説明

プライマー組成物

【課題】金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属またはこれらの金属より選ばれる2種以上からなる合金の表面と付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物との接着において十分な接着性が得られるプライマー組成物を提供する。
【解決手段】金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属または前記群より選ばれる2種以上からなる合金の表面と付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを接着させるプライマー組成物であって、(A)(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシランと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、(B)エポキシ基を有するアルコキシシラン、(C)白金系触媒、および(D)溶剤を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属またはこれらの金属より選ばれる2種以上からなる合金の表面と付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを接着させるプライマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーン樹脂を基材へ接着する方法としては、シリコーン樹脂に接着性を付与する材料を混合しておくか、あるいは基材表面に予めシリコーンまたはシランカップリング剤等を含むプライマーを塗布した後、シリコーン樹脂を塗布・硬化させる方法が一般的である。
【0003】
プライマーを用いる技術としては、例えば、アクリル系の有機基を有するアルコキシシランと白金系化合物を含むプライマー組成物を、プラスチック類、ガラス類、金属類等の基材の表面に塗布、乾燥させ、この面にシリコーンゴムを接着させる技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術を用いても、シリコーン樹脂の接着対象を金などの貴金属類に特化した場合には、その表面へのシリコーン樹脂の接着が困難であるという問題があった。これは、通常、シリコーン樹脂に含まれる成分、またはプライマー中の反応基が基材表面の置換基と反応し、化学結合することで接着力が生じるが、金などの貴金属表面には置換基が極めて少なく、このような作用が生じにくいためと考えられる。
【0005】
そこで、金などの貴金属表面へのシリコーン樹脂接着を対象としたプライマー組成物に関する技術が開発されており、例えば、金、銀、および白金族の群から選ばれる1種以上を含む金属又は合金の表面に、熱伝導性シリコーン組成物を接着するためのプライマー組成物として、白金系化合物および溶剤を含みかつアルコキシシランを含まないプライマー組成物が開示されている(特許文献2参照)が、これについても貴金属とシリコーン樹脂の接着性は十分と言えず、よりな強固な接着が得られるプライマー組成物の開発が望まれている。
【特許文献1】特公平3−12114号公報
【特許文献2】特開2008−106185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属またはこれらの金属より選ばれる2種以上からなる合金の表面と付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物との接着において十分な接着強度が得られるプライマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプライマー組成物は、金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属または前記群より選ばれる2種以上からなる合金の表面と付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを接着させるプライマー組成物であって、
(A)(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシランと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、
(B)エポキシ基を有するアルコキシシラン、
(C)白金系触媒、
および
(D)溶剤
を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプライマー組成物を用いれば、金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属またはこれらの金属より選ばれる2種以上からなる合金の表面と付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを十分な接着強度をもって接着することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のプライマー組成物の実施の形態について詳細に説明する。ここで、本明細書において用いる(メタ)アクリロキシ基の用語は、アクリロキシ基またはメタクリロキシ基を示す。同様に、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸を示す。
まず、本発明のプライマー組成物が必須成分として含有する(A)(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシランと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、(B)エポキシ基を有するアルコキシシラン、(C)白金系触媒および(D)溶剤について説明する。
【0010】
[(A)成分]
(A)成分の(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシラン(以下、(a1)成分ということもある)と(メタ)アクリル酸エステル(以下、(a2)成分ということもある)との共重合体は、(B)成分と組み合わせてプライマー組成物として用いた際に、金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属または前記群より選ばれる2種以上からなる合金の表面に対して、付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物との十分な接着性を与える本発明の特徴成分である。
【0011】
前記(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシラン((a1)成分)は、ケイ素原子に1個以上のアルコキシ基と、少なくとも1個の(メタ)アクリロキシ基を有する1個以上の有機基が結合した構造を有し、ケイ素原子にこれらの基が結合していない結合手がある場合、その結合手はアルキル基と結合した構造を有する化合物である。(a1)成分において、前記(メタ)アクリロキシ基は直接ケイ素原子に結合していてもよいが、二価の有機基を介してケイ素原子に結合していることが好ましい。また、(a1)成分として、(メタ)アクリロキシ基を有する有機基の数が1個であり、アルコキシ基の数が1〜3個である化合物が好ましい。このような(a1)成分として、具体的には、以下の一般式で表される化合物が挙げられる。
【0012】
C=CR−COO−R−Si(OR(3−n)
(ただし、式中Rは水素原子またはメチル基を示す。Rは炭素数1〜6の置換されていてもよいアルキレン基を、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数1〜6の置換されていてもよいアルキル基を示す。nは1〜3の整数である。nが2または3の場合、Rは同一であっても異なっていてもよく、nが1の場合、Rは同一であっても異なっていてもよい。)
【0013】
上記式中(メタ)アクリロキシ基とケイ素原子を連結するアルキレン基を示すRの炭素数は、好ましくは3〜6である。該アルキレン基は直鎖状のみでなく、環状であっても分岐していてもよいが、Rは好ましくは、直鎖状のアルキレン基である。
式中のnの数については、好ましくは2〜3である。また、アルコキシ基のアルキル部分であるRについては、その炭素数は好ましくは1〜3であるが、より好ましいRはメチル基またはエチル基である。ケイ素原子に直接結合するアルキル基を示すRについては、その炭素数は好ましくは1〜2であるが、より好ましいRはメチル基である。また、アルキル基を示すRおよびRについてもそれぞれ直鎖状のみでなく環状であっても分岐していてもよいが、好ましくは、R、Rともに直鎖状のアルキル基である。
【0014】
この様な前記式で表される(a1)成分として、具体的には、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロペノキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシエチルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシエチルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシヘキシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0015】
これらのうちでも、本発明に用いる(a1)成分として、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が接着等の点から特に好ましく挙げられる。本発明に用いる(A)成分を製造する際の(a1)成分については、1種を単独で用いることも、2種以上を併せて用いることも可能である。
【0016】
本発明に用いる(A)成分を得るために上記(a1)成分と共重合させる(メタ)アクリル酸エステル((a2)成分)としては、アルキル基の炭素原子数が1〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。なお、アルキル基は直鎖状のみでなく分岐していても環状であってもよい。この様な(メタ)アクリル酸エステルとして、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−プロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸−n−デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル等が挙げられる。
【0017】
さらに、本発明においては、前記(メタ)アクリル酸エステルとして、アルキル基の炭素原子数が1〜4の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルが接着の点から特に好ましい。本発明に用いる(A)成分を製造する際の(a2)成分についても、1種を単独で用いることも、2種以上を併せて用いることも可能である。
【0018】
(A)成分は、上記(a1)成分と(a2)成分をラジカル重合開始剤を用いて共重合させることによって得られる。共重合に用いる(a1)成分と(a2)成分の割合は、(a1)成分1モルに対する(a2)成分のモル量として1〜20モルであることが好ましく、5〜15モルであることがより好ましい。(a1)成分1モルに対する(a2)成分の割合が1モルより小さいと経済的に不利であり、20モルより大きいと十分な接着性が得られないことがある。
【0019】
また、本発明のプライマー組成物が含有する(A)成分となる共重合体の数平均分子量としては、10万〜1000万が好ましく、より好ましくは、50万〜1000万である。数平均分子量が、10万より小さいと十分な接着性が得られないことがあり、1000万より大きいと粘度が高くなり、作業性を損なうことがある。なお、本明細書でいう共重合体の数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値をいう。
【0020】
(A)成分製造に用いるラジカル重合開始剤としては、(メタ)アクリル酸エステルの重合に一般的に用いられる重合開始剤、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物、2,2’アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNの略号で示すこともある)などのアゾ化合物を挙げることができえる。重合に用いる重合開始剤の量は、(a1)成分と(a2)成分の全量に対して0.1〜5質量%程度を好ましい量として挙げることができる。
【0021】
重合の方法として、具体的には、塊状重合、溶液重合、懸濁重合等が挙げられるが、上記共重合においては、適当な有機溶媒下に行われる溶液重合が分子量を制御しやすいことから好ましく用いられる。溶液重合に用いられる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール(以下、IPAの略号で示すこともある)、ブタノール等のアルコール、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル、アセトン等のケトン、エチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル等が挙げられる。これら有機溶剤は、1種を単独で用いることも、2種以上を併せて用いることも可能である。用いる有機溶剤の量として、具体的には、(a1)成分と(a2)成分の全量に対して100〜500質量%程度を好ましい量として挙げることができる。
【0022】
(a1)成分と(a2)成分を溶液重合により共重合させる具体的な方法として、モノマー成分である(a1)成分と(a2)成分、ラジカル重合開始剤、有機溶媒の上述した適当量を、適当な温度下で、適当な時間混合攪拌する方法が挙げられる。重合温度は室温〜溶媒の還流温度までの範囲であるが、適当な重合時間のために、重合開始剤の半減期が1〜6時間、好ましくは3〜4時間程度となるような温度がよい。半減期が前記時間となる温度は重合開始剤により異なるが、例えば、重合開始剤として、ベンゾイルパーオキサイド、AIBN等を用いた場合は60〜90℃で半減期が3〜4時間程度である。前記重合温度で、1〜10時間重合を行うことで、本発明のプライマー組成物が含有する(A)成分を得ることができる。得られた(A)成分は、必要に応じて適当な方法で重合反応液から単離精製して本発明に用いることも可能であるが、重合終了後の(A)成分を含む重合反応液の状態で本発明のプライマー組成物に配合することも可能である。
【0023】
[(B)成分]
(B)成分のエポキシ基を有するアルコキシシランは、上記(A)成分と組み合わせてプライマー組成物として用いた際に、金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属または前記群より選ばれる2種以上からなる合金の表面に対して、付加反応硬化型シリコーン組成物硬化物との十分な接着性を与える成分であり、公知の化合物を使用することができる。
【0024】
(B)成分は、取扱い性、硬化性および接着性に優れる点から、反応性官能基としてエポキシ基を有するアルコキシシランであり、より具体的には、ケイ素原子に1個以上のアルコキシ基と、少なくとも1個以上のエポキシ基を有する1個以上の有機基が結合した構造を有し、ケイ素原子にこれらの基が結合していない結合手がある場合、その結合手はアルキル基と結合した構造を有する化合物である。前記エポキシ基は、直接ケイ素原子に結合していてもよく、また、炭素原子数1〜10の2価の分岐していても環状であってもよい置換または非置換の炭化水素基を介してケイ素原子に結合していてもよい。
【0025】
ケイ素原子に結合するアルコキシ基として具体的には、アルキル部分について炭素数が1〜4であり、置換されていてもよく、分岐していても環状であってもよいアルコキシ基が挙げられる。また、(B)成分が有するアルコキシ基の個数としては、2個、または3個であることが好ましい。ケイ素原子と直接結合するアルキル基を有する場合のアルキル基としては、炭素数が1〜3であり、分岐していても環状であってもよく、置換されていてもよいアルキル基が挙げられる。
【0026】
この様な(B)成分として、具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロペノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリメトキシシラン、9,10−エポキシデシルトリメトキシシランなどが挙げられ、好ましくは、高接着性を得られる点から、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。(B)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明のプライマー組成物における(B)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して1〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは10〜40重量部である。前記配合量が1重量部未満では、十分な接着性が得られないことがある。一方、50重量部を越えると、コストの点で不経済である。
【0028】
[(C)成分]
本発明のプライマー組成物が含有する(C)成分の白金系触媒としては、公知の白金系触媒を用いることができる。具体的には、白金の単体、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等が挙げられる。
【0029】
(C)成分の配合量は、特に限定されるものではないが、通常、得られるプライマー組成物の全量に対して、白金原子に換算して1〜1000ppm、好ましくは10〜500ppmである。前記配合量が1ppm未満では、十分な接着性が得られないことがあり、1000ppmを超えると経済的に不利である。
【0030】
[(D)成分]
(D)成分の溶剤は、組成物の作業条件などを考慮して、その種類や配合量を適宜調整することができる。
【0031】
(D)成分としては、組成物が含有する各成分を溶解できるものであれば特に限定されるものではなく、公知の有機溶剤を使用することができる。具体的には、キシレン、トルエン、ベンゼン、ヘプタン、ヘキサン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、塩化メチレン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、リグロイン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、ゴム揮発油、シリコーン系溶剤等が挙げられる。プライマー組成物の塗布作業時の蒸発速度に応じて、1種を単独で、または2種以上を組合せて混合溶剤として用いてもよい。
【0032】
本発明のプライマー組成物における(D)成分の配合量としては、プライマー組成物の塗布作業時や乾燥時に支障のない範囲であればいかなる量でもよく、好ましくは組成物全量に対して70質量%以上を、より好ましくは80〜99質量%をその配合量として挙げることができる。(D)成分の配合量が70質量%以上であれば経済的に有利であり好ましい。
【0033】
本発明のプライマー組成物は、上記(A)〜(D)の各成分を必須成分として含有するが、本発明のプライマー組成物の好ましい態様として、これらに加えてさらに、任意成分としてベンゾトリアゾールまたはその誘導体を含有するプライマー組成物が挙げられる。ベンゾトリアゾールまたはその誘導体は、本発明のプライマー組成物においてこれを含有することで、付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物の金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属または前記群より選ばれる2種以上からなる合金の表面への接着に際して、接着性をさらに向上させる成分である。
【0034】
前記ベンゾトリアゾールまたはその誘導体としては、例えばベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、ナトリウムベンゾトリアゾール、ナトリウムトリルトリアゾール、ベンゾトリアゾールブチルエステル、ナフトトリアゾール、クロロベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して本発明のプライマー組成物に用いることができる。
【0035】
本発明のプライマー組成物におけるベンゾトリアゾールまたはその誘導体の配合量は、(A)成分100重量部に対して0.1重量部以上であることが好ましく、より好ましくは1〜50重量部である。前記配合量が0.1重量部未満であると、上記本発明のプライマー組成物における接着性向上の効果が十分に現れない場合がある。
【0036】
本発明のプライマー組成物には、さらに、必要に応じて、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−プロピルチタネート等のチタン酸エステル化合物、チタンアセチルアセトネート等のチタンキレート化合物、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウム−sec−ブチレート等のアルミニウムアルコキシド、アルミニウムトリスアセチルアセトネート等のアルミニウムキレート化合物、ナフテン酸鉄、オクタン酸鉄等の鉄の有機酸塩等をプライマー組成物の乾燥、被膜形成の促進と接着対象物の接着性を向上させる目的で、(A)成分100重量部に対して0.1〜5重量部程度の量で配合してもよい。
【0037】
また、本発明のプライマー組成物には、その他任意成分として補強性充填剤、染料、顔料、耐熱性向上剤、酸化防止剤、接着促進剤等を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
【0038】
本発明のプライマー組成物の製造方法としては、(A)〜(D)成分の必須成分と上記任意成分の適当量を常温下で混合撹拌機により均一に混合する方法等が挙げられる。各成分の添加順序は、特に限定されるものではないが、(A)成分を(D)成分で希釈した後に、残りの(B)成分、(C)成分およびその他任意成分を添加することが好ましい。
【0039】
本発明のプライマー組成物は、付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物を、金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属または前記群より選ばれる2種以上からなる合金の表面に接着するために用いるプライマー組成物である。
【0040】
前記白金族金属とは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金の6つの金属である。これら白金族金属に上記金、銀を合わせた8つの金属が、本発明のプライマー組成物の適用対象であり、本明細書においては、これら8金属を「貴金属」ということもある。また、本発明のプライマー組成物の適用対象となる合金は、上記8つの金属から選ばれる2種以上からなる合金であり、いかなる組合せ、組成の合金の表面と付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物の接着に対しても本発明のプライマー組成物は適用可能である。なお、メッキや蒸着等により上記金属または合金層が基材表面に形成されているものも本発明のプライマー組成物の適用対象に含まれる。
これらのうちでも、本発明のプライマー組成物が好適に用いられるのは、金、銀、パラジウムから選ばれる金属、およびこれらの金属から選ばれる2種以上からなる合金の表面である。
【0041】
本発明において、プライマー組成物を介して前記貴金属またはこれらからなる合金の表面に接着する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とは、少なくとも、(i)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン、(ii)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンおよび(iii)白金系触媒を含有する付加反応硬化型シリコーン組成物を硬化させることによって得られる硬化物をいう。付加反応硬化型シリコーン組成物が含有するアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンおよびポリオルガノハイドロジェンシロキサンについては、用途によりそれぞれ、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンにおいては含有アルケニル基の種類、数や結合位置等、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンにおいてはケイ素に結合する水素原子の数や結合位置等、両化合物において重合度や架橋の度合等を調整して、所望の分子構造を公知の方法により適宜選択することが可能である。
【0042】
また、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンおよびポリオルガノハイドロジェンシロキサンの配合比についても同様に公知の方法により適宜選択可能である。白金系触媒の種類、使用量についても公知の技術を参照して適宜選択することができる。
ここで、本発明のプライマー組成物を用いた場合に、前記貴金属またはこれらからなる合金表面に対する接着効果が特に期待できる前記付加反応硬化型シリコーン組成物として例えば、以下のようなシリコーン組成物が挙げられる。
【0043】
(i)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとして、1分子中に平均0.5個以上、好ましくは2個以上のケイ素原子に結合した、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基等のアルケニル基、好ましくはビニル基を、少なくとも末端部に有するポリオルガノシロキサンを含有し、(ii)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンとして、1分子中に平均2個以上、好ましく3個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、この成分中のケイ素原子結合水素原子が前記(i)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して0.8〜20モル、好ましくは1〜10モルとなる量含有し、さらに(iii)白金系触媒を含有する付加反応硬化型シリコーン組成物。
【0044】
また、本発明のプライマー組成物は、導電性の付加反応硬化型シリコーン組成物硬化物と貴金属またはこれらからなる合金表面との接着について、適当な厚さのプライマー組成物被膜で良好な接着性が確保されることにより、導電性の付加反応硬化型シリコーン組成物硬化物と貴金属またはこれらからなる合金との導通が可能となるという利点を有することから、好ましく適用される。
導電性の付加反応硬化型シリコーン組成物として、具体的には、上記付加反応硬化型シリコーン組成物に、導電性材料、例えば、銀、銅、鉄、アルミニウム、ニッケルおよびカーボン、並びにこれらを表面処理した粉末の1種または2種以上を配合した組成物が挙げられる。付加反応硬化型シリコーン組成物への導電性材料の配合量は用途等により適宜調整されるが、具体的には、上記(i)成分の量に対して、100〜5000質量%程度の配合量を挙げることができる。
【0045】
なお、前記付加反応硬化型シリコーン組成物には、その他任意成分として、反応抑制剤、着色剤、難燃性付与剤、耐熱性向上剤、可塑剤、補強性シリカ、接着性付与剤等が用途に合わせて適宜適当量添加されていてもよい。
【0046】
本発明のプライマー組成物の使用については、通常付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物をプライマー組成物を介して各種基材に接着する際の使用方法と同様の方法で使用することが可能である。
具体的には、被着体である金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属または前記群より選ばれる2種以上からなる合金の表面を必要に応じて清浄にしてから、スピンナー等の塗布装置や噴霧器でプライマー組成物を被着体表面に塗布した後、加熱、風乾などによりプライマー組成物中の溶剤を揮発させ、好ましくは10μm以下、より好ましくは0.01〜1μmの被膜を形成する。プライマー組成物による被膜形成後、該被膜上に付加反応硬化型シリコーン組成物をディスペンサー等の通常の方法で塗布し、室温で放置又は加熱硬化させて、硬化物を得る。
【0047】
貴金属表面には置換基が極めて少なく、一般的なプライマー組成物を用いた場合には、付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物との接着が困難である。しかしながら、上記構成を有する本発明のプライマー組成物を使用すれば、貴金属類の表面と付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを強固に接着することが可能である。
【実施例】
【0048】
本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
[(A)成分:アクリル酸メチルとγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン共重合体の合成例]
アクリル酸メチル83重量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン17重量部、IPA(イソプロピルアルコール)と酢酸エチルの1:1混合溶剤200重量部、およびAIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)0.5重量部を、80℃で加熱しながら3時間混合攪拌し、本発明のプライマー組成物の(A)成分であるアクリル酸メチル/γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン共重合体を含有する溶液を調製した。なお、得られた共重合体の数平均分子量は200万であった。
【0049】
[実施例1]
上記合成例で調製したアクリル酸メチル/γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン共重合体含有溶液300重量部((A)成分:100重量部、溶剤((D)成分):200重量部)を、IPA、酢酸エチルおよびトルエンの3:1:1混合溶剤((D)成分)1800重量部で希釈した後、これにγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン((B)成分)25重量部、塩化白金酸のオクタノール溶液((C)成分、白金原子含有量1.8%)11重量部(白金原子の量として組成物全量に対して92ppm)、テトラ−n−ブチルチタネート11重量部を添加し、室温で30分間攪拌して、プライマー組成物を得た。
得られたプライマー組成物を用いて、図1に示すようなテストピースを作製し接着性および抵抗値を、以下のようにして評価した。結果を表1に示す。なお、表1に示した特性は、すべて23℃において測定した値である。
【0050】
[テストピースの作製]
図1に示す2枚の銅基板1、2(厚さ:1mm、サイズ:25mm×50mm)の全面に10μm厚の金メッキ層3、4を形成した。前記2枚の銅基板1、2の金メッキ層3、4上に、基板の片側短辺の端から10mm幅で上記で得られたプライマー組成物をディップによりそれぞれ塗布し、150℃で1時間放置して乾燥させてプライマー組成物被膜5、6(膜厚:10μm)を形成させた。
【0051】
ついで、前記銅基板1、2のそれぞれの金メッキ層3、4上のプライマー組成物被膜5、6上に導電性付加反応硬化型シリコーンゴム組成物(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名:SDC5003)を、重ね合わせた状態で得られる膜厚が1mmとなるように塗布した後、このシリコーンゴム組成物塗布部分を挟み込みむように2枚の基板を重ね合わせ、150℃で1時間の硬化処理を行い、接着面積25mm×10mm=250mm、1mm厚の導電性付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物7を形成させ、評価用のテストピース10とした。
【0052】
[抵抗値]
上記で得られたテストピースについて、銅基板1上の金メッキ層3の導電性付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物7で接着されていない側の端部と銅基板2上の金メッキ層4の導電性付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物7で接着されていない側の端部にクリップ付きテスター(アドバンテスト社製デジタルマルチメータR6581)の測定端子を設置して、電気抵抗値(Ω)を測定した。
【0053】
[接着性(せん断接着力)]
抵抗値測定後のテストピースについて、引っ張り試験機(島津製作所製、オートグラフ)を用いて、金メッキ層3、4付き銅基板1、2の導電性付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物7で接着されていない端部を外側に向けて水平方向(図1に示す矢印方向)に、引張速度10mm/分で引っ張り、接着部分がせん断破壊した時の単位面積あたりの力を測定しせん断接着力(MPa)とした。
【0054】
[実施例2]
実施例1において、さらに、ベンゾトリアゾール3重量部を最後に添加すること以外は、実施例1と同様にしてプライマー組成物を得た。
得られたプライマー組成物を用いて、上記実施例1と同様にしてテストピースを作製し接着性および抵抗値を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
実施例1において、合成例で調製したアクリル酸メチル/γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン共重合体含有溶液300重量部((A)成分:100重量部、溶剤((D)成分):200重量部)について、IPA、酢酸エチルおよびトルエンの3:1:1混合溶剤による希釈を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてプライマー組成物(溶剤含有量58質量%)を得た。
得られたプライマー組成物を用いて、上記実施例1のテストピース作製において、プライマー組成物被膜の膜厚を100μmとした以外は、実施例1と同様にしてテストピースを作製し接着性および抵抗値を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例1]
プライマー組成物を用いずに上記実施例1と同様にしてテストピースを作製し接着性および抵抗値を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例2]
エポキシ樹脂412重量部(ジャパンエポキシレジン社製、商品名エピコート)をIPAおよびトルエンの1:1混合溶剤2000重量部に十分に溶解させ、(B)γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン329重量部、ビニルトリエトキシシラン224重量部、(C)塩化白金酸のオクタノール溶液22重量部(白金原子の量として組成物全量に対して124ppm)、テトラ−n−ブチルチタネート208重量部を添加、攪拌し、プライマー組成物を得た。
得られたプライマー組成物を用いて、上記実施例1と同様にしてテストピースを作製し接着性および抵抗値を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例3]
実施例1において、(B)成分:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてプライマー組成物を得た。
得られたプライマー組成物を用いて、上記実施例1と同様にしてテストピースを作製し接着性および抵抗値を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から明らかなように、本発明のプライマー組成物を用いれば、導電性付加反応硬化型シリコーン組成物のゴム状硬化物と金メッキ表面を強固に接着することが可能である。また、本発明のプライマー組成物の膜厚を適度な厚さとして、これを介して導電性付加反応硬化型シリコーン組成物によって金メッキ基板を接着させれば、接着点での抵抗の発生がほとんどなく良好な導電性を維持しながらの接着が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例および比較例のプライマー組成物の評価に用いたテストピースを示す略図である。
【符号の説明】
【0062】
1,2…基板、3,4…金メッキ層、5,6…プライマー組成物被膜、
7…導電性付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物、10…評価用テストピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金、銀、および白金族金属からなる群より選ばれる金属または前記群より選ばれる2種以上からなる合金の表面と付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを接着させるプライマー組成物であって、
(A)(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシランと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、
(B)エポキシ基を有するアルコキシシラン、
(C)白金系触媒、
および
(D)溶剤
を含有することを特徴とするプライマー組成物。
【請求項2】
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100重量部に対して1〜50重量部であり、前記(C)成分の含有量が白金原子量として組成物全量に対して1〜1000ppmである請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項3】
さらに、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のプライマー組成物。
【請求項4】
前記ベンゾトリアゾールまたはその誘導体の含有量が、(A)成分100重量部に対して0.1重量部以上である請求項3に記載のプライマー組成物。
【請求項5】
前記ベンゾトリアゾールまたはその誘導体の含有量が、(A)成分100重量部に対して1〜50重量部である請求項4に記載のプライマー組成物。
【請求項6】
前記(D)成分の含有量が、組成物全量に対して70質量%以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載のプライマー組成物。
【請求項7】
前記付加反応硬化型シリコーン組成物が、導電性の付加反応硬化型シリコーン組成物である請求項1〜6のいずれか1項に記載のプライマー組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−144005(P2010−144005A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321130(P2008−321130)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】