説明

プラスチック容器

【課題】プラスチック容器基材表面に屈折率の異なる薄膜を蒸着、塗工または印刷手段によって直接設けることにより、リサイクル適性に優れた、絵柄状のパターンを含む、意匠性の高い加飾プラスチック容器を提供することである。
【解決手段】表面に薄膜が形成されたプラスチック容器において、プラスチック基材表面に高屈折率を有する第1層、低屈折率を有する第2層、高屈折率を有する第3層が順次積層されてなることを特徴とするプラスチック容器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックボトル、プラスチックカップ、プラスチックトレイ等の、プラスチック容器に関し、特に表面に薄膜による表面加飾が直接施された意匠性に優れたプラスチック容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック容器は、軽量で使い勝手がよく、安全で低コストであるため、食品分野や医薬品分野をはじめ、様々な分野で使用されている。しかし、その反面その形状が3次元形状であることから、紙や軟包装と呼ばれるプラスチックフィルム等、他の包装材料と比較して消費者の購買意欲を掻き立てるような意匠性の付与に関しては制約が多かった。
【0003】
従来プラスチック容器の意匠性を向上させる目的で、下記に示すような方法が用いられている。例えば、あらかじめ印刷したシュリンクフイルムを、プラスチック容器成形後にその胴部の表面に熱収縮によって固定したり、あらかじめ印刷したインモールドラベルを、プラスチック容器成形と同時に一体成形させたり、あらかじめ印刷された剥離層、印刷絵柄層、接着層を有する転写材を用いて、プラスチック容器成形後に絵柄を転写したりするものである。これらはいずれもあらかじめ印刷された材料を貼り合せるというものであり、容器との一体感が出難く、容器と貼り合せた場合に空気が抜け難いため、浮きや3次元の曲面形状によっては、しわの問題が発生し易い手法でもあった。
【0004】
プラスチック容器の意匠性を向上させる他の方法としては、金、銀、銅、アルミニウム、クロム等の金属や金属化合物を容器の表面にめっきするかまたは容器成形時に主樹脂にコンパウンドとして練り込み着色させる方法がある。
しかし、金属を容器の表面にめっきする場合には100nm(0.1μm)〜4000nm(4μm)の比較的厚い膜厚とする必要があった。
このように膜厚が厚くなったり、あるいは容器成形時に主樹脂にコンパウンドとして練り込み着色させる手法を用いた場合には、プラスチック容器全体に占める金属または金属化合物の割合が数%オーダーに近づくため、再利用できる用途が限定され、リサイクルが困難となる。このような容器類は廃棄後、埋め立て処分するしかなく、環境保護の面でも問題の多いものであった。
【0005】
特許文献1に開示された方法は、カラーコートレンズの着色方法であり、基材に低屈折率のコーティング層と高屈折率のコーティング層、さらに低屈折率のコーティング層をそれぞれ蒸着法によって形成するというものである。本方法は、レンズ基材全体に均一な着色を施すことはできるが、絵柄を表現することはできないため、意匠性という面からは、限定されたものであった。
【特許文献1】特開平7-230063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、プラスチック容器基材表面に屈折率の異なる薄膜を蒸着、塗工または印刷手段によって直接設けることにより、上記の問題点を解決し、リサイクル適性に優れた、絵柄状のパターンを含む、意匠性の高い加飾プラスチック容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、表面に薄膜が形成さ
れたプラスチック容器において、プラスチック基材表面に高屈折率を有する第1層、低屈折率を有する第2層、高屈折率を有する第3層が順次積層されてなることを特徴とするプラスチック容器である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記高屈折率を有する第1層および第3層は、厚さが10 nm以上である屈折率2.0以上の薄膜であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック容器である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記高屈折率を有する第1層および第3層がともにチタン酸化物を主成分とする屈折率2.0以上の薄膜であり、前記低屈折率層を有する第2層が、珪素酸化物を主成分とする物質が分散または積層された屈折率1.7以下の薄膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチック容器である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記低屈折率を有する第2層が塗工または印刷またはその組合せによって、部分的に膜厚が段階的または連続的に変化して設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラスチック容器である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記低屈折率を有する第2層に隣接して印刷による絵柄層が設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラスチック容器である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプラスチック容器は、プラスチック基材表面に高屈折率を有する第1層、低屈折率を有する第2層、高屈折率を有する第3層が順次積層されており、これらの各層からなるアモルファス状に結合した連続薄膜の組み合わせにより可視光領域(400nm〜800nm)の光が薄膜表面に照射された場合、各層で反射・吸収・透過の光路を経て合算された反射光に応じて加飾効果を得ることができるものである。反射光の干渉によりさまざまな色彩が生じ、いわゆる虹彩色を呈するので、非常に目につきやすく、訴求効果の大なるプラスチック容器を得ることができる。
特に前記高屈折率を有する第1層および第3層の厚さが、10nm以上であり、その屈折率が2.0以上である場合には、その効果が顕著である。
【0013】
前記高屈折率を有する第1層と第3層をともにチタン酸化物を主成分とする屈折率2.0以上の薄膜とし、前記低屈折率を有する第2層を、珪素酸化物を主成分とする物質が分散または積層された屈折率1.7以下の薄膜とした場合、ここで使用する材料は、いずれも安全性の点で全く問題のない材料であるから、食品や飲料の容器として使用が可能である。
また前記第1層と第3層は同じ組成であり、屈折率2.0以上のチタン酸化物を主成分とするため、パターン印刷されない部分(第2層のない部分)が存在する場合にはこの部分は無色透明になる。
【0014】
またさらに、前記低屈折率を有する第2層が塗工または印刷またはその組合せによって、部分的に膜厚が段階的または連続的に変化して設けられている場合には、干渉色に変化が生じ、絵柄状あるいは、文字状の表現が可能となる。
また、前記の高屈折率層と低屈折率層の厚みを調整することで発色を自由に調整することが可能となる。
また、この第2層に隣接して印刷による絵柄層を設けた場合には、さらに表現の範囲が広くなり、さまざまな用途に利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図に従って、本発明のプラスチック容器について詳細に説明する。図1は、本発明の加飾容器の基本的な構成を説明する断面模式図である。本発明のプラスチック容器に用いるプラスチック基材1としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等通常使用される汎用の熱可塑性樹脂の他、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂も含めた任意のプラスチック材料が使用できる。
【0016】
プラスチック基材1の表面に薄膜を形成するにあたって、基材の表面には、図2にあるように必要に応じて任意の前処理層5を施すことができる。前処理層5としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線照射処理、サンドブラスト等のドライプロセスの他、プライマーコート、着色コート等のウエットプロセスおよびこれらの組合せが用いられる。さらにこれらに先立ち、必要に応じてばり取り、脱脂、洗浄等の処理を施しても良い。
【0017】
次にプラスチック基材の表面に薄膜を形成する手段としては、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ気相成長法(CVD法)、反応性蒸着法等のドライプロセスの他、スプレイコーティング、ディッピング、印刷等のウエットプロセスを用いることができる。
印刷の場合、プラスチック基材の表面の形状により、例えば円筒形の側面であれば、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、パッド印刷法等が可能であり、三次元曲面の場合には、パッド印刷法、スクリーン印刷法、水圧転写法等が用いられる。
【0018】
高屈折率を有する第1層2および第3層4に用いる材質としては、屈折率が少なくとも2.0以上ある材質が望ましく、具体的には、酸化チタン、酸化ジルコニウム、アルミニウム、酸化カドミウム、タングステン、酸化第二鉄、三酸化二鉄、アンチモン、チタン酸バリウム、マンガン、硫化水銀、白金、シリコン、ゲルマニウム等が挙げられる。
【0019】
第1層に用いる材料と第3層に用いる材料とは、同じ材料である必要はないが、製造工程の簡略さからすれば、同じ材料を用いるのが、有利である。
材料の安全性、入手の容易さ、透明性等の点で選択すると、上記に掲げた高屈折率を有する材料群の中では酸化チタンが最も適している。
またこれらの薄膜を形成する手段としては、前記のドライプロセスによる方法が好適に使用できる。
【0020】
一方、低屈折率を有する第2層3の材質としては、屈折率が1.7以下の材質が望ましく、二酸化珪素、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、ポリメタクリル酸メチル樹脂(アクリル樹脂)、テトラフルオロエチレン樹脂等が使用できる。これらの中で、二酸化珪素は、ドライプロセスでも成膜できるが、テトラエトキシシラン等金属アルコキシドの溶液を用いて、いわゆるゾルゲル法によってウエットプロセスでも成膜できるので、本発明には好適に用いられる。
【0021】
低屈折率層を形成する手段としては、前記のドライプロセス、ウエットプロセスともに使用できるが、ウエットプロセスの中でも、特に印刷法を用いた場合には、それぞれの印刷方式に従い、版式や版の構成、インキとして用いる塗工剤の粘度や固形分等を調節することにより、図2に示したように、低屈折率の第2層3の存在する部分と存在しない部分6とを区分して設けることや、さらに図3に示したように、低屈折率の第2層の膜厚が、段階的あるいは連続的に変化するように設けることが容易にできる。低屈折率の第2層が存在する部分は、虹彩色を生じ、存在しない部分は、透明となるので、さまざまな意匠表現が可能となり、加飾効果に優れたプラスチック容器を提供することができる。
【0022】
なお、このように低屈折率の第2層を、一様でなく設ける方法としては、必ずしも印刷法に限定されるものではなく、例えばマスクを用いたスプレーコートや同じくマスクを用いたドライプロセスによっても可能である。
【0023】
また低屈折率を有する第2層に隣接して、すなわち、第2層を設ける前あるいは後に、図3に示したように、印刷による絵柄層7を設けることにより、さらに意匠表現の可能性が増し、意匠効果が高まり、得られるプラスチック容器の用途も広がる。
【0024】
以下、本発明のプラスチック容器について、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。但し、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
プラスチック基材としてPET樹脂を用いて成形した円筒形のPETボトルを用い、最初にこの側面に、チタン(30mm角)と酸素を反応させて蒸着する反応性蒸着法を用い、成膜レートを調整してチタン酸化物層を20nm積層して第1層とした。次にテトラエトキシシラン、水溶性樹脂、アルコール系溶剤、触媒 を配合したゾルゲル法溶液を用いてスクリーン印刷法によってパターン状に印刷した。これを100℃で1分間乾燥させて珪素酸化物を含む薄膜を70nm積層し第2層とした。その後、再び前記と同様の反応性蒸着法により、チタン酸化物層を85nm積層し、第3層とした。
得られたPETボトルの表面の発色状態を目視確認したところ、印刷膜の存在する部分は青色に発色し、印刷膜のない部分は透明のままである意匠効果の高いPETボトルが得られた。
【実施例2】
【0026】
実施例1と同様のプラスチック基材を用い、実施例1と同様のドライプロセスによって、最初にチタン酸化物層を160nm積層して第1層とした。次に実施例1に使用したのと同様のゾルゲル法溶液を用いて、同様にスクリーン印刷を施し、珪素酸化物を含む薄膜を65nm積層し、第2層とした。その後、同様のドライプロセスによって、チタン酸化物層を110nm積層し、第3層とした。
得られたPETボトルの表面の発色状態を目視確認したところ、印刷膜の存在する部分は赤色に発色し、印刷膜のない部分は透明のままである意匠効果の高いPETボトルが得られた。
<比較例1>。
【0027】
実施例1と同様の構成において、第2層に相当するスクリーン印刷層のないボトルを作成したところ、全面が透明のままであった。
<比較例2>。
【0028】
実施例2と同様の構成において、第2層に相当するスクリーン印刷層のないボトルを作成したところ、全面が透明のままであった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のプラスチック容器の基本的な断面構成を示した模式図。
【図2】本発明の実施形態の一例である、低屈折率の第2層が部分的に設けられた状態を示した断面説明図。
【図3】本発明の実施形態の一例である、低屈折率の第2層が部分的に設けられ、さらにその厚さが段階的に変化している状態を示した断面説明図。
【符号の説明】
【0030】
1・・・プラスチック基材
2・・・高屈折率の第1層
3・・・低屈折率の第2層
4・・・高屈折率の第3層
5・・・前処理層
6・・・低屈折率層のない部分
7・・・印刷絵柄層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に薄膜が形成されたプラスチック容器において、プラスチック基材表面に高屈折率を有する第1層、低屈折率を有する第2層、高屈折率を有する第3層が順次積層されてなることを特徴とするプラスチック容器。
【請求項2】
前記高屈折率を有する第1層および第3層は、厚さが10nm以上である屈折率2.0以上の薄膜であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック容器。
【請求項3】
前記高屈折率を有する第1層および第3層がともにチタン酸化物を主成分とする屈折率2.0以上の薄膜であり、前記低屈折率層を有する第2層が、珪素酸化物を主成分とする物質が分散または積層された屈折率1.7以下の薄膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチック容器。
【請求項4】
前記低屈折率を有する第2層が塗工または印刷またはその組合せによって、部分的に膜厚が段階的または連続的に変化して設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラスチック容器。
【請求項5】
前記低屈折率を有する第2層に隣接して印刷による絵柄層が設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラスチック容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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