説明

プラズマディスプレイ装置およびその製造方法

【課題】PDP装置の輝度特性の低下を抑制しつつ、PDP装置の消費電力を低減できる技術を提供する。
【解決手段】対向配置される前面板および背面板の間に形成され、内部に放電ガスが充填された放電空間を有し、背面板は、放電空間に接して配置された蛍光膜を有するプラズマディスプレイ装置の蛍光膜を以下の構成とする。蛍光膜8は、紫外線に励起されることにより可視光を発光する蛍光体23、および正電荷で蛍光体よりも大きい帯電特性を有する帯電材からなり、帯電材は蛍光体に混合される粉末状の成分である帯電材21と、蛍光体23の表面にコーティングされる成分である帯電材22により構成する。また、そのような構成は帯電材の炭酸塩を蛍光体23と混合してアニール処理する製造法によって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイ装置およびその製造技術に関し、特に、蛍光体に真空紫外線を照射して励起し、発光を起こして画像を表示するプラズマディスプレイ装置およびその製造に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
映像情報システムにおいては,高精細化、大画面化、薄型化、および低消費電力化といった様々な要求に応じて各種ディスプレイ装置の研究開発が盛んに行われている。その中でも、大画面かつ高精細を実現するディスプレイとして、プラズマディスプレイパネル(PDP;Plasma Display Panel)の研究開発が進められている。PDPは対向して配置された前面側の基板と背面側の基板とを備え、前面および背面基板の間の空間にはNeおよびXeなどの放電ガスが充填されている。そして、電極に電圧をかけることによって放電ガスから真空紫外線(146nmおよび172nm)が発せられ、背面基板に設置した蛍光体を真空紫外線が励起して、赤、緑、および青の発光を起こして画像を表示する表示パネルである。
【0003】
PDPの放電電圧を低減する技術として、蛍光体に、その蛍光体よりも正電荷の帯電特性が大きい材料を混合する技術が検討されている。
【0004】
例えば、「J. Electrochem. Soc. 150(8), H165-H171 (2003)」(非特許文献1)は、緑色の蛍光体であるZnSiO:Mnに、帯電特性がこれよりも正電荷で大きい(Y,Gd)BO:Tb蛍光体を混合する手法を開示している。
【0005】
また、特開2002−38146号公報(特許文献1)は、正に帯電する酸化物(MgO)を付着又はコーティングした蛍光体を用いたプラズマディスプレイパネルを開示している。
【0006】
また、特開2008−181841号公報(特許文献2)は、2000オングストローム以上の粒径の酸化マグネシウム結晶体を含む蛍光体層を有するPDPを開示している。
【0007】
また、特開2006−278155号公報(特許文献3)は、炭酸マグネシウムを蛍光体と混合する手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−38146号公報
【特許文献2】特開2008−181841号公報
【特許文献3】特開2006−278155号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Electrochem. Soc. 150(8), H165-H171 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者らは、PDPの消費電力低減を目的とした放電電圧の低減について検討を行い、上記構成では、以下の新たな課題が生じることを見出した。
【0011】
すなわち、帯電材料としてMgOを用いる場合、放電電圧を低減するためには、帯電材料の混合量を多くする必要がある。また、帯電材料の平均粒径を大きくする必要がある。ところが、MgOで構成される帯電材料の平均粒径、あるいは混合量を増大させると、帯電材料が、蛍光体の励起源である真空紫外線を吸収してしまうこととなる。この結果、蛍光体を励起する真空紫外線の量が不足し、PDPの輝度特性(発光効率)が低下する原因となる。
【0012】
また、カラー表示PDPに用いる赤、緑、および青用の各蛍光体は、それぞれ帯電特性を有しているが、緑色用の蛍光体は、他の色と比較して帯電量が低い。したがって、緑色の蛍光体を配置するセルについては、特に帯電特性を向上させる必要がある。
【0013】
本発明の目的は、PDP装置の輝度特性の低下を抑制しつつ、PDP装置の消費電力を低減できる技術を提供することにある。
【0014】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0016】
(1)本発明によるプラズマディスプレイ装置は、
対向配置される前面板および背面板の間に形成され、内部に放電ガスが充填された放電空間を有し、
前記背面板は、前記放電空間に接して配置された蛍光膜を有し、
前記蛍光膜は、紫外線に励起されることにより可視光を発光する蛍光体、および正電荷で前記蛍光体よりも大きい帯電特性を有する金属酸化物からなる帯電材から形成され、
前記帯電材は酸化マグネシウムから形成され、
前記蛍光体には、酸化マグネシウム粉末が混合されているものである。
【0017】
(2)また、本発明によるプラズマディスプレイ装置は、
前記(1)記載のプラズマディスプレイ装置において、前記蛍光体の表面が酸化マグネシウムでコーティングされているものである。
【0018】
(3)また、本発明によるプラズマディスプレイ装置の製造方法は、
対向配置される前面板および背面板の間に形成され、内部に放電ガスが充填された放電空間を有し、
前記背面板は、前記放電空間に接して配置された蛍光膜を有し、
前記蛍光膜は、紫外線に励起されることにより可視光を発光する蛍光体、および正電荷で前記蛍光体よりも大きい帯電特性を有する帯電材とからなるプラズマディスプレイ装置の製造方法であって、
前記帯電材を作成する工程は、
(a)マグネシウム塩を蛍光体と混合する工程と、
(b)前記マグネシウム塩と前記蛍光体とを混合した粉体をアニール処理する工程と、
を含み、
前記帯電材と前記蛍光体とを用いて前記蛍光膜を形成する工程を含むものである。
【発明の効果】
【0019】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0020】
すなわち、PDP装置の輝度特性の低下を抑制しつつ、消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態であるPDPの要部を模式的に示す分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態であるPDPを組み込んだPDPモジュールの全体構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施の形態であるPDPにおける階調駆動シーケンスの一例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態であるPDPモジュールの駆動波形の一例を示す説明図である。
【図5】帯電材の構成毎の帯電特性を評価した実験結果について示す説明図である。
【図6】図5に示す比較区および実験区のMg量に対する帯電量の変化の評価結果を示す説明図である。
【図7】図5に示す実験区のアニール温度に対する帯電量の変化の評価結果を示す説明図である。
【図8】図5に示す実験区4の試料粉末のSEM写真である。
【図9】図5に示す実験区4のMgのオージェ電子分光分析結果である。
【図10】図5に示す実験区4の蛍光体断面のSEM写真である。
【図11】図5に示す実験区4のMgのオージェ電子分光分析結果である。
【図12】図1に示す蛍光膜の詳細構造を示す要部拡大断面図である。
【図13】図5に示す比較区1および実験区4のVt閉曲線の評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明を詳細に説明する前に、本願における用語の意味を説明すると次の通りである。
【0023】
PDPとは、対向配置される一対の基板の間に形成された放電セル内で気体放電を発生させ、この際に発生する励起光で蛍光体を励起させて、所望の画像を形成する略平面板状の表示パネルである。PDPの内部構造や構成材料は、要求性能あるいは駆動方式に応じて種々の構成例があるが、原理的に明らかに適用できない構成を除き、これら全ての構成例を含む。
【0024】
プラズマディスプレイモジュール(PDPモジュール)は、PDPと、PDPの表示面の反対側に配置されてPDPを支持するシャーシと、シャーシの背面(PDPとの対向面の反対側に位置する面)側に配置され、PDPを駆動、制御する、あるいはPDPに電源を供給するための各種電気回路が形成された回路基板とを備えたモジュールであって、各種電気回路とPDPとが電気的に接続されたものである。なお、PDPモジュールの実施態様としては、上記した各種電気回路が形成された回路基板の一部または全部が取り付けられず、該回路基板の取り付け予定位置に取り付け用治具が形成された構造もある。本願では、このような実施態様もPDPモジュールに含まれる。
【0025】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0026】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。
【0027】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、実施例等において構成要素等について、「Aからなる」、「Aよりなる」と言うときは、特にその要素のみである旨明示した場合等を除き、それ以外の要素を排除するものでないことは言うまでもない。
【0028】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0029】
また、材料等について言及するときは、特にそうでない旨明記したとき、または、原理的または状況的にそうでないときを除き、特定した材料は主要な材料であって、副次的要素、添加物、付加要素等を排除するものではない。
【0030】
また、本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0031】
また、本実施の形態で用いる図面においては、平面図であっても図面を見易くするために部分的にハッチングを付す場合がある。
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0033】
<PDPの基本構造および製造方法>
まず、本発明者らが検討したPDPの一例として、AC面放電型PDPの基本構造などについて説明する。なお、本実施の形態においてPDPを構成する一対の基板である「前面板」および「背面板」は、両者を組み立ててパネル化した際に、蛍光体による発光が通過して表示面となる側を前面板とし、表示面の反対側に位置する側を背面板として説明する。また、「前面板」および「背面板」は、それぞれガラス基板からなる前面基板および背面基板を基材とした基板構造体であり、その基板構造体は、前記基材に各部材(詳細は後述)を形成した構造となっている。
【0034】
図1は、本発明者らが検討した、いわゆるボックス型のAC面放電型PDPの要部を模式的に示す分解斜視図である。
【0035】
まず、前面板12およびその形成方法について説明する。前面板12の基材となる前面基板1の内面側には、ストライプ状に延在する透明電極4a、5aと、透明電極4a、5a上に接合されるバス電極4b、5bとで構成される複数の表示電極対6が配設されている。表示電極対6はサステイン電極(X電極)4とスキャン電極(Y電極)5の対からなり、サステイン電極4とスキャン電極5との間で、維持放電(表示放電)を行う。表示電極対6はPDP15における行方向(図1に示すy方向)の表示ラインを構成する。したがって、図1では、2対の表示電極対6を示しているが、表示ライン数に応じた本数の表示電極対6が形成されている。
【0036】
透明電極4a、5aは透明導電体であり、例えば、酸化インジウム錫(ITO)からなる膜で形成され、その上に、銀の単層膜からなるバス電極4b、5bが付設されている。このバス電極4b、5bは、PDP15を駆動する際の電気抵抗を低減する観点から、銀など、透明電極4a、5aよりも熱伝導率の高い金属材料で形成されている。
【0037】
一方、透明電極4a、5aは、表示電極対6の電極間距離を近づけて維持放電を形成しやすくする観点から、バス電極4b、5bよりも広い幅で形成されている。このため、透明電極4a、5aを可視光に対して透明な材料で構成することにより、放電セルCL内で発生した光を効率的に前面基板1側に取り出す構造となっている。なお、表示電極対6の形状や材質としては、種々の変形例を適用することができる。例えば、透明電極4a、5aとして酸化錫あるいは酸化亜鉛等、バス電極4b、5bとして黒色銀と銀の積層膜、アルミニウムの単層膜、またはクロム/銅/クロムの積層膜で形成することができる。
【0038】
前面基板1上に表示電極対6を形成するには、例えばスクリーン印刷のような厚膜形成技術、あるいは蒸着法やスパッタ法などの薄膜形成技術とエッチング技術とを用い、それにより、所定の本数、厚さ、幅および間隔で形成することができる。
【0039】
また、複数の表示電極対6(サステイン電極4およびスキャン電極5)は、主にSiOなどの誘電体ガラス材料で構成される誘電体層2で被覆されている。表示電極対6を被覆するように誘電体層2を形成するには、低融点ガラス粉末を主成分とするフリットペーストを前面基板1上にスクリーン印刷法で塗布し、焼成を行う方法を例示することができる。他に、いわゆるグリーンシートと呼ばれるシート状の誘電体シートを貼り付けて焼成する方法で形成する方法も例示できる。あるいは、プラズマCVD法でSiO膜を成膜することにより形成してもよい。
【0040】
誘電体層2の内面側には、表示の際の放電(主に維持放電)により生じるイオンの衝突による衝撃から誘電体層2を保護する保護膜3が形成されている。このため、保護膜3は誘電体層2の表面を被覆するように形成されている。保護膜3には高いスパッタ耐性および2次電子放出係数が要求されるため、MgOなどのアルカリ土類金属酸化物を用いることを例示できる。また、2次電子放出係数や、放電のトリガとなる荷電粒子(プライミング電子)を供給する機能を向上させるため、例えば保護膜3の表面にMgOの単結晶粒子を付着させる技術を用いることもできる。保護膜3は、例えば電子ビーム蒸着法などの成膜法により成膜することができる。なお、保護膜3を構成するMgOなどのアルカリ土類金属酸化物は、雰囲気中の水分や炭酸ガスなどの不純物を吸着しやすい特性を有しているので、保護膜3を形成する工程は、減圧雰囲気中で行うことが好ましい。
【0041】
次に、背面板13およびその形成方法について説明する。背面板13は、例えばガラス基板である背面基板11を有している。背面基板11の内面(前面板12と対向する面)側には、表示電極対6と交差(直交)する方向に延在する複数のアドレス電極(A電極)10が配設されている。このアドレス電極10と、前面板12に形成されたスキャン電極5とは、放電セルCLの点灯/非点灯を選択するための放電であるアドレス放電を行うための電極対を構成する。つまり、スキャン電極5は、維持放電用の電極としての機能とアドレス放電用の電極(走査電極)としての機能とを併せ持っている。このようにアドレス電極10と、表示電極対6を交差させることにより、放電セルCL毎に点灯/非点灯を選択することができる。つまり、PDP15は、表示電極対6とアドレス電極10の交差毎に放電セルCLを有していることになる。
【0042】
アドレス電極10は銀あるいはアルミニウムの単層膜、またはクロム/銅/クロムの積層膜で形成されている。背面基板11上にアドレス電極10を形成する工程は、前記したバス電極4b、5bを形成する方法と同様である。
【0043】
アドレス電極10は、誘電体層9で被覆されている。誘電体層9は、前面基板1上の誘電体層2と同じ材料および方法を用いて形成することができる。誘電体層9上には、背面板13の内面側を複数の放電セルCLに区画する複数の隔壁7が形成されている。この複数の隔壁7は、前面基板1と背面基板11との間に配置され、各放電セルCLにおける放電距離を維持する機能を有している。また、隔壁7は、隣り合って配置されている放電セルCL間におけるクロストークを防止もしくは抑制する機能を有している。本実施の形態では、隔壁7は、図1に示すx方向(アドレス電極10の延在方向)に沿って延在する隔壁7aと、y方向(表示電極対6の延在方向)に沿って延在する隔壁7bとを有している。複数の隔壁7aと複数の隔壁7bはそれぞれ交差し、背面板13の内面側に形成される放電空間14をマトリクス状(格子状)に区画している。このように各放電セルCLをマトリクス状に区画するように複数の隔壁7を形成した構造は、ボックスリブ構造と呼ばれ、x方向に沿って隣り合う放電セルCLの間に隔壁7bが形成されることにより、その放電セルCL間でのクロストークを効果的に防止あるいは抑制することができるので、PDP15の高精細化に好適な構造である。
【0044】
なお、隔壁7の形成方法は、図1に示す構造に限定されず、例えば図1に示すx方向(アドレス電極10の延在方向)に沿って延在する複数の隔壁7aをストライプ状に形成し、隔壁7bは形成しない構造(ストライプリブ構造)とすることもできる。このストライプリブ構造の場合、背面板13に形成される隔壁7の数が少ないので、放電空間14内のガスを給排気する際の抵抗を低減することができる。
【0045】
隔壁7は、サンドブラスト法、あるいはフォトエッチング法などにより形成することができる。例えば、サンドブラスト法では、低融点ガラスフリット、バインダ樹脂、および溶媒などからなるフリットペーストを誘電体層9上に塗布して乾燥させた後、そのフリットペーストの層上に隔壁パターンの開口を有するブラストマスクを設けた状態で切削粒子を吹き付けて、マスクの開口部に露出したフリットペーストの層を切削し、さらに焼成することにより形成する。また、フォトエッチング法では、切削粒子で切削することに代えて、バインダ樹脂に感光性の樹脂を使用し、マスクを用いた露光および現像の後、焼成することにより形成する。
【0046】
アドレス電極10上の誘電体層9の上面、および隔壁7の側面には、真空紫外線により励起されて可視光を発光する蛍光膜8が形成されている。本実施の形態のPDP10は、カラー表示を行うPDPなので、蛍光膜8は、真空紫外線により励起されて赤(R)、緑(G)、青(B)の各色の可視光を発生する蛍光膜8r、8g、8bがそれぞれ所定の放電セルCLに形成されている。カラー表示PDPにおいては、蛍光膜8r、8g、8bが形成された放電セルCLのセットにより画素(ピクセル)が構成される。蛍光膜8の詳細な構造および形成方法については、後述する。
【0047】
PDP15は、上記の前面板12の表示電極対6を形成した面と、背面板13の隔壁7を形成した面とを、放電空間14を介して対向配置して組み立てることにより得られる。つまり、PDP15は、放電ガスを封入して形成された放電空間14を介して対向する一対の基板構造体である前面板12と背面板13とを有している。この組み立て工程には、前面板12と背面板13の位置合わせ工程と、各板(前面板12および背面板13)の外周に配置される非表示領域をシールフリットと呼ばれる低融点ガラス材料からなる封着剤を用いて封着する封着工程と、PDP15の内部空間(放電空間14等)に残るガスを排気して、放電ガスを導入する工程とが含まれる。
【0048】
放電空間14に導入する放電ガスとしては、希ガスを含む混合ガス、例えばHe−Xe、Ne−Xe、あるいはHe−Ne−Xe等の混合ガスで構成することができる。本実施の形態では、放電ガスとしてネオン(Ne)−キセノン(Xe)をガス基体とした混合ガスを、Xeの分圧比が数%〜数十%に調整して封入している。
【0049】
PDP15では、蛍光膜8を発光させるための励起源として、主に147nmおよび172nmの波長を有する真空紫外線を用いている。147nmおよび172nmの真空紫外線は、放電によりイオン化されたXeイオンが基底状態に遷移する際に発生する。従って、放電ガス中のXeの分圧を高くすることにより、蛍光膜8を発生する励起源を多く発生させることができるので、PDP15の発光効率を向上させることができる。
【0050】
<PDPモジュールの構成例>
次に、本実施の形態のPDP15を組み込んだプラズマディスプレイモジュール(以下PDP装置と記載する)の全体構成と階調駆動方法とについて、図1〜図4を用いて説明する。
【0051】
図2は、図1に示すPDPを組み込んだPDPモジュールの一例の全体構成を概略的に示すブロック図である。また、図3は、図2に示すPDPモジュールにおける階調駆動シーケンスの一例を示す説明図である。また、図4は、図2に示すPDPモジュールの駆動波形の一例を示す説明図である。
【0052】
図2に示すPDPモジュール20は、アドレス駆動回路ADRV、YスキャンドライバYSCDRV、Y駆動回路YSUSDRV、およびX駆動回路XSUSDRVを有しており、これら各回路は、PDP15が有する電極(図1に示すサステイン電極4、スキャン電極5およびアドレス電極10)間に電圧の印加を行う。PDP15が有する各電極は、これらの回路と電気的に接続されている。また、PDPモジュール20は、各駆動回路(ドライバ)を制御するための制御回路CNT、および各回路およびPDP15に電源を供給する電源回路(図示は省略)等を有している。
【0053】
PDP15では、サステイン放電(維持放電、表示放電)を行うサステイン電極(X1,X2,X3,・・・Xn)4とスキャン電極(Y1,Y2,Y3,・・・Yn)5とが交互に配置されて表示ラインが構成され、サステイン電極14およびスキャン電極15の対で構成される表示電極対とその表示電極対(表示ライン)と略直交するアドレス電極(A1,A2,A3,・・・An)10との交差毎にマトリクス状のセルが構成されている。
【0054】
YスキャンドライバYSCDRVは、アドレス過程TA(図4参照)において、スキャン電極5を制御して順次スキャン電極(表示ライン)5を選択し、アドレス駆動回路ADRVに電気的に接続されたアドレス電極10と各スキャン電極5との間で、各サブフィールドSF1〜SFn(図3参照)に対するセルの点灯/非点灯を選択するアドレス放電を生じさせる。
【0055】
また、Y駆動回路YSUSDRVおよびX駆動回路XSUSDRVは、表示過程TS(図4参照)において、アドレス放電により選択されたセルに対して各サブフィールドの重みに応じた数の維持放電(サステイン放電)を生じさせる。
【0056】
また、制御回路CNTは、例えばTVチューナやコンピュータ等の外部装置から入力される画像データなどの映像源となる信号を基に、それぞれの駆動回路(ドライバ)に適した制御信号を出力して所定の画像表示を行う役割を果たしている。
【0057】
また、図3に示されるように、PDP装置における階調駆動シーケンスは、1フィールド(フレーム)F1をそれぞれ所定の輝度の重みを有する複数のサブフィールド(サブフレーム)SF1〜SFnで構成し、各サブフィールドSF1〜SFnの組み合わせにより所望の階調表示を行うようになっている。
【0058】
また、各サブフィールドSF1〜SFnは、それぞれ表示領域における全てのセルの壁電荷を均一にする初期化過程(リセット期間)TR、点灯セルを選択するアドレス過程(アドレス期間)TA、および選択されたセルを輝度(各サブフィールドの重み)に応じた回数だけ放電(点灯)させる表示過程(維持放電期間)TSで構成されている。セルは、各サブフィールドの表示毎に輝度に応じて点灯され、例えば8つのサブフィールド(SF1〜SF8)を表示することで1フィールドの表示を行うようになっている。
【0059】
次に、図4に駆動波形の一例を示す。図4では、図3に示す各サブフィールドSF1〜SFnにおける各電極(サステイン電極4、スキャン電極5およびアドレス電極10)に印加する駆動波形例(PX,PY,PA)を示している。
【0060】
まず、第1のステップとして、初期化過程TRでは、例えばスキャン電極5(図1参照)とアドレス電極10(図1参照)との間でリセット放電を発生させることにより、全てのセルに電荷(壁電荷)を形成して全セルの初期化(次のアドレス動作期間に備える状態にすること)を行う。
【0061】
この初期化過程TRでは、例えばそれぞれPDP15の表示電極対6(図1参照)を構成するスキャン電極5に正の電位PY1を、アドレス電極10に負の電位PA1を印加する。これにより、アドレス電極10が負極となり、スキャン電極5が正極となって両電極間でリセット放電が発生し、全てのセルに壁電荷が形成される。続いてセル内に形成された壁電荷を必要量残して消去する補償電位PY2、PA2を印加する。これにより、全セルに形成された壁電荷の量が略一様になる。
【0062】
次に、第2のステップとして、アドレス過程TAでは、点灯させることを選択するセルに対し、アドレス電極10(図1参照)とスキャン電極5との間でアドレス放電を発生させることにより、セルの点灯/非点灯を選択する。また、それに続く表示電極対6での放電(維持放電、表示放電)を発生させる。
【0063】
このアドレス過程TAでは、例えば行方向の表示するセルを決める放電を行うため、スキャン電極5に走査パルスPY3が、サステイン電極4にX電圧PX1が印加される。この走査パルスPY3は行毎にタイミングをずらして印加される。
【0064】
一方、アドレス電極10には、列方向の表示するセルを決める放電を行うため、アドレスパルスPA3、PA4が印加される。このアドレスパルスPA3、PA4は、行毎に印加される走査パルスPY3に合わせて印加され、表示させたいセル(スキャン電極5とアドレス電極10との交点に形成されている)に放電を発生させるタイミングで印加される。
【0065】
次に、第3のステップとして、表示過程TSでは、点灯させることを選択したセルのサステイン電極4とスキャン電極5との間で維持放電(表示放電、サステイン放電)をさせ、そのセルを所定期間発光させる。
【0066】
この表示過程TSでは、例えば異なる電気的極性を有する第1の維持パルスPX2、PY4をそれぞれサステイン電極4とスキャン電極5とに印加する。これにより、表示電極対6間の放電状態が維持される。
【0067】
続いて、サステイン電極4およびスキャン電極5に、互いに電気的極性の異なる維持パルスPX3、PX4、PX5、PY5、PY6、PY7が繰り返し印加されることにより、表示電極対間の放電状態がさらに維持される。
【0068】
図3に示すように、維持パルスPX2、PX3、PX4、PX5および維持パルスPY4、PY5、PY6、PY7は、その電気的極性が交互に入れ替わる。つまり、サステイン電極4とスキャン電極5とは、維持放電の際に、交互に負極あるいは正極となって繰り返し放電がなされる。
【0069】
以上、本実施の形態のPDPモジュール20の全体構成と、階調駆動方法の例とについて説明したが、種々の変形例が存在することは言うまでもない。
【0070】
<蛍光膜の詳細構造、機能および形成方法>
次に、図1に示した蛍光膜8の詳細構造、機能および形成方法について説明する。図2に示したPDPモジュール20では、前述の通り、リセット放電、アドレス放電および維持放電などの放電を行うが、これらの放電は、以下の原理により形成される。すなわち、図1に示す放電空間14内に存在する荷電粒子(プライミング電子)が各電極間に印加される電位の差により加速され移動する。この際、放電空間14内に封入された放電ガスと荷電粒子とが衝突し、放電ガスが電離する。この過程が次々と繰り返されることにより、いわゆる電子なだれと呼ばれる状態となって放電が形成される。従って、放電空間14内に存在するプライミング電子の数が多い程、低い電位差で放電を形成しやすくなる。すなわち、放電電圧を低減することができるようになる。
【0071】
また、放電を行う電極間に電位差が生じると、プライミング電子は、相対的に電位が低い負極側から正極の方向に向かって加速される。従って、放電を形成するための電極のうち、負極となる(負の電位が印加される)電極の付近にプライミング電子が多く存在すれば、放電電圧を低減する効果が大きくなる。例えば、図4では、初期化過程TRにおいて、アドレス電極10に負の電位を供給し、スキャン電極5に正の電位を供給する例について説明したが、この場合、アドレス電極の付近にプライミング電子をより多く供給することにより、特に、リセット放電の放電電圧を低減することができる。
【0072】
このプライミング電子は、例えば図1に示すPDP15を構成する保護膜3や蛍光膜8が結晶中に形成されたトラップ準位に保持していた電子が、熱などの励起源により励起されることによって、放電空間14に供給される。従って、蛍光膜8からのプライミング電子の供給量の程度は、蛍光膜8を構成する結晶中のトラップ準位の密度の程度に相関する。また、トラップ準位の密度は、各部材の帯電特性とも相関があるので、蛍光膜8からのプライミング電子の供給量の程度は、蛍光膜8の帯電量を指標として評価することができる。詳しくは、正の帯電量を大きくする程、プライミング電子の供給量が大きくなり、放電電圧を低減することができる。なお、PDPの放電電圧と蛍光体の帯電量の関係では、蛍光体の帯電量が正電荷で大きい方が放電電圧が低い、という傾向があることは既に報告されている(例えば、第318回蛍光体同学会講演予稿、p15参照)。
【0073】
そこで、本発明者らは、アドレス電極10の近くに配置され、放電空間14に接して形成される蛍光膜8の正の帯電量を向上させることにより、放電電圧を低減する技術について検討を行った。まず、蛍光膜8を紫外線に励起されることにより可視光を発光する蛍光体、および正電荷で蛍光体よりも大きい帯電特性を有する帯電材で構成することについて検討した。
【0074】
蛍光体としては、赤色蛍光体として(Y,Gd)BO:Eu、緑色蛍光体としてZnSiO:Mn、青色蛍光体としてBaMgAl1017:Euなどを例示することができるが、これらの蛍光体の帯電量は、次の通りである。すなわち、赤色蛍光体の帯電量は20μC/g程度であり、青色蛍光体は25μC/g程度であるが、緑色蛍光体は10μC/g程度と極端に低い。従って、全てのセルにおいて、放電電圧を略一定にするという観点からは、特に緑色蛍光体が含まれる蛍光膜8gの帯電量を向上させることが重要である。
【0075】
本発明者らは、まず、帯電材としてMgO(酸化マグネシウム)を用いてこれを緑色蛍光体と混合し、図1に示す緑色を発光する蛍光膜8gを形成し、検討した。この結果、MgOは、帯電量が緑色蛍光体よりも大きいため、放電電圧を低減することができることがわかった。しかし、帯電材として単にMgOの結晶粒子を用いた場合、その帯電量は十分とはいえず、例えば赤色蛍光体で形成された赤色の蛍光膜8rと同程度の帯電量とするためには、緑色蛍光体に混合する帯電材の量を20重量%より多く混合する必要があることがわかった。このように帯電材の混合量が増加すると、表示放電を行う際に蛍光体を励起するための真空紫外線が帯電材に吸収されやすくなるため、帯電材を混合したセルの輝度(発光効率)が低下してしまう。特に、特定のセルにのみ帯電材を混合する場合には、セル毎の輝度のばらつきが増大し、表示不良の原因となる。
【0076】
そこで、本発明者は、帯電材の帯電量を増加させる手段について検討を行い、MgCOを蛍光体と混合してアニール処理することによって、MgOを蛍光体と粉末混合することと、蛍光体にMgOを表面コーティングすることとの2つを同時に行う構成を見出した。MgOを粉末混合することと、表面コーティングすることとの2つを同時に行うことによって、粉末混合のみ、あるいは表面コーティングのみの場合より多くのプライミング電子を放電空間14に供給することが可能となる。
【0077】
図5は、帯電材の構成毎の帯電特性を評価した実験結果について示す説明図である。図5に示す実験に用いた各試料はそれぞれ、以下のように調製した。まず、比較区1の試料としては、市販の蛍光体のみを用いた。また、比較区2、3、4の試料としては、所望の量のMgO粉末を市販の蛍光体とともに乳鉢にて30分程度乾式混合したものを用いた。また、比較区5の試料としては、sol−gel法で金属酸化物コートした蛍光体とMgO粉末(Mg添加濃度5mol%)とを乳鉢にて30分程度乾式混合したものを用いた。また、実験区1、2、3、4の試料としては、帯電材の原料であるMgCO粉末を蛍光体とともに乳鉢にて30分程度乾式混合し、その後に、アルミナボートに原料を充填して管状炉にて650℃、N雰囲気にて2時間、アニール焼成を行い、得られた焼成物を軽く解砕したものを試料とした。各実験区における混合量は、次の通りである。実験区1では、ZnSiO:Mn蛍光体を4.446gに対してMgCOを0.008g混合した。実験区2では、ZnSiO:Mn蛍光体を4.446gに対してMgCOを0.017g混合した。実験区3では、ZnSiO:Mn蛍光体を4.446gに対してMgCOを0.034g混合した。実験区4では、ZnSiO:Mn蛍光体を4.446gに対してMgCOを0.084g混合した。また、アニール温度の検討として、上述の実験区3の分量で行うMgCO混合アニール蛍光体の製造において、アニール温度を300℃、500℃、800℃、および1000℃として実験区5、6、7、8の試料を得た。
【0078】
また、帯電特性の評価は、フェライト粉末(P−01、日本画像学会、9.7g)および試料粉末(0.3g)を容器に入れてボールミルにて1時間混合した後に、吸引式帯電特性評価装置によってフェライト粉末に対する試料粉末の帯電量の測定により行った。
【0079】
図5において、比較区1(MgOを混合しないZnSiO:Mn蛍光体)の帯電量は9.0μC/gであるのに対して、実験区1の帯電量は、9.2μC/g、実験区2の帯電量は16.4μC/g、実験区3の帯電量は22.0μC/g、実験区4の帯電量は28.8μC/gであり、いずれの場合も比較区1に対して帯電量が正電荷の方向に増大していることがわかる。また、比較区2の帯電量は15.1μC/g、比較区3の帯電量は17.9μC/g、比較区4の帯電量は20.2μC/gである。また、比較区5はsol−gel金属酸化物コート蛍光体(帯電量20μC/g)とMgOを混合したものであるが、その帯電量は23.5μC/gであった。図6にMg量に対する帯電量の変化の評価結果を示す。比較区2、3、4、5では、いずれの場合もMg量が同じ実験区2、3、4よりも帯電量が小さくなっている。このことは、単にMgO粉末を混合するよりも、本発明者らが考案したMgCO混合アニール蛍光体の製造方法が優れていることを示している。
【0080】
また、図7にMgCO混合アニール蛍光体のアニール温度に対する帯電量の変化を示す。図7に示すように、実験区5のアニール温度が300℃の帯電量が10.7μC/gであり、実験区6のアニール温度が500℃の帯電量が20.0μC/gであり、実験区3のアニール温度が650℃の帯電量が22.0μC/gであり、実験区7のアニール温度が800℃の帯電量が11.7μC/gであり、実験区8のアニール温度が1000℃の帯電量が9.3μC/gであった。アニール温度が300℃の場合には、MgCOが分解せずに残るために、帯電量の増加があまりみられない。また、アニール温度が800℃以上では、蛍光体の内部にまでMgOが浸透するために、帯電量の増加があまりみられない。すなわち、帯電量を増加させるためには、アニール温度を300℃超800℃未満とすればよい。ただし、アニール温度が500℃では、MgCOが分解せずに残る可能性がある。MgCOが残るとPDP駆動時にCOを発生し、輝度寿命を低下させる原因となる。そのため、アニール温度は550℃以上が好ましい。また、図7に示す測定結果を考慮して、帯電量を増加させるためのアニール温度は550℃以上650℃以下の範囲が良好となる。
【0081】
次に、MgOの粉末混合状態および表面コート状態を調べるために、図5に示した実験区4に相当するMgCO混合アニール蛍光体(Mg添加濃度5mol%)のオージェ電子分光分析を行った。図8にMgCO混合アニール蛍光体のSEM写真を示す。また、同じ位置におけるMGCOの分解後のMgのオージェ電子分光分析結果を図9に示す。図9の中央付近にMgの塊が2箇所検出された(図中に○で示した)。図8を見ると、粒径4μm程度の蛍光体粒子よりもやや大きい粒子がその位置にある(図中○で示した)。
【0082】
従って、これらの粒子はMgCOが分解してMgOとなった粒子である。このように、MgCO混合アニール蛍光体では、MgO粒子の平均粒径が蛍光体の平均粒径よりも大きく、平均粒径が3μm以上のMgO粒子が粉末混合された状態になっている。ここで、平均粒径とは、以下のように規定することができる。粒子(蛍光体粒子あるいは帯電材粒子)の平均粒径を調べる方法としては、粒度分布測定装置で測定する方法および電子顕微鏡で直接観察する方法などがある。電子顕微鏡で調べる場合を例にとると、平均粒径は以下のように算出することができる。粒子の粒径の変量(・・・、0.8〜1.2μm、1.3〜1.7μm、1.8〜2.2μm、・・・、6.8〜7.2μm、7.3〜7.7μm、7.8〜8.2μm、・・・など)の各区間を階級値(・・・、1.0μm、1.5μm、2.0μm、・・・、7.0μm、7.5μm、8.0μm、・・・)で表し、これをxとする。そして、電子顕微鏡で観察された各変量の度数をfで示すことにすれば、平均値Mは、M=Σx/Σf=Σx/Nのように表される。ただし、Σfi=Nである。
【0083】
また、図9において、その他のMg検出部分を見ると、Mgの分布は一様に広がっているわけではなく、Mgが付いている蛍光体とMgが付いていない蛍光体が見られる。これは、sol−gel法のように溶液に分散してMgOを一様に蛍光体表面にコーティングする方法に比べて、MgCO混合アニール蛍光体ではMgOの蛍光体への分散度合いが低いことを示している。このようにMgOの蛍光体への付着の分散度合いが低い方、すなわちMgOの蛍光体への付着の濃淡差がある方が、MgOによって真空紫外線が遮られる部分が小さく、発光輝度が高くなり有利である。MgCO添加濃度が2mol%で発光輝度の低下は3%程度である。また、MgCO添加濃度を5mol%より大きくすると輝度の低下が10%以上となるため、MgCO添加濃度は1mol%以上、5mol%以下の範囲が適当である。
【0084】
次に、図10にMgCO混合アニール蛍光体(Mg添加濃度5mol%)をFIB(Focus Ion Beam)加工した蛍光体断面のSEM写真を、図11に同じ位置のMgのオージェ電子分光分析結果を示す。図11を見ると、Mgは蛍光体の内部には浸透しておらず、蛍光体表面から0.1μm以下の深さでコートされているのがわかる。また、蛍光体表面の部分を見ると、一様にMgOがコートされているわけではなく、MgOの蛍光体表面での分散度合いが低い。このように、蛍光体表面にMgOがコートされている部分とコートされていない部分がある。
【0085】
次に、赤緑青の3色のバランスについて見ると、蛍光体の帯電特性は発光色によって異なっており、緑色蛍光体が特に正電荷の方向に小さい。したがって、少なくとも緑色の蛍光膜8gは、蛍光体と帯電材で構成する必要があるが、赤色の蛍光膜8r、青色の蛍光膜8bに帯電材を混合アニールしない場合には、蛍光膜8gの帯電特性が蛍光膜8rあるいは蛍光膜8bと同等になる範囲で帯電材の混合アニール割合を調整することが好ましい。これは、セル毎の放電電圧のばらつきを低減するためである。また、このばらつきを低減する観点から、蛍光膜8r、8b、8gの全てを蛍光体と帯電材との混合アニールとして形成する場合には、各蛍光膜8の帯電特性を揃えることが好ましい。例えば、各蛍光膜8における帯電材の混合割合が青色<赤色<緑色の順で大きくなることが好ましい。
【0086】
また、ここではMgCOを帯電材の原料として用いたが、例えばその他の材料としてMg(OH)、MgC、またはMg(C・4HOなどのマグネシウム塩を用いてもよい。また、MgCl、MgBr、MgF、またはMgIなどのハロゲン化物を用いることもできる。また、Mg(NO・6HO、MgHPO・3HO、またはMgSOなどのマグネシウム塩を用いることも可能である。ただし、これらのマグネシウム塩を用いる場合には、アニール温度をそれぞれの材料について最適化する必要があるため、上述のMgCOの場合とは異なるアニール温度が最適な場合がある。また、MgCOの場合にはマグネシウム塩が分解してMgOとなるが、これらの材料の中には材料に含まれる組成の元素(例えばハロゲン元素)を含むマグネシウム化合物として蛍光体に粉末混合および表面コーティングがなされる場合がある。
【0087】
また、PDP15の輝度の観点から、放電ガス中におけるXeの濃度を高めることが好ましい。PDP15は、前述の通り、蛍光体の励起源として146nmおよび172nmの真空紫外線を用いているが、放電ガス中のXeの濃度を向上させることにより、172nmの真空紫外線の発生割合が上昇する。一方、帯電材による真空紫外線の吸収特性を考慮すると、172nmの方が146nmの真空紫外線よりも吸収され難い。従って、放電時に放電ガスから照射される紫外線の波長は、172nm成分の方が、146nm成分よりも多い方がPDPの輝度特性上有利である。具体的には、放電ガス中のXeの濃度を8%以上とすることにより、172nm成分を146nm成分よりも多くすることができる。また、放電ガス中のXeの濃度を12%以上とすれば、172nm成分が146nm成分よりも確実に多くなり、輝度を安定的に向上させることができる。このように、放電ガス中のXeの濃度を増加させると、放電電圧は上昇する傾向がある。しかし、本実施の形態によれば、帯電特性を向上させることができるので、放電電圧の上昇を抑制することができる。また、PDP15の輝度特性を向上させることにより、発光効率を向上させることができるので、消費電力を低減することができる。
【0088】
次に、蛍光体膜の形成方法について説明する。図12に示す蛍光膜8は例えば以下の方法により形成することができる。まず、上述のようにして形成したMgCO混合アニール蛍光体を準備する。また、その原料となる蛍光体は市販の蛍光体粉末を用いることができるので詳細な説明は省略する。次に、MgCO混合アニール蛍光体は凝集した粒子群による異常放電を防ぐため、水洗、メッシュパス、および乾燥を行った。次に、MgCO混合アニール蛍光体の粉末をそれぞれ所定量ずつ有機溶剤中に分散、混合し、ビヒクルとする。次に、このビヒクル中に有機バインダ樹脂を投入し、混合すると、蛍光体ペーストが得られる。
【0089】
この蛍光体ペーストは、赤、緑、青の色毎に3種類準備する。なお、例えば緑色の蛍光膜8g(図1参照)のみに帯電材を混合アニールする場合には、赤用および青用の蛍光体ペーストには、帯電材を混合アニールしなくても良い。また、全ての色の蛍光体膜8に帯電材を混合アニールする場合には、混合アニールする帯電材の量を緑>赤>青の順で多くすることにより得られる蛍光膜8の帯電特性を揃えることができる。
【0090】
次に、各蛍光体ペーストを図1に示す隔壁7で区画された領域に塗布する。塗布方法は、スクリーン印刷法、あるいはディスペンス法などを用いることができる。次に、蛍光体ペーストが塗布された背面板13を焼成し、蛍光体ペースト中に含まれる有機成分を取り除いて、蛍光膜8が形成される。
【0091】
本発明者らは、上記のようにして比較区1および実験区4の蛍光体を用いてそれぞれ蛍光膜を形成し、それぞれの蛍光膜が用いられたPDPパネルを作成した。そして、それぞれのPDPパネルに電圧を印加することにより、形成した緑色蛍光膜のVt閉曲線の測定を行った。図13にVt閉曲線の評価結果を示す。図13のグラフ下部のY−A対向電圧が実験区4の蛍光体では、比較区1の蛍光体に比べて34V低下した。すなわち、図5で例示した本実施の形態の蛍光膜のうち、最も帯電量の大きかった実験区4の蛍光体を用いることにより、放電電圧の上昇を最も効果的に抑制することができ、PDP装置の消費電力を低減できることが、図13の評価結果からも確認できる。
【0092】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0093】
また、本実施の形態では、PDP装置の例としてPDPおよびPDPモジュールを例示して説明したが、図2に示すPDPモジュール20を外部筐体でカバーしてPDPセットとしても良い。PDPモジュール20、あるいはPDPセットでは、放熱性確保のため、駆動回路が形成される部材(例えば回路基板)の周辺に放熱部材が取り付けられるが、本実施の形態によれば、消費電力の低減に伴い、駆動回路からの発熱量も低減するため、例えば、放熱板の板厚を薄くするなど放熱部材を簡素化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のプラズマディスプレイ装置およびその製造方法は、PDP、PDPモジュール、あるいはPDPセットなどのプラズマディスプレイ装置およびその製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 前面基板
2 誘電体層
3 保護膜
4 サステイン電極(X電極)
4a 透明電極
4b バス電極
5 スキャン電極(Y電極)
5a 透明電極
5b バス電極
6 表示電極対
7 隔壁
8、8r、8g、8b 蛍光膜
9 誘電体層
10 アドレス電極(A電極)
11 背面基板
12 前面板
13 背面板
14 放電空間
15 PDP
20 PDPモジュール
21 帯電材(粉末)
22 帯電材(コーティング)
23 蛍光体
CL 放電セル
CNT 制御回路
PA1 負の電位
PA3、PA4 アドレスパルス
PX1 X電圧
PX2 第1の維持パルス
PX3、PX4、PX5 維持パルス
PY1 正の電位
PA2、PY2 補償電位
PY3 走査パルス
PY4 第1の維持パルス
PY5、PY6、PY7 維持パルス
TR 初期化過程
XSUSDRV X駆動回路
YSCDRV Yスキャンドライバ
YSUSDRV Y駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置される前面板および背面板の間に形成され、内部に放電ガスが充填された放電空間を有し、
前記背面板は、前記放電空間に接して配置された蛍光膜を有し、
前記蛍光膜は、紫外線に励起されることにより可視光を発光する蛍光体、および正電荷で前記蛍光体よりも大きい帯電特性を有する金属酸化物からなる帯電材から形成され、
前記帯電材は酸化マグネシウムから形成され、
前記蛍光体には、酸化マグネシウム粉末が混合されていることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記蛍光膜における前記帯電材のマグネシウム濃度は、1mol%以上、5mol%以下であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項3】
請求項1記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記蛍光膜中には、前記帯電材の粒子と、前記蛍光体の粒子とが分散して配置されていることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項4】
請求項1記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記帯電材の酸化マグネシウム粉末の平均粒径は、前記蛍光体の平均粒径よりも大きいことを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項5】
請求項1記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記帯電材の酸化マグネシウム粉末の平均粒径が3μm以上であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項6】
請求項1記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記蛍光体の表面は、酸化マグネシウムでコーティングされていることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項7】
請求項6記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記酸化マグネシウムは、前記蛍光体の前記表面を前記蛍光体の前記表面から0.1μm以下の深さでコーティングしていることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項8】
請求項6記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記蛍光体は、前記表面において前記酸化マグネシウムがコーティングされている部分とコーティングされていない部分とを有することを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項9】
請求項6記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記蛍光体は、前記酸化マグネシウムがコーティングされた第1の蛍光体と前記酸化マグネシウムがコーティングされていない第2の蛍光体との混合物であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項10】
請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記前面板には、複数の表示電極対が形成され、
前記背面板には、前記複数の表示電極対と交差して配置される複数のアドレス電極が形成され、
前記蛍光膜は、前記複数のアドレス電極よりも前記放電空間側に配置されていることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項11】
請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記蛍光膜は、赤色蛍光体が含まれる赤色発光蛍光膜、緑色蛍光体が含まれる緑色発光蛍光膜、および青色蛍光体が含まれる青色発光蛍光膜、からなり、
前記帯電材は、前記緑色発光蛍光膜にのみ混合されていることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項12】
請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記蛍光膜は、赤色蛍光体が含まれる赤色発光蛍光膜、緑色蛍光体が含まれる緑色発光蛍光膜、および青色蛍光体が含まれる青色発光蛍光膜、からなり、
前記帯電材は、前記赤色発光蛍光膜、前記緑色発光蛍光膜、および前記青色発光蛍光膜のそれぞれに混合され、
前記赤色発光蛍光膜、前記緑色発光蛍光膜、および前記青色発光蛍光膜のそれぞれにおけるマグネシウムの濃度は、異なっていることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項13】
請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記放電ガスには、キセノン(Xe)が含まれ、
放電時に前記放電ガスから照射される紫外線の波長は、172nm成分の方が、146nm成分よりも多いことを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項14】
請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置において、
前記放電ガスには、キセノン(Xe)が含まれ、
前記放電ガスに含まれるキセノンの濃度は、8mol%以上であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項15】
対向配置される前面板および背面板の間に形成され、内部に放電ガスが充填された放電空間を有し、
前記背面板は、前記放電空間に接して配置された蛍光膜を有し、
前記蛍光膜は、紫外線に励起されることにより可視光を発光する蛍光体、および正電荷で前記蛍光体よりも大きい帯電特性を有する帯電材とからなるプラズマディスプレイ装置の製造方法であって、
前記帯電材を作成する工程は、
(a)マグネシウム塩を蛍光体と混合する工程と、
(b)前記マグネシウム塩と前記蛍光体とを混合した粉体をアニール処理する工程と、
を含み、
前記帯電材と前記蛍光体とを用いて前記蛍光膜を形成する工程を含むことを特徴とするプラズマディスプレイ装置の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載のプラズマディスプレイ装置の製造方法において、
前記帯電材の作成に用いる前記マグネシウム塩が炭酸マグネシウムであることを特徴とするプラズマディスプレイ装置の製造方法。
【請求項17】
請求項15に記載のプラズマディスプレイ装置の製造方法において、
前記(b)工程におけるアニール温度は、300℃より高く、800℃未満であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載のプラズマディスプレイ装置の製造方法において、
前記(b)工程におけるアニール温度は、550℃以上650℃以下であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−28872(P2011−28872A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170792(P2009−170792)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】