説明

プラスチックのための離型剤

モノ−又はジ−アルキル置換リン酸のアルキルアミノ塩を離型剤としてポリマーにおいて使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はプラスチックのための内部離型剤に関する。内部離型剤とは、重合が完了したプラスチック成形体が金型に付着するのを防ぐ材料又は材料混合物であると理解される。
【0002】
先行技術
適当なモノマー及び/又はモノマー混合物(これは予備重合されてシロップとして存在していてもよい)をガラス板、例えばフロートガラスからなる壁を有するセル中で重合することによりプラスチックシートを製造することは公知である。
【0003】
通常、ガラス板はセルの底部及び天井を形成し、前記セルは適当な手段、例えばモノマーに対して安定な材料から成る柔軟性ビーズ又はテープにより側面で封止される。
【0004】
生成物はRoehm GmbH & Co. KGからプレキシグラス(Plexiglas)(登録商標)GSの商品名で市販されている。
【0005】
注型重合の際の公知の問題は、ガラスの破損である。ガラスの破損とは、重合が完了したプラスチック成形体を離型する際のガラス板の破損であると解釈される。ガラスが破損した際にはフロートガラスから成るガラス板を交換するだけでなく、生じたガラス破片を製造装置から手で取り除かねばならない。更に、PMMA欠陥品が生じる。製造は停止する。ガラスの破損を回避する多数の可能性が公知である。
【0006】
DE19832018には、ガラスから成る内部表面を有する金型のシラン処理のための方法が記載されている。ガラス板のシラン処理は、シラン化剤を含有する重合性材料の重合により成功する。そのようにして得られるポリマーシートは再利用され、シラン処理されたガラス板は重合のために使用される。
【0007】
例えばUS−PS3935292には、ガラスから成る内部表面を有する金型をシリコーン油で処理することができることが記載されている。このために、ガラス表面をシリコーン油でコーティングし、次いで150〜350℃に加熱する。シリコーン油のあり得る過剰を使用前に除去する。
【0008】
前記方法は多数の欠点を有する。
【0009】
まず第一に、ガラス板とプラスチックとの間の付着性を変化させることができない。これにより、ガラス板の取扱いの際に問題が生じるだけでなく、ほぼ自然に金型から滑り出るプラスチックシートの離型の制御が困難となる。従って、そのようにシラン処理されたガラス板の使用は、作業安全性の理由から問題がある。ここで、比較的少量のポリシロキサンを使用してもこの問題の解決にはならないことに留意しなければならない。なぜならば、完全な、即ち閉じたポリシロキサン層が必要であるためである。さもなければ層は比較的急速に剥離されるであろう。上記の方法は特にコンタクトレンズの製造に役立つ。そのような小さな成形体の製造の際には前記の考察はほぼ重要ではない。これに対して、約2m×3m×1cmのサイズのプラスチックシートは少なからぬ質量を有しているため、前記の議論を無視することはできない。
【0010】
付着性が低すぎることにより生じ得るもう1つの欠点は、用いられる重合法に依っては、得られるPMMAシートが平滑な表面を有していないという点にある。水浴中での重合の際、いわゆる柔軟性ビーズが予備重合の後に除去されるため、収縮によってプラスチックがガラス板から剥がれることはない。金型のガラス板へのプラスチックの付着性が低すぎる場合、水がガラス板とプラスチックとの間に浸入することができ、これは平滑な表面を妨げ、かつ欠陥品を招く。更に、前記方法は非連続的であり、即ち、ガラス板のシラン処理のためには付加的な装置又は運転場所を提供しなければならない。これにより生じる他の欠点は、シラン処理されたガラス板の導入のために必要な製造の中断において認めることができる。
【0011】
前記のガラスの破損を回避するために、重合すべきモノマー混合物に内部離型剤を添加し、この離型剤はガラスへのプラスチック成形体の強度の強すぎる付着性を回避するはずである。
【0012】
Axel社は離型剤を製造しており、PMMAの重合のための鋳込法における内部離型剤として使用するためにMold Wiz int AM 121の商品名で市販されている。
【0013】
前記の薬剤は、ベンジルアルコール中に溶解された(65モル%)トリエチルアミン及びモノ−及びジ(オクチル/デシル/ドデシル)ホスフェート(含分:約12モル%)及びイソプロピル脂肪酸エステル(含分:約11モル%)から成る。
【0014】
背景技術の欠点
市販の離型剤の欠点は、高価でかつ酸化に敏感なベンジルアルコールの含分が高いことである。
【0015】
課題及び解決
従って、可溶化剤ベンジルアルコール及びその欠点のない内部離型剤を見出すという課題が存在する。
【0016】
内部離型剤は、先行技術において公知である外部離型剤と比較して、極めて低い濃度で重合すべきモノマー混合物に添加することができるという利点を有する。
【0017】
費用のかかる処理工程、例えばガラス板への離型剤の塗布は省略可能である。
【0018】
更に、見い出すべき離型剤は毒物学的な懸念のないものが有利である。更に、離型剤は良好に計量供給可能であるのが有利である。
【0019】
解決
重合性モノマー混合物において0.001〜0.5質量%の量で使用される、一般式I
【0020】
【化1】

[式中、
n=1又は2であり、
m=2又は1かつn+m=3であり、
m=1である場合、アニオンは一価の負の電荷を有しており、
m=2である場合、アニオンは二価の負の電荷を有しており、
=メチル、エチル、プロピル、イソ−プロピル、ブチル、イソ−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルであり、
=メチル、エチル、プロピル、イソ−プロピル、ブチルである]
の化合物が良好な分離作用を示すことが見出された。
【0021】
重合モノマー混合物として、メチルメタクリレート及びMMAと共重合可能なモノマーが該当する。重合性モノマー混合物は、エチレン性不飽和モノマー及び/又は予備重合されたモノマー(シロップ)を有するtert.組成物である。有利に前記組成物は、いわゆる有機ガラス又は人工ガラスの製造のために適当なモノマー又はシロップを有する。
【0022】
重合性モノマー混合物中に含まれていてよい上記のエチレン性不飽和モノマーには、とりわけビニルエステル、アクリル酸のエステル、例えばメチル−及びエチルアクリレート、メタクリル酸のエステル、例えばメチルメタクリレート、ブチルメタクリレート及びエチルヘキシルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン、アルキル置換基を側鎖中に有する置換スチレン、例えばα−メチルスチレン及びα−エチルスチレン、アルキル置換基を環上に有する置換スチレン、例えばビニルトルエン及びp−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、例えばモノクロロスチレン、ジクロロスチレン、トリブロモスチレン及びテトラブロモスチレン、ビニル−及びイソプロペニルエーテル、マレイン酸誘導体、例えば無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸、マレインイミド、メチルマレインイミド及びジエン、例えば1,3−ブタジエン及びジビニルベンゼンが含まれ、アクリルエステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン置換スチレン、ビニルエーテル、イソプロペニルエーテル及びジエンは有利であり、メチルメタクリレートは極めて特に有利である。
【0023】
本発明による方法の極めて特に有利な実施態様は、重合性材料として、以下の組成:
(メタ)アクリレート(A) 20〜99.9質量%
コモノマー(B) 0〜79.9質量%
(A)又は(B)中で可溶性のポリマー(C) 0〜70.0質量%
及び上記成分100部に対して
開始剤 0.005〜5質量部
並びに他の慣用の加工助剤 0〜10質量部
を有する(メタ)アクリレート含有樹脂を使用することを特徴とする。
【0024】
(メタ)アクリレートとは、例えば上記のようなアクリル−及び/メタクリル化合物を指す。コモノマーは(メタ)アクリレートと共重合可能な化合物である。これにはとりわけ(メタ)アクリレート以外の上記モノマーが含まれる。重合性材料中に溶解されて含まれていてよいポリマーは、例えば上記のモノマー成分のポリマー又はコポリマーである。開始剤及び加工助剤は以下に記載される。
【0025】
上記のモノマーは混合物としても予備重合された形でいわゆるシロップとしても使用することができる。
【0026】
上記の全てのモノマーは市販されている。しかしながら上記の全てのモノマーを当業者に公知の全ての方法で製造することもできる。
【0027】
重合性材料は慣用の添加剤を含有してよい。
【0028】
例示的に以下の添加材料が挙げられる:静電防止剤、酸化防止剤、他の離型剤、難燃剤、滑剤、着色剤、流動改善剤、充填剤、光安定剤及び有機リン化合物、例えばホスファイト又はホスホネート、顔料、耐候安定剤及び可塑剤。
【0029】
添加材料は慣用の量で、即ち全材料に対して80質量%まで、有利に30質量%まで使用される。量が全材料に対して80質量%を上回る場合、重合性材料の特性、例えば加工性が損なわれ得る。
【0030】
本発明によれば、重合性材料は少なくとも部分的に無機ガラスから成る内部表面を有する金型に鋳込まれる。
【0031】
金型とは、通常使用される全ての金型であると解釈することができる。この金型は種々の部分から構成されていてよく、その際、金型の一部分はガラス表面を有する。「少なくとも部分的」という概念は、ガラス表面の割合が金型の全内部表面に対して少なくとも10%、有利に30%を上回って、極めて特に有利に80%を上回っていることを意味する。ガラス表面の割合が10%より小さい場合、ガラスの破損の低下から生じる本発明による利点が損なわれ得る。
【0032】
有利な金型は、例えば2枚のガラス板、天板及び底板を含み、これらは例えばテープ又は柔軟性ビーズのような適当な措置で側面で封止されかつ分離される。ガラス板は例えば金属クランプを用いて結束することができ、例えば2m×3mの面積及び約2〜20mm、有利に3〜12mmの厚さを有する。更に、層状構造を有するいわゆる多重セル、特に二重セルも公知であり、その際、中央のガラス板は両面で重合性材料と接触している。
【0033】
金型材料のための無機ガラスには、特に例えば、二酸化ケイ素(SiO)、酸化カルシウム(CaO)、部分的に比較的多量の三酸化ホウ素(B)を有する酸化ナトリウム(NaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化鉛(PbO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化バリウム(BaO)、酸化カリウム(KO)及び他の添加剤を含有していてよい冷却された溶融物が含まれる。
【0034】
金型の充填の後、重合性材料を重合し、成形体を得る。重合とは、ここでは塊状で行われる当業者に公知の全ての方法、例えばHouben-Weyl、E20巻、第2部(1987)、第1145頁以降に記載されている塊状重合であると解釈することができる。
【0035】
重合はラジカル並びにイオンにより行われてよく、その際、ラジカル重合は有利である。ラジカル重合は熱的に、照射により、及び開始剤により行われてよく、その際有利にラジカルを形成する開始剤が使用される。重合のそれぞれの条件は選択されたモノマー及び開始剤系に依存し、かつ当業者に広く公知である。
【0036】
有利な開始剤には、とりわけ当業者に広く公知であるアゾ開始剤、例えばAIBNないし1,1−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、並びにペルオキシ化合物、例えばメチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、tert.−ブチルペルオキシベンゾエート、tert.−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ビス(2−エチルヘキサノイル−ペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン、tert.−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert.−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、1,1−ビス(tert.−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(tert.−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、クミルヒドロペルオキシド、tert.−ブチルヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ビス(4−tert.−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、上記化合物の2種又はそれ以上の相互の混合物並びに上記化合物と上記されていない同様にラジカルを形成し得る化合物との化合物が含まれる。
【0037】
成形体が得られた後、この成形体を離型する、即ち成形体を金型から取り出す。前記の工程は使用される金型に依存し、かつ当業者に自体公知である。
【0038】
ここで更に、例えばモノ−(30〜35質量%)及びジ−(65〜70質量%)ノニルホスフェートから成る混合物と純粋な材料として使用されたトリエチルアミンとからの反応生成物は、卓越した分離作用を示すことが見い出された。更に、本発明による生成物は酸安定性であり、この特性によって、酸性成分、例えばメタクリル酸、アクリル酸又はステアリン酸を含有する配合物における本発明による生成物の使用が可能となる。
【0039】
離型剤としての本発明による化合物の使用
本発明による化合物はMMAの注型重合の際の離型剤として適当である。本発明による化合物は製造すべき混合物の全質量に対して0.001〜7.5質量%の量で、有利に0.005〜5質量%の量で、極めて特に有利に0.01〜5質量%の量で使用される。
【実施例】
【0040】
1.本発明による生成物の製造
モノ−(30〜35質量%)及びジ−(65〜70質量%)ノニルホスフェートから成る混合物(Zelec(登録商標)UN、製造者:DU PONT)1600gを反応フラスコに装入し、トリエチルアミン492.3gを撹拌しながら滴加する。この発熱反応の際に温度が>50℃に達する。滴加の後、更に30分間後撹拌する。澄明なわずかに黄色がかった反応生成物が得られる。
【0041】
2.メチルメタクリレート(MMA)−PMMA−シロップの製造
MMAをビス(4−tert.−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.07質量%と混合し、撹拌しながら溶解させる。溶液の50%を撹拌しながら約90℃に加熱する。溶液の他の50%を、温度が93℃を超えないようにして、加熱溶液に注ぐ。その後、更に約2〜3分後反応させ、その後MMA−PMMA−シロップを室温に急速に冷却する。シロップのポリマー割合は約20%であり、これは約170000の分子量を有する。
【0042】
離型剤としての本発明による生成物の使用のための例
実施例1:
寸法40×50cmのシリケートガラス板2枚と厚さ3.6mmの球形のPVCビーズとを用いてセルを組み立て、これを金属クランプを用いて結束する。このセルの内部空間内に以下の重合混合物を充填した:
本発明による式Iの化合物0.05質量%、但し、
n=2
m=1
=メチル、
=エチル、
2,2−アゾビス−(イソブチロニトリル) 0.08質量%
MMA−PMMA−シロップ 99.87質量%
添加物を撹拌しながらMMA−PMMA−シロップ中に溶解させる。セルを封止した後、重合を水浴中で45℃で17h実施する。その後、金属クランプ及び球形ビーズを取り除き、セルを115℃で3h調温炉中で完全に重合させる。室温に冷却した後、ガラス板を取り除き、ガラス板からのアクリルシートの離型を評価した。
【0043】
実施例2:(比較例)
実施例1と同様に処理したが、但し本発明による化合物を添加しなかった。
【0044】
結果:
1.金型のシリケートガラス板からのアクリルシートの離型性の評価
実施例1:
球形ビーズの除去の間、アクリルシートの2/3が金型のガラスから剥がれる。調温炉からの取り出しの後に、アクリルシートの残りの1/3が自然とシリケートガラスから剥がれる。
【0045】
実施例2:(比較例)
調温炉からのセルの取り出しの後に、2枚のシリケートガラス板をアクリルシートから離型したが、その際、典型的なひび割れが認められ、これはシリケートガラス板へのアクリルシートの明らかな付着を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルメタクリレート混合物の注型重合の際の離型剤としての、化合物
【化1】

[式中、
=メチル、エチル、プロピル、イソ−プロピル、ブチル、イソ−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルであり、
=メチル、エチル、プロピル、イソ−プロピル、ブチルであり、
n=1又は2であり
m=2又は1である]
の使用。
【請求項2】
離型剤としての、重合性モノマー又はモノマー混合物の質量に対して0.01〜5.0質量%の量での式Iの化合物の使用。
【請求項3】
式Iの化合物を使用して製造されたプラスチック成形体。

【公表番号】特表2007−500613(P2007−500613A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521399(P2006−521399)
【出願日】平成16年4月13日(2004.4.13)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003868
【国際公開番号】WO2005/021228
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(390009128)レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (293)
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】