説明

プラズマ滅菌用インジケータ及び滅菌用包装材料

【課題】被殺菌物へのプラズマ殺菌処理が行われたかどうかが明確に判定できる、色相の変化が著しく、且つ、不可逆的であり、表示にあたっての変色速度がはやいプラズマ滅菌用インジケータ及び該プラズマ滅菌用インジケータを用いた表示部を形成してなる滅菌用包装材料を提供する。
【解決手段】(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、(B)有機金属化合物と、を含有すし、前記(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、前記(B)有機金属化合物の1種以上の化合物とが、酸の存在下で反応して、pHに依存しないで不可逆的に色相が変わることを特徴とする。前記(A)成分としては、ヘマトキシリン、モーダントブルー29、エリオクロムブラックT、キシレノールオレンジ、1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール(PAN)などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素プラズマ殺菌処理に有用な化学指示薬による滅菌用インジケータ、および該滅菌用インジケータからなる表示部を形成してなるプラズマ殺菌処理用の被処理物を収納するための滅菌用包装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨て可能、或いは再使用可能な医療装置や食品容器などに対して、種々の殺菌手段が用いられてきており、代表的なものとしては、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、オートクレーブによる高圧高温蒸気滅菌、或いはプラズマ滅菌などが挙げられる。例えば、病院などで実施される滅菌方法としては、メスやシリンジなどの被滅菌物を、少なくともガス透過性であって細菌類が通過不能である領域を有する包装袋に入れ、密封した後、前記したような方法により滅菌処理を行い、滅菌後の器具は手術などに使用するまで、この包装袋内に収納され、手術や治療に用いる際に開封して使用される。この場合、包装材料に密封された器具に殺菌処理が行われたかどうかを容易に判断する表示を付することが事故防止などの観点から有用である。表示部の形成は、滅菌処理を行うと非可逆的に変色する、指示機能を有するインキを使用して行なわれる。
【0003】
そのようなインキを例示すると、水蒸気滅菌のインジケーターとなる温度に感知する色材としては、ジアゾニウム塩化合物等の感熱記録材料に使用する色素や、感熱性のマイクロカプセルに内包されており所定の温度に達するとマイクロカプセルの密閉性が損なわれて発色する色材などが挙げられ、市販品としては、例えば、I・C・Sセンター(サクラクレパス)社製のネスコスI・C(S−25B、高圧蒸気滅菌用)、日油技研工業社製のサーモラベルやスチームインテグレーターカードに使用されるインクなどが挙げられる。EOGに感知するものとしては、例えば、特許文献1に記載の(A−N=N−B)構造を有する分散性染料を有する組成物などが挙げられる。
【0004】
これらの滅菌処理のうち、被滅菌物である医療器具に影響を与える懸念が少ないことから、最近では、過酸化水素プラズマ殺菌方法とそのための装置が提案され、また実際に使用されている(例えば、特許文献2、3参照。)。この殺菌方法は、要約すると、被殺菌製品を気密容器中で減圧下に過酸化水素蒸気に触れさせ、ついで過酸化水素プラズマを発生させるものである。この方法は、高殺菌効率が得られるだけでなく、過酸化水素が全く無害な水と酸素に転換されるという点で、非常に有用と言える。
このようなプラズマ滅菌処理に適合する表示組成物としては、例えば、特許文献4に記載のトリフェニルメタン系色素、シアニン系色素、特許文献5に記載のpH指示薬を変色色素として用いる技術などが提案されている。
これらの表示成分は、プラズマ滅菌に使用される酸化力の強いガスの酸化性により消色或いは変色する色素を含有するが、変色速度が遅く、短時間のプラズマ滅菌処理によっては、十分な変色が得られない、耐光性が不十分で、白灯下或いは昼光下での取り扱いにより所望されない変色が起こるなどの問題があり、実用上好ましくなかった。
このため、変色速度が速い指示薬として、pHにより色相が変わるpH指示薬の利用が検討されたが、この変色反応は可逆的であるため、このような表示部を有する滅菌バッグは、滅菌後であっても保存環境により色相が変化してしまい、滅菌処理を完了したか否かが不明瞭となり、安定性に欠けるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−1252号公報
【特許文献2】特公平2−62261号公報
【特許文献3】特公平7−22693号公報
【特許文献4】特開平11−178904号公報
【特許文献5】特開平11−37988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、被殺菌物へのプラズマ殺菌処理が行われたかどうかが明確に判定できる、色相の変化が著しく、且つ、不可逆的であり、表示にあたっての変色速度がはやいプラズマ滅菌用インジケータ及び該プラズマ滅菌用インジケータを用いた表示部を形成してなる滅菌用包装材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、検討の結果、特定の有機金属化合物を利用することで前記問題点を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明のプラズマ滅菌用インジケータは、(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、(B)有機金属化合物から選択される1種以上の化合物と、を含有し、前記(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、前記(B)有機金属化合物の1種以上の化合物とが、酸の存在下で反応して、pHに依存しないで不可逆的に色相が変わることを特徴とする。ここで、(B)有機金属化合物としては、アルミニウムキレート化合物、及びチタンキレート化合物から選択される1種以上の有機金属化合物が好ましい。
ここで用いられる(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物は、コンゴーレッド、フェノールレッド、メチルレッド、ブロモクレゾールパープル、ブロモフェノールブルー、ヘマトキシリン、モーダントブルー29、エリオクロムブラックT、キシレノールオレンジ、1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール(PAN)より選択される化合物であることが好ましい。
また、請求項に係る本発明の滅菌用包装材料は、少なくとも一部がガス透過性の基材により構成され、プラズマ滅菌処理のための被滅菌物を収納しうる滅菌用包装材料であって、(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、(B)有機金属化合物から選択される1種以上の化合物と、を含有し、前記(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、前記(B)有機金属化合物の1種以上の化合物とが、酸の存在下で反応して、pHに依存しないで不可逆的に色相が変わるプラズマ滅菌用インジケータからなる表示部が形成されてなることを特徴とする。
【0009】
本発明のプラズマ滅菌インジケータは、変色化合物として、吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬を用いているため、通常の、白灯下或いは昼光下の取り扱いにおいて変色する懸念がほとんどなく、さらに、この指示薬と併存する有機金属化合物とが反応してなる生成物が、特定のpH領域において過酸化水素によるpHの変化やプラズマ処理の強い酸化力によって明確に異なる色相に変色し、その変色は非可逆的であるため、化学指示薬として好適であり、医療装置、食品容器等の非殺菌物が過酸化水素プラズマ殺菌処理を受けてから一定の時間を経過した後でも、そのような処理を経たか否かを明瞭に判定することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被殺菌物へのプラズマ殺菌処理が行われたかどうかが明確に判定でき、表示にあたっての変色速度がはやいプラズマ滅菌用インジケータを提供しうる。また、本発明の滅菌用包装材料は前記プラズマ滅菌用インジケータを用いた表示部を形成してなるため、被殺菌物へのプラズマ殺菌処理が行われたかどうかが明確に判定できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のプラズマ滅菌用インジケータは、(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、(B)有機金属化合物から選択される1種以上の化合物と、を含有し、前記(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、前記(B)有機金属化合物の1種以上の化合物とが、酸の存在下で反応して、pHに依存しないで不可逆的に色相が変わることを特徴とする
【0012】
まず、(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物について説明する。
本発明に使用可能な吸着指示薬には特に制限はなく、一般に金属イオンの検出などに使用されるコロイド粒子に吸着されて変色する指示薬であれば、適宜使用し得る。本発明に使用し得る吸着指示薬としては、例えば、コンゴーレッド、フェノールレッド、メチルレッド、ブロモクレゾールパープル、ブロモフェノールブルー、チタンイエロー、エオシン、フルオレセイン、ジクロルフルオレセイン、ジブロムフルオレセイン、アルミノン、アリザリン、クルクミン、等が挙げられる。
【0013】
本発明に使用し得るキレート滴定・金属指示薬は、金属イオンと錯イオンを形成して変色する有機色素(分子内に金属イオンと置換し得る陽子を有する色素化合物)、及び、金属イオンと結合してキレート化合物を形成し得る多座配位子を有する化合物から選択される。キレート滴定指示薬は、ポリアミノカルボン酸類、オキシカルボン酸類、縮合リン酸塩に代表される水溶性化合物、ジメチルグリオキシム、オキシン、ジチゾン等に代表される難溶性化合物のいずれであってもよい。
本発明に用い得るキレート滴定・金属指示薬としては、具体的には、例えば、タイロン、モーダントブルー29、エリオクロムブラックT、キシレノールオレンジ、アイザリンレッドS、N−ベンゾイル−N−フェニルヒドロキシルアミン、5−スルホサリチル酸二水和物、スルホサリチル酸二水和物、1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール(以下、PANと記載する)、ムレキシド、ヘマトキシリン、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物(EDTA)、フタレインコンプレクソン、ジメチルグリオキシム、オキシン、ジチゾン、メチルチモールブルー等が挙げられる。
【0014】
上記のうち、本発明に好ましい化合物としては、ヘマトキシリン、モーダントブルー29、エリオクロムブラックT、キシレノールオレンジ、PAN等が挙げられ、なかでも、入手の容易性、滅菌前後の色相の変化の検知しやすさの観点からヘマトキシリンが好ましい。
これらの化合物は1種のみを用いてもよく、目的に応じて2種以上を組み合わせて使うこともできる。
本発明のプラズマ滅菌用インジケータにおける前記(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物の含有量は後に詳述する(B)有機金属化合物との関係において適宜決定されるが、一般的には、固形分で0.2〜10.0重量%程度であり、0.5〜5.0重量%の範囲であることが好ましい。
含有量が0.2重量%未満であると耐光性が低下したり、滅菌して変色した後の表示部の色が薄く、視認性が低下する傾向にあり、10.0重量%を超えると表示部作成用の塗布液を調整する際などに、未溶解物が発生しやすくなる傾向があるため、いずれも好ましくない。
【0015】
次に、(B)有機金属化合物について説明する。
本発明に好適に用いられる(B)有機金属化合物としては、酸の存在下、前記(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と反応して色相が明確に変わるものであればよく、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートなどのアルミニウムキレート化合物、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタンなどのチタンキレート化合物、アセチルアセトントリブトキシジルコニウムなどが挙げられる。
【0016】
本発明に好適に使用し得る有機金属化合物としては、具体的には、例えば、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネートなどのアルミニウムキレート化合物、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、イソプロポキシ(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)チタン、ジイソプロポキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジ(2−エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)チタン、ジ−n−ブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、テトラアセチルアセトネートチタンなどのチタンキレート化合物アセチルアセトントリブトキシジルコニウムなどが挙げられ、好ましくはキレート能を有するアルミニウムキレート化合物、チタンキレート化合物より選択されるものであり、なかでも、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタンが好ましい。
これらの化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて使うこともできる。
これらの化合物の含有量は、一般的には、固形分で0.2〜5.0重量%程度であり、0.5〜3.0重量%の範囲であることが好ましい。
含有量が0.2重量%未満であるとプラズマ滅菌前の色相が不安定となり、5.0重量%を超えると、プラズマ滅菌前の色相が経時的に変化したり、調製後のインジケータ用インキの粘度が上昇するなど、インキの安定性に問題が出やすくなるため、いずれも好ましくない。
【0017】
前記(A)及び(B)の各化合物を含有してなる本発明のプラズマ滅菌用インジケータは、pHの変化や強い酸化力により非可逆的に変色するため、インジケータとして好ましい特性を有する。
具体的な変色について述べれば、例えば、(A)成分としてフェノールレッドを、(B)成分としてアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート用いた場合、滅菌前の色相は黄紅であり、滅菌後は赤に変色する。また、同じ(B)成分を用いた場合、(A)成分としてエリオクロムブラックTを用いた場合には、グレーから黄色へ、ヘマトキシリンを用いた場合には、こげ茶から黄色に変色する。これらはいずれも、一見して変色が検知できるものである。
【0018】
本発明の滅菌用インジケータには、前記の必須成分に加えて、表示部用インキを構成するために通常用いられる他の化合物を併用することができる。
本発明の滅菌用インジケータには、バインダーを含有することが好ましい。バインダーは、インジケータを包装材料の表示部として用いる場合の担持体となる。
バインダーには特に制限はなく、例えば、印刷用インキの調製に通常用いられる合成樹脂などを適宜選択して用いることができる。
本発明のインジケータにおいては、組成物としての安定性の観点からは耐アルカリ性の高分子材料であるポリアミドやエチルセルロース系バインダーが好ましいが、他の添加物を調製することによりアルカリ成分からのダメージを防止することができるため、必ずしも耐アルカリ性である必要はない。従って、色素の変色速度や安定性を考慮すれば、例えば、硝化綿などもバインダーとして好適に用いることができる。
バインダーの種類や添加量は、滅菌用インジケータとしての特性、適用される包装材料や容器などの材質、必要とされる耐久性などに応じて適宜選択すればよいが、添加量としては、5〜30重量%程度が一般的である。
【0019】
本発明のプラズマ滅菌用インジケータには、前記各成分に加えて、耐久性、ハンドリング性などの向上のため、公知の可塑剤、分散剤、安定剤、増粘剤等の添加剤を適宜含有することができる。
とくに、耐光性向上の観点から、本発明のプラズマ滅菌用インジケータには、紫外線吸収剤を含有することが好ましい。紫外線吸収剤としては、この分野で通常使用されているものであれば、本発明の目的達成に悪影響を与えるものでない限り、どのような種類のものでも使用することができる。具体的には、例えば、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒンダートアミン系化合物などが好適なものとして挙げられる。紫外線遮断効果を有するこのような化合物は、市販品としては、チバガイギー(Ciba-Geigy)社のチヌビン(Tinuvin)の商標で知られている種種の化合物を挙げることができる。
紫外線吸収剤は単独でも、また二種類以上の化合物を組み合わせて使用することもできるが、異なる特性を有する紫外線吸収剤を複数種用いることも効果的である。
【0020】
本発明のプラズマ滅菌用インジケータはプラズマ滅菌処理によって変色する組成物であるが、インジケータの変色後の色相が薄い場合には、視認性を確保するため、色素主成分の色相を損なわず、且つ、滅菌処理により消色或いは変色しない染料や顔料を添加することができる。
【0021】
本発明のプラズマ滅菌用インジケータは、前記各成分を好適な溶剤に溶解して、表示が必要な領域に塗布、乾燥して使用することができる。
溶剤は、前記アントラキノン系色素や他の成分の溶解性を考慮して選択されるが、バインダー樹脂の溶解性、色素の安定性及び印刷時の乾燥の効率を考慮すれば、エタノール、メタノール、プロピレングリコール、酢酸エチル、イソプロパノール、n−プロパノール、トルエンなどが好ましい。
【0022】
次に、本発明の滅菌用包装材料について説明する。この包装材料は、少なくとも一部がガス透過性の基材により構成される滅菌可能である領域を備え、且つ、必要な強度を有する公知のシート状物を任意に選択して構成することができる。ガス透過性の基材としては、紙、多孔性フィルム、織布、不織布等が挙げられるが、これらのなかでも、紙または不織布が好ましい。但し、滅菌処理に用いられるH22が吸着しない素材により構成されるものがより好ましい。
滅菌可能である領域、即ち、本発明に適用されるプラズマ滅菌処理に際して、有効成分であるガス(気体)を透過させ、菌を透過させない範囲の透過度を有する紙または不織布等からなる領域を少なくとも一部に有している必要がある。
包装材料のすべてをこのような滅菌可能な材料で構成することもできるが、コスト、強度、内容物の視認性の観点から、一方が紙または不織布等のガス透過性材料を用い、他方に透明の合成樹脂シートなどを用いることも好ましい態様である。例えば、一方にガス透過性の紙または不織布製シート、他方に透明な合成樹脂シートと2枚のシートを組合せて用いて、袋状に成形したものは、製造も容易であり、内容品の視認性、強度が確保される。
【0023】
本発明の滅菌用包装材料は、前記したように、表裏二枚のシートを積層し、両側端近傍に剥離可能な接着部を設け、少なくともいずれか一方のシートに前記インジケータによる表示部を設けることにより形成される。この包装材料は、袋状、ロール状など、所望により任意の形状に加工されて供給される。
【0024】
表示部の形成は、通常、包装材料を構成するシート上に少なくとも前記プラズマ滅菌用インジケータ組成物を適切な溶剤に溶解し、塗布、乾燥することで行なわれる。このようにして形成された指示部には、指示部を保護するための表面保護層を設けることもできる。表面保護層は、プラズマ滅菌処理に用いられる過酸化水素蒸気、又は過酸化水素から誘導されるプラズマを透過させ、かつ染料の色の変化を透視できるよう透明または半透明のものならば、どのような成分からも形成することができる。なかでも、表示部との親和性の観点から、前記指示部を形成する組成物を構成するバインダーを皮膜形成成分として含み、紫外線吸収剤や耐水性付与のための撥水性の成分、耐磨耗性の成分、具体的にはポリエチレンワックスなどのワックス成分などを含有する組成物から形成されることが好ましい。このような表示部の表面保護層も前記表示部の形成と同様に溶剤に溶解して塗布することで実施することができる。
【0025】
滅菌包装材料の表示部は、通常、包装材料の一部を構成するガス透過性の紙または不織布製シートの表面上に形成される。包装材料の他の構成材料が内部を透視できる透明なシートである場合には、指示部層は、ガス透過性の紙または不織布製シートの内側あるいは透明な樹脂シートの内側(すなわち包装材料が形成する袋体の内側)に形成することができる。
【0026】
インジケータを構成する前記組成物は、印刷インキの調製に用いられているような公知の混練方法を使って均質に混合され、次に、これを包装材料を構成するシート状物の上に塗布して指示部を形成する。その塗布方法としては、公知の印刷方法、例えば、オフセット印刷、フレキソ印刷あるいはグラビア印刷等に準じて行なう方法が挙げられる。表示部上に表面保護層を形成する場合にも、同様の方法をとることができる。
表示部の塗布量には特に制限はなく、表示が視認できる限り任意に選択できるが、一般的には、0.2〜20g/m2程度であり、好ましくは1〜10g/m2の範囲である。塗布量が少なすぎると滅菌処理後の視認性に劣り、多すぎると輸送や保管時における耐傷性が低下する傾向がある。
また、所望により設けられる表面保護層の塗布量は、1〜10g/m2の範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明を具体的な実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、以下の実施例において、「%」は、他に断らない限り「重量%」を示す。
【0028】
(実施例1)
プラズマ滅菌用インジケータを構成する下記の各成分を混合し、均質になるまで撹拌して、指示部形成用の組成物を調製した。
(プラズマ滅菌用インジケータ組成物)
・ヘマトキシリン 1.0重量%
・ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン 1.0重量%
・ワニス(セーフル:商品名、T&K TOKA社製) 80.5重量%
・メタノール 15.0重量%
・紫外線吸収剤 2.5重量%
(チヌビン400:商品名、チバガイギー社製)
【0029】
前記インジケータ組成物を、高密度ポリエチレン不織布のシート表面にグラビアロールを用いるグラビア法で乾燥後の塗布量が10g/m2となるように塗布し、表示部を形成した。表示部の色相はこげ茶色であった。
【0030】
(実施例2〜10)
前記プラズマ滅菌用インジケータ組成物において、ヘマトキシリンに変えて、下記表1に記載の各吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬を用いた他は、実施例1と同様にして指示部形成用の組成物を調製し、表示部を形成した。表示部の色相も下記表1に併記する。
【0031】
【表1】

【0032】
(プラズマ滅菌用インジケータの評価)
1.表示性能
前記不織布シートを低温プラズマ滅菌システム〔STERRAD−100(商標)ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル(株)製〕に入れて75分間滅菌処理を行ない、表示部の色相の変化を観察した。
2.変色速度
前記不織布シートに表示部を形成した直後に、低温プラズマ滅菌システム〔STERRAD−100(商標)ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル(株)製〕に入れて過酸化水素を注入後1分間で処理を中止し、目視にて表示部の色相の変化を観察した。完全に変色しているものを○、目視にては変色を検知できなかったものを×と評価した。
【0033】
3.滅菌包装材料の滅菌性能及び表示性能
前記不織布シートを片面に用い、他方に透明のポリエステル/低密度ポリエチレン積層フィルムを用い、三方をヒートシールして滅菌包装袋を作成した。この滅菌袋の中に生物学的インジケータ(BI)を入れて密閉し、低温プラズマ滅菌システム〔STERRAD−100(商標)ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル(株)製〕に入れて75分間滅菌処理を行なった。滅菌後の表示部の色相の変化を観察した。結果を下記表2に示す。
また、生物学的インジケータを無菌的に取出し、滅菌済みTSB培地に植え込み、35℃で7日間培養した後、菌の発育の有無を目視により確認した。
これらの結果を前記表1に併記する。
【0034】
表1に明らかなように本発明のプラズマ滅菌用インジケータはプラズマ滅菌処理により速やかに変色し、変色速度も速く、優れた表示機能を果たすことが確認された。さらに、表示性能の検討を行なった変色後の表示部をアルカリ雰囲気下に75分間保存したが、実施例1〜10のいずれにおいてもインジケータの色相の変化は認められなかったことから、変色がpHに依存するものではなく、不可逆的であることが確認された。
また、滅菌包装材料の形態をとった場合でも、表示機能に問題はなく、プラズマ滅菌処理効果にも問題がないことが確認された。
【0035】
(実施例11〜20)
前記実施例1〜10で用いた滅菌用インジケータ組成物において、有機金属化合物であるジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタンに代えて、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートを用いた他は、実施例1と同様にして実施例11〜20の不織布シート及び滅菌包装材料を得て、実施例1と同様の評価を行なった。
評価の結果は、前記実施例1〜10と同様であり、有機金属化合物を変更した場合にも、おおむね同様の色相が得られ、いずれも良好な表示性能、滅菌性能が達成されていることが確認された。
【0036】
(実施例21)
前記実施例1の表示部用の組成物において、溶剤であるメタノールに変えてエタノールを用いた他は、実施例1と同様にして不織布シート及び滅菌包装材料を得て、実施例1と同様の評価を行なった。
変色前の色相はグレーであったが、滅菌後の色相は実施例1とほぼ同様であり、溶剤を変更した場合にも、同様の色相、表示性能、滅菌性能が得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、(B)有機金属化合物から選択される1種以上の化合物と、を含有し、前記(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、前記(B)有機金属化合物の1種以上の化合物とが、酸の存在下で反応して、pHに依存しないで不可逆的に色相が変わるプラズマ滅菌用インジケータ。
【請求項2】
(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、(B)アルミニウムキレート化合物、及びチタンキレート化合物からから選択される1種以上の有機金属化合物と、を含有し、前記(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、前記(B)有機金属化合物の1種以上の化合物とが、酸の存在下で反応して、pHに依存しないで不可逆的に色相が変わるプラズマ滅菌用インジケータ。

【請求項3】
前記(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物が、コンゴーレッド、フェノールレッド、メチルレッド、ブロモクレゾールパープル、ブロモフェノールブルー、ヘマトキシリン、モーダントブルー29、エリオクロムブラックT、キシレノールオレンジ、1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール(PAN)より選択される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ滅菌用インジケータ。
【請求項4】
少なくとも一部がガス透過性の基材により構成され、プラズマ滅菌処理のための被滅菌物を収納しうる滅菌用包装材料であって、(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、(B)有機金属化合物から選択される1種以上の化合物と、を含有し、前記(A)吸着指示薬、キレート滴定・金属指示薬からなる群より選択される1種以上の化合物と、前記(B)有機金属化合物の1種以上の化合物とが、酸の存在下で反応して、pHに依存しないで不可逆的に色相が変わるプラズマ滅菌用インジケータからなる表示部が形成されてなることを特徴とする滅菌用包装材料。

【公開番号】特開2012−101109(P2012−101109A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−2573(P2012−2573)
【出願日】平成24年1月10日(2012.1.10)
【分割の表示】特願2001−299815(P2001−299815)の分割
【原出願日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】