説明

プラズマ源およびそれを備えるイオン源

【課題】 タンタル製のフィラメントを有しており、しかも当該フィラメントの加熱時の自重による変形が少ないプラズマ源およびそれを備えるイオン源を提供する。
【解決手段】 このイオン源を構成するプラズマ源2は、プラズマ生成容器4と、その内部に配置された複数のフィラメント10とを有している。そして各フィラメント10をタンタル製とし、かつ各フィラメント10を沿直下向きに(即ち重力G方向に向けて)配置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フィラメントを有していてプラズマを生成するプラズマ源および当該プラズマ源からイオンビームを引き出すイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン源等に用いられるプラズマ源を構成するものであって、プラズマ生成に必要な熱電子を放出するフィラメントの材質には、従来からタングステン(W)が最も頻繁に利用されている。
【0003】
これに対して、本願の発明者は、タングステン製のフィラメントに代えて、タンタル(Ta)製のフィラメントを用いることを考え出した。その主な理由は次のとおりである。
【0004】
(a)タングステンは熱電子放出効率があまり高くないので、プラズマ密度をより高密度化し、ひいてはイオンビーム量をより増大させるためには、タングステンよりも熱電子放出効率の高いタンタルを用いるのが好ましい。
【0005】
(b)例えばSOI(Silicon On Insulator)基板製造の分野等においては、ヘリウムや水素のような軽いイオンを基板に注入することが行われている。イオン注入によって分離層を形成するためである。このようなイオンを発生させるためには、イオン源の原料ガスとしてヘリウムガスや水素ガスを用いることになるが、これらのガスを用いると、タングステン製のフィラメントでは、当該ガスとの反応によって、フィラメントの表面に多数の小孔が形成されて表面が脆化する。ひいては、フィラメントからの熱電子放出量が減少してプラズマ密度が低下する。これに対して、タンタル製のフィラメントを用いると、原料ガスとしてヘリウムガスや水素ガスを用いてもフィラメント表面の脆化が少なく、安定してプラズマを生成することができることを本願の発明者は見出した。脆化が少なくなる理論は現時点では明らかではないが、現象として確認している。
【0006】
そこで、フィラメントを有するプラズマ源に、例えば特許文献1に記載されているような複数のフィラメントを有するプラズマ源を備えているイオン源に、タンタル製のフィラメントを用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−327713号公報(段落0041−0046、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、(a)熱電子放出効率が高く、かつ(b)原料ガスにヘリウムガスや水素ガスを用いてもフィラメント表面の脆化が少ない、という観点からは、フィラメントの材質としてタンタルを用いることが好ましい。
【0009】
しかし、タンタルはタングステンに比べて剛性が小さいので、タンタル製のフィラメントを熱電子を放出するほどの高温に加熱すると、軟らかくなって自重によって変形する恐れのあることが分かった。
【0010】
特に、特許文献1等に記載のように、フィラメントを重力方向(沿直方向)に対してほぼ90度横向きに配置しているイオン源では、当該フィラメントをタンタル製にすると、加熱した場合に、軟らかくなったフィラメントが自重によって重力方向に大きく垂れて大きく変形してしまい、元のフィラメント形状を維持できなくなる。フィラメント形状が変化すると、熱電子放出状態が変化するので、安定したプラズマを生成することが難しくなり、ひいてはイオン源の場合はイオンビームを安定して引き出すことが難しくなる。
【0011】
そこでこの発明は、タンタル製のフィラメントを有しており、しかも当該フィラメントの加熱時の自重による変形が少ないプラズマ源およびそれを備えるイオン源を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るプラズマ源は、プラズマ生成容器と、その内部に配置された1以上のフィラメントとを有していて、プラズマ生成容器内に導入された原料ガスを電離させてプラズマを生成するプラズマ源において、前記各フィラメントをタンタル製とし、かつ当該各フィラメントを沿直下向きに配置していることを特徴としている。
【0013】
このプラズマ源によれば、プラズマ生成容器内にタンタル製のフィラメントを初めから沿直下向きに(即ち重力方向に向けて)配置しているので、加熱時に当該フィラメントが軟らかくなっても自重による変形が少なくて済む。
【0014】
前記各フィラメントは、沿直下向きに湾曲した湾曲部を有していても良く、沿直下向きに延びた二つの脚部と両脚部の先端部間を接続している前記湾曲部とを有していても良く、湾曲部が懸垂曲線状をしていても良い。
【0015】
プラズマ生成容器内に複数の前記フィラメントを有していても良く、その場合、複数のフィラメントを沿直方向に並べて配置していても良く、複数のフィラメントを、沿直方向に複数列に、かつ千鳥状に並べて配置していても良い。
【0016】
前記原料ガスは、少なくともヘリウムガスを含んでいるものでも良い。
【0017】
この発明に係るイオン源は、前記プラズマ源と、当該プラズマ源において生成したプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、プラズマ生成容器内にタンタル製のフィラメントを初めから沿直下向きに(即ち重力方向に向けて)配置しているので、加熱時に当該フィラメントが軟らかくなっても自重による変形が少なくて済む。その結果、フィラメントの変形による熱電子放出状態の変化を抑制して、安定したプラズマ生成が可能になる。
【0019】
しかも、フィラメントに熱電子放出効率の高いタンタルを用いているので、タングステンを用いている場合に比べて、プラズマ密度を高めることができる。あるいは、タングステンフィラメントの場合と同程度のプラズマ密度にして、フィラメントの加熱温度を下げてフィラメント寿命を延ばすこともできる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、各フィラメントは、初めから沿直下向きに湾曲した湾曲部を有しているので、当該フィラメントの加熱時に湾曲部が自重によって垂れることが生じても、その湾曲の程度が幾分大きくなる程度で済み、従ってフィラメント全体の形状変化をより小さく抑制することができる。即ち、加熱時のフィラメントの変形をより小さく抑制することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、湾曲部については請求項2の場合と同様の効果を奏すると共に、脚部を有していても当該脚部は沿直下向きに延びているので、加熱によって当該脚部が軟らかくなっても自重による曲がりは生じない。従って、脚部を有していても、加熱時のフィラメントの変形を小さく抑制することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、湾曲部は懸垂曲線状をしており、懸垂曲線は重力に対して力学的により安定した形状であるので、フィラメント加熱時の当該湾曲部の変形をより小さく抑制することができる。その結果、加熱時のフィラメントの変形をより一層小さく抑制することができる。
【0023】
請求項5、6に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、プラズマ生成容器内に複数のフィラメントを有していて複数箇所から熱電子を放出することができるので、より高密度のプラズマを生成したり、より大面積のプラズマを生成したり、より均一性の高いプラズマを生成したりすることが可能になる。しかも上記理由によって加熱時の各フィラメントの変形を小さく抑制することができるので、各フィラメント間における加熱時のフィラメント形状のばらつきを小さく抑制することができ、従って、フィラメント形状がばらつくことによるプラズマ状態の変化を小さく抑制することができる。
【0024】
請求項7に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、複数のフィラメントを密に配置した方がプラズマ密度を大きくできるが、複数のフィラメントを沿直方向に1列に配置すると、加熱時にフィラメントが垂れた場合にフィラメント同士が接触する可能性が生じやすくなる。これに対して、この発明のように複数のフィラメントを沿直方向に複数列に、かつ千鳥状に配置しておくと、万一フィラメントが垂れた場合でもフィラメント同士の接触が起きにくくなるので、複数のフィラメントをより密に配置することが容易になる。
【0025】
請求項8に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、原料ガスがヘリウムガスを含んでいても、フィラメントはタンタル製であるので、原料ガスによる脆化が少なく、従ってヘリウムプラズマを含むプラズマを安定して生成することができる。
【0026】
請求項9に記載の発明によれば、上記のようなプラズマ源を備えているので、請求項1〜8に記載の発明について上述した効果と同様の効果を奏することができる。安定したプラズマ生成が可能になることによって、安定したイオンビーム引き出しが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明に係るプラズマ源を備えるイオン源の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】この発明に係るプラズマ源を備えるイオン源の他の実施形態を示す概略断面図である。
【図3】この発明に係るプラズマ源を備えるイオン源の更に他の実施形態を示す概略断面図である。
【図4】この発明に係るプラズマ源を備えるイオン源の更に他の実施形態を示す概略断面図である。
【図5】この発明に係るプラズマ源を備えるイオン源の更に他の実施形態を示す概略断面図である。
【図6】フィラメントの一例を示す側面図である。
【図7】フィラメントの他の例を示す側面図である。
【図8】フィラメントの更に他の例を示す側面図である。
【図9】フィラメントの更に他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
まず、図1に示すイオン源について説明すると、このイオン源は、プラズマ源2と、このプラズマ源2において生成したプラズマ28からイオンビーム32を引き出す引出し電極系30とを備えている。
【0029】
プラズマ源2は、プラズマ28を生成するためのプラズマ生成容器4と、その内部に配置された1以上の(この実施形態では一つの)フィラメント10とを有していて、プラズマ生成容器4内にガス導入口8から導入された原料ガスをアーク放電によって電離させてプラズマ28を生成するものである。
【0030】
フィラメント10は、この実施形態では、プラズマ生成容器4内に、当該プラズマ生成容器4の上面(重力Gに交差する上側の面)に設けられた電流導入端子20によって支持されている。各電流導入端子20とプラズマ生成容器4との間は、絶縁物22によって電気的に絶縁されている。
【0031】
フィラメント10は、フィラメント電源24によって通電加熱されて熱電子を放出する。フィラメント10と陽極を兼ねるプラズマ生成容器4との間には、両者間でアーク放電を生じさせて上記原料ガスを電離させてプラズマ28を生成する直流のアーク電源26が接続されている。図3〜図5に示す実施形態も、図示を省略しているけれども、例えば上記と同様のフィラメント電源およびアーク電源を有している。その場合、アーク電源は、複数のフィラメント10に共通のものでも良いし、各フィラメント10ごとに設けても良い。
【0032】
プラズマ生成容器4は、この実施形態では、プラズマ28からイオンビーム32を引き出すための開口部6を有している。この開口部6の外側近傍に、プラズマ28から電界の作用によってイオンビーム32を引き出す引出し電極系30が配置されている。
【0033】
引出し電極系30は、図示例は2枚の多孔電極を有しているが、それに限られるものではない。また、開口部6および引出し電極系30は、この実施形態ではプラズマ生成容器4の下面部に設けてイオンビーム32を下方向に引き出すようにしているが、それに限られるものではなく、例えば図4、図5に示す実施形態のように、プラズマ生成容器4のフィラメント10を設けていない側面部に設けてイオンビーム32を横方向に引き出すようにしても良い。図2、図3に示す実施形態においても同様である。
【0034】
フィラメント10はタンタル(Ta)から成る。かつこのフィラメント10を、沿直下向きに(即ち重力Gの方向に向けて。以下同様)配置している。沿直下向きとは、換言すれば、フィラメント10の中央付近あるいは先端付近が重力G方向の下側に位置する向きのことである。図2〜図9に示すフィラメント10も、沿直下向き配置の例である。フィラメント10の形状のより具体的な例は、図6〜図9を参照して後述する。
【0035】
このプラズマ源2によれば、プラズマ生成容器4内にタンタル製のフィラメント10を初めから沿直下向きに配置しているので、加熱時に当該フィラメント10が軟らかくなっても自重による変形が少なくて済む。従来の横向き配置の場合のような、自重による大きな垂れ下がりは生じない。初めからフィラメント10を重力G方向に向けて配置しているからである。その結果、フィラメント10の変形による熱電子放出状態の変化を抑制して、安定したプラズマ28の生成が可能になる。ひいてはイオン源の場合は、イオンビーム32を安定して引き出すことが可能になる。
【0036】
しかも、フィラメント10に熱電子放出効率の高いタンタルを用いているので、タングステン(W)を用いている場合に比べて、プラズマ28の密度を高めることができる。ひいてはイオン源の場合は、イオンビーム電流密度を高めることができる。あるいは、タングステンフィラメントの場合と同程度のプラズマ密度にして、フィラメント10の加熱温度を下げてフィラメント寿命を延ばすこともできる。
【0037】
プラズマ生成容器4内に導入する上記原料ガスは、特定のガスに限定されない。例えば、ヘリウムガスや水素ガスを含むガスでも良いし、その他のガスでも良い。
【0038】
原料ガスがヘリウムガスを含んでいても、フィラメント10はタンタル製であるので、前述したように原料ガスによる脆化が少なく、従ってヘリウムプラズマを含むプラズマを安定して生成することができる。ひいてはイオン源の場合は、ヘリウムイオンを含むイオンビームを安定して引き出すことが可能になる。原料ガスが水素ガスを含む場合も同様に、水素プラズマを含むプラズマを安定して生成し、水素イオンを含むイオンビームを安定して引き出すことが可能になる。
【0039】
沿直下向き配置のフィラメント10の形状のより具体的な例を説明する。
【0040】
フィラメント10は、例えば図6に示す例のように、沿直下向きに延びた二つの直線状の脚部12と、両脚部12の先端部間を接続している接続部14とを有しているものでも良い。接続部14は、より具体的には、図6に示す例のように直線状でも良いし、それ以外の形状でも良い。例えば、沿直下向きに湾曲した湾曲部でも良いし(この場合の例を図7、図8に示す)、沿直上向きに曲げられていても良いし、W字状に曲げられていても良いし、図9に示す例のようにコイル状に巻かれていても良い。いずれにしても、フィラメント10全体として見れば、沿直下向きに配置されているので、前述した作用効果を奏することができる。
【0041】
その内でも、フィラメント10は、例えば図7、図8に示す例のように、沿直下向きに湾曲した湾曲部16を有しているものがより好ましい。上記接続部14をより具体化したのが湾曲部16である。この場合は、脚部12の有無、長短は問わない。フィラメント10の配置等に応じて決めれば良い。脚部12を有していない場合は、湾曲部16の端を電流導入端子20に取り付ければ良い。
【0042】
フィラメント10が上記のような湾曲部16を有している場合、当該湾曲部16は初めから下向きに湾曲しているので、フィラメント10の加熱時に湾曲部16が自重によって垂れることが生じても、その湾曲の程度が幾分大きくなる程度で済み、従ってフィラメント10全体の形状変化をより小さく抑制することができる。即ち、加熱時のフィラメント10の変形をより小さく抑制することができる。
【0043】
図7に示す例のフィラメント10は、沿直下向きに延びた二つの直線状の脚部12と、両脚部12の先端部間を接続している上記湾曲部16とを有している。このような形状はU字状と呼ぶこともできる。湾曲部16は、例えば円弧状をしているが、その円弧は半円に限られるものではない。
【0044】
このようなフィラメント10の場合、湾曲部16については上記と同様の効果を奏すると共に、脚部12を有していても当該脚部12は沿直下向きに延びているので、加熱によって当該脚部12が軟らかくなっても自重による曲がりは生じない。従って、脚部12を有していても、加熱時のフィラメント10の変形を小さく抑制することができる。
【0045】
図8に示すフィラメント10では、湾曲部16は懸垂曲線状をしている。懸垂曲線は、カテナリー曲線とも呼ばれ、簡単に言えば、ロープや電線等の両端を持って垂らしたときにできる曲線である。数式で示せば、y=cosh(x)で実質的に表される曲線である。
【0046】
このようなフィラメント10の場合、湾曲部16の形状である懸垂曲線は重力Gに対して力学的により安定した形状であるので、フィラメント加熱時の湾曲部16の変形をより小さく抑制することができる。その結果、加熱時のフィラメント10の変形をより一層小さく抑制することができる。
【0047】
湾曲部16が懸垂曲線状の場合も、脚部12の有無、長短は問わない。脚部12を有していない場合は、フィラメント10の全体が懸垂曲線状をしていることになるので、加熱時のフィラメント10の変形をより一層小さく抑制することができる。
【0048】
湾曲部16を、懸垂曲線状の代わりに、放物線状にしても良い。放物線は、懸垂曲線に近似の曲線であるので、懸垂曲線の場合よりかは若干劣るとしても、懸垂曲線の場合とほぼ同様の作用効果を奏することができる。
【0049】
懸垂曲線状や放物線状の湾曲部16を有しているフィラメント10の形状も、広義のU字状と呼ぶことができよう。
【0050】
次に、プラズマ源2およびそれを備えるイオン源の他の実施形態を説明する。以下においては、図1に示した実施形態と同一または相当する部分には同一符号を付し、当該実施形態との相違点を主体に説明する。
【0051】
図2に示す実施形態のように、フィラメント10を、プラズマ生成容器4内に、当該プラズマ生成容器4の側面(重力Gに沿う面)に設けた電流導入端子20によって支持しても良い。この実施形態では、上側の電流導入端子20を長くして、フィラメント10全体を含む平面が、プラズマ生成容器4のフィラメント10を設けた側面に交差するようにフィラメント10を配置している。またこの配置に合うように、フィラメント10の脚部12の有無、その長さを適宜決めれば良い。図4、図5に示す実施形態も同様である。
【0052】
図3〜図5に示す実施形態のように、プラズマ生成容器4内に複数のフィラメント10を有していても良い。各フィラメント10はタンタル製であり、その形状の例は前述したとおりである。なお、ガス導入口8は、プラズマ生成容器4内に原料ガスを均一性良く導入する等の観点から、必要に応じて複数個(図示例の2個に限らない)設けても良い。
【0053】
プラズマ生成容器4内に複数のフィラメント10を有していることによって、複数箇所から熱電子を放出することができるので、より高密度のプラズマ28を生成したり、より大面積のプラズマ28を生成したり、より均一性の高いプラズマ28を生成したりすることが可能になる。しかも上記理由によって加熱時の各フィラメント10の変形を小さく抑制することができるので、各フィラメント10間における加熱時のフィラメント形状のばらつきを小さく抑制することができ、従って、フィラメント形状がばらつくことによるプラズマ状態の変化を小さく抑制することができる。
【0054】
複数のフィラメント10は、図3に示す実施形態のように横方向(水平方向)に並べて配置しても良いし、図4に示す実施形態のように縦方向(沿直方向)に並べて配置しても良い。図3のように配置すると、横方向に長いプラズマ28を生成することが容易になるので、横方向が幅広のイオンビーム32を引き出すことが容易になる。図4のように配置すると、縦方向に長いプラズマ28を生成することが容易になるので、縦方向が幅広のイオンビーム32を引き出すことが容易になる。図5に示す実施形態の場合も、縦方向が幅広のイオンビーム32を引き出すことが容易になる。
【0055】
縦方向が幅広のイオンビーム32は、例えば、基板(図示省略)を立てた状態で水平方向に機械的に走査しながら、当該基板にイオンビーム32を横方向から照射してイオン注入等の処理を施す場合に有利である。
【0056】
図5に示す実施形態のように、複数のフィラメント10を、沿直方向に複数例(図示例では2列)に、かつ千鳥状に並べて配置しても良い。千鳥状とは、換言すれば、互い違いに並べていることである。この実施形態では、プラズマ生成容器4の開口部6は、プラズマ生成容器4の、フィラメント10を支持する電流導入端子20を設けていない側面(図5の紙面の表側の面または裏側の面)に設けている。引出し電極系30(図5に表れていない。図1〜図4参照)も同様であり、従ってイオンビーム32(同前)を紙面の表側または裏側に引き出すことができる。
【0057】
複数のフィラメント10を密に配置した方がプラズマ密度を大きくできるが、複数のフィラメント10を沿直方向に1列に配置すると、加熱時にフィラメント10が垂れた場合にフィラメント同士が接触する可能性が生じやすくなる。これに対して、この実施形態のように複数のフィラメント10を沿直方向に複数列に、かつ千鳥状に配置しておくと、万一フィラメント10が垂れた場合でもフィラメント同士の接触が起きにくくなるので、複数のフィラメント10をより密に配置することが容易になる。その結果例えば、プラズマ密度を大きくすることが容易になると共に、プラズマ源2およびそれを備えるイオン源を小型化することが容易になる。
【符号の説明】
【0058】
2 プラズマ源
4 プラズマ生成容器
10 フィラメント
12 脚部
14 接続部
16 湾曲部
20 電流導入端子
28 プラズマ
30 引出し電極系
32 イオンビーム
G 重力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ生成容器と、その内部に配置された1以上のフィラメントとを有していて、プラズマ生成容器内に導入された原料ガスを電離させてプラズマを生成するプラズマ源において、
前記各フィラメントをタンタル製とし、かつ当該各フィラメントを沿直下向きに配置していることを特徴とするプラズマ源。
【請求項2】
前記各フィラメントは、沿直下向きに湾曲した湾曲部を有している請求項1記載のプラズマ源。
【請求項3】
前記各フィラメントは、沿直下向きに延びた二つの脚部と、両脚部の先端部間を接続している前記湾曲部とを有している請求項2記載のプラズマ源。
【請求項4】
前記各フィラメントの湾曲部は懸垂曲線状をしている請求項2または3記載のプラズマ源。
【請求項5】
前記プラズマ生成容器内に複数の前記フィラメントを有している請求項1ないし4のいずれかに記載のプラズマ源。
【請求項6】
前記複数のフィラメントを沿直方向に並べて配置している請求項5記載のプラズマ源。
【請求項7】
前記複数のフィラメントを、沿直方向に複数列に、かつ千鳥状に並べて配置している請求項5記載のプラズマ源。
【請求項8】
前記原料ガスは少なくともヘリウムガスを含んでいる請求項1ないし7のいずれかに記載のプラズマ源。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載のプラズマ源と、当該プラズマ源において生成したプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系とを備えていることを特徴とするイオン源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−76736(P2011−76736A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224030(P2009−224030)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】