説明

プラズマディスプレイ装置

【課題】青色蛍光体や緑色蛍光体表面への水や炭化水素ガスなどの吸着を抑え、蛍光体層の輝度劣化を抑制し長寿命化を図る。
【解決手段】1色または複数色の放電セルが複数配列されるとともに、各放電セルに対応する色の蛍光体層が配設され、蛍光体層が紫外線により励起されて発光するプラズマディスプレイパネル100を備えたプラズマディスプレイ装置であって、蛍光体層は少なくとも緑色蛍光体層を有し、緑色蛍光体層がZr、Hf、Nb、Mo、W、Ta、Ti、Crの内の少なくとも一種を含む珪酸亜鉛蛍光体を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばテレビなどの画像表示に用いられるプラズマディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータやテレビなどの画像表示に用いられているカラー表示デバイスにおいて、プラズマディスプレイパネル(以下PDPという)を用いた表示装置が、大型で薄型軽量を実現することのできるカラー表示デバイスとして注目されている。
【0003】
PDPによるプラズマディスプレイ装置は、いわゆる3原色(赤、緑、青)を加法混色することによりフルカラー表示を行っている。このフルカラー表示を行うために、プラズマディスプレイ装置には3原色である赤(R)、緑(G)、青(B)の各色を発光する蛍光体層が備えられ、この蛍光体層を構成する蛍光体粒子はPDPの放電セル内で発生する紫外線により励起されて各色の可視光を生成している。
【0004】
上記各色の蛍光体に用いられる化合物としては、例えば、赤色を発光する(Y、Gd)BO:Eu3+、Y:Eu3+、緑色を発光するZnSiO:Mn2+、青色を発光するBaMgAl1017:Eu2+などが知られている。これらの各蛍光体は、所定の原材料を混ぜ合わせた後、1000℃以上の高温で焼成することにより固相反応されて作製される(例えば、非特許文献1)。この焼成により得られた蛍光体粒子は、粉砕してふるい分け(赤、緑の平均粒径:2μm〜5μm、青の平均粒径:3μm〜10μm)を行ってから使用している。
【0005】
蛍光体粒子を粉砕、ふるい分け(分級)をする理由は以下の通りである。すなわち、一般にPDPに蛍光体層を形成する場合、各色蛍光体粒子をペーストにしてスクリーン印刷する手法が用いられており、ペーストを塗布した際に蛍光体の粒子径が小さく、均一である(粒度分布がそろっている)方がよりきれいな塗布面が得やすいためである。つまり、蛍光体の粒子径が小さく、均一で形状が球状に近いほど、塗布面がきれいになり、蛍光体層における蛍光体粒子の充填密度が向上するとともに粒子の発光表面積が増加し、プラズマディスプレイ装置の輝度を上げることができると考えられる。
【0006】
しかしながら、従来用いられてきたアルカリ土類金属アルミン酸塩からなる青色蛍光体(BaMgAl1017:Eu)、珪酸亜鉛からなる緑色蛍光体(ZnSiO:Mn)、および酸化イットリウム系からなる赤色蛍光体((Y、Gd)BO:Eu)を用いたPDPにおいては、特にアルカリ土類アルミン酸塩の青色蛍光体および、珪酸亜鉛の緑色蛍光体は、蛍光体粒子自身に欠陥を内蔵したり、蛍光体の粒径を小さくすることで蛍光体表面の欠陥が増大する。そのため、蛍光体表面に多くの水や炭酸ガス、あるいは、炭化水素系の有機物が付着しやすくなる。青色蛍光体、緑色蛍光体、赤色蛍光体を組合せたPDPは、互いの蛍光体によりPDP内に持ち込まれた多くの不純ガスが、PDP点灯中に徐々に放出されて蛍光体と反応し、輝度劣化や色ずれ、放電特性の悪化などの特性変化を誘発する。また、このような不純ガスとMgOが放電中に反応して、MgOのスパッタリング(MgOが放電中に削り取られる)が激しくなるという課題も発生する。これらPDPの課題を解決するために、青色蛍光体、および緑色蛍光体の不純ガス吸着量低減を解決しなければならない。
【0007】
2価のユーロピウム(Eu)を付活材とするアルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体であるBa1−xMgAl1017:Euや、Ba1−x−ySrMgAl1017:Euからなる青色蛍光体の場合は、これらの結晶構造が層状構造を有し(例えば、非特許文献2)、その層の中でBa原子を含有する層(Ba−O層)近傍の酸素(O)に欠損を有していることが開示されている(例えば、非特許文献3)。そのため、蛍光体のBa−O層の表面に空気中に存在する水や炭化水素系のガスが選択的に吸着されてしまう。吸着された水や炭酸ガスは、放電中に徐々にPDP内に放出される。
【0008】
そのため、蛍光体やMgOと徐々に反応して輝度劣化やPDPの色度変化による色ずれや画面の焼き付き、あるいは駆動マージンの低下やMgOのスパッタリングによる放電電圧の上昇といった寿命に関する課題が発生する。また酸素欠陥に147nmの真空紫外光が吸収されることで、欠陥がさらに増殖されるため蛍光体の輝度劣化がさらに大きくなるという課題も発生する。
【0009】
従来これらの課題を解決するために、青色蛍光体のBa−O層の欠陥の修復することを目的として青色蛍光体表面にAlの結晶を全面コーティングする方法が開示されている(例えば、特許文献1)。また同じく青色蛍光体のBa−O層の近傍の酸素欠陥を低減する目的で5価のイオンであるNb、Ta、Pr、P、As、Bi、Tmを置換する方法も提案されている(例えば、特許文献2)。
【非特許文献1】「蛍光体ハンドブック」(オーム社)P219〜225
【非特許文献2】「ディスプレイアンドイメージング」1999、Vol.7、P225〜234
【非特許文献3】「応用物理」第70巻、第3号、2001年、P310
【特許文献1】特開2001−55567号公報
【特許文献2】特開2003−336061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、青色蛍光体のBa−O層の欠陥の修復することを目的に青色蛍光体表面にAlの結晶を全面にコーティングする方法では、Alの結晶をコーティングすることにより紫外線の吸収が起こり蛍光体の発光輝度が低下するという新たな課題が生じている。
【0011】
また青色蛍光体のBa−O層の近傍の酸素欠陥を低減する目的で5価のイオン(Nb、Ta、Pr、P、As、Bi、Tm)を置換する方法では、水や炭化水素ガスの吸着を十分低減できないため青色蛍光体の劣化が進行し、PDPの寿命低下や色ずれ、画面の焼き付きという新たな課題が生じている。
【0012】
一方、Mnを付活材とするZnSiO:Mnからなる緑色蛍光体の場合は、蛍光体の製造上ZnOに対するSiOの割合が化学量論比(ZnO/SiOが2/1)よりも多いZnO/SiO比が1.5/1の配合比で配合し、空気中やN中で1100℃〜1300℃で焼成して作製している。そのためZnSiO:Mn結晶表面はSiOで覆われているが、表面のSiOは、蛍光体の成分中のZnOが欠落して非常に多孔質になっており、水や炭化水素系のガスがそこに多く吸着されてしまう。したがって、吸着された水や炭化水素系ガスが放電中にPDP中に徐々に放出され、蛍光体やMgOと反応して輝度劣化や色度変化による色ずれや画面の焼き付き、あるいは駆動マージンの低下や放電電圧の上昇といった課題を発生させる。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、青色蛍光体や緑色蛍光体表面への水や炭化水素系のガスの吸着を抑え、PDPの長寿命化を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述の課題を解決するために本発明のプラズマディスプレイ装置は、1色または複数色の放電セルが複数配列されるとともに、各放電セルに対応する色の蛍光体層が配設され、蛍光体層が紫外線により励起されて発光するPDPを備えたプラズマディスプレイ装置であって、蛍光体層は少なくとも緑色蛍光体層を有し、緑色蛍光体層がZr、Hf、Nb、Mo、W、Ta、Ti、Crの内の少なくとも一種を含む珪酸亜鉛蛍光体を含んでいる。
【0015】
このような構成により、緑色蛍光体への水や炭化水素などの吸着を抑制することができ、緑色蛍光体の輝度劣化や色度変化(色ずれ)を抑制するとともに、放電特性の安定化を図ることができる。
【0016】
さらに、珪酸亜鉛蛍光体がZnSi:Mnの結晶構造からなる緑色蛍光体であってもよい。このような構成により、より効果的に、緑色蛍光体への水や炭化水素などの吸着を抑制することができる。
【0017】
さらに、Zr、Hf、Nb、Mo、W、Ta、Ti、Crの含有量が、0.0005モル%〜0.1モル%であってもよい。このような含有量にすることにより、より効果的に、緑色蛍光体への水や炭化水素ガスなどの吸着を抑制することができる。
【0018】
また本発明のプラズマディスプレイ装置は、複数色の放電セルが複数配列されるとともに、各放電セルに対応する色の蛍光体層が配設され、蛍光体層が紫外線により励起されて発光するPDPを備えたプラズマディスプレイ装置であって、複数色の蛍光体層が青色蛍光体層と赤色蛍光体層と緑色蛍光体層とを含み、青色蛍光体層がMo、Wの内の少なくとも一種を含むBa1−xMgAl1017:EuあるいはBa1−x−ySrMgAl1017:Euの結晶構造を有する青色蛍光体を含み、赤色蛍光体層がY2−x:Euあるいは(Y、Gd)1−xBO:Euの結晶構造を有する赤色蛍光体を含み、緑色蛍光体層がZr、Hf、Nb、W、Mo、Ta、Ti、Crの内の少なくとも一種を含むZn2−xSiO:Mnの結晶構造を有する緑色蛍光体を含んでいる。
【0019】
このような構成により、青色蛍光体および緑色蛍光体への水や炭化水素ガスなどの吸着を抑制することができ、青色蛍光体および緑色蛍光体の輝度劣化や色度変化、あるいは放電特性の改善を行うことができるとともに、赤色蛍光体の劣化とMgOのスパッタリングも同時に抑制し、結果として、PDP全体の輝度劣化および色度変化を抑制し信頼性の高い長寿命のプラズマディスプレイ装置を実現することができる。
【0020】
さらに、青色蛍光体に含まれるMo、Wの含有量が、0.001モル%〜3モル%であってもよい。このような含有量にすることにより、より効果的に、青色蛍光体への水や炭化水素ガスなどの吸着を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、蛍光体層を構成する青色蛍光体の結晶中のMg、Al、Ba元素をMo、Wで置換した青色蛍光体、およびZr、Hf、Nb、Mo、W、Ta、Ti、Crで置換した緑色蛍光体を使用することにより、蛍光体層の輝度劣化や色度変化を防止することができ信頼性の高い長寿命のプラズマディスプレイ装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は本発明の実施の形態におけるプラズマディスプレイ装置に用いるPDPの前面ガラス基板を取り除いた概略平面図であり、図2は同PDPの画像表示領域における部分断面斜視図である。なお、図1においては表示電極群、表示スキャン電極群、アドレス電極群の本数などについてはわかりやすくするため一部省略して図示している。以下、図1、図2を参照しながらPDPの構造について説明する。
【0024】
図1、図2において、PDP100は、前面ガラス基板101と、背面ガラス基板102と、N本の表示電極103群と、N本の表示スキャン電極104群(N本目を示す場合はその数字を付す)と、M本のアドレス電極107群(M本目を示す場合はその数字を付す)と、斜線で示す気密シール層121などからなる。各表示電極103、表示スキャン電極104、アドレス電極107による3電極構造の電極マトリックスを有しており、表示スキャン電極104とアドレス電極107との交点にセルが形成され、画像表示領域123を形成している。
【0025】
このPDP100は、図2に示すように、前面ガラス基板101の一主面上に表示電極103、表示スキャン電極104、誘電体ガラス層105、MgO保護層106が備えられた前面パネルと、背面ガラス基板102の一主面上にアドレス電極107、誘電体ガラス層108、隔壁109、赤色蛍光体層110R、緑色蛍光体層110G、青色蛍光体層110Bが備えられた背面パネルとを張り合わせ、前面パネルと背面パネルとの間に形成される放電空間122内に放電ガスを封入することにより構成されている。
【0026】
プラズマディスプレイ装置は、図3に示すようにPDP100に表示ドライバ回路153、表示スキャンドライバ回路154、アドレスドライバ回路155が接続されている。コントローラ152の制御にしたがい、点灯させようとするセルにおいて、表示スキャン電極104とアドレス電極107に信号電圧を印加してその間でアドレス放電を行った後、表示電極103、表示スキャン電極104間にパルス電圧を印加して維持放電を行う。この維持放電により、当該セルにおいて紫外線が発生し、この紫外線により励起された蛍光体層110R、110G、110Bが発光することでセルが点灯し、各色セルの点灯、非点灯の組合せによって画像が表示される。
【0027】
図4はPDPの画像表示領域の構造を示す断面図である。以下、上述したPDP100の製造方法を図4を参照しながら説明する。
【0028】
図4において、前面ガラス基板101上に、まず各N本の表示電極103および表示スキャン電極104(図2においては各2本のみ表示している。)を交互かつ平行にストライプ状に形成した後、その上を誘電体ガラス層105で被覆し、さらに誘電体ガラス層105の表面にMgO保護層106を形成することによって前面パネルが作製される。
【0029】
表示電極103および表示スキャン電極104は、銀からなる電極であって、電極用の銀ペーストをスクリーン印刷法により塗布した後、焼成することによって形成する。
【0030】
誘電体ガラス層105は、鉛系のガラス材料を含むペーストをスクリーン印刷法で塗布した後、所定温度、所定時間(例えば560℃で20分)焼成することによって、所定の層の厚み(約30μm)となるように形成する。上記鉛系のガラス材料を含むペーストとしては、例えばPbO(70wt%)、B(15wt%)、SiO(10wt%)、およびAl(5wt%)と有機バインダ(α−ターピネオールに10%のエチルセルローズを溶解したもの)との混合物を使用する。
【0031】
ここで、有機バインダとは樹脂を有機溶媒に溶解したものであり、樹脂としてはエチルセルローズ以外にアクリル樹脂が使用可能であり、有機溶媒としてはブチルカービトールなども使用することができる。さらに、こうした有機バインダに分散剤(例えば、グリセルトリオレエート)を混入させてもよい。
【0032】
MgO保護層106は、酸化マグネシウム(MgO)からなるものであり、例えば真空蒸着法、スパッタリング法あるいはCVD法(化学蒸着法)によって所定の厚み(約0.5μm)となるように形成する。
【0033】
背面パネルは、まず背面ガラス基板102上に、電極用の銀ペーストをスクリーン印刷し、その後、焼成することによってM本のアドレス電極107を列方向に配列した状態で形成する。その上に鉛系のガラス材料を含むペーストをスクリーン印刷法で塗布して誘電体ガラス層108を形成する。さらに、その上に、同じく鉛系のガラス材料を含むペーストをスクリーン印刷法により所定のピッチで繰り返し塗布した後、焼成することによって隔壁109を形成する。この隔壁109により、放電空間122はライン方向に一つのセル(単位発光領域)毎に区画される。
【0034】
隔壁109の間隙寸法Wは、一定値32インチ〜50インチのHD−TVに合わせて130μm〜240μm程度に規定される。そして、隔壁109間の溝に蛍光体層110R、110G、110Bを形成する。ここで、赤色蛍光体層110RはY2−x:Euあるいは(Y、Gd)1−xBO:Euからなる赤色蛍光体(R)を使用している。緑色蛍光体層110Gは、Zr、Hf、Nb、W、Mo、Ta、Ti、Crの内の少なくとも一種を含むZn2−xSiO:Mnからなる緑色蛍光体(G)を使用している。また、青色蛍光体層110Bは、Ba1−xMgAl1017:EuあるいはBa1−x−ySrMgAl1017:EuのAl、Baあるいは、Mg元素イオンを6価の元素イオンで置換した青色蛍光体(B)を使用している。各蛍光体粒子と有機バインダとからなるペースト状の蛍光体インキを隔壁109間に塗布し、これを400℃〜590℃の温度で焼成して有機バインダを焼失させ、各蛍光体粒子が結着してなる蛍光体層110R、110G、110Bを形成している。
【0035】
この蛍光体層110R、110G、110Bのアドレス電極107上における積層方向の厚みLは、各色蛍光体粒子の平均粒径のおよそ8倍〜25倍程度に形成することが望ましい。すなわち、蛍光体層に一定の紫外線を照射した時の輝度(発光効率)を確保するためには、蛍光体層は放電空間において発生した紫外線を透過させることなく吸収することが必要であり、蛍光体粒子が最低でも8層、好ましくは20層程度積層された厚みを保持することが望ましい。それ以上の厚みとなると、蛍光体層の発光効率はほとんど飽和するとともに、20層程度以上積層されると放電空間122の大きさを十分に確保できなくなるからである。
【0036】
また、水熱合成法などにより得られた蛍光体粒子のように、その粒径が十分小さく、かつ球状であれば、球状でない粒子を使用する場合に比べて蛍光体層の充填密度が高まる。そのため、蛍光体粒子の総表面積が増加して、蛍光体層における実際の発光に寄与する蛍光体粒子表面積が増加し、さらに発光効率が高まる。また形状が球状であると比表面積も小さくなるため水や炭化水素、炭酸ガスなどの不純ガスの吸着も少なくなる。この蛍光体層110R、110G、110Bの合成方法については後述する。
【0037】
このようにして作製された前面パネルと背面パネルとを、前面パネルの各電極と背面パネルのアドレス電極とが直交するように重ね合わせる。さらに、PDP周縁に封着用ガラスを介挿させ、これを、例えば450℃程度で10分〜20分間焼成して図1に示す気密シール層121を形成することにより封着する。そして、一旦放電空間122内を高真空(例えば、1.1×10−4Pa)に排気した後、放電ガス(例えば、He−Xe系、Ne−Xe系の不活性ガス)を所定の圧力で封入することによってPDP100を作製する。
【0038】
図5は蛍光体層を形成する際に用いるインキ塗布装置の概略構成図である。以下蛍光体層の製造方法について図5を参照して説明する。
【0039】
図5に示すように、インキ塗布装置200は、サーバ210、加圧ポンプ220、ヘッダ230などを備え、蛍光体インキ250を蓄えるサーバ210から供給される蛍光体インキ250は、加圧ポンプ220によりヘッダ230に加圧されて供給される。
【0040】
ヘッダ230にはインキ室230aおよびノズル240が設けられており、加圧されてインキ室230aに供給された蛍光体インキ250は、ノズル240から連続的に吐出されるように構成されている。このノズル240の口径Dは、ノズルの目詰まり防止のため30μm以上とし、かつ塗布の際の隔壁109からのはみ出し防止のため隔壁109間の間隔W(約130μm〜200μm)以下にすることが望ましく、通常30μm〜130μmに設定している。
【0041】
ヘッダ230は、図示しないヘッダ走査機構によって直線的に駆動されるように構成されており、ヘッダ230を走査させるとともにノズル240から蛍光体インキ250を連続的に吐出することにより、背面ガラス基板102上の隔壁109間の溝に蛍光体インキ250が均一に塗布される。ここで、使用される蛍光体インキ250の粘度は25℃において、1500CP〜30000CP(センチポアズ)の範囲に保たれている。
【0042】
なお、上記サーバ210には図示しない攪拌装置が備えられており、その攪拌により蛍光体インキ250中の粒子の沈殿が防止される。またヘッダ230は、インキ室230aやノズル240の部分も含めて一体成形されたものであり、金属材料を機器加工ならびに放電加工することによって作製されたものである。
【0043】
また、蛍光体層を形成する方法としては、上記方法に限定されるものではなく、例えばフォトリソ法、スクリーン印刷法、および蛍光体粒子を混合させたフィルムを配設する方法など、種々の方法を利用することができる。
【0044】
蛍光体インキは、各色蛍光体粒子、バインダ、溶媒とが混合され、1500CP〜30000CPとなるように調合されたものであり、必要に応じて、界面活性剤、シリカ、分散剤(0.1wt%〜5wt%)などを添加してもよい。
【0045】
この蛍光体インキに調合される赤色蛍光体としては、(Y、Gd)1−xBO:Eu、またはY2−x:Euで表される化合物が用いられる。これらは、その母体材料を構成するY元素の一部がEuに置換された化合物である。ここで、Y元素に対するEu元素の置換量Xは、0.05≦x≦0.20の範囲となることが好ましい。これ以上の置換量とすると、輝度は高くなるものの輝度劣化が著しくなることから実用上使用できにくくなると考えられる。一方、この置換量以下である場合には、発光中心であるEuの組成比率が低下し、輝度が低下して蛍光体として使用できなくなるためである。
【0046】
緑色蛍光体としては、Zr、Hf、Nb、Mo、W、Ta、Ti、Crの内の少なくとも一種を含むZn2−xSiO:Mn、あるいは、Y1−xBO:Tbで表される化合物が用いられる。Zn2−xSiO:Mnは、その母体材料を構成するZn元素の一部がMnに置換された化合物である。またY1−xBO:Tbは、その母体材料を構成するY元素の一部がTb元素に置換された化合物である。ここで、Ba元素およびZn元素に対するMn元素の置換量Xは、上記赤色蛍光体のところで説明した理由と同様の理由により、0.01≦x≦0.10の範囲となることが好ましい。またY元素に対するTb元素の置換量Xは、0.01≦x≦0.10の範囲となることが好ましい。
【0047】
青色蛍光体としては、6価のイオン特にMo、Wの内の少なくとも一種を含むBa1−xMgAl1017:Eu、またはBa1−x−ySrMgAl1017:Euで表される化合物が用いられる。Ba1−xMgAl1017:Eu、Ba1−x−ySrMgAl1017:Euは、その母体材料を構成するBa元素の一部がEuあるいはSrに置換された化合物である。ここで、Ba元素に対するEu元素の置換量Xは上記と同様の理由により、前者の青色蛍光体は0.03≦x≦0.20、0.1≦y≦0.5の範囲となることが好ましい。
【0048】
また、Al、Mg、Ba元素イオンと置換させる6価の元素イオン(Mo、W)の置換量は、(Ba1−c)(Mg1−a)(Al1−b1017:Euとすると、0.001≦c≦0.03、0.0001≦a≦0.03、0.0001≦b≦0.03の範囲となることが好ましい。すなわち0.001モル%〜3モル%の範囲が好ましい。
【0049】
蛍光体インキに調合されるバインダとしては、エチルセルローズやアクリル樹脂を用い(インキの0.1wt%〜10wt%を混合)、溶媒としては、α−ターピネオール、ブチルカービトールを用いることができる。なお、バインダとして、PMAやPVAなどの高分子材料を用い、溶媒としてはジエチレングリコール、メチルエーテルなどの有機溶媒を用いることもできる。
【0050】
本実施の形態において、蛍光体粒子には、固相焼成法、水溶液法、噴霧焼成法、水熱合成法により製造されたものが用いられる。以下本発明の実施の形態に用いる蛍光体とその製造方法について詳述する。
【0051】
まず、青色蛍光体について説明する。PDPなどに用いられている蛍光体は、固相反応法や水溶液反応法などで作製されているが、粒子径が小さくなると欠陥が発生しやすくなる。特に固相反応法では蛍光体を焼成後、粉砕することで、多くの欠陥が発生することが知られている。また、PDPの放電によって発生する波長が147nmの紫外線によっても、蛍光体に欠陥が発生するということも知られている。特にアルカリ土類金属アルミン酸塩の青色蛍光体であるBaMgAl1017:Euは、蛍光体自身、特にBa−O層に酸素欠陥を有していることも知られている。
【0052】
図6は、BaMgAl1017:Eu青色蛍光体のBa−O層の構成を模式的に示した図である。
【0053】
従来の青色蛍光体について、これらの欠陥が発生することそのものが、輝度劣化の原因であるとされてきた。すなわち、PDP駆動時に発生するイオンによる蛍光体の衝撃によってできる欠陥や、波長147nmの紫外線によってできる欠陥が劣化の原因であるとされてきた。
【0054】
本発明者らは、輝度劣化の原因の本質は欠陥が存在することだけで起こるのではなく、Ba−O層近傍の酸素(O)欠陥に選択的に水や炭酸ガスあるいは炭化水素ガスが吸着し、その吸着した状態に真空紫外(VUV)やイオンが照射されることによって蛍光体が水と反応して輝度劣化や色ずれが起こることを見出した。すなわち、青色蛍光体中のBa−O層近傍の酸素欠陥に多くの水や炭酸ガスあるいは炭化水素ガスを吸着することにより、放電中に吸着した水や炭酸ガスあるいは炭化水素がPDP内に放出されて、青色蛍光体の劣化だけでなく緑色蛍光体や赤色蛍光体およびMgOの劣化も起こるという知見を得た。
【0055】
Ba−O層近傍の酸素欠陥を低減させるために、BaMgAl1017:Eu、あるいはBaSrMgAl1017:Euの結晶構造を有する青色蛍光体のAl、Mg、Ba元素の一部を6価の価数をとる元素で置換したり、これらの元素の近傍に配置させることで、Ba−O層近傍の酸素欠陥を低減させた。
【0056】
次に、BaMgAl1017中の陽イオンを6価イオンを添加して置換することの作用効果について説明する。青色蛍光体であるBaMgAl1017:Eu中のAl、Mg、およびBa、Srはそれぞれ3価、2価のプラスイオンとして存在している。その内のいずれかの位置あるいは近傍に主に6価のプラスイオンとして存在するMo、Wを存在させることにより、従来の4価や5価のイオンの添加よりもプラスの電荷が結晶中に増大する。このプラス電荷を中和するために(電荷を補償するために)Ba元素の酸素欠陥近傍を負電荷を持つ酸素が埋めるため、結果としてBa−O層近傍の酸素欠陥が低減できるものと考えられる。すなわち3価〜5価より価数の多い6価の元素は、より多くの酸素を引き寄せるため効率よく酸素欠陥を補償できる。特に6価の原子価をとる元素Cr、Se、Te、Mo、W、Reなどの内、W、Moの添加が特に効果が大きいことを見出した。
【0057】
蛍光体本体の製造方法としては、従来の酸化物や硝酸塩あるいは炭酸化物原料をフラックスを用いて焼結する固相焼結法や、有機金属塩や硝酸塩を用いて水溶液中で加水分解したり、アルカリなどを加えて沈殿させる共沈法を用いて蛍光体の前駆体を作製し熱処理する液相法や、蛍光体原料が入った水溶液を加熱された炉中に噴霧して作製する液体噴霧法などが考えられる。いずれの方法で作製した蛍光体を用いてもBaMgAl1017:Eu中のAl、Mg、Ba元素の一部を6価のイオン(Mo、W)を添加して置換することで酸素欠陥低減の効果があることが判明した。
【0058】
次に、蛍光体の作製方法の一例として、青色蛍光体の固相反応法による製法について述べる。原料としてのBaCO、MgCO、Al、Eu、MO(ただし、Mは、Mo、W)などの炭酸化物や酸化物に、焼結促進剤としてのフラックス(AlF、BaCl)を少量加えて1400℃で2時間焼成する。次にこれを粉砕およびふるい分けをし、1500℃で2時間還元雰囲気(H5%、N)中で焼成した後、再度粉砕とふるい分けをして蛍光体粉体とする。次に、還元雰囲気において作製した蛍光体の欠陥をさらに低減するため、蛍光体粉体が再焼結しない温度の酸化雰囲気中でアニールして青色蛍光体とする。
【0059】
水溶液から蛍光体を作製する場合(液相法)は、蛍光体を構成する元素を含有する有機金属塩、例えばアルコキシドやアセチルアセトンあるいは硝酸塩を水に溶解した後、加水分解して共沈物(水和物)を作製する。それを水熱合成(オートクレーブ中で結晶化)したり、空気中で焼成したり、あるいは高温炉中に噴霧して得られた粉体を1500℃で2時間、還元雰囲気(H5%、N)中で焼成して蛍光体とする。次に、上記の方法で得られた青色蛍光体を粉砕後、ふるい分けを行い、次に蛍光体が再焼結しない温度の酸化雰囲気中でアニールして蛍光体とする。
【0060】
なお、Al、Mg、Baと置換する6価のイオン(Mo、W)の置換量は、Al、Mg、Baに対して0.001モル%〜3モル%が望ましい。置換量が0.001モル%以下では輝度劣化を防止する効果が少なく、3モル%以上になると蛍光体の輝度が低下する。
【0061】
Ba1−xMgAl1017:Euの青色蛍光体の製造方法の詳細を以下に述べる。
【0062】
混合液作製工程において、原料となる硝酸バリウムBa(NO、硝酸マグネシウムMg(NO、硝酸アルミニウムAl(NO、硝酸ユーロピウムEu(NOをモル比が1−x:1:10:x(0.03≦x≦0.25)となるように混合し、これを水性媒体に溶解して混合液を作製する。この水性媒体にはイオン交換水、純水が不純物を含まない点で好ましいが、これらに非水溶媒(メタノール、エタノールなど)が含まれていても使用することができる。6価のイオン(Mo、W)をMg、Al、Baと置換するための原料としては、上記6価のイオンの硝酸塩、塩化物、有機化合物を用いる。その置換量としては、(Ba1−c)(Mg1−a)(Al1−b)として、0.0001≦a、b、c≦0.03となるように混合する。ただし、Mは、6価のイオンを有する金属である。次に、水和混合液を金あるいは白金などの耐食性、耐熱性を持つものからなる容器に入れ、例えばオートクレーブなどの加圧しながら加熱することができる装置を用いて高圧容器中で所定温度(100℃〜300℃)、所定圧力(0.2MPa〜10MPa)の下で水熱合成(12時間〜20時間)を行う。次に、この粉体を還元雰囲気下、例えば水素を5%、窒素を95%含む雰囲気で、所定温度、所定時間、例えば1350℃で2時間焼成する。次にこれを分級することによりMg、Al、Baに6価のイオンを一部置換した青色蛍光体Ba1−xMgAl1017:Euを得ることができる。また、さらに真空紫外光に対する耐性を強めるために前記蛍光体を酸化雰囲気中(好ましくは、700℃〜1000℃)で焼成する。
【0063】
水熱合成を行うことにより得られる蛍光体粒子は形状が球状となり、かつ平均粒径が0.05μm〜2.0μm程度と従来の固相反応から作製されるものに比べて小さい粒径の蛍光体粒子が形成される。なお、ここでいう「球状」とは、ほとんどの蛍光体粒子の軸径比(短軸径/長軸径)が、例えば0.9以上1.0以下となるように定義されるものであるが、必ずしも蛍光体粒子の全てがこの範囲に入る必要はない。
【0064】
また、前記水和混合物を金あるいは、白金の容器に入れずに、この水和混合物をノズルから高温炉に吹き付けて蛍光体を合成する噴霧法によっても青色蛍光体を作製できる。
【0065】
Ba1−x−ySrMgAl1017:Euの青色蛍光体の製造方法の詳細を以下に述べる。この蛍光体は、上述したBa1−xMgAl1017:Euと原料が異なるのみで固相反応法で作製する。以下、その使用する原料について説明する。原料として、水酸化バリウムBa(OH)、水酸化ストロンチウムSr(OH)、水酸化マグネシウムMg(OH)、水酸化アルミニウムAl(OH)、水酸化ユーロピウムEu(OH)を必要に応じたモル比となるように秤量する。次にMg、Al、Baと置換する6価のイオン(Mo、W)の酸化物や水酸化物を必要に応じた比になるように秤量する。これらをフラックスとしてのAlFとともに混合し、所定の温度(1300℃〜1400℃)で所定焼成時間(12時間〜20時間)焼成することにより、Mg、Alを6価のイオンで置換したBa1−x−ySrMgAl1017:Euを得ることができる。本方法で得られる蛍光体粒子の平均粒径は、0.1μm〜3.0μm程度となる。次に、これを還元雰囲気下、例えば水素を5%、窒素を95%の雰囲気で所定温度(1000℃〜1600℃)で2時間焼成した後、空気分級機によって分級して蛍光体粉体を作製する。なお、蛍光体の原料として、酸化物、硝酸塩、水酸化物を主に用いたが、Ba、Sr、Mg、Al、Eu、Mo、Wなどの元素を含む有機金属化合物、例えば金属アルコキシドやアセチルアセトンなどを用いて蛍光体を作製することもできる。また還元雰囲気で焼成された蛍光粉体をさらに酸化雰囲気中でアニールすることで真空紫外光に対する劣化の少ない蛍光体を得ることができる。
【0066】
次に、緑色蛍光体について説明する。
【0067】
緑色蛍光体のZnSiO:Mnでは蛍光体の表面がSiO過剰になっている。これを改善するために、ZnOとSiOの配合比を化学量論比(ZnO/SiOが2/1)になるように原料を配合しただけでは、蛍光体を焼成する時に若干還元雰囲気になるため、極表面(1nm〜10nm)のZnOが昇華してSiO過剰になっていることが、表面分析(XPS、X線光電子分光分析)の結果により確かめられた。したがって、本発明の実施の形態では、この表面からZnOが昇華するのを防ぐために、ZnSiO:Mnに4価、5価、6価の酸素元素を多く伴い、ZnよりZnSiO中に入ると特に強い共有結合性が出る元素を添加して蛍光体の表面近傍の弱還元性によるZnOの昇華を抑えている。材料としては、Zr、Hf、Nb、W、Mo、Ta、Ti、Crの内のいずれか一種であり、蛍光体の表面近傍の弱還元性によるZnOの昇華を抑え、しかも青色蛍光体と同様にこれらの添加物が緑色蛍光体中の酸素欠陥を補償することにより、水、炭酸ガスあるいは炭化水素ガスの吸着を低減することができる。その結果PDP内に持ち込まれる水や炭酸ガス、炭化水素ガスの総量が減少し、各種蛍光体の劣化や保護層としてのMgOの劣化を抑制することができる。
【0068】
緑色蛍光体の製造方法としては、ZnSiO:Mnの主原料であるZnO、SiO、MnOを蛍光体母体の組成〔(Zn1−xMnSiO:Mn〕のモル比に配合し、次に元素の添加物として、ZrO、HfO、Nb、WO、MoO、Ta、TiO、Crの内のいずれか一種の酸化物を添加する。次に、これらを添加混合後600℃〜1200℃で2時間仮焼成し、軽く粉砕してふるい分けをし、窒素中や窒素−酸素中で1000℃〜1350℃で本焼成して緑色蛍光体とする。なお、元素としてのZr、Hf、Nb、W、Mo、Ta、Ti、Crの添加量は、0.0005モル%〜0.1モル%が好ましい0.0005モル%以下では水や炭化水素ガスの吸着を低減する効果が少なく0.1モル%より多いと蛍光体の輝度が低下するので好ましくない。
【0069】
Zn2−xSiO:Mnの緑色蛍光体の製造方法の詳細を以下に示す。まず、混合液作製工程において、原料である硝酸亜鉛Zn(NO、酸化珪素SiO、硝酸マンガンMn(NOをモル比で2−x:1:x(0.01≦x≦0.10)となるように混合しこれに添加すべき元素を有するZrO、HfO、Nb、MoO、WO、TiO、Ta、Crを添加混合する。次にこの混合溶液をノズルから超音波を印加しながら1500℃に加熱した炉中に噴霧して緑色蛍光体を作製する。
【0070】
次に、Y1−xBO:Tbの緑色蛍光体の製造方法の詳細は以下の通りである。
【0071】
まず、混合液作製工程において、原料である硝酸イットリウムY(NO、硼酸HBO、硝酸テルビウムTb(NOがモル比で1−x:1:x(0.01≦x≦0.10)となるように混合し、これをイオン交換水に溶解して混合液を作製する。次に、水和工程においてこの混合液に塩基性水溶液(例えばアンモニア水溶液)を滴下することにより、水和物を形成させる。その後、水熱合成工程において、この水和物とイオン交換水を白金や金などの耐食性、耐熱性を持つものからなる容器中に入れて、例えばオートクレーブを用いて高圧容器中で所定温度、所定圧力、例えば温度100℃〜300℃、圧力0.2MPa〜10MPaの条件下で所定時間、例えば、2時間〜20時間水熱合成を行う。
【0072】
その後、乾燥することにより、所望のY1−xBO:Tbが得られる。この水熱合成工程により、得られる蛍光体は粒径が0.1μm〜2.0μm程度となりその形状が球状となる。
【0073】
次に、この粉体を空気中で800℃〜1100℃でアニール処理した後、分級して、緑色の蛍光体とする。
【0074】
(Y、Gd)1−xBO:Euの赤色蛍光体の製造方法の詳細を以下に示す。
【0075】
混合液作製工程において、原料である、硝酸イットリウムY(NOと水硝酸ガドリミウムGd(NOと硼酸HBOと硝酸ユーロピウムEu(NOとを混合し、モル比が1−x:2:x(0.05≦x≦0.20)でYとGdの比は65対35となるように混合し、次にこれを空気中で1200℃〜1350℃で2時間熱処理した後、分級して赤色蛍光体を得る。
【0076】
2−x:Euの赤色蛍光体の製造方法の詳細は以下の通りである。
【0077】
混合液作製工程において、原料である硝酸イットリウムY(NOと硝酸ユーロピウムEu(NOとを混合し、モル比が2−x:x(0.05≦x≦0.30)となるようにイオン交換水に溶解して混合液を作製する。次に、水和工程において、この水溶液に対して塩基性水溶液、例えばアンモニア水溶液を添加し、水和物を形成させる。その後、水熱合成工程において、この水和物とイオン交換水を白金や金などの耐食性、耐熱性を持つものからなる容器中に入れ、例えばオートクレーブを用いて高圧容器中で温度100℃〜300℃、圧力0.2MPa〜10MPaの条件下で、3時間〜12時間の水熱合成を行う。その後、得られた化合物の乾燥を行うことにより、所望のY2−x:Euが得られる。次にこの蛍光体を空気中で1300℃〜1400℃、2時間のアニール処理の後、分級して赤色蛍光体とする。この水熱合成工程により得られる蛍光体は粒径が0.1μm〜2.0μm程度となり、かつその形状が球状となる。この粒径、形状は発光特性の優れた蛍光体層を形成するのに適している。
【実施例】
【0078】
本発明のプラズマディスプレイ装置の性能を評価するために、上記実施の形態に基づいてPDPサンプルを作製し、そのサンプルについて性能評価実験を行った。その実験結果を以下に説明する。
【0079】
作製した各PDPは、42インチの大きさを持ち(リブピッチ150μmのHD−TV仕様)、誘電体ガラス層の厚みは30μm、MgO保護層の厚みは0.5μm、表示電極と表示スキャン電極の間の距離は0.08mmとなるように作製した。また、放電空間に封入される放電ガスは、ネオンを主体にキセノンガスを10%混合したガスである。
【0080】
各PDPサンプルに用いた蛍光体の材料条件、合成条件を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
試料番号1〜4は、赤色蛍光体に(Y、Gd)1−xBO:Eu、緑色蛍光体にZr、Hf、Nb、Mo、W、Ta、Ti、Crを添加したZn2−xSiO:Mn、青色蛍光体にMo、Wを添加したBa1−xMgAl1017:Euを用いた組合せである。蛍光体の合成の方法、発光中心となるEu、Mnの置換比率、すなわちY、Ba元素に対するEuの置換比率、およびZn元素に対するMnの置換比率および緑色、青色に対する添加元素の種類と量を表1のように変化させている。
【0083】
試料番号5〜10は、赤色蛍光体にはY2−x:Eu、緑色蛍光体にはZr、Hf、Nb、W、Mo、Ta、Ti、Crの内の少なくとも一種を含むZn2−xSiO:MnとY1−xBO:Tbの混合物、青色蛍光体にはBa1−x−ySrMgAl1017:Euを用いた組合せであり、蛍光体の合成方法の条件および発光中心の置換比率および青色蛍光体および緑色蛍光体に対する添加元素の種類と量を表1のように変化させている。
【0084】
また、蛍光体層の形成に使用した蛍光体インキは、表1に示す各蛍光体粒子を使用して蛍光体、樹脂、溶剤、分散剤を混合して作製した。その時の蛍光体インキの粘度(25℃において)は、いずれも1500CP〜30000CPの範囲に保たれている。形成された蛍光体層を観察したところ、いずれも隔壁壁面に均一に蛍光体インキが塗布されていた。
【0085】
また、各色における蛍光体層に使用される蛍光体粒子については、平均粒径0.1μm〜3.0μm、最大粒径8μm以下の粒径のものが使用されている。
【0086】
次に、比較例としての試料番号11、12について説明する。まず、試料番号11は各色蛍光粒子には特に添加処理は行っていない従来の蛍光体粒子を用いた試料であり、試料番号12は、BaMgAl1017:Euの青色蛍光体に従来の5価のイオン(Ta)を添加した試料である。
【0087】
これらの蛍光体を用いてPDPサンプルを作製し、以下の実験を行った。
【0088】
(実験1)
作製されたPDPサンプル1〜10および比較PDPサンプル11、12について、背面パネル製造工程における蛍光体焼成工程(520℃、20分)後の、各色の輝度を測定し、次にPDP製造工程におけるパネル張り合わせ工程である封着工程(450℃、20分)を経た後の各蛍光体の輝度を測定し輝度変化率を測定した。
【0089】
(実験2)
また、PDPを各色に点灯した時の輝度および輝度変化率の測定は、プラズマディスプレイ装置に電圧180V、周波数100kHzの放電維持パルスを1000時間連続して印加し、その前後におけるPDPの輝度を測定しそこから次式により輝度変化率を求めた。
【0090】
(<〔印加後の輝度劫印加前の輝度〕/印加前の輝度>*100)
(実験3)
アドレス放電時のアドレスミスについては画像を見てちらつきがあるかないかで判断し、1ヶ所でもあれば、ありとしている。また、PDPの輝度分布や色むら、色ずれについては白表示時の輝度を輝度計で測定して、その全面の分布および目視で判断した。
【0091】
(実験4)
また、MgO膜のスパッタリングによる膜厚減少率については、MgO膜の成膜後(0.5μm)の膜厚と、電圧180V、周波数100kHzの放電維持パルスを1000時間連続印加した後のMgO膜の膜厚とを測定しその減少率を求めた。
【0092】
(実験5)
また、連続点灯後のPDPから全色の蛍光体を回収し、これらの蛍光体の吸着ガス量を、TDS分析装置(昇温脱離ガス質量分析装置)を用いて、水、炭酸ガス、炭化水素ガスの100℃〜600℃の脱離ガス量として測定した。PDPサンプル1の水、炭酸ガス、炭化水素ガス(質量番号40以上)の脱離ガスの総量を1とし、その他のPDPサンプルのガス量の相対値を測定した。
【0093】
これらの結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
表2に示すように比較例としてのPDPサンプル11は、青色蛍光体としてMo、Wを置換せず、さらに緑色蛍光体としてもZr、Hf、Nb、Mo、W、Ti、Ta、Crを添加していないサンプルであり、各工程における輝度劣化率が大きい。特に、青色と緑色の輝度劣化率が大きく、青色においては、蛍光体焼成工程後の封着工程で21.5%、180V、100kHzの維持パルス印加後で20.5%の輝度低下が見られた。また、緑色は封着工程で13.2%、180V、100kHzの維持パルス印加後で10.3%の輝度変化が見られ、これらの輝度変化とともにPDPの色むら、色ずれも大きく、MgO膜のスパッタリングによる膜厚変化量も−20.7%と大きくなっている。
【0096】
これに対し、PDPサンプル1〜10においては、封着工程および維持パルス印加後の青色の変化率が全て1.0%以下で、緑色の変化率も1.5%以下の値となっている。しかもPDPのアドレスミスや色むら、色ずれもなく、MgO膜のスパッタリング量も10%以下と少ない。
【0097】
比較例としてのPDPサンプル12では、青色の輝度変化はかなり少なく、封着工程で2.1%、維持パルス印加後で2.3%の変化であるが、緑色の輝度変化が封着工程で、10.5%、維持パルス印加後で9.5%と大きい。アドレスミスは起こらないが、PDPの色むら、色ずれが見られ、しかしMgO膜のスパッタリングによる膜厚変化が−16.7%と大きい。
【0098】
これは、青色蛍光体を構成するMg、Al、Baイオン(元素)を6価のイオンとなる物質(Mo、W)で置換することにより、青色蛍光体中の特にBa−O層近傍の酸素欠陥が大幅に減少したことと、緑色蛍光体にZr、Hf、Nb、Mo、W、Ta、Ti、Crを添加することにより酸素欠陥が大幅に減少したことによる。このため、この青色蛍光体および緑色蛍光体から持ち込まれる水、炭酸ガス、炭化水素ガスなどが、非常に少なくなり、PDP封着時に蛍光体からの放出ガスが少なくなり青色、緑色自身のみならず、隣接する赤色蛍光体およびMgOにもよい影響を与えたためと考えられる。
【0099】
表2に示すようにPDPサンプル1〜10のように、青色蛍光体に6価のイオンを置換した蛍光体を用い、緑色蛍光体にZr、Hf、Nb、Mo、W、Ta、Ti、Crを置換した蛍光体を用いると、PDP内の全蛍光体に吸着する不純ガス量が比較例としてのPDPサンプル11、12と比べて少ないことがわかる。したがって、これらの不純ガスの少ないことが青色や緑色の輝度劣化の抑制し、さらにMgO膜がスパッタリングされることを抑制していると考えられる。
【0100】
従来の青色蛍光体や緑色蛍光体は各工程中の劣化が大きいため、3色同時に発光した場合の白色の色温度が低下する傾向があった。そのため、プラズマディスプレイ装置においては、回路的に青色以外の赤色蛍光体、緑色蛍光体の放電セルの輝度を下げることにより白表示の色温度を改善していた。しかしながら、本発明による青色蛍光体および緑色蛍光体を使用すれば、青色蛍光体や緑色蛍光体の放電セルの輝度が向上し、またPDP作製工程中における劣化も少なくなる。そのため、他の色のセルの輝度を意図的に下げることなどが不要となり、全ての色の放電セルの輝度をフルに使用することができるので、白表示の色温度が高い状態を保ちつつ、プラズマディスプレイ装置の輝度と寿命を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のプラズマディスプレイ装置によれば、パネル製造工程中あるいは放電によっても輝度劣化の少ないプラズマディスプレイ装置を提供することができ、大画面の表示装置などに有用であるとともに、本発明に用いられる青色蛍光体や緑色蛍光体および赤色蛍光体は、蛍光灯や液晶表示装置のバックライトの細管灯などにも広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の実施の形態におけるプラズマディスプレイ装置に用いるPDPの前面ガラス基板を取り除いた概略平面図
【図2】同プラズマディスプレイ装置に用いるPDPの画像表示領域における部分断面斜視図
【図3】同プラズマディスプレイ装置のブロック図
【図4】同プラズマディスプレイ装置に用いるPDPの画像表示領域の構造を示す断面図
【図5】同プラズマディスプレイ装置に用いるPDPの蛍光体層を形成する際に用いるインキ塗布装置の概略構成図
【図6】青色蛍光体のBa−O層の構成を模式的に示した図
【符号の説明】
【0103】
100 PDP
101 前面ガラス基板
102 背面ガラス基板
103 表示電極
104 表示スキャン電極
105,108 誘電体ガラス層
106 MgO保護層
107 アドレス電極
109 隔壁
110R (赤色)蛍光体層
110G (緑色)蛍光体層
110B (青色)蛍光体層
122 放電空間
152 コントローラ
153 表示ドライバ回路
154 表示スキャンドライバ回路
155 アドレスドライバ回路
200 インキ塗布装置
210 サーバ
220 加圧ポンプ
230 ヘッダ
230a インキ室
240 ノズル
250 蛍光体インキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1色または複数色の放電セルが複数配列されるとともに、各放電セルに対応する色の蛍光体層が配設され、前記蛍光体層が紫外線により励起されて発光するプラズマディスプレイパネルを備えたプラズマディスプレイ装置であって、前記蛍光体層は少なくとも緑色蛍光体層を有し、前記緑色蛍光体層がZr、Hf、Nb、Mo、W、Ta、Ti、Crの内の少なくとも一種を含む珪酸亜鉛蛍光体を含むことを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項2】
珪酸亜鉛蛍光体がZnSi:Mnの結晶構造からなる緑色蛍光体であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置。
【請求項3】
Zr、Hf、Nb、Mo、W、Ta、Ti、Crの含有量が、0.0005モル%〜0.1モル%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマディスプレイ装置。
【請求項4】
複数色の放電セルが複数配列されるとともに、各放電セルに対応する色の蛍光体層が配設され、前記蛍光体層が紫外線により励起されて発光するプラズマディスプレイパネルを備えたプラズマディスプレイ装置であって、複数色の前記蛍光体層が青色蛍光体層と赤色蛍光体層と緑色蛍光体層とを含み、前記青色蛍光体層がMo、Wの内の少なくとも一種を含むBa1−xMgAl1017:EuあるいはBa1−x−ySrMgAl1017:Euの結晶構造を有する青色蛍光体を含み、前記赤色蛍光体層がY2−x:Euあるいは(Y、Gd)1−xBO:Euの結晶構造を有する赤色蛍光体を含み、前記緑色蛍光体層がZr、Hf、Nb、W、Mo、Ta、Ti、Crの内の少なくとも一種を含むZn2−xSiO:Mnの結晶構造を有する緑色蛍光体を含むことを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項5】
青色蛍光体に含まれるMo、Wの含有量が、0.001モル%〜3モル%であることを特徴とする請求項4に記載のプラズマディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−59629(P2006−59629A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239267(P2004−239267)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】