説明

ブレージングシート及びその製造方法

【課題】合金成分、クラッド率、製造条件の組合せを検討することで、これまでのフィン材よりも薄肉化しても耐高温座屈性や強度が高く、優れた犠牲陽極効果を示すフィン材用ブレージングシートの製造方法を提供する。
【解決手段】Mnを0.6質量%〜1.8質量%(以下、質量%を単に%と記す。)、Feを0.05%〜0.6%、Siを0.02%〜0.7%、Znを0.02%〜3.0%、Zrを0.05%〜0.3%、Tiを0.05%〜0.3%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を芯材とし、この芯材の片面、又は両面にSiを6.0%〜15.0%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を皮材としたブレージングシートの製造方法であって、
前記皮材のクラッド率が片面で5%〜15%となるように積層してアルミニウム合金合せ材を形成する工程と、
前記アルミニウム合金合せ材を420℃〜500℃で加熱した後に、熱間圧延、冷間圧延及び中間焼鈍を行う工程と、
前記アルミニウム合金合せ材の圧延率が、20%〜70%となるようにして最終冷間圧延を行い、40μm〜80μmの板厚のブレージングシートを製造する工程と、
を具えるブレージングシートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板厚40μm〜80μmの薄板で、耐高温座屈性に優れ、非腐食性フラックスブレージングに適したブレージングシート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車載クーラー用のコンデンサー、エバポレータなどの熱交換器は、アルミニウム合金製の押出多穴チューブ等の冷媒通路構成部材とコルゲートフィン等とから構成されている。
一般にこのような押出多穴チューブにはJIS A1050(99.5質量%以上のAl(以下、質量%を単に%と記す。))やA3003(Al−0.15%Cu−1.1%Mn)合金が用いられ、コルゲートフィンにはA3003あるいはA3203(Al−1.1%Mn)を芯材とし、これらの両面にAl−Si系合金、例えば4343合金(Al−7.5%Si)や4004(Al−10%Si−1.5%Mg)がクラッドされた、いわゆるブレージングシートが用いられる。
そしてこれらのブレージングシートを用いる熱交換器の製造は、押出多穴チューブとブレージングシートとを用いて所望の形状に組み立てた後、雰囲気を調整した炉内で590℃〜620℃に数分加熱して接合する方法、いわゆるブレージング法により行なわれる。
【0003】
ところでブレージング法の中で非腐食性フラックスブレージング法を用いるブレージングシートの場合、コルゲートフィンの芯材(あるいは皮材にも)A3003合金にZnを添加し、犠牲陽極フィンの効果を与え押出しチューブ材を防食する必要がある。しかしながら、Znを添加すると犠牲陽極効果は向上するものの耐高温座屈性が低下する。
耐高温座屈性を向上させる方法がいくつか提案されている。特許文献1では、このようなブレージング法に用いるアルミニウム合金製フィン材の製造方法として、Mn、Mg、Zrなどを所定量含有するアルミニウム合金の芯材に皮材をクラッドしたフィン材の製造方法が提案されている。
特許文献2では、Mn、Zn、Cu、Fe、Siを所定量含有したアルミニウム合金を芯材として高強度化、高温座屈性を向上させている。
また特許文献3では、Mn、Zn、Fe、Siを所定量含有したアルミニウム合金を芯材として、熱間圧延の途中で300℃〜450℃、1分間以上保持することで、フィン材のブレージング加熱の高温加熱時で析出と再結晶の競合が緩和されて耐高温座屈性を向上させている。
さらに特許文献4では、薄肉化させたアルミニウム合金クラッド材において材料中の平均Si濃度とクラッド率を調整することで溶融ろうが芯材へ侵食することを防ぎ、高温座屈を防止している。
【0004】
近年、熱交換器の軽量化、コスト低減の要求はますます高まり、フィン材はじめ主要部材の薄肉化が進行している。フィン材を薄くする際、熱交換器の特性を維持、向上するためにフィン材の高強度化が必須である。しかし、ブレージングシートのろう溶融加熱時は溶融ろうのSiが芯材へ拡散し、芯材のSi濃度が増加する。このとき、Si濃度が高くなると、芯材の融点が下がり、ろう溶融時に芯材のろうの侵食及び芯材の溶解が生じやすくなる。この現象は芯材厚さが薄くなるほど顕著になり、強度が低下し、ろう溶融時にフィンの座屈が生じやすくなる。
上記の特許文献1〜3は耐高温座屈性を向上させているが、いずれも板厚100μm未満の薄肉化フィンには対応していない。
また、材料を薄肉化すると皮材や芯材の板厚が薄くなるため、ろう材中のSiが芯材へ拡散しやすくなる。Siが芯材へ拡散すると芯材のSi濃度が高くなり、融点が下がる。これによりろう付け加熱時にフィンが溶融する問題も生じてくる。特許文献4では材料中の平均Si濃度とクラッド率とを調整することで溶融ろうが芯材へ侵食することを防ぎ、高温座屈を防止しているが、薄肉化に伴った強度を確保するための製造工程や芯材中に含まれる析出物が占める数密度が規定されていない。
従って、フィン材の薄肉化を進めるに当たり、フィンの耐高温座屈性を向上させるとフィンの溶融を抑えることは必須であり、より適切な合金成分やクラッド率の組合せと強度の確保が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−215729号公報
【特許文献2】特開昭63−153251号公報
【特許文献3】特開昭64−11081号公報
【特許文献4】特許第3859781号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、合金成分、クラッド率、製造条件の組合せを検討することで、これまでのフィン材よりも薄肉化しても耐高温座屈性や強度が高く、優れた犠牲陽極効果を示すフィン材用ブレージングシートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記問題点を解決するため、検討を重ねた結果、Mn、Zn、Fe、Siを所定量含有したアルミニウム合金を芯材とし、Al−Si系ろう材を皮材として膜形成した合せ材に対して、所定の熱処理及び加工を施すことによりその目的を達成しうることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
本発明によれば、以下の手段が提供される。
(1)Mnを0.6質量%〜1.8質量%(以下、質量%を単に%と記す。)、Feを0.05%〜0.6%、Siを0.02%〜0.7%、Znを0.02%〜3.0%、Zrを0.05%〜0.3%、Tiを0.05%〜0.3%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を芯材とし、この芯材の片面、又は両面にSiを6.0%〜15.0%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を皮材としたブレージングシートの製造方法であって、
前記皮材のクラッド率が片面で5%〜15%となるように皮材をクラッドしてアルミニウム合金合せ材を形成する工程と、
前記アルミニウム合金合せ材を420℃〜500℃で加熱した後に、熱間圧延、冷間圧延及び中間焼鈍を行う工程と、
前記アルミニウム合金合せ材の圧延率が、20%〜70%となるようにして最終冷間圧延を行い、40μm〜80μmの板厚のブレージングシートを製造する工程と、
を具えることを特徴とする、ブレージングシートの製造方法(以下、第1の発明という)。
(2)Mnを0.6%〜1.8%、Feを0.05%〜0.6%、Siを0.02%〜0.7%、Cuを0.05%〜0.8%、Znを0.02%〜3.0%、Zrを0.05%〜0.3%、Tiを0.05%〜0.3%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を芯材とし、芯材の片面、又は両面にSiを6.0%〜15.0%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を皮材としたブレージングシートの製造方法であって、
前記皮材のクラッド率が片面で5%〜15%となるように皮材をクラッドしてアルミニウム合金合せ材を形成する工程と、
前記アルミニウム合金合せ材を420℃〜500℃で加熱した後に、熱間圧延、冷間圧延及び中間焼鈍を行う工程と、
前記アルミニウム合金合せ材の圧延率が、20%〜70%となるようにして最終冷間圧延を行い、40μm〜80μmの板厚のブレージングシートを製造する工程と、
を具えることを特徴とする、ブレージングシートの製造方法(以下、第2の発明という)。
(3)最終板厚T(μm)と芯材のSi量a(%)と皮材のSi量b(%)、皮材のクラッド率をC(%)とした場合、a+{0.001b(2C/100)+0.024}/(T/1000)<1.40の式を満たすことを特徴とする、(1)または(2)に記載の製造方法により製造されたブレージングシート。
(4)芯材中に占めるAl−Mn−FeやAl−Mn−Si系の粒径0.1μm以上3.0μm未満の微細な析出物が占める数密度A(個/mm)と粒径3.0μm以上の粗大な析出物が占める数密度B(個/mm)の比率A/Bが50≦A/B≦500を満たすことを特徴とする、(1)または(2)に記載の製造方法により製造されたブレージングシート。
なお、本発明におけるクラッド率とは、全体の板厚に対して皮材が占める厚さの割合で、皮材の厚さ/全体の板厚×100(%)で表される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のブレージングシートは、耐高温座屈性、強度及び耐食性に優れているために薄肉化することができるので、これを用いることにより熱交換器を従来のものに比べ軽量化することが可能である。本発明の製造方法によれば、耐高温座屈性、強度及び耐食性に優れ、薄肉のブレージングシートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】フィン材の耐高温座屈性の試験方法の説明図である。
【図2】フィン材の耐孔食試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、発明の実施の形態に基づいて説明する。
最初に、本発明のフィン材の芯材に用いられるアルミニウム合金組成における各成分の作用を説明する。なお、以下、質量%を単に%と記す。
Mnは合金の強度を向上させるとともにAl−Mn−FeあるいはAl−Mn−Si系の化合物が析出し、再結晶粒を粗大化させ、ブレージング時の高温過熱の際の耐高温座屈性を向上させる働きを持つ。その量が少なすぎるとその効果が小さい。また、多すぎる場合はAl−Mn−Fe、Al−Mn−Si系の粗大な化合物が密に析出して成形性を悪化させる。また、巨大晶出物が生じ易く、再結晶が阻害され結晶粒が微細化し、結晶粒界の耐食性を悪化させる。従って、Mnの含有量は0.6%〜1.8%で、更に好ましくは0.9%〜1.4%の範囲である。
【0011】
Feは、Al、Mnとの共存によってAl−Mn−Fe系の析出物を生じ、再結晶粒を粗大化させ、ブレージング時の高温過熱の際の耐高温座屈性を向上させる働きを持つ。少なすぎると、再結晶粒は十分に粗大化されず、結晶粒が微細になり結晶粒界の腐食が進行し耐食性が悪化する。一方、多すぎるとAl−Mn−Fe系の粗大な化合物が密に析出して成形性を悪化させる。また、晶出物の量が増え、再結晶の核サイトとして働くため、再結晶粒が微細化し、結晶粒界の耐食性及び耐高温座屈性を悪化させる。従って、Feの含有量は0.05%〜0.6%で、更に好ましくは0.1%〜0.3%の範囲である。
【0012】
SiはAl−Mn−Si系の微細な化合物を析出させて強度を向上させる。また、再結晶粒を粗大化させ、ブレージング時の高温加熱の際の耐高温座屈性を向上させる働きを持つ。少なすぎるとその効果が十分に得られず、多すぎるとAl−Mn−Si系の微細な析出物が密になり、また、晶出物の効果で再結晶粒が微細化し結晶粒界の腐食が進行し耐食性及び耐高温座屈性を悪化させる。また、融点が低下しろう溶融時に芯材が溶融してしまう。従って、Siの含有量は0.02%〜0.7%で、更に好ましくは0.4%〜0.6%の範囲である。
Znはフィン材の電位を卑にし、犠牲陽極効果でチューブなどの作動流体通路の孔食を防ぐ作用がある。少なすぎるとその効果が十分に得られず、多すぎると自己腐食が高くなるとともにろう付性が低下する。従って、Znの含有量は0.02%〜3.0%で、更に好ましくは0.5%〜1.5%の範囲である。
【0013】
Cuは合金の強度を上げてブレージング時の高温加熱の際の耐高温座屈性を向上させる働きを持つ。Cuはフィン材の電位を貴にし、犠牲陽極効果を減じるため、従来添加は好ましくない元素と考えられてきた。本願第1の発明は、Cuを特に添加せず、不可避的不純物程度であっても、耐高温座屈性に必要な強度を有するブレージングシートである。本願第2の発明は、Cuを添加することで耐高温座屈性をさらに向上させたブレージングシートを提案している。Cuを添加した場合には、その添加量に応じてZnの添加量を0.02%〜3.0%に調整することでフィン材の犠牲陽極効果を損なわずに、強度及び耐高温座屈性を向上させられることを見出した。多すぎると強度が急増してフィン材としての成形性が悪くなると共にフィンの電位が貴となり犠牲陽極効果が無くなる。従って、Cuの含有量は0.05%〜0.8%で、更に好ましくは0.1%〜0.5%の範囲である。
【0014】
Zrは微細な金属間化合物を形成し合金の強度と耐高温座屈性を向上させる。Zrが少なすぎるとその効果が十分に得られず、多すぎると、成形性が低下し、組付けなどの加工時に割れが生じてしまう。従って、Zrの含有量は0.05%〜0.3%で、更に好ましくは0.1%〜0.2%の範囲である。
Tiは微細な金属間化合物を形成し合金の強度と耐高温座屈性を向上させる。Tiが少なすぎるとその効果が十分に得られず、多すぎると、鋳塊に粗大な化合物が生じて熱間圧延時に割れが生じてしまう。従って、Tiの含有量は0.05%〜0.3%で、更に好ましくは0.1%〜0.2%の範囲である。
なお、本発明において、その他の不可避的不純物元素(Mg、Cr、Ca等)は各々0.05%以下、合計で0.15%以下であれば本発明の効果に影響を与えない。
【0015】
次に本発明のフィン材の皮材に添加されたSiの作用を説明する。皮材中のSiは皮材の融点を低下させ、溶融ろうの流動性及び、チューブやサイドプレートの接合性を向上させる効果を有する。Siの含有量は、少なすぎると上記効果が十分に得られない。多すぎると皮材の融点が高くなり、ろうが溶融され難くなりチューブやサイドプレートの接合性が低下する。従って、皮材のSiの含有量は6.0%〜15.0%が好ましく、更に好ましくは8.0%〜12.0%の範囲である。
なお、皮材の残部はAlと不可避的不純物からなる。不可避的不純物元素Cu、Znは0.01%以下であれば本発明の効果に影響を与えない。Feは多いと材料の腐食を促進させるが0.8%以内であれば、本発明の効果に影響を与えない。また、NaやSrは皮材のSi粒子を微細化させて芯材へのSi粒子の侵食を抑える働きがあるので、皮材にNaもしくはSrを添加しても良い。
【0016】
皮材のクラッド率は5%〜15%とする。クラッド率が低すぎるとクラッドフィンのろうが不足して、チューブ材との接合性が低下する恐れがある。また、クラッド率が高すぎると溶融ろうが多くなり芯材が溶解されやすくなる。従って、皮材のクラッド率は片面で5%〜15%が好ましく、更に好ましくは8%〜12%の範囲である。
【0017】
ブレージングシートの板厚T(μm)と芯材のSi量a(%)と皮材のSi量b(%)、皮材のクラッド率をC(%)とした場合、

a+{0.001b(2C/100)+0.024}/
(T/1000)<1.40 (1)
を満たしていなければならない。この(1)式はろう付け加熱時600℃の芯材のSi量を表している。通常、熱交換器用ブレージングシートのろう溶融加熱は600℃前後で行われるが、加熱中は皮材のSiが芯材へ拡散して芯材のSi量が増加する。ブレージングシートの板厚が薄いほど、皮材や芯材の板厚が薄くなるため、ろう材中のSiが芯材へ拡散しやすくなる。本発明のブレージングシートの芯材のSi量が1.40%を超えると芯材の溶融が始まる。芯材のSi量が0.02%〜0.7%、皮材のSi量が6.0%〜15.0%、皮材のクラッド率が5%〜15%、フィン材の板厚は40μm〜80μmであれば、上記(1)式を満たし、ブレージングシートの特性を向上することができる。更に好ましくは、芯材のSi量が0.4%〜0.6%、皮材のSi量が7.0%〜10.0%、皮材のクラッド率が8%〜12%、フィン材の板厚は40μm〜80μmの範囲である。
【0018】
ブレージングシートの板厚は40μm〜80μmである。40μm未満だと溶融ろうによって芯材が溶融されやすい。また、強度が不足して耐高温座屈性が著しく低下する。80μmを超えると本発明の目的である薄肉化にならない。
【0019】
従来の熱交換器用チューブ材やフィン材は鋳造後に芯材に組成の均質化処理を施すが、本発明方法においては均質化処理をすることなく、芯材に皮材をクラッドして合わせ加熱だけでも組成の均質化を図ることができて十分要求特性を満足することができる。
芯材の均質化処理を施さずに芯材と皮材を420℃〜500℃の温度で加熱した後、熱間圧延を行なう。加熱温度を420℃〜500℃とすることにより、Al−Mn−FeやAl−Mn−Si系の金属間化合物を析出させて強度か向上し、薄肉化したフィン材の耐高温座屈性を向上することができる。420℃未満では熱間圧延の変形抵抗が大きくなり、圧延が困難になる。また、500℃を超えると金属間化合物が過剰に析出するため、耐高温座屈性が低下する。また、晶出物の効果で再結晶粒が微細化し結晶粒界の腐食が進行し耐食性を悪化させる。尚、加熱保持時間は1時間〜5時間が望ましい。
熱間圧延終了後、冷間圧延を行なった後に中間焼鈍を行う。中間焼鈍の際に固溶元素の析出を促進するために冷間圧延は必要であり、その圧下率は10%〜90%が望ましい。
【0020】
中間焼鈍は、固溶しているMn、Cu、Siなどの元素が析出し易い300℃以上で0.5時間〜4時間加熱するのが望ましい。
中間焼鈍の後に最終の冷間圧延を行い製品とするのであるがこの冷間圧延率(最終冷延率)は20%〜70%とする。この冷延率が低すぎると薄肉化という要求を満足する強度のフィン材が得られない。一方、冷延率が高すぎると加工量が多いため、変形帯からも再結晶の核発生が起こり、再結晶粒が微細となり、皮材からSiが粒界拡散し、粒界の耐食性が低下する。従って、中間焼鈍のあとの冷間圧延率は20%〜70%であることが好ましく、更に好ましくは35%〜55%の範囲である。
【0021】
前述の工程で製造されたブレージングシートにおいて、芯材中に占めるAl−Mn−FeやAl−Mn−Si系の粒径0.1μm以上3.0μm未満の微細な析出物が占める数密度A(個/mm)と粒径3.0μm以上の粗大な析出物が占める数密度B(個/mm)の比率A/Bが50≦A/B≦500を満たしていなければならない。前述の比率50≦A/B≦500は芯材の均質化処理を施さずに熱間圧延前に芯材と皮材を420℃〜500℃の温度で加熱することで得られ、ブレージング時の高温過熱の際の耐高温座屈性を向上させる働きを持つ。A/Bが小さすぎると粒径0.1μm以上3.0μm未満の微細な析出物と粒径3.0μm以上の粗大な析出物が少なく、十分な強度が得られず耐高温座屈性を低下させる。もしくは、粒径3.0μm以上の粗大な析出物が占める数密度Bが高く成形性を悪化させる。A/Bが大きすぎると再結晶粒が微細化し結晶粒界の腐食が進行し耐食性及び耐高温座屈性を悪化させる。したがって50≦A/B≦500で、さらに好ましくは200≦A/B≦350である。
【実施例】
【0022】
次に本発明を実施例に基づき更に詳細に説明する。
表1には、本実施例で用いた芯材の合金組成を示す。A1〜A15の組成を持つ合金を用いて258mm×790mm×1600mmサイズの鋳塊を作製し、面削した。次に、表2に示すB1〜B5の合金組成を有する皮材をクラッド率3.5%〜25%で該芯材合金の両面にクラッドし、表3に示す試作材No.1〜54の合せ材を準備した。次に320℃〜560℃の3時間の合せ加熱を行なった後、3.5mmまで熱間圧延を行い、所定の板厚まで冷間圧延した後、390℃で2時間の中間焼鈍を行い、更に冷間圧延を行って板厚60μm、40μm、比較例として30μmのブレージングシートを作製した。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
上記のように得られたフィン材の引張強度、耐高温座屈性及び耐食試験を行い、結果を表4に示した。
(1)引張強度
引張試験はJIS5号のサイズに加工した試験片で実施した。結果より引張強度が高いほど耐高温座屈性の垂下量が低い傾向になった。比較例の板厚30μmの試作材No.51、No.53は板厚が薄いため、強度に関係なく加熱後の垂下量が高くなった。
(2)耐高温座屈性(垂下量)
試作材No.1〜54から幅16mm、長さ60mmの試料片1を作製し、これを図1(a)のように台2上に固定具3を用いて、片持ちで0.06×16×50(mm)の張り出し部を保持し、600℃、3分間窒素雰囲気中で加熱した。図1(a)は加熱前の模式的な正面図、図1(b)は図1(a)の状態での模式的な平面図である。図1(c)は加熱後の垂下した状態を模式的に示す正面図である。図1(c)に示す加熱後の垂下量が15mm以下を合格とした。
(3)フィン接合性
図2に示すようにフィン材4をコルゲート加工した後、両側に0.5×16×70(mm)A3003板5を非腐食性フラックスブレージング法でろう付けした。フィンと板5の接合部にろう溜まり(フィレット)が形成されているかを判断基準とした。
(4)フィン材の耐孔食性試験(耐食性)
図2に示すようにフィン材4をコルゲート加工した後、両側に0.5×16×70(mm)A3003板5を非腐食性フラックスブレージング法でろう付けした。
この試験片を用いて塩水噴霧(JIS2371に準じる)4000時間を行い、A3003板に生じた孔食を調べた
(5)Al−Mn−Fe、Al−Mn−Si系金属化合物の数密度
ろう付け加熱前素板の芯材の断面を日本電子(株)社製、走査型電子顕微鏡(JSM−6460LA)で×1000倍率にて撮影し、円相当径0.1μm以上のAl−Mn−Fe、Al−Mn−Si系金属化合物個数を旭化成エンジニアリング(株)社製画像解析ソフト(A像くん)にてカウントし、数密度を測定した。表4に「粒径0.1μm以上3.0μm未満の微細な析出物が占める数密度A(個/mm)と粒径3.0μm以上の粗大な析出物が占める数密度B(個/mm)の比率A/B」として示した。
【0027】
【表4】

【0028】
(本発明の結果)
従来の厚い材料に対して、本発明の薄肉化した材料でも、十分な強度と耐高温座屈性が得られ、よりフィンの薄肉化が可能となる。一方で、耐高温座屈性試験において垂下量が15mmを超えた試作材は、図2のような形状にフィンを加工してろう付加熱した際、フィンの座屈が確認された。また、板厚が40μmの試作材は本発明の特性を得ることができたが、板厚が30μmの試作材になると、強度に関係なくろう付加熱後の垂下量が高くなり、フィンの溶解が起こり易く、本発明の特性を得ることが困難であることが確認された。
したがって本発明方法によれば非腐食性フラックスブレージング及びキャリアーガスブレージングに適するフィン用アルミニウム薄板を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明品は自動車用熱交換器向のアルミニウム合金フィン材において、高強度かつ、耐食性に優れ、薄肉化により、本発明品を用いた熱交換器は従来のものに比べ軽量化できることが期待され、産業上顕著な効果を有するものである。
【符号の説明】
【0030】
1 試料片
2 台
3 固定具
4 フィン材
5 板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnを0.6質量%〜1.8質量%(以下、質量%を単に%と記す。)、Feを0.05%〜0.6%、Siを0.02%〜0.7%、Znを0.02%〜3.0%、Zrを0.05%〜0.3%、Tiを0.05%〜0.3%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を芯材とし、この芯材の片面、又は両面にSiを6.0%〜15.0%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を皮材としたブレージングシートの製造方法であって、
前記皮材のクラッド率が片面で5%〜15%となるように皮材をクラッドしてアルミニウム合金合せ材を形成する工程と、
前記アルミニウム合金合せ材を420℃〜500℃で加熱した後に、熱間圧延、冷間圧延及び中間焼鈍を行う工程と、
前記アルミニウム合金合せ材の圧延率が、20%〜70%となるようにして最終冷間圧延を行い、40μm〜80μmの板厚のブレージングシートを製造する工程と、
を具えることを特徴とする、ブレージングシートの製造方法。
【請求項2】
Mnを0.6%〜1.8%、Feを0.05%〜0.6%、Siを0.02%〜0.7%、Cuを0.05%〜0.8%、Znを0.02%〜3.0%、Zrを0.05%〜0.3%、Tiを0.05%〜0.3%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を芯材とし、芯材の片面、又は両面にSiを6.0%〜15.0%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を皮材としたブレージングシートの製造方法であって、
前記皮材のクラッド率が片面で5%〜15%となるように皮材をクラッドしてアルミニウム合金合せ材を形成する工程と、
前記アルミニウム合金合せ材を420℃〜500℃で加熱した後に、熱間圧延、冷間圧延及び中間焼鈍を行う工程と、
前記アルミニウム合金合せ材の圧延率が、20%〜70%となるようにして最終冷間圧延を行い、40μm〜80μmの板厚のブレージングシートを製造する工程と、
を具えることを特徴とする、ブレージングシートの製造方法。
【請求項3】
最終板厚T(μm)と芯材のSi量a(%)と皮材のSi量b(%)、皮材のクラッド率をC(%)とした場合、a+{0.001b(2C/100)+0.024}/(T/1000)<1.40の式を満たすことを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法により製造されたブレージングシート。
【請求項4】
芯材中に占めるAl−Mn−FeやAl−Mn−Si系の粒径0.1μm以上3.0μm未満の微細な析出物が占める数密度A(個/mm)と粒径3.0μm以上の粗大な析出物が占める数密度B(個/mm)の比率A/Bが50≦A/B≦500を満たすことを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法により製造されたブレージングシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−67385(P2012−67385A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176741(P2011−176741)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)