説明

プラスチゾル用アクリル系樹脂及びプラスチゾル組成物

【課題】低粘度で貯蔵安定性、可塑剤保持性及び加熱成形後の機械的強度に優れたアクリルゾル組成物を与えるプラスチゾル用アクリル系樹脂を提供する。また、低粘度で貯蔵安定性、可塑剤保持性及び加熱成形後の機械的強度に優れるプラスチゾル組成物を工業的に利用可能なレベルで提供する。
【解決手段】アクリル系不飽和単量体、ラジカル重合開始剤、乳化剤及び乳化助剤を含む混合物と、水性媒体とを乳化し、それを微細懸濁重合して得られるプラスチゾル用アクリル系樹脂であって、前記乳化剤が、少なくとも1つの不飽和基を有する非イオン性乳化剤であり、且つ前記アクリル系不飽和単量体100質量部に対して0.5〜5質量部使用されることを特徴とするアクリル系樹脂とする。また、前記プラスチゾル用アクリル系樹脂と可塑剤とを含むことを特徴とするプラスチゾル組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチゾル用アクリル系樹脂及びプラスチゾル組成物に関し、詳しくはスプレッドコーティング、ディップ成形、スラッシュ成形及びスプレー塗装等の成形加工、自動車用アンダーコート、自動車用ボディーシーラー、カーペットバッキング材、床材並びに塗料等の分野で広く利用されるプラスチゾル用アクリル系樹脂及びプラスチゾル組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチゾル組成物は、熱可塑性樹脂粒子を可塑剤中に分散させた流動性のあるペースト状ゾルである。このようなプラスチゾル組成物は、成形性が良好であり、加熱することによって樹脂粒子と可塑剤とを融合させ、均質な成形品及び皮膜を提供することができる。中でも、塩化ビニル系樹脂を用いた塩化ビニルゾル組成物は、その成形性及び成形品や皮膜の優れた物性の観点から広く工業的に利用されている。
しかしながら、この塩化ビニルゾル組成物からなる成形品及び皮膜は、焼却時に塩化水素ガスが発生して焼却炉を著しく損傷させる上、毒性のダイオキシンも発生するので、近年、環境問題の観点から、塩化ビニルゾル組成物に代わるプラスチゾル組成物の開発が期待されている。そこで、このような問題を解決する代替材料として、アクリル系樹脂を用いたプラスチゾル組成物(アクリルゾル組成物)が提案されている。
【0003】
プラスチゾル組成物には、重要な性質として、適度に低粘度であることが要求される。プラスチゾル組成物は、一般的に、所定の可塑剤量の下で低粘度であるほど配合の自由度が高くて使いやすい。
ところが、アクリル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂よりも比重が小さい(例えば、塩化ビニル樹脂比重:1.4、メチルメタアクリレート樹脂比重:1.2)ので、所定の質量割合で混合したプラスチゾル組成物を調製すると、アクリル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂よりもプラスチゾル組成物中に占める樹脂体積が大きくなり、アクリルゾル組成物の粘度は、塩化ビニルゾル組成物の粘度よりも高くなる。そこで、塩化ビニルゾル組成物と同じ粘度のアクリルゾル組成物を得るためには、可塑剤量を15質量%程度多くすることが必要となるが、このような多量の可塑剤を含むアクリルゾル組成物においては、その成形品及び皮膜に可塑剤のブリードが生じ易くなってしまう。
従って、ブリードが生じないような量の可塑剤を含むアクリルゾル組成物において、アクリルゾル組成物の粘度を低減することが望まれている。
【0004】
アクリルゾル組成物の粘度を低下させる一般的な方法としては、アクリルゾル組成物の調製時に、アクリル樹脂の一部を粒子径の大きいアクリル樹脂(数十μmの粗粒樹脂)で置き換えること(特許文献1及び2)、可塑剤を増量すること、界面活性剤等のような粘度低下剤(特許文献3)を添加すること、及び加熱時に揮発する有機溶剤のような希釈剤を添加することがよく行われている。
しかしながら、粒子径の大きいアクリル樹脂(粗粒樹脂)で置き換える方法では、経時によってプラスチゾル組成物中で粗粒樹脂が沈降したり、成形品及び皮膜の表面状態が荒れたりする。また、可塑剤を増量する方法では、上記したように可塑剤のブリードが生じたり、成形品及び皮膜が不要なほど柔らかくなったり、成形品及び皮膜の機械的強度が低下したりする。また、粘度低下剤を添加する方法では、粘度低下剤の添加量が増えると、成形品の耐水性が悪化したり、成形品及び皮膜に粘度低下剤のブリードが生じたりする。また、希釈剤を添加する方法では、加熱時に希釈剤が揮発するので作業上好ましくなく、さらに希釈剤の一部が成形品及び皮膜中に残り、経時によって成形品及び皮膜に希釈剤のブリードが生じる。上記のように、アクリルゾル組成物の粘度を低下させる従来方法には、種々の問題があり、低粘度で貯蔵安定性、可塑剤保持性及び加熱成形後の機械的強度に優れたアクリルゾル組成物を得ることができなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平08−73601号公報
【特許文献2】特開平10−298391号公報
【特許文献3】特開2001−187834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、以上の背景のもとになされたものであり、その目的とするところは、低粘度で貯蔵安定性、可塑剤保持性及び加熱成形後の機械的強度に優れたアクリルゾル組成物を与えるプラスチゾル用アクリル系樹脂を提供することにある。
また、本発明の目的は、塩化ビニル重合体を含有せず、低粘度で貯蔵安定性、可塑剤保持性及び加熱成形後の機械的強度に優れたプラスチゾル組成物を工業的に利用可能なレベルで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、所定のアクリル系不飽和単量体、ラジカル重合開始剤、乳化剤及び乳化助剤を含む混合物と、水性媒体とを均質化して乳化液滴を形成させ、それを微細懸濁重合して得られるアクリル系樹脂が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、アクリル系不飽和単量体、ラジカル重合開始剤、乳化剤及び乳化助剤を含む混合物と、水性媒体とを乳化し、それを微細懸濁重合して得られるプラスチゾル用アクリル系樹脂であって、前記乳化剤が、少なくとも1つの不飽和基を有する非イオン性乳化剤であり、且つ前記アクリル系不飽和単量体100質量部に対して0.5〜5質量部使用されることを特徴とするプラスチゾル用アクリル系樹脂である。また、本発明は、前記プラスチゾル用アクリル系樹脂と可塑剤とを含むことを特徴とするプラスチゾル組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、所定のアクリル系不飽和単量体、ラジカル重合開始剤、乳化剤及び乳化助剤を含む混合物と、水性媒体とを均質化して乳化液滴を形成させ、それを微細懸濁重合することにより、低粘度で貯蔵安定性、可塑剤保持性及び加熱成形後の機械的強度に優れたアクリルゾル組成物を与えるプラスチゾル用アクリル系樹脂を提供することができる。
また、本発明によれば、塩化ビニル重合体を含有せず、低粘度で貯蔵安定性、可塑剤保持性及び加熱成形後の機械的強度に優れたプラスチゾル組成物を工業的に利用可能なレベルで提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のプラスチゾル用アクリル系樹脂は、所定のアクリル系不飽和単量体、ラジカル重合開始剤、乳化剤及び乳化助剤を含む混合物と、水性媒体とを乳化し、それを微細懸濁重合することによって得ることができる。
【0010】
本発明に用いるアクリル系不飽和単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−、i−、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;スルホン酸基又は硫酸エステル基を持つエチレン性不飽和単量体;シリコン変性単量体;グリシジル(メタ)アクリレート及びグリシジルアリルエーテル等のエポキシ基含有単量体;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド及びダイアセトンメタクリルアミド等のアミド基含有単量体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸及びクロトン酸等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で使用することができる。中でも、メチル(メタ)アクリレート単独、又はメチル(メタ)アクリレートを主成分とした不飽和単量体が好ましい。
【0011】
本発明に用いるラジカル重合開始剤としては、油溶性のラジカル重合開始剤が好ましい。このような油溶性重合開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド及びラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド;イソプロピルパーオキシジカーボネート及びジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート;t−ブチルパーオキシピバレート及びt−ブチルパーオキシネオデカノエート等のパーオキシエステル;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド及びジサクシニックアシッドパーオキシド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル及び2,2’−アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができ、その使用量は、使用する単量体の種類と量及び仕込方式等によって適宜選択されるが、通常、使用する単量体100質量部に対して、0.01〜5.0質量部の範囲である。
【0012】
本発明に用いる乳化剤としては、不飽和基を少なくとも1つ有する非イオン性乳化剤である。ここで、本発明の不飽和基としては、ビニル基、(メタ)アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、(メタ)アクリレート基及びマレイミド基等を挙げることができ、中でも重合安定性の観点から、ビニル基、(メタ)アリル基、1−プロペニル基及びイソプロペニル基が好ましい。
本発明の不飽和基を少なくとも1つ有する非イオン性乳化剤は、アクリル系不飽和単量体と共重合可能な重合性不飽和基、親水基(例えば、エチレンオキサイド基及び/又はプロピレンオキサイド基)及び疎水基(例えば、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基及びドデシル基等の直鎖アルキル基、2−エチルヘキシル基等の分枝アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基及びナフチル基等の芳香族置換基)を有する化合物である。このような不飽和基を少なくとも1つ有する非イオン性乳化剤は、アクリル系不飽和単量体の微細懸濁重合の際にアクリル樹脂中に組み込まれ、これによりアクリルゾル組成物の粘度が低下すると考えられる。
このような不飽和基を少なくとも1つ有する非イオン性乳化剤としては、例えば旭電化工業(株)により販売されている「アデカリアソープ NE−20、NE−30及びNE−40(不飽和基:アリル基、親水基:エチレンオキサイド基、疎水基:ノニルフェニル基)」や「アデカリアソープ ER−10、ER−20、ER−30及びER−40(不飽和基:アリル基、親水基:エチレンオキサイド基、疎水基:アルキル基)」、第一工業製薬(株)により販売されている「アクアロン RN−20、RN−30、RN−40及びRN−50(不飽和基:1−プロペニル基、親水基:エチレンオキサイド基、疎水基:アルキルフェニル基)」等を例示することができる。また、その使用量は、アクリル系不飽和単量体100質量部に対して0.5〜5.0質量部であり、1.0〜3.0質量部が好ましい。乳化剤の量が、アクリル系不飽和単量体100質量部に対して、0.5質量部未満であると、アクリルゾル組成物における粘度の低下がほとんど得られず、また5.0質量部を超えると、成形品や皮膜の耐水性が損なわれるおそれや、成形品や皮膜に可塑剤のブリードが生じるおそれがあるので好ましくない。
【0013】
また、必要に応じて、前記乳化剤とは異なる、別の乳化剤の1種又は2種以上を組み合わせて併用することもできる。このような乳化剤としては、例えばラウリル硫酸エステルナトリウム及びミリスチル硫酸エステルナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸カリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム及びジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸エステル塩類;ラウリン酸アンモニウム及びステアリン酸カリウム等の脂肪酸塩類;ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤類;ソルビタンモノオレート及びポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のソルビタンエステル類;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;ポリオキシエチレンアルキルエステル類等の親水性の非イオン性乳化剤類;セチルピリジニウムクロリド及びセチルトリメチルアンモニウムブロミド等のカチオン性乳化剤類等が挙げられる。また、この乳化剤の使用量は、アクリル系不飽和単量体100質量部に対して、0〜5.0質量部が好ましく、0〜2.0質量部がより好ましい。この乳化剤の量が、アクリル系不飽和単量体100質量部に対して、5.0質量部を超えると、成形品や皮膜の耐水性が損なわれるおそれや、成形品や皮膜に可塑剤のブリードが生じるおそれがあるので好ましくない。
【0014】
本発明において、微細懸濁重合前の乳化液滴を形成させる際に、乳化液滴の安定性を向上させるために乳化助剤を用いる。このような乳化助剤としては、例えば炭素数10〜24の高級アルコール及び脂肪酸、炭素数12〜20のアルキル基を有するソルビタンモノ、ジ又はトリアルキルエステル、炭素数12〜20のグリセロールモノアルキルエステル、並びに炭素数10〜24の塩素化パラフィン等の油溶性極性物質を挙げることができる。乳化助剤の添加量は、単量体100質量部に対して0.2〜5.0質量部であり、0.5〜2.0質量部が好ましい。乳化助剤の量が、アクリル系不飽和単量体100質量部に対して、0.2質量部未満であると、乳化液滴が不安定になって重合反応中に凝集するおそれがあり、また5.0質量部を超えると、成形品や皮膜に乳化助剤のブリードが生じ、外観を損なうおそれがあるので好ましくない。
【0015】
本発明のプラスチゾル用アクリル系樹脂は、上記原料を用いて微細懸濁重合により製造される。ここで、本発明における微細懸濁重合とは、得られる樹脂粒径が、乳化重合より大きく、また懸濁重合より小さい重合法であり、プラスチゾル用として好ましい樹脂粒径のアクリル系樹脂を得ることができる重合法である。すなわち、本発明の微細懸濁重合によって得られるプラスチゾル用アクリル系樹脂の平均粒径は、プラスチゾル組成物の粘度及び貯蔵安定性のバランスの観点から、0.5〜10μmの範囲であり、1〜5μmの範囲が好ましい。平均粒径が、0.5μm未満であると、プラスチゾル組成物の粘度が高くなって作業性が悪くなり、また10μmを超えると、経時によってプラスチゾル組成物中の樹脂粒子が沈降したり、加熱成膜性及び成形品外観が悪化したりするので好ましくない。ここで、本発明の平均粒径とは、レーザー回折散乱法を原理とする粒度分布測定装置(日機装(株)製:MICROTRAC HRA)によって測定された体積平均値から求められる数値である。
【0016】
本発明における微細懸濁重合では、アクリル系不飽和単量体、ラジカル重合開始剤、乳化剤及び乳化助剤を水性媒体中に添加し、該単量体を微細な乳化液滴となるように均一に分散し、加熱することにより単量体液滴内に溶解しているラジカル重合開始剤を分解してラジカルを発生させ、単量体液滴内でラジカル重合を進行させる。ここで、本発明において使用される水性媒体とは、通常、工業的に利用可能な水であり、好ましくは脱イオン水、純水である。
具体的な製造方法としては、アクリル系不飽和単量体、ラジカル重合開始剤、乳化剤、乳化助剤及び水性媒体等からなる混合液を、室温下で機械的な剪断によって均質な乳化液滴を形成させ、それを約30〜80℃に加熱して微細懸濁重合する事によって、約1〜5μmの粒子径のアクリル系樹脂分散液を得ることができる。ここで、機械的な剪断は、例えばホモミキサー、高圧ホモジナイザー及び超音波乳化装置等を使用することにより与えられるが、本発明では乳化液滴の大きさを制御しやすいことから、ホモミキサーを使用することが好ましい。ホモミキサーの回転数は、1000〜10000rpmが好ましく、3000〜7000rpmがより好ましい。回転数が1000rpm未満であると、剪断力が小さく、均質化が不十分であり、重合反応において樹脂が塊状化して粒子を安定に得ることができないおそれがあり、また10000rpmを超えると、重合で得られる粒子が細かくなりすぎ、プラスチゾル組成物の粘度が高くなるおそれがあるので好ましくない。また、機械的な剪断の処理時間は、5〜30分が好ましい。処理時間が5分未満であると、均質化が不十分となるおそれがあり、また30分を超えると、撹拌による熱で重合が始まるおそれがあるので好ましくない。
【0017】
微細懸濁重合によって得られたアクリル系樹脂分散液は、スプレードライ法及びパルスドライ法等により噴霧乾燥することによって、粉体化したアクリル系樹脂を得ることができる。ここで、噴霧乾燥時の温度は、100〜150℃で行うことが好ましい。噴霧乾燥温度が100℃未満であると、アクリル系樹脂中に水分が多く残るおそれがあり、また150℃を超えるとアクリル系樹脂粒子が乾燥機内面に融着するおそれがあるので好ましくない。
【0018】
このようにして得られた本発明のプラスチゾル用アクリル系樹脂は、本発明のプラスチゾル組成物の用途により異なるものの、50,000〜5,000,000、好ましくは100,000〜3,000,000の重量平均分子量を有する。重量平均分子量が50,000未満であると、アクリル系樹脂が可塑剤に容易に溶解して可塑剤の粘度が上昇する結果、プラスチゾル組成物の粘度が上昇するので好ましくない。一方、重量平均分子量が5,000,000を超えると、プラスチゾル組成物の加熱成膜性が低下するので好ましくない。ここで、重量平均分子量は、樹脂サンプル50mgをテトラヒドロフラン(THF)10mlに加え、室温で24時間溶解させ(不溶解分がある場合には、さらにこれを除去し)、THFを溶離液としてミックスゲルカラムを用いたGPCにより測定し、標準ポリスチレンの保持時間を参照することによって求めた値である。
【0019】
本発明のプラスチゾル用アクリル系樹脂は、可塑剤と組み合わせることによって、プラスチゾル組成物を調製することができる。すなわち、本発明のプラスチゾル組成物は、プラスチゾル用アクリル樹脂と可塑剤とを含むものである。
本発明において用いることができる可塑剤としては、本発明の効果を損なわないものであればよく、例えば、ジブチルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジオクチルフタレート、ジノニルフタレート、ブチルベンジルフタレート、オクチルベンジルフタレート、ジフェニルフタレート及びジベンジルフタレート等のフタル酸誘導体;ジ−(2−エチルヘキシル)アジペート及びジブトキシエチルアジペート等のアジピン酸誘導体;ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート及びジイソオクチルアゼレート等のアゼライン酸誘導体;ジ−n−ブチルセバケート及びジ−(2−エチルヘキシル)セバケート等のセバシン酸誘導体;ジ−n−ブチルマレエート及びジ−(2−エチルヘキシル)マレエート等のマレイン酸誘導体;ジ−n−ブチルフマレート及びジ−(2−エチルヘキシル)フマレート等のフマル酸誘導体;トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート及びトリ−n−オクチルトリメリテート等のトリメリット酸誘導体;テトラ−(2−エチルヘキシル)ピロメリテート及びテトラ−n−オクチルピロメリテート等のピロメリット酸誘導体;トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート及びアセチルトリ−(2−エチルヘキシル)シトレート等のクエン酸誘導体;ジブチルイタコネート及びジ−(2−エチルヘキシル)イタコネート等のイタコン酸誘導体;グリセリルモノオレエート及びジエチレングリコールモノオレエート等のオレイン酸誘導体;グリセリルモノリシノレート及びジエチレングリコールモノリシノレート等のリシノール酸誘導体;グリセリンモノステアレート及びジエチレングリコールジステアレート等のステアリン酸誘導体;ジエチレングリコールジペラルゴネート及びペンタエリスリトール脂肪酸エステル等のその他の脂肪酸誘導体;トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート及びジフェニルデシルホスフェート等のリン酸誘導体;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリプロピレングリコールジベンゾエート及びトリエチレングリコールジベンゾエート等のグリコール誘導体;グリセロールモノアセテート、グリセロールトリアセテート及びグリセロールトリブチレート等のグリセリン誘導体;エポキシブチルステアレート及びエポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル等のエポキシ誘導体;アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル及びフタル酸系ポリエステル等のポリエステル系可塑剤等を挙げることができる。これらの中で、ブチルベンジルフタレート及びオクチルベンジルフタレート等のフタル酸誘導体、トリクレジルホスフェート及びジフェニルデシルホスフェート等のリン酸誘導体、アセチルトリブチルシトレート及びトリブチルシトレート等のクエン酸誘導体、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリプロピレングリコールジベンゾエート及びジエチレングリコールジベンゾエート等のグリコール誘導体等が好ましい。これらの可塑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよく、また可塑剤に、ゴム及び樹脂等の高分子化合物を溶解させたものも使用することができる。
【0020】
可塑剤の配合量は、プラスチゾル用アクリル系樹脂100質量部に対して、60〜150質量部であり、70〜120質量部が好ましい。可塑剤の配合量が、60質量部未満であると、プラスチゾル組成物の粘度が高いおそれがあり、また150質量部を超えると、成形品及び皮膜の機械的特性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0021】
本発明のプラスチゾル組成物には、必要に応じて、二酸化チタン及びカーボンブラック等の顔料、炭酸カルシウム、マイカ及びタルク等の充填剤、アゾジカルボンアミドやアゾビスホルムアミド等のアゾ系発泡剤等の発泡剤、並びに陽イオン性及び非イオン性界面活性剤等の帯電防止剤等を添加することができる。
また、本発明のプラスチゾル組成物の調製方法としては、特に制限はなく、例えばアクリル系樹脂、可塑剤及び所望に応じて用いられる他の添加成分をディスパーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー及びインテンシブミキサー等の公知の混合機を用いて、十分に混合攪拌することによって調製することができる。
【0022】
このようにして得られた本発明のプラスチゾル組成物の粘度は、10Pa・s以下が好ましく、5Pa・s以下がより好ましい。粘度が10Pa・sを超えると、プラスチゾル組成物の流動性が十分ではなく、使用用途が限定されるので好ましくない。なお、プラスチゾル組成物の粘度は、一般的に10Pa・s以下であれば、多くの種類のゾル加工が可能であり、特に5Pa・s以下ではより応用範囲が拡大して塗布、注型及びディッピング等のほとんどの用途に使用可能となる。
また、本発明のプラスチゾル組成物の増粘率は、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。増粘率が20%を超えると、経時によるプラスチゾル組成物の粘度変化が大きくなり、十分な貯蔵安定性が得られないので好ましくない。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれらに何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例に用いたアクリル系樹脂、プラスチゾル組成物及び成形物の各物性は次の方法で測定した。
(1)平均粒子径
微細懸濁重合後のアクリル系樹脂分散液を用い、粒度分布測定装置(日機装(株)製:MICROTRAC HRA)によって体積平均粒子径を測定した。
(2)初期粘度
プラスチゾル組成物を恒温水槽で23℃に保温した後、BH型粘度計を用いて、回転数20rpmで1分後の粘度(単位:Pa・S)を測定した。
(3)貯蔵安定性
プラスチゾル組成物を40℃の恒温槽で保温し、1週間後に取り出して再び粘度を測定した。プラスチゾル組成物の増粘率(単位:%)は以下のようにして計算し、評価した。
{(貯蔵後粘度/初期粘度)−1}×100(%)
(4)引張強度及び引張伸度
プラスチゾル組成物を厚さ2mmのガラス板上にドクターナイフを用いて0.5mm厚に塗布し、180℃の熱風循環式オーブン中で10分間熱処理して皮膜を作製した。これをダンベル3号の形状に切り出し、テンシロン測定器により引張強度(MPa)及び引張伸度(%)を測定した。なお、引張速度は200mm/分とした。
(5)ブリード
(4)により作製された皮膜を23℃、湿度60%の室内に1週間放置した後、皮膜表面ににじみ出た可塑剤を目視で観察し、ブリード性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:ブリードが見られない。
×:ブリードが見られる。
【0024】
実施例及び比較例に用いたプラスチゾル用アクリル系樹脂は以下の方法で調製した。
[アクリル系樹脂(樹脂A)の調製]
ステンレス製容器に、アクリル系不飽和単量体としてメチルアクリレート100質量部、ラジカル重合開始剤としてラウロイルパーオキシド0.5質量部、乳化助剤としてステアリルアルコール1.5質量部、不飽和基を有する非イオン性乳化剤としてアデカリアソープ NE−30(旭電化工業(株)製)2.0質量部、アニオン性乳化剤のジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製:ペレックスOT−P)0.5質量部、及び脱イオン水150質量部を添加し、その混合物を、ホモミキサー(特殊機器(株)製:T.Kホモミキサー)を用いて、室温下、5000rpmで10分間、均質処理を行うことによって微細な乳化液滴を得た。その乳化液滴を、撹拌翼、温度計、冷却管及び窒素通気管を装着した1リットルの4つ口フラスコに移送し、内温が65℃になるように昇温した後、4時間、微細懸濁重合を行い、アクリル系樹脂分散液を得た。なお、得られた分散液の不揮発分は41.0%であり、樹脂粒子の平均粒子径は2.2μmであった。次に、このアクリル系樹脂分散液を、スプレードライヤーを用いて粉体化することによって、残存水分率が1.0質量%未満の乾燥したアクリル系樹脂(樹脂A)を得た。
【0025】
[アクリル系樹脂(樹脂B)の調製]
不飽和基を有する非イオン性乳化剤としてアクアロンRN−30(第一工業製薬(株)製)1.0質量部を用いた以外は、樹脂Aの調製と同様に重合反応を行い、アクリル系樹脂分散液を得た。得られた分散液の不揮発分は41.2%であり、樹脂粒子の平均粒子径は2.5μmであった。次に、このアクリル系樹脂分散液を、樹脂Aの調製と同様の方法で粉体化することによって、アクリル系樹脂(樹脂B)を得た。
【0026】
[アクリル系樹脂(樹脂C)の調製]
アクリル系不飽和単量体成分としてメチル(メタ)アクリレート95質量部及びグリシジル(メタ)アクリレート5質量部を用いた以外は樹脂Aの調製と同様に重合反応を行い、アクリル系樹脂分散液を得た。得られた分散液の不揮発分は41.1%であり、樹脂粒子の平均粒子径は2.5μmであった。次に、このアクリル系樹脂分散液を、樹脂Aの調製と同様の方法で粉体化することによって、アクリル系樹脂(樹脂C)を得た。
【0027】
[アクリル系樹脂(樹脂D)の調製]
樹脂Aの調製において、アデカリアソープ NE−30の代わりにアデカリアソープ NE−40(旭電化工業(株)製)3.0質量部に変更し、またアニオン性乳化剤のジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製:ペレックスOT−P)を用いないこと以外は樹脂Aの調製と同様に重合反応を行い、アクリル系樹脂分散液を得た。得られたアクリル系樹脂分散液の不揮発分は41.1%であり、樹脂粒子の平均粒子径は3.5μmであった。次に、このアクリル系樹脂分散液を樹脂Aの調製と同様の方法で粉体化することによって、アクリル系樹脂(樹脂D)を得た。
【0028】
[アクリル系樹脂(樹脂E)の調製]
樹脂Aの調製において、アデカリアソープ NE−30の代りに、不飽和基を有する乳化剤として、アニオン性のアデカリアソープ SE−10N(旭電化工業(株)製、不飽和基:アリル基)2.0質量部を用いた以外は樹脂Aの調製と同様に重合反応を行い、アクリル系樹脂分散液を得た。得られた分散液の不揮発分は40.8%であり、樹脂粒子の平均粒子径は2.9μmであった。次に、このアクリル系樹脂分散液を、樹脂Aの調製と同様の方法で粉体化することによって、アクリル系樹脂(樹脂E)を得た。
【0029】
[アクリル系樹脂(樹脂F)の調製]
樹脂Aの調製において、アデカリアソープ NE−30(旭電化工業(株)製)の2.0質量部を0.4質量部に変更した以外は樹脂Aの調製と同様に重合反応を行い、アクリル系樹脂分散液を得た。得られた分散液の不揮発分は40.5%であり、樹脂粒子の平均粒子径は3.2μmであった。次に、このアクリル系樹脂分散液を、樹脂Aの調製と同様の方法で粉体化することによって、アクリル系樹脂(樹脂F)を得た。
【0030】
[アクリル系樹脂(樹脂G)の調製]
樹脂Aの調製において、アデカリアソープ NE−30(旭電化工業(株)製)の2.0質量部を8.0質量部に変更した以外は樹脂Aの調製と同様に重合反応を行い、アクリル系樹脂分散液を得た。得られた分散液の不揮発分は42.0%であり、樹脂粒子の平均粒子径は1.8μmであった。次に、このアクリル系樹脂分散液を、樹脂Aの調製と同様の方法で粉体化することによって、アクリル系樹脂(樹脂G)を得た。
【0031】
[アクリル系樹脂(樹脂H)の調製]
樹脂Aの調製において、アデカリアソープ NE−30の代わりに、不飽和基を持たない非イオン性の乳化剤エマルゲンLS−110(花王(株)製)2.0質量部用いた以外は樹脂Aの調製と同様に重合反応を行い、アクリル系樹脂分散液を得た。得られたアクリル系樹脂分散液の不揮発分は41.0%であり、樹脂粒子の平均粒子径は2.0μmであった。次に、このアクリル系樹脂分散液を樹脂Aの調製と同様の方法で粉体化することによって、アクリル系樹脂(樹脂H)を得た。
【0032】
[アクリル系樹脂(樹脂I)の調製]
樹脂Aの調製において、乳化助剤を用いないこと以外は樹脂Aの調製と同様に重合反応を行い、アクリル系樹脂分散液を得た。得られたアクリル系樹脂分散液の不揮発分は36.5%であり、樹脂粒子の平均粒子径は11.2μmであった。次に、このアクリル系樹脂分散液を樹脂Aの調製と同様の方法で粉体化することによって、アクリル系樹脂(樹脂I)を得た。
【0033】
[プラスチゾル組成物の調製]
実施例1〜8及び比較例1〜7について、表1に示した各配合成分を計量し、ディスパーミキサーによって攪拌し、さらに減圧脱泡することによって均一なプラスチゾル組成物を得た。得られた各プラスチゾル組成物において、初期粘度及び貯蔵安定性のようなゾル物性、並びに加熱成形皮膜の引張強度、引張伸度及びブリード性のような皮膜物性の評価を行った。これらの評価結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
本発明のアクリル系樹脂(樹脂A〜D)を用いて調製した実施例1〜8のプラスチゾル組成物は、初期粘度が低く、且つ貯蔵安定性も良好であった。また、前記プラスチゾル組成物からなる皮膜は、引張強度及び引張伸度が十分に大きく、ブリードも見られなかった。これに対し、比較例1、2及び4〜6のプラスチゾル組成物は、初期粘度がいずれも高かった。また、比較例3のプラスチゾル組成物は、初期粘度及び貯蔵安定性は良好であったが、皮膜に可塑剤のブリードが見られ、比較例7のプラスチゾル組成物は、初期粘度は良好であったが、アクリル系樹脂の平均粒径が大きいために、経時によって樹脂粒子が沈降し、プラスチゾル組成物が分離してしまった。
従って、本発明のプラスチゾル用アクリル系樹脂は、低粘度で貯蔵安定性、可塑剤保持性及び加熱成形後の機械的強度に優れたアクリルゾル組成物を与えるものである。また、このようなプラスチゾル用アクリル系樹脂を用いたプラスチゾル組成物は、低粘度で貯蔵安定性、可塑剤保持性及び加熱成形後の機械的強度に優れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系不飽和単量体、ラジカル重合開始剤、乳化剤及び乳化助剤を含む混合物と、水性媒体とを乳化し、それを微細懸濁重合して得られるプラスチゾル用アクリル系樹脂であって、
前記乳化剤が、少なくとも1つの不飽和基を有する非イオン性乳化剤であり、且つ前記アクリル系不飽和単量体100質量部に対して0.5〜5.0質量部使用されることを特徴とする前記プラスチゾル用アクリル系樹脂。
【請求項2】
前記不飽和基が、ビニル基、(メタ)アリル基、1−プロペニル基及びイソプロペニル基からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のプラスチゾル用アクリル系樹脂。
【請求項3】
前記乳化助剤が、アクリル系不飽和単量体100質量部に対して0.2〜5質量部使用されることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチゾル用アクリル系樹脂。
【請求項4】
平均粒径が0.5〜10μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラスチゾル用アクリル系樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のプラスチゾル用アクリル系樹脂と可塑剤とを含むことを特徴とするプラスチゾル組成物。
【請求項6】
前記可塑剤が、プラスチゾル用アクリル系樹脂100質量部に対して60〜150質量部使用されることを特徴とする請求項5に記載のプラスチゾル組成物。

【公開番号】特開2006−77083(P2006−77083A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260967(P2004−260967)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】