説明

プラスチックレンズの製造方法およびプラスチックレンズ

【課題】プラスチックレンズ製造のコスト低減を図ることができるとともに、環境負荷も低いプラスチックレンズの製造方法およびその方法で得られたプラスチックレンズを提供する。
【解決手段】
プラスチックレンズ成形用として用いられる一対の型1を所定間隔離間させて対向配置させ、一対の型1の間にプレポリマーPを載置し、前記プレポリマーPを重合させるプラスチックレンズの製造方法であって、プレポリマーPは、25℃において50Pa・s以上10000Pa・s以下の粘度を有し、一対の型1の間に載置されるプレポリマーPの体積を、一対の型1により作られる空間の体積よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズの製造方法およびその方法で得られたプラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡用のレンズとして、軽くて透明度の高いプラスチックレンズが多く用いられている。眼鏡用のプラスチックレンズを製造する方法としては、レンズの眼球側の面及び物体側の面の形状に応じた一対の成形型を用意し、この成形型を組み合わせて形成されるキャビティ内に重合性の原料組成物を注入して重合(硬化)を行う、いわゆる注型重合が一般的である。たとえば、図1(A),(B)に示すような方法が知られている(特許文献1参照)。この方法によれば、まず、一対のガラス製の成形型11,12を対向配置させ、その外周面を粘着テープ4で固定したものを用意する。次に、対向配置された成形型11,12及び粘着テープ4で構成されるキャビティCの内部にノズル5を差し込み、重合性の原料組成物を注入する。その後、熱または紫外線により原料組成物を重合させることで、所定形状のプラスチックレンズが形成される。このプラスチックレンズは、ハードコート処理や反射防止処理など、各種の表面処理を行った後、いわゆる玉型加工により眼鏡フレームに合った形状に切削される。
【0003】
【特許文献1】特開2006−215217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなプラスチックレンズの製造方法では、玉型加工における切削により大量の切削屑が生じることとなる。重合後のプラスチックレンズは、架橋体であり、リサイクルはできず、このような大量の切削屑は廃棄する以外にない。従って、製造コストの面から問題がある。特に近年、プラスチックレンズの高屈折率化に伴い、原料として特殊なモノマーを使用することも多く、より製造コストが高くなっているため、問題が大きい。また、切削屑を大量に廃棄することから環境負荷の面でも問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、プラスチックレンズ製造のコスト低減を図ることができるとともに、環境負荷も低いプラスチックレンズの製造方法およびその方法で得られたプラスチックレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプラスチックレンズの製造方法は、プラスチックレンズ成形用として用いられる一対の型を所定間隔離間させて対向配置させ、前記一対の型の間にプレポリマー組成物を載置し、前記プレポリマー組成物を重合させるプラスチックレンズの製造方法であって、前記プレポリマー組成物は、25℃において50Pa・s以上10000Pa・s以下の粘度を有し、前記一対の型の間に載置される前記プレポリマー組成物の体積を、前記一対の型を対向配置させることにより作られる空間体積よりも小さくすることを特徴とする。
【0007】
このような本発明によれば、レンズ成形用の一対の型により形成されるキャビティ内に、所定の粘度を有するプレポリマー組成物が載置される。このプレポリマー組成物は、25℃において50Pa・s以上10000Pa・s以下の粘度を有するので、通常の注型重合におけるモノマー組成物と異なって適度の形状保持性を有する。それ故、レンズ成形用の一対の型内で所定の形状を保つことが可能である。そして、そのプレポリマー組成物の体積を、一対の型を対向配置させることにより作られる空間の体積よりも小さい体積とする。以下、プレポリマー組成物の体積が、一対の型を対向配置させることにより作られる空間の体積よりも小さい状態を飢餓状態と書く。このような飢餓状態としても、プレポリマー組成物の粘度が十分に高いので、レンズ成形型内を流れてしまうことがない。
【0008】
それ故、プラスチックレンズを製造するための原料を大幅に削減することができる。すなわち、本発明におけるプレポリマー組成物は、重合後の状態であってもレンズ成形用の一対の型を対向配置させることにより作られる空間に満杯状態で存在することがない。それ故、レンズを型から取りだして玉型加工を行う際に切削屑の量を大幅に削減できるとともに、環境負荷も大幅に低減できる。また、レンズ表面にハードコート層や反射防止層等を形成する場合は、その処理面積が小さくなるため表面処理のコスト面でも有利である。
【0009】
さらに、本発明におけるプレポリマー組成物は、所定の粘度を有し形状保持性を備えるので自在に形状を設定でき、所望の形状を有するプラスチックレンズを容易に製造することができる。例えば、載置するプレポリマー組成物の形状により、フィニッシュトレンズやセミフィニッシュトレンズを直接製造することも可能である。それ故、一般的な形状の眼鏡レンズだけでなく、カニ目タイプの眼鏡レンズなど種々のレンズ形状に容易に対応できる。
【0010】
本発明では、前記一対の型の少なくとも一方の型の表面に前記プレポリマー組成物を載置した後、前記プレポリマー組成物を挟んで前記一対の型を互いに押圧し、前記空間を形成することが好ましい。
この発明によれば、少なくとも一方の型の表面にプレポリマー組成物をいったん載置した後、一対の型をプレポリマー組成物を挟んで互いに押圧するので、プレポリマー組成物を充填した状態のレンズ成形型を容易に形成できる。
【0011】
本発明では、前記プレポリマー組成物が載置される型は凹面状の表面を有し、前記凹面状の表面が上を向いた状態で前記表面に前記プレポリマー組成物を載置することが好ましい。
本発明におけるプレポリマー組成物は適度の粘度を有しており形状保持性に優れてはいるが、流動性が全くないわけではない。それ故、該組成物を載置する面が上下方向に対して水平ではなく例えば斜めであったりすると、載置した位置から該組成物が大きく移動してしまうおそれもある。しかしながら、この発明によれば、該組成物が載置される型は凹面状の表面を有し、この凹面状の表面が上を向いた状態で前記表面に該組成物が載置されるので、該組成物を、載置された位置に実質的に安定して固定できる。
【0012】
本発明のプラスチックレンズは、上述したいずれかの製造方法により製造されたことを特徴とする。
本発明のプラスチックレンズによれば、上述したいずれかの製造方法により製造されているので、玉型加工を省略できるか、あるいはわずかな玉型加工を行うだけでよいので、最終的なレンズの製造コストを大幅に削減できる。さらに、玉型加工における切削屑を大幅に減少できるので、環境負荷の低いプラスチックレンズを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
(プレポリマー組成物)
本実施形態で用いられるプレポリマー組成物(以下、単に「プレポリマー」ともいう)は、25℃において50Pa・s以上10000Pa・s以下の粘度を有するものである。25℃における粘度が50Pa・s未満では、プレポリマーの流動性が大きくなりすぎて形状保持性に乏しい。一方、25℃における粘度が10000Pa・sを超えると、プレポリマーの流動性が乏しくなりすぎるため、型内に注入することや載置することなど、ハンドリング性に問題を生じる。それ故、プレポリマーのより好ましい粘度は、100Pa・s以上1000Pa・s以下であり、さらに好ましい粘度は、200Pa・s以上700Pa・s以下である。
【0014】
このような適度の粘度を有するプレポリマーは、熱重合性モノマーあるいは光重合性モノマーを用いて予備重合を行うことにより得ることができる。このようなモノマーとしてはプラスチッレンズの注型重合に汎用されるモノマーをそのまま利用することができる。例えば、チオウレタン系樹脂、チオエポキシ系樹脂、メタクリレート系樹脂等を製造するモノマーが好ましく挙げられる。
【0015】
本実施形態におけるプレポリマーは、図示しない調合槽において、熱重合性モノマーと、熱重合開始剤とを含有する組成物を適度に加熱して予備重合を行って得ることができる。例えば、チオウレタン系樹脂用モノマー(イソシアネートとチオールなど)と触媒(アミン系あるいは塩化スズ系)とからなるモノマー組成物を30〜70℃の温度で30分〜10時間加熱することにより、25℃において50Pa・s以上10000Pa・s以下の粘度を有するプレポリマーを得ることができる。具体的には、40℃で1時間程度重合させることが好ましい。ただし、得られたプレポリマーがさらに重合してしまうことを防ぐために10℃以下の温度で保管することが望ましい。具体的には5℃程度の温度が好ましい。
このような予備重合は、タンク内で行うことが安定性の点で好ましい。具体的には、プレポリマーの粘度あるいは屈折率を測定しながら予備重合を行うとよい。また、レンズ型への配送ライン上にヒータを設置し、加温しながら配送ラインを通過させることで、後述する載置の直前にプレポリマーを最適な粘度(重合度)とする方法も好ましい。
【0016】
なお、光重合性モノマーと、光重合開始剤とを含有する組成物を用いた場合でも同様に適度に加熱して予備重合を行い、プレポリマーとすることができる。例えば、メタクリレート系樹脂用のモノマーとアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤とを含有する組成物を30〜70℃で20分〜10時間加熱することで、上述した熱重合性モノマーを用いた場合と同様に25℃において50Pa・s以上10000Pa・s以下の粘度を有するプレポリマーを得ることができる。具体的には、60℃で1時間程度重合させることが好ましい。ただし、得られたプレポリマーがさらに重合してしまうことを防ぐために、光を遮断し20℃以下の温度で保管することが望ましい。具体的には15℃程度の温度が好ましい。
光重合性モノマーの場合も予備重合を加熱により行う場合は、タンク内で行うことが安定性の点で好ましい。具体的には、プレポリマーの粘度あるいは屈折率を測定しながら予備重合を行うとよい。また、レンズ型への配送ライン上にヒータを設置し、加温しながら配送ラインを通過させることで、後述する載置の直前にプレポリマーを最適な粘度(重合度)とする方法も好ましい。また、光重合性モノマーの場合は、予備重合を極微量の可視光下(1mW/cm〜100mW/cm、1〜10s)で行ってもよい。
【0017】
以下に、上述した重合性モノマーから得られた適度の粘度を有するプレポリマーを用いて、眼鏡用のプラスチックレンズ(以下、単に「レンズ」ともいう)を製造する方法を説明する。
(プレポリマーの載置工程)
図2は、本実施形態にかかるプレポリマーの載置工程を示す概略図である。
まず、図2(A)に示すように、レンズの凸面成形面111を有する凹型11を洗浄したものを準備する。次に、図示しない調合槽から所定の粘度を有するプレポリマーPを配送し、ノズル6を通して、凸面成形面111の上にプレポリマーPを押し出す。ここで、ノズル6を凸面成形面111に対して、例えば図3のように適宜移動させることにより、プレポリマーPを所定の形状として凸面成形面111上に載置することができる(図2(B))。このプレポリマーPは、後述するように凹型に押圧され、硬化後のレンズの形状に近似する形状となる。すなわち、レンズ成形型内に満杯充填されるのではなく、いわゆる飢餓充填される。
【0018】
(成形型の組立工程)
図4は、本実施形態におけるレンズ成形型の組立工程を示す概略図である。
まず、図4(A)に示すように、凹型11の表面に載置されたプレポリマーPを挟み込んで凹型11の凸面成形面111と、凸型12の凹面成形面121とを、対向配置させる。次に、図4(B)に示すように、一対の型1(凹型11、凸型12)を、プレポリマーPを介しながら互いに押圧し、所定の間隔とする。したがって、凹型11と凸型12の間に挟まれるプレポリマーPは若干押し潰された状態で凹型11と凸型12とに接する。そして、対向配置された型1の円周側面に沿って粘着テープ4が設けられる。このとき、粘着テープ4は、凹型11の円周側面と凸型12の円周側面とにわたって設けられることで、凹型11と凸型12とが固定され成形型Mとなる。図4(C)は、この成形型Mについて、凹型11を通してプレポリマーPを見た図である。
【0019】
(プレポリマーの重合工程)
プレポリマーPを挟んだ成形型Mを、通常の条件に従い、所定の温度と時間に設定された環境下に曝すことによって、プレポリマーPを最終的に重合(硬化)させる。このとき、プレポリマーPが移動しないよう、凹型11が下になるように成形型Mを水平に置くことが好ましい。
【0020】
上記した製造方法について、図5に示すフロー図および図2〜図4を用いてより具体的に説明する。
まず、レンズ情報を所定の情報処理手段に入力する(S1)。この情報処理手段としては、例えばパーソナルコンピューターである。レンズ情報としては、球面度数、乱視度数、乱視軸、加入度、レンズ厚、瞳孔間距離、フィッティングポイント、フレーム形状などが挙げられる。
【0021】
次に、S1で入力された情報に基づいて情報処理を行い、プレポリマーPの形状、プレポリマーPの量、凸型12の選定および凹型11と凸型12とを対向配置させる位置を算出する(S2)。
ここで、プレポリマーPの形状としては、フレーム形状のデータから凹型11上に載置され、凸型12と押圧された後の形状データを算出する。このとき、目的とするレンズの外周部よりも外側に数mm程度大きい形状にプレポリマーPを形成することが好ましい。具体的には、2〜3mm程度大きい形状とすることが好ましい。そしてこのために必要なプレポリマーPの量を算出する。
また、フィッティングポイントからプレポリマーPを凹型11のどの位置に形成するかについて決定する。さらに、乱視度数、乱視軸、レンズ厚に基づいて複数種類ある凸型12から最適なものを選定し、凹型11と凸型12とを対向配置させる際の角度、位置、距離を決定する。
【0022】
S2後は、図3に示すように凹型11上にプレポリマーPを押出して載置を行い(S3)、凸型12を凹型11に重ね合わせて成形型Mを組立て(S4)、プレポリマーPを重合(硬化)させてプラスチックレンズを得る(S5)。
【0023】
上述した本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)凹型11と凸型12との間に挟み込まれるプレポリマーPは、成形型M内に飢餓状態で充填されるので、レンズの原料となるプレポリマーPの必要量を削減できる。よって、プラスチックレンズの製造コストを削減でき、廃棄物の削減もできることから環境保護の観点からも望ましい。
(2)プレポリマーPは自由に形状を設定できるので、所望の形状を有するプラスチックレンズを容易に得ることができる。例えば、プレポリマーPの形状によりフィニッシュトレンズやセミフィニッシュトレンズを直接製造することも可能である。また、一般的な形状の眼鏡レンズやカニ目タイプの眼鏡レンズなど種々のレンズ形状にも対応できる。
【0024】
(3)目的とするプラスチックレンズよりも数mm程度大きい形状にプレポリマーPを載置することで、上述した廃棄物量の削減と加工のバリエーションとをバランスさせることができる。
【0025】
本発明を実施するための最良の構成などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、眼鏡用プラスチックレンズを製造する例を挙げて説明したが、本発明は、他に防塵ガラス、コンデンサレンズ、プリズム等の光学レンズの製造方法としても好適に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、眼鏡用をはじめ各種のプラスチックレンズの製造方法として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来技術に係るプラスチックレンズの製造方法を示す概略図。
【図2】本実施形態に係るプレポリマーの載置工程を示す概略図。
【図3】本実施形態におけるプレポリマーの載置法の一例を示す概略図。
【図4】本実施形態におけるレンズ成形型の組立工程を示す概略図。
【図5】本実施形態におけるプラスチックレンズの製造方法を示すフロー図。
【符号の説明】
【0028】
1…型、3…モノマー、4…粘着テープ、5,6…ノズル、11…凹型(成形型)、12…凸型(成形型)、111…凸面成形面、121…凹面成形面、C…キャビティ、M…成形型、P…プレポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックレンズ成形用として用いられる一対の型を所定間隔離間させて対向配置させ、前記一対の型の間にプレポリマー組成物を載置し、前記プレポリマー組成物を重合させるプラスチックレンズの製造方法であって、
前記プレポリマー組成物は、25℃において50Pa・s以上10000Pa・s以下の粘度を有し、
前記一対の型の間に載置される前記プレポリマー組成物の体積を、前記一対の型を対向配置させることにより作られる空間体積よりも小さくする
ことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記一対の型の少なくとも一方の型の表面に前記プレポリマー組成物を載置した後、前記プレポリマー組成物を挟んで前記一対の型を互いに押圧し、前記空間を形成する
ことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記プレポリマー組成物が載置される型は凹面状の表面を有し、
前記凹面状の表面が上を向いた状態で前記表面に前記プレポリマー組成物を載置する
ことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載された製造方法により製造されたことを特徴とするプラスチックレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−162723(P2010−162723A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5415(P2009−5415)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】