説明

ブレーキ圧調整装置

【課題】 前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を制動力理想曲線に近づける。
【解決手段】 ブレーキ圧調整装置100において、プロポーショニングバルブ60は、入力液路62と中間液路64の間に配置され、中間液路64の圧力が第1折点圧力以上となる場合に、中間液路64の圧力を入力液路62の圧力より低くする。出力圧調整装置120は、中間液路64と出力液路102の間に配置され、出力液路102の圧力が第1折点圧力より大きい第2折点圧力以上となる場合に、出力液路102の圧力を中間液路64の圧力より大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ圧調整装置に関し、特に、プロポーショニングバルブを備えるブレーキ圧調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に車両の走行中、運転者により急激にブレーキが操作された際には、車輪にかかる荷重が前輪側に移動するため、ブレーキの制動力に応じた適切な後輪制動力の調整が必要となる。このため、前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を、前輪制動力に対する理想的な後輪制動力を表した制動力理想曲線に近づけるべく、一般にプロポーショニングバルブが使用される。
【0003】
このプロポーショニングバルブは、後輪のホイールシリンダに接続される液路に配置され、出力圧力が折点圧力以上の場合に出力圧力を入力圧力より小さくすることにより、前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を制動力理想曲線に近づける。
【0004】
しかし、出力圧力が折点圧力以上の場合に、前述のプロポーショニングバルブを用いて出力圧力を入力圧力より小さくしても、前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性は略直線状となるため、制動力理想曲線に良好に近づけることは困難である。
【0005】
このため、特許文献1では、複数のプロポーショニングバルブを直列に接続し、折点設定用ばねの付勢力を互いに異ならせることにより、後輪ブレーキ圧の前輪ブレーキ圧に対する変化特性に2つの折点が現れるようにしたブレーキ圧調整装置が提案されている。また、特許文献2では、荷重応答型と圧力応答型のプロポーショニングバルブを直列に配置した技術が提案されている。
【特許文献1】特開平6−211119号公報
【特許文献2】実開昭62−157671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、文献1に記載のブレーキ圧調整装置を用いても、プロポーショニングバルブによって出力圧力が入力圧力より小さくされることにより、前輪制動力が大きい範囲においては、前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を制動力理想曲線に良好に近づけることはやはり困難である。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を制動力理想曲線に近づけることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキ圧調整装置は、入力液路と中間液路の間に配置され、中間液路の圧力が第1折点圧力以上となる場合に、中間液路の圧力を入力液路の圧力より低くするプロポーショニングバルブと、中間液路と出力液路の間に配置され、出力液路の圧力が第1折点圧力より大きい第2折点圧力以上となる場合に、出力液路の圧力を中間液路の圧力より大きくする出力圧調整手段と、を備える。この態様によれば、プロポーショニングバルブをの作用により制動力理想曲線よりも低下した後輪制動力を出力調整手段により増加させることができ、前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を制動力理想曲線に近づけることができる。
【0009】
出力圧調整手段は、液室と、該液室を中間液路に接続される第1液室および出力液路に接続される第2液室に画定し、第1液室側および第2液室側に摺動可能なシール手段と、液室内に配置され、第1液室側および第2液室側に摺動可能なプランジャと、プランジャを第1液室側に付勢する付勢手段と、を有してもよい。出力圧調整手段は、出力液路の圧力が第2折点圧力未満の場合、プランジャとシール手段との間に間隔を設けることにより第1液室と第2液室とを連通させて第1液室と第2液室の圧力とを同一とし、出力液路の圧力が第2折点圧力以上の場合、プランジャを摺動させてシール手段との間を当接させることにより第1液室と第2液室との連通を阻止すると共に、プランジャおよびシール手段により構成される摺動部を第2液室側に摺動させることにより、摺動部の第1液室側の被押圧面と第2液室側の被押圧面との面積の差によって出力液路の圧力を中間液路の圧力より大きくしてもよい。この態様によれば、簡易な機械的構成により、前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を制動力理想曲線に近づけることができる。
【0010】
積載荷重に応じて第2折点圧力を変化させる荷重応答手段をさらに備えてもよい。この態様によれば、積載荷重に応じて適度に後輪制動力を増加させることができることから、積載荷重に応じて前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を制動力理想曲線に近づけることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のブレーキ圧調整装置によれば、前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を制動力理想曲線に近づけることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態にかかるブレーキ圧調整装置100を含むブレーキシステム50の全体構成図である。車両室内に設けられたブレーキペダル10がブレーキブースタ12に連結され、ブレーキブースタ12は、マスタシリンダ14に連結されている。運転者によりブレーキペダル10が操作されると、ブレーキブースタ12によって操作力が補完され、マスタシリンダ14に補完された操作力が伝達される。マスタシリンダ14は、操作力を油圧に変換し、油圧管16に油圧を与える。
【0014】
油圧管16は、2本の前輪用油圧管18と2本の後輪用油圧管20に分岐している。油圧管16と後輪用油圧管20の間には、ブレーキ圧調整装置100が介在している。ブレーキ圧調整装置100は、油圧管16内の油圧に応じて油圧を適度に調整し、後輪用油圧管20に油圧を出力している。
【0015】
2本の前輪用油圧管18は、左前輪ブレーキ22FLおよび右前輪ブレーキ22FRにぞれぞれ接続される。左前輪ブレーキ22FLおよび右前輪ブレーキ22FRは、ディスクブレーキによって構成され、それぞれブレーキキャリパ24、ブレーキパッド26、およびディスクロータ28を有している。前輪用油圧管18は、ブレーキキャリパ24に接続される。前輪用油圧管18から油圧が与えられると、ブレーキキャリパ24は、ディスクロータ28にブレーキパッド26を押しつけ、車輪に制動力を与える。
【0016】
2本の後輪用油圧管20は、左後輪ブレーキ22RLおよび右後輪ブレーキ22RRにそれぞれ接続される。左後輪ブレーキ22RLおよび右後輪ブレーキ22RRは、ドラムブレーキによって構成され、それぞれホイールシリンダ30、ブレーキシュー32、ブレーキドラム34を有している。後輪用油圧管20は、ホイールシリンダ30に接続される。後輪用油圧管20から油圧が与えられると、ホイールシリンダ30は、ブレーキドラム34にブレーキシュー32を押しつけ、車輪に制動力を与える。
【0017】
図2は、第1の実施形態にかかるブレーキ圧調整装置100の全体構成図である。ブレーキ圧調整装置100は、プロポーショニングバルブ60および出力圧調整装置120を有する。
【0018】
プロポーショニングバルブ60は、入力液路62と中間液路64の間に配置される。入力液路62は、油圧管16を介してマスタシリンダ14に連通する。プロポーショニングバルブ60は、入力液路62と、中間液路64とを有する第1ハウジング66内に、これら入力液路62と中間液路64とを連通する円筒形の第1シリンダ室68を有している。
【0019】
第1シリンダ室68内には、第1シール部材76が設けられている。第1シール部材76は、第1シリンダ室68の内周と略同位置の外形を有する円環状に形成されている。第1シール部材76は、第1シリンダ室68に挿通されることにより、第1シリンダ室68を中間液路64側の第1液室68aと入力液路62側の第2液室68bに画定している。
【0020】
第1シール部材76は、第2液室68b側に第1傘部76aを有している。第1傘部76aは、弾性部材によって形成され、第1液室68aから第2液室68bへのオイルの流れは規制しないが、第2液室68bから第1液室68aへのオイルの流れは規制する、逆止弁の機能を有する。第1シール部材76の第1液室68a側には、第1スペーサ78が設けられている。第1スペーサ78は、第1シール部材76が第1液室68a側に付勢されても、第1ハウジング66と第1シール部材76との間にオイルを連通する間隔を確保している。
【0021】
また、第1シリンダ室68内には、第1プランジャ70が配置される。第1プランジャ70は、第1弁体部70a、第1軸部70b、第1バネ受け部70c、第1接続軸部70dにより構成される。第1弁体部70aと第1ハウジング66との間には間隔が設けられており、第1弁体部70aは、第1弁体部70aの側面と中間液路64を連通する液路が設けられている。第1弁体部70aの下方には、第1弁体部70aよりも径が小さい第1接続軸部70dが設けられる。更に第1接続部の下方に径が大きい第1バネ受け部70cが設けられ、更にその下方に第1軸部70bが設けられる。第1接続軸部70dは第1シール部材76の中心の孔部よりも径が小さく形成されており、第1接続軸部70dはこの孔部に挿通される。このため、第1弁体部70aは第1液室68a内に配置され、第1バネ受け部70cおよび第1軸部70bは第2液室68b内に配置される。
【0022】
第1弁体部70aは第1ハウジング66の一方側の円筒形のシリンダ部に挿通され、第1軸部70bは第1ハウジング66の他方側設けられた円筒形のガイド孔に挿通される。これにより第1プランジャ70が軸方向に変位することができる。第1バネ受け部70cは、第1シリンダ室68の底部との間に配置された第1バネ72により第1液室68a側に付勢される。第1バネ受け部70cの上面は、第1シール部材76の第2液室68b側に設けられた第1突起部80に当接し、第1プランジャ70が係止される。第1突起部80が第1バネ受け部70cが当接しても、第1接続軸部70dと第1シール部材76の孔部との隙間と第1液室68aとを連通させるための間隔が形成される。
【0023】
以上より、プロポーショニングバルブ60に油圧が与えられない状態では、第1液室68aと第1液室68aは連通した状態となる。したがって、入力液路62と中間液路64も連通し、入力液路圧Pと中間液路圧Pは同一となり、P=Pの関係が成立する。
【0024】
第1軸部70bの下方に、車両の積載荷重によって第1プランジャ70に与えられる摺動抵抗力を変化させる第1荷重応答装置が設けられている。第1荷重応答装置は棒バネ84などにより構成されており、第1軸部70bの下方が棒バネ84に当接している。棒バネ84は、車両の積載荷重によって一端が上方向に変位するように構成されている。これにより、車両の積載荷重によって第1プランジャ70に与えられる摺動抵抗力を変化させることを可能としている。
【0025】
ここで、Fを第1バネ72による第1プランジャ70への付勢力、Rを第1プランジャ70の摺動抵抗力とし、第1弁体部70aの断面積をS、第1軸部70bの断面積をSとすると、入力液路圧Pと中間液路圧PがP×S=P×(S−S)+F+Rの式が成立する状態になると、第1プランジャ70は第2液室68b側に変位し始め、第1弁体部70aの下面が第1シール部材76の上面に当接し、第1液室68aと第2液室68bとのオイルの流れを遮断する。この結果、入力液路62と中間液路64とが遮断され、P=Pの関係が崩れ、P>Pなる関係が成立する。
【0026】
入力液路圧Pと中間液路圧Pとの油圧差に起因して第1プランジャ70が上方に向けて変位すると、再び第1弁体部70aと第1シール部材76との間に隙間が形成される。この隙間から中間液路64付近へオイルが流入するにしたがって中間液路圧Pが増加し、入力液路圧Pと中間液路圧Pが再び上記式を満たすと、再度その隙間が遮断されることになる。
【0027】
このように、プロポーショニングバルブ60は、第1液室68a内の油圧が第1折点圧力を越える領域において、適宜第1プランジャ70を揺動させることにより中間液路圧Pの急激な増加を抑制している。
【0028】
本実施形態における入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性を図3に示す。本図において、PIHは定積載時の制動力理想曲線であり、PILは軽積載時の制動力理想曲線である。また、PH1は定積載時における入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性であり、PL1は軽積載時における入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性である。
【0029】
IHはPILよりも傾きが大きくなっている。このため、第1プランジャ70に与えられる摺動抵抗力を変化させ、第1折点圧力Pを変化させるなどにより、PH1をPIHに、またPL1をPL1に、それぞれ近づけている。例えば、PH1では、第1折点圧力Pまでは、P=Pの関係が成立する。中間液路圧Pが第1折点圧力Pに達すると、それ以上の圧力においては、PがP×S=P×(S−S)+F+Rの式に従って入力液路圧Pに対して中間液路圧Pが変化する。第1折点圧力Pでは、P=PとP×S=P×(S−S)+F+Rの両方の式が成立することから、第1折点圧力Pは、P=(F+R)/Sとなる。
【0030】
この結果、入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性は、第1折点圧力Pより大きい範囲で傾きが小さくなる。これにより、第1折点圧力P以上で、入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性を制動力理想曲線に近づけることができる。しかし、プロポーショニングバルブ60の作用によっても、Pの広範な範囲においては、PH1とPIH、およびPL1とPILとを良好に近づけることは困難である。
【0031】
以下、説明の理解を容易にするため、本実施形態において車両に定積載時の荷重が与えられているものとして説明する。図2において、中間液路64と出力液路102の間に、出力圧調整装置120が配置される。出力液路102は、後輪用油圧管20を介してホイールシリンダ30に連通する。出力圧調整装置120は、出力液路102と、中間液路64とを有する第2ハウジング104内に、これら出力液路102と中間液路64とを連通する円筒形の第2シリンダ室106を有している。
【0032】
第2シリンダ室106内には、第2シール部材110が設けられている。第2シール部材110は、第2シリンダ室106の内周と略同位置の外形を有する円環状に形成されている。第2シール部材110は、第2シリンダ室106に挿通されることにより、第2シリンダ室106を中間液路64側の第3液室106aと出力液路102側の第4液室106bに画定している。
【0033】
第2シール部材110は、第3液室106a側に弾性部材によって形成された第2傘部110bを有しており、第4液室106b側に弾性部材によって形成された第3傘部110cを有している。第2シール部材110は、第2傘部110bおよび第3傘部110cを有することにより、第3液室106aから第4液室106b、および第4液室106bから第3液室106aへの双方のオイルの流れを規制する。第2シール部材110の第3液室106a側には、第2スペーサ112が設けられている。第2スペーサ112は、第2シール部材110が第3液室106a側に付勢されても、第2ハウジング104と第2シール部材110との間にオイルを連通する間隔を確保している。
【0034】
また、第2シリンダ室106内には、第2プランジャ108が配置される。第2プランジャ108は、第2弁体部108a、第2軸部108b、第2バネ受け部108c、第2接続軸部108dにより構成される。第2弁体部108aと第2ハウジング104との間には、所定のクリアランスが設けられている。第2弁体部108aの下方には、第2弁体部108aよりも径が小さい第2接続軸部108dが設けられる。更に第1接続部の下方に径が大きい第2バネ受け部108cが設けられ、更にその下方に第2軸部108bが設けられる。第2接続軸部108dは第2シール部材110の中心の孔部よりも径が小さく形成されており、第2接続軸部108dはこの孔部に挿通される。このため、第2弁体部108aは第3液室106a内に配置され、第2バネ受け部108cおよび第2軸部108bは第4液室106b内に配置される。
【0035】
第2軸部108bは第2ハウジング104の一方側に設けられた円筒形のガイド孔に挿通される。これにより第2プランジャ108が軸方向に変位することができる。なお、第2軸部108bとガイド孔は、ガイド孔シール部材118によってオイルの連通が阻止されている。、第2バネ受け部108cは、第2シリンダ室106の底部との間に配置された第2バネ116により第3液室106a側に付勢される。第2バネ受け部108cの上面は、第2シール部材110の第4液室106b側に設けられた第2突起部114に当接し、第2プランジャ108が係止される。第2突起部114が第2バネ受け部108cが当接しても、第1連結軸部と第2シール部材110の孔部との隙間と第3液室106aとを連通させるための間隔が形成される。
【0036】
図4は、出力圧調整装置120の動作を示す図であり、(a)は出力液路圧Pが第2折点圧力Pよりも小さい場合を示す図であり、(b)は出力液路圧Pが第2折点圧力Pに達した場合を示す図であり、(c)は出力液路圧Pが第2折点圧力Pより大きい場合を示す図である。
【0037】
出力液路圧Pが第2折点圧力Pよりも小さい場合、図4(a)に示すように、第2ネジ受け部の側面が、第2バネ116の付勢力により第2突起部114に当接する。このとき、第2シール部材110の中心の孔部と第2接続軸部108dとの間に間隔が設けられており、また第2シール部材110と第2バネ受け部108cの側面との間にも間隔が設けられていることから、第3液室106aと第4液室106bが連通した状態となる。このため、中間液路圧Pと出力液路圧Pは同一となり、P=Pの関係が成立する。
【0038】
ここで、Fを第2バネ116による第2プランジャ108への付勢力、Rを第2プランジャ108の摺動抵抗力とし、第2弁体部108aの断面積をS、第2軸部108bの断面積をSとすると、出力液路圧Pと中間液路圧PがP×S=P×(S−S)+F+Rの式が成立する状態になると、第2プランジャ108は第4液室106b側に変位し始め、図4(b)に示すように第2弁体部108aの上面が第2シール部材110のシール面110aに当接し、第3液室106aと第4液室106bとのオイルの流れを遮断する。さらに中間液路圧Pが増加すると、図4(c)に示すように第2プランジャ108は第2シール部材と共に、第4液室106b側へと変位する。この場合、第2プランジャ108と第2シール部材110が接合したまま変位し、また第2シール部材110と第2シリンダ部との間も、第2傘部110bおよび第3傘部110cによりオイルの流れが遮断されていることから、第3液室106aと第4液室106bとの間でオイルの流れが遮断されながら第2プランジャ108と第2シール部材110が第4液室106b側へ変位する。
【0039】
したがって、第2プランジャ108と第2シール部材110が一つのピストンのように機能し、第4液室106bを圧縮する。このとき、出力液路圧Pが増加し、更に第3液室106aと第4液室106bの摺動箇所の面積の差により、第3液室106aと第4液室106bで圧力に差が生じる。ここで、第2シリンダ部の断面積をSとすると、第3液室106aの摺動箇所の面積はSになるのに対し、第4液室106bの摺動箇所の面積は、Sから第2軸部108bの断面積Sを引いたS−Sとなる。このため、第2プランジャ108と第2シール部材110が共に第4液室106b側に移動している状態では、出力液路圧Pと中間液路圧Pが、P×S=P×(S−S)+F+Rの式が成立する。
【0040】
本実施形態における中間液路圧Pに対する出力液路圧Pの変化特性を図5に示す。出力液路圧Pは、第2折点圧力Pに達するまで中間液路圧Pと同一の値となり、P=Pの関係が成立する。Pが増加して第2折点圧力Pに達すると、出力液路圧Pは、P×S=P×(S−S)+F+Rの式に従って変化する。第2折点圧力Pでは、P=PとP×S=P×(S−S)+F+Rの両方の式が成立することから、第2折点圧力Pは、P=(F+R)/Sとなる。
【0041】
図3に示される入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性に、図5に示される中間液路圧Pに対する出力液路圧Pの変化特性を重ねることにより、図6に示される本実施形態における入力液路圧Pに対する出力液路圧Pの変化特性を得ることができる。本図において、PH3は本実施形態にかかる定積載時における入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性であり、PL3は本実施形態にかかる軽積載時における入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性である。
【0042】
H3において、出力液路圧Pが第1折点圧力Pに達すると、プロポーショニングバルブ60の作用により、PH3の傾きが減少する。さらに出力液路圧Pが増加し、第2折点圧力Pに達すると、今度は出力圧調整装置120の作用により、PH3の傾きが増加する。これにより、プロポーショニングバルブ60の作用によって低下した後輪の制動力を増加させることができ、入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性を制動力理想曲線に近づけることができる。
【0043】
第2折点圧力Pは、第1折点圧力Pよりも大きい値となるように、プロポーショニングバルブ60および出力圧調整装置120が構成される。具体的には、第1バネ72および第2バネ116のバネ定数、第1プランジャ70および第2プランジャ108の各部の断面積を調整することにより、第1折点圧力Pおよび第2折点圧力Pを最適な値に設定する。
【0044】
なお、本実施形態において、車両の軽積載時には、入力液路圧Pが大きなものとならなければ、出力液路圧Pが第2折点圧力Pに達しない。これにより、制動力理想曲線の傾きが小さい軽積載時においては、出力圧調整装置120が作動することを抑制することができ、軽積載時においても入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性を制動力理想曲線に近づけることができる。
【0045】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態にかかるブレーキ圧調整装置100の全体構成図である。本実施形態においては、出力圧調整装置120が、第1の実施形態と上下逆に取り付けられている。ただし、第1液室68aと第3液室106aが中間液路64を介して連通されており、また第4液室106bが出力液路102に連通している点は第1の実施形態と同様である。
【0046】
第1プランジャ70および第2プランジャ108の下方に、車両の積載荷重によって第1プランジャ70および第2プランジャ108に与えられる摺動抵抗力を変化させる第2荷重応答装置が設けられている。第2荷重応答装置は、棒バネ84および支持軸86などにより構成されている。第1軸部70bの下端は棒バネ84に当接している。第2プランジャ108の第2軸部108bの下端は、棒バネ84に支持軸86によって軸方向に支持されており、支持軸86は棒バネ84に接続されている。棒バネ84は、第1の実施形態と同様に車両の積載荷重によって一端が上方向に変位するように構成されている。これにより、車両の積載荷重によって第1プランジャ70および第2プランジャ108に与えられる摺動抵抗力を変化させることを可能としている。なお、支持軸86は、バネなどの弾性部材などによって構成してもよいことは勿論である。これにより、棒バネ84によって第1軸部70bおよび第2軸部108bに与える摺動抵抗力を最適に調整することが可能となる。
【0047】
図8は、第2の実施形態にかかるブレーキ圧調整装置100の入力液路圧Pに対する出力液路圧Pの変化特性を示す図である。本図において、PH4は本実施形態にかかる定積載時における入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性であり、PL4は本実施形態にかかる軽積載時における入力液路圧Pに対する中間液路圧Pの変化特性である。
【0048】
第2荷重応答装置が、第2プランジャ108に与えられる摺動抵抗力を変化させることにより、車両の定積載時における第2折点圧力P22よりも、軽積載時における第2折点圧力P21を小さくすることができる。したがって、積載荷重に応じて第2折点圧力を変化させることができ、積載荷重に応じて前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を制動力理想曲線に近づけることができる。
【0049】
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。以下、そうした例をあげる。
【0050】
プロポーショニングバルブ60を複数設け、一方の出力液路を他方の入力液路と連通させることにより、複数のプロポーショニングバルブ60を接続してもよい。この場合、出力側であるホイールシリンダ30に近い側のプロポーショニングバルブ60は、手前のプロポーショニングバルブ60よりも、第1折点圧力が高く設定される。これにより、前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性の傾きを、多段階に減少させることができ、より前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を制動力理想曲線に近づける。
【0051】
また、出力圧調整装置120を複数設け、一方の出力液路を他方の入力液路と連通させることにより、複数の出力圧調整装置120を接続してもよい。この場合、出力側であるホイールシリンダ30に近い側の出力圧調整装置120は、手前の出力圧調整装置120よりも、第2折点圧力が高く設定される。これにより、前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性の傾きを、多段階に増加させることができ、より前輪制動力に対する後輪制動力の変化特性を制動力理想曲線に近づける。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第1の実施形態にかかるブレーキ圧調整装置を含むブレーキシステムの全体構成図である。
【図2】第1の実施形態にかかるブレーキ圧調整装置の全体構成図である。
【図3】第1の実施形態における入力液路圧に対する中間液路圧の変化特性を示す図である。
【図4】出力圧調整装置の動作を示す図であり、(a)は出力液路圧が第2折点圧力よりも小さい場合を示す図であり、(b)は出力液路圧が第2折点圧力に達した場合を示す図であり、(c)は出力液路圧が第2折点圧力より大きい場合を示す図である。
【図5】第1の実施形態における中間液路圧に対する出力液路圧の変化特性を示す図である。
【図6】第1の実施形態における入力液路圧に対する出力液路圧の変化特性を示す図である。
【図7】第2の実施形態にかかるブレーキ圧調整装置の全体構成図である。
【図8】第2の実施形態にかかるブレーキ圧調整装置の入力液路圧に対する出力液路圧の変化特性を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
14 マスタシリンダ、 16 油圧管、 18 前輪用油圧管、 20 後輪用油圧管、 30 ホイールシリンダ、 60 プロポーショニングバルブ、 62 入力液路、 64 中間液路、 70 第1プランジャ、 76 第1シール部材、 84 棒バネ、 100 ブレーキ圧調整装置、 102 出力液路、 108 第2プランジャ、 110 第2シール部材、 120 出力圧調整装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力液路と中間液路の間に配置され、前記中間液路の圧力が第1折点圧力以上となる場合に、前記中間液路の圧力を入力液路の圧力より低くするプロポーショニングバルブと、
前記中間液路と出力液路の間に配置され、前記出力液路の圧力が前記第1折点圧力より大きい第2折点圧力以上となる場合に、前記出力液路の圧力を前記中間液路の圧力より大きくする出力圧調整手段と、を備えることを特徴とするブレーキ圧調整装置。
【請求項2】
前記出力圧調整手段は、液室と、該液室を前記中間液路に接続される第1液室および前記出力液路に接続される第2液室に画定し、前記第1液室側および前記第2液室側に摺動可能なシール手段と、前記液室内に配置され、前記第1液室側および前記第2液室側に摺動可能なプランジャと、前記プランジャを前記第1液室側に付勢する付勢手段と、を有し、
前記出力圧調整手段は、前記出力液路の圧力が前記第2折点圧力未満の場合、前記プランジャと前記シール手段との間に間隔を設けることにより前記第1液室と前記第2液室とを連通させて前記第1液室と前記第2液室の圧力とを同一とし、前記出力液路の圧力が前記第2折点圧力以上の場合、前記プランジャを摺動させて前記シール手段との間を当接させることにより前記第1液室と前記第2液室との連通を阻止すると共に、前記プランジャおよび前記シール手段により構成される摺動部を前記第2液室側に摺動させることにより、前記摺動部の前記第1液室側の被押圧面と前記第2液室側の被押圧面との面積の差によって前記出力液路の圧力を前記中間液路の圧力より大きくすることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ圧調整装置。
【請求項3】
積載荷重に応じて前記第2折点圧力を変化させる荷重応答手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ圧調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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