説明

プラスチック製光ファイバの端面処理方法

簡易な処理のみで、接続損失が低く抑制され、かつコネクタの着脱を繰り返した場合であっても接続損失の増加が抑制されるプラスチック製光ファイバの端面処理方法の提供。フェルールに挿通固定されたプラスチック製光ファイバの端面に、重合体組成物液を塗布し、該重合体組成物を硬化させて塗膜を形成する端面処理方法であって、JIS−C−5961に規定された500回着脱試験において、接続損失の増加が1dB以下であることを特徴とする、プラスチック製光ファイバの端面処理方法であり、特に前記塗膜材質の硬さが、JIS−K−7215に規定されたデュロメータD硬さで90以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製光ファイバの端面処理方法に関する。好ましくは軟質の重合体による塗膜をプラスチック製光ファイバの端面に形成する端面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信の高度化にともない、光ファイバを通信媒体として採用することが急速に普及しつつある。これは従来の基幹回線のみならず、利用者末端にまで光ファイバの利用が浸透していることによる。この利用者末端における光ファイバの利用のためには、コネクタを用いる方法が簡便で好ましい。具体的には、光ファイバどうしの接続、光ファイバと機器との接続にコネクタを用いる方法である。また、光ファイバとしては、比較的大口径を有し、かつ柔軟性に富み、結果として取扱いが容易であるプラスチック製光ファイバの普及が近年著しい。
【0003】
しかし、このコネクタを用いた光ファイバの接続には接続損失の低減および信頼性の確保という問題がある。ここで信頼性を確保するとは、具体的にコネクタの着脱を繰り返した場合において、接続損失の値がなるべく増加しないことを意味する。これらの問題は特に光ファイバの端面が比較的柔らかく、端面の損傷に基づく接続損失の増加が発生しやすいプラスチック製光ファイバにおいて重要である。前述の問題のうち接続損失の低減については、シリコーンゲルパッドを利用する技術が特開平10−111429号公報に提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特開平10−111429号公報に記載された技術を用いても、信頼性が確保しにくく、コネクタの着脱を繰り返した際に、接続損失が増加する場合があった。この接続損失の増加は、特に、光ファイバとしてプラスチック製光ファイバを採用した際に多く見られた。またシリコーンゲルパッドを事前に加工する必要があり、作業性が必ずしも高いものではなかった。
【0005】
そこで、本発明においては、簡易な処理のみで、接続損失が低く抑制され、かつコネクタの着脱を繰り返した場合であっても接続損失の増加が抑制される、プラスチック製光ファイバの端面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フェルールに挿通固定されたプラスチック製光ファイバの端面に、重合体組成物液を塗布し、該重合体組成物を硬化させて塗膜を形成する端面処理方法であって、JIS−C−5961に規定された500回着脱試験において、接続損失の増加が1dB以下であることを特徴とする、プラスチック製光ファイバの端面処理方法を提供する。本発明の端面処理方法によれば、簡易な処理のみで、接続損失が低く抑制され、かつコネクタの着脱を繰り返した場合であっても接続損失の増加が抑制される。
【0007】
ここで前記塗膜材質の硬さが、JIS−K−7215に規定されたデュロメータD硬さで90以下であることが好ましい。形成される塗膜が柔らかいと、塗膜表面に異物が存在してもその影響が少なく、特に傷がつきにくく好ましい。また、重合体組成物の硬化が架橋型硬化であることが、塗膜の耐久性が高く好ましい。
【0008】
また、重合体組成物がウレタン系樹脂、ウレタン型フッ素系樹脂またはシリコーン系樹脂であることが、良好な塗膜が形成しやすく好ましい。さらに、プラスチック製光ファイバがアクリル系樹脂を構成要素として有することが、塗膜との組み合わせにおいて好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の端面処理方法によれば、簡易な処理のみで、接続損失が低く抑制され、かつコネクタの着脱を繰り返した場合であっても接続損失の増加が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、プラスチック製光ファイバはフェルールに挿通固定される。ここでフェルールは、コネクタ(光コネクタ)の1つの部材として、光ファイバを保持、固定するために用いられる。フェルールとしては、金属製、セラミックス製、ガラス製、樹脂製等の種々の材質のものが採用される。この金属の例としては、ステンレス鋼、金属ニッケル、ニッケル合金等が挙げられる。またセラミックスの例としては、ジルコニア等が挙げられる。またガラスの例としては、結晶化ガラス等が挙げられる。また樹脂の例としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂、液晶樹脂等が挙げられる。これらの材料のうち、樹脂製のものが、加工が容易であり、成形精度が高く、かつ安価であることから好ましい。
【0011】
本発明におけるプラスチック製光ファイバのプラスチックとしては、アクリル系樹脂、フッ素樹脂等の樹脂が挙げられる。プラスチック製光ファイバの導光部に用いる樹脂としては、フッ素原子または重水素原子を導入してC−H結合を減らして、可視光から近赤外領域における伝送損失を低減させたものが好ましい。導光部に用いる樹脂の具体例としては、重水素化メタクリル酸メチル(MMA−d8)、トリフルオロ重水素化メタクリル酸メチル(MMA−d5F3)等の単量体を重合させて得られたアクリル系樹脂、パーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)、パーフルオロ(ジメチルジオキソール)等の単量体を重合させて得られたフッ素樹脂が挙げられる。また鞘(被覆)部に用いる樹脂としては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ABS樹脂、EVA樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン系樹脂)、フッ素樹脂、変性PPO樹脂等が挙げられる。
【0012】
本発明においてプラスチック製光ファイバとしては、アクリル系樹脂を構成要素として有する光ファイバが、後述する軟質の塗膜との密着性が良好であることから好ましい。ここで構成要素として有するとは、光ファイバの導光部および/または鞘(被覆)部に、当該樹脂が用いられていることを意味する。
【0013】
具体的に上記プラスチック製光ファイバとしては、導光部および鞘部がアクリル系樹脂製の光ファイバ、導光部がフッ素樹脂製でありかつ鞘部がアクリル系樹脂製である光ファイバ等が例示できる。特に導光部がフッ素樹脂製でありかつ鞘部がアクリル系樹脂製であるものが、伝送損失が低く、かつ塗膜との密着性にも優れ、結果として着脱の繰り返しによっても接続損失が増加しにくいことから好ましい。なお導光部に用いるフッ素樹脂としては、透明性に優れ、伝送損失が低く(例えば600〜1300nmの波長領域において100dB/km以下の伝送損失)、他の光学的特性にも優れるために、主鎖に脂肪族環構造を有する含フッ素樹脂が好ましい。
【0014】
本発明における重合体組成物液とは、後述する重合体を含有する液体である。この重合体組成物液は、溶剤により希釈された液であっても、溶剤を含まない液であってもよいが、作業性の点で低粘度が好ましいことから、溶剤により希釈された液であることが好ましい。ただし溶剤を用いた場合に、重合体は溶剤に溶解していても、分散していてもよい。
【0015】
この溶剤としては、芳香族炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、含フッ素溶剤等が挙げられる。ただし、芳香族炭化水素系溶剤としては、トルエン、キシレン等が例示できる。アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール等が例示できる。ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が例示できる。エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等が例示できる。含フッ素溶剤としては、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン等が例示できる。
【0016】
上記溶剤は1種のみを単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよいが、後述する重合体が任意に均質な組成で溶解できるものを選択することが好ましい。また溶剤を用いる場合、均質で表面が滑らかな塗膜が形成しやすい点から、比較的高沸点の溶剤を選択することが好ましく、具体的にその沸点としては、80〜150℃の範囲が好ましい。
【0017】
本発明における重合体とは、透明で散乱が少なくかつ所定の硬さを有することが好ましく、有機系重合体(樹脂)であることが好ましい。ここで、重合体は、反応性重合体であっても非反応性重合体であってもよいが、塗膜の耐久性の点から反応性重合体であることが好ましい。ここで反応性重合体とは、例えば主剤と硬化剤の組み合わせ等の2または3以上の原料を混合して得られる重合体、または紫外光、湿気により硬化する1液型硬化性組成物からなる重合体をいい、架橋型の硬化で得られる重合体を意味する。
【0018】
前記の重合体としては、例えばウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、(非ウレタン系の)アクリル系樹脂、ウレタン型フッ素系樹脂等が挙げられる。このうちウレタン系樹脂としては、2液硬化型ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂(UV硬化型ウレタン樹脂)等が例示できる。またウレタン型フッ素系樹脂としては、水酸基を有する含フッ素樹脂が好ましく、水酸基を有する単量体とフッ素系単量体とを共重合して得られる含フッ素樹脂がより好ましい。ただし、これらはイソシアネート系硬化剤とともに用いる。ここで水酸基を有する単量体の例としては、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエステルが挙げられる。またフッ素系単量体の例としては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンが挙げられる。このようなウレタン型フッ素系樹脂の具体例としては、商品名「ルミフロン(Lumiflon)」(旭硝子社製)、商品名「ゼッフル(Zeffle)」(ダイキン工業社製)が挙げられる。これらの樹脂のうち、ウレタン系樹脂、ウレタン型フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂が、特にはウレタン系樹脂およびウレタン型フッ素系樹脂が、接続損失が低く、塗膜の耐久性が良好である点で好ましい。
【0019】
また重合体組成物液には、必要に応じて添加剤(助剤)として、酸化防止剤、熱重合防止剤等の安定剤類;レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、顔料分散剤、帯電防止剤、防曇剤等の界面活性剤類;近赤外線吸収剤、紫外線吸収剤等の光線吸収剤等が適宜配合されていてもよい。特にシリコーンオイル等の潤滑剤が配合されると、得られた塗膜が保護されやすく好ましい。具体的には、コネクタを長期接続した後に他の場所に差し替える場合に、光ファイバの端面から塗膜が剥離することが防止できる。
【0020】
前述の重合体組成物液としては、具体的には付加反応硬化型室温加硫(RTV)シリコーンゴム、縮合反応硬化型室温加硫(RTV)シリコーンゴム、UV硬化型室温加硫(RTV)シリコーンゴム、UV硬化型ウレタン樹脂および2液硬化型ウレタン樹脂から選ばれる1種以上の樹脂の溶剤で希釈した、または溶剤で希釈しない液が、良好な塗膜が形成しやすい点で好ましい。この重合体組成物液の固形分濃度(不揮発分濃度)は、5〜100質量%が好ましい。ただし固形分濃度が100質量%とは、溶剤を用いない場合を意味する。また重合体組成物液の20℃における粘度は、1〜50,000mPa・sが好ましく、5〜2,000mPa・sがより好ましい。
【0021】
本発明においては、プラスチック製光ファイバの端面に、前記重合体組成物液を塗布し、前記重合体組成物を硬化させて塗膜を形成する。
この塗布方法としては、公知の塗布方法が採用される。具体的には、ディップコート法、インクジェットプリント法、フローコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアロールコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、フローコート法等が例示される。このうち特別な工具の準備が不要であり、作業性が高いことからディップコート法、インクジェットプリント法またはスプレーコート法が好ましい。
【0022】
また前記硬化方法としては、熱および/または光による硬化方法が採用される。ここで硬化は、熱を加えて溶剤を蒸発させる、いわゆる乾燥を含む。しかし本発明において重合体の硬化は、単なる乾燥よりも架橋型の硬化であることが好ましい。すなわち前記の反応性重合体を採用し、これを熱および/または光により硬化させることが、塗膜の耐久性が高くなることから好ましい。
【0023】
また熱硬化型樹脂(反応性重合体)を用いた場合には、所定の硬化温度まで加熱して樹脂を硬化させる。この熱による硬化の際の熱源としては、熱風循環式オーブン、ハロゲンランプ、赤外線ランプ等が使用できる。また光による硬化は、紫外線による硬化を採用することが好ましい。この際の紫外線源としてはキセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等が使用できる。
【0024】
本発明においては、前述のように重合体組成物液を塗布し、重合体組成物を硬化させて塗膜を得る。ここで前記塗膜材質の硬さが、JIS−K−7215に規定されたデュロメータD硬さ(ショアD硬度)で、90以下であることが好ましく40以下がより好ましく、同じくA硬さで80(D硬さ30)以下が特に好ましい。また耐久性の観点から、硬さはA硬さで30以上が好ましく、50以上がより好ましい。ただし塗膜材質の硬さとは、基材の影響を除いた重合体のみに基づく硬さを測定する。形成される塗膜が柔らかいと、塗膜表面に異物が存在してもその影響が少なく、特に傷がつきにくく好ましい。ここで異物とは、数μmから数十μm程度の大きさのもので、主には大気中の粉塵、繊維である。
【0025】
塗膜が柔らかいことにより、これらの異物が塗膜表面に存在した場合であっても、塗膜が弾性的に変形して、光ファイバ端面自体は保護される。また塗膜が柔らかいことにより、塗膜自体に傷がつきにくく耐擦傷性が高く好ましい。また塗膜が自己修復性を有することが特に好ましい。ここで自己修復性を有するとは、異物により塗膜表面に生じた凹凸が、経時的に減少することをいう。自己修復性を有する塗膜の例を説明する。例えば、着脱試験の初期に異物により塗膜表面に凹凸が生じた場合に、着脱を繰り返すにしたがって凹凸は減少し、最終的には凹凸がほとんど確認できなくなる。
【0026】
本発明における端面処理方法の具体例について以下に述べる。プラスチック製光ファイバをフェルールに挿通固定し、コネクタを組み立てる。フェルールの端面においてプラスチック製光ファイバを切断する。切断された光ファイバの端面の研磨は行わなくてもよいが、行うことが好ましい。光ファイバの端面はフェルールの端面と同一平面をなしていてもよく、光ファイバの端面がわずかに突出していてもよい。光ファイバの端面の研磨は、2または3段階の粗さの研磨紙を用いて湿式または乾式で研磨することが好ましい。この端面に重合体組成物液を塗布する。例えばウレタンアクリレート系樹脂の10質量%メチルエチルケトン溶液をディップコート法で塗布する。
【0027】
重合体組成物液の塗布の以前にフェルール単独でまたはフェルールと光ファイバとの双方にさらに前処理を行ってもよい。前処理としては、コロナ放電処理、UVオゾン処理、プライマー処理が例示できる。これらの前処理は1種類の処理のみを行ってもよく、2種類以上の処理を組み合わせて行ってもよい。これらの前処理を行うことにより塗膜とフェルールまたは光ファイバとの密着性をより強固にできる。塗膜の密着性の評価方法としては、碁盤目試験(cross cut test)が挙げられる。
【0028】
その後加熱および/または光照射により重合体を硬化させる。この硬化して得られる塗膜の厚さは、5〜300μmが好ましく、50〜150μmがより好ましい。ここで重合体組成物液の固形分濃度を調整することにより、塗膜の厚さが調節できる。なお塗布は1回のみでも数回繰り返して行ってもよい。重合体組成物液の塗布の際、フェルールの端面以外の部分、すなわち側面には、塗膜が形成されないようにすることが好ましい。これは成形精度の高いフェルールの側面に塗膜が付着することにより、挿入に悪影響を与えないためである。具体的には側面をマスキングする、または重合体組成物液を塗布後直ちに液をきれいに拭き取る等の方法が挙げられる。以上の作業により塗膜で保護された端面を有するプラスチック製光ファイバが得られる。
【0029】
本発明において、各種性能の評価は以下の測定方法を採用した。接続損失は、JIS−C−5961(項目6.1)に記載された方法4(挿入法B)に規定された挿入損失の評価方法に準拠した方法で測定する。また着脱による接続損失の増加は、JIS−C−5961(項目7.3)に規定された繰返し動作の評価方法(繰り返し回数は500回または1000回)に準拠した方法で測定する。本発明における上記着脱試験後の接続損失の増加は、1dB以下であるが、0.5dB以下が好ましく、0.3dB以下が特に好ましい。
【0030】
また塗膜の密着性は以下の碁盤目試験で測定する。基板(例えばフェルールまたは光ファイバと同じ材質)に、必要に応じて前処理を行い、厚さが50μmとなるように塗膜を形成する。カッターを用いて1mm間隔で塗膜を切断し、10個×10個で合計100個の切断片を得る。塗膜にセロハン製テープを密着させた後にセロハン製テープを除去する。このとき基板上に残った切断片の数を数える。評価は、基板から剥離した切断片がなく100個全部が基板に残った場合をA、基板から剥離した切断片が1〜49個の場合をB、基板から剥離した切断片が50〜99個の場合をC、基板から全ての切断片が剥離した場合をDとした。
【実施例】
【0031】
以下に、具体的な実施例により本発明の詳細を述べる。プラスチック製光ファイバとしては、導光部がフッ素樹脂製であり、かつ鞘部がアクリル系樹脂製である屈折率分布型プラスチック製光ファイバ(商品名「ルキナ(Lucina)」、旭硝子社製)を用いた。フェルールは液晶樹脂製のものを用い、コネクタとしてはSCコネクタを用いた。コネクタを組み立てて、光ファイバの端面を切断し、9μm、1μm、0.3μmの3種類の研磨紙を用いて湿式で光ファイバの端面を研磨した。顕微鏡を用いて光ファイバの端面を観察したところ、平滑な端面であった。以上のフェルールに挿通固定され研磨処理が端面に施された光ファイバを有するコネクタを準備し、試験を実施した。
重合体組成物液(1)〜(5)としては、以下のものを準備した。
【0032】
[重合体組成物液(1)、(2)]
水酸基価が200mgKOH/gのポリカプロラクトンポリオールを20質量部、水酸基価が540mgKOH/gのポリカプロラクトンポリオールを80質量部、光安定剤として旭電化社製「MARK LA−77」を0.4質量部、紫外線吸収剤としてチバガイギー社製の「TINUVIN 328」を0.5質量部、酸化防止剤としてチバガイギー社製の「IRGANOX 1010」を0.4質量部、および赤外線吸収剤として日本化薬社製の「IRG−002」を0.1質量部を、80℃で2時間混合し、脱泡してポリオールシステム液とした。またイソシアネート基含有量21.4質量%のイソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネートを100質量部およびジブチル錫ジラウレートを0.003質量部を混合してイソシアネートシステム液とした。
【0033】
この両システム液をイソシアネートインデックス(水酸基100モルに対するイソシアネート基の割合)で95となるように撹拌混合し、直ちにメチルエチルケトンにより固形分濃度が10質量%である重合体組成物液(1)を調製した。また同様に固形分濃度が20質量%である重合体組成物液(2)を調製した。なお前記両システム液を混合し、希釈せずに硬化させ10cm×10cm×2cmの試験片を作成し、デュロメーター(D型)で硬さを測定したところ、硬さは85であった。
【0034】
[重合体組成物液(3)]
フッ素系樹脂として、旭硝子社製の商品名「ルミフロンLF600X」をイソシアネート系硬化剤とともに用いた。これをキシレンで希釈し、固形分濃度を20質量%とした重合体組成物液(3)を調製した。デュロメーター(A型)硬さは65であった。
【0035】
[重合体組成物液(4)]
RTVシリコーンゴムとして、信越化学社製の商品名「KE108−2液タイプ」を用いた。これをアセトンで希釈し、固形分濃度を20質量%とした重合体組成物液(3)を調製した。デュロメーター(A型)硬さは31であった。
【0036】
[重合体組成物液(5)]
紫外線硬化型ウレタンアクリレートとして、ナトコ社製の商品名「UV自己治癒性クリャー」を用いた。これをキシレンで希釈し、固形分濃度を10質量%とした重合体組成物液(3)を調製した。デュロメーター(D型)硬さは50であった。
【0037】
UVオゾン処理は、以下のように行った。光ファイバを挿通固定したコネクタのフェルールの端面に、セン特殊光源社製のUVオゾン処理装置(PL7−200)を用いて、10分間、UVオゾン処理を行った。
プライマー処理には、以下のプライマー(1)、(2)を用いた。
プライマー(1)としては、フッ素樹脂塗料(旭硝子社製の商品名「ルミフロンFE3000」)をメチルエチルケトンで希釈し固形分濃度を0.2質量%としたものを用いた。プライマー(2)としては、アクリル系エポキシシラン(信越化学社製の商品名「FS−10」)を、イソプロピルアルコール/酢酸イソブチル(質量混合比9/5)混合溶液で希釈し固形分濃度を0.06質量%としたものを用いた。
【0038】
接続損失の評価は、以下のように行った。光源は安藤電気社製のAQ4215(085)LED UNIT、パワーメータは安藤電気社製のAQ2730 OPM UNIT、励振器はアンリツ社製のMODE SCRAMBLER MZ106Cを使用した。また塗膜の膜厚の測定は、塗膜の一部を除去した後、レーザーテック社製ブルーレーザー顕微鏡(VL2000)を用いて測定した。
【0039】
(比較例1)
研磨処理を施した光ファイバを有するコネクタに重合体組成物液を塗布せずに、着脱試験を行った。着脱試験前の接続損失は0.5dBであり、500回の着脱試験後の接続損失は1.5dBであり、1.0dBの接続損失の増加となった。
【0040】
(実施例1)
研磨処理を施した光ファイバを有するコネクタのフェルールの端面(光ファイバ端面も同時に処理)にディップコート法で重合体組成物液(1)を1回塗布した。1時間室温で放置(室温乾燥)した後、60℃の熱風循環式オーブンで24時間かけて重合体の硬化を行い塗膜を形成した。塗膜の膜厚は34μmであった。着脱試験前の接続損失は0.4dBであり、500回の着脱試験後の接続損失は0.5dBであり、0.1dBの接続損失の増加となった。またこの塗膜とアクリル系樹脂との密着性を碁盤目試験により測定したところ、評価はBであった。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同様にフェルールの端面にディップコート法で重合体組成物液(1)を塗布し、1時間室温で放置(室温乾燥)した。この塗布と室温乾燥をさらに2回繰り返した。その後、60℃の熱風循環式オーブンで24時間かけて重合体の硬化を行い、実施例1よりも厚い塗膜を形成した。塗膜の膜厚は101μmであった。着脱試験前の接続損失は0.4dBであり、500回の着脱試験後の接続損失は0.6dBであり、0.2dBの接続損失の増加となった。
【0042】
(実施例3)
重合体組成物液として重合体組成物液(2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフェルールの端面に塗膜を形成した。塗膜の膜厚は70μmであった。着脱試験前の接続損失は0.3dBであり、500回の着脱試験後の接続損失は0.43dBであり、0.13dBの接続損失の増加となった。
【0043】
(実施例4)
研磨処理を施した光ファイバを有するコネクタのフェルールの端面に、プライマー(1)をディップコート法で塗布し室温で30秒間乾燥させた。塗布と乾燥を合計で3回繰り返した。次にUVオゾン処理を行った。さらにプライマー(2)をディップコート法で塗布し室温で乾燥させた。その後重合体組成物液(2)を用いて実施例3と同様にしてフェルールの端面に塗膜を形成した。塗膜の膜厚は71μmであった。着脱試験前の接続損失は0.37dBであり、1000回の着脱試験後の接続損失は0.55dBであり、0.18dBの接続損失の増加となった。またこの塗膜とアクリル系樹脂との密着性を碁盤目試験により測定したところ、評価はAであった。
【0044】
(実施例5)
研磨処理を施した光ファイバを有するコネクタのフェルールの端面にUVオゾン処理を行った。その後重合体組成物液(3)をディップコート法で1回塗布した。24時間室温で放置、乾燥し重合体を硬化させてフェルールの端面に塗膜を形成した。塗膜の膜厚は60μmであった。着脱試験前の接続損失は0.45dBであり、1000回の着脱試験後の接続損失は1.00dBであり、0.55dBの接続損失の増加となった。またこの塗膜とアクリル系樹脂との密着性を碁盤目試験により測定したところ、評価はAであった。
【0045】
(実施例6)
重合体組成物液(2)の代わりに重合体組成物液(4)を使用した以外は、実施例4と同様にしてフェールールの端面に塗膜を形成した。塗膜の膜厚は72μmであった。着脱試験前の接続損失は0.51dBであり、500回の着脱試験後の接続損失は1.00dBであり、0.49dBの接続損失の増加となった。またこの塗膜とアクリル系樹脂との密着性を碁盤目試験により測定したところ、評価はBであった。
【0046】
(実施例7)
研磨処理を施した光ファイバを有するコネクタのフェルールの端面にUVオゾン処理を行った。その後重合体組成物液(5)をディップコート法で1回塗布し室温で1時間放置した。3kWのUVランプ(2000mJ/cm)により30秒間UV処理し、フェルールの端面に塗膜を形成した。塗膜の膜厚は35μmであった。着脱試験前の接続損失は0.58dBであり、1000回の着脱試験後の接続損失は0.97dBであり、0.39dBの接続損失増加となった。またこの塗膜とアクリル系樹脂との密着性を碁盤目試験により測定したところ、評価はAであった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、プラスチック製光ファイバの端面処理方法にかかり、簡易な処理のみで、接続損失が低く抑制され、かつコネクタの着脱を繰り返した場合であっても接続損失の増加が抑制されるため、着脱回数の多いコネクタに好適な処理方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルールに挿通固定されたプラスチック製光ファイバの端面に、重合体組成物液を塗布し、該重合体組成物を硬化させて塗膜を形成する端面処理方法であって、JIS−C−5961に規定された500回着脱試験において、接続損失の増加が1dB以下であることを特徴とする、プラスチック製光ファイバの端面処理方法。
【請求項2】
前記塗膜材質の硬さが、JIS−K−7215に規定されたデュロメータD硬さで90以下である請求項1に記載のプラスチック製光ファイバの端面処理方法。
【請求項3】
前記重合体組成物の硬化が、架橋型硬化である請求項1または2に記載のプラスチック製光ファイバの端面処理方法。
【請求項4】
前記重合体組成物が、ウレタン系樹脂、ウレタン型フッ素系樹脂またはシリコーン系樹脂である請求項1、2または3に記載のプラスチック製光ファイバの端面処理方法。
【請求項5】
前記プラスチック製光ファイバがアクリル系樹脂を構成要素として有する請求項1、2、3または4に記載のプラスチック製光ファイバの端面処理方法。

【国際公開番号】WO2005/022226
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513464(P2005−513464)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012305
【国際出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】