ブレージングシート、それを用いた熱交換器およびその熱交換器の製造方法
【課題】ろう材中のSiによる腐食促進を抑制可能とするブレージングシート、それを用いた熱交換器およびその熱交換器の製造方法を提供する。
【解決手段】芯材111とろう材層112との間に犠牲腐食層113が設けられたブレージングシートにおいて、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金のろう材層112に、Mnを添加する。Mnの添加量としては、0.1〜2.0mass%とする。芯材111は、ろう材層112よりも電位の高いAl−Mn系合金とする。更に、ブレージングシートのろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件120分以下で焼鈍する。
【解決手段】芯材111とろう材層112との間に犠牲腐食層113が設けられたブレージングシートにおいて、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金のろう材層112に、Mnを添加する。Mnの添加量としては、0.1〜2.0mass%とする。芯材111は、ろう材層112よりも電位の高いAl−Mn系合金とする。更に、ブレージングシートのろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件120分以下で焼鈍する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルミニウム熱交換器用チューブに用いて好適な、ブレージングシート、それを用いた熱交換器およびその熱交換器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の熱交換器用のアルミニウム合金ブレージングシートとして、例えば特許文献1に示されるように、芯材、中間層材(犠牲腐食層)、外ろう材、内ろう材の4層から成り、ろう材としてAl−Si−Mg系合金としたものが知られている。
【特許文献1】特許第3494591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ろう付け後にろう材中のAlに固溶するSiは、電位を貴化させる特性があるため、ブレージングシート表面の電位が貴になり、ろう材がカソードとなって、ろう材直下の中間層材(犠牲腐食層)、更には芯材の消耗速度が加速される。
【0004】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、ろう材中のSiによる腐食促進を抑制可能とするブレージングシート、それを用いた熱交換器およびその熱交換器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0006】
請求項1に記載の発明では、芯材(111)とろう材層(112)との間に犠牲腐食層(113)が設けられたブレージングシートであって、ろう材層(112)は、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金に、Mnが添加されて形成されたことを特徴としている。
【0007】
これにより、本ブレージングシート(110A)を用いてろう付けを行った後に、ろう材層(112)においてはAl−Mn(−Fe)−Si化合物を晶出し、電位貴化の要因となるAlへの固溶Si量を低減できるので、ろう材層(112)の電位貴化を抑制して、ろう材層(112)より先に犠牲腐食層(113)の腐食が進行すること、更には芯材(111)の腐食が促進されるのを抑制することができる。また、Mnは高価な物質ではないことから、大幅なコストアップを伴わずに、電位貴化を抑制することができる。
【0008】
Mnの添加量としては、請求項2に記載の発明のように、0.1〜2.0mass%とするのが良く、更には、請求項3に記載の発明のように、0.3〜2.0mass%とするのが良く、更に好ましくは、請求項4に記載の発明のように、0.75〜2.0mass%とするのが良い。
【0009】
芯材(111)は、請求項5に記載の発明のように、ろう材層(112)よりも電位の高いAl−Mn系合金から成るブレージングシートとして好適である。
【0010】
請求項6に記載の発明では、熱交換器に関するものであり、請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載のブレージングシート(110A)が、少なくとも1つの構成部材(110)の材料として用いられて、ろう付けにより形成されたことを特徴としており、耐食性に優れる熱交換器(100)とすることができる。
【0011】
請求項7に記載の発明は、上記熱交換器の製造方法に関するものであり、ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件120分以下で焼鈍することを特徴としている。
【0012】
これにより、焼鈍によって、ろう付け後のろう材層(112)中のMnの晶出量を増加させ、ろう材層(112)中のSiをAl−Mn(−Fe)−Si化合物としてより多く晶出させることができ、電位貴化の要因となるAlへの固溶Si量を更に低減できるので、ろう材層(112)の電位貴化を抑制して、ろう材層(112)より先に犠牲腐食層(113)の腐食が進行すること、更には芯材(111)の腐食が促進されるのを抑制することができる。
【0013】
上記請求項7に記載の発明に対して、焼鈍の時間条件としては、請求項8に記載の発明のように、{131.6÷(0.44+0.055×Mnの添加量)−258.2}分〜120分とする、あるいは請求項9に記載の発明のように、{131.6÷(0.44+0.055×Mnの添加量)−258.2}分〜{151.6÷(0.44+0.055×Mnの添加量)−258.2}分とする、更には、請求項10に記載の発明のように、{131.6÷(0.44+0.055×Mnの添加量)−258.2}分〜{141.6÷(0.44+0.055×Mnの添加量)−258.2}分とするのが良い。
【0014】
請求項11に記載の発明では、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金に、Mnが0.1〜2.0mass%添加されたろう材層(112)と、Al−Mn系合金から成る芯材(111)とを持つブレージングシート(110A)を、アルミニウム熱交換器(100)の少なくとも1つの構成部材(110)の材料として用いて、ろう付けし、ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件120分以下で焼鈍することを特徴としている。
【0015】
尚、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、図1〜図14を用いて説明する。第1実施形態は、本発明のブレージングシート110Aを熱交換器のチューブ110に適用したものである。熱交換器は、ここでは自動車用空調装置の冷凍サイクル内に配設されるコンデンサ100としている。
【0017】
まず、コンデンサ100について簡単に説明する。図1〜図3に示すように、コンデンサ100は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金から成り、コア部101と一対のヘッダタンク140、150とを有している。
【0018】
コア部101は、更にチューブ110、アウターフィン120、サイドプレート130から成る。チューブ110(コンデンサ100の1つの構成部材)は、後述するブレージングシート110Aからローラ加工によって折り曲げられて形成され、長手方向に直交する断面が扁平状を成している。内部には、薄肉の平板部材から波形に形成されたインナーフィン115が挿入されている。インナーフィン115は、チューブ110の内壁にろう付けされている。
【0019】
上記チューブ110は複数積層され、それぞれのチューブ111の間に上記インナーフィン115と同様に波形に形成されたアウターフィン120が介在されて、更に、積層方向の最外方には補強部材としてのサイドプレート130が配設されて、コア部110を形成している。そして、チューブ110の長手方向の両端部に円筒状を成す一対のヘッダタンク140、150が接続されている。上記各部材110〜150は、ろう付けによって、一体的に接合されている。
【0020】
このコンデンサ100は、車両エンジンルーム内の前方(グリルの後方)に配置され、チューブ110(コア部101)内を流通する高温高圧の蒸気冷媒を外気によって冷却して、凝縮液化する。
【0021】
上記チューブ110の基本材となるブレージングシート110Aは、図4に示すように、芯材111に外側ろう材層112と中間層(犠牲腐食層)113と内側ろう材層113とがクラッドされた厚さ0.2mmの板材である。ブレージングシート110Aがチューブ110として形成された時に、外側ろう材層112は外側に位置して上記アウターフィン120のろう付けに使用され、内側ろう材層114は内側に位置して上記インナーフィン115のろう付けに使用される。また、犠牲腐食層113は、芯材111と外側ろう材層112との間に形成されている。尚、ここでは、上記ろう材層112、114のクラッド率をそれぞれ10%、犠牲腐食層113のクラッド率を15%としている。
【0022】
上記ブレージングシート110Aの芯材111および各クラッド層112〜114の化学成分を図5(図5中の本発明欄)に示す。芯材111は、Al−Mn系の合金である。ここではMn1.65%、Si1.0%、Fe0.2%、Mg0.4%としている。尚、混合比率は、重量(mass)比率表示としており、以下も同様である。
【0023】
各ろう材層112、114は、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系の合金にMnを添加したものとしている。ここでは、Si10%、Fe0.2%として、更にMnを0.8%添加している。尚、Mnの添加量は、0.1〜2.0%とするのが良く、更に0.3〜2.0%が良く、更に好ましくは、0.75〜2.0%とするのが良い。
【0024】
犠牲腐食層113は、Al−Mn系合金にZnを添加して形成しており、ここでは、Si1.0%、Fe0.18%、Mn1.65%として、更にZnを4.0%添加している。
【0025】
尚、図5中の「比較欄」に示すものは、従来技術に相当するブレージングシートであり、各ろう材層112、114にはMnは添加されていない。また、アウターフィン120は、クラッドのない厚さ0.05mmのベア材としている。また、図5中の本発明1、比較1に対して、ろう付け後に400℃で1時間の焼鈍処理を行ったものを本発明2、比較2としている。
【0026】
上記化学成分を有するブレージングシート110Aから成るチューブ110について、以下の確認を行った。まず、チューブ110の外側表面からの板厚方向の電位分布を確認した。その結果を図6に示す。図6より、比較品1(図6中の点線)ではチューブ110の表面に電位が貴となる領域(右上がりの特性の中で上側に突出する領域)が形成されるが、本発明品1(図6中の実線)ではチューブ表面近傍の電位の貴化が抑制されていることが確認できた。
【0027】
これは、本発明品1においては外側ろう材層112にMnを添加するようにしているので、ろう付け後にろう材層112中のSiがAl−Mn(−Fe)−Si化合物として晶出し、その分、電位貴化の要因となるAl中の固溶Si量を低減することができるからである。
【0028】
そして、比較品1と本発明品1について腐食試験を行った。尚、ここで用いた腐食試験条件は下記のごとくである。
【0029】
乾湿繰り返腐食試験
腐食液噴霧2h→湿潤6h→乾燥4h
温度50℃
初期5サイクルの腐食液として、Clイオン6000ppm、SO4イオン200ppm、Cuイオン10ppmで実施し、
その後、腐食液として、Clイオン6000ppm、SO4イオン200ppmで実施。
【0030】
その結果を図7に示す。図7の(a)は本発明品1であり、(b)は比較品1である。比較品1では電位が貴になるチューブ110表面の外側ろう材層112を残して犠牲腐食層113が腐食するのに対し、本発明品1ではチューブ110の表面から腐食する腐食形態となった。
【0031】
また、図8に上記腐食試験における試験時間に対する最大腐食深さを示す。図8より、それぞれの最大腐食深さは、比較品1と本発明品1ともに犠牲腐食層113内であるが、比較品1ではチューブ110の表面が残りカソードとして働くため腐食が進行しているのに対し、本発明品1では、比較品1と比較して、腐食が抑制されていることが確認できた。
【0032】
ここで、図6で説明した電位分布の確認結果では、本発明品1においても、チューブ110表面に電位的に貴な領域が形成されていた。よって、この領域を更に電位卑化とするために、焼鈍処理を行った。
【0033】
この焼鈍処理は、ろう付け後のろう材層112中のMnの晶出量を増やすことで、ろう材層112中のSiをAl−Mn(−Fe)−Si化合物としてより多く晶出させるために行う。つまり、ろう材層112中のSiをAl−Mn(−Fe)−Si化合物としてより多く晶出させることで、電位貴化の要因となるAl中の固溶Si量を低減する。
【0034】
焼鈍処理のための温度条件は、以下のように決定した。即ち、図9に示すAl−Mn系の状態図を見ると、低温ほどMnの固溶限(固溶量)が低下する。つまり、低温ほどMnの晶出量を増加させることができる。また図10に示すアルミニウム合金(外側ろう材層112相当)の温度に対する電気抵抗の関係を見ると、電気抵抗は400℃近傍(350℃〜450℃の範囲)で最も小さくなる。電気抵抗が小さくなるということは、添加物(Mn)の固溶量が減って(晶出量が増えて)、純アルミに近づくということである。よって、400℃近傍がMnの固溶量を減少させるのに有効な温度と考えられ、焼鈍の温度を400℃とし、1時間の焼鈍処理を行った。
【0035】
400℃×1時間で焼鈍処理した本発明品2の電位分布は、図6(図6中の一点鎖線)に示すようにチューブ110の表面で電位が貴化する領域は見られなくなった。
【0036】
また、図11に示すように、比較品2と本発明品2のそれぞれの焼鈍処理時間に対する電位卑化率を調べてみると、本発明品2はろう材層112へのMnの添加によって、焼鈍処理による電位卑化効果が約10%大きくなった。
【0037】
更に、ろう材層112へのMnの添加量と、焼鈍処理時間との組合せにおけるろう材層112の電位卑化ついて検討した。図12は、焼鈍処理なしの条件で、ろう材層112へのMnの添加量を種々変化させた時のろう材層112(初晶)および犠牲腐食層113(界面)の電位を確認したものである。Mnの添加量増加に伴い、ろう材層112、犠牲腐食層113の電位は低下していき、Mn添加量1.26%以上で、犠牲腐食層113に対してろう材層112が卑となった。
【0038】
また、図13は、ろう材層112へのMn添加量を0%として、焼鈍処理時間(分)を種々変化させた時のろう材層112(初晶)および犠牲腐食層113(界面)の電位を確認したものである。焼鈍処理時間の増加に伴い、ろう材層112、犠牲腐食層113の電位は低下していき、焼鈍処理時間40分以上で、犠牲腐食層113に対してろう材層112が卑となった。
【0039】
上記結果を踏まえて、Mnの添加量と焼鈍処理時間とを種々組み合わせた場合に、ろう材層112が犠牲腐食層113に対して卑となり、且つ、その時の電位差がいくつになるかを確認してまとめたものが図14である。
【0040】
図14中、例えば、Mn添加量が1.26%で焼鈍処理時間が0分のポイントでは、上記図12で説明したように、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差は0mVとなっている。同様に、Mn添加量が0%で焼鈍処理時間40分のポイントでは、上記図13で説明したように、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差は0mVとなっている。また、Mn添加量が0.3%で焼鈍処理時間30分のポイントで、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差が0mVであった。よって、上記3点を滑らかに結ぶ線上が電位差0mVとして得られるMn添加量と焼鈍処理時間の組合せ条件となる。この3点を結ぶ関係線を図14中で数式化すると、
(数式1)
焼鈍処理時間(分)={131.6÷(0.44+0.55Mn添加量)−258.2
として得られた。
【0041】
同様にMnの添加量と焼鈍処理時間との種々の組合せの測定ポイントから得られた電位差についてまとめることで、図14中右上に向かって電位差が順次大きくなっていく関係線が得られた。例えば、上記数式1に対して、電位差が−10mVずつ上昇していく関係線群である。数式1の関係線に対して、5つ上の関係線は電位差が−50mVとして得られるMn添加量と焼鈍処理時間の組合せ条件となる。数式1の関係線に対して、10個上の関係線は電位差が−100mVとして得られるMn添加量と焼鈍処理時間の組合せ条件となる。
【0042】
尚、電位差が−10mVとなる関係線を図14中で数式化すると、
(数式2)
焼鈍処理時間(分)={141.6÷(0.44+0.55Mn添加量)−258.2
として得られる。
【0043】
また、電位差が20mVとなる関係線を図14中で数式化すると、
(数式3)
焼鈍処理時間(分)={151.6÷(0.44+0.55Mn添加量)−258.2
として得られる。
【0044】
上記図14から、ブレージングシート110Aの設定条件(Mnの添加量)の制約、焼鈍処理時間の制約に応じて、ろう材層112の貴化の抑制(犠牲腐食層113よりも電位を下げること)が容易に可能となる。
【0045】
例えば、コンデンサ100のろう付け後に、生産上許容できる焼鈍処理時間を120分として焼鈍処理を行えば、ろう材層112に添加するMn量は0.1〜2.0%の範囲で、ろう材層112の卑化が−35mV〜−75mVの範囲で得られる。尚、Mn添加量の0.1%は、本発明として意図的にMnを添加する最小値であり、Mn添加量の2.0%は、ブレージングシート110A成形時の晶析出物の粗大化による圧延時の割れを起こさないための最大値(限界値)である。
【0046】
また、焼鈍処理時間を数式1で規定すれば、添加Mn量によらず、ろう材層112の卑化を0mVとすることができる。そして、添加Mn量の最小値を0.3%とすれば、焼鈍処理時間を最小30分として、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差を0mVとすることができる。更に、添加Mn量の最小値を0.75%とすれば、焼鈍処理時間を最小20分として、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差を0mVとすることができる。
【0047】
また、焼鈍処理時間を数式1と数式2との間で設定すれば、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差を0mV〜−10mVとすることができる。更に、焼鈍処理時間を数式1と数式3との間で設定すれば、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差を0mV〜−20mVとすることができる。
【0048】
以上のように、本発明においては、Al−Mn系合金の芯材111と、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金のろう材層112との間に犠牲腐食層113が設けられたブレージングシート110Aにおいて、ろう材層112にMnを添加(0.1〜2.0%)するようにしている。
【0049】
このブレージングシート110Aを用いてろう付けを行うと、ろう付けの後に、ろう材層112においてはAl−Mn(−Fe)−Si化合物を晶出し、電位貴化の要因となるAlへの固溶Si量を低減できるので、ろう材層112の電位貴化を抑制して、ろう材層112より先に犠牲腐食層113の腐食が進行すること、更には芯材111の腐食が促進されるのを抑制することができる。また、Mnは高価な物質ではないことから、大幅なコストアップを伴わずに、電位貴化を抑制することができる。
【0050】
そして、上記ブレージングシート110Aから形成されたチューブ110をコンデンサ100のような熱交換器に用いて好適であり、耐食性に優れる熱交換器とすることができる。
【0051】
また、上記ブレージングシート110Aを用いたろう付けの後に、350℃〜450℃、120分以下で焼鈍処理をするのが良く、これにより、ろう付け後のろう材層112中のMnの晶出量を増加させ、ろう材層112中のSiをAl−Mn(−Fe)−Si化合物としてより多く晶出させることができ、電位貴化の要因となるAlへの固溶Si量を更に低減できるので、ろう材層112の電位貴化を抑制して、ろう材層112より先に犠牲腐食層113の腐食が進行すること、更には芯材111の腐食が促進されるのを抑制することができる。
(その他の実施形態)
上記実施形態では、熱交換器としてコンデンサ100を選定し、そのチューブ110に本ブレージングシート110Aを使用したが、熱交換器としてはコンデンサ100に限らず、他のラジエータ、インタークーラ、オイルクーラ等に適用しても良い。また、本ブレージングシート110Aは、チューブ110に限らず、他の構成部材(フィンや、ヘッダタンク等)に使用するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】コンデンサの外観を示す斜視図である。
【図2】チューブおよびアウターフィンを示す斜視図である。
【図3】チューブおよびアウターフィンの詳細を示す斜視図である。
【図4】ブレージングシートを示す断面図である。
【図5】ブレージングシートの化学成分を示す表である。
【図6】チューブ表面からの電位分布を示すグラフである。
【図7】腐食試験を行った後のチューブの腐食状況を示す断面図である。
【図8】腐食試験を行った後のチューブの最大腐食深さを示すグラフである。
【図9】Al−Mnの2元系状態図である。
【図10】Al−Mn−Si系材料の加熱時の電気抵抗変化を示すグラフである。
【図11】Mn添加量に対する電位卑化率を示すグラフである。
【図12】Mn添加量に対する電位変化を示すグラフである。
【図13】焼鈍処理時間に対する電位変化を示すグラフである。
【図14】焼鈍処理時間とMn添加量の適用条件を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
100 コンデンサ(熱交換器)
110 チューブ(構成部材)
110A ブレージングシート
111 芯材
112 外側ろう材層(ろう材層)
113 犠牲腐食層
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルミニウム熱交換器用チューブに用いて好適な、ブレージングシート、それを用いた熱交換器およびその熱交換器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の熱交換器用のアルミニウム合金ブレージングシートとして、例えば特許文献1に示されるように、芯材、中間層材(犠牲腐食層)、外ろう材、内ろう材の4層から成り、ろう材としてAl−Si−Mg系合金としたものが知られている。
【特許文献1】特許第3494591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ろう付け後にろう材中のAlに固溶するSiは、電位を貴化させる特性があるため、ブレージングシート表面の電位が貴になり、ろう材がカソードとなって、ろう材直下の中間層材(犠牲腐食層)、更には芯材の消耗速度が加速される。
【0004】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、ろう材中のSiによる腐食促進を抑制可能とするブレージングシート、それを用いた熱交換器およびその熱交換器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0006】
請求項1に記載の発明では、芯材(111)とろう材層(112)との間に犠牲腐食層(113)が設けられたブレージングシートであって、ろう材層(112)は、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金に、Mnが添加されて形成されたことを特徴としている。
【0007】
これにより、本ブレージングシート(110A)を用いてろう付けを行った後に、ろう材層(112)においてはAl−Mn(−Fe)−Si化合物を晶出し、電位貴化の要因となるAlへの固溶Si量を低減できるので、ろう材層(112)の電位貴化を抑制して、ろう材層(112)より先に犠牲腐食層(113)の腐食が進行すること、更には芯材(111)の腐食が促進されるのを抑制することができる。また、Mnは高価な物質ではないことから、大幅なコストアップを伴わずに、電位貴化を抑制することができる。
【0008】
Mnの添加量としては、請求項2に記載の発明のように、0.1〜2.0mass%とするのが良く、更には、請求項3に記載の発明のように、0.3〜2.0mass%とするのが良く、更に好ましくは、請求項4に記載の発明のように、0.75〜2.0mass%とするのが良い。
【0009】
芯材(111)は、請求項5に記載の発明のように、ろう材層(112)よりも電位の高いAl−Mn系合金から成るブレージングシートとして好適である。
【0010】
請求項6に記載の発明では、熱交換器に関するものであり、請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載のブレージングシート(110A)が、少なくとも1つの構成部材(110)の材料として用いられて、ろう付けにより形成されたことを特徴としており、耐食性に優れる熱交換器(100)とすることができる。
【0011】
請求項7に記載の発明は、上記熱交換器の製造方法に関するものであり、ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件120分以下で焼鈍することを特徴としている。
【0012】
これにより、焼鈍によって、ろう付け後のろう材層(112)中のMnの晶出量を増加させ、ろう材層(112)中のSiをAl−Mn(−Fe)−Si化合物としてより多く晶出させることができ、電位貴化の要因となるAlへの固溶Si量を更に低減できるので、ろう材層(112)の電位貴化を抑制して、ろう材層(112)より先に犠牲腐食層(113)の腐食が進行すること、更には芯材(111)の腐食が促進されるのを抑制することができる。
【0013】
上記請求項7に記載の発明に対して、焼鈍の時間条件としては、請求項8に記載の発明のように、{131.6÷(0.44+0.055×Mnの添加量)−258.2}分〜120分とする、あるいは請求項9に記載の発明のように、{131.6÷(0.44+0.055×Mnの添加量)−258.2}分〜{151.6÷(0.44+0.055×Mnの添加量)−258.2}分とする、更には、請求項10に記載の発明のように、{131.6÷(0.44+0.055×Mnの添加量)−258.2}分〜{141.6÷(0.44+0.055×Mnの添加量)−258.2}分とするのが良い。
【0014】
請求項11に記載の発明では、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金に、Mnが0.1〜2.0mass%添加されたろう材層(112)と、Al−Mn系合金から成る芯材(111)とを持つブレージングシート(110A)を、アルミニウム熱交換器(100)の少なくとも1つの構成部材(110)の材料として用いて、ろう付けし、ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件120分以下で焼鈍することを特徴としている。
【0015】
尚、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、図1〜図14を用いて説明する。第1実施形態は、本発明のブレージングシート110Aを熱交換器のチューブ110に適用したものである。熱交換器は、ここでは自動車用空調装置の冷凍サイクル内に配設されるコンデンサ100としている。
【0017】
まず、コンデンサ100について簡単に説明する。図1〜図3に示すように、コンデンサ100は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金から成り、コア部101と一対のヘッダタンク140、150とを有している。
【0018】
コア部101は、更にチューブ110、アウターフィン120、サイドプレート130から成る。チューブ110(コンデンサ100の1つの構成部材)は、後述するブレージングシート110Aからローラ加工によって折り曲げられて形成され、長手方向に直交する断面が扁平状を成している。内部には、薄肉の平板部材から波形に形成されたインナーフィン115が挿入されている。インナーフィン115は、チューブ110の内壁にろう付けされている。
【0019】
上記チューブ110は複数積層され、それぞれのチューブ111の間に上記インナーフィン115と同様に波形に形成されたアウターフィン120が介在されて、更に、積層方向の最外方には補強部材としてのサイドプレート130が配設されて、コア部110を形成している。そして、チューブ110の長手方向の両端部に円筒状を成す一対のヘッダタンク140、150が接続されている。上記各部材110〜150は、ろう付けによって、一体的に接合されている。
【0020】
このコンデンサ100は、車両エンジンルーム内の前方(グリルの後方)に配置され、チューブ110(コア部101)内を流通する高温高圧の蒸気冷媒を外気によって冷却して、凝縮液化する。
【0021】
上記チューブ110の基本材となるブレージングシート110Aは、図4に示すように、芯材111に外側ろう材層112と中間層(犠牲腐食層)113と内側ろう材層113とがクラッドされた厚さ0.2mmの板材である。ブレージングシート110Aがチューブ110として形成された時に、外側ろう材層112は外側に位置して上記アウターフィン120のろう付けに使用され、内側ろう材層114は内側に位置して上記インナーフィン115のろう付けに使用される。また、犠牲腐食層113は、芯材111と外側ろう材層112との間に形成されている。尚、ここでは、上記ろう材層112、114のクラッド率をそれぞれ10%、犠牲腐食層113のクラッド率を15%としている。
【0022】
上記ブレージングシート110Aの芯材111および各クラッド層112〜114の化学成分を図5(図5中の本発明欄)に示す。芯材111は、Al−Mn系の合金である。ここではMn1.65%、Si1.0%、Fe0.2%、Mg0.4%としている。尚、混合比率は、重量(mass)比率表示としており、以下も同様である。
【0023】
各ろう材層112、114は、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系の合金にMnを添加したものとしている。ここでは、Si10%、Fe0.2%として、更にMnを0.8%添加している。尚、Mnの添加量は、0.1〜2.0%とするのが良く、更に0.3〜2.0%が良く、更に好ましくは、0.75〜2.0%とするのが良い。
【0024】
犠牲腐食層113は、Al−Mn系合金にZnを添加して形成しており、ここでは、Si1.0%、Fe0.18%、Mn1.65%として、更にZnを4.0%添加している。
【0025】
尚、図5中の「比較欄」に示すものは、従来技術に相当するブレージングシートであり、各ろう材層112、114にはMnは添加されていない。また、アウターフィン120は、クラッドのない厚さ0.05mmのベア材としている。また、図5中の本発明1、比較1に対して、ろう付け後に400℃で1時間の焼鈍処理を行ったものを本発明2、比較2としている。
【0026】
上記化学成分を有するブレージングシート110Aから成るチューブ110について、以下の確認を行った。まず、チューブ110の外側表面からの板厚方向の電位分布を確認した。その結果を図6に示す。図6より、比較品1(図6中の点線)ではチューブ110の表面に電位が貴となる領域(右上がりの特性の中で上側に突出する領域)が形成されるが、本発明品1(図6中の実線)ではチューブ表面近傍の電位の貴化が抑制されていることが確認できた。
【0027】
これは、本発明品1においては外側ろう材層112にMnを添加するようにしているので、ろう付け後にろう材層112中のSiがAl−Mn(−Fe)−Si化合物として晶出し、その分、電位貴化の要因となるAl中の固溶Si量を低減することができるからである。
【0028】
そして、比較品1と本発明品1について腐食試験を行った。尚、ここで用いた腐食試験条件は下記のごとくである。
【0029】
乾湿繰り返腐食試験
腐食液噴霧2h→湿潤6h→乾燥4h
温度50℃
初期5サイクルの腐食液として、Clイオン6000ppm、SO4イオン200ppm、Cuイオン10ppmで実施し、
その後、腐食液として、Clイオン6000ppm、SO4イオン200ppmで実施。
【0030】
その結果を図7に示す。図7の(a)は本発明品1であり、(b)は比較品1である。比較品1では電位が貴になるチューブ110表面の外側ろう材層112を残して犠牲腐食層113が腐食するのに対し、本発明品1ではチューブ110の表面から腐食する腐食形態となった。
【0031】
また、図8に上記腐食試験における試験時間に対する最大腐食深さを示す。図8より、それぞれの最大腐食深さは、比較品1と本発明品1ともに犠牲腐食層113内であるが、比較品1ではチューブ110の表面が残りカソードとして働くため腐食が進行しているのに対し、本発明品1では、比較品1と比較して、腐食が抑制されていることが確認できた。
【0032】
ここで、図6で説明した電位分布の確認結果では、本発明品1においても、チューブ110表面に電位的に貴な領域が形成されていた。よって、この領域を更に電位卑化とするために、焼鈍処理を行った。
【0033】
この焼鈍処理は、ろう付け後のろう材層112中のMnの晶出量を増やすことで、ろう材層112中のSiをAl−Mn(−Fe)−Si化合物としてより多く晶出させるために行う。つまり、ろう材層112中のSiをAl−Mn(−Fe)−Si化合物としてより多く晶出させることで、電位貴化の要因となるAl中の固溶Si量を低減する。
【0034】
焼鈍処理のための温度条件は、以下のように決定した。即ち、図9に示すAl−Mn系の状態図を見ると、低温ほどMnの固溶限(固溶量)が低下する。つまり、低温ほどMnの晶出量を増加させることができる。また図10に示すアルミニウム合金(外側ろう材層112相当)の温度に対する電気抵抗の関係を見ると、電気抵抗は400℃近傍(350℃〜450℃の範囲)で最も小さくなる。電気抵抗が小さくなるということは、添加物(Mn)の固溶量が減って(晶出量が増えて)、純アルミに近づくということである。よって、400℃近傍がMnの固溶量を減少させるのに有効な温度と考えられ、焼鈍の温度を400℃とし、1時間の焼鈍処理を行った。
【0035】
400℃×1時間で焼鈍処理した本発明品2の電位分布は、図6(図6中の一点鎖線)に示すようにチューブ110の表面で電位が貴化する領域は見られなくなった。
【0036】
また、図11に示すように、比較品2と本発明品2のそれぞれの焼鈍処理時間に対する電位卑化率を調べてみると、本発明品2はろう材層112へのMnの添加によって、焼鈍処理による電位卑化効果が約10%大きくなった。
【0037】
更に、ろう材層112へのMnの添加量と、焼鈍処理時間との組合せにおけるろう材層112の電位卑化ついて検討した。図12は、焼鈍処理なしの条件で、ろう材層112へのMnの添加量を種々変化させた時のろう材層112(初晶)および犠牲腐食層113(界面)の電位を確認したものである。Mnの添加量増加に伴い、ろう材層112、犠牲腐食層113の電位は低下していき、Mn添加量1.26%以上で、犠牲腐食層113に対してろう材層112が卑となった。
【0038】
また、図13は、ろう材層112へのMn添加量を0%として、焼鈍処理時間(分)を種々変化させた時のろう材層112(初晶)および犠牲腐食層113(界面)の電位を確認したものである。焼鈍処理時間の増加に伴い、ろう材層112、犠牲腐食層113の電位は低下していき、焼鈍処理時間40分以上で、犠牲腐食層113に対してろう材層112が卑となった。
【0039】
上記結果を踏まえて、Mnの添加量と焼鈍処理時間とを種々組み合わせた場合に、ろう材層112が犠牲腐食層113に対して卑となり、且つ、その時の電位差がいくつになるかを確認してまとめたものが図14である。
【0040】
図14中、例えば、Mn添加量が1.26%で焼鈍処理時間が0分のポイントでは、上記図12で説明したように、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差は0mVとなっている。同様に、Mn添加量が0%で焼鈍処理時間40分のポイントでは、上記図13で説明したように、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差は0mVとなっている。また、Mn添加量が0.3%で焼鈍処理時間30分のポイントで、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差が0mVであった。よって、上記3点を滑らかに結ぶ線上が電位差0mVとして得られるMn添加量と焼鈍処理時間の組合せ条件となる。この3点を結ぶ関係線を図14中で数式化すると、
(数式1)
焼鈍処理時間(分)={131.6÷(0.44+0.55Mn添加量)−258.2
として得られた。
【0041】
同様にMnの添加量と焼鈍処理時間との種々の組合せの測定ポイントから得られた電位差についてまとめることで、図14中右上に向かって電位差が順次大きくなっていく関係線が得られた。例えば、上記数式1に対して、電位差が−10mVずつ上昇していく関係線群である。数式1の関係線に対して、5つ上の関係線は電位差が−50mVとして得られるMn添加量と焼鈍処理時間の組合せ条件となる。数式1の関係線に対して、10個上の関係線は電位差が−100mVとして得られるMn添加量と焼鈍処理時間の組合せ条件となる。
【0042】
尚、電位差が−10mVとなる関係線を図14中で数式化すると、
(数式2)
焼鈍処理時間(分)={141.6÷(0.44+0.55Mn添加量)−258.2
として得られる。
【0043】
また、電位差が20mVとなる関係線を図14中で数式化すると、
(数式3)
焼鈍処理時間(分)={151.6÷(0.44+0.55Mn添加量)−258.2
として得られる。
【0044】
上記図14から、ブレージングシート110Aの設定条件(Mnの添加量)の制約、焼鈍処理時間の制約に応じて、ろう材層112の貴化の抑制(犠牲腐食層113よりも電位を下げること)が容易に可能となる。
【0045】
例えば、コンデンサ100のろう付け後に、生産上許容できる焼鈍処理時間を120分として焼鈍処理を行えば、ろう材層112に添加するMn量は0.1〜2.0%の範囲で、ろう材層112の卑化が−35mV〜−75mVの範囲で得られる。尚、Mn添加量の0.1%は、本発明として意図的にMnを添加する最小値であり、Mn添加量の2.0%は、ブレージングシート110A成形時の晶析出物の粗大化による圧延時の割れを起こさないための最大値(限界値)である。
【0046】
また、焼鈍処理時間を数式1で規定すれば、添加Mn量によらず、ろう材層112の卑化を0mVとすることができる。そして、添加Mn量の最小値を0.3%とすれば、焼鈍処理時間を最小30分として、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差を0mVとすることができる。更に、添加Mn量の最小値を0.75%とすれば、焼鈍処理時間を最小20分として、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差を0mVとすることができる。
【0047】
また、焼鈍処理時間を数式1と数式2との間で設定すれば、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差を0mV〜−10mVとすることができる。更に、焼鈍処理時間を数式1と数式3との間で設定すれば、ろう材層112と犠牲腐食層113との電位差を0mV〜−20mVとすることができる。
【0048】
以上のように、本発明においては、Al−Mn系合金の芯材111と、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金のろう材層112との間に犠牲腐食層113が設けられたブレージングシート110Aにおいて、ろう材層112にMnを添加(0.1〜2.0%)するようにしている。
【0049】
このブレージングシート110Aを用いてろう付けを行うと、ろう付けの後に、ろう材層112においてはAl−Mn(−Fe)−Si化合物を晶出し、電位貴化の要因となるAlへの固溶Si量を低減できるので、ろう材層112の電位貴化を抑制して、ろう材層112より先に犠牲腐食層113の腐食が進行すること、更には芯材111の腐食が促進されるのを抑制することができる。また、Mnは高価な物質ではないことから、大幅なコストアップを伴わずに、電位貴化を抑制することができる。
【0050】
そして、上記ブレージングシート110Aから形成されたチューブ110をコンデンサ100のような熱交換器に用いて好適であり、耐食性に優れる熱交換器とすることができる。
【0051】
また、上記ブレージングシート110Aを用いたろう付けの後に、350℃〜450℃、120分以下で焼鈍処理をするのが良く、これにより、ろう付け後のろう材層112中のMnの晶出量を増加させ、ろう材層112中のSiをAl−Mn(−Fe)−Si化合物としてより多く晶出させることができ、電位貴化の要因となるAlへの固溶Si量を更に低減できるので、ろう材層112の電位貴化を抑制して、ろう材層112より先に犠牲腐食層113の腐食が進行すること、更には芯材111の腐食が促進されるのを抑制することができる。
(その他の実施形態)
上記実施形態では、熱交換器としてコンデンサ100を選定し、そのチューブ110に本ブレージングシート110Aを使用したが、熱交換器としてはコンデンサ100に限らず、他のラジエータ、インタークーラ、オイルクーラ等に適用しても良い。また、本ブレージングシート110Aは、チューブ110に限らず、他の構成部材(フィンや、ヘッダタンク等)に使用するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】コンデンサの外観を示す斜視図である。
【図2】チューブおよびアウターフィンを示す斜視図である。
【図3】チューブおよびアウターフィンの詳細を示す斜視図である。
【図4】ブレージングシートを示す断面図である。
【図5】ブレージングシートの化学成分を示す表である。
【図6】チューブ表面からの電位分布を示すグラフである。
【図7】腐食試験を行った後のチューブの腐食状況を示す断面図である。
【図8】腐食試験を行った後のチューブの最大腐食深さを示すグラフである。
【図9】Al−Mnの2元系状態図である。
【図10】Al−Mn−Si系材料の加熱時の電気抵抗変化を示すグラフである。
【図11】Mn添加量に対する電位卑化率を示すグラフである。
【図12】Mn添加量に対する電位変化を示すグラフである。
【図13】焼鈍処理時間に対する電位変化を示すグラフである。
【図14】焼鈍処理時間とMn添加量の適用条件を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
100 コンデンサ(熱交換器)
110 チューブ(構成部材)
110A ブレージングシート
111 芯材
112 外側ろう材層(ろう材層)
113 犠牲腐食層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材(111)とろう材層(112)との間に犠牲腐食層(113)が設けられたブレージングシートであって、
前記ろう材層(112)は、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金に、Mnが添加されて形成されたことを特徴とするブレージングシート。
【請求項2】
前記Mnの添加量は、0.1〜2.0mass%であることを特徴とする請求項1に記載のブレージングシート。
【請求項3】
前記Mnの添加量は、0.3〜2.0mass%であることを特徴とする請求項2に記載のブレージングシート。
【請求項4】
前記Mnの添加量は、0.75〜2.0mass%であることを特徴とする請求項3に記載のブレージングシート。
【請求項5】
前記芯材(111)は、前記ろう材層(112)よりも電位の高いAl−Mn系合金から成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブレージングシート。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載のブレージングシート(110A)が、少なくとも1つの構成部材(110)の材料として用いられて、ろう付けにより形成されたことを特徴とする熱交換器。
【請求項7】
請求項6に記載の熱交換器の製造方法であって、
前記ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件120分以下で焼鈍することを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の熱交換器の製造方法であって、
前記ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件{131.6÷(0.44+0.055×前記Mnの添加量)−258.2}分〜120分で焼鈍することを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の熱交換器の製造方法であって、
前記ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件{131.6÷(0.44+0.055×前記Mnの添加量)−258.2}分〜{151.6÷(0.44+0.055×前記Mnの添加量)−258.2}分で焼鈍することを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項10】
請求項6に記載の熱交換器の製造方法であって、
前記ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件{131.6÷(0.44+0.055×前記Mnの添加量)−258.2}分〜{141.6÷(0.44+0.055×前記Mnの添加量)−258.2}分で焼鈍することを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項11】
Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金に、Mnが0.1〜2.0mass%添加されたろう材層(112)と、Al−Mn系合金から成る芯材(111)とを持つブレージングシート(110A)を、アルミニウム熱交換器(100)の少なくとも1つの構成部材(110)の材料として用いて、ろう付けし、
前記ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件120分以下で焼鈍することを特徴とするアルミニウム熱交換器の製造方法。
【請求項1】
芯材(111)とろう材層(112)との間に犠牲腐食層(113)が設けられたブレージングシートであって、
前記ろう材層(112)は、Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金に、Mnが添加されて形成されたことを特徴とするブレージングシート。
【請求項2】
前記Mnの添加量は、0.1〜2.0mass%であることを特徴とする請求項1に記載のブレージングシート。
【請求項3】
前記Mnの添加量は、0.3〜2.0mass%であることを特徴とする請求項2に記載のブレージングシート。
【請求項4】
前記Mnの添加量は、0.75〜2.0mass%であることを特徴とする請求項3に記載のブレージングシート。
【請求項5】
前記芯材(111)は、前記ろう材層(112)よりも電位の高いAl−Mn系合金から成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブレージングシート。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載のブレージングシート(110A)が、少なくとも1つの構成部材(110)の材料として用いられて、ろう付けにより形成されたことを特徴とする熱交換器。
【請求項7】
請求項6に記載の熱交換器の製造方法であって、
前記ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件120分以下で焼鈍することを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の熱交換器の製造方法であって、
前記ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件{131.6÷(0.44+0.055×前記Mnの添加量)−258.2}分〜120分で焼鈍することを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の熱交換器の製造方法であって、
前記ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件{131.6÷(0.44+0.055×前記Mnの添加量)−258.2}分〜{151.6÷(0.44+0.055×前記Mnの添加量)−258.2}分で焼鈍することを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項10】
請求項6に記載の熱交換器の製造方法であって、
前記ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件{131.6÷(0.44+0.055×前記Mnの添加量)−258.2}分〜{141.6÷(0.44+0.055×前記Mnの添加量)−258.2}分で焼鈍することを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項11】
Siを4.0〜15%含有するAl−Si系合金に、Mnが0.1〜2.0mass%添加されたろう材層(112)と、Al−Mn系合金から成る芯材(111)とを持つブレージングシート(110A)を、アルミニウム熱交換器(100)の少なくとも1つの構成部材(110)の材料として用いて、ろう付けし、
前記ろう付けを行った後に、温度条件350℃〜450℃、時間条件120分以下で焼鈍することを特徴とするアルミニウム熱交換器の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−125608(P2007−125608A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322883(P2005−322883)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
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