説明

ブレーキ試験装置

【課題】 低い操作圧で制動試験をしなければならないブレーキ装置でも高精度で制動試験を行うことができるブレーキ試験装置を得る。
【解決手段】 ブレーキ試験装置は、検出されたブレーキ装置25の操作圧を増幅する第1の増幅回路としてのストレインアンプ13、14の後段に、第2の増幅回路30を備えるとともに、この第2の増幅回路30を前記ストレインアンプ13、14の後段の線路へ介挿・非介挿に切り替える切り替えスイッチ33Aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のブレーキ性能を試験するブレーキ試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述したブレーキ試験装置が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。この種のブレーキ試験装置は、車両の等価的重量として動くイナーシャをモータにより回転駆動させ、ブレーキ装置を油圧制御してブレーキトルクを与え、トルクセンサ又は圧力センサによって測定されるトルク又は油圧を所定の大きさに制御することによりブレーキの諸試験を行うようにしたものである。
【0003】
図2、3は、そのような従来のブレーキ試験装置の構成図である。
図2、3に示すブレーキ試験装置は、可変抵抗10と、スイッチ11と、サーボアンプ12と、ストレインアンプ13及び14と、切り替えスイッチ15と、不図示の油圧ポンプに接続して開閉操作されるサーボ弁16と、該サーボ弁16を備えたサーボシリンダ17と、マスタシリンダ18と、サーボシリンダ17の動きに応じて発生するブレーキ液圧のレベルの信号を出力する圧力センサ19と、トルクアーム20と、ブレーキ装置25の制動時にトルクアーム20に加わる荷重をトルク値として出力するトルクセンサ21と、ブレーキ装置25とを備えている。
【0004】
可変抵抗10は、ブレーキ操作圧を設定するものであり、この可変抵抗10の設定値(以下、設定電圧という)として設定したブレーキ操作圧がスイッチ11を介してサーボアンプ12の一方の入力端に入力される。
サーボアンプ12の他方の入力端には、後述するストレインアンプ13又は14の出力が切り替えスイッチ15を介して入力される。
ストレインアンプ13及び14はそれぞれブリッジ方式のアンプであり、ストレインアンプ13はトルクセンサ21の出力を増幅し、ストレインアンプ14は圧力センサ19の出力を増幅する。
切り替えスイッチ15は、ストレインアンプ13の出力電圧とストレインアンプ14の出力電圧とを切り替えるものであり、切り替えられたストレインアンプ13又はストレインアンプ14の出力電圧がサーボアンプ12の他方の入力端に入力される。
【0005】
サーボアンプ12は、サーボ弁16を作動させるものであり、設定電圧と圧力センサ19又はトルクセンサ21からの出力電圧とがバランスするポイントで出力値をホールドする。
サーボ弁16は、サーボシリンダ17と不図示の油圧ポンプとの間に介在し、作動油のサーボシリンダ17への流入量及び流出量を調整する。
マスタシリンダ18は、サーボシリンダ17の動きに応じて動作してブレーキ装置25に印加するブレーキ液圧を発生する。
【0006】
次に、上記構成のブレーキ試験装置の動作を説明する。
(1)まずスイッチ11のオン操作によりサーボアンプ12の一方の入力端に、可変抵抗10で設定した設定電圧が入力される。ここで仮に3Vの電圧が加えられたとする。
(2)この時点では、例えば、圧力センサ19からの出力電圧はまだ0(ゼロ)Vであるため、サーボアンプ12の出力は(+)の電流となり、サーボ弁16の働きでサーボシリンダ17は加圧方向である左側(図面に向かって)に動く。
【0007】
(3)サーボシリンダ17が左側に動くことでマスタシリンダ18が動作してブレーキ液圧が発生する。
(4)圧力センサ19からの出力電圧はブレーキ液圧に比例して増加し、やがて設定電圧と同じ3Vになると、サーボアンプ12の出力電流は0(ゼロ)となり、サーボシリンダ18はその位置で停止する。
(5)設定電圧と圧力センサ19からの出力電圧とに偏差が生じればサーボアンプ12の出力電流はそれを修正する方向に働く。
【0008】
このように、設定電圧と圧力センサ19からの出力電圧との差によってサーボシリンダ18が加圧方向又は減圧方向に制御される。なお、制御対象が液圧であれトルクであれ制御値を電圧に変換できれば何れでも制御可能である。
【0009】
【特許文献1】特開2000−136974号公報
【特許文献2】特開平9−236516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来のブレーキ試験装置においては、ブレーキ装置25に加わる操作圧の低域側での直線性が良くなく、操作圧の低域での制御は200〜300kPaが限界であり、特に低域の操作圧で制動試験をしなければならないブレーキ装置では高い精度で制動試験を実施できないという問題がある。
【0011】
なお、この問題に対し、ストレインアンプ13、14のゲイン(利得)を高くすることで、操作圧の低域での直線性を改善することは可能である。しかしながら、ゲインを高くすると追従性は良くなる反面、ゲインが高すぎると制動変化の大きいとき、例えば、ブレーキ操作立ち上がり時にオーバシュートが多くなり、場合によっては発振状態になってしまう。このようなことから、ゲインを安易に高くすることができない。因みにゲインを低くすると発振状態になることはないが追従性が悪化する。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、低い操作圧で制動試験をしなければならないブレーキ装置でも高精度で制動試験を行うことができるブレーキ試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記(1)に記載のブレーキ試験装置は、ブレーキ装置をシリンダにて操作し、ブレーキ設定信号に対応した操作圧を前記ブレーキ装置に加えるブレーキ試験装置であって、前記ブレーキ装置に加わる操作圧を検出し、検出した操作圧に応じたレベルの操作圧信号を出力する操作圧信号検出手段と、前記操作圧信号検出手段から出力される操作圧信号を増幅する第1の増幅手段と、前記第1の増幅手段で増幅された前記操作圧信号を更に増幅する第2の増幅手段と、前記第1の増幅手段から出力される操作圧信号又は前記第2の増幅手段から出力される操作圧信号のいずれか一方を選択する第1の選択手段と、前記ブレーキ設定信号と前記第1の選択手段で選択された操作圧信号との差に応じて前記シリンダを加圧方向又は減圧方向に制御する制御手段と、を具備することを特徴とする。
【0014】
上記(2)に記載のブレーキ試験装置は、上記(1)に記載のブレーキ試験装置において、前記ブレーキ設定信号を増幅する第3の増幅手段と、前記ブレーキ設定信号そのもの又は前記第3の増幅手段で増幅されたブレーキ設定信号のいずれか一方を選択する第2の選択手段と、を具備し、前記第2の選択手段は、前記第1の選択手段と連動して動作し、前記第1の選択手段が前記第1の増幅手段から出力される操作圧信号を選択したときは前記ブレーキ設定信号を選択し、前記第1の選択手段が前記第2の増幅手段から出力される操作圧信号を選択したときは前記第3の増幅手段で増幅されたブレーキ設定信号を選択することを特徴とする。
【0015】
上記(3)に記載のブレーキ試験装置は、上記(1)又は(2)に記載のブレーキ試験装置において、前記第2の増幅手段と前記第3の増幅手段は、それぞれ増幅率を調整できる調整手段を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記(1)に記載のブレーキ試験装置によれば、第1の増幅手段で増幅された操作圧信号を更に第2の増幅手段で増幅するので、ブレーキに加わる操作圧のレンジが広がり、第2の増幅手段を使用する前よりも低域での直線性が改善される。これにより、低い操作圧で試験をしなければならないブレーキ装置の場合、第2の増幅手段を使用することで高い精度での試験が可能となる。特に、低い操作圧での試験では、追従性の大きな変化が起こることは殆どないので、ゲインを高めても発振状態になることがない。
【0017】
上記(2)に記載のブレーキ試験装置によれば、第2の増幅手段の使用に合わせて、第3の増幅手段を使用し、ブレーキ設定信号(圧力又はトルクの設定電圧値)を変更するので、第2の増幅手段を使用しても、以前の通りの正確な制御が可能となる。
【0018】
上記(3)に記載のブレーキ試験装置によれば、第2の増幅手段及び第3の増幅手段を使用したときと、不使用のときとで、操作圧信号とブレーキ設定信号との相関を一致させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るブレーキ試験装置の主要部の構成図である。なお、図1において前述した図2、3と共通する部分については同じ符号を付けてその説明を省略する。
【0020】
図1において、この実施の形態に係るブレーキ試験装置は、ストレインアンプ13、14の後段に増幅回路30を備えるとともに、液圧とトルクとのそれぞれにおける設定値(ブレーキ設定信号)の調整を可能とする可変抵抗10A及び10Bと、液圧又はトルクの設定電圧を増幅する増幅回路31と、可変抵抗10Aと可変抵抗10Bの切り替えを行う切り替えスイッチ32と、増幅回路30のストレインアンプ13、14の出力側の線路への介挿・非介挿の切り替えを行う切り替えスイッチ33Aと、増幅回路31の圧力・トルク設定用の線路への介挿・非介挿の切り替えを行う切り替えスイッチ33Bとを備えている。
【0021】
なお、本明細書中において呼称する、トルクセンサ19又は圧力センサ21は操作圧信号検出手段に対応する。また、ストレインアンプ13又は14は第1の増幅手段に対応し、増幅回路30は第2の増幅手段に対応する。また、切り替えスイッチ33Aは第1の選択手段に対応する。また、サーボアンプ12及びサーボ弁16は制御手段を構成する。更に、増幅回路31は第3の増幅手段に対応し、切り替えスイッチ33Bは第2の選択手段に対応する。
【0022】
切り替えスイッチ32は、切り替えスイッチ15と連動して作動し、切り替えスイッチ15が圧力センサ19側(a端子側)に切り替えられた場合は、圧力の設定電圧を調整可能にする可変抵抗10A側(a端子側)に切り替わる。これにより、圧力の設定電圧の調整が可能となる。一方、切り替えスイッチ15がトルクセンサ21側(b端子側)に切り替えられた場合は、切り替えスイッチ32はトルクの設定電圧を調整可能にする可変抵抗10B側(b端子側)に切り替わる。これにより、トルクの設定電圧の調整が可能となる。
【0023】
また、切り替えスイッチ33Aと切り替えスイッチ33Bも連動し、ともにa端子側に切り替えられた場合、増幅回路30がストレインアンプ13、14の出力側の線路に介挿され、増幅回路31が圧力・トルク設定用の線路に介挿される。
増幅回路31は、増幅回路30がストレインアンプ13又は14の出力を増幅するので、圧力又はトルクの設定電圧もそれに合わせて変更するために用いられる。すなわち、増幅回路30を使用する場合、圧力又はトルクの設定電圧値が現状のままであると、正確な制御ができなくなるので、増幅回路30を使用する場合はそれに見合う圧力又はトルクの設定電圧値の設定変更が必要となる。そのために、増幅回路31が増幅回路30とともに選択される。
【0024】
増幅回路30及び31は、ともにオペアンプと抵抗並びに可変抵抗から構成されており、それぞれの可変抵抗30A、31A(調整手段に対応)によってゲイン調整が可能となっている。可変抵抗30A及び31Aによって、増幅回路30及び31を線路に介挿したときと、外したときとで、圧力又はトルクの設定電圧とセンサ出力による操作圧電圧との相関が一致するようにゲイン調整することができる。
【0025】
増幅回路30を線路に介挿することで、ストレインアンプ13又は14の出力を増幅することから、ブレーキ装置25に加わる操作圧のレンジが広がり、増幅回路30を介挿する前よりも低域での直線性が改善される。すなわち、増幅回路30を介挿する前は、操作圧の低域での制御は200〜300kPa程度が限界であったが、増幅回路30を介挿することで20〜30kPa程度での制御が可能になる。これにより、低い操作圧で制動試験をしなければならないブレーキ装置の場合、増幅回路30を線路に介挿することで高い精度での制動試験が可能となる。特に、低い操作圧での制動試験では、追従性の大きな変化が起こることは殆どないので、ゲインを高めても発振状態になることがない。
このように、増幅回路30を使い分けることで、20〜30kPaから20MPa(高域は30MPaが限界である)まで制御が可能となる。
【0026】
以上のように、本実施の形態に係るブレーキ試験装置によれば、ストレインアンプ13、14の後段に増幅回路30を備えるとともに、この増幅回路30を、ストレインアンプ13、14の後段の線路へ介挿・非介挿に切り替える切り替えスイッチ33Aを備えたので、操作圧を20〜30kPaから20MPaまでの範囲で制御可能となり、低い操作圧で制動試験をしなければならないブレーキ装置でも高精度で制動試験を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
自動車等の車両のブレーキ性能を実車に搭載したのと同様の条件で制動試験を行う用途への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態に係るブレーキ試験装置の主要部の構成図である。
【図2】従来のブレーキ試験装置の主要部の構成図である。
【図3】従来のブレーキ試験装置の正面図である。
【符号の説明】
【0029】
10A、10B、30A、31B 可変抵抗
12 サーボアンプ(制御手段)
13、14 ストレインアンプ(第1の増幅手段)
15、32 切り替えスイッチ
16 サーボ弁(制御手段)
17 サーボシリンダ
18 マスタシリンダ
19 圧力センサ(操作圧信号検出手段)
20 トルクアーム
21 トルクセンサ(操作圧信号検出手段)
25 ブレーキ装置
30 増幅回路(第2の増幅手段)
31 増幅回路(第3の増幅手段)
33A 切り替えスイッチ(第1の選択手段)
33B 切り替えスイッチ(第2の選択手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ装置をシリンダにて操作し、ブレーキ設定信号に対応した操作圧を前記ブレーキ装置に加えるブレーキ試験装置であって、
前記ブレーキ装置に加わる操作圧を検出し、検出した操作圧に応じたレベルの操作圧信号を出力する操作圧信号検出手段と、
前記操作圧信号検出手段から出力される操作圧信号を増幅する第1の増幅手段と、
前記第1の増幅手段で増幅された前記操作圧信号を更に増幅する第2の増幅手段と、
前記第1の増幅手段から出力される操作圧信号又は前記第2の増幅手段から出力される操作圧信号のいずれか一方を選択する第1の選択手段と、
前記ブレーキ設定信号と前記第1の選択手段で選択された操作圧信号との差に応じて前記シリンダを加圧方向又は減圧方向に制御する制御手段と、
を具備することを特徴とするブレーキ試験装置。
【請求項2】
前記ブレーキ設定信号を増幅する第3の増幅手段と、
前記ブレーキ設定信号そのもの又は前記第3の増幅手段で増幅されたブレーキ設定信号のいずれか一方を選択する第2の選択手段と、を具備し、
前記第2の選択手段は、前記第1の選択手段と連動して動作し、前記第1の選択手段が前記第1の増幅手段から出力される操作圧信号を選択したときは前記ブレーキ設定信号を選択し、前記第1の選択手段が前記第2の増幅手段から出力される操作圧信号を選択したときは前記第3の増幅手段で増幅されたブレーキ設定信号を選択することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ試験装置。
【請求項3】
前記第2の増幅手段と前記第3の増幅手段は、それぞれ増幅率を調整できる調整手段を具備することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のブレーキ試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−170772(P2006−170772A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−362891(P2004−362891)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】