説明

プラスチック分解油の処理方法

【課題】 プラスチック分解油の水素化精製における問題点を解決し、プラスチック分解油をガソリン基材原料や石油化学原料、灯油、軽油及び重油となるナフサ留分、灯軽油留分及び重油基材として利用することを目的とする。
【解決手段】 廃プラスチックの熱分解によって生成するプラスチック分解油と石油留分を混合し、石油精製工程において処理するプラスチック分解油処理方法であって、前記は、カルシウムの含有量が金属換算で2質量ppm以下である。チタンおよびシリコンの含有量が金属換算でそれぞれ2質量ppm以下が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチックの熱分解によって生成するプラスチック分解油を石油精製工程において石油留分とともに処理し、ガソリン基材原料や石油化学原料及び灯軽油となるナフサ留分や灯軽油留分並びに重油などを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に原油から製造されるガソリン基材原料や石油化学原料となるナフサ留分や灯油・軽油留分は需要が旺盛である。この原料としては、直留ナフサ、減圧ナフサ、熱分解ナフサ、直留灯油、減圧灯油、熱分解灯油、直留軽油、減圧軽油、熱分解軽油など原油からえられる石油留分が用いられている。
【0003】
プラスチック分解油は、廃棄物などから分離されたプラスチックの分解によって生成する油分である。原料となるプラスチックは、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネートなどが挙げられる。通常は、廃棄されたプラスチックを原料とする。このようなプラスチックの熱分解反応は公知である(特許文献1、2参照)。
【0004】
このプラスチック分解油は一般的にボイラー燃料などに用いられており、不純物が多いことからガソリン基材や灯軽油、石油化学原料として利用されていない。廃プラスチック中、ポリアミド樹脂、ポリウレタン類、ABS樹脂及びNBRには窒素が含有され、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、塩化ポリエチレンには塩素が含有される。このため、プラスチック分解油中には塩素分、窒素分などの不純物が比較的多く残存しており、これを除去するために、プラスチック分解油を水素化精製することが提案されている(特許文献3〜5参照)。
【0005】
しかし、プラスチック分解油をそのままでは、実質的には水素化精製することができない。プラスチック分解油には不純物として金属分が多く含まれていることがある。この金属分は、水素化精製時の触媒を被毒する。このため、水素化精製にともない触媒の活性が急速に低下してしまい、長時間安定に運転することができない。または、水素化精製のためにプラスチック分解油を加熱して触媒床に導入すると、触媒表面及び導入部にコーキングしてしまい、通油が困難になることがある。
【特許文献1】特開平09−235563号公報
【特許文献2】特開2002−60757号公報
【特許文献3】特開平11−061148号公報
【特許文献4】特開平09−048983号公報
【特許文献5】特表平08−508520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのようなプラスチック分解油の水素化精製におけるコーキングなどの問題点を解決し、通常の石油精製工程における処理によってプラスチック分解油をガソリン基材原料や石油化学原料及び灯軽油となるナフサ留分及び灯軽油留分、重油基材として利用することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるプラスチック分解油の処理方法は、廃プラスチックの熱分解によって生成するプラスチック分解油と石油留分を混合し、石油精製工程おいて処理するプラスチック分解油の処理方法であって、前記プラスチック分解油と石油留分を混合した混合原料油は、カルシウムの含有量が金属換算で2質量ppm以下であることを特徴とし、さらに、チタンおよびシリコンの含有量がそれぞれ金属換算で2質量ppm以下であることが好ましい。
【0008】
前記プラスチック分解油は、カルシウム含有量が金属換算で50質量ppm以下であることが好ましく、さらには、チタンおよびシリコンの含有量が金属換算でそれぞれ50質量ppm以下であることが好ましい。
【0009】
前記石油留分の90%留出温度と、前記プラスチック分解油の90%留出温度との差が200℃以下であることが好ましい。前記石油留分の90%留出温度が、300℃を超え、600℃以下であることが好ましい。
【0010】
前記石油精製工程は、水素化精製、水素化分解および接触分解の少なくとも一つの工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、プラスチック分解油や混合原料油中のカルシウムなどの金属の含有量を所定の値以下にコントロールして供給することで、水素化精製などの石油精製工程においてコーキング、スラッジなどの発生を抑制することができ、プラスチック分解油と石油留分とを同時に容易に処理することができる。したがって、プラスチック分解油から塩素分、窒素分などの不純物含有量の少ない精製油を得ることができ、ガソリン基材原料や石油化学原料、灯軽油および重油として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔プラスチック分解油〕
プラスチック分解油は、廃プラスチックの熱分解によって得られたものであり、カルシウム(Ca)の含有量が金属換算で50質量ppm以下にものが好ましく、特には10質量ppm以下、さらには2質量ppm以下が好ましい。また、チタン(Ti)及びシリコン(Si)の含有量が金属換算でそれぞれ50質量ppm以下、特には10質量ppm以下、さらには2質量ppm以下であることが好ましい。このようなプラスチック分解油は、金属含有量の少ないプラスチック分解油を選別することで得ることができる。また、廃プラスチック熱分解の原料となる廃プラスチックを選別することで金属含有量を下げることができる。
【0013】
プラスチック分解油の性状としては、硫黄分が20000ppm以下、特には300ppm以下、窒素分が2000ppm以下、特には1500ppm以下、塩素分が1〜1000ppm、特には10〜100ppm、臭素価が1.5gBr2/100g以上、特には10〜300gBr2/100g、ジエン価が0.3g/100g以上、特には1〜5g/100g、その他金属分(マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V))が50ppm以下、特には10ppm以下であることが好ましい。なお、不純物などがこの範囲を外れる場合には、吸着、ろ過、遠心分離などの除去処理により予めプラスチック分解油を処理して不純物を除去することもできる。
【0014】
プラスチック分解油の蒸留性状としては、
90%留出温度が100〜600℃、特には300℃を超える、さらには400℃を超えることが好ましい。
初留点は300℃以下、特には100℃以下が好ましい。
50%留出温度が100〜500℃、特には150〜350℃が好ましい。
【0015】
〔石油留分〕
石油留分の蒸留性状について、90%留出温度は、300〜600℃、特には400〜600℃が好ましく、プラスチック分解油の90%留出温度との差が、200℃以下、特には100℃以下であることが好ましい。石油留分の芳香族分は、10〜50%、特には20〜40%が好ましい。石油留分の90%留出温度がこの範囲であれば、石油留分中に多くの芳香族分を有し、溶解性が高いため、コーキングを抑制しながら処理できるため、好ましい。
【0016】
石油留分は、原油を原料として得られた炭化水素からなる留分であれば特に限定はなく、例えば、直留ナフサ、減圧ナフサ、熱分解ナフサ、直留灯油、減圧灯油、熱分解灯油、直留軽油、減圧軽油、熱分解軽油などやこれらの任意な混合物が挙げられる。
【0017】
石油留分は、硫黄分が0.05〜10%、特には0.1〜5%、窒素分が10〜5000ppm、特には20〜2000ppmであることが好ましい。金属(カルシウム、チタン、シリコン、マグネシウム、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、バナジウム)の含有量がそれぞれ500ppm以下、特には50ppm以下であることが好ましい。
【0018】
〔混合原料油〕
プラスチック分解油と石油留分を混合した混合原料油は、カルシウムの含有量が金属換算で2質量ppm以下、好ましくは1質量ppm以下である。チタン及びシリコンの含有量が金属換算でそれぞれ2質量ppm以下、好ましくは1質量ppm以下であることが望ましい。
【0019】
プラスチック分解油の混合割合は、処理対象全体に対して50容量%以下、特には25容量%以下、さらには20容量%以下が好ましい。この範囲を超える場合にはコーキング及び/又は腐食が予想され、処理が困難になることが予想される。
【0020】
〔石油精製工程〕
プラスチック分解油と石油留分を混合した混合原料油を処理する石油精製工程は、水素化精製、水素化分解および接触分解の少なくとも一つの工程を含むものであり、特に、水素化精製の工程が好ましい。これにより、石油留分の硫黄分、窒素分、金属分などが低減されるとともに、プラスチック分解油の窒素分、塩素分、金属分などが低減される。硫黄分が0.5〜5%、特には1%以上の石油留分をプラスチック分解油と混合して、水素化精製により硫黄分が0.2%以下、特には0.1%以下とするような精製工程が好ましい。
【0021】
水素化精製は処理油を水素の存在下で水素化精製触媒と接触させるものである。水素化精製触媒は、アルミナなどの無機多孔質担体にモリブデン、ニッケル、コバルト、リンのうち少なくとも一種を、特にモリブデンとニッケルまたはコバルトの少なくとも一方を担持した触媒が好ましく用いられる。好ましい反応条件は反応温度:250〜450℃、反応圧力:1〜25MPa、LHSV(液空間速度):0.1〜30h-1、H2/Oil(水素/油比):20〜2000L/Lである。
【0022】
水素化精製の後にナフサ留分、灯油留分、軽油留分、重質軽油留分などの留分に分けられ、そのまま、または、他の石油精製工程を経て、石化用ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油などの製品または製品を構成する基材となる。特に、石化用ナフサ、ガソリン基材としては、硫黄分10ppm以下、特には2ppm以下、窒素分10ppm以下、特には2ppm以下、塩素分10ppm以下、特には1ppm以下、全酸価0.01mgKOH/g以下、ジエン価0.2g/100g以下、特には0.1g/100g以下とすることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を説明するが、本実施例により本発明が限定的に解釈されるものではない。
なお、本実施例では密度はJIS K 2249に、硫黄分はJIS K 2541(紫外蛍光法)に、窒素分はJIS K 2609(化学発光法)に、塩素分は電量滴定法、臭素価はJIS K 2605に、ジエン価はUOP 326−65に、蒸留性状はJIS K 2254、芳香族分はFIA、JPI法、金属分はICP発光分析法によって測定した。検出下限は、1質量ppmである。
【0024】
実施例で用いたプラスチック分解油および石油留分の性状を表1にまとめる。プラスチック分解油は、容器包装プラスチック油化事業者協議会より入手したものの内、カルシウム含有量の少ないプラスチック分解油を選別したものである。石油留分は中東系原油を常圧蒸留して得られた重質軽油留分と、残油を減圧蒸留して得られた減圧軽油留分との混合油である。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の石油留分とプラスチック分解油を表2に示す割合で配合して混合原料油を用意した。この混合原料油を次の条件で水素化精製した。なお、この石油留分の芳香族分は35.7質量%であった。
【0027】
【表2】

【0028】
上下方向長さ1160mm、内径19mmの固定床流通式反応器中に、上から順に、3φのアルミナボール約100mlと、60ml(49.2g)の水素化精製触媒(ART社製 HOP473)と、3φアルミナボール約25mlを充填し、混合原料油と水素を上端から導入した。反応条件は、温度:350℃、圧力8.0MPa、LHSV:2h-1、H2/Oil:230L/Lの条件下にて水素化精製を行った。用いたART社製HOP473は、アルミナを担体として金属としてモリブデンを11wt%、ニッケルを3wt%、リン2wt%含有しているものである。
【0029】
その結果、実験終了(運転時間:720時間)まで差圧が上がることなく運転可能であり、また、触媒の水素化性能に影響は与えなかった。反応器内部は、コーキングは発生せず、油が流れる状態であった。カルシウムなどの金属含有量の多いプラスチック分解油を用いた場合には、触媒の被毒及び/又は反応器内部にコーキングの発生が予想され、長期の水素化精製処理が困難となることが予想される。得られた精製油全体の性状及び、その精製油全体を分留した各留分の性状を表3に示す。
【0030】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、プラスチック分解油と石油留分を混合した混合原料油について、カルシウムなどの含有量を所定値以下となるように混合し、水素化精製などの石油精製処理を行うものであるので、コーキングなどにより、処理が困難になることがなく、塩素、窒素などの不純物を低減することができるので、精製したナフサ留分、灯油・軽油留分及び重油基材はガソリン基材原料や石油化学原料、灯油、軽油及び重油として利用することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチックの熱分解によって生成するプラスチック分解油と石油留分を混合し、石油精製工程において処理するプラスチック分解油の処理方法であって、前記プラスチック分解油と石油留分を混合した混合原料油は、カルシウムの含有量が金属換算で2質量ppm以下であることを特徴とするプラスチック分解油の処理方法。
【請求項2】
前記混合原料油は、チタンおよびシリコンの含有量がそれぞれ金属換算で2質量ppm以下である請求項1に記載のプラスチック分解油処理方法。
【請求項3】
前記プラスチック分解油は、カルシウムの含有量が金属換算で50質量ppm以下である請求項1又は2に記載のプラスチック分解油の処理方法。
【請求項4】
前記プラスチック分解油は、チタンおよびシリコンの含有量がそれぞれ金属換算で50質量ppm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック分解油の処理方法。
【請求項5】
前記石油留分の90%留出温度と、前記プラスチック分解油の90%留出温度との差が200℃以下である請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック分解油の処理方法。
【請求項6】
前記石油留分の90%留出温度が、300℃を超え、600℃以下である請求項1〜5のいずれかに記載のプラスチック分解油の処理方法。
【請求項7】
前記石油精製工程は、水素化精製、水素化分解および接触分解の少なくとも一つの工程を含む請求項1〜6のいずれかに記載のプラスチック分解油の処理方法。