説明

ブレーキ予告システムおよびブレーキ予告方法並びにブレーキ予告処理プログラム

【課題】 交差点手前の所定領域に進入することを予測し、信号が黄色表示となる前に車両走行速度を低減するとともに、後方の走行車両に対して間もなくブレーキを作動させる旨を予告するブレーキ予告システムを提供する。
【解決手段】 受信部10を介して信号制御システム200が提供する信号予告情報を受信する。車両走行情報取得部20を介して車両の速度情報と位置情報を含む走行状態に関する情報を取得する。制御部30が信号予告情報と速度情報と位置情報に基づいて車両が交差点手前の所定領域へ所定タイミングで進入することを判断した場合、所定領域の手前にてブレーキ介入部40を介して走行速度の減速を自動的に開始するブレーキ介入動作を制御する。さらにブレーキ介入動作が開始される前に、ブレーキ予告部50を介して後方車両に対して間もなくブレーキ介入動作を開始する旨を予告する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方の車両が交差点の信号制御システムにより提供される信号予告情報に基づいて交差点手前でブレーキを作動させて走行速度の減速を開始する場合、後方の車両に対して、間もなくブレーキを作動させる旨をあらかじめ予告するブレーキ予告システムおよびブレーキ予告方法並びにブレーキ予告処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
信号交差点において、走行車両の運転者が黄色信号を見てから通常のブレーキ操作を行なっても停止線に合わせて停止できず、かつ、黄色信号の時間内に停止線を通過できないというタイミングで信号表示が青色から黄色に切り替わると、交差点における無理な急ブレーキや信号無視となる赤色信号での交差点通過を誘発し、交通事故の危険性が非常に大きくなる。
【0003】
(社)交通工学研究会「交通信号の手引き」によると、信号が黄色に変わった時点の車の速度と位置の関係から車が停止線に合わせて停止することも黄色表示期間中に停止線を通過することもできない領域が存在し、これをジレンマゾーンと定義している。ジレンマゾーンでは運転者によって交差点の走行について異なる判断が混在するため、つまり、ブレーキを掛けずにそのまま交差点を通過するという判断とブレーキを掛けて交差点の手前で停止するという判断が混在するため、交通事故の危険性が高くなると考えられる。
【0004】
かかる状況の発生を未然に防止すべく、例えば特許文献1では、交差点手前の所定領域(ジレンマゾーン)に入ることを予測し、信号が黄色表示となる前に事前に走行中の車両の運転者にその旨を知らせることにより、運転者が落ち着いて、交差点手前で停止するか、交差点を通過するかのいずれかを選択することにより選択ミスを減少させる所定領域報知方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−357293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来の方法では、信号予告情報に基づいてジレンマゾーンに関する情報が車両の運転者に通知されているが、実際の判断は運転者に委ねられている。この場合、ブレーキ操作が遅れたり、周囲の走行車両が予期しない急ブレーキ操作となったりすることもあり得る。特に、ジレンマゾーン内を2台の車両が比較的接近して走行している場合においては、もし前方の車両運転者が交差点の信号制御システムから提供される信号予告情報に基づいて交差点手前でブレーキ作動により走行速度の減速を開始したものの、後方の車両運転者が前方の車両運転者のブレーキ作動が予測できない場合には追突する危険性が大きくなる。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、交差点手前の所定領域(ジレンマゾーン)に進入することを精度良く予測し、信号が黄色表示となる前に事前に車両走行速度を安全に低減するとともに、後方の走行車両に対して間もなくブレーキを作動させる旨をあらかじめ確実に予告するブレーキ予告システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のブレーキ予告システムは、交差点の信号制御システムから提供される信号表示の変化に関する信号予告情報を受信する受信部と、車両の速度情報と位置情報を含む走行状態に関する情報を取得する車両走行情報取得部と、前記受信部が受信した前記信号予告情報と前記車両走行情報取得部により取得した前記速度情報と前記位置情報に基づいて、所定タイミングにおいて前記車両が前記速度情報の車両速度にて前記交差点手前の所定領域内を走行していると判断した場合に、前記所定領域に進入する予測時刻よりも所定時間前から前記走行速度の減速を自動的に開始するブレーキ介入動作を制御するブレーキ介入部と、前記ブレーキ介入部によるブレーキ介入動作が開始される時刻の所定時間前に、後方の車両に対して前記ブレーキ介入動作を開始する旨をあらかじめ予告するブレーキ予告動作を制御するブレーキ予告部を備えたことを特徴とする。
上記構成により、交差点手前の所定領域に進入すると予測した場合に、適切にブレーキ介入動作を行って車両走行速度を安全に低減するとともに、後方の走行車両に対して間もなくブレーキを作動させる旨をあらかじめ予告し、追突事故などの危険性を低減することができる。
【0009】
なお、上記構成において、前記所定タイミングが、前記交差点の信号が青色から黄色に変わるタイミングであり、前記交差点手前の所定領域が、前記交差点の信号が青色から黄色に変わったタイミングにおける車の走行速度と車の位置関係から前記交差点の停止線に合わせて停止することも黄色表示期間中に前記交差点の停止線を通過することもできない領域であることが好ましい。この領域はいわゆるジレンマゾーンと呼ばれる。
もっとも、本発明にいう「所定タイミング」及び「交差点手前の所定領域」は上記ジレンマゾーンに限定されるものではない。例えば、「所定タイミング」を黄色信号が終了する時点とし、かつ、「交差点手前の所定領域」を、その時点において車両が停止線を通過できない領域として定義することにしてもよい。
また、「所定タイミング」を、交差点の全信号機が赤色信号である状態が終了する時点とし、かつ、において、「交差点手前の所定領域」を、車両が交差点出口(出口側の横断歩道を越えた地点)を通過できない領域として定義することもできる。
【0010】
なお、前記ブレーキ予告動作がハザードランプまたはブレーキランプの点灯・点滅であることが好ましく、また、前記ブレーキ予告動作がブレーキ予告専用灯の点灯・点滅であるとすることも好ましい。
上記構成により、後方の走行車両の運転者に対して、ブレーキ予告を確実かつ分かりやすく通知することができる。
【0011】
本発明の車両車載装置は上記ブレーキ予告システムを組み込んだ車両車載装置である。
本発明の車両(乗用車、業務用トラックなど)は、上記ブレーキ予告システムを搭載した車両である。
【0012】
次に、本発明のブレーキ予告方法は、交差点の信号制御システムから提供される信号表示の変化に関する信号予告情報を受信手段により受信し、車両の速度情報と位置情報を含む走行状態に関する情報を車両走行情報取得手段により取得し、前記受信手段により受信した前記信号予告情報と前記車両走行情報取得手段により取得した前記速度情報と前記位置情報に基づいて、所定タイミングにおいて前記車両が前記速度情報の車両速度にて前記交差点手前の所定領域内を走行していると判断した場合に、前記所定領域に進入する予測時刻よりも所定時間前から前記走行速度の減速を自動的に開始するブレーキ介入動作を行ない、前記ブレーキ介入動作が開始される時刻の所定時間前に、後方の車両に対して前記ブレーキ介入動作を開始する旨をあらかじめ予告するブレーキ予告動作を行なうことを特徴とする。
【0013】
また、本発明のブレーキ予告処理プログラムは、交差点の信号制御システムから提供される信号表示の変化に関する信号予告情報を受信する受信処理ステップと、車両の速度情報と位置情報を含む走行状態に関する情報を取得する車両走行情報取得処理ステップと、前記受信処理ステップにおいて受信した前記信号予告情報と前記車両走行情報取得処理ステップにより取得した前記速度情報と前記位置情報に基づいて、所定タイミングにおいて前記車両が前記速度情報の車両速度にて前記交差点手前の所定領域内を走行していると判断した場合に、前記所定領域に進入する予測時刻よりも所定時間前から前記走行速度の減速を自動的に開始するブレーキ介入動作を制御するブレーキ介入処理ステップと、前記ブレーキ介入処理ステップによりブレーキ介入動作が開始される時刻の所定時間前に、後方の車両に対して前記ブレーキ介入動作を開始する旨をあらかじめ予告するブレーキ予告動作を制御するブレーキ予告処理ステップと、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のブレーキ予告システムによれば、交差点の信号制御システムにより提供される信号予告情報を有効に利用し、ブレーキ介入動作により交差点手前で走行速度の減速を適切に開始するとともに、ブレーキ予告動作により後方の車両に対して間もなくブレーキを作動させる旨の予告を適切かつ確実に行なうことができ、交差点における追突事故などの危険性を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明のブレーキ予告システムの実施形態を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に示した具体的な用途や形状・寸法などには限定されない。
〔実施形態1〕
【0016】
本発明の実施形態1にかかるブレーキ予告システムを説明する。以下、まず、ジレンマゾーンの概念について説明し、次に、ブレーキ予告システムの構成例を示し、次に、ブレーキ予告動作およびブレーキ介入動作の流れについて示す。
【0017】
[ジレンマゾーンの概念]
ジレンマゾーンとは、交差点の信号が青色から黄色に変わったタイミングにおける車の走行速度と車の位置関係から交差点の停止線に合わせて停止することも黄色表示期間中に交差点の停止線を通過することもできない領域を言う。つまり、黄色信号に気付いてからブレーキを掛けて止まっても交差点の停止線を越えてしまう危険な運転となり、ブレーキを掛けずにそのまま交差点を通過するとしても交差点を通過する前に信号機が黄色信号から赤色信号に変わってしまう危険な運転になるような領域を言う。信号機の黄色信号切替を受けてブレーキを掛け交差点の停止線を越えて止まるか、そのままブレーキを掛けずに交差点を通過するかは運転者の選択による。なお、ジレンマゾーンの大きさは車の走行速度と信号機の黄色表示時間の長さにより変化する。
上記のように、ジレンマゾーンはブレーキを掛けて交差点手前に止まるかブレーキを掛けずに通過するか運転者の選択により運転行動が決まる領域となっている。
【0018】
具体的なジレンマゾーンの求め方について説明する。
今、車両の走行速度に応じ、ブレーキを掛けてから完全に停止するまでに必要な距離(停止必要距離)L1と、黄色の表示期間中に通過可能な距離(通過可能距離)L2を考える。停止必要距離L1は次の式(1)で算出され、通過可能距離L2は次の式(2)で算出される。なお、減速時の加速度dについては後述する車両走行情報取得部20により得る構成としても良く、車両走行速度の変化から計算する構成としても良い。
【0019】
L1=Vy×τ+(Vy/2d)…(1)
L2=Vy×Y …(2)
但し、
Vy:黄色表示切替時点の車両の走行速度(m/秒)
τ:黄色表示切替後の運転者の反応速度(秒)
d:黄色表示切替後の減速時の加速度(m/秒2)
Y:黄色の表示時間(秒)
【0020】
停止必要距離L1とは、走行速度Vyにおいて走行中の運転者が、前方の信号機の信号表示が青色から黄色に変わったことを認識した後、ブレーキを踏み込んでから完全に停止するまでに必要な距離を言う。
通過可能距離L2とは、走行速度Vyにおいて走行中の運転者が、前方の信号機の信号表示が青色から黄色に変わってもそのまま進んだ場合に黄色表示時間中に進むことが可能な距離を言う。
【0021】
ジレンマゾーンは定義に従えば、交差点の停止線から停止必要距離L1よりも短くかつ通過可能距離L2より長いという領域となる。つまり、信号表示が黄色に変わった時刻Tyにおいて走行車両の交差点の停止線までの距離がL1より短い場合、ブレーキを掛けても停止線までに止まることができず、また、走行車両の交差点の停止線までの距離がL2より長い場合、そのまま直進しても黄色表示時間中に停止線を越えて交差点内に入ることができないこととなる。この両方の関係を満たす領域がジレンマゾーンである。
つまり、ジレンマゾーンが発生する条件は、車両の走行速度Vと信号機の黄色持続期間Yの関係においてL1>L2の関係が必要である。
また、走行車両がジレンマゾーンにいる場合とは、信号機の黄色表示切替時点での交差点から走行車両までの距離Lyと停止必要距離L1と通過可能距離L2との3者の関係がL1>Ly>L2の関係を満たす場合を言う。
【0022】
具体例を挙げてジレンマゾーンの発生を説明する。
例えば、式(1)においてτ=1(秒)、d=0.3g(g:重カ加速度)とした場合の停止必要距離L1、通過可能距離L2との関係を示すグラフを、図1に示す。図1の横軸は走行速度(km/時)であり、縦軸は車両位置(m)である。また、時速40〜80kmにおける10km毎の停止必要距離L1、通過可能距離L2の数値の具体例を(表1)に示す。
図1において、L1>Ly>L2となるエリアがジレンマゾーンである。
【0023】
【表1】

【0024】
図2は、交差点におけるジレンマゾーンの発生個所およびブレーキ介入始動位置D、ブレーキ予告始動位置Eを示す模式図である。この場合はL1>L2となっており、交差点10aの停止線からの距離がL2以上かつL1以下である道路の範囲(図2でハッチングを付したZの範囲)がジレンマゾーンとなる。
【0025】
図2において、先行の車両300にはブレーキ予告システム100が搭載されており、後続の車両310にはブレーキ予告システム100は搭載されていないものとなっている。交差点には信号機210が設けられ、信号制御システム200が信号機210の中またはその付近に設けられている。なお、図2中に示したブレーキ介入始動位置D,ブレーキ予告始動位置Eについては後述する。
【0026】
以上のように、式(1)および式(2)に基づいて計算するか、〔表1〕のようなテーブルを参照するか、いずれかの方法により、車両の走行速度Vyと信号機の黄色表示持続時間Yに基づいて停止必要距離L1および通過可能距離L2を決定し、ジレンマゾーンの発生およびその範囲を決定する。
【0027】
[ブレーキ予告システムの構成例]
図3は実施形態1に係るブレーキ予告システム100の基本構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態1に係るブレーキ予告システム100は、受信部10と、車両走行情報取得部20と、制御部30と、ブレーキ介入部40と、ブレーキ予告部50を備えている。
【0028】
受信部10は交差点の信号制御システム200から提供される信号表示の変化に関する信号予告情報を受信する部分である。
ここで、信号予告情報とは交差点の信号機が黄色表示に切り替わる時刻Tyの情報および黄色表示の持続時間Yが含まれており、交差点に設置する信号機または交差点付近の信号制御機に組み込まれている信号制御システム200から提供される。なお、黄色持続時間Yの代わりに赤色に変わる時刻Trの情報であっても良い。この場合、黄色持続時間Yを、Y=Tr−Tyとして求めれば良い。
【0029】
車両走行情報取得部20は、車両の走行に関する諸情報を取得する部分である。この実施形態1の例では速度検知部21と位置検知部22を備え、車両の走行速度Vxと走行車両の現在位置情報Pxを取得する。また、この例では、交差点付近の詳しい地図情報を利用するものとし、車両の位置情報Pxと交差点付近の地図情報を基にして現在の車両位置と交差点の停止線との距離Lxを得ることができるものとする。なお、交差点付近の地図情報は当初から車両走行情報取得部20内に保持しておいても良く、また、交差点の信号制御システム200から提供されるものを動的に受信することとしても良い。
【0030】
制御部30は、ジレンマゾーン判断部31と、ブレーキ介入判断部32と、ブレーキ予告判断部33を備えている。
【0031】
ジレンマゾーン判断部31は、交差点手前に生じるジレンマゾーンの発生を判断し、走行車両の当該ジレンマゾーンへの進入予測を判断する。
【0032】
ジレンマゾーンの発生は、受信部10を介して得る信号予告情報(黄色に変わる時刻Ty、黄色持続時間Y)と、車両走行情報取得部20を介して得る黄色表示切替時点の車両の走行速度情報Vy、走行速度Vyの変化から求める加速度d、既知の数値として与えられる運転者の反応速度τを基に上記式(1)および式(2)によりL1、L2を計算して判断する。
【0033】
次に、走行車両の当該ジレンマゾーンへの進入予測は以下のように行なう。
まず、現在の走行速度Vx、現在の時刻Tx、交差点の停止線までの距離Lx、信号機の青色表示から黄色表示への切替時刻Tyに基づいて、信号機が黄色表示に切り替わる時点での車両と交差点の停止線までの距離Lyを次の式(3)により算出する。
Ly=Lx−Vx×(Ty−Tx)…(3)
【0034】
算出した黄色表示切替時点での車両と停止線までの距離Lyと、ジレンマゾーンの境界を示すL1、L2との関係を調べて信号機の黄色表示への切替時刻Tyにおいて走行車両がジレンマゾーンに進入しているか否かを判断する。
具体的には次の式(4)に示す不等式を満たす場合、車両が黄色信号切替のタイミングにおいてジレンマゾーンに進入していると判断する。
L1>Ly>L2 …(4)
ジレンマゾーン判断部31は上記式(4)を満たしていると判断すれば、ジレンマゾーン進入予測情報をブレーキ介入判断部32に通知する。
【0035】
ブレーキ介入判断部32はジレンマゾーン判断部31から通知されたジレンマゾーン進入予測情報を基に、車両がジレンマゾーンに進入する以前の段階で安全にブレーキの介入動作を始動するタイミングを判断する。ブレーキ介入動作は、このままの走行を続ければ交差点手前で信号表示が青色から黄色に変わるために急ブレーキを掛けるかそのまま交差点に突っ込んで行かの危険な判断を求められるジレンマゾーンへ進入してしまう以前にブレーキを始動し、交差点の停止線に合わせて安全に停止すべく自動的に始動するものである。ブレーキ介入判断部32は当該ブレーキ介入動作を始動させる適切なタイミングを判断する。
【0036】
ジレンマゾーンの場合、走行車両が当初の走行速度を維持したまま交差点の手前に生じるジレンマゾーンに進入する予測時刻Tzより早い時刻にブレーキを掛け始めれば走行車両がジレンマゾーンへ進入することはなくなる。そのため、ブレーキ介入動作の始動タイミングは、ジレンマゾーン進入予測時刻Tzよりも所定時間前であれば良いこととなる。あまり早い時刻からブレーキ介入動作を始動すると交差点の手前で走行速度が必要以上に遅くなったり交差点の停止線より前に停止してしまったりするので却って交通の流れを妨害することとなる。そこで、適切なタイミングにおいてブレーキ介入動作を始動する必要がある。
【0037】
ここでは、例えば、ブレーキ介入判断部32は、ブレーキ介入動作始動タイミングを次の式(5)に従い、ジレンマゾーン進入予測時刻Tzよりも所定時間α秒早い時刻T1と判断する。
T1=Tz−α …(5)
【0038】
ブレーキ介入判断部32は、ブレーキ予告判断部33に対してブレーキ介入動作始動タイミングT1を通知する。
なお、ブレーキ介入判断部32は時刻T1になれば、ブレーキ介入部40にブレーキ介入動作始動を指示する。
また、この時刻T1におけるブレーキ介入動作始動位置は、図2に示したブレーキ介入動作始動位置Dとなっている。
【0039】
次に、ブレーキ予告判断部33は、ブレーキ介入部40が時刻T1においてブレーキ介入動作を始動する所定時間前に、後続の走行車両に対して、近々ブレーキが始動される旨を通知するブレーキ予告を発するタイミングを判断する。
【0040】
本発明のブレーキ介入動作は、前方の交差点の信号表示が青色から黄色に変わる以前の時刻T1においてジレンマゾーンへの進入を予測して早めにブレーキを掛けるものであるので、後続の走行車両から見れば、前方の交差点の信号表示がまだ青色であるにもかかわらず先行の走行車両のブレーキが始動することとなり、通常は当該ブレーキ介入始動が予測できず却って追突の危険性が高くなる。そこでブレーキ介入始動の前に先立って適切なタイミングにおいてブレーキ予告を行なうものである。ブレーキ予告のタイミングは、ブレーキ介入始動の時刻T1よりも早い時刻であれば良いこととなる。あまり早い時刻からブレーキ予告を行なうと却って交通の流れを妨害することとなる。また、ブレーキ介入始動の時刻T1の直前ぎりぎりにブレーキ予告を行なうと後続の走行車両の運転者にとりブレーキ介入始動の認識が十分には間に合わない。そこで適切なタイミングにおいてブレーキ予告を始動する必要がある。
【0041】
ここでは、例えば、ブレーキ予告判断部33は、ブレーキ予告始動タイミングT2を次の式(6)に従い、ブレーキ介入始動タイミングT1の所定時間β秒早い時刻T2とする。
T2=T1−β …(6)
なお、ブレーキ予告判断部33は時刻T2になれば、ブレーキ予告部50にブレーキ予告始動を指示する。
また、この時刻T2におけるブレーキ予告始動位置は、図2に示したブレーキ介入動作始動位置Eとなっている。
【0042】
ブレーキ介入部40はブレーキユニット110へのインターフェイスを備え、制御部30のブレーキ介入判断部32から受けるブレーキ介入動作始動指示に基づいてブレーキユニット110の動作を制御する。ブレーキユニット110はブレーキ介入部40の制御に従いブレーキの始動、解除を行なう。なお、ブレーキ介入部40はブレーキユニット110のブレーキの始動にあたり急ブレーキにならないように制御することが好ましい。
【0043】
ブレーキ予告部50はブレーキ介入部40によるブレーキ介入動作が開始される前に、後方の車両に対して間もなくブレーキ介入動作を開始する旨をあらかじめ予告するブレーキ予告動作を制御する部分である。
ブレーキ予告部50はブレーキランプ120へのインターフェイスを備え、制御部30のブレーキ予告判断部33から受けるブレーキ予告始動指示に基づいてブレーキランプ120の点灯・点滅動作を制御する。
【0044】
図3はブレーキランプ120が設けられている例であるが、ブレーキランプ120に代え、ハザードランプを用いる構成も可能であり、また、ブレーキ予告専用灯を設ける構成としても良い。
以上が、本発明のブレーキ予告システム100の基本構成である。
【0045】
[ブレーキ予告動作およびブレーキ介入動作の流れ]
次に、ブレーキ予告動作およびブレーキ介入動作の流れをフローチャートを参照しつつ確認しておく。
図4はブレーキ予告動作およびブレーキ介入動作の流れを示すフローチャートである。
前提として、交差点の信号機内に設けられている信号制御システム200または交差点付近に設けられた信号制御システム200から信号予告情報が無線信号などで交差点に接近してくる車両に対して発信されている。そして、当該交差点に2台の車両が前後連なって交差点付近に近づいているとする。
【0046】
まず、受信部10を介して信号制御システム200が提供する信号予告情報が取得される(ステップS2)。少なくとも取得される情報は、信号機の表示が青色表示から黄色表示への切替時刻Ty、黄色持続時間Yが含まれる。なお、黄色持続時間Yの代わりに黄色表示から赤色表示に変わる時刻Trの情報であっても良い。この場合、黄色持続時間Yを、Y=Tr−Tyとして求めれば良い。
【0047】
次に、車両走行情報取得部20を介して車両走行に関する諸情報を取得する(ステップS3)。少なくとも取得される情報は、車両の走行速度Vxと、走行車両の現在位置情報Pxが含まれる。また、この段階で、車両走行情報取得部20が交差点付近の詳しい地図情報を利用し、現在の車両位置と交差点の停止線との距離Lxを算出して取得する構成でも良い。また、黄色表示切替後の減速時の加速度dについては車両に取り付けた加速度センサで計測して取得する構成でも良く、また、走行速度Vxの変化から算出して取得する構成でも良い。
【0048】
次に、信号機の黄色表示切替時刻Tyにおいて走行車両がジレンマゾーンを走行しているか否か判断する(ステップS4)。
【0049】
まず、ジレンマゾーン判断部31によりジレンマゾーンの発生を判断する。ジレンマゾーンの発生は、ジレンマゾーンの境界を上記した式(1)および式(2)により算出する。
次に、黄色表示切替時刻Tyでの車両と交差点の停止線との距離LyとL1,L2の関係を調べ、黄色表示切替時刻Tyにおいてジレンマゾーンを走行しているか否かを判断する。信号機が黄色表示に切り替わる時点での車両と交差点の停止線までの距離Lyは、上記式(3)に従い、現在の走行速度Vx、現在の時刻Tx、交差点の停止線までの距離Lx、信号機の黄色表示への切替時刻Tyに基づいて算出する。算出した黄色表示切替時点での車両と停止線までの距離Lyと、ジレンマゾーンの境界を示すL1、L2との関係は式(4)を満たすか否かにより信号機の黄色表示への切替時刻Tyにおいて走行車両がジレンマゾーンに進入しているか否かを判断する。
【0050】
信号機の黄色表示切替時刻Tyにおいて走行車両がジレンマゾーンを走行していない場合(ステップS4:NO)、ステップS1に戻る。つまり、当該交差点では問題なくブレーキ操作により停止線に合わせて停止でき、または、そのまま交差点を通過できることを意味する。
信号機の黄色表示切替時刻Tyにおいて走行車両がジレンマゾーンを走行している場合(ステップS4:YES)、ステップS5に進む。
【0051】
ブレーキ介入判断部32はジレンマゾーン判断部31からのジレンマゾーン進入予測通知を受け、ジレンマゾーンへの進入予測時刻Tzを基にブレーキ介入する時刻T1を式(5)により算出し、ブレーキ介入部40にブレーキ介入すべき時刻T1を通知するとともに、ブレーキ予告判断部33にもブレーキ介入時刻T1を通知する(ステップS5)。
【0052】
次に、ブレーキ予告判断部33はブレーキ介入判断部32からのブレーキ介入時刻T1を受け、ブレーキ予告を始動する時刻T2を前記式(6)により算出し、ブレーキ予告部50にブレーキ予告を始動する時刻T2を通知する(ステップS6)。
【0053】
次に、時刻がT2になればブレーキ予告部40は、ブレーキ予告判断部33からの通知に基づき、ブレーキランプ120に対してブレーキランプの点灯・点滅(ブレーキ予告動作)の始動を指示する(ステップS7)。
ブレーキランプ120はブレーキ予告動作始動の指示を受け、ブレーキランプの点灯・点滅の動作を始める。なお、このブレーキ予告動作始動の位置が図2に示したブレーキ予告始動位置Eである。
【0054】
時刻がT1になればブレーキ介入部40は、ブレーキ介入判断部32からの通知に基づき、ブレーキユニット110に対してブレーキ介入動作の始動を指示する(ステップS8)。
ブレーキユニット110はブレーキ介入動作始動の指示を受け、ブレーキの介入動作を始める。なお、このブレーキ介入動作始動の位置が図2に示したブレーキ介入始動位置Dである。
【0055】
交差点での一連の制御が終わり、後続車両に対してブレーキ予告の後、ブレーキ介入動作により交差点の停止線に合わせて停止した後、ステップS1に戻り、次の交差点での制御に備える(ステップS1へ戻る)。
以上、図4に示したフローチャートは基本的なブレーキ予告動作、ブレーキ介入動作の流れを示すものであり、他のフローへの変形も可能である。
【0056】
以上が、本発明の実施形態1にかかるブレーキ予告システムの説明である。
なお、上記実施形態1にかかるブレーキ予告システムの説明では、ジレンマゾーンの終端位置となる通過可能距離L2は式(2)に従って黄色表示期間Yを基に計算して求めたが、その定義を代えて、黄色表示期間Yに加えて全赤表示期間R1を含め、全赤表示期間R1の間に交差点を渡り切る場合まで含めて通過可能距離L2を決定しても良い。
ここで、「全赤表示期間」とは、交差点の信号表示期間において、黄色表示期間の直後の赤色表示期間の冒頭に交差点の信号のすべてが赤色表示となる期間である。全赤表示期間を用いてジレンマゾーンを決める場合、走行速度Vyにおいて走行中の運転者が、前方の信号機の信号表示が黄色に変わった瞬間から黄色表示期間Yとさらに赤色に変わった直後の全赤表示期間R1が終了するまでの走行距離を通過可能距離L2となる。この場合、通過可能距離L2の計算式は式(2)に代え、次の式(7)となる。
L2=Vy×(Y+R1) …(7)
ここで、Yは黄色表示期間、R1は全赤表示期間である。
なお、上記のように全赤表示期間を含めて通過可能距離L2を決定する場合、L2の終端位置は図2に図示しているような交差点の入り口の位置ではなく、交差点の出口の位置(交差点を渡り切る位置)となる。
【0057】
〔実施形態2〕
実施形態2は、本発明のブレーキ予告システムを組み込んだ車両車載装置である。本発明のブレーキ予告システム100はいわゆる車両車載装置の形に組み上げることができる。図3に示すブレーキユニット110、ブレーキランプ120は車両側の構成部分とし、ブレーキ予告システム100の部分を例えばセットトップボックス型に組み上げる。なお、車両側の制御装置(図3には図示せず)との間でデータ入出力が可能となっていることが好ましい。車両側の構成要素と本発明のブレーキ予測システム側との間でデータのやりとりができ、種々の情報制御が可能となるからである。
【0058】
〔実施形態3〕
実施形態3は、本発明のブレーキ予告システムを組み込んだ車両(乗用車、業務用トラックなど)である。本発明のブレーキ予告システム100はいわゆる車両に組み込むことができる。車両は特に限定されず、乗用車、業務用トラックなど多様な車両が想定される。図3に示すブレーキユニット110、ブレーキランプ120に加え、エンジン、駆動装置など車両が走行に必要な構成要素は当然含むものとする。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
例えば、上記各実施形態では、交差点の信号が青色から黄色に変わるタイミングでジレンマゾーンを走行していると判断した場合にブレーキ介入動作を行うようにしているが、この介入動作を行うタイミング及び交差点手前の領域はこれに限るものではない。
例えば、黄色信号が終了するタイミングにおいて車両が停止線を通過できない領域を走行すると判断した場合に、ブレーキ介入動作を行うようにしてもよい。また、交差点の全信号機が赤色信号である状態が終了するタイミング時点において、車両が交差点出口(出口側の横断歩道を越えた地点)を通過できない領域を走行すると判断した場合に、ブレーキ介入動作を行うことにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】ジレンマゾーンが生じる条件を示す停止必要距離L1、通過可能距離L2との関係を示すグラフである。
【図2】交差点におけるジレンマゾーンの発生個所およびブレーキ介入始動位置D、ブレーキ予告始動位置Eを示す模式図である。
【図3】実施形態1に係るブレーキ予告システム100の基本構成を示すブロック図である。
【図4】ブレーキ予告動作およびブレーキ介入動作の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0061】
10 受信部
20 車両走行情報取得部
21 速度検知部
22 位置検知部
30 制御部
31 ジレンマゾーン判断部
32 ブレーキ介入判断部
33 ブレーキ予告判断部
40 ブレーキ介入部
50 ブレーキ予告部
100 ブレーキ予告システム
110 ブレーキユニット
120 ブレーキランプ
200 信号制御システム
210 信号機
300 車両(ブレーキ予告システム搭載)
310 車両(ブレーキ予告システム不搭載)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
交差点の信号制御システムから提供される信号表示の変化に関する信号予告情報を受信する受信部と、
車両の速度情報と位置情報を含む走行状態に関する情報を取得する車両走行情報取得部と、
前記受信部が受信した前記信号予告情報と前記車両走行情報取得部により取得した前記速度情報と前記位置情報に基づいて、所定タイミングにおいて前記車両が前記速度情報の車両速度にて前記交差点手前の所定領域内を走行していると判断した場合に、前記所定領域に進入する予測時刻よりも所定時間前から走行速度の減速を自動的に開始するブレーキ介入動作を制御するブレーキ介入部と、
前記ブレーキ介入部によるブレーキ介入動作が開始される時刻の所定時間前に、後方の車両に対して前記ブレーキ介入動作を開始する旨をあらかじめ予告するブレーキ予告動作を制御するブレーキ予告部を備えたことを特徴とするブレーキ予告システム。
【請求項2】
前記所定タイミングが、前記交差点の信号が青色から黄色に変わるタイミングであり、
前記交差点手前の所定領域が、前記交差点の信号が青色から黄色に変わったタイミングにおける車の走行速度と車の位置関係から前記交差点の停止線に合わせて停止することも黄色表示期間中に前記交差点の停止線を通過することもできない領域(ジレンマゾーン)である請求項1に記載のブレーキ予告システム。
【請求項3】
前記ブレーキ予告動作が、ハザードランプまたはブレーキランプの点灯・点滅である請求項1または2に記載のブレーキ予告システム。
【請求項4】
前記ブレーキ予告動作が、ブレーキ予告専用灯の点灯・点滅である請求項1または2に記載のブレーキ予告システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のブレーキ予告システムを組み込んだ車両車載装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のブレーキ予告システムを搭載した車両。
【請求項7】
交差点の信号制御システムから提供される信号表示の変化に関する信号予告情報を受信手段により受信し、
車両の速度情報と位置情報を含む走行状態に関する情報を車両走行情報取得手段により取得し、
前記受信手段により受信した前記信号予告情報と前記車両走行情報取得手段により取得した前記速度情報と前記位置情報に基づいて、所定タイミングにおいて前記車両が前記速度情報の車両速度にて前記交差点手前の所定領域内を走行していると判断した場合に、前記所定領域に進入する予測時刻よりも所定時間前から走行速度の減速を自動的に開始するブレーキ介入動作を行ない、
前記ブレーキ介入動作が開始される時刻の所定時間前に、後方の車両に対して前記ブレーキ介入動作を開始する旨をあらかじめ予告するブレーキ予告動作を行なうことを特徴とするブレーキ予告方法。
【請求項8】
交差点の信号制御システムから提供される信号表示の変化に関する信号予告情報を受信する受信処理ステップと、
車両の速度情報と位置情報を含む走行状態に関する情報を取得する車両走行情報取得処理ステップと、
前記受信処理ステップにおいて受信した前記信号予告情報と前記車両走行情報取得処理ステップにより取得した前記速度情報と前記位置情報に基づいて、所定タイミングにおいて前記車両が前記速度情報の車両速度にて前記交差点手前の所定領域内を走行していると判断した場合に、前記所定領域に進入する予測時刻よりも所定時間前から走行速度の減速を自動的に開始するブレーキ介入動作を制御するブレーキ介入処理ステップと、
前記ブレーキ介入処理ステップによりブレーキ介入動作が開始される時刻の所定時間前に、後方の車両に対して前記ブレーキ介入動作を開始する旨をあらかじめ予告するブレーキ予告動作を制御するブレーキ予告処理ステップと、
をコンピュータに実行させるブレーキ予告処理プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−153061(P2007−153061A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349325(P2005−349325)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】