説明

ブレーキディスク用Cr含有熱延鋼板とブレーキディスク

【課題】熱間圧延ままで、安定してHv200〜260の硬さが得られ、耐食性、製造性にも優れる安価なブレーキディスク用熱延鋼板を提供する。
【解決手段】mass%で、C:0.003〜0.03%、Si:0.8〜3.0%、Mn:0.1〜0.8%、P:0.05〜0.30%、S:0.01%以下、Cr:11.0〜14.5%、Ni:0.01〜0.20%、V:0.01〜0.20%およびN:0.003〜0.03%を含有し、さらに上記成分が下記(1)および(2)式;
420C+470N+23Ni+9Cu+7Mn−11.5Cr−11.5Si−12Mo−47Nb−52Al−49Ti−23V+189≦55 ・・・(1)
C+N≦0.05mass% ・・・(2)
を満たして含有し、ビッカース硬さHvが200〜260の範囲であるCr含有熱延鋼板。ただし、式中の元素記号は、各元素の含有量(mass%)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型のオートバイや作業用車などのブレーキディスクに用いられるCr含有熱延鋼板に関し、特に、所期した硬さを安定して得ることができるとともに、耐焼戻軟化性や耐食性にも優れるフェライト系のブレーキディスク用Cr含有熱延鋼板と、その鋼板から得られるブレーキディスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オートバイや作業用車等の制動装置には、ディスクブレーキが多く使用されている。このディスクブレーキに用いられているディスクは、制動時におけるパッドとの摩擦熱によって300〜500℃の温度に繰り返し昇温される。したがって、ブレーキディスク用の素材には、このような制動時の発熱によっても軟化することがなく、かつ、変形や磨耗が起こり難いものであることが求められる。また、ブレーキディスクの発錆は、制動力の低下に繋がるだけでなく、外観を著しく害することから、耐食性に優れていることも必要である。
【0003】
ところで、ブレーキディスクの硬さが、硬さが低い場合には、摩耗や変形による制動力の低下や割れが発生しやすくなる一方、硬さが高すぎる場合には、ブレーキディスクへの加工が困難になるだけでなく、制動時のブレーキ鳴きやパッドの大幅な寿命低下をもたらすなどの問題が発生する。そのため、ブレーキディスクの硬さは、ビッカース硬さHvで300〜400の範囲に制御されているのが普通である。
【0004】
上記ブレーキディスク用の素材としては、従来から、焼入れ後のビッカース硬さHvが300以上で、500℃の温度での焼戻し軟化が起こり難く、耐食性にも優れた、Crを12〜13mass%含有したマルテンサイト系ステンレス鋼板が使用されてきた。この鋼板は、熱間圧延して得られた鋼板に、焼戻し処理を施してHv140〜190に軟質化してからディスクに加工し、その後、焼入処理あるいはさらに焼戻し処理を施して、Hv300以上の硬さにし、使用に供されている。
【0005】
しかし、コスト削減に対する要求が強い近年では、上記製造工程の見直しが求められている。そこで、現在では、特許文献1や特許文献2に開示されているような、焼入れ処理のみ(焼戻し処理が不要)で適正な硬さが得られ、しかも、耐食性にも優れる低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板がブレーキディスクの素材として用いられるようになってきている。
【0006】
上記低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板は、従来、中・大型のオートバイだけでなく、50〜200ccクラスの小型のオートバイや作業用車用のブレーキディスク素材としても用いられてきた。しかし、小型のオートバイや作業用車のディスクには、上記材料特性では過剰な面もある。このようなディスクでは、Hv200〜260でも硬さとしては十分であると考えられる。
【0007】
また、斯かる用途向けのブレーキディスクには、安価であることも求められている。そこで、鋼に添加されている合金量を低減すること以外に、熱延鋼板のままで、安定して上記範囲の硬さを確保することができれば、焼鈍や焼入れ、焼戻し処理などの工程が省略できるので、ディスクの製造コストを大幅に低減することが可能となると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57−198429号公報
【特許文献2】特開昭60−106951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、これまで、小型のオートバイや作業用車のブレーキディスクには、それ専用の材料はなく、中・大型のオートバイと同様の、高い仕様を有する低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板が使用されていた。また、このような用途では、なるべく安価なブレーキディスクが求められるため、素材の合金コストの低減を図ることも重要である。さらに、熱延のままで、安定してHv200〜260の範囲の硬さを得ることができれば、現行の低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板を用いたブレーキディスクの製造工程で行われているような焼鈍や焼入れ、焼戻し処理などの工程を省略することができるため、製造コストの大幅な低減が可能となる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、50〜250ccクラスの小型オートバイや作業用車のブレーキディスク用材料として、極力、NbやTi,Mo,Niなどの原料コストを増加させる合金元素を添加することなく、熱間圧延のままで安定してHv200〜260の硬さが得られ、ブレーキディスクとして必要な耐焼戻し軟化生と耐食性を有し、さらに製造性にも優れる熱延鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一般に、熱延鋼板は、熱間圧延における加熱条件や冷却条件等の変動やばらつきにより、長さ方向および幅方向で材質にばらつきが生じる。特に、マルテンサイト系の材料では、製造条件の変動による組織の変化が大きく、それに伴って硬さのばらつきも顕著になる。そのため、製造条件を狭い範囲に制御しても、熱間圧延ままで、コイルの全長、全幅に亘って安定的にHv200〜260の範囲とすることは難しい。
【0012】
そこで、発明者らは、フェライト系の材料で、上記課題を解決するべく検討を重ねたが、NbやTi,Mo,Niなどの強化元素を多量に添加せずに、所期したHv200以上の硬さを有する熱延鋼板を得ることは困難であった。そこで、比較的安価な元素や、スクラップや純度の低いCr鉱石に多く含まれている元素に注目し、これらを強化元素として活用することを検討し、鋼板の硬さや耐食性に及ぼす影響を調査した。その結果、Si,PおよびVを所定量添加し、フェライト相が90vol%以上得られる成分バランスとすることによって、上記の所期した硬さと耐食性を満たす熱延鋼板を、熱間圧延のままで安定して製造することができることを見出し、本発明を開発した。
【0013】
すなわち、本発明は、C:0.003〜0.03mass%、Si:0.8〜3.0mass%、Mn:0.1〜0.8mass%、P:0.05〜0.30mass%、S:0.01mass%以下、Cr:11.0〜14.5mass%、Ni:0.01〜0.20mass%、V:0.01〜0.20mass%およびN:0.003〜0.03mass%を含有し、さらに上記成分が下記(1)〜(2)式;
420C+470N+23Ni+9Cu+7Mn−11.5Cr−11.5Si−12Mo−47Nb−52Al−49Ti−23V+189≦55 ・・・(1)
C+N≦0.05mass% ・・・(2)
ここで、上記式中の元素記号は、それぞれの成分の含有量(mass%)である。
を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、ビッカース硬さHvが200〜260の範囲であることを特徴とするブレーキディスク用Cr含有熱延鋼板である。
【0014】
本発明の上記Cr含有熱延鋼板は、Co,Cu,Mo,NbおよびTiのうちから選ばれる1種または2種以上を、それぞれ0.01〜0.10mass%含有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の上記Cr含有熱延鋼板は、Al:0.001〜0.030mass%、Ca:0.0002〜0.0030mass%、Mg:0.0002〜0.0030mass%およびB:0.0002〜0.0060mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の上記Cr含有熱延鋼板は、500℃で1hr焼戻し後のビッカース硬さHvが200〜260であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上記のいずれかに記載のCr含有鋼板を使用したことを特徴とするブレーキディスクである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱間圧延後の焼鈍工程や、ディスク加工後の焼入れ工程が不要で、製造性に優れ、しかも、小型のオートバイや作業用車等のブレーキディスク用として十分な硬さと耐焼戻し軟化性および耐食性を有するCr含有熱延鋼板を安価に得ることができる。したがって、本発明のCr含有熱延鋼板は、小型のオートバイや作業用車等のブレーキディスクに用いて好適である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明のCr含有熱延鋼板が、目標とする硬さ(耐焼戻し軟化性も含む)や耐食性、製造性を確保するために必要な成分組成について説明する。
C:0.003〜0.03mass%
Cは、鋼の硬さを高める元素であり、所望の硬さを得るためには、0.003mass%以上含有していることが必要である。一方、Cは、オーステナイト形成元素でもあるので、0.03mass%を超えて過剰に添加すると、マルテンサイト相が生成し、熱延鋼板の硬さの上昇と、ばらつきの増大を招く。よって、本発明では、Cは0.003〜0.03mass%の範囲とする。なお、良好な製造性を確保するには、Cは0.02mass%以下が好ましい。より好ましくは0.01mass%以下である。
【0020】
Si:0.8〜3.0mass%
Siは、フェライト相の形成と安定化に寄与する元素であり、また、固溶強化によって鋼の硬さを高める元素でもあるので、Hv200〜260の硬さを安定して確保するのに必要な元素である。上記効果を得るためには、Siは少なくとも0.8mass%を添加する必要がある。一方、3.0mass%を超えて添加すると、熱間加工性を著しく低下させるため、安定して鋼板を製造することが難しくなる。よって、Siは0.8〜3.0mass%の範囲とする。なお、安定してHv210以上の硬さを得るためには、1.0mass%超えが好ましく、また、熱間圧延での表面欠陥の発生を抑制する上では、2.0mass%以下が好ましい。
【0021】
Mn:0.1〜0.8mass%
Mnは、鋼の強度を高めると共に、脱酸剤として作用する元素である。上記の効果を得るためには、0.1mass%以上の添加が必要である。一方、Mnは、オーステナイト形成元素であり、過剰に添加すると、マルテンサイト相が生成して熱延鋼板の硬さのばらつきを増大させるほか、耐食性の低下や熱間圧延での表面欠陥発生の原因ともなる。よって、本発明では、Mnは0.1〜0.8mass%の範囲とする。好ましくは0.1〜0.5mass%、さらに好ましくは0.1〜0.4mass%の範囲である。
【0022】
P:0.05〜0.30mass%
Pは、フェライト相の形成と安定化に寄与する元素であり、また、固溶強化によって鋼の硬さを高める元素でもあるので、安定してHv200〜260の硬さを確保するために必要な元素である。上記効果を得るためには、0.05mass%以上含有させる必要がある。一方、0.30mass%を超えて添加すると、熱間加工性を著しく低下させて、鋼板を製造することが難しくなる。なお、安定してHv210以上の硬さを得るためには、0.06mass%超え添加することが好ましく、また、熱間圧延での表面欠陥の発生を確実に防止するには、0.20mass%以下が好ましく、さらに、偏析による鋼板内の硬さのばらつきを低減するには、0.15mass%以下であることがより好ましい。
【0023】
S:0.01mass%以下
Sは、0.01mass%を超えて含有すると、熱間加工性や耐食性が著しく低下する。よって、Sは0.01mass%以下とする。ただし、PとSを多く含有すると、熱間圧延で、欠陥が発生しやすくなるので、Pを0.08mass%以上含有する場合には、Sは0.006mass%以下とするのが好ましい。また、高い耐食性が求められる場合には、Sは0.005mass%以下とするのがより好ましい。
【0024】
Cr:11.0〜14.5mass%
Crは、鋼の耐食性を向上するために必要な重要元素であり、また、フェライト相の形成と安定化のために必要な元素でもある。そこで、本発明では、ブレーキティスクとして十分な耐食性を確保するため、また、安定してフェライト組織を形成するために、11.0mass%以上添加する。なお、耐食性をより高める観点からは、11.5mass%以上とするのが好ましく、さらに、安定してフェライト相が90vol%以上の組織とし、所望の硬さを確保するためには、12.5mass%以上とするのが好ましい。しかし、必要以上に添加すると、合金コストが増加し、本発明の目的の一つである安価な材料ではなくなるので、上限は14.5mass%とする。好ましくは、14.0mass%以下である。
【0025】
Ni:0.01〜0.20mass%
Niは、耐食性を向上する元素であり、0.01mass%以上含有させる必要がある。しかし、Niは、高価な元素であるため、多量の添加は合金コストの上昇を招く。また、Niは、強力なオーステナイト形成元素でもあるため、過度に添加するとマルテンサイトが生成し、熱延鋼板内の硬さがばらつく原因ともなるため、0.20mass%以下とする必要がある。好ましくは、0.10mass%以下である。
【0026】
V:0.01〜0.20mass%
Vは、フェライト相の形成と安定化に寄与する元素である。また、鋼の硬さを高める元素でもあり、Hv200〜260の硬さを安定的に確保する上で必要な元素である。これらの効果を得るためには、0.01mass%以上添加する必要がある。一方、0.20mass%を超えて添加しても、上記効果が飽和し、合金コストが上がるだけである。よって、Vは0.01〜0.20mass%の範囲とする。なお、安定してHv210以上の硬さを得るには、0.05mass%以上添加するのが好ましい。また、合金コスト面からは、0.15mass%以下が好ましい。
【0027】
N:0.003〜0.03mass%
Nは、鋼の硬さを高める元素である。一方、Nは、オーステナイト形成元素でもあるため、過度に添加するとマルテンサイトが生成し、熱延鋼板内の硬さがばらつく原因となる。よって、本発明では、Nは0.003〜0.03mass%の範囲とする。なお、熱間圧延における製造性を考慮すると、0.02mass%以下が好ましい。さらに好ましくは0.01mass%以下である。
【0028】
本発明のCr含有熱延鋼板は、所期した硬さ、耐焼戻し軟化性、耐食性および製造性を安定して確保するためには、上記成分が、上記組成範囲を満たすことに加えて、下記の(1)式および(2)式を満たして含有していることが必要である。
420C+470N+23Ni+9Cu+7Mn−11.5Cr−11.5Si−12Mo−47Nb−52Al−49Ti−23V+189≦55 ・・・(1)
C+N≦0.05mass% ・・・(2)
ここで、上記式中の元素記号は、それぞれの成分の含有量(mass%)である。
【0029】
上記(1)式の左辺は、鋼成分とオーステナイト形成能との関係を表した一般式であり、この式の左辺の値が低いほど、安定してフェライト組織を形成することができことを示している。そこで、熱延鋼板組織の90vol%以上をフェライト相として、熱延鋼板中の硬さのばらつきを抑制し、安定して鋼板硬さをHvで200〜260の範囲とするため、本発明は、上記(1)式の左辺の値を55以下に制限する。好ましくは、45以下であり、さらに好ましくは35以下である。逆に、上記左辺の値が55を超えると、マルテンサイト相が生成して、Hvが260を超えやすくなるとともに、熱延鋼板中で硬さのばらつきを生じやすくなる。
【0030】
また、上記(2)式の左辺は、フェライト相以外に形成される少量のマルテンサイト相の硬さや、熱間圧延の圧延性(製造性)に影響するCおよびNの含有量の合計値を示したものあり、この値が大きくなるほど、マルテンサイト相が形成されやすくなって、鋼板の硬さが上昇し、ばらつきも大きくなる。また、本発明のように、SiやPを多めに含有する鋼では、C,Nの含有量が多いほど、熱間加工性(延性)が低下し、ヘゲや割れによる表面欠陥が発生しやすくなる。そこで、本発明においては、所期した硬さを確保するため、また、良好な熱間圧延性を確保し、表面欠陥や耳割れ等の発生を防止するため、CおよびNの合計量は、0.05mass%以下に制限する。好ましくは0.03mass%以下である。
【0031】
本発明のCr含有熱延鋼板は、上記必須とする成分以外に、耐熱性や耐食性の向上を目的として、Co,Cu,Mo,NbおよびTiのうちから選ばれる1種または2種以上を、それぞれ0.01〜0.10mass%の範囲で添加することができる。
上記耐熱性や耐食性の向上効果を得るためには、それぞれ0.01mass%以上添加するのが好ましい。しかし、過剰に添加しても、その効果が飽和するとともに、合金コストの上昇を招くため、それぞれの元素を、上記(1)式を満たした上で、0.10mass%以下添加するのが好ましい。なお、安価なブレーキディスクを提供するという本発明の目的からは、合金コストを抑制するため、Co,Mo,NbおよびTiについては、上限を0.04mass%として添加するのがより好ましい。
【0032】
さらに、本発明のCr含有熱延鋼板は、上記の選択的添加元素に加えて、熱間圧延での製造性を向上する観点から、Al:0.001〜0.030mass%、Ca:0.0002〜0.0030mass%、Mg:0.0002〜0.0030mass%およびB:0.0002〜0.0060mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を添加してもよい。これらの元素は、OやSによる熱間加工性の低下を抑制する効果がある。その効果を得るためには、Alは0.001mass%以上、Ca,MgおよびBは、それぞれ0.0002mass%以上添加するのが好ましい。しかし、過剰に添加してもその効果が飽和するとともに、形成される介在物が増加し、却って熱間加工性を低下させて、割れ発生の原因となったり、耐食性の低下の原因となったりする。このため、Alは0.030mass%、CaおよびMgは0.0030mass%、Bは0.0060mass%を上限として添加するのが好ましい。
【0033】
次に、本発明のブレーキディスク用のCr含有熱延鋼板と、その鋼板を用いたブレーキディスクの製造方法について説明する。
本発明のCr含有熱延鋼板を製造する方法は、特に限定されるものではなく、通常公知のフェライト系ステンレス熱延鋼板の製造方法を適用することができる。例えば、転炉や電気炉等で鋼を溶製後、VODやAOD等で二次精錬して上記成分組成に調整した溶鋼を、連続鋳造等で厚さ150〜250mmの鋼素材(スラブ)とし、その鋼素材を1000〜1250℃の温度に加熱後、粗圧延および仕上圧延からなる熱間圧延し、板厚2〜10mmのフェライト組織を主体とするブレーキディスク用の熱延鋼板とするのが好ましい。なお上記熱間圧延における望ましい条件は、加熱温度が1080〜1220℃で30分以上、仕上圧延終了温度が900℃以上、巻取温度が500℃以上である。
【0034】
その後、この熱延鋼板に、平坦化などの形状矯正を行うために、目的の硬さが得られる範囲内で、圧下率で10%未満のスキンパス圧延やレベラー処理を施してもよい。
また、必要に応じて、ショットブラストや研削、酸洗処理などで、鋼板表面のスケール除去を行ってもよい。
また、本発明のブレーキディスクは、通常公知のブレーキディスクと同様、上記のようにして得たCr含有熱延鋼板に打抜き、切削、研削、研磨、形状矯正などの加工を施すことで製造することができる。また、本発明のディスクは、上記加工後、必要に応じて、錆発生につながる表面の介在物、汚れ、スケールなどの除去や安定した酸化膜を形成させる不働態化処理等を目的とした酸処理や、塗装などの防錆処理を施してもよい。
【0035】
上記のようにして製造された本発明のブレーキディスクは、使用時における摩擦熱によっても焼戻されて軟化することはないので、500℃で1hrの焼戻し後でも、ビッカース硬さHvで200〜260の硬さを維持し続けることができる。
【実施例】
【0036】
表1に示す成分組成を有するNo.1〜29の鋼を、高周波溶解炉を用いて溶製し、鋳造して10kg鋼塊としたのち、それらの鋼塊を1100℃で30分間以上加熱し、粗圧延と仕上圧延からなる熱間圧延して、板厚が3〜6mmの熱延鋼板とした。
これらの熱延鋼板について、目視観察により欠陥の有無を調査し、表裏面の表面欠陥と鋼板の両幅端部の割れのいずれも認められたものを「××」、両幅端部の割れのみが認められたもののうち、割れが5mmを超えるものを「×」、5mm以下のものを「△」、何れの欠陥も認められなかったものを「○」として、製造性を評価した。
【0037】
【表1】

【0038】
さらに、上記熱延鋼板について、以下の評価試験に供した。
(1)硬さ試験
No.1〜29の熱延鋼板の圧延方向における先端部、中央部および後端部から、それぞれ20〜30mmの小片を採取し、表面のスケールを研磨して完全に除去後、試料表面のビッカース硬さHv(荷重9.8N)を測定した。さらに、上記試験片に、500℃で1hrの熱処理を施したのち、上記と同様にして硬さを測定した。なお、硬さは、それぞれの試料について7点測定し、最大値と最小値を除く5点の平均値で評価し、その平均硬さが、上記3ヶ所ともHv200〜260の範囲内であれば「○」、1ヶ所でも外れているものを「×」と判定した。また、特に望ましい範囲として、3ヶ所ともHvが210〜240であるものを「◎」と判定した。ただし、「○」または「◎」のうち、3ヶ所の最大値と最小値の差がHvで30以上あったものについては「△」と判定した。
(2)耐食性試験
No.1〜29の熱延鋼板から70×120mmの試料を採取し、表面のスケールを研摩して完全に除去した後、さらに#600の研磨紙で湿式研磨し、JIS Z2371の規定に準拠した条件で48時間の塩水噴霧試験(SST試験)を行った。試験後、目視観察し、幅が0.5mm以上の錆の数を測定し、その数が2個以下であるものを耐食性が良「○」、3〜5個を劣「△」、6個以上を悪「×」と判定した。また、特に錆の数が0個のものを耐食性が優「◎」と判定した。
【0039】
上記の製造性、硬さおよび耐食性の評価結果を表2に示した。No.1〜15の鋼から製造した発明例の鋼板は、熱間圧延による大きな欠陥も認められず、熱延ままでのビッカース硬さHvがいずれも200〜260の範囲にあり、さらに500℃で1hr保持する熱処理後も同じ範囲の硬さを維持しており、耐焼戻し軟化性も良好である。また、耐食性の評価結果も「○」または「◎」で良好である。一方、No.16〜29の鋼から製造した比較例の鋼板は、熱間圧延で大きな割れが発生したり、硬さが目的とする範囲から外れたり、あるいは、耐食性が劣っていたりし、いずれか1以上の特性において本発明が目標とする品質を満たしていなかった。
【0040】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.003〜0.03mass%、
Si:0.8〜3.0mass%、
Mn:0.1〜0.8mass%、
P:0.05〜0.30mass%、
S:0.01mass%以下、
Cr:11.0〜14.5mass%、
Ni:0.01〜0.20mass%、
V:0.01〜0.20mass%および
N:0.003〜0.03mass%を含有し、
さらに上記成分が下記(1)〜(2)式を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、ビッカース硬さHvが200〜260の範囲であることを特徴とするブレーキディスク用Cr含有熱延鋼板。
420C+470N+23Ni+9Cu+7Mn−11.5Cr−11.5Si−12Mo−47Nb−52Al−49Ti−23V+189≦55 ・・・(1)
C+N≦0.05mass% ・・・(2)
ここで、上記式中の元素記号は、それぞれの成分の含有量(mass%)である。
【請求項2】
Co,Cu,Mo,NbおよびTiのうちから選ばれる1種または2種以上を、それぞれ0.01〜0.10mass%含有することを特徴とする請求項1に記載のブレーキディスク用Cr含有熱延鋼板。
【請求項3】
Al:0.001〜0.030mass%、Ca:0.0002〜0.0030mass%、Mg:0.0002〜0.0030mass%およびB:0.0002〜0.0060mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキディスク用Cr含有熱延鋼板。
【請求項4】
500℃で1hr焼戻し後のビッカース硬さHvが200〜260であることを特徴とする請求項1〜3に記載のブレーキディスク用Cr含有熱延鋼板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のCr含有鋼板を使用したことを特徴とするブレーキディスク。

【公開番号】特開2011−225948(P2011−225948A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97807(P2010−97807)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】