説明

ブロックイソシアネート含有水性エマルジョン組成物を硬化剤とする水性樹脂組成物及びそれを使用する水性焼付け型塗料用又は接着剤用組成物

【課題】ブロックイソシアネート含有水性一液型ポリウレタン樹脂被覆剤において、水性一液被覆剤用ポリウレタンエマルジョンの耐候性を改良した組成物の提供。
【解決手段】主剤と硬化剤を含有することを特徴とする、水性樹脂組成物。 主剤:アクリル系樹脂 硬化剤:有機ポリイソシアネートとノニオン性極性基含有高分子ポリオールを反応させ、イソシアネート基をブロック剤にて封鎖して、ブロックポリイソシアネート成分を生成させ、その反応系において、有機ポリイソシアネートと高分子ポリオール及びカルボキシル基含有アニオン性低分子グリコールを反応させて、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを製造し、反応系中のカルボキシル基を中和剤にて中和させた後、反応混合物を水に乳化させ、鎖延長剤により鎖延長反応を行って高架橋型ポリウレタン樹脂を生成させた、ブロックイソシアネート含有水性エマルジョン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックイソシアネート含有水性エマルジョン組成物を硬化剤とする水性樹脂組成物及びそれを使用する水性焼付け型塗料用又は接着剤用組成物に関し、詳しくは、アクリル系樹脂を主剤とし、エマルジョンがコア・シェル構造を形成し粒径分布が小さく狭くなることにより、35℃以上での貯蔵安定性に優れたブロックイソシアネート含有水性エマルジョン組成物を硬化剤とする、被覆剤などとしての性能が良好な水性樹脂組成物に係わり、更に、それを使用する、塗膜性能などに優れた水性一液焼付け型塗料用又は接着剤用組成物に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン系樹脂やアクリル系樹脂などを主剤とする被膜形成用組成物は、塗料や接着剤として自動車や建材或いは家電や木工などの種々の産業分野において重要な資材として汎用されている。
最近では、環境保全性や作業安全性などの観点からして、有機溶剤系から有機溶剤を使用しない水系(水性)の樹脂組成物への移行が志向され、有機溶剤を使用しないため経済的にも有利であるので、有機溶剤系の組成物よりも重用されつつある。そして、水系のポリウレタン樹脂などの被覆剤においては、有機溶剤系の被覆剤よりも耐久性や耐溶剤性などの各種の物性が概して低いので、有機溶剤系の被覆剤と同等の各種の物性を得るための改良の検討が続けられている。
【0003】
例えば、カルボキシル基を導入したイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを中和させ水分散性にした後に、水に乳化させ鎖延長反応を行ったウレタンプレポリマーと、水に相溶しないウレタンプレポリマーを含有する水性一液被覆剤用ポリウレタンエマルジョンが知られているが(特許文献1を参照)、被覆剤としての被膜物性が未だ充分であるとはいえない。
また、いわゆるブロックイソシアネート化合物を利用する水系の一液型ポリウレタン樹脂被覆剤もよく知られており(例えば、特許文献2を参照)、常温では架橋硬化が進行しないようにイソシアネート基がブロック(封鎖)され、加熱によりイソシアネート基のブロック体が外れて被覆層が硬化する、いわゆる一液焼付け型の被覆剤であり、被覆層が概ね常温乾燥型のものより耐水性や耐溶剤性或いは耐久性や密着性などの諸性能において良好である。なお、貯蔵安定性などをも向上させるために、ノニオン性親水基を有するイソシアネート化合物とイオン性界面活性剤を併用する、焼付け型の水系ブロックポリウレタン被覆剤も開示されている(特許文献3を参照)。
【0004】
更に、カルボキシル基導入イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーに非アニオン性(ノニオン性)ポリイソシアネートを混合し、混合物中の全イソシアネート基をブロック剤にて封鎖し、カルボキシル基を中和させた後に水に乳化させ、ジアミンなどにより鎖延長反応を行った、水性一液被覆剤用ポリウレタンエマルジョンも開示され(特許文献4,5を参照)、貯蔵安定性及び被膜の耐水性や耐溶剤性などが向上されている。
しかし、予め水分散樹脂中にブロックイソシアネートを含有させているので、ブロックの熱解離時に有効なイソシアネート含有量が制約されている。
【0005】
かかる現状からして、水系のポリウレタン系樹脂などの樹脂被覆剤においては、有機溶剤系のものに比してなお、耐久性や耐溶剤性など、或いは耐衝撃性や光沢性などが未だ充分であるとはいえず、更には水分散性や貯蔵安定性なども充分には満足されるものには至っていない。
【0006】
【特許文献1】特開平7−188371号公報(要約及び段落0011,0015)
【特許文献2】特表2005−522559号公報(要約及び特許請求の範囲の請求項1)
【特許文献3】特開平10−330454号公報(要約及び段落0018)
【特許文献4】特開2005−154674号公報(要約)
【特許文献5】特開2005−247897号公報(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
背景技術において前述したように、水系のポリウレタン系樹脂による被覆剤においては、有機溶剤系のものに比してなお、耐久性や耐溶剤性など、或いは耐衝撃性や光沢性などが未だ充分であるとはいえず、更には水分散性や貯蔵安定性なども充分には満足されるものには至っていない。
かかる状況において、本出願人は、前述したように、ブロックイソシアネート化合物を利用する水系の一液型ポリウレタン系樹脂被覆剤の改良技術として、カルボキシル基導入イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーに非アニオン性(ノニオン性)ポリイソシアネートを混合し、混合物中の全イソシアネート基をブロック剤にて封鎖し、カルボキシル基を中和させた後に水に乳化させ、更にジアミンなどにより鎖延長反応を行った、水性一液被覆剤用ポリウレタンエマルジョンを開発したが、当水性一液被覆剤用ポリウレタンエマルジョンは、予め水分散樹脂中にブロックイソシアネートを含有させているので、ブロックの熱解離時に有効なイソシアネート含有量が制約され、水分散性やエマルジョンの35℃以上での貯蔵安定性も充分とはいえない面もあるからして、当水性一液被覆剤用ポリウレタンエマルジョンの改良を進めて、水分散性やエマルジョンの貯蔵安定性を更に改善させ、ブロック体の解離温度付近での被膜に発現される各種の被膜性能をもより向上させる発明を開発して、エマルジョンの製造工程の特異性とエマルジョン粒子のコアシェル構造を特徴とし、当エマルジョンを硬化剤としてウレタン系樹脂の主剤と組み合わせる被覆材料をも要件とする、改良発明を先に出願(特願2006−223683)したところである。
【0008】
このポリウレタン樹脂系のブロックイソシアネート含有水性エマルジョン組成物及びそれを使用する被覆剤の改良発明においては、水分散性やエマルジョンの貯蔵安定性、及びブロック体の解離温度付近での被膜に発現される各種の被膜性能は充分に改良され向上されたものであるが、被覆膜(塗膜)の耐候性においてやや不充分である面が見受けられた。
そこで本発明は、この先願の改良発明における耐候性をも更に改良することを目指して、かかる改良を発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる発明の課題の解決を図り、先願発明の水性一液ポリウレタンエマルジョン被覆剤における耐候性をも改良するために、エマルジョン硬化剤の製造における、水分散樹脂中のブロックイソシアネートの分散態様や分散性機能、或いはウレタン化反応の反応条件や水への乳化や鎖延長などについて、更には、当エマルジョンを硬化剤とする被覆剤材料における主剤の樹脂材料などを、多観点から見直して更なる検案実証を行った。
それらの過程において、先願発明の一液性ポリウレタンエマルジョン被覆剤における主剤であるポリウレタン系樹脂をアクリル系樹脂に変更すれば、先願発明の被覆剤における、優れた水分散性や貯蔵安定性並びに被覆膜の良好な耐水性や耐溶剤性及び表面硬度などを低下させずに、耐候性を改良することがなし得ることを見い出すことができて、本発明を創作するに至った。
【0010】
かくして、本発明における基本的な構成は、アクリル系樹脂の主剤と先願発明におけるエマルジョン硬化剤とからなり、必要に応じて添加剤などの第三成分を配合した水性樹脂組成物となる。
具体的には、主剤(I)としてのアクリル系樹脂、並びに硬化剤(II)としてのブロックイソシアネート含有水性エマルジョン組成物を含有し、そのエマルジョン組成物は、有機ポリイソシアネート(a1)とノニオン性極性基含有高分子ポリオール(a2)を反応させ、イソシアネート基をブロック剤(C)にて封鎖して、ブロックポリイソシアネート成分(A)を生成させ、その反応系において、有機ポリイソシアネート(b1)と高分子ポリオール(b2)及びカルボキシル基含有アニオン性低分子グリコール(b3)を反応させて、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(B)を製造し、反応系中のカルボキシル基を中和剤(D)にて中和させた後、反応混合物を水に乳化させ、鎖延長剤(E)により鎖延長反応を行って高架橋型ポリウレタン樹脂を生成させた、水性組成物である。
【0011】
そして、当エマルジョン組成物は、ノニオン性極性基含有のブロックポリイソシアネートとカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを併用させるために、ノニオン性極性基含有のブロックポリイソシアネートを生成させた反応系中においてカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを合成し、図1の(a)に例示されるように、ノニオン性極性基含有のブロックポリイソシアネートがコア成分(中核部分)となり、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを中和して鎖延長させたポリウレタン樹脂がシェル(外殻部分)となる、エマルジョン組成物である。
当エマルジョン組成物においては、水分散粒径分布は50〜150nmであり、コア/シェルの重量比率が50/50〜70/30であるブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物であって、エマルジョン粒径分布が小さくなり水分散性やエマルジョンの35℃以上での貯蔵安定性が充分に改善され、ブロック体の解離温度付近での被膜に発現される、被膜強度や被膜均一性などの各種の被膜性能もより向上させられている。
【0012】
本発明における好ましい実施の態様としては、水分散性や貯蔵安定性並びに被膜の物性に優れ、とりわけ耐候性が良好な、水性一液焼付け型塗料組成物及び水性一液焼付け型接着剤組成物である。
そして、本発明における水性樹脂組成物の顕著な特徴としては、より改良された耐候性に加えて、先願発明が備えているところの、(i)不純物のない均一なエマルジョンとなり、(ii)水分散性やエマルジョンの35℃以上での貯蔵安定性が充分に改善され、(iii)ブロックの解離温度付近で発現する被膜強度や被膜の均一性と耐溶剤性や外観などの各種の被膜性能もより向上させられ、(iv)環境温度に影響されない均一な被膜の形成を行うことができ、(v)水性なので環境保全性や作業安全性が高く、ハンドリング性(取り扱い性)も良好であり、更に、(vi)製造工程が簡素で生産性も良く、(vii)アクリル系樹脂の主剤と硬化剤の相溶性にも優れている、各特性を列挙することができる。
【0013】
以上においては、本発明が創作される経緯及び本発明の基本的な構成と特徴に沿って概述したので、ここでその発明の全体を明確にするために、発明全体を俯瞰すると、本発明は、次の発明単位群から構成されるものであって、[1]の発明を基本的な発明とし、それ以下の発明は、基本的な発明を具体化ないしは実施態様化するものである。(なお、発明群全体をまとめて「本発明」という。)
【0014】
[1]下記の主剤(I)と硬化剤(II)を含有することを特徴とする、水性樹脂組成物。
主剤(I):アクリル系樹脂
硬化剤(II):有機ポリイソシアネート(a1)とノニオン性極性基含有高分子ポリオール(a2)を反応させ、イソシアネート基をブロック剤(C)にて封鎖して、ブロックポリイソシアネート成分(A)を生成させ、その反応系において、有機ポリイソシアネート(b1)と高分子ポリオール(b2)及びカルボキシル基含有アニオン性低分子グリコール(b3)を反応させて、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(B)を製造し、反応系中のカルボキシル基を中和剤(D)にて中和させた後、反応混合物を水に乳化させ、鎖延長剤(E)により鎖延長反応を行って高架橋型ポリウレタン樹脂を生成させた、ブロックイソシアネート含有水性エマルジョン組成物。
[2]硬化剤(II)における、ブロックポリイソシアネート成分(A)がコア部を形成し、高架橋型ポリウレタン樹脂がシェル部を形成する、コア・シェル構造を有していることを特徴とする、[1]においての水性樹脂組成物。
[3]有機ポリイソシアネート(a1)とノニオン性極性基含有高分子ポリオール(a2)を反応させ、イソシアネート基をブロック剤(C)にて封鎖して、ブロックポリイソシアネート成分(A)を生成させ、その反応系において、有機ポリイソシアネート(b1)と高分子ポリオール(b2)及びカルボキシル基含有アニオン性低分子グリコール(b3)を反応させて、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(B)を製造し、反応系中のカルボキシル基を中和剤(D)にて中和させた後、反応混合物を水に乳化させ、ポリアミン(E)により鎖延長反応を行って高架橋型ポリウレタン樹脂を生成させることを特徴とする、[1]においての硬化剤(II)であるブロックイソシアネート含有水性エマルジョン組成物の製造方法。
[4][1]又は[2]においての水性樹脂組成物を主要成分とすることを特徴とする、水性一液焼付け型塗料組成物。
[5][1]又は[2]においての水性樹脂組成物を主要成分とすることを特徴とする、水性一液焼付け型接着剤組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水性樹脂組成物においては、水分散性やエマルジョンの35℃以上での貯蔵安定性が充分に改善され、ブロックの解離温度付近で発現する被膜強度や被膜の均一性と外観などの各種の被膜性能もより向上させられ、更に耐候性がとりわけ高められており、有機溶剤を使用しない水性の塗料や接着剤として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明については、課題を解決するための手段として、本発明の基本的な構成に沿って前述したが、以下においては、前述した本発明群の発明の実施の形態を具体的に詳しく説明する。
【0017】
1.ブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物について
(1)ブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物
本発明の水性樹脂組成物における硬化剤(II)として使用される、ブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物は、ブロックイソシアネート化合物を利用する水系の一液型ポリウレタン樹脂被覆剤の改良発明であって、熱解離タイプのブロックイソシアネートを含有する、高架橋自己乳化型の水系エマルジョンである。
本発明においては、従来の水性一液被覆剤用ポリウレタンエマルジョンの改良を進めて、水分散性やエマルジョンの貯蔵安定性を更に改善させ、ブロック体の解離温度付近での被膜に発現される各種の被膜性能をもより向上させている。
【0018】
従来技術では、水系の熱解離ブロックイソシアネートを塗料や接着剤組成物に調製する場合には、高粘度品が主体であり水分散性やハンドリング性に乏しかった。また、性能向上のためにブロックイソシアネートの比率を高めた場合、ノニオン性親水基が主体であるため、35℃以上でエマルジョンが分離するものであった。更には、塗膜のはじきや相分離などにより成膜性や外観も悪化しがちであり、また更に、予め水分散型樹脂中にブロックイソシアネート基を含有したものは、ブロックの熱解離時に有効なイソシアネート含有量が制約され、水分散性やエマルジョンの35℃以上での貯蔵安定性も充分とはいえない面もあり、充分な被膜性能が得られず、塗料や接着剤組成物としての設計の幅も狭くなるものであった。しかして、本発明はかかる従来の問題点をも解決する技術である。
【0019】
かくして、本発明の硬化剤は、ノニオン性極性基含有のブロックポリイソシアネートとカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを併用させるために、ノニオン性極性基含有のブロックポリイソシアネートを生成させた反応系中においてカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを合成し、中和後に乳化と鎖延長を行うことを主要な要件としている。
具体的には、有機ポリイソシアネート(a1)とノニオン性極性基含有高分子ポリオール(a2)を反応させ、イソシアネート基をブロック剤(C)にて封鎖して、ブロックポリイソシアネート成分(A)を生成させ、その反応系において、有機ポリイソシアネート(b1)と高分子ポリオール(b2)及びカルボキシル基含有アニオン性低分子グリコール(b3)を反応させて、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(B)を製造し、反応系中のカルボキシル基を中和剤(D)にて中和させた後、反応混合物を水に乳化させ、鎖延長剤(E)により鎖延長反応を行って高架橋型ポリウレタン樹脂を生成させることにより形成される、ブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物である。
【0020】
(2)エマルジョン組成物におけるコア・シェル構造
本発明の水性樹脂組成物において硬化剤(II)として使用される、ブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物は、エマルジョン粒子が微細なコア・シェル構造(ナノカプセルともいえる構造)を有することを主要な特徴とし、図1の(a)に例示されるように、ノニオン性極性基含有のブロックポリイソシアネートがコア成分(中核部分)となり、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを中和して鎖延長させた、強固で柔軟な高架橋型アニオン性ポリウレタンがシェル(外殻部分)となる、分散が安定なエマルジョン組成物である。
【0021】
そして、エマルジョンの水分散粒径分布は50〜150nmであり、コア/シェルの重量比率が50/50〜70/30であるブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物であって、エマルジョン粒径分布が小さくなり水分散性やエマルジョンの35℃以上での貯蔵安定性が充分に改善されており、長期に亘り分離することがない。更に、ブロックの解離温度付近で発現する被膜強度や被膜の均一性と耐溶剤性や外観などの各種の被膜性能もより向上させられ、環境温度に影響されない均一な被膜の形成を行うことができ、アクリル系樹脂の主剤との相溶性にも優れている。
なお、図1の(b)には比較のために、段落0004などに前述した従来の先行発明に相当する、ノニオン性極性基含有のブロックポリイソシアネート分散体がコア成分となり、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを中和して鎖延長させたポリウレタン樹脂がコア部分の外周周囲に部分的に付着している状態が例示されている。
【0022】
(3)コア・シェル構造による特性
コア・シェル構造を構成している、本発明のエマルジョン組成物は、粒度(粒径)分布測定結果から見て、不純物のない均一なエマルジョンを生成していることが明らかにされ、本発明の付加的な特徴をも形成している。なお、この特異的な特徴は、段落0012において顕著な特徴(i)として前記されている。
具体的には、純水を溶媒とし、測定機器が、MICROTRAC HRA/VSR MODEL No.9320X100(Leads+Northrup製)である、本発明のエマルジョン組成物の粒度分布の測定結果が、図2に、粒径(μm)と頻度(%)のグラフ図として例示されている。
【0023】
比較例として図3に、ノニオン性極性基含有ブロックポリイソシアネート分散体(コア成分)と、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを中和して鎖延長させたポリウレタン樹脂(シェル部分)との、混合物エマルジョンにおける粒度分布の測定結果が例示されている。同様に、比較例として図4及び図5にも、コア部分及びシェル部分のみの場合の、各エマルジョンにおける粒度分布の測定結果が例示されている。
各図の対照からして明らかなように、図2における本発明のエマルジョンでは、粒径分布が均一で不純物の存在による粒径分布は見られない。図3〜図5の各比較例においては、エマルジョン粒子以外の不純物の粒子の分布が、より大きい粒径において存在している。
【0024】
(4)ブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物における原材料
(i)有機ポリイソシアネート(a1)及び(b1)
本発明の硬化剤(II)における、ブロックポリイソシアネート成分(A)及びカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(B)の各製造において使用される、有機ポリイソシアネート成分(a1)及び(b1)としては、有機ジイソシアネート化合物が好ましく使用され、それにはポリウレタン樹脂の原材料としての通常のものが用いられて、特に規定はされない。コーティング被膜の紫外線による黄変を避けるために、芳香族ジイソシアネートよりも脂肪族又は脂環族ジイソシアネートが好ましい。
なお、明細書の煩雑な記載を避けて、発明の本質部分を主要な記載とし、明細書の記載を簡明にするために、以下における各化合物の例示列記は簡潔なものとしているが、発明の本質と外延には影響がないのは当然であるといえる。
【0025】
具体的には、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートが例示され、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トリメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネートが例示される。これらのジイソシアネートは、1種単独又は2種以上の混合で使用される。
【0026】
更には、ヘキサメチレンジイソシアネートと炭素数1〜6のモノオールから得られるアロファネート変性ポリイソシアネートなどのような、これらのアダクト変性体、カルボジイミド変性体、アロファネート変性体、ビュレット変性体、ウレトジオン変性体、ウレトンイミン変性体、イソシアヌレート変性体なども使用できる。
本発明で得られる水性被膜の耐久性や密着性などを考慮すると、ノニオン性極性基含有ポリイソシアネートのベースポリイソシアネートは、脂肪族ジイソシアネート及び/又は脂環族ジイソシアネートの、イソシアヌレート変性体又はイソシアヌレート変性を含む複合変性体が好ましい。
【0027】
なお、芳香族ジイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシレン−1,4−ジイソシアネート、キシレン−1,3−ジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2,2´−ジフェニルプロパン−4,4´−ジイソシアネート、3,3´−ジメチルジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネートなどが例示される。
【0028】
(ii)ノニオン性極性基含有高分子ポリオール(a2)
本発明におけるブロックポリイソシアネートを形成する高分子ポリオール化合物は、ブロックポリイソシアネート成分(A)に親水性を付与するために、ノニオン性極性基を含有するポリオール化合物が使用され、例えば、ノニオン性極性基として通常のアルコキシ極性基を含有している、ポリアルキレンエーテルポリオールなどが使用される。
通常のノニオン性極性基含有ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールなども使用される。
高分子ポリオール部分としては、数平均分子量500〜10,000、特に500〜5,000のものが好ましく使用される。
【0029】
(iii)ブロック剤(C)
本発明で用いられるブロック剤(C)は特に制限されず、公知のものから適宜1種以上を選択して使用することができる。当ブロック剤としては、例えば、フェノール系、アルコール系、活性メチレン系、メルカプタン系、酸アミド系、ラクタム系、酸イミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系化合物などが使用できる。
【0030】
より具体的には例えば、フェノール、クレゾール、エチルフェノールなどのフェノール系化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール、エタノールなどのアルコール系化合物、マロン酸ジメチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミドなどの酸アミド系化合物、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタムなどのラクタム系化合物;コハク酸イミド、マレイン酸イミドなどの酸イミド系化合物、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミンなどのアミン系化合物が挙げられる。
本発明では、上記したブロック剤の中でも、入手の簡易性及び作業性の観点から、メチルエチルケトオキシム、ε−カプロラクタム、2−エチルヘキサノールが好ましい。
【0031】
(iv)高分子ポリオール(b2)
本発明におけるカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの製造に用いられる高分子ポリオール(b2)としては、通常の数平均分子量500〜10,000、好ましくは500〜5,000のポリエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオールなどが使用され、これら高分子ポリオールを併用してもよい。
なお、シェル部分の耐水性を考慮して、高分子ポリオールが、カーボネート骨格又はフタレート骨格を有するものであることが好ましい。
【0032】
ポリエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオールとしては、ポリカルボン酸、酸エステル、酸無水物、酸ハライドなどのポリカルボン酸誘導体と、数平均分子量500未満の低分子ポリオール、低分子ポリアミン、低分子アミノアルコールなどとの反応により得られるものである。
【0033】
(v)カルボキシル基含有アニオン性低分子グリコール(b3)
本発明のカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(B)の製造において使用される、カルボキシル基含有アニオン性低分子グリコールは、両末端の水酸基の活性水素基がイソシアネート基と反応してプレポリマーの主鎖に組み込まれ、遊離のカルボキシル基が親水系なのでプレポリマーの水分散性を高める作用をなす。カルボキシル基は中和されて、より親水性が高められる。
カルボキシル基含有アニオン性低分子グリコールとしては、末端水酸基を二個有すジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸が例示され、その他、ポリアミンと酸無水物との反応物、ジメチロールプロピオン酸やジメチロールブタン酸などを開始剤としたラクトン付加物なども挙げられる。
【0034】
(vi)中和剤(D)
本発明の中和剤としては、通常のものが任意に使用される。例えば、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリンなどの有機アミン類が好ましく使用され、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機アルカリ類やアンモニアも例示される。乾燥後の耐候性や耐水性を向上させるためには、熱によって容易に解離する揮発性の高いもの又はポリイソシアネート硬化剤と反応するアミノアルコールがより好ましい。
【0035】
(vii)鎖延長剤(E)
鎖延長剤も特に制限されないが、ジアミン又はポリアミン化合物は、ジオール化合物を鎖延長剤とするよりも、容易に高架橋するため、耐水性や耐溶剤性及び耐汚染性などの物性において有利である。
これらのアミン化合物の具体例は、ジアミンではエチレンジアミン(EDA)、イソホロンジアミン(IPDA)などが例示され、ポリアミンでは、HN−(CNH)−CNH(n=1〜8)で表される、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどが例示される。
【0036】
(viii)硬化触媒及び硬化剤
ウレタン反応の硬化触媒(重合触媒)としての樹脂化触媒(ウレタン化触媒)は、必要により使用され、ジブチルチンジラウレートやナフテン酸亜鉛のような金属系触媒或いはトリエチレンジアミンやN−メチルモルホリンのようなアミン系触媒などの通常の硬化触媒が用いられ、反応速度を速くし反応温度を低くすることができる。
ポリウレタン樹脂を硬化させる硬化剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)やイソホロンジイソシアネート(IPDI)から由来する、1分子中のNCO基が3個以上のトリマー体やアダクト体が使用される。
【0037】
2.ブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物の製造方法
本発明における硬化剤(II)である、ブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物の製造方法は、基本的に、有機ポリイソシアネート(a1)とノニオン性極性基含有高分子ポリオール(a2)を反応させ、イソシアネート基をブロック剤(C)にて封鎖して、ブロックポリイソシアネート成分(A)を生成させ、その反応系において、有機ポリイソシアネート(b1)と高分子ポリオール(b2)及びカルボキシル基含有アニオン性低分子グリコール(b3)を反応させて、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(B)を製造し、反応系中のカルボキシル基を中和剤(D)にて中和させた後、反応混合物を水に乳化させ、鎖延長剤(E)のポリアミンにより鎖延長反応を行うことによる。
特に、ノニオン性極性基含有イソシアネートをブッロクしてブロックポリイソシアネートを生成させ、その反応系中においてカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを合成する基本的要件により、エマルジョン粒子が微細なコア・シェル構造を形成し、段落0012に記載した、(i)〜(vii)の本発明の顕著な特徴がもたらされる。
【0038】
ブロック化反応は、20〜100℃、好ましくは30〜90℃の通常のブロック化反応条件に従って行うことができる。このとき、公知のウレタン化触媒を用いてもよい。
カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの製造時にも公知のウレタン化触媒を用いてもよい。反応温度は0〜100℃が好ましく、特に好ましくは20〜90℃である。この時、イソシアネート基に対して不活性な、有機溶剤にて任意の固形分に希釈されているほうが、撹拌効率などの観点から好ましい。有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン、イソホロンなどの脂環族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルエステル系溶剤、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤などが使用される。
中和は、段落0034に記載した任意の中和剤により、20〜50℃の通常の中和反応条件に従って行うことができる。
【0039】
3.水性アクリル系樹脂エマルジョン組成物
(1)基本組成成分
本発明における水性アクリル系樹脂組成物は、基本的に主剤(I)と硬化剤(II)から構成され、主剤としては、通常のアクリル系樹脂が適宜に使用され、ブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物を硬化剤として使用する。主剤(I)と硬化剤(II)の使用割合は特に制限はないが、好ましくは2/1〜1/1の割合で使用される。
【0040】
(2)アクリル系樹脂
主剤(I)としてのアクリル系樹脂材料は、通常の樹脂が適宜に使用され、特に制限はない。
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどのモノマーに由来する樹脂が例示される。
メタアクリル系樹脂(PMMA)が好ましく使用されるが、ブレンド物或いはスチレンや酢酸ビニルなどとの共重合体でもよい。
アクリル系樹脂の好ましい態様としては、Tg(ガラス転移点)が100℃、OHV(水酸基価)が5〜15mgKOH/g−固形分、分散平均粒系が100〜200nmである。
【0041】
(3)水性アクリル系樹脂エマルジョン組成物の使用態様
本発明における基本発明の使用態様としては、コーティング剤(塗料)及び接着剤として利用される。
水性アクリル系樹脂エマルジョン組成物は、金属系、プラスチック系、木材系、無機材料系などの通常の各種基材に、コーティング剤などとして塗布された後に、被覆層が加熱されてブロック体が解離し、イソシアネート基と活性水素間で高架橋反応が起こり硬化して焼付けられる。
【0042】
(4)添加剤
本発明の水性アクリル系樹脂エマルジョン組成物における各種物性をより高め、また、各種の他の物性を付加するために、各種の添加剤として、任意に、難燃剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、充填剤、内部離型剤、補強材、艶消し剤、導電性付与剤、帯電制御剤、帯電防止剤、滑剤、その他の加工助剤を用いることができる。
特に、本発明の水性アクリル系樹脂エマルジョン組成物がコーティング剤(塗料)及び接着剤として利用される場合には、上記した添加剤のような、通常の塗料用添加剤や接着剤用添加剤が適宜に配合される。
【実施例】
【0043】
以下においては、実施例によって、比較例を対照しながら、本発明をより詳細に具体的に示して、本発明の構成をより明らかにし、本発明の構成の各要件の合理性と有意性及び本発明の従来技術に対する卓越性を実証する。
【0044】
(1)ブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物の製造[本発明における硬化剤の製造]
(製造工程)
有機ポリイソシアネート(a1)とノニオン性極性基含有高分子ポリオール(a2)を反応させ、イソシアネート基をブロック剤(C)にて封鎖して、ブロックポリイソシアネート成分(A)を生成させ、その反応系において、有機ポリイソシアネート(b1)と高分子ポリオール(b2)及びカルボキシル基含有アニオン性低分子グリコール(b3)を反応させて、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(B)を製造し、反応系中のカルボキシル基を中和剤(D)にて中和させた後、反応混合物を水に乳化させ、ポリアミン(E)により鎖延長反応を行う。
【0045】
(材料成分の名称)
イソシアネートA:イソホロンジイソシアネート・NCO=37.8%
イソシアネートB:HDIトリマータイプポリイソシアネート・NCO=21.2%
イソシアネートC:HDIアロファネートタイプポリイソシアネート・NCO=19.4%
ポリオールA:1,6−ヘキサンジオール系ポリカーボネートジオール・OH価=56mgKOH/g
ポリオールB:メトキシポリエチレングリコール・OH価=81mgKOH/g
低分子グリコール:トリメチロールプロパン・OH価=1254mgKOH/g
アニオン性親水基成分:ジメチロールプロピオン酸・OH価=837mgKOH/g
有機アミン成分:ジエチレントリアミン(キシダ化学(株)製)NH価=1631mgKOH/g
中和剤:トリエチルアミン(キシダ化学(株)製)
ブロック剤:MEKオキシム(三菱ガス化学(株)製)
溶媒A:ジプロピレングリコールジメチル(日本乳化剤(株)製)
溶媒B:ジエチレングリコールジエチル(日本乳化剤(株)製)
ウレタン化触媒:ジオクチルチンジラウレート(勝田化工(株)製)
【0046】
(ブロックイソシアネート含有エマルジョンの製造例)[BI−PUDAの合成]
いかり羽根を付けた撹拌機、温度計、冷却器を備えた1Lの4口セパラブルフラスコに、イソシアネートB135g、ポリオールB22.2g、溶媒B23.7g、ウレタン化触媒0.001gを仕込み、80℃で2〜3時間加熱混合させてウレタン化反応をさせた。その後、放冷して80〜40℃に維持した。ブロック剤56.3gを滴下ロートに入れ、この反応物に30分〜1時間かけて滴下した。引き続き70〜80℃で2時間反応させて反応を終了させた。この時のNCO含量を測定し、0.1wt%以下であることを確認した。
引き続き、得られたブロックイソシアネート中間体に、ポリオールA140g、低分子グリコール1.40g、アニオン性親水基成分9.21g、溶媒A42.6gを加え、80〜90℃で1時間撹拌溶解させた。70〜80℃に放冷した後、これにイソシアネートA49.1gを加え、80〜90℃で3時間撹拌し反応させた。水酸基とイソシアネート基の当量が反応したことを確認した後、50〜60℃に放冷させ、イソシアネートB10.0gを添加した。30分程撹拌した後、中和剤7.00gを添加し、継続して30分程度撹拌させ、50〜60℃に維持した。
この混合液に、常温の水478.2gを300rpmの撹拌速度で2分間かけて滴下分散させた。分散後30分後に、予め調製しておいた常温の15%有機アミン水溶液25.6gを滴下した。その後、1時間高速撹拌を維持し乳白色の目的物を得た。更に、通常の撹拌速度(100rpm程度)に戻し、50℃で4時間撹拌を行った。
FT−IRにより残存NCO帰属ピークが無いことを確認した。結果として得られた目的物の不揮発分は42.6%、粘度150mPa・s(25℃)、平均分散粒径100nmであった。
【0047】
(2)ポリウレタン系樹脂主剤の製造[比較例に使用するPUD−001の製造]
ポリオールA194g、低分子グリコール1.9g、アニオン性親水基成分12.8g、溶媒A100gを加え、80〜90℃で1時間撹拌溶解させた。70〜80℃に放冷した後、これにイソシアネートA74.3gを加え、80〜90℃で3時間撹拌し反応させた。水酸基とイソシアネート基の当量が反応したことを確認した後、50〜60℃に放冷させ、イソシアネートB56.5gを添加した。30分程撹拌した後、中和剤9.7gを添加し、継続して30分程度撹拌させ、50〜60℃に維持した。
この混合液に、常温の水478.2gを300rpmの撹拌速度で2分間かけて滴下分散させた。分散後30分後に、予め調製しておいた常温の15%有機アミン水溶液72.7gを滴下した。その後、1時間高速撹拌を維持し乳白色の目的物を得た。更に、通常の撹拌速度(100rpm程度)に戻し、50℃で4時間撹拌を行った。
FT−IRにより残存NCO帰属ピークが無いことを確認した。結果として得られた目的物の不揮発分は35%、粘度20mPa・s(25℃)、平均分散粒径100nmであった。
【0048】
(3)水性樹脂エマルジョン被覆組成物の製造[本発明の実施例と比較例に使用する被覆剤組成物の製造]
下記の表1の組成のアクリル系樹脂材料(WA−100)50gと上記の(1)で得られたエマルジョン25g、及び顔料の酸化チタン20gと水6gを常温でミキサーにより混合し被膜組成物の、実施例材料のA−2/1(主剤:硬化剤(固形分)が2:1のもの)を得た。同様にしてA−1/1も製造した。
アクリル系樹脂の代わりにポリウレタン系樹脂を使用して、同様にして比較例材料のU−2/1及びU−1/1を製造した。これらの水性樹脂エマルジョン被覆組成物の配合成分を表2に掲載する。ここで、Aはアクリル主剤、Uはウレタン主剤、2/1と1/1は主剤と硬化剤の固形分比を示す。
【0049】
【表1】

MMA;メチルメタアクリレート AA;アジピン酸 n−BA;ブチルアクリレート 2−HEMA;ヒドロキシエチルメタアクリレート カヤエステルO(商品名);t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート MEK;メチルエチルケトン TEA;トリエチルアミン OHV;水酸基価(mgKOH/g,固形分) AV;酸価(mgKOH/g,固形分) Tg;ガラス転移点
【0050】
【表2】

【0051】
(4)被覆剤の評価テスト
鋼鈑(〔株〕パルテック製・PF−1077)に100μm・wetにアプリケーターで塗装し、30分間常温で予備乾燥した後、150℃にて10分間焼付けた。
(耐水性テスト)塗膜を40℃の水中に12時間浸漬した後に、塗膜状態の外観を目視により観察し、外観良好を○印で、外観不良を×印で、中間を△印で評価した。
(鉛筆硬度テスト)JIS K5400の鉛筆引っかき値試験の手かき法に則って行った。
以上の被覆剤の評価テストの結果を、表3にまとめて掲載した。表2の材料に対応して、A−2/1・実施例、A−1/1・実施例、U−2/1・比較例、U−1/1・比較例を掲示している。
【0052】
【表3】

【0053】
(耐候性テスト)JIS K 5600(促進耐候性試験)に則って行った。
UVランプ:タイプ1=UVB(313)
UV照射:70℃・8時間⇔結露:50℃・4時間
鏡面光沢測定法:JIS Z 8741
UV照射角度20°及び60°において、1サイクル・96時間で4サイクルまで測定した。それぞれの結果を表4,5に掲載する。グロスが塗膜面の光沢度を表わし、保持率はその光沢度の経時後の保持%を示す。また、それらの結果をグラフ図に変換して図6,7に掲示する。
【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
[実施例と比較例の結果の考察]
表1,2の製造例から明らかなとおりに、実施例のA−2/1及びA−1/1はアクリル系樹脂(WA−100)を主剤とし、比較例のU−2/1及びU−1/1はポリウレタン系樹脂(PUD−001)を主剤とし、実施例と比較例は共に同じブロックイソシアネート含有水性エマルジョン組成物を硬化剤としており、比較例は、前述した(段落0007〜0008)、本出願による先願発明である。
表3の結果からして、各実施例による本願発明の水性被覆剤組成物は、各比較例による先願発明の水性被覆剤組成物に比して、耐水性はやや劣るものの、表面硬度では優れており、大略において先願発明の卓越した被膜物性を備えているといえる。
そして、表4,5の結果と図6,7のグラフ図からして、各実施例による本願発明の水性被覆剤組成物は、各比較例による先願発明の水性被覆剤組成物に比して、耐候性において、かなりの改良が認められる。
以上の各実施例と各比較例のデータ結果の対照及び考察からして、更に段落0012に記述した本発明の特異性を併せ勘案すれば、本発明の構成要件の合理性と有意性が実証され、先願発明と同様に、本発明が従来技術に比べて顕著な卓越性を有していることが明確にされているといえる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明におけるコア・シェル構造を示す概略断面図(a)及び従来のエマルジョン構造を示す概略断面図(b)である。
【図2】本発明におけるブロックイソシアネート含有エマルジョン組成物のエマルジョンの粒度分布を示すグラフ図である。
【図3】コア成分とシェル成分の混合物のエマルジョンの粒度分布を示す参考グラフ図である。
【図4】コア成分のみのエマルジョンの粒度分布を示す参考グラフ図である。
【図5】シェル成分のみのエマルジョンの粒度分布を示す参考グラフ図である。
【図6】本発明における水性被覆剤組成物の優れた耐候性を示すグラフ図である。
【図7】本発明における水性被覆剤組成物の優れた耐候性を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の主剤(I)と硬化剤(II)を含有することを特徴とする、水性樹脂組成物。
主剤(I):アクリル系樹脂
硬化剤(II):有機ポリイソシアネート(a1)とノニオン性極性基含有高分子ポリオール(a2)を反応させ、イソシアネート基をブロック剤(C)にて封鎖して、ブロックポリイソシアネート成分(A)を生成させ、その反応系において、有機ポリイソシアネート(b1)と高分子ポリオール(b2)及びカルボキシル基含有アニオン性低分子グリコール(b3)を反応させて、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(B)を製造し、反応系中のカルボキシル基を中和剤(D)にて中和させた後、反応混合物を水に乳化させ、鎖延長剤(E)により鎖延長反応を行って高架橋型ポリウレタン樹脂を生成させた、ブロックイソシアネート含有水性エマルジョン組成物。
【請求項2】
硬化剤(II)における、ブロックポリイソシアネート成分(A)がコア部を形成し、高架橋型ポリウレタン樹脂がシェル部を形成する、コア・シェル構造を有していることを特徴とする、請求項1に記載された水性樹脂組成物。
【請求項3】
有機ポリイソシアネート(a1)とノニオン性極性基含有高分子ポリオール(a2)を反応させ、イソシアネート基をブロック剤(C)にて封鎖して、ブロックポリイソシアネート成分(A)を生成させ、その反応系において、有機ポリイソシアネート(b1)と高分子ポリオール(b2)及びカルボキシル基含有アニオン性低分子グリコール(b3)を反応させて、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(B)を製造し、反応系中のカルボキシル基を中和剤(D)にて中和させた後、反応混合物を水に乳化させ、ポリアミン(E)により鎖延長反応を行って高架橋型ポリウレタン樹脂を生成させることを特徴とする、請求項1に記載された硬化剤(II)であるブロックイソシアネート含有水性エマルジョン組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載された水性樹脂組成物を主要成分とすることを特徴とする、水性一液焼付け型塗料組成物。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載された水性樹脂組成物を主要成分とすることを特徴とする、水性一液焼付け型接着剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−46563(P2009−46563A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213091(P2007−213091)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】