説明

プラズマ切断方法

【課題】鋼板に代表される被切断材をプラズマ切断するに際し、ヒュームの発生を軽減させる。
【解決手段】プラズマトーチのノズルから被切断材に向けてプラズマアークを噴射して該被切断材を切断するプラズマ切断方法であって、プラズマガスとして周期表第2周期までのハロゲンガス及び希ガス並びに水素ガスの中から選択された1種のガス又は複数種のガスと、酸素又はアルゴン又は窒素を含むガスとの混合ガスを電極の周囲に供給して電極とノズル又は電極と被切断材との間に通電して形成したプラズマアークを被切断材に向けて噴射して該被切断材を切断するか、又は周期表第2周期までのハロゲンガス及び希ガス並びに水素ガスの中から選択された1種のガス又は複数種のガスを酸素又はアルゴン又は窒素ガスを主成分とするプラズマアークに添えて被切断材に向けて噴射して該被切断材を切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマトーチのノズルから被切断材に向けてプラズマアークを噴射して該被切断材を切断するプラズマ切断方法に関し、特に、切断に伴って発生するヒュームを軽減することができるプラズマ切断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板に代表される被切断材を切断する場合、ガス切断法と比較して切断速度が大きいプラズマ切断法を採用するのが一般的である。プラズマ切断トーチには、非移行式プラズマトーチと移行式プラズマトーチとがあるが、比較的厚い被切断材を切断する場合には、移行式プラズマトーチを利用するのが一般的である。
【0003】
移行式プラズマトーチは、電極とノズルとによって構成される空間に酸素ガス又は空気からなるプラズマガスを供給し、電極とノズルとの間で放電させてプラズマガスをプラズマ化したパイロットアークを形成してノズルから噴射し、パイロットアークが被切断材に接触した後、電極と被切断材との間で放電させると共に電極とノズルとの放電を停止することでメインアーク(プラズマアーク)を形成し、このプラズマアークによって被切断材の一部を溶融すると共に溶融物を母材から排除しつつ移動させて切断するものである。
【0004】
プラズマ切断では、プラズマアークの持つ熱エネルギーによって一部の母材が溶融して溶融物が生成され、且つプラズマガスに含まれた酸素の作用によって母材の一部が急激に酸化して酸化溶融物や酸化物の微粒子が生成する。このようにして生成した溶融物や微粒子は、プラズマアークの持つ機械的エネルギーによって、母材から排除される。
【0005】
母材の溶融物や酸化溶融物は被切断材の下方に落下してスラグ受け用の槽に収容される。また、比較的大きい粒子は被切断材の下方に落下したり、切断部位の近傍で舞い飛んだ後被切断材の上面に落下する。しかし、酸化物の微粒子は被切断材の周辺に舞い上がって工場の作業環境に悪影響を与える虞があるという問題が生じる。
【0006】
このため、プラズマ切断装置では排煙装置や集塵装置を備えるのが一般的である(例えば特許文献1参照)。この技術は、プラズマ切断機本体の下方空間にレールと直交する方向に仕切板を並設して横方向の煙道を形成し、この煙道に対応した位置に吸引フードと噴出フードを配設し、これらのフードをダクトを介して連結すると共に該ダクトに集塵機を設けたものである。従って、被切断材を切断したときに飛散する微粒子(ヒューム)を吸引フード、ダクトを介して集塵機に集塵することができ、工場の作業環境の向上をはかることができる。
【0007】
【特許文献1】特許第1315469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した特許文献1の技術では、プラズマ切断に伴って発生した微粒子(ヒューム)を集塵機によって集塵することで、該微粒子の飛散を減少させて工場の作業環境を向上させることができるものの、プラズマ切断に伴って発生する微粒子の量を軽減させるものではなく、根本的な解決策とはいえない。このため、ヒュームの量を減らして作業環境を向上させることができるプラズマ切断法の開発が要求されているのが実状である。
【0009】
本発明の目的は、被切断材を切断するに際し、ヒュームの発生を軽減させることができるプラズマ切断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件発明者等は、上記課題を解決するために種々の開発を行ってきた。その結果、プラズマアークを形成するガス(プラズマガス)を特殊な成分とし、或いは従来の酸素又は空気からなるプラズマガスによって形成したプラズマアークに特殊な成分のガスを沿わせることでヒュームの発生を軽減させることができることを見いだした。
【0011】
即ち、周期表第2周期までのハロゲンガス、希ガス、及び水素ガスの中から選択された1種又は複数種のガスと、酸素又はアルゴン或いは窒素を含むガスとの混合ガスをプラズマガスとして用いて被切断材を切断し、切断部位から飛散した粒子の粒度分布を比較したところ、粒度の大きい粒子の比率が大きくなり、飛散し易い微粒子の比率が小さくなることが判明した。この結果、飛散する微粒子の量が少なくなって、ヒュームの発生を軽減し得ることが判明した。
【0012】
また従来と同じ酸素又はアルゴン或いは窒素、更にこれらの混合ガスによってプラズマアークを形成し、このプラズマアークに沿わせて、周期表第2周期までのハロゲンガス、希ガス、及び水素ガスの中から選択された1種又は複数種のガスを噴射して被切断材を切断し、切断部位から飛散した粒子の粒度分布を比較したところ、粒度の大きい粒子の比率が大きくなり、飛散し易い微粒子の比率が小さくなることが判明した。この結果、飛散する微粒子の量が少なくなって、ヒュームの発生を軽減し得ることが判明した。
【0013】
このため、本発明に係るプラズマ切断方法は、プラズマトーチのノズルから被切断材に向けてプラズマアークを噴射して該被切断材を切断するプラズマ切断方法であって、プラズマガスとして周期表第2周期までのハロゲンガス及び希ガス並びに水素ガスの中から選択された1種のガス又は複数種のガスと、酸素又はアルゴン又は窒素を含むガスとの混合ガスを電極の周囲に供給して電極とノズル又は電極と被切断材との間に通電して形成したプラズマアークを被切断材に向けて噴射して該被切断材を切断するか、又は周期表第2周期までのハロゲンガス及び希ガス並びに水素ガスの中から選択された1種のガス又は複数種のガスを酸素又はアルゴン又は窒素を主成分とするプラズマアークに添えて被切断材に向けて噴射して該被切断材を切断することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプラズマ切断方法では、周期表第2周期までのハロゲンガス及び希ガス並びに水素ガスの中から選択された1種のガス又は複数種のガスと、酸素又はアルゴン或いは窒素を含むガスとの混合ガスを電極の周囲に供給してプラズマアークを形成し、このプラズマアークによって被切断材を切断することで、ヒュームの発生を軽減させることができる。
【0015】
また酸素又はアルゴン或いは窒素を主成分としたプラズマガスによるプラズマアークを形成し、このプラズマアークに添えて周期表第2周期までのハロゲンガス及び希ガス並びに水素ガスの中から選択された1種のガス又は複数種のガスを噴射して被切断材を切断することで、ヒュームの発生を軽減させることができる。
【0016】
本発明に係るプラズマ切断方法によって被切断材を切断したとき、切断に伴う生成物の総量は変化することはない。しかし、生成した粒子は総体的に粒度が大きくなり、この結果、空中に飛散し易い微粒子の量が減少してヒュームの発生を軽減させることができたものといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るプラズマ切断方法について説明する。本発明のプラズマ切断方法は、周期表第2周期までのハロゲンガス及び希ガス並びに水素ガスの中から選択された1種のガス又は複数種のガス(以下総称して「添加ガス」という)と、酸素又はアルゴン或いは窒素、或いはこれらを混合させた混合ガス(以下代表して「酸素ガス」という)をプラズマガスとして用いてプラズマアークを形成することで、或いは前記酸素ガスによって形成したプラズマアークに添加ガスを添えて噴射することで、鋼板に代表される被切断材を切断したとき、切断の進行に伴って発生する母材の粒子や酸化物の粒子の粒度を大きくし、これにより、切断部位から飛散する微粒子の割合を小さくしてヒュームを軽減するものである。
【0018】
プラズマガスとして或いはプラズマアークに添えるガスとしての添加ガスは、周期表第2周期までのハロゲンガス及び希ガス並びに水素ガス(H2 )の中から選択された1種のガス又は複数種のガスである。前記範囲のハロゲンガスとしてはフッ素(F)があり、希ガスとしてはヘリウム(He)及びネオン(Ne)がある。従って、添加ガスとしては、水素ガス、フッ素、ヘリウム、ネオンを単独で、或いは2種類以上のガスを混合させたガスとして利用している。
【0019】
添加ガスと酸素ガスとの混合ガスによってプラズマガスを構成する場合、添加ガスと酸素ガスとの混合比を特に限定するものではなく、酸素ガスに僅かに添加ガスを混合させることでヒュームを軽減させることが可能である。また酸素ガスに対し大量の添加ガスを混合させた場合でも充分にヒュームを軽減させることが可能である。
【0020】
しかし、酸素ガスに対する添加ガスの混合比が小さいと、ヒュームを軽減させることが可能ではあるものの、作業環境を改善させるのに充分な軽減を実現することは困難となる。また酸素ガスに対する添加ガスの混合比を大きくすると、充分にヒュームを軽減させることが可能となるものの、切断速度の低下を来すという問題が生じる。
【0021】
従って、添加ガスと酸素ガスとの混合ガスによってプラズマガスを構成する場合、添加ガスと酸素ガスとの混合比は、作業環境の改善度合いと、比較的高価な添加ガスのコスト及び切断速度の低下に伴う作業コストの増加と、を考慮して設定することが好ましい。
【0022】
本件発明者等の実験では、酸素ガスに対し添加ガスを1容量%〜50容量%の範囲で混合させたプラズマガスを用いた場合、切断面の品質を維持し得る切断速度は略同等のものが得られている。またヒュームの軽減度合いは添加ガスの比率が高くなる程向上するものの、酸素ガスに対し50容量%以上混合させたプラズマガスを用いた場合、切断面の品質を維持するには、切断速度を低下させざるを得なかった。
【0023】
そして、ヒュームの軽減による作業環境の改善と切断速度の維持とを考慮したとき、酸素ガスに対して混合させる添加ガスの比率は5容量%〜40容量%の範囲が好ましく、特に、15容量%〜25容量%の範囲が好ましい結果を得ている。
【実施例1】
【0024】
添加ガスとしてヘリウムを選択し、ヘリウム20容量%と、純度の高い酸素ガス80容量%と、を混合した混合ガスによってプラズマガスを構成した。被切断材として厚さ20mmの軟鋼板を用いた。前記プラズマガスをプラズマトーチに於ける電極の周囲に供給し、パイロットアークを形成した後、被切断材との間に電流400Aを印加してプラズマアークを形成し、切断速度を毎分1200mmとする条件で切断を行った。この切断の過程で、ヒュームの発生状況を目視して判断すると共に、ヒュームを採集して微粒子の状態を観察した。
【0025】
図1はヒュームを構成する微粒子の状態を示すものであり、微粒子を300倍に拡大した写真である。図2は微粒子を更に1000倍に拡大した写真である。図3は図2の微粒子を更に20000倍に拡大した写真であり、微粒子の廻りの雲糸状部(超微粒子)を示すものである。
【0026】
また比較例としてプラズマガスとして純度の高い酸素ガスを採用し、他の条件は上記条件として切断し、この過程でヒュームの発生状況を目視して判断すると共に、ヒュームを採集して微粒子の状態を観察した。そして採集したヒュームの状態を実施例と比較した。
【0027】
図4はヒュームを構成する微粒子の状態を示すものであり、微粒子を300倍に拡大した写真である。図5は微粒子を更に1000倍に拡大した写真である。図6は図5の微粒子を更に20000倍に拡大した写真であり、微粒子の廻りの雲糸状部(超微粒子)を示すものである。
【0028】
従って、図1と図4、図2と図5、図3と図6とが、本実施例によって生成した微粒子と比較例によって生成した微粒子の対となって比較することが可能である。
【0029】
本実施例では、図1に示すように微粒子は約0.04mm〜約0.06mmの範囲の径をもつものが多く存在し、0.01mm程度の径もつものは存在するものの少ない。また、図3に示すように微粒子の廻りに形成されている雲糸状部(超微粒子)の密度は比較的小さい。
【0030】
また比較例では、図4に示すように微粒子は約0.01mm〜約0.03mmの範囲の径をもつものがほとんどである。また、図6に示すように微粒子の廻りに形成されている雲糸状部(超微粒子)の密度は比較的大きい。
【0031】
図1と図4及び図2と図5を比較して判るように、本実施例に係る切断では生成した粒子の粒度が比較例に係る切断で生成した粒子の粒度よりも大きい。このため、大気に飛散してヒュームとなる微粒子の割合が小さくなり、ヒュームを軽減することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のプラズマ切断方法は、切断に伴って生成するヒュームを軽減することが可能であり、作業環境を向上させるために利用して有利である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ヒュームを構成する微粒子の状態を示すものであり、微粒子を300倍に拡大した写真である。
【図2】微粒子を更に1000倍に拡大した写真である。
【図3】図2の微粒子を更に20000倍に拡大した写真であり、微粒子の廻りの雲糸状部(超微粒子)を示すものである。
【図4】ヒュームを構成する微粒子の状態を示すものであり、微粒子を300倍に拡大した写真である。
【図5】微粒子を更に1000倍に拡大した写真である。
【図6】図5の微粒子を更に20000倍に拡大した写真であり、微粒子の廻りの雲糸状部(超微粒子)を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマトーチのノズルから被切断材に向けてプラズマアークを噴射して該被切断材を切断するプラズマ切断方法であって、プラズマガスとして周期表第2周期までのハロゲンガス及び希ガス並びに水素ガスの中から選択された1種のガス又は複数種のガスと、酸素又はアルゴン又は窒素を含むガスとの混合ガスを電極の周囲に供給して電極とノズル又は電極と被切断材との間に通電して形成したプラズマアークを被切断材に向けて噴射して該被切断材を切断するか、又は周期表第2周期までのハロゲンガス及び希ガス並びに水素ガスの中から選択された1種のガス又は複数種のガスを酸素又はアルゴン又は窒素を主成分とするプラズマアークに添えて被切断材に向けて噴射して該被切断材を切断することを特徴とするプラズマ切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−714(P2009−714A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163786(P2007−163786)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000185374)小池酸素工業株式会社 (64)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】