説明

プラズマガス処理用装置

【課題】 プラズマリアクタから放電の結果副生するオゾンと窒素酸化物のうち、オゾンを利用して処理対象物質を相乗的に処理するとともに、オゾンおよび窒素酸化物を大気環境基準値以下まで低減し、かつ、放電生成物を除去する層の厚みを薄くできることのできることを特徴とする放電生成物除去層を備えたプラズマガス処理用カートリッジおよび装置を提供する。
【解決手段】 プラズマリアクタの下流に、第1層として、大気圧プラズマの発生に伴って生じる放電生成物であるオゾンと窒素酸化物のうち窒素酸化物は除去可能かつオゾンは通過可能なフィルター、第2層としてオゾン分解触媒、第3層としてオゾンと窒素酸化物をともに除去可能なフィルターとを順に設置することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ放電により処理対象物質を分解処理する過程において生じる放電生成物を除去する方法に関するものである。ここで放電生成物とは、処理対象物質を処理するためにプラズマを発生させた結果副生する、オゾンと窒素酸化物のことである。
【背景技術】
【0002】
近年、揮発性有機化合物などを含有するガスによる大気汚染や人体への影響が注目されている。それら揮発性化合物を含有するガスを処理する技術が数多く提案される中、プラズマ放電、特に非平衡プラズマ放電による揮発性化合物等のガスを処理する技術に注目が集まり、研究が進められ、当該技術に基づいた方法および装置が提案されている。
【0003】
プラズマ放電を利用して処理対象物質の処理を行う場合、原理的に放電副生成物としてオゾンおよび窒素酸化物が生成することはよく知られている。そのため、系外へ放電生成物を放出しないために、プラズマリアクタの下流側で放電生成物を大気環境基準値以下まで除去する必要がある。
【0004】
オゾンを除去する代表的な方法としては、活性炭等の吸着材に吸着させて処理する方法と、金属酸化物からなるオゾン分解触媒を利用して分解除去する手法がある。必然的にオゾンを副生するプラズマガス処理用装置においては、オゾン分解触媒によるオゾンの分解が起こることに伴い処理対象物質の分解が起こることから、効果的に処理対象物質を処理可能できるため、オゾン分解触媒を用いる方が有効である。しかし、オゾン分解触媒は窒素酸化物により活性点が被毒され、オゾン分解能が劣化してしまう。
【0005】
また、オゾンおよび窒素酸化物をすべて吸着処理により除去しようとすると、発生するオゾンの量が大量であるために、短時間で吸着材が吸着飽和に達してしまい、その機能を失う。
【0006】
これまで、オゾンおよび窒素酸化物の混合物を効率よく除去する方法としては特許文献1に記載されているような、オゾン分解触媒の上流および下流側に窒素酸化物を除去する層を挟み込むという方法や、特許文献2に記載されているような、オゾン分解触媒の上流にSiO/Al比が400以上の珪素吸着材を設置するという方法があった。
【特許文献1】特開平3−277367号公報
【特許文献2】特開平9−299746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載される技術では、オゾン分解触媒の前後に設置された窒素酸化物除去層でもオゾンが除去できる構造であるため、上記オゾン分解触媒の上流側の窒素酸化物除去層が速やかに劣化してしまうことと、オゾン分解触媒の上流でオゾンを除去してしまうために、オゾン分解触媒上でのオゾンの分解に伴う処理対象物質の分解を阻害するため、効率的な処理対象物質の処理ができないという欠点がある。特許文献2に記載される技術では、上流側の窒素酸化物除去層の厚みを大きくしなければ、ワンパスでは窒素酸化物を大気環境基準(0.04−0.06ppm)以下まで低減させることができず、オゾン分解触媒とその上流に窒素酸化物を除去するフィルターを設置するだけの構造では、大気環境基準値程度まで放電生成物を低減することは実質上ほぼ不可能であるという欠点があった。
【0008】
そこで、本出願に係る発明の目的は上記課題を解決し、プラズマリアクタから放電の結果副生するオゾンと窒素酸化物のうち、オゾンを利用して処理対象物質を相乗的に処理するとともに、オゾンおよび窒素酸化物を大気環境基準値以下まで低減し、かつ、放電生成物を除去する層の厚みを薄くできることのできることを特徴とする放電生成物除去層を備えたプラズマガス処理用カートリッジおよび装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって本発明は、プラズマ発生部に処理対象物質を流通させることで前記処理対象物質を分解するプラズマガス処理装置において、ガスの流れに対してプラズマリアクタの下流に、第1層として、大気圧プラズマの発生に伴って生じる放電生成物であるオゾンと窒素酸化物のうち窒素酸化物は除去可能かつオゾンは通過可能なフィルター、第2層としてオゾン分解触媒、第3層としてオゾンと窒素酸化物をともに除去可能なフィルター、を順に設置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成された本発明のプラズマガス処理用カートリッジおよび装置によれば、プラズマリアクタから放電の結果副生するオゾンと窒素酸化物のうち、オゾンを利用して処理対象物質を相乗的に処理するとともに、オゾンおよび窒素酸化物を大気環境基準値以下まで低減し、かつ、放電生成物を除去する層の厚みを薄くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
(第1の実施の形態)
本実施の形態に係る、処理対象物質を含有するガスをプラズマリアクタで処理するプラズマガス処理用カートリッジおよび装置は、プラズマリアクタの後段に、ガスの流れに対して上流から、放電生成物のうち、窒素酸化物を除去し、かつ、オゾンは通過することのできる層と、オゾン分解触媒からなる層と、オゾンおよび窒素酸化物を除去することのできる層とを設置したことを特徴とするプラズマ脱臭装置である。
【0013】
プラズマリアクタの後段に、ガスの流れに対して上流から、放電生成物のうち、窒素酸化物を除去し、かつ、オゾンは通過することのできる層と、オゾン分解触媒からなる層と、オゾンおよび窒素酸化物を除去することのできる層とを設置することにより、プラズマリアクタで生成したオゾンおよび窒素酸化物からなる放電生成物を環境基準値(二酸化窒素:0.04−0.06ppm、オゾン(光化学オキシダント):0.06ppm)以下まで除去し、かつ、放電生成物を除去する層の厚みを薄くすることが可能となるとともに、処理対象物質の処理に際し、プラズマリアクタ部による処理と、オゾン分解触媒フィルターにおけるオゾンの分解に伴う処理との相乗効果が得られる。
【0014】
以下に本実施形態に係る処理対象物質を含有するガスを処理するプラズマ脱臭装置について図を用いて説明する。
【0015】
図1に、本実施形態に係るプラズマ脱臭装置の断面図を示す。
【0016】
図1に示す本説明のプラズマ脱臭装置11において、ガスの流れに対してプラズマリアクタ12の下流側に、窒素酸化物除去フィルター13とオゾン分解触媒フィルター14と、オゾンおよび窒素酸化物除去フィルター15が前記記載の順に設置されている。
【0017】
図1に示すプラズマ脱臭装置におけるプラズマ放電に伴う放電生成物の無害化処理は、次のように行われる。処理対象物質を分解除去するためにプラズマリアクタ12でプラズマ放電を発生させると、処理対象物質が分解されるとともに、オゾンやNO、HNO、Nなどの窒素酸化物が副生する。副生したオゾンおよび窒素酸化物のうち、50%以上の窒素酸化物が上記窒素酸化物フィルター13で吸着除去される一方で、オゾンはまったく除去されない。窒素酸化物除去フィルター13を通過したガスは、オゾン分解触媒フィルター14を通過することでオゾンが0.06ppm以下まで分解除去される。オゾン分解触媒14でオゾンを分解除去する過程にともない、処理対象物質の分解も同時に起こる。オゾン分解触媒フィルター14を通過したガスは、オゾンおよび窒素酸化物除去フィルター15を通過することでオゾンは0.01ppm未満に、窒素酸化物のうち、少なくともNOは0.04−0.06ppm以下まで低減される。
【0018】
図1に示す窒素酸化物除去フィルター13としては、オゾンと窒素酸化物のうち、窒素酸化物のみを吸着除去できる、例えば疎水性ゼオライトのような材料が用いられる。オゾン分解触媒フィルター14には、例えばAg、Mn、Niなどの金属酸化物を主成分とするオゾン分解触媒が用いられる。オゾンおよび窒素酸化物除去フィルター15には、活性炭やアルカリを添着した活性炭等、オゾンおよび窒素酸化物を除去可能なものであれば何を用いてもかまわないが、特に、オゾンと窒素酸化物を選択的に除去できるアルカリを添着した活性炭を用いるのが好ましい。
【0019】
本発明の効果を以下に示す実施例により具体的に説明するが、本発明は該実施例により限定されるものではない。
【0020】
(実施例1:プラズマリアクタの後段に放電生成物のうち窒素酸化物のみを除去可能なフィルター、オゾン分解触媒、オゾンおよび窒素酸化物を除去可能なフィルターを設置)
図1に示すプラズマガス処理装置を用い、プラズマ放電に伴い副生するオゾンおよび窒素酸化物の除去効果を求めた。プラズマリアクタ12には、図2に示す構造のプラズマリアクタを用いた。すなわち、高電圧印加電極21、接地電極22はφ1mmの金属ロッド棒で、高電圧印加電極には内径1mm、外径3mmの筒状アルミナからなるバリヤ材を使用した。1対の電極間に設置した誘電体物質は、図3に示す3次元網目構造を有するセラミック23を用いた。上記3次元網目構造を有するセラミックの母材31は121cm、厚さ10mmのアルミナであり、表面に強誘電体物質32としてチタン酸バリウム12.1gをセラミック全面に被覆し、さらに強誘電体物質の表面に吸着材33として疎水性ゼオライトを24.2g被覆した。
【0021】
上記プラズマリアクタの下流に、320cm、厚さ50mmでセル数が200cells/inchの、疎水性ゼオライトを原料とするハニカム、384cm、厚さ60mmでセル数が840cells/inchの、酸化マンガンを主成分とするオゾン分解触媒、192cm、厚さ30mmでセル数が300cells/inchの、アルカリを添着した活性炭をこの順に設置した。
【0022】
上記構成からなるプラズマガス処理装置に、0.59m/minで大気を流通した。次いで高電圧印加電極21と接地電極22との間に電源24より電圧を印加してプラズマ放電を生起させた。このときの電力は58Wとした。プラズマリアクタの下流にオゾンや窒素酸化物を処理する層を何も設置しない場合、オゾンの生成量は12−14ppm、NOの生成量は1.1−1.3ppmであった。NOの生成は0.01ppm以下であった。
【0023】
次に、プラズマリアクタの下流に前記放電生成物除去フィルター層を設置し、プラズマガス処理用装置から排出されたガスをオゾン測定器(1ppm以上の測定には荏原実業 MODEL620、1ppm未満の測定には荏原実業 AET−030Pを使用)および窒素酸化物測定器(ECO PHYSICS CLD700AL)16で測定した結果を図4に示す。300min経過後のオゾン濃度は0.01ppm以下、NO濃度は0.06ppm以下であった。
【0024】
(実施例2:実施例1と同じ構成のもので、それぞれの厚さを変化させたもの)
プラズマリアクタの下流に、512cm、厚さ80mmでセル数が200cells/inchの、疎水性ゼオライトを原料とするハニカム、320cm、厚さ50mmでセル数が840cells/inchの、酸化マンガンを主成分とするオゾン分解触媒、640cm、厚さ100mmでセル数が300cells/inchの、アルカリを添着した活性炭をこの順に設置した。それ以外は実施例1と同じである。プラズマガス処理装置から排出されたガスをオゾン測定器および窒素酸化物測定器で測定した結果を図4に示す。180min経過後のオゾン濃度は検出下限値以下、NO濃度は0.015ppm以下であった。
【0025】
(比較例1:プラズマリアクタの後段に放電生成物のうち窒素酸化物のみを除去可能なフィルター、オゾン分解触媒を設置)
プラズマリアクタの下流に、512cm、厚さが80mmでセル数が200cells/inchの、疎水性ゼオライトを原料とするハニカム、384cm、厚さ60mmでセル数が840cells/inchの、酸化マンガンを主成分とするオゾン分解触媒を設置した。それ以外は実施例1と同じである。プラズマガス処理装置から排出されたガスをオゾン測定器および窒素酸化物測定器で測定した結果を図5に示す。300min経過後のオゾン濃度は0.004ppm以下、NO濃度は0.45ppm程度であった。
【0026】
(比較例2:プラズマリアクタの後段に、放電生成物のうちオゾンおよび窒素酸化物ともに除去可能なフィルターを設置)
プラズマリアクタの下流に、192cm、厚さ30mmでセル数が300cells/inchの、アルカリを添着した活性炭を設置した。それ以外は実施例1と同じである。プラズマガス処理装置から排出されたガスをオゾン測定器および窒素酸化物測定器で測定した結果を図6に示す。60min経過後のオゾン濃度は2ppm、NO濃度は0.4ppm程度であった。
【0027】
(比較例3:プラズマリアクタの後段に放電生成物のうち窒素酸化物のみを除去可能なフィルターを設置)
プラズマリアクタの下流に、320cm、厚さ50mmでセル数が200cells/inchの、疎水性ゼオライトを原料とするハニカムを設置した。それ以外は実施例1と同じである。プラズマガス処理装置から排出されたガスをオゾン測定器および窒素酸化物測定器で測定した結果を図7に示す。60min経過後のオゾン濃度は13ppm、NO濃度は0.45ppm程度であった。
【0028】
このように実施例1の場合、プラズマ放電の結果副生する、オゾンや窒素酸化物という放電生成物を環境基準値以下まで低減可能であるだけでなく、オゾン分解触媒フィルターにおいてオゾンが分解されることにともなう処理対象物質の分解も阻害されない。実施例2の場合においてもオゾンおよび窒素酸化物を大気環境基準値以下まで低減することができた。
【0029】
比較例1の場合、全体として実施例1と同じ体積分を使用しているにもかかわらずNOを大気環境基準値以下まで低減することができていない。比較例2の場合、オゾンおよび窒素酸化物をともに除去可能であるためにオゾン分解触媒フィルター14の前に設置することはできないばかりか、大気環境基準値以下までオゾンおよび窒素酸化物を除去することができない。比較例3の場合、オゾンの除去が全くできないほか、NOを大気環境基準値以下まで低減することができない。また、比較例3の結果より、疎水性ゼオライトは放電生成物のうち窒素酸化物は除去可能であり、かつ、オゾンは通過するという性質を持っているため、オゾン分解触媒フィルターの前部に設置して窒素酸化物のみを除去するフィルター13として適当であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係るプラズマガス処理装置の模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るプラズマガス処理装置におけるプラズマリアクタの模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るプラズマ脱臭処理装置のプラズマリアクタにおける3次元網目状誘電体物質の模式的に示す断面図である。
【図4】実施例1および実施例2に係る窒素酸化物(a)およびオゾン(b)のプラズマガス処理装置からの排出量の経時変化を示したグラフである。
【図5】比較例1に係る窒素酸化物(a)およびオゾン(b)のプラズマガス処理装置からの排出量の経時変化を示したグラフである。
【図6】比較例2に係る窒素酸化物(a)およびオゾン(b)のプラズマガス処理装置からの排出量の経時変化を示したグラフである。
【図7】比較例3に係る窒素酸化物(a)およびオゾン(b)のプラズマガス処理装置からの排出量の経時変化を示したグラフである。
【符号の説明】
【0031】
11 プラズマガス分解装置
12 プラズマリアクタ
13 放電生成物のうち、窒素酸化物を除去し、オゾンは通過するフィルター
14 オゾン分解触媒
15 放電生成物のうち、窒素酸化物およびオゾンを除去可能なフィルター
16 窒素酸化物測定器又はオゾン測定器
21 接地電極
22 高電圧印加電極
23 3次元網目構造誘電体物質
24 電源
31 三次元網目構造誘電体物質
32 強誘電体物質
33 吸着材
a 被処理ガス
b 処理ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ発生部に処理対象物質を流通させることで前記処理対象物質を処理するプラズマガス分解装置において、ガスの流れに対してプラズマリアクタの下流に、大気圧プラズマの発生に伴って生じる放電生成物であるオゾンと窒素酸化物のうち窒素酸化物は除去可能かつオゾンは通過可能な第1のフィルター、オゾン分解触媒、オゾンと窒素酸化物をともに除去可能な第2のフィルターをこの順に有することを特徴とするプラズマガス処理用装置。
【請求項2】
前記第1のフィルター、前記オゾン触媒、及び前記第2のフィルターは着脱可能なカートリッジを構成し、前記カートリッジを収容する収容空間を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマガス処理用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−136822(P2006−136822A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329233(P2004−329233)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】