説明

プラズマ切断装置用電極及びプラズマトーチ

【課題】電極とノズルとの間に発生したパイロットアークがスムーズにメインアークに移行できるようにして、加工品質の低下を抑え、かつ消耗品の長寿命化を図る。
【解決手段】このプラズマ切断装置用電極は電極基体35と電極材36とを備えている。電極基体35は、先端に形成された放出面39と、放出面39の外周側に形成されたテーパ面38と、放出面39の外周縁から中央部に向かって形成された複数の溝46とを有している。複数の溝46のそれぞれは放出面39に対して傾斜する第1側面51及び第2側面52を有する。電極材36は電極基体35の放出面39の中央部に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ切断に用いられるプラズマ切断装置用の電極及びそれを含むプラズマトーチに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ切断装置は、プラズマアークを噴射して金属板等のワークを熱切断する装置である。プラズマ切断装置にはプラズマトーチが設けられており、プラズマトーチは消耗部品としての電極及びノズルを有している。
【0003】
このようなプラズマ切断装置では、プラズマトーチの電極とワークとの間にプラズマアークが発生する。プラズマアークはノズルで細く絞り込まれ、これにより高温かつ高圧のプラズマジェットが生成される。そして、プラズマジェットがワークに噴射されることにより、ワークが切断される。ここで、プラズマアークは以下のような過程により生成されることが知られている。
【0004】
まず、電極とノズルとの間に、小流量のプラズマガスが供給され、プラズマガスの流れが生成される。この状態で、電極に高電圧が印加されると、電極とノズルの内面との間に絶縁破壊が発生する。そして、この絶縁破壊をトリガーにして電極とノズルとの間にパイロットアークが発生する。パイロットアークは、プラズマガスの流れに乗ってワークまで延びる。そして、プラズマガスの流量及び電流を増大させることにより、電極とワークとの間にプラズマアークが生成される。
【0005】
以上のようなプラズマ切断装置において、特許文献1には、電極とノズルとの間で絶縁破壊が生じやすいように、電極の外周面にエッジ状の突出部を設けることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2の図6及び特許文献3には、ワークに向かうプラズマガスの流れをスムーズにするために、溝が形成された電極が示されている。すなわち、特許文献2の電極では、電極の外周面に周方向に延びる凹み部が形成され、また下端部に溝が形成されている。また、特許文献3の電極では、電極外周部のテーパ部に、中央に向かう放射状の溝が形成されている。この放射状の溝によって、プラズマガスが電極の下端中央部に導かれる。
【0007】
さらに、特許文献4には、電極本体及び挿入体の先端の少なくとも一方に放射状の溝を形成したプラズマトーチ用電極が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平5−502189号公報
【特許文献2】特開平11−314162号公報
【特許文献3】米国特許5451739号公報
【特許文献4】実公平3−47743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
消耗部品としての電極及びノズルについては、コスト削減のために長寿命化が要望されている。しかし、電極及びノズルを長時間使用し続けると、ノズル内面が酸化等で絶縁体化し、絶縁破壊が起こりにくくなる。すると、プラズマアークの再着火処理が繰り返し実行されて生産性が低下し、最終的には着火不能となってしまう。また、着火不良に関しては、以下のような別の問題も存在する。
【0010】
プラズマ切断処理の初期においては、電極基体のプラズマアーク放出面に設けられるハフニウム等の電極材の一部が飛散してノズル内面に付着する。このノズル内面に付着した電極材は、絶縁破壊の起点になり得るが、異常放電や切断品質の低下の原因にもなる。
【0011】
そこで、本件発明者らは、先端に凹部を設けた電極材を用いてプラズマ切断を行うことを試みた。これは、電極材の先端に凹部を設けることによって、初期段階で飛散する電極材を少なくし、ノズル内面に電極材が付着するのを抑制するためである。ただし、この場合は、絶縁破壊が生じにくくなる場合がある。これを解消するために、特許文献1に示されるように、電極基体の外周面にエッジ部を形成し、このエッジ部とノズル内面との間で絶縁破壊が生じやすいようにすることが考えられる。
【0012】
しかし、電極基体にエッジ部を形成すると、このエッジ部とノズル内面との間で発生したプラズマアーク(パイロットアーク)が、エッジ部で形成された領域に拘束されるという問題がある。すなわち、パイロットアークが、エッジ部で形成された領域に留まってしまい、メインアークに移行しない(いわゆる「トラップ」)という問題が発生する。ノズル内面に発生したアークの跡は、アーク移行の軌跡であるので、このような現象が生じたか否かは、アーク跡を観察することによって判断することができる。従来技術では、ノズル内面に多量のアークの跡が発生している場合は、電極のエッジ部でプラズマアークが拘束されていることを示している。そして、このようなプラズマアークの拘束は、トーチ起動エラーや、不要な投入電力の増大を招く。また、プラズマアークの拘束が発生し、ノズルがダメージを受け続けると、ノズルを頻繁に交換する必要があり、ノズルの長寿命化を図ることができない。
【0013】
本発明の課題は、電極とノズルとの間に発生したパイロットアークがスムーズにメインアークに移行できるようにして切断品質の低下を抑え、消耗品となる電極やノズルの長寿命化と生産性向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明に係るプラズマ切断装置用電極は、プラズマ切断装置に用いられる電極であって、電極基体と、電極材と、を備えている。電極基体は、先端に形成された放出面と、放出面の外周側に形成されたテーパ面と、放出面の外周縁から中央部に向かって形成された複数の溝と、を有している。複数の溝のそれぞれは放出面に対して傾斜する第1側面及び第2側面を有する。電極材は電極基体の放出面の中央部に配置されている。
【0015】
このプラズマトーチ用電極は、先端部がノズル内部に位置するように配置される。このため、放出面の外周縁が最もノズル内面に接近することになる。そして、放出面の外周縁から中央部に向かって複数の溝が形成されており、各溝は第1側面及び第2側面を有している。このため、各側面には、放出面及びテーパ面との境界部に稜線が形成される。そして、各側面と放出面の境界部の稜線と、各側面とテーパ面の境界部の稜線と、の交点にはエッジが形成されることになる。このため、このエッジが起点となって、放出面の外周縁とノズル内面との間に絶縁破壊が生じやすくなる。また、溝は、放出面の外周縁から中央部に向かって形成されているので、絶縁破壊によって発生したプラズマアークは、溝の縁であるエッジに沿って中央部に向かって移行しやすくなる。さらに、電極基体の外周から中央部に向かってプラズマガスが供給されており、このプラズマガスは溝の側面に沿って放出面の中央部に導かれる。
【0016】
以上のようにして、放出面の外周縁の溝によって形成されたエッジで発生したプラズマアーク(パイロットアーク)は、溝の縁であるエッジに沿って、あるいは溝に沿って流れるプラズマガスの流れとともに、中央部に向かい、スムーズにメインアークに移行する。したがって、ノズル内面にアークの跡が付きにくく、切断品質の低下を抑えることができ、このためノズルの長寿命化を図ることができる。
【0017】
第2発明に係るプラズマ切断装置用電極は、第1発明の電極において、第1側面及び第2側面は、放出面を溝部に延長して得られる仮想面に対して第1傾斜角度及び第2傾斜角度を有し、第1傾斜角度は第2傾斜角度よりも大きい。
【0018】
ここでは、第1側面は放出面を溝部に延長して得られる仮想面に対して大きい第1傾斜角度を有している。このため、第1側面と放出面の境界部は、第2側面と放出面の境界部に比較して、より急峻なエッジとなっている。このため、第1側面と放出面及びテーパ面の境界によって形成されるエッジは、絶縁破壊の起点になりやすく、より容易に絶縁破壊を起こしやすくなる。
【0019】
第3発明に係るプラズマ切断装置用電極は、第2発明の電極において、電極基体の周囲には、外周から放出面の中央部に向かって旋回するようにプラズマガスが供給されるものである。そして、第1側面は、放出面との境界部分に絶縁破壊の起点となるエッジを有し、第2側面は、旋回するプラズマガスに対向するように配置されている。
【0020】
前述のように、第1側面の放出面及びテーパ面との境界部(稜線の交点)に形成されたエッジは絶縁破壊の起点となる。一方で、第2側面は旋回するプラズマガスに対向するように配置されている。このため、プラズマガスは、第2側面に衝突した後、第2側面に沿って放出面の中央部に導かれることになる。このため、第1側面のエッジで発生したプラズマアークは、第2側面に沿って流れるプラズマガスに沿ってスムーズに放出面の中央部に向かうことになる。
【0021】
第4発明に係るプラズマ切断装置用電極は、第1から第3発明のいずれかの電極において、テーパ面は、放出面から離れるほど径が大きくなるように形成されており、複数の溝のそれぞれは、放出面と直交する方向視で、2つの三角形状の面で形成されている。
【0022】
先端が断面V字形状の切削工具で各溝を形成した場合、前述のように、各溝は2つの側面を有することになる。この場合、2つの側面の1辺(底辺)は共通の辺である。そして、各側面と放出面との境界には稜線(別の1辺)が形成され、また、同様に、各側面とテーパ面との境界にも稜線(さらに別の1辺)が形成される。したがって、各溝を放出面と直交する方向から見ると、すなわち底面視では、2つの側面の放出面に対する傾斜角度が90°でない場合は、各溝は、底辺を共通の辺とする2つの三角形状の面で形成されていることになる。
【0023】
そして、三角形の頂点、すなわち、各側面と放出面の境界に形成される稜線と、各側面とテーパ面の境界に形成される稜線との交点には、するどいエッジが形成されることになる。このため、2つの側面のうちの、放出面に対してより急な傾斜角度を有する側面によって形成される三角形の頂点が、絶縁破壊の起点となる。
【0024】
第5発明に係るプラズマ切断装置用電極は、第1から第3の発明のいずれかの電極において、テーパ面は、放出面から離れるほど径が大きくなるように形成されており、第1側面の第1傾斜角度は90°であり、複数の溝のそれぞれは、放射面と直交する方向視で、1つの三角形状の面で形成されている。
【0025】
前記同様に、各側面と放出面及びテーパ面との境界の稜線によって2つの三角形が形成されることになる。しかし、側面の放出面に対する傾斜角度が90°の場合は、底面視では1つの直線になり、各溝は底面視で1つの三角形状の面で形成されることになる。なお、各溝は2つの側面によって形成されるので、2つの側面の放出面に対する傾斜角度がともに90°になることはない。
【0026】
第6発明に係るプラズマ切断装置用電極は、第1から第5発明のいずれかの電極において、電極材の先端放出面には内部に凹む凹部が形成されている。
【0027】
前述のように、プラズマ切断処理の初期においては、ハフニウム等の電極材の一部が飛散してノズル内面に付着し、異常放電や切断品質の低下に原因にもなる。そこで、ここでは、先端放出面に凹部を有する電極材を用いている。このため、初期段階で飛散する電極材が少なくなり、ノズル内面に電極材が付着するのを抑えることができる。
【0028】
第7発明に係るプラズマ切断装置用電極は電極基体と電極材とを備えている。電極基体は、先端に形成された放出面と複数の溝とを有している。放出面は外周縁が曲面である。複数の溝は放出面の曲面から中央部に向かって形成されている。電極材は電極基体の放出面の中央部に配置されている。
【0029】
このプラズマ切断装置用電極は、先端部がノズル内部に位置するように配置される。このため、放出面の外周縁が最もノズル内面に接近することになり、放出面の外周縁とノズル内面との間に絶縁破壊が生じ、プラズマアークが発生する。
【0030】
ここで、本発明の電極では、放出面の外周縁はエッジではなく曲面であるので、エッジの場合に比較して絶縁破壊が生じにくい。一方で、外周縁には複数の溝が形成されているので、この溝の縁にはエッジが形成される。このため、溝の縁に形成されたエッジとノズル内面との間で絶縁破壊が生じやすくなる。そして、溝は、放出面の外周縁から中央部に向かって形成されているので、絶縁破壊によって放出面の外周縁に発生したプラズマアークは、溝の縁に沿って中央部に向かって移行しやすくなる。このため、プラズマアークが放出面の外周縁でトラップされにくくなる。
【0031】
以上のようにして、放出面の外周縁で発生したパイロットアークはスムーズにメインアークに移行する。したがって、ノズル内面にアークの跡が付きにくく、切断品質の低下を抑えることができ、このためノズルの長寿命化を図ることができる。
【0032】
第8発明に係るプラズマ切断装置用電極は、第7発明の電極において、放出面の外周縁の曲面は、半径が0.05mm以上で電極基体の直径の50%以下である。
【0033】
放出面の外周縁が半径0.05mm以上の曲面であるので、この外周縁において絶縁破壊は生じにくくなるが、アークがトラップされにくくなる。また、曲面の半径が大きすぎると、放出面の外周縁とノズル内面との間の最短ギャップの部分が一点に定まりにくい。このため、絶縁破壊する位置が特定されず、絶縁破壊が生じにくくなる。そこで、この第8発明では、曲面の半径を電極基体の直径の50%以下にしている。
【0034】
第9発明に係るプラズマ切断装置用電極は、第8発明の電極において、複数の溝の長手方向は、放出面の中心から放射状に延びる直線に対して同じ方向に傾斜している。
【0035】
電極とノズルとの間にはプラズマガスが流されるが、一般的に、プラズマガスは電極の周囲を旋回するように流される。このため、旋回するプラズマガスの流れる方向に沿って傾斜する溝を形成することによって、プラズマアークは電極中央部に向かうとともにスムーズにワーク側に移行する。
【0036】
第10発明に係るプラズマ切断装置用電極は、第9発明の電極において、電極基体の周囲には、外周から放出面の中央部に向かって旋回するようにプラズマガスが供給されるものである。そして、複数の溝はプラズマガスの旋回方向に沿って傾斜している。
【0037】
ここでは、第9発明と同様に、プラズマアークをスムーズにワーク側に移行させることができる。
【0038】
第11発明に係るプラズマ切断装置用電極は、第7発明の電極において、電極材の先端放出面には内部に凹む凹部が形成されている。
【0039】
前述と同様に、先端放出面に凹部を有する電極材を用いているため、初期段階で飛散する電極材が少なくなり、ノズル内面に電極材が付着するのを抑えることができる。
【0040】
第12発明に係るプラズマ切断装置用電極は、第1から第11発明のいずれかの電極において、電極材はハフニウムである。
【0041】
第13発明に係るプラズマトーチは、第1から第12発明のいずれかの電極と、筒状のノズルと、を備えている。ノズルは、内部に電極の先端部と対向する電極対向部を有し、かつ先端にオリフィスが形成されている。
【発明の効果】
【0042】
以上のような本発明では、電極とノズルとの間にパイロットアークを安定して発生させることができる。そして、発生したパイロットアークをスムーズにメインアークに移行させることができる。このため、ノズル内面の損傷を抑えて、切断品質の低下を抑えることができ、ノズルの長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】プラズマトーチの断面図。
【図2】プラズマトーチ先端部の拡大断面図。
【図3】第1実施形態の電極の拡大断面図。
【図4】第1実施形態の電極の底面図。
【図5】第1実施形態の電極の底面外観図。
【図6】第1実施形態の電極に形成された溝の拡大図。
【図7】第1実施形態の溝の側面図。
【図8】第2実施形態の図3に相当する図。
【図9】第2実施形態の電極の溝の底面部分図。
【図10】第2実施形態の電極の溝の拡大図。
【図11】電極形状の違いによるアーク跡の写真を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
―第1実施形態―
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るプラズマトーチ1の中心軸線(以下、単に「軸線」と呼ぶ)を含む平面での断面図である。
【0045】
[全体構成]
プラズマトーチ1は、鋼板などの金属材料を切断するためのプラズマ切断装置に備えられるものである。図示されていないが、プラズマ切断装置は、プラズマトーチ1にパイロットアークやプラズマアークを発生させ、且つ、プラズマアークを制御するためのアーク電源回路及び制御装置を備えている。また、プラズマ切断装置は、プラズマトーチ1へプラズマガス及びアシストガスを供給するガス供給システム、及び、プラズマトーチ1へ冷却液を供給する冷却システムなどの装置を備えている。
【0046】
プラズマトーチ1は、トーチ本体2、電極3、第1案内部材4、第2案内部材5、ノズル6、キャップ部7などを有する。トーチ本体2、電極3、第1案内部材4、第2案内部材5、ノズル6、及びキャップ部7は、同軸に配置されている。
【0047】
[トーチ本体]
トーチ本体2は、ベース部11、電極支持部12、ノズル支持部13、冷却パイプ14、ホルダ15、冷却液供給パイプ16、冷却液排出パイプ17などを有する。ベース部11、電極支持部12、ノズル支持部13、冷却パイプ14は同軸に配置されている。
【0048】
ベース部11は概ね円筒状に形成されている。ベース部11の内部には空間が形成されており、この内部空間に、電極支持部12、冷却液供給パイプ16及び冷却液排出パイプ17が挿入されている。ベース部11の先端部には、ベース部11の内部空間に連通する孔11aが形成されている。
【0049】
電極支持部12は、概ね円筒状に形成されてベース部11の孔11aに挿入されており、先端部(図1の下方端部)に電極3を支持している。電極支持部12の外面とベース部11の内面との間には、例えばOリングなどのシール部材S1が設けられている。電極支持部12は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。電極支持部12は、図示しない電気配線を介してアーク電源回路へ接続される。電極支持部12は軸線方向に貫通する孔12aを有している。
【0050】
ノズル支持部13は、概ね円錐状に形成されて軸線方向に貫通する孔13aを有しており、先端部にノズル6を支持している。ノズル支持部13は、ベース部11の先端部に取り付けられ、電極支持部12の先端部外周を覆っている。ノズル支持部13の内面は、電極支持部12の外面に対して間隔を空けて配置される。これにより、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間には、プラズマガスが通るプラズマガス通路P1が形成されている。プラズマガス通路P1は、図示しないガス供給パイプを介してガス供給システムに接続されている。ノズル支持部13は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。また、ノズル支持部13は、図示しない電気配線を介してアーク電源回路に接続される。
【0051】
冷却パイプ14は、冷却液供給パイプ16からの冷却液を電極3に導いて電極3を冷却するものであり、電極支持部12の孔12a内に配置されている。冷却パイプ14の基端部(図1において上方端部)はベース部11の内部空間内に配置され、先端部は電極支持部12の先端部から突出している。冷却パイプ14の外面と電極支持部12の内面との間には空間が形成されており、この空間はベース部11の内部空間と連通している。また、冷却パイプ14の外面は、電極3の内面に対して間隔を空けて配置されている。
【0052】
ホルダ15は、概ね円筒状に形成されてベース部11の外周に嵌合されており、キャップ部7を支持している。ホルダ15の外周面には、後述するナット18の雌ネジ部と螺合する雄ネジ部が形成されている。
【0053】
冷却液供給パイプ16は、冷却システムからの冷却液を冷却パイプ14へ送るためのパイプであり、ベース部11の内部空間に挿入されている。この冷却液供給パイプ16の基端部は冷却システムに接続され、先端部はベース部11の内部空間内において冷却パイプ14の基端部に接続されている。
【0054】
冷却液排出パイプ17は、冷却液をベース部11の内部空間から冷却システムへ送るためのパイプであり、ベース部11の内部空間に挿入されている。この冷却液排出パイプ17の基端部は冷却システムに接続され、先端部はベース部11の内部空間内に配置されている。
【0055】
以上のような構成により、冷却液供給パイプ16から冷却パイプ14を介して供給された冷却液は、電極3に導かれ、その後、冷却パイプ14の外面と電極3の内面との間の空間を通過し、さらに冷却パイプ14の外面と電極支持部12の内面との間の空間を通過して、ベース部11の内部空間に送られる。
【0056】
[電極]
電極3は、図2に拡大して示すように、概ね円筒状に形成されるとともに、外周面に径方向外方に突出するフランジ19を有し、さらに内部には空間が形成されている。内部空間は、基端側は開放され、先端側は閉塞されている。この電極3は、図1に示すように、基端部が電極支持部12の孔12aに挿入され、電極支持部12に着脱可能に取り付けられている。電極3の基端部が電極支持部12の孔12aに挿入された状態では、冷却パイプ14の先端部が電極3の内部空間内に配置されている。また、電極3と電極支持部12との間の隙間は、図示しないシール部材によって封止されている。これにより、電極支持部12の孔12aの先端側が閉塞される。さらに、電極3は、電極支持部12と接触することによって電極支持部12と電気的に接続されている。電極3の構造については、後に詳細に説明する。
【0057】
[第1案内部材]
第1案内部材4は、図2に示すように、概ね円筒状に形成され、基端側に大径部20を有し、先端側に小径部21を有している。また、第1案内部材4は絶縁性を有する材料で形成されている。第1案内部材4は、ノズル6の内部において、基端側に配置されている。第1案内部材4は軸線方向に貫通する孔4aを有し、この孔4a内に電極3が挿入されている。このように、第1案内部材4は、電極3とノズル6との間に配置されることにより、電極3とノズル6とを電気的に絶縁している。なお、第1案内部材4の内面と電極3の外面との間にはシール部材S2が設けられ、第1案内部材4の外面とノズル6の内面との間にはシール部材S3が設けられている。
【0058】
また、第1案内部材4は、軸線方向において、電極3のフランジ部19の先端側に配置されている。第1案内部材4の基端部はフランジ部19に接触している。第1案内部材4の大径部20の外周面には、軸線方向に延びる複数の溝4bが形成されている。この複数の溝4bの先端側は、第1案内部材4とノズル6の内面との間の空間に連通し、溝4bの基端側の側部は、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間のプラズマガス通路P1に連通している。
【0059】
[第2案内部材]
第2案内部材5は、図2に示すように、軸線方向に貫通する孔5aを有する概ね環状の部材である。第2案内部材5の孔5aには、電極3及び第1案内部材4の小径部21が挿入されている。従って、第2案内部材5は、径方向において、ノズル6の内面と第1案内部材4の小径部21との間に配置されている。また、第2案内部材5は、軸線方向において、第1案内部材4の大径部20とノズル6の内面との間に配置されている。この第2案内部材5の先端側端面には、内部と外部と連通する複数の溝5bが設けられている。各溝5bは、径方向及び周方向に対して斜めに延びている。この第2案内部材5の溝5bを通過したプラズマガスは、電極3の外周を旋回するように流れる。
【0060】
[ノズル]
ノズル6は、銅製であり、図2に示すように、概ね円筒状に形成されている。このノズル6は、基端側から順に、内部に空間を有する筒状部6aと、筒状部6aの先端側に形成された先端部6bとを有している。
【0061】
ノズル6の筒状部6aの外周面には、軸線方向に沿って所定の領域に冷却用のフィン22が設けられている。また、筒状部6aの外周面において、冷却用フィン22の基端側には、径方向に突出する突出部23が形成されている。この突出部23の上面23aとノズル支持部13の先端部との間には、図示しない電気接触子が配置されている。この電気接触子を介して、ノズル6はノズル支持部13と電気的に接続されている。
【0062】
筒状部6aの内部空間には、収納部24及び電極対向部25が形成されている。収納部24には、電極3、第1案内部材4、及び第2案内部材5が収納されている。電極対向部25は電極3の先端部と対向する部分であり、第1対向面25a及び第2対向面25bを有している。第1対向面25aは、電極対向部25において基端側に形成され、軸線方向に平行な面である。また、第2対向面25bは、第1対向面25aに連続して先端側に形成されており、先端側に向かって径が小さくなるテーパ面である。電極対向部25の各対向面25a,25bと電極3の外周面との間には隙間が形成され、プラズマガスが流れる通路が形成されている。また、第2対向面25bのさらに先端側には、曲面25cが形成されている。
【0063】
先端部6bは、ほぼ円錐状に形成されており、中心部には軸線方向に貫通するオリフィス26が形成されている。このオリフィス26は、曲面25cを介して第2対向面25bに連続している。また、先端部6bの下端には、軸線方向と直交する平坦な先端面26aが形成されている。オリフィス26と先端面26aとの間(境界部)には面取り部26bが形成されている。
【0064】
[キャップ部]
キャップ部7は、図1に示すように、トーチ本体2の先端に取り付けられ、ノズル6を覆う部材である。キャップ部7は、アウターキャップ31と、インナーキャップ32と、シールドキャップ33とを有する。各キャップ31,32,33は、概ね円錐台状に形成され、電極3及びノズル6と同軸に配置されている。
【0065】
アウターキャップ31は、ナット18によってホルダ15に固定されており、トーチ本体2の先端部とノズル支持部13の外側を覆っている。また、アウターキャップ31の内面とホルダ15の外面との間にはシール部材S4が設けられている。アウターキャップ31の先端には、軸線方向に貫通する孔31aが形成されている。
【0066】
インナーキャップ32はアウターキャップ31の孔31aに挿入されている。インナーキャップ32の外面とアウターキャップ31の内面との間にはシール部材S5が設けられている。インナーキャップ32には軸線方向に貫通する孔32aが形成されており、この孔32aにはノズル6の先端部が挿入されている。そして、ノズル6の先端部がインナーキャップ32の内面によって保持されている。ノズル6の先端部の外面とインナーキャップ32の内面との間にはシール部材S6が設けられている。
【0067】
アウターキャップ31及びインナーキャップ32の各内面は、ノズル支持部13及びノズル6の外面に対して間隔を空けて配置されている。これにより、ノズル6を冷却するための冷却液が通過する冷却液通路P2が構成されている。冷却液通路P2は、図示しない冷却液供給パイプ及び冷却液排出パイプを介して冷却システムに接続されている。
【0068】
シールドキャップ33は、アウターキャップ31の孔31aに挿入され、ノズル6の先端部を覆っている。シールドキャップ33の外面とアウターキャップ31の内面との間にはシール部材S7が設けられている。シールドキャップ33は、軸線方向に貫通し、ノズル6の孔6aと同軸に形成された孔33aを有している。また、シールドキャップ33の内面とノズル6の外面との間にはアシストガス通路P3が形成されている。アシストガス通路P3は、冷却液通路P2に対してシール部材S4によって遮断されており、アウターキャップ31の内部に形成されたアシストガス供給通路P4に連通している。アシストガス供給通路P4は、図示しないガス供給パイプを介してガス供給システムに接続されている。
【0069】
[電極の詳細構造]
電極3の詳細構造を図3に示す。また、電極3を放出面と直交する方向となる底面から見た図を図4に、さらにその外観斜視を図5に示す。電極3は、電極基体35と電極材36とを有する。電極基体35は、先端部が閉じられ基端部が開放された概ね円筒状の部材である。電極基体35は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。電極基体35のフランジ19の一方の面は電極支持部12の先端部と接触し、他方の面は第1案内部材4と接触している。
【0070】
図3に示すように、電極基体35の先端部には、テーパ面38と放出面39とが形成されている。テーパ面38は、放出面39の外周側に形成され、放出面39から基端側の電極基体35の外周面に行くにしたがって径が大きくなる形状である。そして、テーパ面38と放出面39との境界部、すなわち放出面39の外周縁の稜線40は、面取り加工等が施されておらず、したがって曲面ではなくエッジとなっている。放出面39は、軸線に直交する平坦な面であり、中央部には内部に凹む凹部41が形成されている。放出面39の裏側には、基端部へ向けて突出する凸部43が形成されている。図1に示すように、冷却パイプ14の先端部は、この凸部43の外側を覆うように配置されている。
【0071】
図4及び図5に示すように、放出面39の外周縁には、テーパ面38から放出面39の一部にかけて、所定の長さの複数の溝46が形成されている。図6に、一部の溝46の外観を拡大して示している。また、図7に、溝46を稜線40における側面から視た図を示している。
【0072】
複数の溝46は円周方向に等間隔で配置されている。各溝46は、先端が断面V字形状の切削工具により形成されたものであり、放出面39に対して傾斜する第1側面51及び第2側面52を有する。図7に示すように、第1側面51は放出面39を溝部に延長して得られる仮想面に対して第1傾斜角度(この例では90°)を有し、第2側面52は同様の仮想面に対して第1傾斜角度よりも小さい第2傾斜角度(この例では30°)を有している。より詳細には、溝46が形成された部分には放出面39は存在しないが、放出面39を溝部分にまで延長した仮想面を想定した場合、第1側面51はこの仮想面との間に第1傾斜角度を有し、第2側面52は同様の仮想面との間に第1傾斜角度よりも小さい第2傾斜角度を有している。
【0073】
また、各側面51,52は三角形状である。より詳細には、図6に示すように、第1側面51は第1辺(底辺)51a、第2辺51b及び第3辺51cを有している。また、第2側面52は第1辺(底辺)52a、第2辺52b及び第3辺52cを有している。両側面51,52の第1辺51a,52aは、工具先端によって形成されるものであり、共通である。両側面51,52の第2辺51b,52bは、各側面51,52とテーパ面38との境界(稜線)によって形成されるものである。また、両側面51,52の第3辺51c,52cは、各側面51,52と放出面39との境界(稜線)によって形成されるものである。
【0074】
以上のような溝51において、第1側面51の頂点T、すなわち、テーパ面38と放出面39との境界(稜線)40と、第1側面51の第2辺51b及び第3辺51cとの交点Tは、第2側面52の第2辺52b、第3辺52c及び稜線40の交点となる頂点に比較してより鋭いエッジとなっている。このエッジとなる交点Tが絶縁破壊の起点となる。また、第2側面52は、図4から明らかなように、旋回するプラズマガスの流れに対向するように配置されている。なお、図4における矢印は、プラズマガスの流れる方向を示している。この第2側面52によって、旋回するプラズマガスはスムーズに電極中心部に導かれることになる。
【0075】
以上のような電極3の溝46を放出面39と直交する底面から視た場合、第2側面52のみが観察できる。すなわち、各溝46は、底面視で1つの三角形状の面から形成されている。なお、この実施形態では第1側面51の傾斜角度は90°であるが、傾斜角度を90°より小さくした場合は、各溝46を底面から視た場合、第1側面51及び第2側面52が観察できる。したがって、この場合は、各溝46は、底面視で2つの三角形状の面から形成されていることになる。
【0076】
電極材36は、熱電子高放出性材料であるハフニウム(hafnium:Hf)で形成されている。電極材36は、電極基体35の凹部41に挿入され、ろう付けで固定されている。電極材36は、概ね円筒状に形成されており、先端部には、基端側へ向けて凹む凹部36aが形成されている。
【0077】
[動作]
このプラズマトーチ1では、まず、電極3とノズル6との間に、小流量のプラズマガスが流され、プラズマガスの流れが生成される。すなわち、ガス供給システムから、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間のプラズマガス通路P1にプラズマガスが供給される。プラズマガスは、プラズマガス通路P1から、第1及び第2案内部材4,5に案内されて、旋回しながら電極3の外周を流れる。この状態で、電極3に高電圧が印加されると、電極基体35の放出面39の外周縁に形成された曲面44とノズル6の内面との間に絶縁破壊が発生する。
【0078】
より詳細には、放出面39の外周縁に形成された複数の溝46のうちの、第1側面51の頂点Tとノズル6内面との間に絶縁破壊が生じる。そして、絶縁破壊をトリガーにして電極3とノズル6の内面との間にパイロットアークが発生する。パイロットアークは、第1側面51の第3辺51cの稜線に沿って、また溝46に形成された第2側面52によって導かれるプラズマガスの流れに沿って、電極中央部に移行し、さらにワークまで延びる。そして、プラズマガスの流量及び電流を増大させることにより、電極3とワークとの間にメインアークが生成される。
【0079】
なお、絶縁破壊の起点となるのは、複数の溝46のうちの一部の溝46に形成された頂点Tである。そして、絶縁破壊動作が繰り返して実施されると、起点となっていた頂点Tの摩耗が進行し、エッジが鋭角でなくなる。すると、複数の溝46のうちの別の溝の頂点Tが新しく絶縁破壊の起点となる。このようにして、長期間にわたって安定した絶縁破壊を生じさせることができる。
【0080】
この実施形態では、電極3の側面から流れ込む旋回するプラズマガスが稜線40を通過するとき、第2側面52の第2辺52b及び第3辺52cを通過する。このとき、プラズマガスは第2側面52に沿ってスムーズに流れ、その流れが妨げられることはない。したがってプラズマアークが乱されることもない。
【0081】
また、絶縁破壊に寄与する第1側面51とプラズマガスの流れの整流に寄与する第2側面52により、安定した絶縁破壊と、乱れのないプラズマアークの移行が可能になる。
【0082】
―第2実施形態―
本発明の第2実施形態を図8以降に示す。第2実施形態は、第1実施形態と電極のみが異なり、他の構成は第1実施形態の構成と同様である。したがって、以下では、電極のみについて説明する。
【0083】
第2実施形態の電極103は、第1実施形態と同様に、電極基体135と電極材136とを有する。これらの基本的構成は、第1実施形態と同様である。すなわち、電極基体135の先端部には、テーパ面138と放出面139とが形成されている。また、放出面139の中央部には凹部141が形成され、凹部141を含む中央側の面は、軸線に直交する平坦面142となっている。平坦面142の裏側には、基端部へ向けて突出する凸部143が形成されている
第1実施形態とは異なり、放出面139の外周縁には曲面144が形成されており、放出面139の中央部の平坦面142は、この曲面144を介してテーパ面138に連続してつながっている。曲面144は、半径(曲率半径)が0.05mm以上で、かつ電極103の直径の50%以下が好ましい。曲面144の半径が0.05mmより小さい場合は、放出面139の外周縁がエッジ状になる。そして、このエッジ部分に絶縁破壊によってプラズマアークが発生した際に、プラズマアークがエッジ部分に拘束されて放出面中央の電極材136に移行しない現象(トラップ)が生じる。逆に、曲面144の半径が大きすぎて電極103の直径の50%を越えるような場合は、ノズル6の内面との間の最短ギャップ部分が一点に定まらない。このため、絶縁破壊が生じるポイントが一定しなくなって、プラズマアークの発生が不安定になる。
【0084】
また、放出面139の外周縁には、テーパ面138から曲面144及び平坦面142にかけて、所定の長さの複数の溝146が形成されている。図9(a)(b)に、電極103を放出面139と直交する方向の底面から見た一部を示している。また、図10(a)(b)に、一部の溝146の外観を拡大して示している。
【0085】
複数の溝146は円周方向に等間隔で配置されている。各溝は、図9(a)に示すように、軸線を中心として放射状に延びる直線Nに対して角度αだけ傾斜して形成されている。角度αは、0°以上60°以下が好ましく、特に旋回するプラズマガスの流れに沿った角度であることが好ましい。なお、図9(b)は傾斜角が0°である溝146’を示している。
【0086】
ここで、傾斜角(α)が60°を越えると、溝146で発生したプラズマアークが移行する際に、隣の溝に再度トラップされ易い。結果として放出面の外周縁をエッジにした従来の電極と同様に、プラズマアークが拘束され続ける。
【0087】
前述のように、第2案内部材5によって案内されたプラズマガスは、電極103の周囲を旋回しながらノズル6のオリフィス26から噴出されるので、溝146の傾斜は、プラズマガスの旋回する方向に沿った角度であることが最も好ましい。また、溝146の断面は、V形状、U形状、あるいは矩形のいずれでもよいが、曲面144及び平坦面142の溝の縁146a(図10参照)には、エッジが形成されているのが好ましい。すなわち、溝の縁146aは、切削工具で溝146を形成した後は、面取り加工等が施されていないのが好ましい。
【0088】
また、溝146は曲面144から平坦面142にかけて形成されているが、図10(b)に示す曲面144における溝146の側面方向からの断面視において、溝146の左側(平坦面142側)の壁部が曲面144となす角度が鈍角になり、右側(曲面144及びテーパ面138側)の壁部が曲面144となす角度が鋭角になっている。このような溝形状では、右側のエッジ部でプラズマアークの発生を容易にし、また左側壁面はプラズマガスの流れを阻害せずより円滑にする。
【0089】
電極基体135において、ノズル6の内面と最も近接する放出面139の外周縁(曲面144)に以上のような溝146を形成することにより、各溝146の縁146aであるエッジ部分とノズル6内面との間で絶縁破壊が生じやすくなる。そして、絶縁破壊によって生じたプラズマアークは、この溝146の縁146a及びプラズマガスの流れに沿って、電極103の中央部に向かい、その時発生したプラズマはノズル内壁を伝ってワーク側に移行する。
【0090】
溝146の具体的な形状として、長期間にわたって確実にプラズマアークを発生させるためには、溝幅は0.05mm以上が好ましい。また同様に、長期間にわたって確実にプラズマアークを発生させるためには、溝深さは0.05mm以上が好ましい。
【0091】
本件発明者らの実験結果によれば、溝幅や溝深さが0.05mm以上の場合1000回以上スムーズにアークが起動した。溝幅や溝深さが0.05mmに満たない溝では数100回でアーク着火不良となった。一方で、溝深さが大きすぎるとプラズマガスの流れを乱し切断品質の悪化を招く。溝深さを電極−ノズル間最短距離よりも小さくすることで流れへの影響は充分小さくなる。具体的には溝深さを0.5mm以下とすることでプラズマガスの流れは安定する。溝幅についてもガス流れへの影響は同様である。またV形状溝の場合、エッジによる電界集中を充分に発揮するためには、溝幅は溝深さに比べて小さくなければならない。つまり溝幅を0.5mm以下にすることでガス流れは安定化し絶縁破壊もスムーズになる。
【0092】
以上より、具体的には、溝幅及び溝深さは、プラズマアークの発生を確実にするためには0.05mm以上が好ましく、またプラズマガスの流れの安定化のためには0.5mm以下が好ましい。各溝146は、放出面139の外周縁の曲面144から中央側に向かって形成されている必要があり、溝長さは、プラズマアークを確実に発生させるためには0.1mm以上が好ましい。また、溝146は電極材36に到達しない長さに抑えるのが好ましい。具体的には、電極103(電極基体135)の直径の50%以下が好ましい。この理由は、プラズマアークが電極材36に向かって移動するきっかけだけを溝146によって作り、その後はプラズマアークが溝146に拘束されずに放出面139を自由に移動できるようにした方が、プラズマアークはスムーズに移行するからである。また、溝146は、放出面139に必ず必要であるが、プラズマガスの流れが阻害されるのを抑えるために、テーパ面138には形成されない方がより好ましい。さらに、溝本数は少なくとも8本が必要である。
【0093】
[動作]
基本的な動作は、第1実施形態と同様である。この第2実施形態では、曲面144に形成された複数の溝146の縁(エッジ部分)146aとノズル6内面との間に絶縁破壊が生じる。そして、絶縁破壊をトリガーにして電極103とノズル6の内面との間にパイロットアークが発生する。パイロットアークは、溝146の縁146a及び旋回するプラズマガスの流れに沿って、中央部に移行し、さらにワークまで延びる。そして、プラズマガスの流量及び電流を増大させることにより、電極103とワークとの間にメインアークが生成される。
【0094】
[実験例」
図11に、従来の電極によりプラズマアークを発生した場合と、本発明の第2実施形態によってプラズマアークを発生した場合のノズル内面の様子を示している。
【0095】
図11において、上段の写真は電極を先端側(図1において下方側)から観察したもの、下段はノズル内面を基端側(図1において上方側)から観察したものである。また、図11(a)は、放出面の外周縁にエッジが形成された従来の電極である。なお、ここでは溝は形成されていない。同図(b)は、放出面の外周縁に曲面を形成し、さらにこの曲面を含んでテーパ面と放出面の平坦面に放射状の溝を形成した電極である。同図(c)は、放出面の外周縁に曲面を形成し、この曲面を含んでテーパ面と放出面の平坦面に、旋回ガスの流れる方向に沿って傾斜する溝を形成した電極である。
【0096】
また、アークスタート条件は、以下の通りである。
【0097】
ノズルのオリフィス径:1.35mm
スタート電流:25A
絶縁破壊電圧:20kVp-p, 1.5MHz
スタートガス:種類=N2(100%)、圧力=0.1Mpa、流量=15LPM
図11の実験結果から、従来の電極を用いた場合(同図(a))、放出面の外周縁であるエッジ部分に拘束されたアークの跡が見られる。一方、放出面の外周縁を曲面にし、かつ放射状の溝を形成した場合(同図(b))、アークの跡が見られるが、従来電極に比較して著しく少ない。また、放出面の外周縁を曲面にし、かつ傾斜した溝を形成した場合(同図(c))、アークの跡はほとんど見られない。
【0098】
以上から、従来の電極において形成されていた放出面外周のエッジを曲面にするとともに、この曲面から中央部にかけて溝を形成することによって、ノズル内面に形成されるアークの跡を著しく少なく、あるいはほぼ無くすことができることがわかる。ノズル内面に発生したアークの跡はアーク移行の軌跡であるので、アーク跡を観察することによってアーク移行の状況を判断することができる。ノズル内面に多量のアークの跡が発生している場合は、電極のエッジ部でプラズマアークが拘束されていることを示している。そして、このようなプラズマアークの拘束は、トーチ起動エラーや、不要な投入電力の増大を招く。また逆に、アークの跡が小さい場合は、スムーズなプラズマアークの発生と、ノズルへの入熱量が小さいことを示している。本発明の実施形態により前述のようなプラズマアークの拘束をなくし、ノズルダメージを減らして、ノズルの長寿命化を図ることができる。
【0099】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0100】
(a)前記第2実施形態では、複数の溝のすべてを中心より放射状にでる軸線に対して同じ角度だけ傾斜させたが、溝の傾斜については前記実施形態に限定されない。例えば、傾斜角度の異なる2種類以上の溝を形成するようにしてもよい。
【0101】
(b)放出面の外周縁に形成される溝の形状、寸法、個数等は、前記実施形態に限定されない。
【0102】
(c)電極材は、ハフニウムに限らず、パイロットアーク及びプラズマアークの高熱に耐え得る材料であればよい。ただし、酸素を含有したプラズマガスが用いられる場合には、特にハフニウム製の電極材が用いられることが好ましい。ハフニウムは、酸化物になると融点が上昇して優れた耐熱性を発揮するからである。また、ジルコニウムもハフニウムとほぼ同等な性質を有するので、ジルコニウム製の電極材が用いられてもよい。
【0103】
また、被切断材(ワーク)の種類によっては、N(非酸素)ガスをプラズマガスに使用する場合があるが、この場合は、電極材としてタングステンを使用してもよい。
【符号の説明】
【0104】
1 プラズマトーチ
3,103 電極
6 ノズル
35,135 電極基体
36 電極材
36a 電極材凹部
38,138 テーパ面
39,139 放出面
41,141 電極基体凹部
42,142 平坦面
51,52 溝の側面
144 曲面(放出面の外周縁)
46,146,146’ 溝
146a 溝の縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ切断装置に用いられる電極であって、
先端に形成された放出面と、前記放出面の外周側に形成されたテーパ面と、前記放出面の外周縁から中央部に向かって形成された複数の溝と、を有し、前記複数の溝のそれぞれは前記放出面に対して傾斜する第1側面及び第2側面を有する、電極基体と、
前記電極基体の放出面の中央部に配置された電極材と、
を備えたプラズマ切断装置用電極。
【請求項2】
前記第1側面及び第2側面は前記放出面を前記溝部に延長して得られる仮想面に対して第1傾斜角度及び第2傾斜角度を有し、前記第1傾斜角度は前記第2傾斜角度よりも大きい、請求項1に記載のプラズマ切断装置用電極。
【請求項3】
前記電極基体の周囲には、外周から前記放出面の中央部に向かって旋回するようにプラズマガスが供給されるものであり、
前記第1側面は、前記放出面との境界部分に絶縁破壊の起点となるエッジを有し、
前記第2側面は、旋回するプラズマガスに対向するように配置されている、
請求項2に記載のプラズマ切断装置用電極。
【請求項4】
前記テーパ面は、前記放出面から離れるほど径が大きくなるように形成されており、
前記複数の溝のそれぞれは、前記放出面と直交する方向視で、2つの三角形状の面で形成されている、請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ切断装置用電極。
【請求項5】
前記テーパ面は、前記放出面から離れるほど径が大きくなるように形成されており、
前記第1側面の第1傾斜角度は90°であり、前記複数の溝のそれぞれは、前記放射面と直交する方向視で、1つの三角形状の面で形成されている、請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ切断装置用電極。
【請求項6】
前記電極材の先端放出面には内部に凹む凹部が形成されている、請求項1から5のいずれかに記載のプラズマ切断装置用電極。
【請求項7】
プラズマ切断装置に用いられる電極であって、
先端に形成され外周縁が曲面である放出面と、前記放出面の曲面から中央部に向かって形成された複数の溝と、を有する電極基体と、
前記電極基体の放出面の中央部に配置された電極材と、
を備えたプラズマ切断装置用電極。
【請求項8】
前記放出面の外周縁の曲面は、半径が0.05mm以上で前記電極基体の直径の50%以下である、請求項7に記載のプラズマ切断装置用電極。
【請求項9】
前記複数の溝の長手方向は、前記放出面の中心から放射状に延びる直線に対して同じ方向に傾斜している、請求項8に記載のプラズマ切断装置用電極。
【請求項10】
前記電極基体の周囲には、外周から前記放出面の中央部に向かって旋回するようにプラズマガスが供給されるものであり、
前記複数の溝は、前記プラズマガスの旋回方向に沿って傾斜している、
請求項9に記載のプラズマ切断装置用電極。
【請求項11】
前記電極材の先端放出面には内部に凹む凹部が形成されている、請求項7から10のいずれかに記載のプラズマ切断装置用電極。
【請求項12】
前記電極材はハフニウムである、請求項1から11のいずれかに記載のプラズマ切断装置用電極。
【請求項13】
プラズマ切断装置に設けられるプラズマトーチであって、
請求項1から12のいずれかに記載の電極と、
内部に前記電極の先端部と対向する電極対向部を有し、かつ先端にオリフィスが形成された筒状のノズルと、
を備えたプラズマトーチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−192441(P2012−192441A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59493(P2011−59493)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(394019082)コマツ産機株式会社 (103)
【Fターム(参考)】