説明

プラスチック用プライマー組成物

【課題】優れた意匠性を保持し、耐水性に優れ、プラスチック基材との密着性を改善するプラスチック用プライマー組成物の提供。
【解決手段】(メタ)アクリレート系共重合体(A)および造膜助剤を含有するプラスチック用プライマー組成物であって、
前記(メタ)アクリレート系共重合体(A)が、水酸基を有さず、ガラス転移点が50〜75℃であり、かつ、重量平均分子量が10000〜60000であり、
前記造膜助剤が、セルロースエステル樹脂(B)、または、光硬化性樹脂(C)および光重合開始剤(D)であるプラスチック用プライマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチック用プライマーに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂のようなプラスチックを成型してなるプラスチック成型品は、軽量で耐衝撃性、成形加工性に優れ安価であることから、種々の分野で使用されている。
そして、プラスチックの成型品は、その表面を損傷から保護すること等を目的として、塗膜で被覆されているのが一般的である。
このような塗膜による被覆としては、例えば、プラスチック基材の上にアンダーコートまたはベースコートと称されるアンダーコート剤が塗装されてアンダーコート層が形成され、その上にスズ、アルミニウム、ニッケル、銅等の金属が真空蒸着されて蒸着層が形成され、さらにその上にミドルコートと呼ばれるミドルコート剤が塗装されてミドルコート層が形成され、耐摩耗性および耐擦傷性を付与するために、さらにその上にトップコートまたはハードコートと称されるトップコート剤が塗装されてトップコート層が形成されることが知られている。
【0003】
具体的には、本出願人は、特許文献1において、プライマー組成物、アンダーコート剤組成物、トップコート剤組成物、ミドルコート剤組成物等として使用できる硬化性樹脂組成物として、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)と、不飽和二重結合、ヒドロキシ基および芳香環をそれぞれ少なくとも1つ有する化合物(a2)とを含む単量体成分を重合させて得られる共重合体(A)と、硬化性樹脂(B)とを含有する硬化性樹脂組成物。」を提供している([請求項1][0091])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−56813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、特許文献1に記載の硬化性樹脂組成物について検討した結果、この硬化性樹脂組成物をアンダーコート剤として用いた場合は、優れた意匠性(表面平滑性)を有するものの、耐水性に劣り、また、アクリル系の共重合体の重量平均分子量やガラス転移点、プラスチック基材の種類によっては、プラスチック基材とアンダーコート層との密着性が劣る場合があることが明らかとなった。
そこで、本発明は、優れた意匠性を保持し、耐水性に優れ、プラスチック基材との密着性を改善するプラスチック用プライマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定の重量平均分子量およびガラス転移点を有する(メタ)アクリレート系共重合体と、セルロースエステル樹脂等の造膜助剤を含有する硬化性樹脂組成物が、耐水性に優れ、意匠性に悪影響を与えずにプラスチック基材との密着性を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供する。
【0007】
(1)(メタ)アクリレート系共重合体(A)および造膜助剤を含有するプラスチック用プライマー組成物であって、
上記(メタ)アクリレート系共重合体(A)が、水酸基を有さず、ガラス転移点が50〜75℃であり、かつ、重量平均分子量が10000〜60000であり、
上記造膜助剤が、セルロースエステル樹脂(B)、または、光硬化性樹脂(C)および光重合開始剤(D)であるプラスチック用プライマー組成物。
【0008】
(2)上記セルロースエステル樹脂(B)が、セルロース・アセテート・ブチレートまたはセルロース・アセテート・プロピレートである上記(1)に記載のプラスチック用プライマー組成物。
【0009】
(3)上記(メタ)アクリレート系共重合体(A)と上記セルロースエステル樹脂(B)との質量比(A/B)が、70/30〜90/10である上記(1)または(2)に記載のプラスチック用プライマー組成物。
【0010】
(4)上記光硬化性樹脂(C)が、1分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有するポリエステルアクリレートである上記(1)に記載のプラスチック用プライマー組成物。
【0011】
(5)上記光重合開始剤(D)が、アルキルフェノン系化合物である上記(1)または(4)に記載のプラスチック用プライマー組成物。
【0012】
(6)上記(メタ)アクリレート系共重合体(A)および上記光硬化性樹脂(C)の質量比(A/C)が、80/20〜50/50である上記(1)、(4)および(5)のいずれかに記載のプラスチック用プライマー組成物。
【0013】
(7)上記(メタ)アクリレート系共重合体(A)が、1分子中にフェニル基およびビニル基を有する化合物(a1)と、メチル(メタ)アクリレート(a2)と、アルキル(メタ)アクリレート(a3)とを含む単量体成分を重合させて得られる共重合体である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のプラスチック用プライマー組成物。
【0014】
(8)上記アルキル(メタ)アクリレート(a3)が、炭素数2〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートである上記(7)に記載のプラスチック用プライマー組成物。
【発明の効果】
【0015】
以下に説明するように、本発明によれば、良好な意匠性を保持し、耐水性に優れ、プラスチック基材との密着性を改善するプラスチック用プライマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明のプラスチック用プライマー組成物(以下、「本発明の組成物」という。)は、(メタ)アクリレート系共重合体(A)および造膜助剤を含有するプラスチック用プライマー組成物であって、上記(メタ)アクリレート系共重合体(A)が、水酸基を有さず、ガラス転移点が50〜75℃であり、かつ、重量平均分子量が10000〜60000であり、上記造膜助剤が、セルロースエステル樹脂(B)、または、光硬化性樹脂(C)および光重合開始剤(D)であるプラスチック用のプライマー組成物である。
次に、本発明の組成物の各成分について詳述する。
【0017】
<(メタ)アクリレート系共重合体(A)>
本発明の組成物に用いられる上記(メタ)アクリレート系共重合体(A)(以下、「共重合体(A)」ともいう。)は、(メタ)アクリレート系化合物を単量体成分として含有し、水酸基を有さず、ガラス転移点が50〜75℃であり、重量平均分子量が10000〜60000である共重合体であれば特に限定されない。
ここで、本明細書においては、「(メタ)アクリレート」との表記は、アクリレートまたはメタクリレートを示すものである。
また、重量平均分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(Gel permeation chromatography(GPC))により測定した重量平均分子量(ポリスチレン換算)であり、測定にはテトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いるのが好ましい。
同様に、ガラス転移点は、示差熱分析計(DSC)を用い、ASTMD3418−82に従い、昇温速度10℃/分にて測定した値である。
【0018】
本発明においては、上記共重合体(A)のガラス転移点は、50〜75℃であり、55〜65℃であるのが好ましく、57〜63℃であるのがより好ましい。
また、上記共重合体(A)の重量平均分子量は、10000〜60000であり、20000〜40000であるのが好ましく、25000〜35000であるのがより好ましい。
上記共重合体(A)のガラス転移点および重量平均分子量がこの範囲であると、上記共重合体(A)を含有する本発明の組成物を塗装することにより、意匠性に悪影響を与えずにプラスチック基材との密着性を改善することができる。
これは、ガラス転移点が上記範囲内にあることで、本発明の組成物を塗装して形成される塗膜に強靭性および柔軟性が付与され、また、重量平均分子量が上記範囲内にあることで、塗膜に高い造膜性が付与されるためと考えられる。
【0019】
また、本発明においては、上記共重合体(A)が水酸基を有しないことにより、本発明の組成物を塗装して形成される塗膜の耐水性が良好となる。
これは、上記共重合体(A)が親水基である水酸基を有しないことにより、塗膜に疎水性が付与されるためであると考えられる。
【0020】
一方、上記共重合体(A)の単量体成分である(メタ)アクリレート系化合物は、得られる共重合体に水酸基を導入する化合物(例えば、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等)以外であれば特に限定されず、その具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル等を挙げることができる。
【0021】
本発明においては、上記共重合体(A)は、本発明の組成物の粘度および作業性が良好となり、また、本発明の組成物を塗装することにより、プラスチック基材との密着性がより改善し、更に、塗膜に対して強靭性を与えることができる理由から、1分子中にフェニル基およびビニル基を有する化合物(a1)(以下、「化合物(a1)」という。)と、メチル(メタ)アクリレート(a2)(以下、「化合物(a2)」という。)と、アルキル(メタ)アクリレート(a3)(以下、「化合物(a3)」という。)とを、上記(メタ)アクリレート系化合物として用いた共重合体であるのが好ましい。
ここで、上記共重合体(A)中の上記化合物(a1)と上記化合物(a2)と上記化合物(a3)との質量比は特に限定されないが、化合物(a1):化合物(a2):化合物(a3)が45:50:5〜40:30:30であるのが好ましい。
【0022】
上記化合物(a1)としては、具体的には、例えば、スチレン(エテニルベンゼン)、ビニルトルエン(1−メチル−4−エテニルベンゼン)等が挙げられる。
【0023】
また、上記化合物(a3)のアルキル基は特に限定されず、直鎖、分枝または環状であってもよいが、炭素数2〜10のアルキル基であるのが好ましい。
上記化合物(a3)としては、具体的には、例えば、エチル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸エチル)、プロピル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸プロチル)、ブチル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸ブチル)、ブチル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸ブチル)、イソブチル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸イソブチル)、シクロヘキシル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸シクロヘキシル)等が挙げられる。
【0024】
<セルロースエステル樹脂(B)>
本発明の組成物に用いられる上記セルロースエステル樹脂(B)は、セルロースの水酸基を酸によりエステル化したものであれば特に限定されず、塗料として従来公知のものを使用することができる。
上記セルロースエステル樹脂(B)としては、具体的には、例えば、セルロース・アセテート、セルロース・アセテート・ブチレート、セルロース・アセテート・プロピレート等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明においては、上記セルロースエステル樹脂(B)を用いることにより、本発明の組成物の塗装後の乾燥時間を短縮し、かつ、プラスチック基材との密着性を改善することができる。
これは、本発明の組成物を塗布して形成される塗膜の形成速度が向上し、また、塗膜に可塑性を付与されることで、はく離による衝撃が緩和されるためであると考えられる。
【0026】
また、本発明においては、上記セルロースエステル樹脂(B)の含有量は、本発明の組成物の塗装後の乾燥時間をより短縮し、かつ、プラスチック基材との密着性をより改善することができる理由から、上記共重合体(A)100質量部に対して11〜42質量部であるのが好ましく、15〜40質量部であるのがより好ましく、20〜30質量部であるのがさらに好ましい。
同様に、上記(メタ)アクリレート系共重合体(A)と上記セルロースエステル樹脂(B)との質量比(A/B)は、70/30〜90/10であるのが好ましく、75/25〜85/15であるのがより好ましい。
【0027】
<光硬化性樹脂(C)>
本発明の組成物に用いられる上記光硬化性樹脂(C)は特に限定されず、従来公知の光硬化性樹脂を用いることができる。
上記光硬化性樹脂(C)としては、例えば、上記共重合体(A)との相溶性の観点から、光硬化性アクリル樹脂を挙げることができる。
【0028】
上記光硬化性アクリル樹脂としては、例えば、1分子中に1個以上のカルボキシ基(−COOH)と1個または2個の(メタ)アクリロイルオキシ基(CH2=CR−COO−、R:Hまたは−CH3)とを有する化合物(以下、「化合物(c1)」という。)、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(以下、「化合物(c2)」という。)等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記化合物(c1)は、末端にカルボキシ基を有するものが好ましい態様の1つとして挙げられる。
ここで、カルボキシ基の数は、上記共重合体(A)との相溶性に優れ、プラスチック基材との密着性をより改善できる理由から、1〜3個であるのが好ましい。
また、上記化合物(c1)の1分子中の(メタ)アクリロイルオキシ基の数は、プラスチック基材との密着性をより改善できる理由から、1個であるのが好ましい。
【0030】
上記化合物(c1)としては、具体的には、例えば、ヒドロキシ(メタ)アクリレートと多塩基酸および/またはその酸無水物との反応生成物、ω−カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー等が挙げられる。
【0031】
ここで、ヒドロキシ(メタ)アクリレートと多塩基酸および/またはその酸無水物との反応は、特に制限されず、例えば、従来公知の方法が挙げられる。
また、ヒドロキシ(メタ)アクリレートと多塩基酸および/またはその酸無水物との反応の際に使用されるヒドロキシ(メタ)アクリレートとしては、具体的には、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、およびこれらの混合物等が挙げられる。
一方、ヒドロキシ(メタ)アクリレートと多塩基酸および/またはその酸無水物との反応の際に使用される多塩基酸およびその無水物としては、具体的には、例えば、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、グルタル酸、スベリン酸、マロン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水マレイン酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0032】
多塩基酸および/またはその酸無水物とヒドロキシ(メタ)アクリレートとの反応によって得られる化合物(c1)としては、具体的には、例えば、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートと無水テトラヒドロフタル酸より合成した2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルモノテトラヒドロフタレート等が挙げられる。
【0033】
上記化合物(c1)としてのω−カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートは、市販品として入手することができる。このような市販品としては、例えば、東亞合成社製のM−5400が挙げられる。
【0034】
また、上記化合物(c1)としては、具体的には、例えば、下記式(1)または(2)で表される化合物等が挙げられる。
【0035】
【化1】

【0036】
式(1)中、mは、0〜10の整数を表し、プラスチック基材との密着性をより改善できる理由から、0または1であるのが好ましい。
【0037】
これらの化合物(c1)のうち、原料の入手が容易であり、また、プラスチック基材との密着性をより改善できる理由から、上記式(1)または(2)で表される化合物であるのが好ましく、上記式(1)で表される化合物であるのがより好ましい。
上記式(1)中のmが0である化合物(アクリル酸)と、上記式(1)中のmが1である化合物との混合物は、市販品として入手することができる。このような市販品としては、例えば、東亞合成社製のM−5600が挙げられる。
また、上記式(2)で表される化合物は、市販品として入手することができる。このような市販品としては、例えば、東亞合成社製のM−5400、共栄社化学社製のHOA−MPLが挙げられる。
【0038】
本発明においては、上記化合物(c1)は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
2種以上の化合物(c1)の組合せは、原料の入手が容易であり、また、プラスチック基材との密着性をより改善できる理由から、上記式(1)中のmが0である化合物(アクリル酸)と上記式(1)中のmが1である化合物との組合せが好ましい。
【0039】
一方、上記化合物(c2)は、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するものであれば特に制限されない。
【0040】
1分子中に3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(c2−1)としては、具体的には、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0041】
また、1分子中に4個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(c2−2)としては、具体的には、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
更に、1分子中に5個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(c2−3)としては、具体的には、例えば、下記式(5)で表される化合物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0043】
これらのうち、速硬化性、塗膜の硬度、耐水性、耐溶媒性、耐薬品性等の観点から、下記式(3)で表されるトリメチロールプロパントリアクリレート、下記式(4)で表されるペンタエリスリトールテトラアクリレート、下記式(5)で表される化合物、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0044】
【化2】

【0045】
上記式(3)で表されるトリメチロールプロパントリアクリレートの市販品としては、例えば、M−309(東亞合成社製)、ライトアクリレートTMP−A(共栄社化学社製)、Ebecryl TEMPT(ダイセルサイテック社製)、NKエステル A−TMPT(新中村化学工業社製)が挙げられる。
上記式(4)で表されるペンタエリスリトールテトラアクリレートとしては、例えば、M−450(東亞合成社製)、ライトアクリレートPE−4A(共栄社化学社製)、Ebecryl PETAK(ダイセルサイテック社製)、NKエステル ATMMT(新中村化学工業社製)が挙げられる。
上記式(5)で表されるジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを含む市販品としては、例えば、M−402(東亞合成社製)、ライトアクリレートDPE−6A(共栄社化学社製)、Ebecryl DDHA(ダイセルサイテック社製)、NKエステル A−PPH(新中村化学工業社製)が挙げられる。
上記化合物(c2)は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
本発明においては、上記光硬化性樹脂(C)を用いることにより、本発明の組成物の塗装後の乾燥時間を短縮し、かつ、プラスチック基材との密着性を改善することができる。
これは、上記光硬化性樹脂(C)の硬化に伴い、塗膜に強靭性が付与され、はく離による衝撃が緩和されるためであると考えられる。
【0047】
また、本発明においては、上記光硬化性樹脂(C)の含有量は、密着性の改善と作業性との両立の観点から、上記共重合体(A)100質量部に対して30〜300質量部であるのが好ましく、30〜200質量部であるのがより好ましく、40〜100質量部であるのがさらに好ましい。
同様に、上記(メタ)アクリレート系共重合体(A)と上記光硬化性樹脂(C)との質量比(A/C)は、80/20〜50/50であるのが好ましく、75/25〜55/45であるのがより好ましい。
【0048】
<光重合開始剤(D)>
上記光硬化性樹脂(C)とともに本発明の組成物に用いられる上記光重合開始剤(D)としては、例えば、アルキルフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ベンゾフェノン系化合物のようなカルボニル化合物、硫黄化合物、アゾ化合物、パーオキサイド化合物、ホスフィンオキサイド系化合物等が挙げられる。
より具体的には、例えば、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4′−ビス(ジメチルアミノベンゾフェノン)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、下記式(6)で表される1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドなどの硫黄化合物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイドなどのパーオキサイド化合物:等が挙げられる。
【0049】
【化3】

【0050】
これらのうち、光安定性、光開裂の高効率性、上記共重合体(A)との相溶性、低揮発、低臭気という観点から、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンが好ましい。
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの市販品としては、例えば、イルガキュア184(チバスペシャリティケミカルズ社製)が挙げられる。
【0051】
上記光重合開始剤(D)は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
本発明においては、上記光重合開始剤(D)の含有量は、上記光硬化性樹脂(C)が上記光硬化性アクリル樹脂である場合、上記光硬化性アクリル樹脂100質量部に対して1〜10質量部であるのが好ましく、2〜8質量部であるのがより好ましい。
【0053】
<溶剤、添加剤>
本発明の組成物は、作業性の観点から、更に、溶剤を含有するのが好ましい。
溶剤としては、具体的には、例えば、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0054】
また、本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、種々の添加剤、例えば、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、接着性付与剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤、艶消し剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン系化合物等)、染料、顔料等を含有することができる。
【0055】
充填剤としては、例えば、ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;けいそう土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;カーボンブラック等の有機または無機充填剤;これらの脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル処理物、脂肪酸エステルウレタン化合物処理物が挙げられる。
【0056】
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられる。
帯電防止剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。
【0057】
難燃剤としては、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテルが挙げられる。
接着性付与剤としては、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0058】
レベリング剤としては、例えば、シリコーン系レベリング剤、アクリル系レベリング剤、ビニル系レベリング剤、フッ素系レベリング剤等が挙げられる。
【0059】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、反応容器に上記の各必須成分と任意成分とを入れ、減圧下で混合ミキサー等のかくはん機を用いて十分に混練する方法等により製造することができる。
【0060】
次に、本発明の組成物を用いた積層体(以下、「本発明の積層体」という。)について詳細に説明する。
本発明の第1の態様に係る積層体は、プラスチック基材と、本発明の組成物を塗布して硬化させたプライマー層と、アンダーコート層と、金属の真空蒸着層と、ミドルコート層と、トップコート層とをこの順で有する積層体である。
また、本発明の第2の態様に係る積層体は、プラスチック基材と、本発明の組成物を塗布して硬化させたプライマー層と、トップコート層とをこの順で有する積層体である。
【0061】
上記プラスチック基材としては、熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチックを問わず種々のプラスチック基材を用いることができる。
具体的には、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0062】
本発明の組成物を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、はけ塗り、流し塗り、浸漬塗り、スプレー塗り、スピンコート等の公知の塗布方法を採用できる。
また、本発明の組成物の硬化方法は、上述した造膜助剤に応じて、加熱または紫外線により行うことができる。
【0063】
本発明の組成物の塗布量は特に限定されないが、形成されるプライマー層の膜厚が1〜30μmの範囲内であることが好ましく、2〜25μmの範囲内であることがより好ましく、5〜15μmの範囲内であることが更に好ましい。
【0064】
また、アンダーコート層、金属の真空蒸着層、ミドルコート層およびトップコート層の形成方法および材料については、特に限定されず、従来公知の方法、材料を採用できる。
【0065】
本発明の積層体は、例えば、各種の電気・電子機器、通信機器(例えば、携帯電話)等の外枠、電磁波シールドとして使用することができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
<共重合体(A)の合成>
下記第1表に示す各単量体成分を第1表に示す質量比で混合し、重合開始剤(AIBN(アゾビスイソブチロニトリル))の存在下、メチルエチルケトン中で重合させて、第1表に示される共重合体A1〜A9(40%メチルエチルケトン溶液)を得た。
なお、共重合体A6〜A9は、本発明の組成物で用いる(メタ)アクリレート系共重合体(A)には該当しないものである。
【0068】
【表1】

【0069】
<実施例1〜8、比較例1〜4>
下記第2表に示す各成分を、第2表に示す組成(質量部)で、かくはん機を用いて混合し、各プライマー組成物を得た。なお、下記第2表中、組成比は、各共重合体と各セルロースエステル樹脂との質量比を表す。
得られた各プライマー組成物の意匠性、密着性および耐水性を以下の方法により評価した。その結果を第2表に示す。
【0070】
(意匠性)
塗布面を45度に傾けた状態のポリカーボネート製基板に対して、得られた各プライマー組成物をスプレーで塗布し、サンプル(膜厚:4μm)を得た。
スプレー塗布後、得られたサンプルの塗布面を水平にして、70℃で5分間乾燥させた後、サンプルの塗布面に対して斜め45°の角度からサンプルを肉眼で観察した。
意匠性の評価基準は、塗膜の光沢に優れ、凹凸が少ないものを「○」、凹凸が目立つ等外観上異常があるものを「×」とした。
【0071】
(密着性)
密着性の評価は、碁盤目テープはく離試験によって行った。
具体的には、まず、意匠性の評価で使用したサンプルの塗布面上に、UV硬化型のウレタンアクリレート系塗料を塗布し、塗布後60℃の条件下で3分間熱風乾燥させた後、日本電池社製のGS UV SYSTEMで積算光量が900mJ/cm2となるようにUV照射を行い、UV硬化させ、更に60℃で下記第2表に示す時間(5分間、15分間、60分間)乾燥して、アンダーコート層を形成した。
次いで、アンダーコート層の上に、碁盤目テープはく離試験用の試験体を作製した。
得られた試験体に、1mmの基盤目100個(10×10)を作り、基盤目上にセロハン粘着テープ(幅18mm)を完全に付着させ、直ちにテープの一端をポリカーボネート製基板に対して直角に保ちながら瞬間的に引き離し、完全に剥がれないで残った基盤目の数を調べた。
100個中、95個以上が残ったものを合格とした。
【0072】
(耐水性)
まず、密着性の評価と同様の方法で、意匠性の評価で使用したサンプルの塗布面上にアンダーコート層を形成させた。
次いで、70℃の温水に2時間浸漬させ、その後に、密着性の評価と同様の方法で碁盤目テープはく離試験を行い、耐水性を評価した。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
<実施例9〜15、比較例5〜8>
下記第3表に示す各成分を、第3表に示す組成(質量部)で、かくはん機を用いて混合し、各プライマー組成物を得た。なお、下記第3表中、組成比は、各共重合体と光硬化性樹脂との質量比を表す。
得られた各プライマー組成物の意匠性および密着性を実施例1と同様の方法により評価した。その結果を第3表に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
【表5】

【0078】
上記第2表および上記第3表に示す各成分は、下記のとおりである。
・共重合体(A1)〜(A8):第1表に示すもの
・セルロースエステル樹脂(B1):セルロース・アセテート・ブチレート(CAB−381−01、イーストマンケミカルプロダクト社製)
・セルロースエステル樹脂(B2):セルロース・アセテート・プロピレート(CAP−504−0.2、イーストマンケミカルプロダクト社製)
・光硬化性樹脂(C1):トリメチロールプロパントリアクリレート(M−309、東亞合成社製)
・光重合開始剤(D):1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184(チバスペシャリティケミカルズ社製)
【0079】
上記第2表および上記第3表に示す結果から明らかなように、本発明の組成物で用いる(メタ)アクリレート系共重合体(A)に該当しない共重合体(A6)〜(A8)を用いて調製した比較例1〜3および比較例5〜7のプライマー組成物は、いずれもプラスチック基材との密着性および耐水性に劣ることが分かり、特に、比較例1および5のプライマー組成物については、意匠性にも悪影響を与えることが分かった。
また、本発明の組成物で用いる造膜助剤を用いずに調製した比較例4のプライマー組成物は、プラスチック基材との密着性および耐水性に劣ることが分かった。
更に、本発明の組成物で用いる(メタ)アクリレート系共重合体(A)に該当しない共重合体(A9)を用いて調製した比較例8のプライマー組成物は、プラスチック基材との密着性は優れるものの、耐水性が劣ることが分かった。
【0080】
一方、本発明の組成物で用いる(メタ)アクリレート系共重合体(A)に該当する共重合体(A1)〜(A5)を用いて調製した実施例1〜15のプライマー組成物は、いずれも優れた意匠性を保持し、難接着基板であるポリカーボネート製のプラスチック基材との密着性を改善し、また耐水性も良好となることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート系共重合体(A)および造膜助剤を含有するプラスチック用プライマー組成物であって、
前記(メタ)アクリレート系共重合体(A)が、水酸基を有さず、ガラス転移点が50〜75℃であり、かつ、重量平均分子量が10000〜60000であり、
前記造膜助剤が、セルロースエステル樹脂(B)、または、光硬化性樹脂(C)および光重合開始剤(D)であるプラスチック用プライマー組成物。
【請求項2】
前記セルロースエステル樹脂(B)が、セルロース・アセテート・ブチレートまたはセルロース・アセテート・プロピレートである請求項1に記載のプラスチック用プライマー組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリレート系共重合体(A)および前記セルロースエステル樹脂(B)の質量比(A/B)が、70/30〜90/10である請求項1または2に記載のプラスチック用プライマー組成物。
【請求項4】
前記光硬化性樹脂(C)が、1分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有するポリエステルアクリレートである請求項1に記載のプラスチック用プライマー組成物。
【請求項5】
前記光重合開始剤(D)が、アルキルフェノン系化合物である請求項1または4に記載のプラスチック用プライマー組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリレート系共重合体(A)および前記光硬化性樹脂(C)の質量比(A/C)が、80/20〜50/50である請求項1、4および5のいずれかに記載のプラスチック用プライマー組成物。

【公開番号】特開2011−21164(P2011−21164A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169820(P2009−169820)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】