説明

プラズマアーク溶接方法

【課題】簡便な方法により、再現性よく安定した裏ビード形成が可能であり、ブローホールの発生がなく良好な溶接ビード品質を得ることが可能なプラズマアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】非キーホール溶接状態と、キーホール溶接状態とを周期的に変化させるプラズマアーク溶接方法であって、プラズマガスの流量を制御して非キーホール溶接状態とし、非キーホール溶接状態時のプラズマガスに添加用プラズマガスを周期的に供給することにより、プラズマガスの圧力を瞬間的に大きくしてキーホール溶接状態とすることを特徴とするプラズマアーク溶接方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマアーク溶接方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスシールドアーク溶接施工の分野において、非消耗電極式のガスシールドアーク溶接方法としては、プラズマアーク溶接方法が広く利用されている。プラズマアーク溶接方法は、タングステン電極などの非消耗電極の先端周囲で発生するプラズマアークが、プラズマガスとともに冷却された拘束ノズルから噴出される。これにより、ティグアーク溶接と比較して、集中した非常に高いエネルギー密度のアークを得ることが出来る。
【0003】
従って、プラズマアーク溶接方法では、ティグ溶接と比べて、ビード幅が狭く深い溶け込みが得られ、また比較的速い速度の溶接が可能となる。また、プラズマアーク溶接方法は、非消耗電極式であるため、マグ溶接と異なりスパッタの発生が殆ど無く、美麗な溶接結果が得られるなどの多くの利点がある。
【0004】
ところで、プラズマアーク溶接方法では、拘束ノズルから一定流量で流されるプラズマガスの流量や溶接電流の値の調整により、母材の裏面までプラズマアークが貫通し、裏ビードを形成しながら母材の溶融と接合が行われるキーホール溶接と、プラズマアークを母材裏面までは貫通させず、プラズマアークの熱による母材表面への熱伝導のみで溶融する非キーホール溶接とに大別される。
【0005】
一般的に、溶接電流値とプラズマガス流量とを大きくすることによってキーホールが形成されることが知られている。しかしながら、板厚が厚い母材にキーホール溶接を行おうとする場合、母材の溶融量が大きくなりすぎるため、重力に逆らえずに溶け落ちを生じ易くなり、安定した裏ビードの形成が困難となる。さらに、繰り返しの再現性が悪いことが多く、良好な裏ビードの形成された同一条件で溶接を行った場合であっても溶け落ちや溶け込み不足を生じるという問題がある。
【0006】
また、炭素鋼やステンレス鋼のプラズマキーホール溶接においては、母材の生産ロットによる品質のばらつきにより、同一条件で溶接を行った場合であっても、安定した裏ビードが形成される場合と、溶け落ちや溶け込み不足を生じる場合とがあり、再現性よく安定した品質で施工するのは難しいのが実情である。さらに、板厚が厚い母材をキーホール溶接する場合、溶接ビードの内部に気孔欠陥であるブローホールが生じ易くなるという問題も挙げられる。
【0007】
これらの課題を解決するために、特許文献1のガスパルスプラズマ溶接方法が知られている。
特許文献1に記載のガスパルスプラズマ溶接方法では、パルス電流とパルス状に変動するプラズマガス流量とを組み合わせる方法が開示されている。これにより、水平固定管の円周の溶接において、溶け落ちを生じさせること無く安定してキーホール溶接が可能とされている。
【0008】
特許文献1に記載の方法の特徴は、ピークガス流量期間、すなわちプラズマガス流量が多い期間がベースガス流量期間、すなわちはプラズマガス流量が少ない期間よりも長く設定されていることにある。
【0009】
ところで、一般的なプラズマアーク溶接では、キーホール溶接を行う場合、板厚が厚くなり溶接電流が大きくなってくると、溶融金属の重力方向への溶け落ちが顕著になり、安定した裏ビード形成が困難になることが知られている。
【0010】
したがって、特許文献1に記載の方法において、プラズマガスをピークガス流量での一定流量として流し続けた場合には、容易に溶け落ちを生じてしまうことから、ベースガス流量期間が短いこの方法では、溶融池を重力に抗して安定に保ち、安定して裏ビードを形成しつつも溶け落ちを生じさせずにキーホール溶接を可能とするには、プラズマガスを流す期間、プラズマガス流量ともに厳密な流量制御が必要になるという課題がある。
【0011】
そこで、特許文献1に記載の方法では、高速応答可能な質量式流量計を用いてプラズマガス流量を多段階で制御する方法が示されているが、高価な装置が必要となるという問題や、プラズマガス流量制御が複雑であり実施時のプラズマガス流量の制御や管理が難しくなるという問題があった。なお、特許文献1では、溶接品質において重要な要素であるブローホールの発生有無については評価がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−39259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、簡便な方法により、再現性よく安定した裏ビード形成が可能であり、ブローホールの発生がなく良好な溶接ビード品質を得ることが可能なプラズマアーク溶接方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、非キーホール溶接状態と、キーホール溶接状態とを周期的に変化させるプラズマアーク溶接方法であって、
プラズマガスの流量を制御して非キーホール溶接状態とし、
前記非キーホール溶接状態時の前記プラズマガスに添加用プラズマガスを周期的に供給することにより、プラズマガスの圧力を瞬間的に大きくしてキーホール溶接状態とすることを特徴とするプラズマアーク溶接方法である。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記添加用プラズマガスの供給経路に開閉弁を設け、
前記開閉弁にかかる添加用プラズマガスの圧力を制御するとともに、
前記添加用プラズマガスの供給時間を前記開閉弁の開放時間によって制御することにより、
前記添加用プラズマガスを周期的に供給することを特徴とする請求項1に記載のプラズマアーク溶接方法である。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記開閉弁にかかる前記添加用プラズマガスの圧力が、20kPa以上50kPa以下であることを特徴とする請求項2に記載のプラズマアーク溶接方法である。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記添加用プラズマガスの供給の周期T(sec)と溶接速度v(cm/min)とが、下記式(1)の関係を満たし、
前記添加用プラズマガスの供給時間が前記周期の半分未満であることを特徴とする請求項2又は3に記載のプラズマアーク溶接方法である。
T=a/v、但し、2.3≦a≦6.7 ・・・(1)
【発明の効果】
【0018】
本発明のプラズマアーク溶接方法によれば、被溶接材が厚板の場合に、添加用プラズマガスを供給しない場合に非キーホール溶接状態とし、添加用プラズマガスの供給によるプラズマガスの圧力変動により瞬間的にキーホール溶接状態を形成することにより、溶け落ちを生じない安定した裏ビード形成が可能となる。また、溶接金属中へのブローホールの発生がなく良好な溶接ビード品質を得ることが可能である。
また、添加用プラズマガスを供給しない場合に非キーホール溶接状態としているため、被溶接材のロットによるばらつきの影響を少なくすることが可能であり、安定した裏ビード形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態であるプラズマアーク溶接方法に用いるプラズマアーク溶接装置を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態であるプラズマアーク溶接方法における添加用プラズマガスの周期的な供給を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した一実施形態であるプラズマアーク溶接方法について、これに用いるプラズマアーク溶接装置とともに図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態であるプラズマアーク溶接方法に用いるプラズマアーク溶接装置を示す模式図である。
図1中の符号1は、電極を示す。この電極1は、タングステンあるいは酸化ランタンなどの希土類元素酸化物を少量含むタングステンからなる棒状ものである。
【0022】
この電極1は、拘束ノズル2によって包囲されている。この拘束ノズル2はパイプ状のものであり、電極1に対して間隙を配し、かつ同軸に設けられている。また、図示しないが、冷却水がその内部を循環し、拘束ノズル2が冷却されるようになっている。
【0023】
拘束ノズル2は、さらにシールドキャップ3によって包囲されている。このシールドキャップ3はパイプ状のものであり、拘束ノズル2に対して間隔を配し、かつ同軸に設けられている。
【0024】
電極1と拘束ノズル2との間隙には、プラズマガス4が流れるように構成されている。プラズマガス4の組成は、プラズマガスとして使用できるガス組成であれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、アルゴンガス、アルゴンと水素との混合ガス、またこれらにヘリウムを加えた混合ガスのいずれも使用可能である。
【0025】
また、拘束ノズル2とシールドキャップ3との間隙には、シールドガス5が流れるように構成されている。シールドガス5の組成は、シールドガスとして使用できるガス組成であれば特に限定されるものではなく、一般に用いられる各種ガス組成を自由に使用することができる。
【0026】
また、図示略のパイロットアーク電源からの電流が電極1と拘束ノズル2とに印加されて予備プラズマが点火され、ついで溶接電源6からの電流が電極1と被溶接材(母材ともいう)7とに印加されて、プラズマアーク8が電極1から被溶接材7に流れるように構成されている。
【0027】
被溶接材7としては、一般的な炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金等を用いることができる。
また、被溶接材7の板厚は、継手のルート高さ10mmまで良好に溶接することが出来る。
さらに、被溶接材7の開先形状は、特に限定されるものではなく、I開先、V開先、U開先等の一般的な開先形状を用いることができる。
【0028】
電極1の先端部は、拘束ノズル2の先端部よりも内側の位置に配され、拘束ノズル2の先端部分よりも外側に突出していない状態となっている。これにより、電極1はプラズマガス4に包まれ、酸化性ガスに曝されることがない状態となっている。
また、プラズマガス4は、シールドガス5に包まれ、安定してプラズマアーク8が流れる状態となっている。
【0029】
プラズマガス4は、プラズマガス供給源9からプラズマガス供給経路L1を経て供給されるように構成されている。また、プラズマガス供給経路L1には、流量調整弁10が設けられており、プラズマガス4の流量を制御可能とされている。
【0030】
シールドガス5は、シールドガス供給源11からシールドガス供給経路L2を経て供給されるように構成されている。また、シールドガス供給経路L2には、流量調整弁12が設けられており、シールドガス5の流量を制御可能とされている。
【0031】
また、プラズマガス供給経路L1には、添加用プラズマガス供給経路(供給経路)L3が分岐して設けられており、添加用プラズマガス供給源13から添加用プラズマガスをプラズマガス供給経路L1に供給可能とされている。
なお、添加用プラズマガスの組成は、上記プラズマガス4の組成と同一とすることが好ましい。
【0032】
この添加用プラズマガス供給経路L3には、プラズマガス供給経路L1との接続点の一次側に開閉弁14が開閉自在に設けられている。開閉弁14には開閉弁制御装置15が接続されており、この開閉弁制御装置15によって開閉弁14の開放時間と閉止時間とを制御可能とされている。
なお、開閉弁14は、特に限定されるものではないが、電磁弁を用いることが好ましい。
【0033】
さらに、添加用プラズマガス供給経路L3の開閉弁14の上流側には、圧力調整器16が設けられており、開閉弁14の一次側14aにかかる添加用プラズマガスの圧力を制御可能とされている。
【0034】
次に、上述したプラズマアーク溶接装置を用いた、本発明の一実施形態であるプラズマアーク溶接方法について説明する。
本実施形態のプラズマアーク溶接方法は、非キーホール溶接状態と、キーホール溶接状態とを周期的に変化させる構成となっており、プラズマガス4の流量を制御して非キーホール溶接状態とし、非キーホール溶接状態のプラズマガス4に添加用プラズマガスを周期的に供給することでプラズマガス4の圧力を瞬間的に大きくしてキーホール溶接状態とすることを特徴としている。
【0035】
すなわち、プラズマアーク溶接において、添加用プラズマガスを供給していない状態では、プラズマアーク8が被溶接材7を非貫通である非キーホール溶接状態とする。具体的には、非キーホール溶接状態の条件となるように、流量調整弁10,12を用いてプラズマガス4およびシールドガス5の流量を調整してそれぞれ供給する。これにより、溶け落ちが生じない状態とする。
【0036】
これに対して、添加用プラズマガスを供給している状態では、プラズマアーク8が被溶接材7を貫通するキーホール溶接状態とする(図1を参照)。
本発明では、添加用プラズマガスを周期的に供給する方法に特徴がある。
【0037】
図2は、添加用プラズマガスの周期的な供給を説明するためのタイミングチャートである。図2中、T1は添加用プラズマガスの供給時間を、T2は添加用プラズマガスの停止時間を、Tは供給の周期をそれぞれ示している。
【0038】
図2に示すように、溶接中のプラズマガス供給経路L1中に、添加用プラズマガスを周期的に供給する。具体的には、添加用プラズマガスの供給時間T1と、添加用プラズマガスの供給の停止時間T2とを1周期Tとし、これを連続的に繰り返す。
【0039】
そして、添加用プラズマガスの供給は、図1中に示す開閉弁14を供給時間T1の間、開放状態とすることで行なうことができる。一方、添加用プラズマガスの供給の停止は、開閉弁14を停止時間T2の間、閉止状態とすることで行なうことができる。この際、開閉弁14の開閉状態の制御は、開閉弁制御装置15によって行うことが好ましい。
【0040】
また、本実施形態のプラズマアーク溶接方法では、供給時間T1を停止時間T2よりも短く設定することが好ましい。すなわち、添加用プラズマガスの供給時間T1が周期Tの半分未満であることが好ましい。
【0041】
さらに、後述する実施例での検証結果から、添加用プラズマガスの供給の周期は、溶接速度に合わせて調整することで最適な値を選定することができるとの知見を得た。すなわち、周期T(sec)は、溶接速度v(cm/min)の関数として、T=a/vと表すことができる。ここで、aは係数である。そして、上記係数aが、2.3≦a≦6.7の範囲となるような周期Tと溶接速度vとの組合せにおいて良好な溶接結果を得ることができる。一方、係数aが2.3未満の場合にはプラズマアークが被溶接材(母材)を非貫通となり、6.7を超える場合には溶け落ちや裏ビードの大きさが安定せず形状不良となるため、好ましくない。
【0042】
このように、溶接中のプラズマガス4のプラズマガス供給経路L1中に、周期的にかつ周期Tの半分よりも短い時間のみ開閉弁14を開放状態とすることで添加用プラズマガスを供給することにより、添加用プラズマガスが供給されている瞬間のみプラズマガス4の圧力が大きくなるように、プラズマガス圧力に変動を生じさせることが可能となる。
【0043】
そして、プラズマガス供給経路L1中に添加用プラズマガスが供給されることでプラズマガス圧力が大きくなり、瞬間的にキーホール溶接状態が形成され、裏ビードが形成されるが、添加用プラズマガスの供給は開閉弁14の閉止によってすぐに遮断されるため、非キーホール溶接状態に戻り、溶融池は溶け落ちが生じにくい状態に戻る。
これらの一連の動作を周期的に繰り返すことで、その結果溶け落ちを生じさせずに安定した裏ビード形成が可能となる。
【0044】
従って、本実施形態のプラズマアーク溶接方法では、開閉弁14を開放状態としてプラズマガス供給経路L1中に添加用プラズマガスを供給する際に、瞬間的にキーホール溶接状態を形成することが可能な添加用プラズマガス圧力となるように制御するとともに、添加用プラズマガスの供給時間T1が周期Tの半分よりも短い時間となるように制御することが重要となる。
【0045】
ここで、添加用プラズマガスの圧力は、添加用プラズマガス供給流路L3に設置された開閉弁14が閉止状態の時に、この開閉弁14の一次側14aに掛かる添加用プラズマガスの圧力を圧力調整器16によって制御する。
これにより、図2に示すように、開閉弁14が開放状態となる添加用プラズマガスの供給時間T1の開始時に、瞬間的にプラズマガス圧力を高くすることができる。
【0046】
なお、図2に示すように、プラズマガス圧力は、供給時間T1の最初のみ高く、その後、徐々に低下する。そして、供給時間T1が終了すると開閉弁14を閉止状態とし、停止時間T2の間に再び開閉弁14の一次側14aに掛かる添加用プラズマガスの圧力を圧力調整器16によって制御する。そして、周期Tごとに上記操作を繰り返す。
【0047】
なお、瞬間的にキーホール溶接状態とすることが可能な添加用プラズマガスの供給圧力は、添加用プラズマガスの供給時間T1が周期Tの半分よりも短い時間とするため、厳密に制御する必要がない。具体的には、20kPa以上50kPa以下の範囲とすることが好ましい。
【0048】
ところで、特許文献1に開示されている従来のプラズマアーク溶接方法によれば、ピークガス流量期間(プラズマガス流量が多い期間)がベース期間(プラズマガス流量が少ない期間)よりも長く設定されていた。ピークガス流量期間が長いと言うことは、プラズマアーク溶接中の主たる期間がキーホール溶接状態となっていることを表している。したがって、従来の方法では、キーホール溶接状態は溶け落ちを生じ易いため、厳密な流量制御が必要であった。
【0049】
すなわち、従来の方法では、溶融池を重力に抗して安定に保ち、安定して裏ビードを形成しつつも溶け落ちを生じさせずにキーホール溶接を可能とするには、プラズマガスを供給する際に流量及び時間ともに非常に厳密な流量制御が必要であった。
しかし、プラズマガス流量の変化を瞬時かつ正確に制御することは一般的な制御装置のみでは困難であるため、高速応答可能な質量式流量計などの高価なガス流量制御装置が必要となることが実情であった。また、上記特許文献1では、高速応答質量式流量計を用いて流量調整を行い、プラズマガス流量を多段階で制御する方法が示されており、装置が高価となること、プラズマガス流量制御が複雑であり実施時のプラズマガス流量の制御や管理が難しくなるという課題があった。
【0050】
これに対して、本実施形態のプラズマアーク溶接方法によれば、周期的にかつ周期Tの半分よりも短い時間のみ開閉弁14を開放状態にすることで添加用プラズマガスを供給する構成となっている。これにより、プラズマアーク溶接時のほとんどの期間を非キーホール溶接状態としているため、溶接時の多くの時間帯は溶け落ちを非常に生じにくい状態となっている。
【0051】
そして、添加用プラズマガスが供給されることでプラズマガス圧力が大きくなり、瞬間的にキーホール溶接状態が形成され裏ビードが形成されるが、添加用プラズマガスの供給はすぐに遮断されるため、非キーホール溶接状態に戻り、溶融池は溶け落ちを生じにくい状態に戻ることになる。
【0052】
なお、本実施形態の方法では、瞬間的にキーホール溶接状態ができる程度の添加用プラズマガス圧力にするが、通常の状態のほとんどが非キーホール溶接状態で溶け落ちしにくい状態となっているため、添加用プラズマガスの圧力設定範囲に厳密さはあまり要求されない。
【0053】
このように、本実施形態のプラズマアーク溶接方法は、図1に示すような開閉弁14、開閉弁制御装置(すなわちタイマ)15、圧力調整器16等の安価で簡便な装置と、平易な制御方法で実施可能である。
【0054】
したがって、本実施形態のプラズマアーク溶接方法によれば、裏ビード安定性が高いため、被溶接材の生産ロットが異なる場合であっても、同質の母材に対して再現性よく安定した裏ビード形成が可能となる。また、ブローホールの発生がなく、良好な溶接ビード品質を得ることが可能となる。さらに、シールドガスを用いるプラズマアーク溶接方法における片面溶接において、1回の溶接で安定した裏ビード形成が可能となる。
【0055】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態のプラズマアーク溶接方法では、パルス電流と組み合わせることも可能であり、トーチのウィービング動作と添加ガス周期を同期させて使用することもできる。
【0056】
また、溶接電流や溶接速度などの条件は、対象となる被溶接材の大きさや、要求される溶接品質に合わせて適宜調整することができる。
【0057】
以下に、具体例を示す。
(比較試験1)
図1に示すプラズマアーク溶接装置を用い、下記の条件及び表1に記載の条件を用いて本発明のプラズマアーク溶接方法を実施して溶接状態を確認した。比較として、添加用プラズマガスを供給せず、プラズマガスの流量を一定とした従来のプラズマアーク溶接を行った。結果を表1に示す。
・プラズマガス:アルゴン
・シールドガス:アルゴン(流量:15L/min)
・添加用ガス:アルゴン
・電極:タングステン(φ3.2mm)
・拘束ノズル−母材間距離:5mm
・継手形状:下向きI開先
・母材:炭素鋼(SM490)、平板(板厚:t=9mm)
【0058】
【表1】

【0059】
表1において、裏ビードの安定性は、以下のように評価した。
×:溶け落ち(裏ビード形成)
△:貫通しない(裏ビード形成)
※:再現性なし
◇:裏ビード形状不良(裏ビード形成)
○:裏ビードあり(裏ビード形成)
◎:裏ビード良好(裏ビード形成)
【0060】
表1に示すように、従来方法のプラズマアーク溶接を行なった比較例1では、プラズマガス流量が1リットル/分であり、キーホールが非貫通となり、裏ビードが形成されなかった。
比較例2では、プラズマガス流量を2リットル/分とすることで、キーホール溶接状態となり、裏ビードが形成されたが、同条件で繰り返し溶接を行った場合の再現性が無く、裏ビードが形成される場合と溶け落ちとなる場合が混在した。
比較例3では、さらにプラズマガス流量を3リットル/分であり、溶け落ちが発生してしまい、再現性よく安定した裏ビードを形成するのは難しかった。
【0061】
表1中の試験例1〜20は、本発明のプラズマアーク溶接方法における添加用プラズマガスの圧力、供給の周期、供給時間、溶接速度を変えた結果である。
評価は裏ビード形成と再現性で判定した。
【0062】
表1中の○および◎で示した範囲で安定した裏ビードが形成されたことがわかる。また本方法では裏ビードの形成の再現性がよく、繰り返し溶接を行った場合でも安定して同様の結果が得られた。
【0063】
○および◎とした条件においては、ブローホールの発生は無く、内部欠陥のない良好な溶接品質が得られた。
【0064】
添加用プラズマガスの供給時間や周期は電磁弁で制御した。この電磁弁にかかる添加用プラズマガスの圧力は、20kPa〜50kPaの範囲で安定した裏ビードが形成された。これより圧力が低い場合には非貫通となり、圧力が高い場合には溶け落ちを生じた。
【0065】
添加用プラズマガスの供給の周期は、溶接速度に合わせて調整することで最適な値を選定することができる。周期Tは溶接速度vの関数として、T=a/vで表すことができる。aは係数である。2.3≦a≦6.7の範囲となる周期Tと溶接速度vにおいて良好な結果が得られた。これより係数aが小さい場合には非貫通となり、大きい場合には溶け落ちや裏ビードの大きさが安定せず形状不良となった。
【0066】
添加用ガスの供給時間は、周期の半分未満とすることで良好な結果が得られた。0.005秒においては非貫通となりこれより長い時間供給すればよい。また周期の半分以上の供給時間では溶け落ちが生じた。
【0067】
(比較試験2)
比較試験1と同様に、下記の条件及び表2に記載の条件を用いて本発明のプラズマアーク溶接方法を実施して溶接状態を確認した。比較として、添加用プラズマガスを供給せず、プラズマガスの流量を一定とした従来のプラズマアーク溶接を行った。結果を表2に示す。
・プラズマガス:アルゴン+7%水素(流量:1L/min)
・シールドガス:アルゴン+7%水素(流量:15L/min)
・添加用ガス:アルゴン+7%水素
・電極:タングステン(φ3.2mm)
・拘束ノズル母材間距離:5mm
・継手形状:下向きV開先、ルート高さ10mm
・母材:ステンレス鋼(SUS304)、平板(板厚:t=15mm)
【0068】
【表2】

【0069】
表2において、裏ビードの安定性は、表1と同様に評価した。
×:溶け落ち(裏ビード形成)
△:貫通しない(裏ビード形成)
※:再現性なし
◇:裏ビード形状不良(裏ビード形成)
○:裏ビードあり(裏ビード形成)
◎:裏ビード良好(裏ビード形成)
【0070】
表2に示すように、ステンレス鋼に本方法を適用した場合も試験例21に示されるとおり、板厚15mm平板のルート高さ10mmのV開先において、溶け落ちを生じない安定した裏ビード形成が可能となる。
【0071】
ステンレス鋼のプラズマアーク溶接においてはアルゴンと水素の混合ガスも一般的に使用されているが、本発明ではプラズマガスの種類に寄らず、比較試験2に示すとおりアルゴンと水素の混合ガスを用いた場合においても良好な溶接結果を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のプラズマアーク溶接方法は、被溶接材が厚板の場合において、ブローホールの無い安定した裏ビードの形成が必要な場合や、溶接工程の大幅な効率化が必要な場合に適用することが期待される。
【符号の説明】
【0073】
1…電極
2…拘束ノズル
3…シールドキャップ
4…プラズマガス
5…シールドガス
6…溶接電源
7…被溶接材(母材)
8…プラズマアーク
9…プラズマガス供給源
10,12…流量調整弁
11…シールドガス供給源
13…添加用プラズマガス供給源
14…開閉弁(電磁弁)
15…開閉弁制御装置
16…圧力調整器
L1…プラズマガス供給経路
L2…シールドガス供給経路
L3…添加用プラズマガス供給経路(供給経路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非キーホール溶接状態と、キーホール溶接状態とを周期的に変化させるプラズマアーク溶接方法であって、
プラズマガスの流量を制御して非キーホール溶接状態とし、
前記非キーホール溶接状態時の前記プラズマガスに添加用プラズマガスを周期的に供給することにより、プラズマガスの圧力を瞬間的に大きくしてキーホール溶接状態とすることを特徴とするプラズマアーク溶接方法。
【請求項2】
前記添加用プラズマガスの供給経路に開閉弁を設け、
前記開閉弁にかかる前記添加用プラズマガスの圧力を制御するとともに、
前記添加用プラズマガスの供給時間を前記開閉弁の開放時間によって制御することにより、
前記添加用プラズマガスを周期的に供給することを特徴とする請求項1に記載のプラズマアーク溶接方法。
【請求項3】
前記開閉弁にかかる前記添加用プラズマガスの圧力が、20kPa以上50kPa以下であることを特徴とする請求項2に記載のプラズマアーク溶接方法。
【請求項4】
前記添加用プラズマガスの供給の周期T(sec)と溶接速度v(cm/min)とが、下記式(1)の関係を満たし、
前記添加用プラズマガスの供給時間が前記周期の半分未満であることを特徴とする請求項2又は3に記載のプラズマアーク溶接方法。
T=a/v、但し、2.3≦a≦6.7 ・・・(1)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−200923(P2011−200923A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72317(P2010−72317)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】