説明

プラズマ滅菌用インジケーター

【課題】従来からエチレンオキサイドガス滅菌用、あるいは熱滅菌用インジケ−タ−の作成に使用されている公知のアゾ染料を使用し、過酸化水素などの酸化性のあるガスを用いた低温プラズマ滅菌処理での変色が早く、明瞭な変色が起きる新規なプラズマ滅菌用インジケ−タ−を提供する。
【解決手段】従来からエチレンオキサイドガス滅菌用インジケ−タ−や熱滅菌用インジケ−タ−に使用されている公知のアゾ染料と、プラズマ滅菌処理時に該アゾ染料と反応し、これを変色させる化合物として、メルカプト基、またはジチオカルバミル基をもつ化合物を使用する。なお、プラズマ滅菌処理工程中に生じる変色したアゾ染料の褪色防止剤として更に多価フェノ−ル化合物、または芳香族カルボン酸を併用することにより変色がより安定して起こるようにすることも出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過酸化水素ガスなどの酸化性のあるガスを使用した低温プラズマ滅菌法によって医療用器材を滅菌する際に、滅菌される器材が滅菌処理工程を経たかどうか、あるいは滅菌が効果的に行なわれたかどうかを色調変化によって確認するためのプラズマ滅菌用インジケーターに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
病院などの医療機関で手術用あるいは治療用に使用する器材を滅菌するために、(1)高圧蒸気滅菌法、(2)エチレンオキサイド滅菌法、あるいは(3)低温プラズマ滅菌法が用いられている。
【0003】
これらの滅菌法においては、1)滅菌される器材が滅菌工程を経たかどうかの判別、2)器材に作用した滅菌効果が適正であったかどうかを検知することが重要である。
【0004】
この判別手段あるいは検知手段の一つとして滅菌処理により色調が変化する化学的滅菌インジケーターが用いられており、この滅菌用インジケーターはそれぞれの滅菌方法において専用のものを使用する必要がある。
【0005】
(プラズマ滅菌用インジケーターの従来技術)
過酸化水素ガスなどの酸化性のあるガスの低温プラズマによる殺菌力を利用した低温プラズマ滅菌法は、エチレンオキサイドガス滅菌法と同様に低温で滅菌が行なえるため、高温に弱い医療用器材などの滅菌に適している。更に滅菌所要時間がエチレンオキサイドガス滅菌法より短くて済むという長所がある。
【0006】
現在実用化されている代表的な低温プラズマ滅菌法は、ジョンソン・エンド・ジョンソン社(米国)が開発した「STERRAD」(登録商標)である。この滅菌法の滅菌工程の概略は、密閉した滅菌器内を高度に減圧した後、一定量の過酸化水素水を注入して気化させ、滅菌物と過酸化水素蒸気を一定時間接触させる工程(約8〜16分)と、これに続く高周波電圧の印加により過酸化水素ガスのプラズマを発生させる工程を、2回繰り返すことからなる。
【0007】
本願の出願人は既に低温プラズマ滅菌法で使用するための化学的インジケーターについて提案している(特許文献1および特許文献2)。
【0008】
上記特許文献1の技術内容は、トリフェニルメタン系などの塩基性染料とメルカプト基をもつ化合物(変色助剤)とを含むインジケーターで、過酸化水素蒸気や過酸化水素蒸気から生じたプラズマの酸化力により塩基性染料が酸化分解されて褪色することを原理としたものである。
【0009】
また、特許文献2の内容は、感熱記録紙などに使用されるラクト−ン環をもつフルオラン系無色染料とジチオカルバミル基をもつ化合物(変色助剤)を含むインジケーターで過酸化水素蒸気やこれから生じたプラズマの酸化力により該染料のラクト−ン環が開環して有色のロ−ダミン染料に変化することを原理としたものである。
【0010】
低温プラズマ滅菌法に用いられるインジケーターには以上の他に、
・アミノ基を有するアントラキノン系染料を含むもの(特許文献3)
・アントラキノン系化合物を主成分とする色素と有機アミン系化合物を含むもの(特許文献4)
・pHの変化に伴い色調の変化する化合物を含むもの(特許文献5)
・吸着指示薬、キレ−ト滴定・金属指示薬から成る群から選ばれる化合物と有機金属化合物とを含むもの(特許文献6)
・過酸化水素プラズマ滅菌において発生するラジカルにより変色するライトグリ−ンSF黄色、ギネアグリ−ン、およびブリリアントグリ−ンなどを含むもの(特許文献7)
・(a)吸着指示薬、キレ−ト滴定・金属指示薬(ヘマトキシリンなど)、(b)有機金属化合物、(c)多価アルコ−ル、を含有するもの(特許文献8)
・(a)アントラキノン系染料、アゾ染料、およびメチン系染料の少なくとも一種、(b)窒素含有高分子(ポリアミド樹脂など)、(c)カチオン系界面活性剤、を含有するもの(特許文献9)
・(a)スチレン・アクリル樹脂またはスチレン・マレイン酸樹脂の少なくとも一種、(b)メチン系染料、を含有するもの(特許文献10)
などが知られている。
【0011】
(エチレンオキサイドガス滅菌用インジケーターに関する公知技術)
本願のプラズマ滅菌用インジケーターに使用する特定のアゾ染料は従来からエチレンオキサイドガス滅菌用インジケーターの作成に用いられている公知のものである。このようなアゾ染料を使用したエチレンオキサイドガス滅菌用インジケーターに関しては多くの技術が公知となっている。公知例としては特許文献11〜19を挙げることができる。
【0012】
エチレンオキサイドガス滅菌用インジケーターに関する技術では、上記の特許文献11に記載されるものが基本的なものであり、その他は主としてその改良技術に関するものである。
【0013】
上記の公知技術に共通している点は、第3級窒素原子を含む複素環をもつアゾ染料と適当な酸性物質(アゾ染料とエチレンオキサイドとの反応を促進するための変色促進剤)とを結着剤と共に紙などの基材上に塗布または印刷したもので、エチレンオキサイドガス滅菌時に該アゾ染料にエチレンオキサイドが開環付加し(アゾ染料の複素環中の第3級窒素原子に付加しこれを4級化する)、一種のカチオン染料に変化するため別の色調に変化する。
【0014】
なお、これらの技術により作成したエチレンオキサイドガス滅菌用インジケーターは何れも過酸化水素ガスなどを用いた低温プラズマ滅菌法ではほとんど変色しない。
【0015】
(熱滅菌用インジケーターに関する公知技術)
本願のプラズマ滅菌用インジケーターに使用する特定のアゾ染料が酸性触媒の存在下にエポキシ化合物と反応して変色することを原理とした熱滅菌用インジケーターが報告されている(特許文献20)。このインジケーターでは該アゾ染料とエポキシ化合物とを隔離膜を介して別々の層に保持し、熱や高圧蒸気により隔離膜が融解しアゾ染料とエポキシ化合物が接触・反応して変色することを原理としている。
【特許文献1】特許第3435505号公報
【特許文献2】特許第3418937号公報
【特許文献3】特開2001−174449号公報
【特許文献4】特開2002−71570号公報
【特許文献5】特開2002−303618号公報
【特許文献6】特開2003−102811号公報
【特許文献7】特開2004−101488号公報
【特許文献8】特開2004−298479号公報
【特許文献9】特開2005−315828号公報
【特許文献10】特開2007−40785号公報
【特許文献11】特開昭51−49805号公報
【特許文献12】特開昭55−69671号公報
【特許文献13】特開昭56−95053号公報
【特許文献14】特開昭59−36172号公報
【特許文献15】特開昭59−219375号公報
【特許文献16】特開昭62−121777号公報
【特許文献17】特開平5−1252号公報
【特許文献18】特開2002−294113号公報
【特許文献19】特開2004−203984号公報
【特許文献20】特開昭59−124956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本願は上記のような現状に鑑みなされたものであり、従来からエチレンオキサイドガス滅菌用インジケーターや熱滅菌用インジケーターの作成に使用されている公知のアゾ染料(第3級窒素原子を含む複素環をもつアゾ染料)を使用し、過酸化水素ガスなどの酸化性のあるガスを用いた低温プラズマ滅菌法で変色が早く、明瞭な色調変化が起こり、且つ、保存安定性にも優れた新規なプラズマ滅菌用インジケーターを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明のプラズマ滅菌用インジケーターは、a)一般式X−N=N−Y(式中Xはチアゾ−ル環、ベンゾチアゾ−ル環、チアジアゾ−ル環、トリアゾ−ル環、ピリジン環およびキノリン環より選ばれる複素環の残基を示す。これらの残基は更に置換基として非解離性の基をもつことが出来る。Yはp−位にカップリングすることが出来るアニリン誘導体残基を示し、この残基は更に置換基として非解離性の基をもつことが出来る。)で表されるアゾ染料の少なくとも一種と、b)メルカプト基またはジチオカルバミル基をもつ化合物の少なくとも一種と、c)結着剤としての樹脂の少なくとも一種と、よりなることを特徴とする。
【0018】
ここで、本発明のプラズマ滅菌用インジケーターにあっては、プラズマ滅菌処理工程中に生成する変色したアゾ染料の褪色防止剤として、多価フェノ−ル化合物、または芳香族カルボン酸の少なくとも一種を使用してもよい。
【0019】
また、結着剤としての樹脂としてフェノキシ樹脂、非結晶性コポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリケトン樹脂およびロジン変性マレイン酸樹脂の中から選ばれた一種またはそれ以上の樹脂を使用してもよい。
【0020】
また、結着剤としての樹脂としてフェノキシ樹脂、非結晶性コポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリケトン樹脂およびロジン変性マレイン酸樹脂の中から選ばれた一種またはそれ以上の樹脂と、これと相溶性のあるこれら以外の樹脂を併用し、その使用比率が重量比で10/90以上であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のプラズマ滅菌用インジケーターは、次のような効果が得られる。
【0022】
第1に滅菌紙その他の素材から成る滅菌用包装材料の表面に塗布又は印刷したものを使用すれば、滅菌対象物が滅菌工程を経たかどうかの識別が色でできるようになる。
【0023】
第2に、カードなどに印刷したものを滅菌対象物と一緒に滅菌処理すれば、滅菌後にその対象物に作用した滅菌条件が適切であったかどうかを色調変化から検知できる。
【0024】
第3に、滅菌前後で明瞭な変色が起き、且つ滅菌後の色調が元の色に戻ることなく色調の安定性に優れているため、プラズマ滅菌処理が行われたことを確実に検知できる。
【0025】
より具体的には以下の通りである。
【0026】
本発明のプラズマ滅菌用インジケーターで使用するアゾ染料を用いた従来公知のエチレンオキサイドガス滅菌用インジケーターや熱滅菌用インジケーターでは、滅菌処理工程で該アゾ染料がエポキシ基(エポキシ環)をもつ化合物であるエチレンオキサイドやエポキシ化合物と接触して反応し、変色する。
【0027】
本発明のプラズマ滅菌用インジケーターでは、アゾ染料とメルカプト基をもつ化合物(またはジチオカルバミル基をもつ化合物)とを予め混合して基材上に塗布して作成するものであり、両成分が接触していても通常の保存条件下では反応せず、従って変色も起こらないが、過酸化水素などの酸化性のあるガスを用いたプラズマ滅菌処理条件下では両者が速やかに反応して変色するものである。
【0028】
本発明のプラズマ滅菌用インジケーターでは、一般的に、プラズマ滅菌処理過程で変色したアゾ染料の一部が、その滅菌処理工程中に酸化されて分解し、消色する傾向がある。この滅菌処理工程で起こる変色したアゾ染料の分解の度合いはインジケーターに使用するメルカプト基、またはジチオカルバミル基をもつ化合物の種類や配合量、あるいはインジケーターに使用する結着剤としての樹脂の種類にも関係があることが判明している。
【0029】
このような滅菌処理工程中に生じた変色後のアゾ染料(一種の塩基性染料)の分解、消色を防止するために、変色後のアゾ染料の安定化剤として多価フェノ−ル化合物、または芳香族カルボン酸を配合することが有効であり、これによって滅菌処理工程でのインジケーターの変色がより安定して起きる。
【0030】
なお、上記で使用する多価フェノ−ル化合物、あるいは芳香族カルボン酸の種類を選べば、プラズマ滅菌処理後のインジケーターの色調の高湿度下保存安定性も高めることが出来ることも判明している。
【0031】
ここで使用する多価フェノ−ル化合物、あるいは芳香族カルボン酸に代えてマロ−ン酸やマレイン酸などの脂肪族カルボン酸を使用した場合にはほとんど効果が見られない。
【0032】
本発明のプラズマ滅菌用インジケーターでは結着剤として一種以上の樹脂を使用するが、使用する樹脂の種類によって、プラズマ滅菌処理時の変色性、滅菌処理前後の色調の鮮明度、あるいは滅菌処理後の色調の高湿度下安定性などに差が見られる。結着剤として使用する樹脂について検討した結果、従来公知のエチレンオキサイドガス滅菌用インジケーターで一般に使用される、アルキルフェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジンエステル、ロジン変性フェノ−ル樹脂、アクリル酸共重合体、カルボキシル変性塩酢ビ樹脂などの酸性樹脂やポリビニルブチラール樹脂、エチルセルロ−スなどを単独または併用して使用することも出来る。上記の樹脂の中ではプラズマ滅菌処理時の変色性に対しては、ロジン変性マレイン酸樹脂が最も良好である。
【0033】
上記以外の樹脂では、フェノキシ樹脂、非結晶性コポリエステル樹脂、固体の不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ケトン樹脂、クマロンインデン樹脂、水素添加ロジンなどが使用できるが、特にフェノキシ樹脂、非結晶性コポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ケトン樹脂(特にシクロヘキサノン系)を使用したものがプラズマ滅菌処理時の変色性や滅菌処理後の色調の高温高湿度下安定性の点で優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明のプラズマ滅菌用インジケーターは、必須成分としてのa)一般式X−N=N−Yで示される特定のアゾ染料、b)プラズマ滅菌処理時にアゾ染料と反応して変色させる成分としてのメルカプト基をもつ化合物、またはジチオカルバミル基をもつ化合物、c)結着剤としての樹脂、および必要に応じて配合する成分であるd)プラズマ滅菌処理中に生じた変色後のアゾ染料分子の安定性を高める作用をする多価フェノ−ル化合物または芳香族カルボン酸をケトン系その他の溶剤に溶解して作成したインキを、滅菌に使用する過酸化水素ガスなどをあまり吸収しないポリエチレン系やポリプロピレン系の不織布、合成紙、フィルムなどの基材上に適当な厚さに印刷または塗布して作成するものである。
【0035】
これらの配合成分の配合割合は、用いるアゾ染料の色濃度、反応性成分であるメルカプト基をもつ化合物、またはジチオカルバミル基をもつ化合物の種類、多価フェノ−ル化合物あるいは芳香族カルボン酸の種類、あるいは結着剤としての樹脂を溶剤に溶かしたときの粘度やインキ塗膜の基材に対する接着性などによって異なってくるので、適宜に調整すれば良い。
【0036】
また、上記の必須配合成分以外にプラズマ滅菌処理で変色しない染料や顔料、あるいは紫外線吸収剤などを必要に応じて配合することも出来る。
【0037】
本発明のプラズマ滅菌用インジケーターに使用する特定のアゾ染料は従来からエチレンオキサイドガス滅菌用インジケーターや熱滅菌用インジケーター作成技術で公知のもので、例えば、特許文献15や特許文献20などに記載されるもので、下記のものが使用できる。
【0038】
即ち、一般式X−N=N−Y(式中Xはチアゾ−ル環、ベンゾチアゾ−ル環、チアジアゾ−ル環、トリアゾ−ル環、ピリジン環、及びキノリン環より選ばれる複素環の残基を示す。これらの残基は更に置換基として非解離性の基をもつことが出来る。Yはp−位にカップリングすることが出来るアニリン誘導体残基を示し、この残基は更に置換基として非解離性の基をもつことが出来る)で表されるアゾ染料であり、この中の少なくとも一種を使用する。
【0039】
本発明のプラズマ滅菌用インジケーターに使用するメルカプト基をもつ化合物としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、6−エチル−2−メルカプトベンゾチアゾール、6−エトキシ−2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトチアゾリン、5−メチル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール、1−フェニル−5−メルカプト−1H−テトラゾール、4,4’−チオビスベンゼンチオール、2−メルカプト−5−メトキシ−ベンゾチアゾール、2−メルカプト−5−メチル−ベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メトキシ−ベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−エトキシ−ベンゾイミダゾール、2−メルカプト−ニコチン酸などが例示される。
【0040】
本発明のプラズマ滅菌用インジケーターに使用するジチオカルバミル基をもつ化合物としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジエチルジチオカルバミン酸−2−ベンゾチアゾリ−ルなどが例示される。
【0041】
上記のジチオカルバミル基をもつ化合物の中では、プラズマ滅菌処理時の変色が早いインジケ−タ−が得られる点でテトラメチルチウラムジスルフィドおよびテトラエチルチウラムジスルフィドが良好である。
【0042】
しかし、ジチオカルバミル基をもつ化合物は一般にメルカプト基をもつ化合物と比べてその最適配合量の幅がかなり狭いという欠点がある。
【0043】
本発明のプラズマ滅菌用インジケ−タ−で、滅菌処理工程で変色したアゾ染料の一部が、その滅菌工程中に酸化されて褪色するのを防止し、変色を安定化する目的で多価フェノ−ル化合物または芳香族カルボン酸の一種以上を使用する。
【0044】
有効な多価フェノ−ル化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−sec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−m−クレゾ−ル)、2,2−ビス(2−ヒドロキシ−5−ビフェニリル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−(α−メチルベンジリデン)ビスフェノ−ル、4,4’−ジヒドロキシテトラフェニルメタン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォ−ン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルファイド、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾ−ル)、2,2’−チオビス(4−tert−オクチルフェノ−ル)、1,1’−チオビス(2−ナフト−ル)、ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)ジスルファイド、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−メチレンビス(4−クロロフェノ−ル)、2−[ビス(4−ヒドロキシフェニル)メチル]ベンジルアルコ−ル、1,1’−メチレンジ−2−ナフト−ル、1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、4,4’,4’’−トリヒドロキシトリフェニルメタン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス[(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メチル]−4−メチルフェノ−ル、α,α,α’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼン、2,2’,3,3’,−テトラヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、ジフェノ−ル酸、フェノ−ルフタリン、メチレンジサリチル酸、などが例示される。
【0045】
多価フェノ−ル化合物としては一般に酸強度の高いものが有効であり、更にプラズマ滅菌処理後のインジケ−タ−の色調の高湿度下安定性に対してはそれらの中で親水性の低いものが有効である。
【0046】
また、多価フェノ−ル化合物はインジケ−タ−に使用する結着剤としての樹脂に対して10〜100重量%程度の高い配合量であることが望ましいため、使用する結着剤としての樹脂との相溶性の良いものを選んで使用することも重要である。
【0047】
また、有効な芳香族カルボン酸としては、2−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、3,5−ジ−tert−ブチル−サリチル酸、p−トルイル−o−安息香酸、o−フタル酸などが例示される。
【0048】
本発明のプラズマ滅菌用インジケ−タ−では結着剤として一種以上の樹脂を使用する。使用する樹脂の種類は前述したように、インジケ−タ−のプラズマ滅菌処理時の変色性、滅菌処理前後の色調の鮮明度、あるいは滅菌処理後の色調の高湿度下安定性などに影響する。
【0049】
本発明のプラズマ滅菌用インジケ−タ−に使用するのに特に適した結着剤としては、従来公知のエチレンオキサイドガス滅菌用インジケ−タ−の結着剤として使用されるロジン変性マレイン酸樹脂のほか、フェノキシ樹脂、非結晶性コポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、およびケトン樹脂(特にシクロヘキサノン系)が見出された。これらの樹脂を単独でまたは相溶性のあるものを組み合わせて使用すると良好な結果が得られる。また、これらの樹脂の何れかと相溶性のある他の樹脂を併用することも出来る。この場合の樹脂の使用割合は使用する樹脂の種類や併用する目的にもよるが、重量比で10/90以上を必要とする。
【0050】
本発明のプラズマ滅菌用インジケ−タ−の結着剤として使用する上記のフェノキシ樹脂としてはエポキシ基を全く含まないものが特に好ましい。
【0051】
一般に、直鎖状の高重合度のエポキシ樹脂をフェノキシ樹脂と呼んでおり、これは分子鎖の末端にエポキシ基をもつが、樹脂の重合度が高いため樹脂中に含まれるエポキシ基の量はかなり少ない。しかし、本発明のプラズマ滅菌用インジケ−タ−の結着剤として使用するフェノキシ樹脂としては更に分子末端にあるエポキシ基を開環させて消失させたエポキシ基を持たないものが好ましい(インジケ−タ−の保存中にエポキシ基がアゾ染料と反応し、若干の変色が起きることによる)。
【実施例】
【0052】
以下で実施例により本発明を具体的に説明する。
【0053】
(実施例1および2)
(イ)アゾ染料として:C.Iディスパーズレッド58 20mg
(ロ)反応性物質として:5−メチル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール 50mg
(ハ)多価フェノール化合物として:実施例1では配合しない、実施例2では4,4’−(α−メチルベンジリデン)ビスフェノール 2000mg
(ニ)結着剤(樹脂)として:非結晶性コポリエステル樹脂(東洋紡社製 バイロン 240) 10000mg
(ホ)溶剤として:メチルエチルケトン 20mL
を使用してインクを作成し、それぞれをポリプロピレン系合成紙(ユポ・コーポレーション社製 ユポ FGS−250)の基材上に0.6m/mワイヤーバーで手塗りし、実施例1および2のプラズマ滅菌用インジケーターを作成した。
【0054】
これらのインジケーターは何れもほぼ赤色であったが、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社のプラズマ滅菌器(STERRAD 100S)で滅菌処理(2分キャンセル処理、およびショートサイクル処理)したところ下記の表1のように変色した。
【0055】
なおここで、表中の「2分キャンセル処理」とは、滅菌チャンバーを約0.5torrまで減圧し、その状態で滅菌チャンバー内に高周波エネルギーを与えてエアプラズマ状態を作り出し、一度復圧した後、再度、約0.4torrまで減圧した後、過酸化水素を注入し2分間拡散させる処理のことをいう。
また「ショートサイクル処理」とは、前記「2分キャンセル処理」に続けて、過酸化水素を6分間拡散させた後、僅かに減圧した後、高周波エネルギーを与えて過酸化水素の低温プラズマ状態を作り出した後、さらに過酸化水素の注入、8分間拡散、高周波エネルギー付与、を行う処理のことをいう。
これらの用語については、以下全て同じ意味で使用している。
【0056】
【表1】

なお、滅菌処理したインジケーターの高湿度下での安定性を調べるために、滅菌後の試料を23℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1ヶ月間放置するテストを行ったところ、下記の表2に示す結果が得られた。
【0057】
【表2】

(比較例1および2)
上記実施例1および2と比較するために、実施例1および2に使用したインク成分で反応性物質(5−メチル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール)を配合しないもの(比較例1および2)を作成し、これを実施例1および2の場合と同様にジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社のプラズマ滅菌器で滅菌処理したところ、比較例の試料は何れも全く変色せず、処理前の赤色のままであった。
【0058】
(実施例3および4)
(イ)アゾ染料として:C.Iディスパーズレッド58 20mg
(ロ)反応性物質として:2−メルカプトベンゾチアゾール 100mg
(ハ)多価フェノール化合物として:実施例3では配合しない、実施例4では1,1−ビス−(ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン 1800mg
(ニ)結着剤(樹脂)として:フェノキシ樹脂(米国、ユニオンカーバイド社製 ペイフェンPKHC)8000mg
(ホ)溶剤として:メチルエチルケトン 27mL
を使用してインクを作成し、それぞれをポリプロピレン系合成紙(ユポ・コーポレーション社製 ユポ FGS−250)の基材上に0.6m/mワイヤーバーで手塗りし、実施例3および4のプラズマ滅菌用インジケーターを作成した。
【0059】
これらのインジケーターは何れもほぼ赤色であったが、米国、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社のプラズマ滅菌器(STERRAD 100S)で滅菌処理(2分キャンセル処理、およびショートサイクル処理)したところ下記の表3のように変色した。
【0060】
【表3】

なお、滅菌処理したインジケーターの高湿度下での安定性を調べるために、滅菌後の試料を23℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1ヶ月間放置するテストを行ったところ、下記の表4に示す結果が得られた。
【0061】
【表4】

(実施例5および6)
(イ)アゾ染料として:C.Iディスパーズレッド58 20mg
(ロ)反応性物質として:2−メルカプトベンゾチアゾール 50mg
(ハ)多価フェノール化合物として:実施例5では配合しない、実施例6では1,1’−チオビス−2−ナフトール 1800mg
(ニ)結着剤(樹脂)として:ポリエステルポリウレタン樹脂溶液(東洋紡社製 バイロン UR−4800(32重量%溶液)) 20000mg
(ホ)追加溶剤として:メチルエチルケトン 9mL
を使用してインクを作成し、それぞれをポリプロピレン系合成紙(ユポ・コーポレーション社製 ユポ FGS−250)の基材上に0.6m/mワイヤーバーで手塗りし、実施例5および6のプラズマ滅菌用インジケーターを作成した。
【0062】
これらのインジケーターは何れもほぼ赤色であったが、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社のプラズマ滅菌器(STERRAD 100S)で滅菌処理(2分キャンセル処理、およびショートサイクル処理)したところ下記の表5のように変色した。
【0063】
【表5】

なお、滅菌処理したインジケーターの高湿度下での安定性を調べるために、滅菌後の試料を23℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1ヶ月間放置するテストを行ったところ、下記の表6に示す結果が得られた。
【0064】
【表6】

(実施例7〜11)
(イ)アゾ染料として:C.Iディスパーズレッド58 20mg
(ロ)反応性物質として:5−メチル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール 30mg
(ハ)多価フェノール化合物として:実施例7では配合しない、実施例8では2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、実施例9では1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン[ビスフェノールZ]、実施例10ではビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホーン[ビスフェノールS]、実施例11では4,4’−(α−メチルベンジリデン)ビスフェノール[ビスフェノールAP]、を各1500mg
(ニ)結着剤(樹脂)として:非結晶性コポリエステル樹脂(東洋紡社製 バイロン240) 5000mg
(ホ)溶剤として:メチルエチルケトン 15mL
を使用してインクを作成し、それぞれをポリプロピレン系合成紙(ユポ・コーポレーション社製 ユポ FGS−250)の基材上に0.45m/mワイヤーバーで手塗りし、実施例7〜11のプラズマ滅菌用インジケーターを作成した。
【0065】
これらのインジケーターは何れもほぼ赤色であったが、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社のプラズマ滅菌器(STERRAD 100S)で滅菌処理(2分キャンセル処理、およびショートサイクル処理)したところ下記の表7のように変色した。
【0066】
【表7】

なお、滅菌処理したインジケーターの高湿度下での安定性を調べるために、滅菌後の試料を23℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1ヶ月間放置するテストを行ったところ、下記の表8に示す結果が得られた。
【0067】
【表8】

実施例8〜11のインジケーターに使用した4種類の多価フェノール化合物は、何れも酸強度が高いものであり、このような酸強度の高い多価フェノール化合物を配合することによりインジケーターのプラズマ滅菌処理時の変色性が向上する(滅菌処理工程で生じた青色のアゾ染料が安定化され、滅菌処理工程中に酸化分解され難くなることによる)。しかし、滅菌処理後のインジケーターの高湿度下安定性に対しては配合する多価フェノール化合物の親水性の影響があり、親水性の低いビスフェノールZやビスフェノールAPを配合した実施例9や実施例11では耐湿性が向上しているが、親水性が大きいビスフェノールAやビスフェノールSを配合した実施例8や実施例10では滅菌処理後の耐湿性が寧ろ低下している。
【0068】
(実施例12および13)
(イ)アゾ染料として:C.Iディスパーズレッド58 20mg
(ロ)反応性物質として:2−メルカプトベンゾチアゾール 30mg
(ハ)多価フェノール化合物として:実施例12では配合しない、実施例13では1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン 1800mg
(ニ)結着剤(樹脂)として:ロジン変性マレイン酸樹脂(日立化成ポリマー社製 テスポール1152) 16000mg
(ホ)溶剤として:メチルエチルケトン 13mL
を使用してインクを作成し、それぞれをポリプロピレン系合成紙(ユポ・コーポレーション社製 ユポ FGS−250)の基材上に0.45m/mワイヤーバーで手塗りし、実施例12および13のプラズマ滅菌用インジケーターを作成した。
【0069】
これらのインジケーターは何れもほぼ赤色であったが、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社のプラズマ滅菌器(STERRAD 100S)で滅菌処理(2分キャンセル処理、およびショートサイクル処理)したところ下記の表9のように変色した。
【0070】
【表9】

なお、滅菌処理したインジケーターの高湿度下での安定性を調べるために、滅菌後の試料を23℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1ヶ月間放置するテストを行ったところ、下記の表10に示す結果が得られた。
【0071】
【表10】

上記の実施例12および13に見られるように、結着剤としてロジン変性マレイン酸樹脂を使用したプラズマ滅菌用インジケーターでは一般にプラズマ滅菌処理時の変色性は良好で変色後の色調も非常に鮮明であるが、プラズマ滅菌処理後の色調の高湿度下安定性がやや低いという特徴がある。
【0072】
しかし、上記の23℃、90%RHで1ヶ月というテスト条件に代えて、23℃、65%RHの条件下でのテストを行なったところ、3ヶ月後でも色調変化は少なく、特に実施例13では色調変化が殆ど起こらないことが判明した。
【0073】
(実施例14および15)
(イ)アゾ染料として:C.Iディスパーズレッド58 20mg
(ロ)反応性物質として:テトラエチルチウラムジスルフィド 15mg
(ハ)多価フェノール化合物として:実施例14では配合しない、実施例15では4,4’−(α−メチルベンジリデン)ビスフェノール 1800mg
(ニ)結着剤(樹脂)として:非結晶性コポリエステル(東洋紡社製 バイロン 240) 10000mg
(ホ)溶剤として:メチルエチルケトン 20mL
を使用してインクを作成し、それぞれをポリプロピレン系合成紙(ユポ・コーポレーション社製 ユポ FGS−250)の基材上に0.45m/mワイヤーバーで手塗りし、実施例14および15のプラズマ滅菌用インジケーターを作成した。
【0074】
これらのインジケーターは何れもほぼ赤色であったが、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社のプラズマ滅菌器(STERRAD 100S)で滅菌処理(2分キャンセル処理、およびショートサイクル処理)したところ下記の表11のように変色した。
【0075】
【表11】

上記実施例14のように多価フェノール化合物を配合しない場合には滅菌処理時の変色が非常に遅い(2分キャンセル処理時の色調から)。この場合にはプラズマ滅菌工程中に生じた青色のアゾ染料がその滅菌工程中に酸化分解されて褪色する速度が非常に速いことを意味しており、この配合で反応性物質であるテトラエチルチウラムジスルフィドの配合量を増やしても2分キャンセル処理時の変色性はあまり向上しない。
【0076】
実施例15のように多価フェノール化合物を配合したものでは、2分キャンセル処理およびショートサイクル処理で変色している。しかし、この配合でも反応性物質であるテトラエチルチウラムジスルフィドの配合量をあまり増やすとショートサイクル処理時の青色の色濃度が低くなる(一旦生じた青色のアゾ染料の一部が褪色するためと思われる)
なお、滅菌処理したインジケーターの高湿度下での安定性を調べるために、滅菌後の試料を23℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1ヶ月間放置するテストを行なったところ、実施例15のプラズマ滅菌後の耐湿性は、2分キャンセル処理品およびショートサイクル処理品共にほとんど変色しておらず良好であった。
【0077】
(実施例16〜18)
(イ)アゾ染料として:C.Iディスパーズレッド58 20mg
(ロ)反応性物質として:2−メルカプトベンゾチアゾールを実施例16では100mg、実施例17では、200mg、実施例18では 300mg
(ハ)多価フェノール化合物として:1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン 2000mg
(ニ)結着剤(樹脂)として:実施例16ではフェノキシ樹脂(米国、ユニオンカーバイド社製 ペイフェンPKHC)2000mgとアセトフェノン系ケトン樹脂(本州化学工業社製 ハロン80)8000mg、実施例17ではフェノキシ樹脂(米国、ユニオンカーバイド社製 ペイフェンPKHC)2000mgとアセトフェノン系ケトン樹脂の水素添加物(本州化学工業社製 ハロン110H)8000mg、実施例18ではフェノキシ樹脂(米国、ユニオンカーバイド社製 ペイフェンPKHC)2000mgとシクロヘキサノン系ケトン樹脂(荒川化学工業社製 ケトンレジンK−90)8000mg
(ホ)溶剤として:メチルエチルケトンを実施例16では10mL、実施例17では11mL、実施例18では11mL
を使用してインクを作成し、それぞれをポリプロピレン系合成紙(ユポ・コーポレーション社製 ユポ FGS−250)の基材上に0.45m/mワイヤーバーで手塗りし、実施例16〜18のプラズマ滅菌用インジケーターを作成した。
【0078】
なお、これらの実施例のインジケーターでは結着剤として主にケトン樹脂を使用したが、少量のフェノキシ樹脂を併用した理由はその結着剤としての強度を高めるためである。
【0079】
これらのインジケーターは何れもほぼ赤色であったが、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社のプラズマ滅菌器(STERRAD 100S)で滅菌処理(2分キャンセル処理、およびショートサイクル処理)したところ下記の表12のように変色した。
【0080】
【表12】

結着剤としてケトン樹脂を使用したインジケーターは一般にプラズマ滅菌処理時の変色性が良好である。
【0081】
なお、滅菌処理したインジケーターの高湿度下での安定性を調べるために、滅菌処理後の試料を23℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1ヶ月間放置するテストを行ったところ、下記の表13に示す結果が得られた。
【0082】
【表13】

結着剤としてシクロヘキサノン系ケトン樹脂を使用したインジケーターはプラズマ滅菌処理後の高湿度下安定性も優れている。
【0083】
(実施例19〜24)
(イ)アゾ染料として:C.Iディスパーズレッド58 20mg
(ロ)反応性物質として:2−メルカプトベンゾチアゾール 100mg
(ハ)酸性物質として:実施例19では配合しない、実施例20では脂肪族カルボン酸であるマロン酸 40mg(酸強度が高いためこれ以上配合できない)、実施例21では脂肪族カルボン酸であるマレイン酸 20mg(酸強度が高いためこれ以上配合できない)、実施例22では芳香族カルボン酸であるp−トルイル−o−安息香酸 1500mg、実施例23では芳香族カルボン酸である2−ナフトエ酸 800mg、実施例24では多価フェノール化合物である4,4’−(α−メチルベンジリデン)ビスフェノール 1500mg
(ニ)結着剤(樹脂)として:クマロン樹脂を主体とし、これに結着剤としての強度を補う目的で少量の非結晶性コポリエステル樹脂を混合したものを使用。具体的には、非結晶性コポリエステル(東洋紡社製、バイロン 240) 1500mgとクマロン樹脂(日塗化学社製、エスクロン V−120) 6000mg
(ホ)溶剤として:メチルエチルケトン 10mL
を使用してインクを作成し、それぞれをポリプロピレン系合成紙(ユポ・コーポレーション社製 ユポ FGS−250)の基材上に0.45m/mワイヤーバーで手塗りし、実施例19〜24のプラズマ滅菌用インジケーターを作成した。
【0084】
これらのインジケーターは何れもほぼ赤色であったが、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社のプラズマ滅菌器(STERRAD 100S)で滅菌処理(2分キャンセル処理、およびショートサイクル処理)したところ下記の表14のように変色した。
【0085】
【表14】

結着剤としてクマロン樹脂を使用したインジケーターで、酸性物質を配合しない場合には実施例19に見られるようにプラズマ滅菌処理時の変色性は不良である(プラズマ滅菌処理中に生じた青色のアゾ染料の一部がその滅菌処理工程中に酸化分解され、消失し易いことが一つの原因であると思われる)。
【0086】
なお、ショートサイクル処理で灰色味の色調に変色する理由は、上記のように滅菌処理時の変色が遅いため、ショートサイクル処理で紫色となるのであるが、これにクマロン樹脂のやや黄色の色調が加わり、灰色味の紫になるものと思われる。
【0087】
このインジケーターに種々の酸性物質を配合すると、配合する酸性物質の種類によりプラズマ滅菌処理時の変色性に差が出てくる。
【0088】
配合する酸性物質の種類とインジケーターのプラズマ滅菌処理時の変色性向上効果との関係は、脂肪族カルボン酸の配合ではほとんど効果が出ない(実施例20および21)、芳香族カルボン酸の配合ではやや効果が見られる(実施例22および23)、多価フェノール化合物の配合では明瞭な効果が見られる(実施例24)、というものであった。
【0089】
なお、上記の実施例の中でプラズマ滅菌処理時の変色性が良好であった実施例24のインジケーターの滅菌処理後の高湿度下安定性を調べるために、滅菌後の試料を23℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1ヶ月間放置するテストを行なった結果、2分キャンセル処理品およびショートサイクル処理品共に色調の変化はほとんど認められず、滅菌処理後の高湿度下安定性はほぼ良好であった。
【0090】
(実施例25〜33)
(イ)アゾ染料として:C.Iディスパーズレッド58 20mg
(ロ)反応性物質として:2−メルカプトベンゾチアゾール 150mg
(ハ)酸性物質として:実施例25では配合しない、実施例26では脂肪族カルボン酸であるマレイン酸 40mg(酸強度が高いためこれ以上配合できない)、実施例27では芳香族カルボン酸であるp−トルイル−o−安息香酸 1500mg、実施例28では芳香族カルボン酸である2−ナフトエ酸 1000mg、実施例29では芳香族カルボン酸である3,5−ジ−tert−ブチルサリチル酸 1000mg、実施例30では多価フェノール化合物であるジフェノール酸 1000mg、実施例31では芳香族カルボン酸であるフェノールフタリン 1500mg、実施例32では芳香族カルボン酸であるメチレンジサリチル酸 1000mg、実施例33では多価フェノール化合物である1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン 1500mg
(ニ)結着剤(樹脂)として:非結晶性コポリエステル(東洋紡社製、バイロン 240) 2000mgと水素添加ロジン(荒川林産化学社製、水添ロジン) 8000mg
(ホ)溶剤として:メチルエチルケトン 10mL
を使用してインクを作成し、それぞれをポリプロピレン系合成紙(ユポ・コーポレーション社製 ユポ FGS−250)の基材上に0.45m/mワイヤーバーで手塗りし、実施例25〜33のプラズマ滅菌用インジケーターを作成した。
【0091】
これらのインジケーターは何れもほぼ赤色であったが、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社のプラズマ滅菌器(STERRAD 100S)で滅菌処理(2分キャンセル処理、およびショートサイクル処理)したところ下記の表15のように変色した。
【0092】
【表15】

実施例25〜33のインジケーターでは、結着剤として水素添加ロジンを主体とし、これに結着剤としての強度を補うために少量の非結晶性コポリエステルをブレンドしたものを使用している。
【0093】
酸性物質を配合しない場合(実施例25)には、プラズマ滅菌処理時の変色はショートサイクル処理では青色でなく、薄い紺色に変色した。このような色調に変色した原因としては、プラズマ滅菌処理工程で生成した青色のアゾ染料の一部がその滅菌工程中に酸化分解されて褪色し、薄い青色になり、これに水素添加ロジンの薄い黄色が加わったためと思われる。
【0094】
上表から、配合した酸性物質の種類とインジケーターのプラズマ滅菌処理時の変色性向上効果との関係は、脂肪族カルボン酸ではほとんど配合効果が見られない(実施例26)、
芳香族カルボン酸では僅かに配合効果が見られる(実施例27〜29)、多価フェノール化合物では明瞭な配合効果が見られる(実施例30〜33)、というものであった。
【0095】
なお、滅菌処理したインジケーターの高湿度下での安定性を調べるために、滅菌後の試料を23℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1ヵ月間放置するテストを行ったところ、下記の表16に示す結果が得られた。
【0096】
【表16】

(実施例34〜38)
(イ)アゾ染料として:実施例34では下記の化学式(1)のものを20mg、実施例35では下記の化学式(2)のものを20mg、実施例36では下記の化学式(3)のものを20mg、実施例37では下記の化学式(4)のものを20mg、実施例38では下記の化学式(5)のものを20mg、
【0097】
【化1】

【0098】
【化2】

【0099】
【化3】

【0100】
【化4】

【0101】
【化5】

(ロ)反応性物質として:2−メルカプトベンゾチアゾールを、実施例34では50mg、実施例35では50mg、実施例36では50mg、実施例37では100mg、実施例38では25mg、
(ハ)多価フェノール化合物として:1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン 1500mg
(ニ)結着剤(樹脂)として:ポリエステルポリウレタン樹脂溶液(東洋紡社 バイロン UR−4800) 3.9mL(3.7g)
(ホ)追加溶剤として:メチルエチルケトン 7.7mL
を使用してインクを作成し、それぞれをポリプロピレン系合成紙(ユポ・コーポレーション社製 ユポ FGS−250)の基材上に0.35m/mワイヤーバーで手塗りし、実施例34〜38のプラズマ滅菌用インジケーターを作成した。
【0102】
これらのインジケーターを、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社のプラズマ滅菌器(STERRAD 100S)で滅菌処理(2分キャンセル処理、およびショートサイクル処理)したところ下記の表17のように変色した。
【0103】
【表17】

なお、滅菌処理したインジケーターの高湿度下での安定性を調べるために、滅菌後の試料を23℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1ヵ月間放置するテストを行なったところ、何れの試料もほとんど色調の変化がなく、滅菌処理後の高湿度下安定性は良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一般式X−N=N−Y(式中Xはチアゾ−ル環、ベンゾチアゾ−ル環、チアジアゾ−ル環、トリアゾ−ル環、ピリジン環およびキノリン環より選ばれる複素環の残基を示す。これらの残基は更に置換基として非解離性の基をもつことが出来る。Yはp−位にカップリングすることが出来るアニリン誘導体残基を示し、この残基は更に置換基として非解離性の基をもつことが出来る。)で表されるアゾ染料の少なくとも一種と、
b)メルカプト基またはジチオカルバミル基をもつ化合物の少なくとも一種と、
c)結着剤としての樹脂の少なくとも一種と、
よりなるプラズマ滅菌用インジケーター。
【請求項2】
プラズマ滅菌処理工程中に生成する変色したアゾ染料の褪色防止剤として、多価フェノ−ル化合物、または芳香族カルボン酸の少なくとも一種を使用したことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ滅菌用インジケーター。
【請求項3】
結着剤としての樹脂としてフェノキシ樹脂、非結晶性コポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリケトン樹脂およびロジン変性マレイン酸樹脂の中から選ばれた一種またはそれ以上の樹脂を使用したことを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ滅菌用インジケーター。
【請求項4】
結着剤としての樹脂としてフェノキシ樹脂、非結晶性コポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリケトン樹脂およびロジン変性マレイン酸樹脂の中から選ばれた一種またはそれ以上の樹脂と、これと相溶性のあるこれら以外の樹脂を併用し、その使用比率が重量比で10/90以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ滅菌用インジケーター。

【公開番号】特開2009−213609(P2009−213609A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59165(P2008−59165)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000137052)株式会社ホギメディカル (31)
【Fターム(参考)】