説明

プラズマディスプレイ用蛍光体ペースト

【課題】本発明は、蛍光体ペーストの塗布を安定化し、輝度の高いプラズマディスプレイ装置を提供することを目的とするものである。
【解決手段】この目的を達成するために、本発明のプラズマディスプレイ用蛍光体ペーストは、少なくとも蛍光体粉末および有機バインダ樹脂とを含有する蛍光体ペーストにおいて、有機バインダ樹脂はアクリル系樹脂であり、蛍光体粉末/有機バインダ樹脂の重量比が、15/1以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビなどの画像表示に用いられるプラズマディスプレイパネルに関し、特に、紫外線により励起されて発光する蛍光体層を有するプラズマディスプレイパネル用の蛍光体ペーストの構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータやテレビなどの画像表示に用いられているカラー表示デバイスにおいて、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel、以下、「PDP」という。)表示装置は、大型で薄型軽量を実現することのできるカラー表示デバイスとして注目されている。
【0003】
PDP表示装置は、いわゆる3原色(赤、緑、青)を加法混色することにより、フルカラー表示を行っている。このフルカラー表示を行うために、PDP表示装置には3原色である赤(R)、緑(G)、青(B)の各色を発光する蛍光体層が備えられ、この蛍光体層を構成する蛍光体粒子はPDPの放電セル内で発生する紫外線により励起され、各色の可視光を生成している。蛍光体層に含まれる蛍光体は、基板に塗布する必要があるため、蛍光体の材料として各種無機材料および有機バインダ樹脂とが混合されてペースト化した後、スクリーン印刷や、特開11−96911号公報に提案されるようなノズルから吐出させる工法等によって塗布される。蛍光体ペーストは塗布後、任意の温度に加熱焼成を行い基板に固定化し、所望の蛍光体層が形成される。
【0004】
現在、蛍光体の材料である有機バインダ樹脂は、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエーテル系のバインダ樹脂が広く用いられている。たとえば、特許文献1には、有機バインダ樹脂としてアクリル系樹脂蛍光体ペーストについての開示がある。そして、蛍光体ペースト中の、蛍光体粉末の重量で表される含有率とバインダ樹脂の重量で表される含有率との比(以下、これをP/E比と称する)が大きいほど、輝度が高いことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−329256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、P/E比を15以上にすると、蛍光体ペーストに対する有機バインダ樹脂量の低下により、蛍光体ペーストの粘度が低下しまうため、蛍光体ペーストを背面板の基板上に塗布するためにより適した蛍光体ペーストの作製が困難であった。蛍光体ペーストの粘度を上昇させるためには、分子量の大きな有機バインダ樹脂を使用すればよいが、分子量が大きくなるほどチキソ性は大きい。そのため、せん断が高い領域になると、蛍光体ペーストの粘度の低下が著しく、塗布性に適さない、という問題があった。
【0007】
そこで、本発明では、上記課題を解決するために、蛍光体ペーストの塗布性の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために本発明の蛍光体ペーストは、少なくとも蛍光体粉末および有機バインダ樹脂とを含有する蛍光体ペーストにおいて、有機バインダ樹脂はアクリル系樹脂であり、蛍光体粉末/有機バインダ樹脂の重量比が、15/1以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安定した蛍光体ペーストの塗布が可能となり、輝度の高いプラズマディスプレイ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態によるプラズマディスプレイ装置に用いるパネルの要部を示す斜視図
【図2】本発明の実施の形態によるプラズマディスプレイ装置のPDPの電極配列図を表す図
【図3】本発明の実施の形態によるプラズマディスプレイ装置のPDPの断面を表す図
【図4】本発明の実施の形態によるプラズマディスプレイ装置のPDPに用いるP/E比と相対輝度・色度の関係を表した図
【図5】本発明の実施の形態によるプラズマディスプレイ装置のPDPに用いる青色蛍光体の粘度とせん断速度依存性を表した図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態によるプラズマディスプレイ装置について、図1〜図3を用いて説明する。しかし、本発明の実施の態様はこれに限定されるものではない。
【0012】
(実施の形態)
1、PDPの構成
図1は本発明の実施の形態1によるPDPにおいて、前面板1と背面板2とを分離した状態で示す分解斜視図、図2は本発明の実施の形態によるプラズマディスプレイ装置のPDPの電極配列図を表す図、図3は前面板1と背面板2とを貼り合わせてPDPとしたときの放電セル構造を示す断面図である。
【0013】
この図1、図3に示すように、PDPは、ガラス製の前面基板4と背面基板10とを、その間に放電空間3を形成するように対向配置することにより構成されている。前面板1は、ガラス製の前面基板4上に導電性の第1電極である走査電極5および第2電極である維持電極6を、間に放電ギャップを設けて互いに平行に配置して表示電極7を構成するとともに、その表示電極7を行方向に複数本配列して設け、そして走査電極5および維持電極6を覆うようにガラス材料からなる誘電体層8が形成され、その誘電体層8上にはMgOからなる保護層9が形成されている。
【0014】
走査電極5および維持電極6は、それぞれITOなどの透明電極5a、6aと、この透明電極5a、6aをそれぞれに電気的に接続されるように形成されたAgなどの導電性金属からなる膜厚が数μm程度のバス電極5b、6bとから構成されている。
【0015】
また、背面板2は、ガラス製の背面基板10上に、ガラス材料からなる絶縁体層11で覆われかつ列方向にストライプ状に配列したAgからなる複数本のデータ電極12が設けられ、そして絶縁体層11上には、前面板1と背面板2との間の放電空間3を放電セル毎に区画するためのガラス材料からなる井桁状の隔壁13が設けられている。また、絶縁体層11の表面および隔壁13の側面には、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の蛍光体層14R、14G、14Bが設けられている。そして、走査電極5および維持電極6とデータ電極12とが交差するように前面板1と背面板2とが対向配置され、走査電極5および維持電極6とデータ電極12が交差する交差部分には、図3に示すように、放電セル15が設けられている。また、放電空間3には、放電ガスとして、例えばネオンとキセノンの混合ガスが封入されている。なお、PDPの構造は上述したものに限られるわけではなく、例えばストライプ状の隔壁を備えたものであってもよい。
【0016】
ここで、図3に示すように、放電セル15を形成する井桁形状の隔壁13は、データ電極12に平行に形成された縦隔壁13aと、この縦隔壁13aに直交するように形成した横隔壁13bとから構成されている。また、この隔壁13内に塗布して形成される蛍光体層14R、14G、14Bは、縦隔壁13aに沿ってストライプ状に青色蛍光体層14B、赤色蛍光体層14R、緑色蛍光体層14Gの順に配列して形成されている。
【0017】
図2はこの図1、図3に示すPDPの電極配列図である。行方向に長いn本の走査電極Y1、Y2、Y3・・・Yn(図1の5)およびn本の維持電極X1、X2、X3・・・Xn(図1の6)が配列されている。そして、列方向に長いm本のデータ電極A1・・・Am(図1の12)が配列されている。さらに、1対の走査電極Y1および維持電極X1と1つのデータ電極A1とが交差した部分に放電セル15が形成され、放電セル15は放電空間内にm×n個形成されている。また、前記走査電極Y1および維持電極X1は、図3に示すように、走査電極Y1−維持電極X1−維持電極X2−走査電極Y2・・・・の配列で繰り返すパターンで、前面板1に形成されている。そしてこれらの電極のそれぞれは、前面板1、背面板2の画像表示領域外の周辺端部に設けられた接続端子それぞれに接続されている。そしてこれらの電極のそれぞれは、前面板1、背面板2の画像表示領域外の周辺端部に設けられた接続端子それぞれに接続されている。
【0018】
2、PDPの製造方法
2−1、前面板の製造方法
フォトリソグラフィ法によって、前面基板4上に、走査電極5および維持電極6が形成される。走査電極5は、インジウム錫酸化物(ITO)などの透明電極5aと、透明電極5aに積層された銀(Ag)などからなるバス電極5bとから構成されている。維持電極6は、ITOなどの透明電極6aと、透明電極6aに積層されたAgなどからなるバス電極6bとから構成されている。バス電極5b、6bの材料には、銀(Ag)と銀を結着させるためのガラスフリットと感光性樹脂と溶剤などを含む電極ペーストが用いられる。
【0019】
まず、スクリーン印刷法などによって、電極ペーストが、透明電極5a、6aが形成された前面基板4に塗布される。
【0020】
次に、乾燥炉によって、電極ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、電極ペーストが露光される。次に、電極ペーストが現像され、バス電極パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、バス電極パターンが所定の温度で焼成される。つまり、電極パターン中の感光性樹脂が除去される。また、電極パターン中のガラスフリットが溶融する。その後、室温まで冷却することにより、溶融していたガラスフリットが、ガラス化する。以上の工程によって、バス電極5b、6bが形成される。ここで、電極ペーストをスクリーン印刷する方法以外にも、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。
【0021】
次に、誘電体層8が形成される。誘電体層8の材料には、誘電体ガラスフリットと樹脂と溶剤などを含む誘電体ペーストが用いられる。たとえば、誘電体層8は、膜厚が約40μmの酸化ビスマス(Bi23)系低融点ガラスまたは酸化亜鉛(ZnO)系低融点ガラスで形成されている。まず、ダイコート法などによって、誘電体ペーストが所定の厚みで走査電極5、維持電極6を覆うように前面基板4上に塗布される。
【0022】
次に、乾燥炉によって、誘電体ペースト中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、誘電体ペーストが所定の温度で焼成される。つまり、誘電体ペースト中の樹脂が除去される。また、誘電体ガラスフリットが溶融する。その後、室温まで冷却することにより、溶融していた誘電体ガラスフリットが、ガラス化する。以上の工程によって、誘電体層8が形成される。ここで、誘電体ペーストをダイコートする方法以外にも、スクリーン印刷法、スピンコート法などを用いることができる。また、誘電体ペーストを用いずに、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などによって、誘電体層8となる膜を形成することもできる。
【0023】
次に、誘電体層8上に保護層9が形成される。保護層9は、膜厚が約0.8μmの酸化マグネシウム(MgO)を主体とするアルカリ土類金属酸化物からなる薄膜層であり、誘電体層8をイオンスパッタから保護するとともに放電開始電圧などの放電特性を安定させるために設けられている。以上の工程により前面基板4上に走査電極5、維持電極6、誘電体層8および保護層9を有する前面板1が完成する。
【0024】
2−2、背面板の製造方法
フォトリソグラフィ法によって、背面基板10上に、データ電極12が形成される。データ電極12の材料には、導電性を確保するための銀(Ag)と銀を結着させるためのガラスフリットと感光性樹脂と溶剤などを含むデータ電極ペーストが用いられる。
【0025】
まず、スクリーン印刷法などによって、データ電極ペーストが所定の厚みで背面基板10上に塗布される。次に、乾燥炉によって、データ電極ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、データ電極ペーストが露光される。次に、データ電極ペーストが現像され、データ電極パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、データ電極パターンが所定の温度で焼成される。つまり、データ電極パターン中の感光性樹脂が除去される。また、データ電極パターン中のガラスフリットが溶融する。その後、室温まで冷却することにより、溶融していたガラスフリットが、ガラス化する。以上の工程によって、データ電極12が形成される。ここで、データ電極ペーストをスクリーン印刷する方法以外にも、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。
【0026】
次に、絶縁体層11が形成される。絶縁体層11の材料には、絶縁体ガラスフリットと樹脂と溶剤などを含む絶縁体ペーストが用いられる。例えば、絶縁体層11は、誘電体層8と同様の酸化ビスマス(Bi23)系低融点ガラスなどであってもよいが、可視光反射層としての働きも兼ねるように酸化チタン(TiO2)粒子を混合した材料であってもよい。まず、スクリーン印刷法などによって、絶縁体ペーストが所定の厚みでデータ電極12が形成された背面基板10上にデータ電極12を覆うように塗布される。
【0027】
次に、乾燥炉によって、絶縁体ペースト中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、絶縁体ペーストが所定の温度で焼成される。つまり、絶縁体ペースト中の樹脂が除去される。また、絶縁体ガラスフリットが溶融するその後、室温まで冷却することにより、溶融していた絶縁体ガラスフリットが、ガラス化する。以上の工程によって、絶縁体層11が形成される。ここで、絶縁体ペーストをスクリーン印刷する方法以外にも、ダイコート法、スピンコート法などを用いることができる。また、絶縁体ペーストを用いずに、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などによって、絶縁体層11となる膜を形成することもできる。
【0028】
次に、フォトリソグラフィ法によって、隔壁13が形成される。隔壁13の材料には、フィラーと、フィラーを結着させるためのガラスフリットと、感光性樹脂と、溶剤などを含む隔壁ペーストが用いられる。まず、ダイコート法などによって、隔壁ペーストが所定の厚みで絶縁体層11上に塗布される。次に、乾燥炉によって、隔壁ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、隔壁ペーストが露光される。
【0029】
次に、隔壁ペーストが現像され、隔壁パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、隔壁パターンが所定の温度で焼成される。つまり、隔壁パターン中の感光性樹脂が除去される。また、隔壁パターン中のガラスフリットが溶融する。その後、室温まで冷却することにより、溶融していたガラスフリットが、ガラス化する。以上の工程によって、隔壁13が形成される。ここで、フォトリソグラフィ法以外にも、サンドブラスト法などを用いることができる。隔壁13は、例えば低融点ガラス材料を用いて約0.12mmの高さに形成されている。また、実施の形態では、画面サイズが42インチクラスのフルハイビジョンテレビに合わせて、隔壁13の高さは0.1mm〜0.15mm、また隣接する隔壁13のピッチは0.15mmとしている。なお、PDPの構造は上述したものに限られるわけではなく、隔壁13の形状がストライプ状であってもよい。
【0030】
次に、蛍光体層14が形成される。蛍光体層14の材料には、蛍光体粒子とバインダと溶剤などとを含む蛍光体ペーストが用いられる。まず、ディスペンス法などによって、蛍光体ペーストが所定の厚みで隣接する複数の隔壁13間の絶縁体層11上および隔壁13の側面に塗布される。
【0031】
次に、乾燥炉によって、蛍光体ペースト中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、蛍光体ペーストが所定の温度で焼成される。つまり、蛍光体ペースト中の樹脂が除去される。以上の工程によって、蛍光体層14が形成される。ここで、ディスペンス法以外にも、スクリーン印刷法などを用いることができる。以上の工程により、背面基板10上に、データ電極12、絶縁体層11、隔壁13および蛍光体層14を有する背面板2が完成する。
【0032】
2−3、前面板と背面板との組立方法
まず、ディスペンス法などによって、背面板2の周囲に封着ペーストが塗布される。塗布された封着ペーストは、封着ペースト層(図示せず)を形成する。次に乾燥炉によって、封着ペースト層中の溶剤が除去される。その後、封着ペースト層は、約350℃の温度で仮焼成される。仮焼成によって、封着ペースト層中の樹脂成分などが除去される。次に、表示電極とデータ電極12とが直交するように、前面板1と背面板2とが対向配置される。さらに、前面板1と背面板2の周縁部が、クリップなどにより押圧した状態で保持される。この状態で、所定の温度で焼成することにより、低融点ガラス材料が溶融する。その後、室温まで冷却することにより、溶融していた低融点ガラス材料がガラス化する。これにより、前面板1と背面板2とが気密封着される。最後に、放電空間3にNe、Xeなどを含む放電ガスが封入される。封入する放電ガスの組成は、従来から用いられているNe−Xe系であるが、Xeの含有量を5体積%以上に設定し、封入圧力は55kPa〜80kPaの範囲に設定する。これによりPDPが完成する。
【0033】
3、蛍光体ペーストの作製
次に、本実施形態にかかる蛍光体ペーストについて説明する。以下の実施例は例示の目的で提供され、本発明を限定するものではない。本発明の蛍光体ペーストは少なくとも蛍光体粉末と、有機バインダ樹脂と、有機溶剤と、を含有し、バインダ樹脂はアクリル系樹脂であり、蛍光体粉末/バインダ樹脂の重量比が、15/1以上であることが必要である。より好ましくは、15/1以上、20/1以下である。
【0034】
3−1、有機バインダ樹脂
アクリル系樹脂としては、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ノルマルプロピルアクリレート、ノルマルプロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソピルメタクリレート、ノルマルブチルアクリレート、ノルマルブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メチオールアクリルアミド等の単量体から1つ以上を選択して重合させることが好ましい。より好ましくはメチルメタクリレートを単量体の1成分として乳化重合して得られるアクリル系樹脂である。
【0035】
有機バインダ樹脂は蛍光体ペーストの全重量中3〜20wt%含有されていることが好ましい。3wt%より少ないと、蛍光体ペースト粘度が低くなり、塗布性に適さない。また20wt%を超えると蛍光体の充填密度が低くなり、輝度等に影響が出る。
【0036】
3−2、蛍光体
また、本発明の蛍光体ペーストの構成成分である蛍光体粉末は、波長200nm以下、たとえば147nmの真空紫外線励起下で効率的に発光し得る蛍光体であることが好ましい。なかでも、赤色蛍光体として[(Y,Gd,Eu)BO3]、緑色蛍光体として[(Zn,Mn)2SiO4]、青色蛍光体として[(Ba,Eu)MgAl1017]を用いた場合、発光効率、色合いともに良好であるため特に好ましい。
【0037】
しかし、蛍光体ペーストとしては、少なくともこれらのうちの1種類を含有していればよく、上記3種類に限定されるものではない。蛍光体粉末は蛍光体ペースト全重量中40wt%〜60wt%が好ましい。この範囲外では塗布に適した粘度に調整することが困難となる。
【0038】
3−3、有機溶剤
さらに本発明の蛍光体ペーストの構成成分である有機溶剤は、沸点が100℃〜300℃のもので、有機バインダ樹脂及び蛍光体粉末成分と分離しないものであれば特に制限はなく、アルコール系、エーテル系、エステル系のものが好ましい。例えば、テルピネオール(沸点217℃)、ベンジルアルコール(沸点205℃)、N−メチルピロリドン(沸点202℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点231℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点245℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)等は作業性に優れていて好ましい。なかでもベンジルアルコールを用いると、蛍光体と有機バインダ樹脂との融解性が非常に良好で、ポリマー溶液濃度を調整しやすくなるために非常に有益である。上記の有機溶剤は単独で用いることも複数で用いることも可能であるが、蛍光体ペースト全重量中20〜50wt%が好ましい。この範囲外では塗布に適した粘度に調整することが困難となる。
【0039】
3−4、蛍光体ペーストの作製方法
本発明の蛍光体ペーストは以下の方法で作製する。上記で説明した有機バインダ樹脂を構成する単量体から1つ以上を選択して乳化重合させてアクリル系樹脂と有機溶剤とを混練して、ポリマー溶液を作製する。これによって作製されたポリマー溶液中に青色蛍光体粉末を混ぜ、予備混練を30〜50分行う。その後、本混練として、蛍光体粉末を十分分散させるために予備混練後のポリマー溶液と蛍光体粉末の混合溶液を3本ローラーに2回通す。これによって蛍光体ペーストが作製される。
【0040】
4、実施例
4−1、輝度と色度
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。本実施例で作製した蛍光体ペーストは蛍光体として、青色蛍光体[(Ba,Eu)MgAl1017]の粉末、有機バインダ樹脂として乳化重合によって作製されたアクリルバインダ樹脂、有機溶剤としてベンジルアルコールとテルピネオールとを混合した有機溶剤から構成されている。蛍光体ペーストを、それぞれガラス板上に、膜厚が20μm〜30μmになるように塗布(2.5cm×2.5cm)し、乾燥炉で110℃、30分間乾燥して、有機溶剤を揮発させる。その後、焼成炉に入れて焼成し、有機バインダ樹脂を揮発させて蛍光体膜を作製した。
【0041】
より詳細に説明すると、本実施の形態では焼成炉での焼成プロファイルとして、例えば焼成炉を室温から約20分かけて400℃に上昇させ、400℃を20分間保持し、さらに、約20分かけて470℃に上昇させ、470℃を20分保持する。その後、約30分かけて室温に戻す。焼成して作製した蛍光体膜について、147nmの真空紫外線励起下で輝度を測定した。
【0042】
図4に示すように横軸は、上記の材料によって作製した蛍光体ペーストと、比較例1として乾燥、焼成等の処理を施していない青色蛍光体粉末と、比較例2として比較例1の青色蛍光体粉末のみを焼成した青色蛍光体粉末との輝度・色度を示している。
【0043】
なお、図4では、比較例1を初期粉末と示し、比較例2を加熱粉末と示している。さらに、図4の横軸は、蛍光体ペースト中の蛍光体粉末の重量とアクリルバインダ樹脂の重量の比(蛍光体粉末重量比/アクリルバインダ樹脂)をP/E比として、P/E=1、3、5、10、15、17、20と示している。図4の縦軸左側は、初期粉末(比較例1)の輝度を基準として100とした時の比較例2と各実施例の相対輝度を示し、縦軸右側は、各実施例および比較例の色度を示している。
【0044】
図4に示すように、初期粉末(比較例1)に対し、加熱粉末(比較例2)は熱による影響が小さいため、輝度劣化が抑制されている。しかし、蛍光体粉末をペースト化した実施例のP/E=1、3、5、10において、初期粉末(比較例1)に対して輝度劣化が大きい。しかし、P/E=15以上の場合、初期粉末(比較例1)に対して輝度劣化が他のP/Eの値に比べて抑制されていることがわかる。
【0045】
また、色度について説明する。初期粉末(比較例1)の色度と比較して、P/E=1、3の場合、色度の値は極めて大きくなり色合いが悪くなる。しかし、P/Eの値が5以上では、初期粉末(比較例1)の色度の値からあまり変化しないため、初期粉末(比較例1)の色合いをほぼ維持していることがわかる。
【0046】
したがって、輝度と色合いの観点からP/Eの値が15以上である蛍光体ペーストが適していることがわかる。
【0047】
4−2、せん断速度と粘度の関係
図5は各P/E比のもと、せん断速度と蛍光体ペーストの粘度の関係を示した図である。上記で説明したアクリル樹脂を有機バインダ樹脂として作製したP/E=10と20の蛍光体ペースト(それぞれ実施例1、実施例2とする)と、比較例として、エチルセルロース樹脂を有機バインダ樹脂として作製したP/E=4、10、15(それぞれ比較例1、比較例2、比較例3とする)の蛍光体ペーストの粘度を測定した。
【0048】
図5のように、アクリル樹脂を有機バインダ樹脂として作製したP/E=10の蛍光体ペーストを△(実施例1)、P/E=20を□(実施例2)、比較例として、エチルセルロース樹脂を有機バインダ樹脂として作製したP/E=4の蛍光体ペーストを◇(比較例1)、P/E=10を×(比較例2)、P/E=15を○(比較例3)として示す。また、図5の横軸はせん断速度(s-1)を示し、せん断速度を0.1s-1、0.5s-1、1s-1、5s-1、10s-1、50s-1、100s-1の順に変化させ、各せん断速度における各蛍光体ペーストの粘度(Pa・s)の値を縦軸に示している。
【0049】
蛍光体ペーストの粘度が大きいほど、3本ローラーでの分散性が確保され、基板に蛍光体ペーストを塗布する際の塗布性が確保される。分散性および塗布性を確保するためには、せん断領域1s-1において蛍光体ペーストの粘度が50Pa・s以上、かつ、せん断領域100s-1において蛍光体ペーストの粘度が30Pa・s以上の粘度であることが好ましい。
【0050】
比較例2、比較例3のようにエチルセルロース樹脂を有機バインダ樹脂として作製したP/E=10、15の蛍光体ペーストは、100s-1で30Pa・sより小さい。そのため、分散性および塗布性は優れない。一方、本発明のアクリル樹脂を有機バインダ樹脂として作製したP/E=10(実施例1)とP/E=20(実施例2)の蛍光体ペーストは100s-1で粘度が30Pa・sより大きい。
【0051】
さらに、図5に示すように、実施例2であるアクリル樹脂を有機バインダ樹脂として作製したP/E=20の蛍光体ペーストの0.1s-1から100s-1までの蛍光体ペーストの粘度の低下がより小さい。
【0052】
本実施例での測定は、せん断領域100s-1以下の蛍光体ペーストの粘度しか測定できていないが、実際、3本ローラーによる蛍光体ペーストの混練や基板の塗布は、せん断速度1000s-1〜10000s-1にわたる高せん断領域と考えられる。したがって、P/E=20(実施例2)の蛍光体ペーストは、100s-1を超える高せん断領域でも塗布性を維持する効果が期待される。
【0053】
一方、アクリル樹脂を有機バインダ樹脂として作製した蛍光体ペーストにおいてP/E=20を超えると、せん断領域1s-1での蛍光体ペーストの粘度が50s-1より小さい。そのため、分散性および塗布性は優れない。
【0054】
4−3、まとめ
以上のことから、本発明の蛍光体ペーストは、少なくとも蛍光体粉末および有機バインダ樹脂とを含有する蛍光体ペーストであり、有機バインダ樹脂はアクリル系樹脂であり、蛍光体粉末/有機バインダ樹脂の重量比が、15/1以上であることを特徴とする。なお、1s-1での蛍光体ペースト粘度50Pa・s以上と100s-1での蛍光体ペースト粘度30Pa・s以上を確保するためにはP/E=15以上P/E=20以下の範囲が好ましい。
【0055】
これにより、P/E比が上昇しても高せん断領域において粘度の低下が抑制された蛍光体ペーストの作製が実現でき、蛍光体ペースト混練時の分散性、塗布性が向上するとともに輝度劣化の抑制が可能となった高性能なPDPを提供することができる。
【0056】
また、この蛍光体ペーストは、有機バインダ樹脂として、単量体にメチルメタクリレートを含んだアクリル樹脂を乳化重合することで、分子量100万〜200万で高粘度かつチキソ性を抑えたアクリル樹脂の作製が可能となり、困難であったP/E=15以上の蛍光体ペーストを作製することが可能となった。これにより、蛍光体ペーストの塗布性の向上を確保することが可能となった。
【0057】
(実施形態の特徴)
上記実施形態において特徴的な部分を以下に列記する。なお、上記実施形態に含まれる発明は、以下に限定されるものではない。なお、各構成の後ろに括弧で記載したものは、各構成の具体例である。各構成はこれらの具体例に限定されるものではない。
(1)
本発明の蛍光体ペーストは、少なくとも蛍光体粉末および有機バインダ樹脂とを含有する蛍光体ペーストであり、有機バインダ樹脂はアクリル系樹脂であり、蛍光体粉末/有機バインダ樹脂の重量比が、15/1以上であることを特徴とする。
【0058】
これにより、P/E比が上昇しても高せん断領域において粘度の低下が抑制された蛍光体ペーストの作製が実現でき、蛍光体ペースト混練時の分散性、塗布性が向上するとともに輝度劣化の抑制が可能となった高性能なPDPを提供することができる。
(2)
(1)における蛍光体ペーストであって、蛍光体粉末/有機バインダ樹脂の重量比が15/1以上20/1以下であることを特徴とする。
【0059】
これにより、P/E比が上昇しても高せん断領域において粘度の低下が抑制された蛍光体ペーストの作製が実現でき、蛍光体ペースト混練時の分散性、塗布性が向上するとともに輝度劣化の抑制が可能となった高性能なPDPを提供することができる。
(3)
(1)における蛍光体ペーストであって、有機バインダ樹脂は、重量平均分子量100万〜200万のメタクリル酸メチル樹脂であることを特徴とする。
【0060】
これにより、高粘度かつチキソ性を抑えたアクリル樹脂の作製が可能となる。
(4)
(1)における蛍光体ペーストであって、有機バインダ樹脂はメチルメタクリレートを単量体の1成分として乳化重合して得られる重合体であることを特徴とする。
(5)
(1)における蛍光体ペーストであって、蛍光体粉末は、赤色蛍光体として[(Y,Gd,Eu)BO3]、緑色蛍光体として[(Zn,Mn)2SiO4]、青色蛍光体として[(Ba,Eu)MgAl1017]を少なくとも1つ含んでいることを特徴とする。
【0061】
これにより、発光効率、色合いともに良好である蛍光体ペーストの作製が可能となる。
(6)
(1)における蛍光体ペーストであって、有機溶剤として、テルピネオール、ベンジルアルコールから少なくとも1つをさらに含有することを特徴とする。
【0062】
これにより、有機バインダ樹脂及び蛍光体粉体成分との分離を抑制し、有機バインダ樹脂および蛍光体粉末との融解性が非常に良好で、ポリマー溶液濃度を調整しやすくなる。
(7)
(1)における蛍光体ペーストであって、低せん断領域1s-1における蛍光体ペーストの粘度は50Pa・sであり、かつ、高せん断領域100s-1における蛍光体ペーストの粘度は30Pa・sであることを特徴とする。
【0063】
これにより、100s-1を超える高せん断領域においても蛍光体ペーストの粘度は急激に低下しないため、塗布性を維持することが可能となる。
(8)
少なくとも蛍光体粉末および有機バインダ樹脂とを含有する蛍光体ペーストの製造方法において、有機バインダ樹脂はアクリル系樹脂であり、アクリル系樹脂はメタクリル酸メチル樹脂を単量体の1成分として乳化重合するステップと、乳化重合して得られた有機バインダ樹脂と蛍光体粉末とを含有する混合物を焼成するステップと、を備え、蛍光体粉末/有機バインダ樹脂の重量比が、15/1以上であることを特徴とする。
【0064】
これにより、P/E比が上昇しても高せん断領域において粘度の低下が抑制された蛍光体ペーストの作製が実現でき、蛍光体ペースト混練時の分散性、塗布性が向上するとともに輝度劣化の抑制が可能となった高性能なPDPを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように本発明は、高画質で低消費電力のプラズマディスプレイ装置を提供する上で有用な発明である。
【符号の説明】
【0066】
1 前面板
2 背面板
3 放電空間
4 前面基板
5 走査電極
6 維持電極
8 誘電体層
9 保護層
10 背面基板
11 絶縁体層
12 データ電極
13 隔壁
13a 縦隔壁
13b 横隔壁
14 蛍光体層
14R 赤色蛍光体層
14G 緑色蛍光体層
14B 青色蛍光体層
15 放電セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも蛍光体粉末および有機バインダ樹脂とを含有する蛍光体ペーストにおいて、
前記有機バインダ樹脂はアクリル系樹脂であり、蛍光体粉末/有機バインダ樹脂の重量比が、15/1以上であることを特徴とする蛍光体ペースト。
【請求項2】
前記蛍光体粉末/有機バインダ樹脂の重量比が15/1以上20/1以下であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項3】
前記有機バインダ樹脂は、重量平均分子量100万〜200万のメタクリル酸メチル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項4】
前記有機バインダ樹脂はメチルメタクリレートを単量体の1成分として乳化重合して得られる重合体であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項5】
前記蛍光体粉末は、赤色蛍光体として[(Y,Gd,Eu)BO3]、緑色蛍光体として[(Zn,Mn)2SiO4]、青色蛍光体として[(Ba,Eu)MgAl1017]を少なくとも1つ含んでいることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項6】
有機溶剤として、テルピネオール、ベンジルアルコールから少なくとも1つをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項7】
前記蛍光体ペーストは、低せん断領域1s-1における蛍光体ペーストの粘度は50Pa・sであり、かつ、高せん断領域100s-1における蛍光体ペーストの粘度は30Pa・sであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項8】
少なくとも蛍光体粉末および有機バインダ樹脂とを含有する蛍光体ペーストの製造方法において、前記有機バインダ樹脂はアクリル系樹脂であり、前記アクリル系樹脂はメタクリル酸メチル樹脂を単量体の1成分として乳化重合するステップと、前記乳化重合して得られた有機バインダ樹脂と前記蛍光体粉末とを含有する混合物を焼成するステップと、
を備え、蛍光体粉末/有機バインダ樹脂の重量比が、15/1以上であることを特徴とする蛍光体ペーストの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−172029(P2012−172029A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34088(P2011−34088)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】