プッシュプル増幅器
【課題】個々の単位増幅器で発生する高調波2foを抑圧して、スプリアスを低減することができるプッシュプル増幅器を得ることを目的とする。
【解決手段】単位増幅器2〜5の入力側整合回路として動作する平衡−不平衡変換回路11と、単位増幅器2〜5の出力側整合回路として動作する平衡−不平衡変換回路21とがバランを用いて構成されており、平衡−不平衡変換回路11におけるバラン12,13,14の配置と、平衡−不平衡変換回路21におけるバラン22,23,24の配置とが点対称である。
【解決手段】単位増幅器2〜5の入力側整合回路として動作する平衡−不平衡変換回路11と、単位増幅器2〜5の出力側整合回路として動作する平衡−不平衡変換回路21とがバランを用いて構成されており、平衡−不平衡変換回路11におけるバラン12,13,14の配置と、平衡−不平衡変換回路21におけるバラン22,23,24の配置とが点対称である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、衛星通信用の増幅器、移動体通信用の増幅器や地上マイクロ波通信用の増幅器などに適用されるプッシュプル増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信については、電波法やITUの勧告等で、スプリアスの規定が設けられており、周波数帯や出力電力等によってスプリアスの規定が細かく設定されている。
そのため、スプリアスを規定値以下に抑圧するために、アンテナから信号を送信する前に、バンドパスフィルタやローパスフィルタ等を用いて、スプリアスを抑圧している。
昨今では、小型化や低コスト化が求められており、複数の周波数帯を共通に利用できる通信用のマルチバンド増幅器や広帯域増幅器が求められている。複数の周波数帯を利用する通信においても、先に述べたスプリアスの規定は遵守しなければならない。
【0003】
以下の特許文献1には、部品素子数を低減して回路構成を簡素化することで、回路スペースを小さくしている高効率線形電力増幅器が開示されている。
この高効率線形電力増幅器では、広帯域整合回路が入力端子から入力された信号を周波数帯域A,Bの双方で整合を図り、増幅器が整合後の信号を増幅する。
増幅器により増幅された周波数帯域Aの信号は、周波数帯域A用の帯域通過フィルタを通過して周波数帯域A用の出力整合回路に入力され、その出力整合回路でインピーダンスが整合されて、周波数帯域A用の出力端子に出力される。
一方、増幅器により増幅された周波数帯域Bの信号は、周波数帯域B用の帯域通過フィルタを通過して周波数帯域B用の出力整合回路に入力され、その出力整合回路でインピーダンスが整合されて、周波数帯域B用の出力端子に出力される。
これにより、増幅器により増幅された周波数帯域Aの信号と周波数帯域Bの信号を出力することができるが、周波数帯域Aと周波数帯域Bの間の信号については取り出すことができない。
【0004】
以下の特許文献2には、簡易な構成で、複数の異なる周波数帯域の入力信号を効率的に増幅することができる高周波増幅器が開示されている。
この高周波増幅器では、インピーダンス変換回路が、入力されたn個の周波数を含むRF信号を増幅器の出力インピーダンスよりも高いインピーダンスに変換し、高域フィルタと低域フィルタが、インピーダンス変換後のRF信号を最も高い周波数f1の信号と、それよりも低い周波数の信号に分岐している。
周波数f1の信号は、高域フィルタを通過することによって50オームに変換される。
低域フィルタで分波された周波数f1よりも低い周波数の信号は、インピーダンス変換回路で高インピーダンスに変換され、高域フィルタと低域フィルタで2番目に高い周波数f2の信号と、それよりも低い周波数の信号に分岐される。
同じ要領で、周波数fnの信号まで分岐されながら、インピーダンス変換回路で高インピーダンスに変換され、周波数毎に50オームにインピーダンス整合が取られる。
これにより、複数の周波数の信号を出力することができるが、各周波数の間の信号については取り出すことができない。
【0005】
以下の特許文献3には、高調波注入プッシュプル増幅器が開示されている。
この高調波注入プッシュプル増幅器は、平衡−不平衡変換回路と、その平衡−不平衡変換回路と接続されて、互いに逆相動作する2つの単位増幅器とを有している。
また、この高調波注入プッシュプル増幅器は、基本信号の奇数次高調波歪信号を含む高調波歪信号を入力する高調波歪信号発生回路を備えており、基本信号と奇数次高調波歪信号を入力することで、低歪化を図るようにしている。
この高調波注入プッシュプル増幅器は、所定の周波数の信号だけでなく、広帯域の信号を出力することができるが、高調波歪信号の周波数毎に高調波歪信号発生回路を備える必要があり、設備の大型化を招いてしまう。
【0006】
ここで、広帯域の信号を出力することが可能な広帯域増幅器を通信用増幅器に適用する場合を考える。
この場合、増幅器自身の帯域内には、図11に示すように、2倍波(2fo),3倍波(3fo),・・・,n倍波(nfo)の高調波帯域が含まれる。
図11(a)は狭帯域増幅器の利得特性を示しており、狭帯域増幅器の場合、基本波foの周波数では利得(S21)があるが、高調波2fo,3fo,・・・の周波数では利得(S21)がない。
一般的に、狭帯域増幅器の場合、基本波foは整合を取っているが、その他の周波数の整合は取っていない。そのため、高調波は減衰されて出力される。
図11(b)は狭帯域増幅器における信号のスペクトラムを示しており、基本波foと比べて、高調波2fo,3fo,・・・は抑圧されている。
【0007】
図11(c)は広帯域増幅器の利得特性を示しており、広帯域増幅器の場合、基本波foの周波数だけでなく、高調波2fo,3fo,・・・の周波数でも利得(S21)がある。
一般的に、広帯域増幅器の場合、増幅器の帯域内の整合は取れているため、帯域内の損失は帯域外と比べて小さくなる。そのため、高調波は減衰し難くなる。
図11(d)は広帯域増幅器における信号のスペクトラムを示しており、図11(b)に示す狭帯域増幅器の場合と比べて、高調波2fo,3fo,・・・が、破線矢印の分だけ増加していることが分かる。
したがって、狭帯域増幅器より広帯域増幅器の方が高調波の出力が大きくなる。また、高調波2fo,3fo,・・・の中で、高調波2foが、他の高調波3fo,4fo・・・より大きくなる。広帯域増幅器の場合、この高調波2foがスプリアスとして問題になる。
【0008】
上述したように、通信については、電波法やITUの勧告等で、スプリアスの規定が設けられており、周波数帯や出力電力等によってスプリアスの規定が細かく設定されているため、スプリアスを規定値以下に抑圧する必要がある。スプリアスを規定値以下に抑圧するために、ローパスフィルタ等のフィルタが用いられる。
図12(a)は狭帯域増幅器のスペクトラムと、スプリアスを抑圧するために必要なローパスフィルタの特性を示している。
また、図12(b)は広帯域増幅器のスペクトラムと、スプリアスを抑圧するために必要なローパスフィルタの特性を示している。
狭帯域増幅器では、図12(a)に示すように、抑圧量Aを有するローパスフィルタが必要になり、広帯域増幅器では図12(b)に示すように、抑圧量Bを有するローパスフィルタが必要になる。
このとき、抑圧量B>抑圧量Aであるため、狭帯域増幅器より広帯域増幅器の方が大きな抑圧量を必要とする。
【0009】
広帯域増幅器の全ての帯域を利用できるようにする場合、スプリアスを規定の値まで抑圧するために複数のフィルタが必要になる。
図13は10倍帯域増幅器(fa〜10fa)のフィルタ帯域を示す説明図である。
例えば、フィルタの帯域を1.7倍と仮定して、フィルタ間のオーバーラップを20MHzとすると、図13に示すように、5つのフィルタが必要となる。
広帯域増幅器では、高調波2fo,3fo,・・・の中で、高調波2foのスプリアスの大きさが高いので、急峻な特性が求められる。そのため、例えば、有極フィルタ等が用いられるが、フィルタの損失や回路規模が大きくなる問題がある。
【0010】
高調波2foを含む偶高調波の抑圧を増幅器の内部で行う手法として、プッシュプル増幅器がある。
図14は一般的なプッシュプル増幅器を示す構成図であり、このプッシュプル増幅器では、平衡−不平衡変換回路としてバランを使用し、入力側のバランと出力側のバランとの間に、逆相で動作する単位増幅器が接続されている。
このプッシュプル増幅器では、理想的には高調波2foを含む偶高調波が完全に抑圧される。
図15(a)は図14のプッシュプル増幅器における信号のスペクトラムを示しており、偶高調波2fo,4fo,・・・は完全に抑圧される。そのため、スプリアスは高調波3fo以上の奇高調波を抑圧すればよいことになる。
【0011】
図12に示すように、2fo>3foであるため、フィルタ自身の抑圧量を低減することができる。また、フィルタ帯域を広くすることができるため、フィルタの個数を減らすことができる。
図15(b)は10倍帯域増幅器(fa〜10fa)のフィルタ帯域を示しており、フィルタの個数を3つに減らすことが可能である。
しかしながら、実際にプッシュプル増幅器を試作すると、高調波2foを完全に抑圧することはできない。
図16は試作したプッシュプル増幅器の入出力特性を示す説明図であり、高調波3foと比べて、高調波2foの出力電力の大きさが小さくなっているが、完全には抑圧されていないことが分かる。
その理由は、平衡−不平衡変換回路は、理想的には不平衡ポートに入力された信号が2分割されて、位相差が180度になるが、実際の回路では位相差が180度にならないことがあるからである。
【0012】
図17は平衡−不平衡変換回路である伝送線路バランを示す回路図である。
図17に示すように、不平衡ポートをPort1、平衡ポートをPort2,3とすると、理想的には、通過振幅と通過位相が図18(a)のようになり、不平衡ポートであるPort1から入力された信号の電力は、平衡ポートであるPort2とPort3に、1/2ずつ振り分けられる。そのときの位相差は180度になる。
しかし、実際には、図18(b)に示すように、全ての周波数範囲で完全に理想的な動作はしないため、高調波2foを完全に抑圧することはできない。
【0013】
さらに詳しく高調波2foの抑圧の原理について説明する。
図14に示すプッシュプル増幅器は、信号f(θ)が入力されると、入力側のバランによって、1/2f(θ)と−1/2f(θ)の信号に分けられる。
1/2f(θ)と−1/2f(θ)の信号は、個々の単位増幅器によって増幅され、その増幅に伴って、高調波1/2F(2θ),1/2F(3θ),・・・が出力される。F(2θ)=2fo,F(3θ)=3fo,・・・である。
【0014】
個々の単位増幅器から出力された信号は、出力側のバランで奇数次成分は合成され、偶数次成分は打ち消しあうことになる。
しかしながら、偶数次成分は図18(b)に示すように、振幅偏差や位相偏差がある場合には完全に打ち消されない。
個々の単位増幅器で発生する高調波2foは位相が180度異なるため、理想的な場合には、図19(a)に示すように、ベクトル合成して完全に打ち消しあう。ただし、振幅偏差Δaがある場合、図19(b)に示すように、ベクトル合成しても振幅偏差Δaの信号が残る。また、位相偏差Δpがある場合、図19(c)に示すように、ベクトル合成してもΔPの信号が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−97946号公報(段落番号[0008]から[0009])
【特許文献2】WO2005/048448
【特許文献3】WO2010/032283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来のプッシュプル増幅器は以上のように構成されているので、個々の単位増幅器で発生する高調波2foを理想的には抑圧することができる。しかし、実際には、全ての周波数範囲で完全に理想的な動作は行われないため、個々の単位増幅器で発生する高調波2foを完全に抑圧することができず、スプリアスを規定値以下に抑圧することができないことがあるなどの課題があった。
【0017】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、個々の単位増幅器で発生する高調波2foを抑圧して、スプリアスを低減することができるプッシュプル増幅器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明に係るプッシュプル増幅器は、入力信号を増幅する複数の単位増幅器と、複数の単位増幅器の入力側に配置され、複数の単位増幅器の入力側整合回路として動作する第1の平衡−不平衡変換回路と、複数の単位増幅器の出力側に配置され、複数の単位増幅器の出力側整合回路として動作する第2の平衡−不平衡変換回路とを備え、第1及び第2の平衡−不平衡変換回路がバランを用いて構成されており、第1の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置と、第2の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置とが点対称であるものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、入力信号を増幅する複数の単位増幅器と、複数の単位増幅器の入力側に配置され、複数の単位増幅器の入力側整合回路として動作する第1の平衡−不平衡変換回路と、複数の単位増幅器の出力側に配置され、複数の単位増幅器の出力側整合回路として動作する第2の平衡−不平衡変換回路とを備え、第1及び第2の平衡−不平衡変換回路がバランを用いて構成されており、第1の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置と、第2の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置とが点対称であるように構成したので、個々の単位増幅器で発生する高調波2foを抑圧して、スプリアスを低減することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態1によるプッシュプル増幅器を示す構成図である。
【図2】入力端子31から出力端子32に至る経路A,B,C,Dを示す説明図である。
【図3】図1のプッシュプル増幅器における各部の振幅偏差及び位相偏差を示す説明図である。
【図4】バラン22,23を通過するRF信号における2次高調波2foの信号ベクトルを示す説明図である。
【図5】バラン12,13,14,22,23,24が従来構成で配置される場合の各部の振幅偏差及び位相偏差を示す説明図である。
【図6】バラン22,23を通過するRF信号における2次高調波2foの信号ベクトルを示す説明図である。
【図7】バランの振幅偏差Δa及び位相偏差Δpをパラメータとして、RF信号の2次高調波2foの抑圧量を計算した結果を示すグラフ図である。
【図8】RF信号の基本波foと2次高調波2foの測定結果を示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態2によるプッシュプル増幅器を示す構成図である。
【図10】平衡−不平衡変換回路11,21を構成しているバランが、同軸ケーブルとフェライトコアを用いている伝送線路型バランである例を示す説明図である。
【図11】増幅器の利得特性及び信号のスペクトラムを示す説明図である。
【図12】増幅器のスペクトラムと、スプリアスを抑圧するために必要なローパスフィルタの特性を示す説明図である。
【図13】10倍帯域増幅器(fa〜10fa)のフィルタ帯域を示す説明図である。
【図14】一般的なプッシュプル増幅器を示す構成図である。
【図15】図14のプッシュプル増幅器における信号のスペクトラムと、10倍帯域増幅器(fa〜10fa)のフィルタ帯域を示す説明図である。
【図16】試作したプッシュプル増幅器の入出力特性を示す説明図である。
【図17】平衡−不平衡変換回路である伝送線路バランを示す回路図である。
【図18】理想的な通過振幅及び通過位相と、実際の通過振幅及び通過位相とを示す説明図である。
【図19】個々の単位増幅器で発生する高調波2foのベクトル合成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるプッシュプル増幅器を示す構成図である。
図1において、単位増幅器群1は複数の単位増幅器2,3,4,5から構成されている。
単位増幅器2,3,4,5は入出力インピーダンスが12.5Ωに調整されており、入力信号であるRF信号を増幅する。
第1の平衡−不平衡変換回路である平衡−不平衡変換回路11は単位増幅器群1の入力側に配置されており、単位増幅器群1の入力側整合回路として動作し、50Ωから12.5Ωに変換する。
平衡−不平衡変換回路11は複数のバラン12,13,14から構成されており、バラン12は50Ωから25Ωに変換し、バラン13,14は25Ωから12.5Ωに変換する。
【0022】
第2の平衡−不平衡変換回路である平衡−不平衡変換回路21は単位増幅器群1の出力側に配置されており、単位増幅器群1の出力側整合回路として動作し、50Ωから12.5Ωに変換する。
平衡−不平衡変換回路21は複数のバラン22,23,24から構成されており、バラン22,23は25Ωから12.5Ωに変換し、バラン24は50Ωから25Ωに変換する。
【0023】
図1のプッシュプル増幅器は、入力端子31から出力端子32に至る経路A,B,C,D(図2を参照)の振幅偏差と位相偏差が等しくなるように、平衡−不平衡変換回路11,21の内部にはバラン12,13,14,22,23,24が配置されている。
即ち、平衡−不平衡変換回路11におけるバラン12,13,14と、平衡−不平衡変換回路21におけるバラン22,23,24とが点対称に配置されている。
【0024】
具体的には、平衡−不平衡変換回路11のバラン12は不平衡ポートであるPort1が入力端子31と接続され、平衡ポートであるPort2がバラン14のPort1と接続され、平衡ポートであるPort3がバラン13のPort1と接続されている。
バラン13は不平衡ポートであるPort1がバラン12のPort3と接続され、平衡ポートであるPort2が単位増幅器3の入力側と接続され、平衡ポートであるPort3が単位増幅器2の入力側と接続されている。
バラン14は不平衡ポートであるPort1がバラン12のPort2と接続され、平衡ポートであるPort2が単位増幅器5の入力側と接続され、平衡ポートであるPort3が単位増幅器4の入力側と接続されている。
【0025】
平衡−不平衡変換回路21のバラン22は平衡ポートであるPort2が単位増幅器2の出力側と接続され、平衡ポートであるPort3が単位増幅器3の出力側と接続され、不平衡ポートであるPort1がバラン24のPort2と接続されている。
バラン23は平衡ポートであるPort2が単位増幅器4の出力側と接続され、平衡ポートであるPort3が単位増幅器5の出力側と接続され、不平衡ポートであるPort1がバラン24のPort3と接続されている。
バラン24は平衡ポートであるPort2がバラン22のPort1と接続され、平衡ポートであるPort3がバラン23のPort1と接続され、不平衡ポートであるPort1が出力端子32と接続されている。
【0026】
次に動作について説明する。
入力端子31から入力されたRF信号は、平衡−不平衡変換回路11のバラン12に入力される。
平衡−不平衡変換回路11のバラン12に入力されたRF信号は、電力が1/2に分割されて、一方のRF信号がバラン13に入力され、他方のRF信号がバラン14に入力される。
【0027】
平衡−不平衡変換回路11のバラン13に入力されたRF信号は、電力が1/2に分割されて、一方のRF信号が単位増幅器2に入力され、他方のRF信号が単位増幅器3に入力される。
平衡−不平衡変換回路11のバラン14に入力されたRF信号は、電力が1/2に分割されて、一方のRF信号が単位増幅器4に入力され、他方のRF信号が単位増幅器5に入力される。
【0028】
単位増幅器2,3,4,5に入力されたRF信号は増幅され、単位増幅器2により増幅されたRF信号と単位増幅器3により増幅されたRF信号は、平衡−不平衡変換回路21のバラン22に入力される。
また、単位増幅器4により増幅されたRF信号と単位増幅器5により増幅されたRF信号は、平衡−不平衡変換回路21のバラン23に入力される。
なお、RF信号が入力された単位増幅器2,3,4,5からは、増幅後のRF信号の基本波foと一緒に、高調波2fo,3fo,・・・も出力される。
【0029】
平衡−不平衡変換回路21のバラン22に入力された2つのRF信号は、電力が合成されてバラン24に入力される。
平衡−不平衡変換回路21のバラン23に入力された2つのRF信号は、電力が合成されてバラン24に入力される。
平衡−不平衡変換回路21のバラン24に入力された2つのRF信号は、電力が合成されて出力端子32から外部に出力される。
これにより、出力端子32からRF信号が外部に出力されるが、RF信号が平衡−不平衡変換回路21のバラン22,23,24を通過する際に偶高調波2fo,4fo,・・・は抑圧されるため、出力端子32から偶高調波2fo,4fo,・・・は出力されない。
【0030】
次に本発明の効果について詳細に説明する。
図3は図1のプッシュプル増幅器における各部の振幅偏差及び位相偏差を示す説明図である。
図3では、バランにおけるPort2でのRF信号の振幅偏差がΔa=0dB、位相偏差がΔp=0度であるとき、Port3でのRF信号の振幅偏差がΔa=0.25dB、位相偏差がΔp=5度であるとして説明する。
【0031】
入力端子31から入力されたRF信号が、平衡−不平衡変換回路11のバラン12に入力されて、ポイントA1を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.25dBとなり、位相偏差はΔp=5度となる。
また、ポイントA2を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0dBとなり、位相偏差はΔp=0度となる。
このように、バラン12を通過することで、Port2とPort3の間で、振幅偏差Δa、位相偏差Δpが発生する。
【0032】
バラン12を通過してバラン13,14に入力されたRF信号の振幅偏差Δa及び位相偏差Δpは更に大きくなり、ポイントB1を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.5dBとなり、位相偏差はΔp=10度となる。
ポイントB2を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.25dBとなり、位相偏差はΔp=5度となる。
ポイントB3を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.25dBとなり、位相偏差はΔp=5度となる。
また、ポイントB4を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0dBとなり、位相偏差はΔp=0度となる。
【0033】
これらのRF信号は、単位増幅器2,3,4,5において、同じ振幅偏差と位相偏差を持って増幅され、単位増幅器2,3,4,5で発生する高調波についても同様の偏差を持つことになる。
これらの偏差は、RF信号の基本波foについては損失の要因になり、2次高調波2foについては抑圧量として寄与する。
本発明は、2次高調波2foの抑圧を目的としているため、以下、2次高調波2foに着目して説明する。
【0034】
ポイントC1を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.5dBとなり、位相偏差はΔp=10度となる。
ポイントC2を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.25dBとなり、位相偏差はΔp=5度となる。
ポイントC3を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.25dBとなり、位相偏差はΔp=5度となる。
ポイントC4を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0dBとなり、位相偏差はΔp=0度となる。
【0035】
バラン22によってポイントC1を通過するRF信号とポイントC2を通過するRF信号が合成され、バラン23によってポイントC3を通過するRF信号とポイントC4を通過するRF信号が合成される。
また、バラン22,23によって、ポイントC2を通過するRF信号及びポイントC4を通過するRF信号における2次高調波2foの振幅偏差Δaと位相偏差Δpだけが重畳される。
ここで、図4はバラン22,23を通過するRF信号における2次高調波2foの信号ベクトルを示す説明図である。
【0036】
図4からも明らかなように、バラン22によって、RF信号の2次高調波2foが合成されることで、ポイントC1を通過しているRF信号の2次高調波2foと、ポイントC2を通過しているRF信号の2次高調波2foとが、互いに打ち消し合って完全に抑圧される。
また、バラン23によって、RF信号の2次高調波2foが合成されることで、ポイントC3を通過しているRF信号の2次高調波2foと、ポイントC4を通過しているRF信号の2次高調波2foとが、互いに打ち消し合って完全に抑圧される。
【0037】
このように、2次高調波2foが互いに打ち消し合う理由は、RF信号の2次高調波2foが平衡−不平衡変換回路21に入力されたときに、平衡ポート同士の振幅偏差と位相偏差が、2次高調波2foにおいて最少になるような経路に各バランを配置しているためである。
バラン22,23,24の振幅偏差Δa及び位相偏差Δpが異なっている場合、バラン22,23では、2次高調波2foが完全には抑圧されないが、バラン24によって、RF信号の2次高調波2foが合成されることで、ポイントD1を通過しているRF信号の2次高調波2foと、ポイントD2を通過しているRF信号の2次高調波2foとが、互いに打ち消し合って完全に抑圧される。
【0038】
ここで、図5はバラン12,13,14,22,23,24が従来構成で配置される場合の各部の振幅偏差及び位相偏差を示す説明図である。
従来構成では、図1のプッシュプル増幅器と異なり、平衡−不平衡変換回路11におけるバラン12,13,14と、平衡−不平衡変換回路21におけるバラン22,23,24とが点対称に配置されていないので、図6に示すように、ポイントC1を通過しているRF信号の2次高調波2foと、ポイントC2を通過しているRF信号の2次高調波2foとが、完全には打ち消し合うことができない。
また、ポイントC3を通過しているRF信号の2次高調波2foと、ポイントC4を通過しているRF信号の2次高調波2foとが、完全には打ち消し合うことができない。
【0039】
図7はバランの振幅偏差Δa及び位相偏差Δpをパラメータとして、RF信号の2次高調波2foの抑圧量を計算した結果を示すグラフ図である。
図7より、バランの振幅偏差がΔa=0.25dB、位相偏差がΔp=5度であれば、この実施の形態1のプッシュプル増幅器では、2次高調波2foの抑圧量が62dBであるのに対して、従来構成のプッシュプル増幅器では、2次高調波2foの抑圧量が38dBであり、この実施の形態1のプッシュプル増幅器の方が、従来構成のプッシュプル増幅器よりも、2次高調波2foの抑圧量が24dBだけ大きい。
したがって、従来構成である図5のプッシュプル増幅器における2次高調波2foの抑圧量よりも、図1のプッシュプル増幅器における2次高調波2foの抑圧量の方が大きいことが分かる。
【0040】
図8はRF信号の基本波foと2次高調波2foの測定結果を示す説明図である。
RF信号の基本波foについては、この実施の形態1のプッシュプル増幅器と、従来構成のプッシュプル増幅器との間で相違はないが、RF信号の2次高調波2foについては、この実施の形態1のプッシュプル増幅器の方が、従来構成のプッシュプル増幅器よりも小さくなっている。
【0041】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、RF信号を増幅する複数の単位増幅器2,3,4,5と、複数の単位増幅器2,3,4,5の入力側に配置され、複数の単位増幅器2,3,4,5の入力側整合回路として動作する平衡−不平衡変換回路11と、複数の単位増幅器2,3,4,5の出力側に配置され、複数の単位増幅器2,3,4,5の出力側整合回路として動作する平衡−不平衡変換回路21とを備え、平衡−不平衡変換回路11,21がバランを用いて構成されており、平衡−不平衡変換回路11におけるバラン12,13,14の配置と、平衡−不平衡変換回路21におけるバラン22,23,24の配置が点対称であるように構成したので、入力端子31から出力端子32に至る経路A,B,C,Dの振幅偏差と位相偏差が等しくなり、その結果、個々の単位増幅器2,3,4,5で発生する高調波2foを抑圧して、スプリアスを低減することができる効果を奏する。
【0042】
なお、この実施の形態1では、単位増幅器群1が4個の単位増幅器2,3,4,5から構成されているものを示したが、これは一例に過ぎず、例えば、単位増幅器群1が2個の単位増幅器、8個の単位増幅器、16個の単位増幅器から構成されていてもよい。
【0043】
また、この実施の形態1では、平衡−不平衡変換回路11が3個のバラン12,13,14から構成されて、バランが2段構成(1段目:バラン12、2段目:バラン13,14)であるものを示したが、これは一例に過ぎず、例えば、バランが1段構成(1段目:バラン12)であってもよいし、バランが3段構成(1段目:バラン12、2段目:バラン13,14、3段目:4個のバラン)であってもよい。
同様に、平衡−不平衡変換回路21が3個のバラン22,23,24から構成されて、バランが2段構成(1段目:バラン22,23、2段目:バラン24)であるものを示したが、これは一例に過ぎず、例えば、バランが1段構成(1段目:1個のバラン)であってもよいし、バランが3段構成(1段目:4個のバラン、2段目:バラン22,23、3段目:バラン24)であってもよい。
【0044】
実施の形態2.
図9はこの発明の実施の形態2によるプッシュプル増幅器を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
振幅位相調整回路41〜44は単位増幅器2〜5の前段に設置されており、RF信号の振幅偏差及び位相偏差を調整する回路である。
図8の例では、振幅位相調整回路41〜44が単位増幅器2〜5の前段に設置されているが、単位増幅器2〜5の後段に設置されていてもよい。
【0045】
次に動作について説明する。
振幅位相調整回路41〜44を実装している点以外は、上記実施の形態1と同様であるため、振幅位相調整回路41〜44の処理内容だけを説明する。
単位増幅器群1を構成している単位増幅器2,3,4,5の間にバラツキがなければ、上記実施の形態1で説明したように、振幅位相調整回路41〜44を実装することなく、単位増幅器2,3,4,5で発生する高調波2foを抑圧することができる。
しかし、単位増幅器2,3,4,5の間にバラツキがある場合、そのバラツキに伴う振幅偏差及び位相偏差によって、単位増幅器2,3,4,5で発生する高調波2foを十分に抑圧することができない可能性がある。
【0046】
そこで、この実施の形態2では、単位増幅器2,3,4,5の間のバラツキに伴う振幅偏差及び位相偏差を調整する振幅位相調整回路41〜44を実装している。
単位増幅器2,3,4,5の間のバラツキの値が既知である場合には、振幅位相調整回路41〜44は、そのバラツキの値に応じてRF信号の振幅偏差及び位相偏差を調整する。
単位増幅器2,3,4,5の間のバラツキの値が既知ではないが、振幅偏差及び位相偏差を検波する検波器(図示せぬ)が設けられている場合には、振幅位相調整回路41〜44は、その検波器の検波結果にしたがってRF信号の振幅偏差及び位相偏差を調整する。
【0047】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、単位増幅器2〜5の前段又は後段に、RF信号の振幅偏差及び位相偏差を調整する振幅位相調整回路41〜44を設けるように構成したので、単位増幅器2〜5の間にバラツキがある場合でも、RF信号の2次高調波2foを十分に抑圧することができる効果を奏する。
【0048】
なお、この実施の形態2では、振幅位相調整回路41〜44が、振幅偏差及び位相偏差の双方を調整するものを示したが、振幅偏差又は位相偏差のいずれか一方を調整するようにしてもよい。
【0049】
実施の形態3.
上記実施の形態1,2では、入出力インピーダンスが12.5Ωに調整されている単位増幅器2,3,4,5を用いて、単位増幅器群1が構成されているものを示したが、単位増幅器2,3,4,5として、入出力インピーダンスが12.5Ωに調整されている単位トランジスタを用いて、単位増幅器群1が構成されていてもよく、上記実施の形態1,2と同様の効果を奏することができる。
また、整合インピーダンスを12.5Ωとしているが、平衡−不平衡変換回路11,21のインピーダンスもしくは単位増幅器(単位トランジスタ)のインピーダンスとしてもよい。
【0050】
上記実施の形態1,2では、平衡−不平衡変換回路11,21を構成しているバランが、図10に示すように、同軸ケーブルとフェライトコアを用いている伝送線路型バランであるものを想定しているが、同軸ケーブルがUの字型に曲げられて、フェライトコアに通されている形状のものや、フェライトコアの大きさが変化しているものであってもよい。
また、平衡−不平衡変換回路11,21を構成しているバランが、フェライトコアであるメガネコアやトロイダルコアに、エナメル線等の線材が巻かれている巻線バランであってもよい。
また、平衡−不平衡変換回路11,21を構成しているバランが、マーチャントバランやアクティブバランであってもよい。
【0051】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 単位増幅器群、2,3,4,5 単位増幅器、11 平衡−不平衡変換回路(第1の平衡−不平衡変換回路)、12,13,14 バラン、21 平衡−不平衡変換回路(第2の平衡−不平衡変換回路)、22,23,24 バラン、31 入力端子、32 出力端子、41,42,43,44 振幅位相調整回路。
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、衛星通信用の増幅器、移動体通信用の増幅器や地上マイクロ波通信用の増幅器などに適用されるプッシュプル増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信については、電波法やITUの勧告等で、スプリアスの規定が設けられており、周波数帯や出力電力等によってスプリアスの規定が細かく設定されている。
そのため、スプリアスを規定値以下に抑圧するために、アンテナから信号を送信する前に、バンドパスフィルタやローパスフィルタ等を用いて、スプリアスを抑圧している。
昨今では、小型化や低コスト化が求められており、複数の周波数帯を共通に利用できる通信用のマルチバンド増幅器や広帯域増幅器が求められている。複数の周波数帯を利用する通信においても、先に述べたスプリアスの規定は遵守しなければならない。
【0003】
以下の特許文献1には、部品素子数を低減して回路構成を簡素化することで、回路スペースを小さくしている高効率線形電力増幅器が開示されている。
この高効率線形電力増幅器では、広帯域整合回路が入力端子から入力された信号を周波数帯域A,Bの双方で整合を図り、増幅器が整合後の信号を増幅する。
増幅器により増幅された周波数帯域Aの信号は、周波数帯域A用の帯域通過フィルタを通過して周波数帯域A用の出力整合回路に入力され、その出力整合回路でインピーダンスが整合されて、周波数帯域A用の出力端子に出力される。
一方、増幅器により増幅された周波数帯域Bの信号は、周波数帯域B用の帯域通過フィルタを通過して周波数帯域B用の出力整合回路に入力され、その出力整合回路でインピーダンスが整合されて、周波数帯域B用の出力端子に出力される。
これにより、増幅器により増幅された周波数帯域Aの信号と周波数帯域Bの信号を出力することができるが、周波数帯域Aと周波数帯域Bの間の信号については取り出すことができない。
【0004】
以下の特許文献2には、簡易な構成で、複数の異なる周波数帯域の入力信号を効率的に増幅することができる高周波増幅器が開示されている。
この高周波増幅器では、インピーダンス変換回路が、入力されたn個の周波数を含むRF信号を増幅器の出力インピーダンスよりも高いインピーダンスに変換し、高域フィルタと低域フィルタが、インピーダンス変換後のRF信号を最も高い周波数f1の信号と、それよりも低い周波数の信号に分岐している。
周波数f1の信号は、高域フィルタを通過することによって50オームに変換される。
低域フィルタで分波された周波数f1よりも低い周波数の信号は、インピーダンス変換回路で高インピーダンスに変換され、高域フィルタと低域フィルタで2番目に高い周波数f2の信号と、それよりも低い周波数の信号に分岐される。
同じ要領で、周波数fnの信号まで分岐されながら、インピーダンス変換回路で高インピーダンスに変換され、周波数毎に50オームにインピーダンス整合が取られる。
これにより、複数の周波数の信号を出力することができるが、各周波数の間の信号については取り出すことができない。
【0005】
以下の特許文献3には、高調波注入プッシュプル増幅器が開示されている。
この高調波注入プッシュプル増幅器は、平衡−不平衡変換回路と、その平衡−不平衡変換回路と接続されて、互いに逆相動作する2つの単位増幅器とを有している。
また、この高調波注入プッシュプル増幅器は、基本信号の奇数次高調波歪信号を含む高調波歪信号を入力する高調波歪信号発生回路を備えており、基本信号と奇数次高調波歪信号を入力することで、低歪化を図るようにしている。
この高調波注入プッシュプル増幅器は、所定の周波数の信号だけでなく、広帯域の信号を出力することができるが、高調波歪信号の周波数毎に高調波歪信号発生回路を備える必要があり、設備の大型化を招いてしまう。
【0006】
ここで、広帯域の信号を出力することが可能な広帯域増幅器を通信用増幅器に適用する場合を考える。
この場合、増幅器自身の帯域内には、図11に示すように、2倍波(2fo),3倍波(3fo),・・・,n倍波(nfo)の高調波帯域が含まれる。
図11(a)は狭帯域増幅器の利得特性を示しており、狭帯域増幅器の場合、基本波foの周波数では利得(S21)があるが、高調波2fo,3fo,・・・の周波数では利得(S21)がない。
一般的に、狭帯域増幅器の場合、基本波foは整合を取っているが、その他の周波数の整合は取っていない。そのため、高調波は減衰されて出力される。
図11(b)は狭帯域増幅器における信号のスペクトラムを示しており、基本波foと比べて、高調波2fo,3fo,・・・は抑圧されている。
【0007】
図11(c)は広帯域増幅器の利得特性を示しており、広帯域増幅器の場合、基本波foの周波数だけでなく、高調波2fo,3fo,・・・の周波数でも利得(S21)がある。
一般的に、広帯域増幅器の場合、増幅器の帯域内の整合は取れているため、帯域内の損失は帯域外と比べて小さくなる。そのため、高調波は減衰し難くなる。
図11(d)は広帯域増幅器における信号のスペクトラムを示しており、図11(b)に示す狭帯域増幅器の場合と比べて、高調波2fo,3fo,・・・が、破線矢印の分だけ増加していることが分かる。
したがって、狭帯域増幅器より広帯域増幅器の方が高調波の出力が大きくなる。また、高調波2fo,3fo,・・・の中で、高調波2foが、他の高調波3fo,4fo・・・より大きくなる。広帯域増幅器の場合、この高調波2foがスプリアスとして問題になる。
【0008】
上述したように、通信については、電波法やITUの勧告等で、スプリアスの規定が設けられており、周波数帯や出力電力等によってスプリアスの規定が細かく設定されているため、スプリアスを規定値以下に抑圧する必要がある。スプリアスを規定値以下に抑圧するために、ローパスフィルタ等のフィルタが用いられる。
図12(a)は狭帯域増幅器のスペクトラムと、スプリアスを抑圧するために必要なローパスフィルタの特性を示している。
また、図12(b)は広帯域増幅器のスペクトラムと、スプリアスを抑圧するために必要なローパスフィルタの特性を示している。
狭帯域増幅器では、図12(a)に示すように、抑圧量Aを有するローパスフィルタが必要になり、広帯域増幅器では図12(b)に示すように、抑圧量Bを有するローパスフィルタが必要になる。
このとき、抑圧量B>抑圧量Aであるため、狭帯域増幅器より広帯域増幅器の方が大きな抑圧量を必要とする。
【0009】
広帯域増幅器の全ての帯域を利用できるようにする場合、スプリアスを規定の値まで抑圧するために複数のフィルタが必要になる。
図13は10倍帯域増幅器(fa〜10fa)のフィルタ帯域を示す説明図である。
例えば、フィルタの帯域を1.7倍と仮定して、フィルタ間のオーバーラップを20MHzとすると、図13に示すように、5つのフィルタが必要となる。
広帯域増幅器では、高調波2fo,3fo,・・・の中で、高調波2foのスプリアスの大きさが高いので、急峻な特性が求められる。そのため、例えば、有極フィルタ等が用いられるが、フィルタの損失や回路規模が大きくなる問題がある。
【0010】
高調波2foを含む偶高調波の抑圧を増幅器の内部で行う手法として、プッシュプル増幅器がある。
図14は一般的なプッシュプル増幅器を示す構成図であり、このプッシュプル増幅器では、平衡−不平衡変換回路としてバランを使用し、入力側のバランと出力側のバランとの間に、逆相で動作する単位増幅器が接続されている。
このプッシュプル増幅器では、理想的には高調波2foを含む偶高調波が完全に抑圧される。
図15(a)は図14のプッシュプル増幅器における信号のスペクトラムを示しており、偶高調波2fo,4fo,・・・は完全に抑圧される。そのため、スプリアスは高調波3fo以上の奇高調波を抑圧すればよいことになる。
【0011】
図12に示すように、2fo>3foであるため、フィルタ自身の抑圧量を低減することができる。また、フィルタ帯域を広くすることができるため、フィルタの個数を減らすことができる。
図15(b)は10倍帯域増幅器(fa〜10fa)のフィルタ帯域を示しており、フィルタの個数を3つに減らすことが可能である。
しかしながら、実際にプッシュプル増幅器を試作すると、高調波2foを完全に抑圧することはできない。
図16は試作したプッシュプル増幅器の入出力特性を示す説明図であり、高調波3foと比べて、高調波2foの出力電力の大きさが小さくなっているが、完全には抑圧されていないことが分かる。
その理由は、平衡−不平衡変換回路は、理想的には不平衡ポートに入力された信号が2分割されて、位相差が180度になるが、実際の回路では位相差が180度にならないことがあるからである。
【0012】
図17は平衡−不平衡変換回路である伝送線路バランを示す回路図である。
図17に示すように、不平衡ポートをPort1、平衡ポートをPort2,3とすると、理想的には、通過振幅と通過位相が図18(a)のようになり、不平衡ポートであるPort1から入力された信号の電力は、平衡ポートであるPort2とPort3に、1/2ずつ振り分けられる。そのときの位相差は180度になる。
しかし、実際には、図18(b)に示すように、全ての周波数範囲で完全に理想的な動作はしないため、高調波2foを完全に抑圧することはできない。
【0013】
さらに詳しく高調波2foの抑圧の原理について説明する。
図14に示すプッシュプル増幅器は、信号f(θ)が入力されると、入力側のバランによって、1/2f(θ)と−1/2f(θ)の信号に分けられる。
1/2f(θ)と−1/2f(θ)の信号は、個々の単位増幅器によって増幅され、その増幅に伴って、高調波1/2F(2θ),1/2F(3θ),・・・が出力される。F(2θ)=2fo,F(3θ)=3fo,・・・である。
【0014】
個々の単位増幅器から出力された信号は、出力側のバランで奇数次成分は合成され、偶数次成分は打ち消しあうことになる。
しかしながら、偶数次成分は図18(b)に示すように、振幅偏差や位相偏差がある場合には完全に打ち消されない。
個々の単位増幅器で発生する高調波2foは位相が180度異なるため、理想的な場合には、図19(a)に示すように、ベクトル合成して完全に打ち消しあう。ただし、振幅偏差Δaがある場合、図19(b)に示すように、ベクトル合成しても振幅偏差Δaの信号が残る。また、位相偏差Δpがある場合、図19(c)に示すように、ベクトル合成してもΔPの信号が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−97946号公報(段落番号[0008]から[0009])
【特許文献2】WO2005/048448
【特許文献3】WO2010/032283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来のプッシュプル増幅器は以上のように構成されているので、個々の単位増幅器で発生する高調波2foを理想的には抑圧することができる。しかし、実際には、全ての周波数範囲で完全に理想的な動作は行われないため、個々の単位増幅器で発生する高調波2foを完全に抑圧することができず、スプリアスを規定値以下に抑圧することができないことがあるなどの課題があった。
【0017】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、個々の単位増幅器で発生する高調波2foを抑圧して、スプリアスを低減することができるプッシュプル増幅器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明に係るプッシュプル増幅器は、入力信号を増幅する複数の単位増幅器と、複数の単位増幅器の入力側に配置され、複数の単位増幅器の入力側整合回路として動作する第1の平衡−不平衡変換回路と、複数の単位増幅器の出力側に配置され、複数の単位増幅器の出力側整合回路として動作する第2の平衡−不平衡変換回路とを備え、第1及び第2の平衡−不平衡変換回路がバランを用いて構成されており、第1の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置と、第2の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置とが点対称であるものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、入力信号を増幅する複数の単位増幅器と、複数の単位増幅器の入力側に配置され、複数の単位増幅器の入力側整合回路として動作する第1の平衡−不平衡変換回路と、複数の単位増幅器の出力側に配置され、複数の単位増幅器の出力側整合回路として動作する第2の平衡−不平衡変換回路とを備え、第1及び第2の平衡−不平衡変換回路がバランを用いて構成されており、第1の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置と、第2の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置とが点対称であるように構成したので、個々の単位増幅器で発生する高調波2foを抑圧して、スプリアスを低減することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態1によるプッシュプル増幅器を示す構成図である。
【図2】入力端子31から出力端子32に至る経路A,B,C,Dを示す説明図である。
【図3】図1のプッシュプル増幅器における各部の振幅偏差及び位相偏差を示す説明図である。
【図4】バラン22,23を通過するRF信号における2次高調波2foの信号ベクトルを示す説明図である。
【図5】バラン12,13,14,22,23,24が従来構成で配置される場合の各部の振幅偏差及び位相偏差を示す説明図である。
【図6】バラン22,23を通過するRF信号における2次高調波2foの信号ベクトルを示す説明図である。
【図7】バランの振幅偏差Δa及び位相偏差Δpをパラメータとして、RF信号の2次高調波2foの抑圧量を計算した結果を示すグラフ図である。
【図8】RF信号の基本波foと2次高調波2foの測定結果を示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態2によるプッシュプル増幅器を示す構成図である。
【図10】平衡−不平衡変換回路11,21を構成しているバランが、同軸ケーブルとフェライトコアを用いている伝送線路型バランである例を示す説明図である。
【図11】増幅器の利得特性及び信号のスペクトラムを示す説明図である。
【図12】増幅器のスペクトラムと、スプリアスを抑圧するために必要なローパスフィルタの特性を示す説明図である。
【図13】10倍帯域増幅器(fa〜10fa)のフィルタ帯域を示す説明図である。
【図14】一般的なプッシュプル増幅器を示す構成図である。
【図15】図14のプッシュプル増幅器における信号のスペクトラムと、10倍帯域増幅器(fa〜10fa)のフィルタ帯域を示す説明図である。
【図16】試作したプッシュプル増幅器の入出力特性を示す説明図である。
【図17】平衡−不平衡変換回路である伝送線路バランを示す回路図である。
【図18】理想的な通過振幅及び通過位相と、実際の通過振幅及び通過位相とを示す説明図である。
【図19】個々の単位増幅器で発生する高調波2foのベクトル合成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるプッシュプル増幅器を示す構成図である。
図1において、単位増幅器群1は複数の単位増幅器2,3,4,5から構成されている。
単位増幅器2,3,4,5は入出力インピーダンスが12.5Ωに調整されており、入力信号であるRF信号を増幅する。
第1の平衡−不平衡変換回路である平衡−不平衡変換回路11は単位増幅器群1の入力側に配置されており、単位増幅器群1の入力側整合回路として動作し、50Ωから12.5Ωに変換する。
平衡−不平衡変換回路11は複数のバラン12,13,14から構成されており、バラン12は50Ωから25Ωに変換し、バラン13,14は25Ωから12.5Ωに変換する。
【0022】
第2の平衡−不平衡変換回路である平衡−不平衡変換回路21は単位増幅器群1の出力側に配置されており、単位増幅器群1の出力側整合回路として動作し、50Ωから12.5Ωに変換する。
平衡−不平衡変換回路21は複数のバラン22,23,24から構成されており、バラン22,23は25Ωから12.5Ωに変換し、バラン24は50Ωから25Ωに変換する。
【0023】
図1のプッシュプル増幅器は、入力端子31から出力端子32に至る経路A,B,C,D(図2を参照)の振幅偏差と位相偏差が等しくなるように、平衡−不平衡変換回路11,21の内部にはバラン12,13,14,22,23,24が配置されている。
即ち、平衡−不平衡変換回路11におけるバラン12,13,14と、平衡−不平衡変換回路21におけるバラン22,23,24とが点対称に配置されている。
【0024】
具体的には、平衡−不平衡変換回路11のバラン12は不平衡ポートであるPort1が入力端子31と接続され、平衡ポートであるPort2がバラン14のPort1と接続され、平衡ポートであるPort3がバラン13のPort1と接続されている。
バラン13は不平衡ポートであるPort1がバラン12のPort3と接続され、平衡ポートであるPort2が単位増幅器3の入力側と接続され、平衡ポートであるPort3が単位増幅器2の入力側と接続されている。
バラン14は不平衡ポートであるPort1がバラン12のPort2と接続され、平衡ポートであるPort2が単位増幅器5の入力側と接続され、平衡ポートであるPort3が単位増幅器4の入力側と接続されている。
【0025】
平衡−不平衡変換回路21のバラン22は平衡ポートであるPort2が単位増幅器2の出力側と接続され、平衡ポートであるPort3が単位増幅器3の出力側と接続され、不平衡ポートであるPort1がバラン24のPort2と接続されている。
バラン23は平衡ポートであるPort2が単位増幅器4の出力側と接続され、平衡ポートであるPort3が単位増幅器5の出力側と接続され、不平衡ポートであるPort1がバラン24のPort3と接続されている。
バラン24は平衡ポートであるPort2がバラン22のPort1と接続され、平衡ポートであるPort3がバラン23のPort1と接続され、不平衡ポートであるPort1が出力端子32と接続されている。
【0026】
次に動作について説明する。
入力端子31から入力されたRF信号は、平衡−不平衡変換回路11のバラン12に入力される。
平衡−不平衡変換回路11のバラン12に入力されたRF信号は、電力が1/2に分割されて、一方のRF信号がバラン13に入力され、他方のRF信号がバラン14に入力される。
【0027】
平衡−不平衡変換回路11のバラン13に入力されたRF信号は、電力が1/2に分割されて、一方のRF信号が単位増幅器2に入力され、他方のRF信号が単位増幅器3に入力される。
平衡−不平衡変換回路11のバラン14に入力されたRF信号は、電力が1/2に分割されて、一方のRF信号が単位増幅器4に入力され、他方のRF信号が単位増幅器5に入力される。
【0028】
単位増幅器2,3,4,5に入力されたRF信号は増幅され、単位増幅器2により増幅されたRF信号と単位増幅器3により増幅されたRF信号は、平衡−不平衡変換回路21のバラン22に入力される。
また、単位増幅器4により増幅されたRF信号と単位増幅器5により増幅されたRF信号は、平衡−不平衡変換回路21のバラン23に入力される。
なお、RF信号が入力された単位増幅器2,3,4,5からは、増幅後のRF信号の基本波foと一緒に、高調波2fo,3fo,・・・も出力される。
【0029】
平衡−不平衡変換回路21のバラン22に入力された2つのRF信号は、電力が合成されてバラン24に入力される。
平衡−不平衡変換回路21のバラン23に入力された2つのRF信号は、電力が合成されてバラン24に入力される。
平衡−不平衡変換回路21のバラン24に入力された2つのRF信号は、電力が合成されて出力端子32から外部に出力される。
これにより、出力端子32からRF信号が外部に出力されるが、RF信号が平衡−不平衡変換回路21のバラン22,23,24を通過する際に偶高調波2fo,4fo,・・・は抑圧されるため、出力端子32から偶高調波2fo,4fo,・・・は出力されない。
【0030】
次に本発明の効果について詳細に説明する。
図3は図1のプッシュプル増幅器における各部の振幅偏差及び位相偏差を示す説明図である。
図3では、バランにおけるPort2でのRF信号の振幅偏差がΔa=0dB、位相偏差がΔp=0度であるとき、Port3でのRF信号の振幅偏差がΔa=0.25dB、位相偏差がΔp=5度であるとして説明する。
【0031】
入力端子31から入力されたRF信号が、平衡−不平衡変換回路11のバラン12に入力されて、ポイントA1を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.25dBとなり、位相偏差はΔp=5度となる。
また、ポイントA2を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0dBとなり、位相偏差はΔp=0度となる。
このように、バラン12を通過することで、Port2とPort3の間で、振幅偏差Δa、位相偏差Δpが発生する。
【0032】
バラン12を通過してバラン13,14に入力されたRF信号の振幅偏差Δa及び位相偏差Δpは更に大きくなり、ポイントB1を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.5dBとなり、位相偏差はΔp=10度となる。
ポイントB2を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.25dBとなり、位相偏差はΔp=5度となる。
ポイントB3を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.25dBとなり、位相偏差はΔp=5度となる。
また、ポイントB4を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0dBとなり、位相偏差はΔp=0度となる。
【0033】
これらのRF信号は、単位増幅器2,3,4,5において、同じ振幅偏差と位相偏差を持って増幅され、単位増幅器2,3,4,5で発生する高調波についても同様の偏差を持つことになる。
これらの偏差は、RF信号の基本波foについては損失の要因になり、2次高調波2foについては抑圧量として寄与する。
本発明は、2次高調波2foの抑圧を目的としているため、以下、2次高調波2foに着目して説明する。
【0034】
ポイントC1を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.5dBとなり、位相偏差はΔp=10度となる。
ポイントC2を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.25dBとなり、位相偏差はΔp=5度となる。
ポイントC3を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0.25dBとなり、位相偏差はΔp=5度となる。
ポイントC4を通過したときのRF信号の振幅偏差はΔa=0dBとなり、位相偏差はΔp=0度となる。
【0035】
バラン22によってポイントC1を通過するRF信号とポイントC2を通過するRF信号が合成され、バラン23によってポイントC3を通過するRF信号とポイントC4を通過するRF信号が合成される。
また、バラン22,23によって、ポイントC2を通過するRF信号及びポイントC4を通過するRF信号における2次高調波2foの振幅偏差Δaと位相偏差Δpだけが重畳される。
ここで、図4はバラン22,23を通過するRF信号における2次高調波2foの信号ベクトルを示す説明図である。
【0036】
図4からも明らかなように、バラン22によって、RF信号の2次高調波2foが合成されることで、ポイントC1を通過しているRF信号の2次高調波2foと、ポイントC2を通過しているRF信号の2次高調波2foとが、互いに打ち消し合って完全に抑圧される。
また、バラン23によって、RF信号の2次高調波2foが合成されることで、ポイントC3を通過しているRF信号の2次高調波2foと、ポイントC4を通過しているRF信号の2次高調波2foとが、互いに打ち消し合って完全に抑圧される。
【0037】
このように、2次高調波2foが互いに打ち消し合う理由は、RF信号の2次高調波2foが平衡−不平衡変換回路21に入力されたときに、平衡ポート同士の振幅偏差と位相偏差が、2次高調波2foにおいて最少になるような経路に各バランを配置しているためである。
バラン22,23,24の振幅偏差Δa及び位相偏差Δpが異なっている場合、バラン22,23では、2次高調波2foが完全には抑圧されないが、バラン24によって、RF信号の2次高調波2foが合成されることで、ポイントD1を通過しているRF信号の2次高調波2foと、ポイントD2を通過しているRF信号の2次高調波2foとが、互いに打ち消し合って完全に抑圧される。
【0038】
ここで、図5はバラン12,13,14,22,23,24が従来構成で配置される場合の各部の振幅偏差及び位相偏差を示す説明図である。
従来構成では、図1のプッシュプル増幅器と異なり、平衡−不平衡変換回路11におけるバラン12,13,14と、平衡−不平衡変換回路21におけるバラン22,23,24とが点対称に配置されていないので、図6に示すように、ポイントC1を通過しているRF信号の2次高調波2foと、ポイントC2を通過しているRF信号の2次高調波2foとが、完全には打ち消し合うことができない。
また、ポイントC3を通過しているRF信号の2次高調波2foと、ポイントC4を通過しているRF信号の2次高調波2foとが、完全には打ち消し合うことができない。
【0039】
図7はバランの振幅偏差Δa及び位相偏差Δpをパラメータとして、RF信号の2次高調波2foの抑圧量を計算した結果を示すグラフ図である。
図7より、バランの振幅偏差がΔa=0.25dB、位相偏差がΔp=5度であれば、この実施の形態1のプッシュプル増幅器では、2次高調波2foの抑圧量が62dBであるのに対して、従来構成のプッシュプル増幅器では、2次高調波2foの抑圧量が38dBであり、この実施の形態1のプッシュプル増幅器の方が、従来構成のプッシュプル増幅器よりも、2次高調波2foの抑圧量が24dBだけ大きい。
したがって、従来構成である図5のプッシュプル増幅器における2次高調波2foの抑圧量よりも、図1のプッシュプル増幅器における2次高調波2foの抑圧量の方が大きいことが分かる。
【0040】
図8はRF信号の基本波foと2次高調波2foの測定結果を示す説明図である。
RF信号の基本波foについては、この実施の形態1のプッシュプル増幅器と、従来構成のプッシュプル増幅器との間で相違はないが、RF信号の2次高調波2foについては、この実施の形態1のプッシュプル増幅器の方が、従来構成のプッシュプル増幅器よりも小さくなっている。
【0041】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、RF信号を増幅する複数の単位増幅器2,3,4,5と、複数の単位増幅器2,3,4,5の入力側に配置され、複数の単位増幅器2,3,4,5の入力側整合回路として動作する平衡−不平衡変換回路11と、複数の単位増幅器2,3,4,5の出力側に配置され、複数の単位増幅器2,3,4,5の出力側整合回路として動作する平衡−不平衡変換回路21とを備え、平衡−不平衡変換回路11,21がバランを用いて構成されており、平衡−不平衡変換回路11におけるバラン12,13,14の配置と、平衡−不平衡変換回路21におけるバラン22,23,24の配置が点対称であるように構成したので、入力端子31から出力端子32に至る経路A,B,C,Dの振幅偏差と位相偏差が等しくなり、その結果、個々の単位増幅器2,3,4,5で発生する高調波2foを抑圧して、スプリアスを低減することができる効果を奏する。
【0042】
なお、この実施の形態1では、単位増幅器群1が4個の単位増幅器2,3,4,5から構成されているものを示したが、これは一例に過ぎず、例えば、単位増幅器群1が2個の単位増幅器、8個の単位増幅器、16個の単位増幅器から構成されていてもよい。
【0043】
また、この実施の形態1では、平衡−不平衡変換回路11が3個のバラン12,13,14から構成されて、バランが2段構成(1段目:バラン12、2段目:バラン13,14)であるものを示したが、これは一例に過ぎず、例えば、バランが1段構成(1段目:バラン12)であってもよいし、バランが3段構成(1段目:バラン12、2段目:バラン13,14、3段目:4個のバラン)であってもよい。
同様に、平衡−不平衡変換回路21が3個のバラン22,23,24から構成されて、バランが2段構成(1段目:バラン22,23、2段目:バラン24)であるものを示したが、これは一例に過ぎず、例えば、バランが1段構成(1段目:1個のバラン)であってもよいし、バランが3段構成(1段目:4個のバラン、2段目:バラン22,23、3段目:バラン24)であってもよい。
【0044】
実施の形態2.
図9はこの発明の実施の形態2によるプッシュプル増幅器を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
振幅位相調整回路41〜44は単位増幅器2〜5の前段に設置されており、RF信号の振幅偏差及び位相偏差を調整する回路である。
図8の例では、振幅位相調整回路41〜44が単位増幅器2〜5の前段に設置されているが、単位増幅器2〜5の後段に設置されていてもよい。
【0045】
次に動作について説明する。
振幅位相調整回路41〜44を実装している点以外は、上記実施の形態1と同様であるため、振幅位相調整回路41〜44の処理内容だけを説明する。
単位増幅器群1を構成している単位増幅器2,3,4,5の間にバラツキがなければ、上記実施の形態1で説明したように、振幅位相調整回路41〜44を実装することなく、単位増幅器2,3,4,5で発生する高調波2foを抑圧することができる。
しかし、単位増幅器2,3,4,5の間にバラツキがある場合、そのバラツキに伴う振幅偏差及び位相偏差によって、単位増幅器2,3,4,5で発生する高調波2foを十分に抑圧することができない可能性がある。
【0046】
そこで、この実施の形態2では、単位増幅器2,3,4,5の間のバラツキに伴う振幅偏差及び位相偏差を調整する振幅位相調整回路41〜44を実装している。
単位増幅器2,3,4,5の間のバラツキの値が既知である場合には、振幅位相調整回路41〜44は、そのバラツキの値に応じてRF信号の振幅偏差及び位相偏差を調整する。
単位増幅器2,3,4,5の間のバラツキの値が既知ではないが、振幅偏差及び位相偏差を検波する検波器(図示せぬ)が設けられている場合には、振幅位相調整回路41〜44は、その検波器の検波結果にしたがってRF信号の振幅偏差及び位相偏差を調整する。
【0047】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、単位増幅器2〜5の前段又は後段に、RF信号の振幅偏差及び位相偏差を調整する振幅位相調整回路41〜44を設けるように構成したので、単位増幅器2〜5の間にバラツキがある場合でも、RF信号の2次高調波2foを十分に抑圧することができる効果を奏する。
【0048】
なお、この実施の形態2では、振幅位相調整回路41〜44が、振幅偏差及び位相偏差の双方を調整するものを示したが、振幅偏差又は位相偏差のいずれか一方を調整するようにしてもよい。
【0049】
実施の形態3.
上記実施の形態1,2では、入出力インピーダンスが12.5Ωに調整されている単位増幅器2,3,4,5を用いて、単位増幅器群1が構成されているものを示したが、単位増幅器2,3,4,5として、入出力インピーダンスが12.5Ωに調整されている単位トランジスタを用いて、単位増幅器群1が構成されていてもよく、上記実施の形態1,2と同様の効果を奏することができる。
また、整合インピーダンスを12.5Ωとしているが、平衡−不平衡変換回路11,21のインピーダンスもしくは単位増幅器(単位トランジスタ)のインピーダンスとしてもよい。
【0050】
上記実施の形態1,2では、平衡−不平衡変換回路11,21を構成しているバランが、図10に示すように、同軸ケーブルとフェライトコアを用いている伝送線路型バランであるものを想定しているが、同軸ケーブルがUの字型に曲げられて、フェライトコアに通されている形状のものや、フェライトコアの大きさが変化しているものであってもよい。
また、平衡−不平衡変換回路11,21を構成しているバランが、フェライトコアであるメガネコアやトロイダルコアに、エナメル線等の線材が巻かれている巻線バランであってもよい。
また、平衡−不平衡変換回路11,21を構成しているバランが、マーチャントバランやアクティブバランであってもよい。
【0051】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 単位増幅器群、2,3,4,5 単位増幅器、11 平衡−不平衡変換回路(第1の平衡−不平衡変換回路)、12,13,14 バラン、21 平衡−不平衡変換回路(第2の平衡−不平衡変換回路)、22,23,24 バラン、31 入力端子、32 出力端子、41,42,43,44 振幅位相調整回路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を増幅する複数の単位増幅器と、上記複数の単位増幅器の入力側に配置され、上記複数の単位増幅器の入力側整合回路として動作する第1の平衡−不平衡変換回路と、上記複数の単位増幅器の出力側に配置され、上記複数の単位増幅器の出力側整合回路として動作する第2の平衡−不平衡変換回路とを備えたプッシュプル増幅器において、
上記第1及び第2の平衡−不平衡変換回路がバランを用いて構成されており、上記第1の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置と、上記第2の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置とが点対称であることを特徴とするプッシュプル増幅器。
【請求項2】
複数の単位増幅器の前段又は後段に、振幅又は位相のうちの少なくとも一方を調整する調整回路が設けられていることを特徴とする請求項1記載のプッシュプル増幅器。
【請求項3】
単位増幅器として、トランジスタが用いられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のプッシュプル増幅器。
【請求項4】
第1及び第2の平衡−不平衡変換回路を構成しているバランは、フェライトコアを用いている伝送線路型バラン、フェライトコアを用いている巻線バラン、マーチャントバラン又はアクティブバランのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載のプッシュプル増幅器。
【請求項1】
入力信号を増幅する複数の単位増幅器と、上記複数の単位増幅器の入力側に配置され、上記複数の単位増幅器の入力側整合回路として動作する第1の平衡−不平衡変換回路と、上記複数の単位増幅器の出力側に配置され、上記複数の単位増幅器の出力側整合回路として動作する第2の平衡−不平衡変換回路とを備えたプッシュプル増幅器において、
上記第1及び第2の平衡−不平衡変換回路がバランを用いて構成されており、上記第1の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置と、上記第2の平衡−不平衡変換回路におけるバランの配置とが点対称であることを特徴とするプッシュプル増幅器。
【請求項2】
複数の単位増幅器の前段又は後段に、振幅又は位相のうちの少なくとも一方を調整する調整回路が設けられていることを特徴とする請求項1記載のプッシュプル増幅器。
【請求項3】
単位増幅器として、トランジスタが用いられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のプッシュプル増幅器。
【請求項4】
第1及び第2の平衡−不平衡変換回路を構成しているバランは、フェライトコアを用いている伝送線路型バラン、フェライトコアを用いている巻線バラン、マーチャントバラン又はアクティブバランのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載のプッシュプル増幅器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−238960(P2012−238960A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105356(P2011−105356)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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