることにより吸収される。このため、図4に示される従来のブリーダキャップ11のように、スカート部1bが膨らんで開口縁部1hが内側へ捲れ込んでしまうことがない。
【0015】
この実施形態では以下の効果を奏する。
本実施形態によれば、スカート部1bの基部1gの肉厚を当該スカート部1bの他の部分と比較して薄肉に形成したので、基部1gの剛性(曲げ強度)が当該スカート部1bの他の部分と比較して低くなり、その結果、開口縁部1hがディスクブレーキ3(液圧機器)のシリンダ4の座面4aに押付けられた時に、スカート部1bに作用する応力(スカート部1bの開口縁部1hを除く部分に作用する応力)が基部1gに集中して、当該スカート部1bに作用する応力が、基部1g(薄肉部分)を変形させることにより吸収される。
したがって、従来のブリーダキャップ11のように、スカート部1bが膨らんで開口縁部1hが内側へ捲れ込むことがなく、捲れ込みを修正する必要がないので、組付工数を削減することができる。また、ブリーダキャップ1が正規の状態に装着されているか否かを検査する工程を廃止することができ、製造コストを削減することが可能になる。さらに、ブリーダキャップ1の装着を自動化するに向けて好適なブリーダキャップ1を提供することができる。
また、本実施形態によれば、ブリーダキャップ1のスカート部1bの開口縁部1hの端部に面取り部1kを設けたので、スカート部1bの開口縁部1hの端部とシリンダ4の座面4aとの接触が線接触になり(従来のブリーダキャップ1は面接触)、開口縁部1hが座面4aに引っ掛かることなく円滑に拡径変形することが可能になり、スカート部1bの捲れ込みを防止することができる。
【0016】
なお、実施形態は上記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
本実施形態では、ディスクブレーキ3のシリンダ4のエア抜き孔5に螺着されたブリーダスクリュ2の突出部を被覆するブリーダキャップ1を説明したが、当然、マスタシリンダ、ABSユニット等の液圧機器のエア抜き孔に螺着されたブリーダスクリュの突出部を被覆するブリーダキャップ1に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態のブリーダキャップの軸断面図であって、中心線CLの向かって左側が装着前の状態、中心線CLの向かって右側が装着後の状態を示す。
【図2】本実施形態のブリーダキャップを装着したディスクブレーキの正面図である。
【図3】従来のブリーダキャップの軸断面図であって、中心線CLの向かって左側が装着前の状態、中心線CLの向かって右側が装着後の状態を示す。
【図4】従来のブリーダキャップの軸断面図であって、中心線CLの向かって左側が正規に装着された状態、中心線CLの向かって右側が捲れ込みが生じた状態を示す。
【符号の説明】
【0018】
1 ブリーダキャップ、1a キャップ本体、1b スカート部、1h 開口縁部、1k 面取り部、2 ブリーダスクリュ、2g ノズル部、3 ディスクブレーキ(液圧機器)、4a 座面、5 エア抜き孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧機器のエア抜き孔に螺着されたブリーダスクリュのノズル部に嵌合される有底筒状のキャップ本体と、筒状に形成されて基部が前記キャップ本体に接続されると共に開口部が前記液圧機器の座面に密着されるスカート部とを含み、前記ブリーダスクリュにおける前記液圧機器の前記座面から突出される部分を被覆するブリーダキャップであって、
前記スカート部は、その肉厚が前記基部から前記開口部に向けて逓増されることを特徴とするブリーダキャップ。
【請求項2】
前記スカート部は、前記開口部の外側角部に面取り部が形成されることを特徴とする請求項1に記載のブリーダキャップ。
【請求項3】
エア抜き孔に螺着されたブリーダスクリュに、前記ブリーダスクリュのノズル部に嵌合されるキャップ本体と、筒状に形成されて基部が前記キャップ本体に接続されると共に開口部が座面に密着されるスカート部と、からなるブリーダキャップが装着されるディスクブレーキであって、
前記ブリーダキャップは、前記スカート部の肉厚が前記基部から前記開口部に向けて逓増されることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項4】
前記ブリーダキャップは、前記スカート部の前記開口部の外側角部に面取り部が形成されることを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−36268(P2009−36268A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199773(P2007−199773)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】