説明

プラズマ滅菌装置

【課題】
滅菌対象物の配置の有無に関わらずプラズマ発生を継続することができ、滅菌対象物の毒性を不活化する高度な滅菌能力を有するプラズマ滅菌装置の提供を目的とする。
【解決手段】
滅菌対象物100を収納する収納容器1と、該収納容器1の内側又は外側に設置された電極2と、該収納容器内にガスを供給するガス供給手段4と、該電極に高周波電流を供給する高周波供給手段3とを有し、該電極に高周波電流を供給し該収納容器内のガスをプラズマ化し、該滅菌対象物を滅菌処理するプラズマ滅菌装置において、該電極2は、局所的な空間において互いに逆方向に電流が流れる一対の電線からなる電極部位を有すると共に、該電極部位の集合体が、該滅菌対象物100が占める空間を取り囲むように配置され、各電極部位が誘起する磁力線の方向が該空間に向かう方向であり、該空間又は該空間の近傍で各電極部位の誘起する磁場が重畳されて存在することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電プラズマを利用して、滅菌対象物に付着した被処理物を滅菌又は滅毒するプラズマ滅菌装置に関し、特に有毒かつ難分解性の多糖類の被処理物を、プラズマを利用して滅菌又は滅毒するプラズマ滅菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療用滅菌方法としてEOG、ホルマリン及びグルタールアルデヒドを用いた滅菌が実用化されている。グラム陰性菌、例えば、大腸菌を殺菌する場合には、細胞壁が完全に分解されず、細胞壁を構成するエンドトキシンが遊離することがある。エンドトキシンは、内毒素とも呼ばれ、動物に対して過剰な免疫活性を引き起こすため、ショック症状(エンドトキシンショック)を引き起こす虞も有る。このため、エンドトキシン及び異常プリオンをはじめとする毒素に対する確実で効率的な滅菌法の確立が強く求められている。
【0003】
当該滅菌に高エネルギーのプラズマを利用することも検討されている。しかし、プラズマを用いた滅菌法は、検討段階であり、未だ実用化に至っていないというのが現状である。
【0004】
従来のプラズマ滅菌装置は、電極対への電気パルスの印加によって発生したパルス電界と、当該印加によって発生したファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気中に発生したプラズマに含まれる窒素ラジカルと、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気が発する短波長紫外線とを毒素に作用させることにより、毒素を窒化および酸化し、処理対象物の表面から毒素を散逸させる技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に示すような従来のプラズマ滅菌装置は、放電ギャップ(電極間距離)の制約から、当該制約に収まる滅菌対象物のみしか電極間に挿入できないという課題を有する。また、従来のプラズマ滅菌装置は、仮に放電領域に滅菌対象物を挿入できた場合にも、滅菌対象物により放電経路が遮断され、放電が停止してプラズマ発生を維持できず、滅菌処理が行えないという課題を有する。
【0006】
また、本出願人は、特許文献2において、酸素ガスをプラズマ化して酸素ラジカルを生成し、滅菌処理を行うプラズマ滅菌装置を提案した。しかしながら、特許文献2のプラズマ滅菌装置では、滅菌処理を行う容器内において、電極近傍にプラズマが偏在し酸素ラジカルも局所的に発生しているため、被処理物全体を滅菌するのに長時間を要する。しかも、このようなプラズマ滅菌装置で発生させた酸素ラジカルのみでは、多糖類の被処理物を滅菌するには不十分であることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−178679号公報
【特許文献2】特許第4006491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、滅菌対象物の配置に拘わらずプラズマ発生を継続することができ、滅菌対象物に付着した被処理物の毒性を不活化する高度な滅菌能力を備え、被処理物である微生物(細菌等)が死滅するだけではなく、微生物を構成するタンパク質、多糖類、糖タンパク質までも分解可能なプラズマ滅菌装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明に係るプラズマ滅菌装置は、以下のような技術的特徴を有する。
【0010】
(1) 滅菌対象物を収納する収納容器と、該収納容器の内側又は外側に設置された電極と、該収納容器内にガスを供給するガス供給手段と、該電極に高周波電流を供給する高周波供給手段とを有し、該電極に高周波電流を供給し該収納容器内のガスをプラズマ化し、該滅菌対象物を滅菌処理するプラズマ滅菌装置において、該電極は、局所的な空間において互いに逆方向に電流が流れる一対の電線からなる電極部位を有すると共に、該電極部位の集合体が、該滅菌対象物が占める空間を取り囲むように配置され、各電極部位が誘起する磁力線の方向が該空間に向かう方向であり、該空間又は該空間の近傍で各電極部位の誘起する磁場が重畳されて存在することを特徴とする。
【0011】
(2) 上記(1)に記載のプラズマ滅菌装置において、該電極が、1本以上の長尺電線で構成されていることを特徴とする。
【0012】
(3) 上記(2)に記載のプラズマ滅菌装置において、該滅菌対象物が占める空間を通過する特定方向に対して、該長尺電線が、該特定方向に平行又は垂直に往復する蛇行形状、あるいは該特定方向を取り巻く螺旋形状のいずれかを備えていることを特徴とする。
【0013】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のプラズマ滅菌装置において、該高周波電流の周波数は、3MHz以上であることを特徴とする。
【0014】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のプラズマ滅菌装置において、該ガス供給手段によって該収納容器内に供給するガスは、酸素、空気又は水蒸気の少なくともいずれかを含むことを特徴とする。
【0015】
(6) 上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のプラズマ滅菌装置において、該収納容器内には、該滅菌対象物を載置し、導電性材料で形成されると共に、電気的に接地された載置手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のように、滅菌対象物を収納する収納容器と、該収納容器の内側又は外側に設置された電極と、該収納容器内にガスを供給するガス供給手段と、該電極に高周波電流を供給する高周波供給手段とを有し、該電極に高周波電流を供給し該収納容器内のガスをプラズマ化し、該滅菌対象物を滅菌処理するプラズマ滅菌装置において、該電極は、局所的な空間において互いに逆方向に電流が流れる一対の電線からなる電極部位を有すると共に、該電極部位の集合体が、該滅菌対象物が占める空間を取り囲むように配置され、各電極部位が誘起する磁力線の方向が該空間に向かう方向であり、該空間又は該空間の近傍で各電極部位の誘起する磁場が重畳されて存在するため、該電極に供給される高周波電流が誘起する磁場により、強い電場が発生することにより、該収納容器内のガスが効率的にプラズマ化され、さらに該滅菌対象物が占める空間に向かう磁場を利用し、該滅菌対象物にプラズマ中のイオンやプラズマで生成された活性酸素を連続的に供給でき、該滅菌対象物に付着した被処理物の毒性を不活化すると共に、被処理物である微生物(細菌等)を死滅させ、さらに、微生物を構成するタンパク質、多糖類、糖タンパク質までも分解することが可能となる。
【0017】
本発明のプラズマ滅菌装置は、電極が、1本以上の長尺電線で構成されていることにより、電気的配線を簡略化しながら、局所的な空間において互いに逆方向に電流が流れる一対の電線からなる電極部位を多数形成することが可能となる。
【0018】
本発明のプラズマ滅菌装置は、滅菌対象物が占める空間を通過する特定方向に対して、長尺電線が、該特定方向に平行又は垂直に往復する蛇行形状、あるいは該特定方向を取り巻く螺旋形状のいずれかを備えているため、容易に局所的な空間において互いに逆方向に電流が流れる一対の電線からなる電極部位を多数形成することが可能となる。
【0019】
本発明のプラズマ滅菌装置は、高周波電流の周波数は、3MHz以上であるため、酸素原子を容易にプラズマ化することが可能となる。
【0020】
本発明のプラズマ滅菌装置は、ガス供給手段によって収納容器内に供給するガスは、酸素、空気又は水蒸気の少なくともいずれかを含むため、活性酸素をより多く生成することが可能となる。
【0021】
本発明のプラズマ滅菌装置は、収納容器内には、滅菌対象物を載置し、導電性材料で形成されると共に、電気的に接地された載置手段を備えるため、プラズマにより生成された電子またはイオンにより戴置手段が帯電することを防止できることとなり、当該帯電による電子またはイオンの減速を防止して活性酸素の生成量が維持されることにより高い滅菌能力を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の構成図
【図2】本発明の第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の電極の配置図
【図3】本発明の第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の収納容器の断面図
【図4】本発明の第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の実験結果
【図5】本発明の第2の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の構成図
【図6】本発明の第3の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の断面図
【図7】本発明の第4の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の断面図
【図8】本発明における長尺電線の形状を説明する概略図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のプラズマ滅菌装置について、以下に詳細に説明する。図1乃至8は、本発明の実施形態を説明する図である。
図1は、本発明の第1の実施形態を説明する構成図であり、本発明のプラズマ滅菌装置の基本的構成は、滅菌対象物100を収納する収納容器1と、該収納容器1の内側又は外側に設置された電極2と、該収納容器内にガスを供給するガス供給手段4と、該電極に高周波電流を供給する高周波供給手段3とを有し、該電極に高周波電流を供給し該収納容器内のガスをプラズマ化し、該滅菌対象物を滅菌処理するプラズマ滅菌装置において、該電極2は、局所的な空間において互いに逆方向に電流が流れる一対の電線からなる電極部位を有すると共に、該電極部位の集合体が、該滅菌対象物100が占める空間を取り囲むように配置され、各電極部位が誘起する磁力線の方向が該空間に向かう方向であり、該空間又は該空間の近傍で各電極部位の誘起する磁場が重畳されて存在することを特徴とする。
【0024】
本発明のプラズマ滅菌装置の説明において、「滅菌」という表現を使用するが、これは、単に、微生物などの被処理物を滅菌処理するだけに限らず、微生物を構成するタンパク質、多糖類、糖タンパク質までも分解し、被処理物の毒性を不活化する「滅毒」処理までも含む概念である。
【0025】
また、本発明のプラズマ滅菌装置の説明において、「各電極部位が誘起する磁力線の方向が(滅菌対象物が占める)空間に向かう方向」であると定義しているが、本発明の効果である、滅菌対象物を滅菌処理できる範囲内において、一部の電極部位が誘起する磁力線の方向が、上記方向から仮に外れても許容できることは言うまでもない。
【0026】
なお本発明において「取り囲む」とは、必ずしも全領域を囲むことを意味しているのではなく、実質的にプラズマが重畳して滅菌を効率よく達成できれば隙間が存在していても良い。
【0027】
以下では、本発明のプラズマ滅菌装置に係る第1の実施形態を中心に説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置を、図1から図4に基づいて説明する。
この図1は本発明の第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の構成図、図2は図1に記載されたプラズマ滅菌装置の電極の配置図、図3は図1に記載されたプラズマ滅菌装置の収納容器の断面図、図4は図1に記載されたプラズマ滅菌装置の実験結果を示す。
【0028】
図1において、本実施形態に係るプラズマ滅菌装置は、滅菌対象物100を収納する収納容器として、ガラス管1を使用している。このガラス管1の内部に、蛇行状に屈曲形成される線状体を配置して形成される電極2が設けられている。本発明のプラズマ滅菌装置においては、当該電極の形状に特徴があり、詳細は後述する。
【0029】
この電極2に商用周波数以上、特に3MHz以上の高周波電流を供給し、この高周波電流により滅菌対象物100に向かう磁界を発生させる高周波供給手段3と、このガラス管1の中空部に酸素ガスなどのプラズマ化するガスを供給する原料ガス供給手段としての酸素ガス供給装置4と、酸素ガスのバルブ41と、このガラス管1の内部を減圧する減圧装置5と、この減圧装置5の減圧量を操作するバルブ51と、このガラス管1の内部に配設され、滅菌対象物100を戴置する導電性材で形成され、接地して形成される戴置手段としての戴置棚6とをプラズマ滅菌装置は備えている。
【0030】
収納容器であるガラス管1は、中空筒状体として円柱状に形成され、例えば、直径200mm、全長450mmとすることができる。収納容器の形状は、中空筒状体に限らず、中空方形状体又は中空球状体などを用いることができる。
【0031】
また、収納容器を形成する材料としては、ガラス、ステンレススチールなどの金属、又はセラミックスなどが挙げられる。ガラスの場合には、電極は収納容器の内側又は外側のいずれでも配設可能であるが、金属材料の場合には、電極は収納容器の内側に設置する必要がある。金属材料の収納容器の内側に電極を配置する場合には、電極に電流を供給した際に、収納容器の中心へ向いた磁力線とその反対方向に向いた磁力線が発生するが、反対方向に向いた磁力線は金属材料の収納容器の壁で消去され、磁界が外部へ漏出するなどの不具合を発生せず好ましい。
【0032】
本発明のプラズマ滅菌装置に使用される電極2は、図2に示すように、局所的な空間において互いに逆方向に電流が流れる一対の電線からなる電極部位を有すると共に、図1に示すように、該電極部位の集合体が、該滅菌対象物100が占める空間を取り囲むように配置される。局所的な空間における電極2は、図2(a)に示すように、2つの電線によって構成される一対の電線(一対の電線(2a−1,2b−1),(2a−2,2b−2)など)からなる電極部位が複数存在し、各電極部位内の2つの電線は、互いに逆方向に電流が流れる状態となっている。電極部位を構成する一対の電線の間隔Lと、2つの電極部位の間隔L’は、共に同じであることが好ましいが、電極部位の配置の形状などにより必ずしも同じ間隔(L=L’)である必要は無い。図1では、屈曲形成される線状体(電線)を中空筒状の長手方向に平行に等間隔で往復させ、結果として各電極部位内の2つの電線間隔Lと、隣接する2つの電極部位の間隔L’は等しくなるよう形成されている。
【0033】
このような電極部位の集合体である電極は、1本以上の長尺電線で構成することができる。図8に示すように、滅菌対象物を通過する特定方向Xに対して、長尺電線2が、該特定方向Xに平行(図8(a)参照,図1では、中空筒状体の収納容器1の長手方向を特定方向としている)又は垂直(図8(b)参照)に往復する蛇行形状、あるいは後述する図5に示すように特定方向(中空筒状体の収納容器1の長手方向)を取り巻く螺旋形状のいずれかを備えている。そして、図8の点線枠で囲んだ局所的な空間Bにおいては、互いに逆方向に電流が流れる一対の電線からなる電極部位が形成されている。
【0034】
図1,5及び8に示す長尺電線を用いることで、複数の電極部位を接続する電気的配線を簡略化することが可能であると共に、容易に、局所的な空間において互いに逆方向に電流が流れる一対の電線からなる電極部位を多数形成することが可能となる。
【0035】
そして、このような電極部位の集合体である電極2は、図1に示すように、滅菌対象物100が占める空間を取り囲むように配置される。なお、電極2の素材には、ステンレスまたは銅を使用することが好ましい。
【0036】
図2(a)に示すように、各電極部位における一対の電線の間隔L(又はL’)は、電線に流す高周波電流の大きさや、電極部位から滅菌対象物までの距離に依存して決定される。電線を流れる高周波電流が大きい場合には、電線間隔L(又はL’)は比較的大きくとることができ、また、電極部位から滅菌対象物までの距離が大きい程、電線間隔L(又はL’)を大きくとる方が好ましい。
【0037】
さらに、隣接する電極部位間の距離については、各電極部位内に形成される磁場と隣接する電極部位の間に形成される反対方向の磁場とが、滅菌対象物が占める空間(例えば、収納容器の中央位置)において、磁気双極子を形成しない程度の距離だけ離間させることが好ましい。また、より好ましくは、図2(a)に示す各電極部位における一対の電線の間隔Lと、隣接する電極部位間の距離L’とは同じに設定する方が、高周波電流が形成する磁場の平均強度が一様化し、より均質な空間分布を有するプラズマや活性酸素を生成することが可能となる。
【0038】
電極2に流す高周波電流の周波数の下限値は、3MHz以上に設定することで、電極が形成する誘導起電力の周波数変化にイオンが追随でき難くなるため、電子のみが効率的に加速され酸素原子が容易にイオンと電子に電離することから、低温のプラズマを生成することが可能となる。
【0039】
よって、長尺電線の長さにも依存するが、高周波供給部3における交流電源の周波数は、1MHzから10GHzの範囲、好ましくは3MHz〜2.45GHzの範囲で設定することができる。
【0040】
一対の電線からなる電極部位に電流を流すと、図2(b)に示すような磁力線(細線矢印)が各電線(2a−1〜2a−3,2b−1,2b−2)に形成され、これらが合成されてより強い誘導磁場(磁力線)M(太線矢印)が形成される。当然、隣接する二つの磁場Mとの間には、同じ大きさで反対方向の磁場M’が形成される。
【0041】
本発明における各電極部位の配置は、図3が示すように、各電極部位が誘起する磁力線Mの方向が、滅菌対象物100が占める空間に向かう方向となるよう配置されている。そして、滅菌対象物の占める空間又はその近傍で各電極部位の誘起する磁場が重畳されて存在することで、滅菌対処物にプラズマや活性酸素が十分に到達することが可能となる。
【0042】
本発明のプラズマ滅菌装置では、滅菌対象物の占める空間を取り囲むように、各電極部位を配置するため、図3のように、滅菌対象物を取り囲む収納容器の全面から、該収納容器の中心方向に重畳的な誘導磁場が生じることとなり、この重畳的磁場が誘導する電場で加速された電子もしくはイオンと酸素分子との衝突により生じた活性酸素種が、収納容器の内部に戴置された滅菌対象物へ到達し、三次元的な全面に対して効率的に滅菌することができる。
【0043】
また、収納容器が方形(図7参照)の場合、円の中心点に集合する状況とは相違するが、磁力線の相互作用により中央部分における磁場が、最も大きくなる。また、収納容器が球形の場合には、誘導磁場の集中効果は非常に大きくなる。
【0044】
図3のような誘導磁場が誘導する電場で、収納容器1内のガスがプラズマ化される。プラズマ化は、高周波で変化する磁場が存在する一対の電線からなる電極部位の近傍で行われるが、収納容器の中央方向に向かう磁場に沿って、プラズマが移動し、電極(2a,2b)の位置から数mm〜数cmだけ中央寄りの位置から、中央に向かって、比較的均一な密度分布を有するプラズマを生成することが可能となる。
【0045】
このようなプラズマ分布により、収納容器の中央付近では、効率的に滅菌処理が行われる。また、電極(電線2a,2b)付近及びその外側では、殆どプラズマが生成されていないため、電極がプラズマにより損傷を受けることや、劣化することが抑制される。
【0046】
収納容器1の内部に導入する気体としては、プラズマにより活性酸素種を発生させるものであれば、酸素ガスに限定されるものではなく、例えば空気や水蒸気を使用することもでき、この場合には、身近に存在する気体であるため費用面において有利となる。また、酸素分子を含む気体、例えば、酸素ガス、空気及び水蒸気から生成される活性酸素種による滅菌は、他の活性酸素種、例えば、水酸化ラジカルとは異なり、滅菌残渣物が無害なために取扱いが容易であるという利点も有する。また、この活性酸素種による滅菌は、他の活性酸素種、例えば、窒素ラジカルとは異なり、物理的のみならず化学的に滅菌対象物100自体を分解することも無いため、滅菌対象物を損傷することなく高い滅菌能力を発揮するという利点も有する。
【0047】
以下、前記構成に基づく本実施形態の具体的な滅菌動作について説明する。
本実施形態は、図1に示すように、まず滅菌対象物100を、収納容器であるガラス管1の内部の戴置棚6に戴置し、該ガラス管1を密閉する。次に、バルブ51の操作により減圧装置5を用いて該ガラス管1の内部を減圧し、バルブ41を開放して酸素ガス供給装置4から適当な流量で供給孔を経由して酸素ガスをガラス管1に導入する。
【0048】
次に、電極2に、工業的に通常使用される帯域の高周波(マイクロ波を含む)を印加し、高周波電流を流す。高周波の周波数としては、13.56MHzが利用でき、さらには、マイクロ波帯の周波数である2.45GHzを利用することも可能である。これらは通常、高周波においては50W、マイクロ波においては500W程度の電力で使用される。電極2は、高周波電流によりプラズマを生成し、ガラス管1内に電子と酸素分子との衝突により活性酸素種や酸素イオンを生成する。この活性酸素種は、菌を構成する蛋白質、糖質、脂質に対する強い酸化作用を有しており、この酸化作用により菌を分解して死滅させることができる。なお、滅菌対象物の表面に付着した蛋白質、糖質、脂質の分解に際しては、酸素イオンも一部機能する。
【0049】
次に、加速されたイオンと酸素分子との二次的な電荷交換衝突により生じた活性酸素種がガラス管1の内部に戴置された滅菌対象物100に衝突する。このように、活性酸素種は、滅菌対象物100に対して複数の方向から加速されて衝突することから、この加速により活性酸素種が化学的滅菌作用に加えて物理的エネルギーを具備することとなり、滅菌対象物100に対する滅菌能力が向上し、活性酸素種のみでは困難とされるエンドトキシンのような有毒かつ難分解性の滅菌対象物100の毒性を不活化することができる。
【0050】
また、この電極2は、図1及び図3に示すように、中空筒状の長手方向に平行に等間隔で往復されることから、該電極2の近傍に効率的に重畳された強い磁場Mを発生し、該磁場Mにより誘導される電場によりイオンの速度を高めて、電荷交換衝突により生じる活性酸素種の運動エネルギーを増大させることとなり、活性酸素種の滅菌能力を向上させることができる。また、滅菌対象物100は、放電を発生させる両極間には戴置されないことから、滅菌対象物100による放電の弱体化を防止し、プラズマ発生能力を維持することができる。
【0051】
また、滅菌対象物100を収納するガラス管1の大きさは、例えば、直径200mm、全長450mmの大きさが可能であり、滅菌対象物100を戴置する十分な空間が得られる。このため、滅菌対象物100の大きさに余り依存することなく、効率的に滅菌を行うことができる。なお、ガラス管1は、直径400mm、全長600mmのガラス管を使用することもでき、この場合には、さらに大きな滅菌対象物100を戴置することができることとなり、本発明を産業的に利用する上では、大変有益なものとなる。また、戴置棚6が、導電性材で形成され、接地して形成されることから、プラズマにより生成されたイオンが戴置手段に帯電することを防止できることとなり、この帯電によるイオンの減速を防止して活性酸素の生成量が維持されることにより高い滅菌能力を維持することができる。このように、本発明は、従来では実施が困難であった低気圧条件下での大体積のプラズマ処理を可能とすることとなり、滅菌処理量の向上によりプラズマ滅菌処理の実用化を図ることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るプラズマ滅菌装置を、図5に基づいて説明する。図5において各番号は図1における意味と同じである。本態様においては長いU字状の電線がそのまま筒体に巻回されており、U字の開封末端を電力入力端子(一方が高周波電源への端子、他方が接地端子)としてある。このように電極2を長尺電線で構成し、滅菌対象物を通過する特定方向(中空筒状体の長手方向)を取り巻く螺旋形状に設定することも可能である。
【0053】
つまり、本発明のプラズマ滅菌装置では、収納容器を中空筒状体で形成する場合を例に説明すると、図1のように、電極2は屈曲形成される線状体を中空筒状体の長手方向に平行に且つ当該中空筒状体の内側全周に亘り配設して形成してもよく、また、図5のように、電極2は中空筒状体の円周上を螺旋状に巻回して軸方向に進展する方法で配設することも可能である。さらに、上記屈曲方式と上記巻回方式を重ね合わせて併用してもよい。この場合、電力印加は必ずしも同時に行う必要はなく、交互に周期的に印加してもよい。なお、螺旋状に巻回する場合は、簡便には長いU字状の電線をそのまま筒体に巻回し、U字の開封末端を電力入力端子にすることで、簡単に望みの電極を形成することができる。勿論、2本の電線を平行して巻回し、それぞれの電線へ入力する電力を逆方向に設定することによっても簡単に電極を形成できる。
【0054】
(その他の実施形態)
さらに、図8(a)に示すようなX方向に平行に蛇行する長尺電線2や、図8(b)に示すようなX方向に垂直に蛇行する長尺電線2を複数使用し、図6の符号a1及びa2の位置に、図面の奥行き方向(X方向)に向かって、これらを配置することで、滅菌対象物100を取り囲むように電極を配置することも可能である。
【0055】
さらに、図7のように方形の断面を有する収納容器1の内部に、符号b1〜b4の位置に、図8(a)又は(b)の長尺電線2を配置し、同様に、滅菌対象物100を取り囲むように電極を配置することも可能である。
【0056】
(実験例)
以下の条件で実験を行い、図4に示す結果を得た。図中において、曲線Aは、本発明のプラズマ滅菌装置による実験結果を示し、曲線B及び曲線Cは、従来のプラズマ滅菌装置による実験結果を比較例として示す。この曲線Bは、従来の過酸化水素ガスプラズマ滅菌装置による実験結果であり、この曲線Cは、従来のエチレンオキサイドガスプラズマ滅菌装置による実験結果である。なお、分解対象物はエンドトキシンの代替物質であるベータグルカンを用い、分解の確認は、赤外吸光光度計にて実施した。具体的には、赤外吸光スペクトルにて波長2925cm−1におけるCH結合のピーク高さの変化(減少)に基づいて、分解対象物であるベータグルカンの分解を確認した。これは、多糖類であるベータグルカンが分解されることに伴い、ベータグルカンを構成するCH結合の量が減少することを利用している。
【0057】
(実験条件)
1.プラズマ:低気圧容量結合型プラズマ
2.放電方式:高周波グロー放電
3.収納手段内圧力:70Pa
4.プラズマ生成電源:高周波電源(13.56MHz)
5.プラズマ生成電力:50W
6.原料ガス:酸素(98%)と窒素(2%)の混合ガス
7.滅菌対象物:酵母由来ベータグルカン(5mg/cm2
【0058】
この実験結果から、従来のプラズマ滅菌装置が高々約75%の分解率に留まるのに対して、本発明のプラズマ滅菌装置は、分解率が90%を越えており、従来と比較して1.2倍以上の分解能を有することが確認された。なお、曲線Bは、過酸化水素ガスプラズマ滅菌装置の滅菌処理による機材(装置)の耐性限界により、処理時間は80分までが限界であった。また、同様に、曲線Cは、エチレンオキサイドガスプラズマ滅菌装置の滅菌処理による機材(装置)の耐性限界により、処理時間は180分までが限界であった。
【0059】
この実験結果から、本発明のプラズマ滅菌装置は、処理時間が約250分を経過した時点で、この分解率が90%まで達するという高い分解能を確認することができた。プラズマ滅菌装置は、一般的に、表面処理により滅菌を行う装置であり、また、実用時の分解対象物(エンドトキシン、ベータグルカン等)の濃度は、1cm2あたりナノグラムからマイクログラムのオーダーであることから、本実験結果の5mg/cm2もの高濃度のベータグルカンに対して90%の分解率を示したことにより、実用時には、分解率が90%以上でほぼ100%に達するものと考えられる。なお、本プラズマ滅菌装置は、エンドトキシンの代替物質であるベータグルカンを分解対象物としたが、同様な代替物質であるケラチンを分解対象物とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明によれば、滅菌対象物の配置に拘わらずプラズマ発生を継続することができ、滅菌対象物に付着した被処理物の毒性を不活化する高度な滅菌能力を備え、被処理物である微生物(細菌等)が死滅するだけではなく、微生物を構成するタンパク質、多糖類、糖タンパク質までも分解可能なプラズマ滅菌装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1 収納容器(ガラス管)
2 電極
2a、2b 電線
3 高周波供給部
4 酸素ガス供給装置
41 バルブ
5 減圧装置
51 バルブ
6 戴置棚
100 滅菌対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌対象物を収納する収納容器と、該収納容器の内側又は外側に設置された電極と、該収納容器内にガスを供給するガス供給手段と、該電極に高周波電流を供給する高周波供給手段とを有し、該電極に高周波電流を供給し該収納容器内のガスをプラズマ化し、該滅菌対象物を滅菌処理するプラズマ滅菌装置において、
該電極は、局所的な空間において互いに逆方向に電流が流れる一対の電線からなる電極部位を有すると共に、該電極部位の集合体が、該滅菌対象物が占める空間を取り囲むように配置され、各電極部位が誘起する磁力線の方向が該空間に向かう方向であり、該空間又は該空間の近傍で各電極部位の誘起する磁場が重畳されて存在することを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ滅菌装置において、該電極が、1本以上の長尺電線で構成されていることを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項3】
請求項2に記載のプラズマ滅菌装置において、該滅菌対象物が占める空間を通過する特定方向に対して、該長尺電線が、該特定方向に平行又は垂直に往復する蛇行形状、あるいは該特定方向を取り巻く螺旋形状のいずれかを備えていることを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のプラズマ滅菌装置において、該高周波電流の周波数は、3MHz以上であることを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のプラズマ滅菌装置において、該ガス供給手段によって該収納容器内に供給するガスは、酸素、空気又は水蒸気の少なくともいずれかを含むことを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のプラズマ滅菌装置において、該収納容器内には、該滅菌対象物を載置し、導電性材料で形成されると共に、電気的に接地された載置手段を備えることを特徴とするプラズマ滅菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−217776(P2011−217776A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86566(P2010−86566)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】