プラネタリウム装置
【課題】電子式投映機と光学式投映機とが協働するプラネタリウム装置であって,プラネタリウム装置のレイアウトやプラネタリウム演出に影響なく,不自然な映像の投映を回避できるプラネタリウム装置を提供すること。
【解決手段】プラネタリウム装置では,ドームスクリーン1の周縁に設けられた電子式投映部11等と,昇降装置によって上下移動可能に設けられた光学式投映機20とを備えている。そして,光学式投映機20は,ドームスクリーンのドーム中心Pよりも下方に位置する。その際,プラネタリウム装置では,光学式投映機20から投映される星像の投映高度Aを基に電子式投映機から見た投映高度θを算出し,その投映高度θを基に電子式投映部11等の映像を補正する。
【解決手段】プラネタリウム装置では,ドームスクリーン1の周縁に設けられた電子式投映部11等と,昇降装置によって上下移動可能に設けられた光学式投映機20とを備えている。そして,光学式投映機20は,ドームスクリーンのドーム中心Pよりも下方に位置する。その際,プラネタリウム装置では,光学式投映機20から投映される星像の投映高度Aを基に電子式投映機から見た投映高度θを算出し,その投映高度θを基に電子式投映部11等の映像を補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,電子式投映機と光学式投映機とを備える統合型のプラネタリウム装置に関する。本明細書において,プラネタリウムとは,ドーム型スクリーンに映像を投映する設備をいい,その映像の内容は星野に限らずエンターテインメント的なものであってもよいものとする。
【背景技術】
【0002】
従来から,プラネタリウム装置では,各恒星に相当する位置に透過孔を設けた恒星投映原板を有し,その恒星投映原板を透過した光を投映レンズによってドームスクリーン上に投映する光学式投映機を備えたプラネタリウム装置が製品化されている。この光学式投映機では,恒星投映原板の透過孔は固定であり,例えば恒星の固有運動や擬似宇宙飛行の演出を行うことはできない。そこで,電子画像の投映が可能な電子式投映機を利用し,恒星の固有運動や擬似宇宙飛行の演出が可能なプラネタリウム装置も製品化されている。
【0003】
前述した電子式投映機としては,低価格,入手し易さ,小型,高輝度などの優位性から,液晶,DLP,DILAといったビデオプロジェクタが利用されている。これらのビデオプロジェクタは,高輝度である反面,ドームスクリーン上での黒味を損なってしまう欠点がある。これは,バックライトを完全に遮断することは困難であり,黒の再現性に限界があるからである。一方,光源からの光を恒星原板や光学レンズ等を介して星像として投映する光学式投映機においては,星像以外の光が理想的に遮断される。そのため,黒味を損なうことなく,星像とそれ以外の部分との高コントラストを実現でき,没入感がある美しい星像を投映することができる。そのため,近年のプラネタリウム装置では,ビデオプロジェクタ等の電子式投映機にて,天体像や星座等に関する多彩なコンピュータグラフィック像を投映し,一方で光学式投映機にて,美しい星像を投映する,いわゆる統合型のプラネタリウム装置が提案されている。
【0004】
前述した統合型のプラネタリウム装置としては,幾つか実用化されたものがある。例えば,コニカミノルタプラネタリウム株式会社製の「ジェミニスター2」が製品化されている。なお,文献として本発明に関連したものを発見できなかったため,本明細書では先行技術文献情報を記載していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来の統合型プラネタリウム装置では,次のような問題があった。すなわち,統合型プラネタリウム装置では,図10に示すように光学式投映機20の恒星投映球の中心がドームスクリーン1のドーム中心Pにある。そのため,その恒星投映球がドームスクリーン1の周縁に配置された電子式投映機11からの映像の一部を遮ってしまう。
【0006】
この問題を解決するため,昇降装置にて光学式投映機20を上下方向(図10の矢印方向)に移動させることで,電子式投映機11の投映領域を遮らないように調節することが可能なプラネタリウム装置が製品化されている。しかし,ドームスクリーンのレイアウト上,昇降装置を設置できないことや,プラネタリウムの演出上,昇降装置を動作させる時間をとれないことがある。
【0007】
また,光学式投映機20の位置を下げると,光学式投映機20にて投映される星像の投映位置も下がることになる。そのため,電子式投映機11からの映像との間でずれが生じ,不自然な映像(例えば,星像と星座絵とのミスマッチ)が投映されてしまう。
【0008】
また,光学式投映機20の恒星投映球の中心をドーム中心Pよりも下方に配置すると,ドームスクリーン1の見切り線Lよりも下方に光学式投映機20からの星像が投映されてしまうことがある。これにより,例えばパノラマ風景の下方に星像が投映されるような不自然な映像が投映されてしまう。
【0009】
また,複数台の電子式投映機によって全天を分割して投映する多眼式プラネタリウム装置の場合,図11に示すように電子式投映機11等の投映方向を光学式投映機20の恒星投映球からずらすことでこの問題を回避することが考えられる。しかし,電子式投映機11等の投映方向をずらすと,映像の左右で投映距離が大幅に異なることとなり,恒星の明るさおよび大きさの調節に時間がかかる。
【0010】
また,光学式投映機によって星像を投映していたとしても,電子式投映機による映像が重ねて投映されている領域では,電子式投映機の黒の浮きによって黒味が損なわれる。通常,電子式投映機にて解説補助画像を投映する場合には,観客の注意が解説補助画像に向いているため,多少の黒の浮きは問題とならない。しかし,観客が満天の星野を見ている状況で電子式投映機の投映像を重ねてしまうと,臨場感あるいは没入感を失ってしまう。例えば,パノラマ風景を投映する電子式投映機の投映領域では,パノラマ画像が投映されていない部分で黒の浮きが問題となる。
【0011】
本発明は,前記した従来のプラネタリウム装置が有する問題点を少なくとも1つ解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,電子式投映機と光学式投映機とが協働する統合型のプラネタリウム装置であって,プラネタリウム装置のレイアウトやプラネタリウムの演出に影響なく,不自然な映像の投映を回避できるプラネタリウム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題の解決を目的としてなされたプラネタリウム装置は,ドームスクリーンと,恒星投映原板を透過する光により星像をドームスクリーン上に投映する光学式投映機と,電子画像をドームスクリーン上に投映する電子式投映機とを備えたプラネタリウム装置であって,ドームスクリーンのドーム中心よりも下方に位置する光学式投映機から投映される星像の投映位置を算出し,電子式投映機から投映される映像を光学式投映機から投映される星像の投映位置に合致するように補正することを特徴とするものである。
【0013】
本発明のプラネタリウム装置は,電子式投映機と光学式投映機とを備える,いわゆる統合型プラネタリウム装置であって,光学式投映機がドームスクリーンのドーム中心よりも下方に配置される。すなわち,光学式投映機の恒星投映球等がドームスクリーンの見切り線よりも下方に位置するように配設される。これにより,光学式投映機が電子式投映機からの映像を遮ることが防止される。
【0014】
さらに,光学式投映機から投映される各星像の投映位置をそれぞれ算出する。例えば,光学式投映機の恒星投映球の中心とドーム中心との距離,すなわち光学式投映機の下がり量を取得し,その下がり量を基に各星像の投映位置を算出する。そして,電子式投映機から投映される映像をその投映位置に合致するように補正する。これにより,光学式投映機からの星像群と電子式投映機からの映像とのずれが抑制され,不自然な映像の投映が回避される。
【0015】
本発明のプラネタリウム装置では,昇降装置等の移動手段を利用することなく,電子式投映機からの映像と光学式投映機からの星像とを互いに遮ることなく投映することができる。よって,設置や演出の制約が少ない。また,多眼式のプラネタリウム装置の場合,ドームスクリーンの周縁に配置された電子式投映機の投映方向をずらす必要はない。そのため,恒星の明るさおよび大きさの調節が容易である。
【0016】
また,本発明のプラネタリウム装置は,光学式投映機が高さ方向に移動可能に設けられ,その移動とともに電子式投映機の映像を補正することとするとよりよい。これにより,演出中に光学式投映機の位置を変えたとしても,電子式投映機の映像をその移動に追随させることができる。よって,不自然な映像の投映は回避される。従って,より多彩な演出が可能となる。
【0017】
また,本発明のプラネタリウム装置の光学式投映機は,投映領域の一部または全部を遮光する星像遮光手段を有し,投映する星像群のうち,投映位置がドームスクリーンの見切り線よりも下方となる星像を星像遮光手段にて遮光することとするとよりよい。これにより,光学式投映機をドーム中心よりも下方に設けた際に生じる見切り線の下方への投映を抑止することができる。よって,不自然な映像の投映は回避される。
【0018】
また,本発明のプラネタリウム装置の電子式投映機は,投映領域の一部または全部を遮光する映像遮光手段を有し,電子式投映機からの映像が投映されていない領域の全部または一部を遮光手段にて遮光することとするとよりよい。これにより,電子式投映機からの映像が投映されていない領域について,黒の浮きを抑制することができる。よって,電子式投映機の投映領域と光学式投映機の投映領域とを重ね合わせた場合であっても,良好な黒レベルを維持することができ,臨場感や没入感を損なわない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,光学式投映機による電子式投映機の映像の遮蔽を抑制することができる。さらに,電子式投映機の明るさ等の調節が容易である。従って,電子式投映機と光学式投映機とが協働するプラネタリウム装置であって,プラネタリウム装置のレイアウトやプラネタリウムの演出に影響なく,不自然な映像の投映を回避できるプラネタリウム装置が実現されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお,本実施の形態は,電子式投映機と光学式投映機とを備える統合型のプラネタリウム装置に本発明を適用したものである。
【0021】
本形態のプラネタリウム装置100は,図1に示すようにドームスクリーン1と,その周縁に設置された電子式投映部11〜16と,その中央下に設置された光学式投映機20と,操作部5とを有している。操作部5は,ドームスクリーン1全体に投映される映像内容の設定を行うためのものである。各電子式投映部は,ドームスクリーン1上にデジタル映像(電子映像)を投映するものであり,それぞれ全天の星野のうち割り当てられた領域を担当している。そして,電子式投映部11〜16の協働により,ドームスクリーン1全体に星野の映像を投映している。すなわち,本形態のプラネタリウム装置100は,複数台の投映部11〜16により映像を投映する多眼式投映装置である。
【0022】
詳細には,図2に示すように電子式投映部11〜15が周縁沿いの5領域をそれぞれ担当し,電子式投映部16が天頂部分の1領域を担当している。電子式投映部11〜15は,対角線方向に投映しており,恒星の明るさおよび大きさの調節を容易に行うことができる。また,光学式投映機20は,その恒星投映球がドームスクリーン1のドーム中心よりも下方に位置するように配設されており,光学式投映機20が電子式投映部11〜15からの映像を遮ることはない。
【0023】
また,本形態のプラネタリウム装置は,図3のブロック図に示すように統合制御部2と,複数の映像生成部からなる映像生成部群40と,映像調整部6と,電子式駆動制御部31と,光学式駆動制御部32とを備えている。統合制御部2は,操作部5からの命令等に従って,映像制御,音声制御,照明制御等を行うものである。さらには,ドームスクリーン1上に投映する1つの画像を6つの領域に分割するものである。映像生成部群40は,各映像生成部がそれぞれ電子式投映部11〜16に対応しており,それぞれの電子式投映部に対応した映像を生成するものである。映像調整部6は,6分割された領域のうち,重なり部分についての繋ぎ合わせ処理を行うものである。調整された映像は,各電子式投映部に送られてドームスクリーン1上に投映される。
【0024】
操作部5は,グラフィカルユーザインタフェースを提供するするモニタ部や,スイッチないしボリューム等の入力手段が設けられた操作卓から構成されている。操作部2は,解説補助画像の選択やオート番組の実行操作を可能とする。また,操作部5のモニタ部にて選択可能なものには,星座絵,星座線,極座標線等のいわゆる解説補助画像の他,観測時刻や観測地がある。観測時刻の変更および観測地の変更は,操作部5にて実演中に行うことが可能である。
【0025】
統合制御部2は,操作部5から発信される命令に従って,光学式駆動制御部32に対して恒星調光,複数軸駆動,遮光子等の制御信号を出力する。また,予め幾つかの天文データを記憶させておき,操作部5にて設定された観測時刻および観測地を基に,その観測地上で見えるべき恒星,惑星,衛星等の天体像を抽出する。さらには,星座情報等の解説補助画像を抽出する。そして,抽出された天体あるいは解説補助画像の情報を映像生成部群40に出力する。各映像生成部では,送られてきた天体情報を基にドームスクリーン1上に投映する映像を作成し,映像信号として各電子式投映部11〜16へ出力する。また,統合制御部2は,電子式駆動制御部31に対して,電動絞り等の制御信号を出力する。
【0026】
電子式投映部11〜16は,各映像生成部から発信される映像信号により,RGB映像素子や投映レンズを介し,夕焼け/朝焼け画像や解説補助画像等のデジタル画像をドームスクリーン1上に投映するものである。具体的には,液晶,DLP,DILAといったビデオプロジェクタが該当する。本形態では,DLP方式のビデオプロジェクタを各電子式投映部として利用する。
【0027】
各電子式投映部は,図4に示すように,白色光を出力する光源101と,コンデンサレンズ102,103と,コンデンサレンズ102,103間に位置するカラーホイール104と,カラーホイール104から出力される単色光を受光するDLP素子105と,DLP素子105からの反射光を結像してスクリーン上に投映する投映レンズ106とを備えている。さらに,電子式投映部内の光路中,DLP素子105と投映レンズ106との間には,DLP素子105からの反射光を遮光する遮光子107(電子シャッター等)が設けられている。
【0028】
この遮光子107の開閉によって,各電子式投映部はその投映領域の一部または全部を遮光することができる。すなわち,電子式投映部からの映像が投映される領域について遮光子107を開口し,それ以外の領域については閉口(遮光)する。遮光されている領域についてはドームスクリーン1上に投映されないことから,同領域について黒の浮きの問題は生じない。例えば,観客が満天の星空を観察する場合には,パノラマ画像の映像領域についてのみ開口し,それ以外の領域を遮光する。これにより,各電子式投映部によってパノラマ画像を投映しつつ黒の浮きを最小限に抑制することができる。そのため,観客の臨場感および没入感は損なわれない。また,星座等の解説補助画像を投映する場合には,遮光子107を全開し,補助画像を所望の位置に投映する。その際,光学式投映機20による星空と重なってしまい黒の浮きが生じることとなる。しかし,観客の注意が解説補助画像に向いているため,観客の臨場感および没入感は損なわれない。
【0029】
また,光学式投映機20は,光源,一般の恒星(概ね1.5等星以下)を投映するための恒星投映筒,高輝星(概ね1.5等星以上)を投映するための高輝星投映筒などから構成されている。
【0030】
以下,光学式投映機20の具体例について図5を基に説明する。図5に示した光学式投映機20では,光源筒23と,複数の恒星投映筒22と,複数の高輝星投映筒24とが恒星球21に固定されている。光源筒23には,リフレクタ付きのメタルハライドランプ等の光源が備えられている。そして,各恒星投映筒22と光ファイバ25を介して接続されている。また光源筒23は,各高輝星投映筒24とも光ファイバ25を介して接続されている。各恒星投映筒22は,ドームスクリーン1上に恒星を投映するものであり,それぞれ全天の星野のうち割り当てられた領域を担当している。そして,各恒星投映器22の協働によりドームスクリーン1全体に星像を投映している。また,各高輝星投映筒24は,恒星投映筒22とは別に,上位等級の恒星のみを専用に投映するものである。この他,惑星,衛星,太陽等の投映を行う惑星用投映機が光学式投映機の周辺に設けられている。
【0031】
高輝星投映筒24は,その胴部の球面部24aを恒星球21に配設された座24bに回動可能に保持されている。また,光源23の恒星球21内に向く投射口23aには恒星球21での投映において必要な数の光ファイバ25を束ねた集束部25aが接続されている。この光源23側の集束部25aは光源23からの光を各恒星投映筒22および各高輝星投映筒24に導くように個々に分岐され、分岐した先端はそれぞれ対応する各恒星投映筒22および各高輝星投映筒24に接続されている。
【0032】
恒星投映筒22は,図6に示すように恒星原板201と,恒星原板201の背部に位置するコンデンサレンズ202,203と,恒星原板201の前部に位置する投映レンズ204とをそれぞれ備えている。また,コンデンサレンズ202は,コンデンサレンズ202,203の光軸上で光源筒23からの光を有効に取り込める位置に配設されている。また,恒星原板201には,恒星を意味する透過孔が投映すべき数(およそ300〜800個)開口している。さらに,恒星投映筒22内の光路中,恒星原板201と投映レンズ204との間に,光源筒23からの光を遮光する遮光子205が設けられている。つまり,光学式投映機20についても,その投映領域の全部または一部を遮光することができる。なお,恒星投映筒や遮光子の具体例については,例えば,特開2001−109371号公報に開示されている。
【0033】
この遮光子205の開閉によって,光学式投映機20の各恒星投映筒22はその投映領域の一部または全部を遮光することができる。これにより,ドームスクリーン1の見切り線よりも下方に投映される星像を遮光することができる。よって,不自然な映像は投映されない。また,恒星投映筒22からの光を観客が直視してしまうことを防止することができる。
【0034】
なお,図4ないし図6に示した電子式投映部,光学式投映機,および遮光子はあくまでも例示でありこれらの機器構成に限定するものではない。
【0035】
続いて,電子式投映部11〜16の補正処理について,図7および図8を基に説明する。以下の説明中,Rはドーム半径を,Pはドーム中心を,Zはドーム中心Pからの下がり量を,θは電子式投映部から見た投映高度を,Aは光学式投映機から見た投映高度をそれぞれ意味する。
【0036】
光学式投映機20の恒星投映球の位置がドーム中心Pから離れていると,電子式投映部11〜16から投映される解説補助画像等の映像と光学式投映機20から投映される星像との間にずれが生じ,不自然な映像が投映されてしまう。そのため,電子式投映部11〜16から投映される映像を光学式投映機20から投映される星像の位置に合わせるための補正処理を行う。なお,本補正処理は,映像生成部40もしくは映像調整部6にて行われる。
【0037】
まず,光学式投映機20のドーム中心Pからの下がり量Zを取得する(S1)。また,光学式投映機20にて投映される各星像について,観測時刻(年,月,日,時,分,秒),観測位置(経度,緯度)を基に恒星投映筒22から投映される投映高度Aを算出する(S2)。
【0038】
次に,ドーム中心Pから下がり量Zだけ下げられた光学投映機20から投映される星像に電子式投映部11〜16から投映される映像を合わせるため,算出した投映高度Aを基に電子式投映部からの投映高度θを算出する(S3)。そして,解説補助映像に必要な全星像について,投映高度θの算出を行う(S4)。すべての星像についてそれぞれ投映高度θを取得した後,その投映高度θを基に各電子式投映部の映像を補正する(S5)。そして,補正後の映像をドームスクリーン1に投映する。
【0039】
具体的に,投映高度θは次の手順で求めることができる。まず,図7を参考にして次の式(1)が求められる。
tanA=(Rsinθ+Z)/Rcosθ (1)
式(1)は,sin2 θ+cos2 θ=1の関係から,次の式(2)と等価である。
tanA=(Rsinθ+Z)/R√(1−sin2 θ) (2)
式(2)の両辺を2乗して,sinθの2次方程式を解くと,次の式(3)によって投映高度θが導かれる。
sinθ=(−ZR±√(Z2 R2 −R2 (1+tan2 A)(Z2 −tan2 A・R2 )))/R2 (1+tan2 A) (3)
【0040】
なお,光学式投映機20を昇降装置等によって上下移動可能に設けてもよい。その場合,光学式投映機20の位置の変動とともに各星像の投映高度θを再計算し,各電子式投映部の出力映像を補正する。これにより,プラネタリウムの実演中に光学式投映機20の位置を変動させたとしても,不自然な映像の投映は回避される。従って,より多彩な演出が可能となる。
【0041】
以上詳細に説明したように本形態のプラネタリウム装置では,電子式投映部11〜16がドームスクリーン1の周縁に設けられている。また,光学式投映機20がドーム中心Pより下方に設けられている。すなわち,光学式投映機20の位置がドームの見切り線よりも下方に位置することにより,電子式投映部11〜16からの映像の遮断を回避することができる。そして,電子式投映部11〜16が映像を投映する際には,光学式投映機20から投映される星像の投映位置を算出し,その投映位置を基に電子式投映部11〜16の映像を補正することとしている。これにより,光学式投映機20の位置が下がることによって生じる光学式投映機20の星像と電子式投映部11〜16の映像とのずれを抑制することができ,不自然な映像の投映を回避できる。
【0042】
また,光学式投映機20がドーム中心Pより下方に設けられていることから,光学式投映機20が観客の視野を遮ることがなくなる。
【0043】
また,光学式投映機20は,投映領域の一部または全部を遮蔽する遮光子205を備えることとしている。そして,この遮光子205によって,ドームスクリーン1の見切り線よりも下方に投映される星像を遮光することとしている。これにより,パノラマ風景の下方に星像が投映される等,不自然な映像の投映を回避できる。
【0044】
また,電子式投映部11〜16についても,それぞれ投映領域の一部または全部を遮蔽する遮光子107を備えることとしている。そして,この遮光子107によって,各電子式投映部の投映領域のうち,映像が投映されていない領域を遮光することとしている。これにより,各電子式投映部の投映領域と光学式投映機20の投映領域とが重なり合う領域について,各電子式投映部の投映による黒の浮きを最小限に抑制することができる。
【0045】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本実施の形態では,複数台の電子式投映機(多眼式)をドームスクリーン1の周縁に設置し,これらの投映機によってデジタル画像を投映しているが,これに限るものではない。例えば,図9に示すように,魚眼レンズを備えた1台の電子式投映機(単眼式)により電子画像を投映してもよい。この場合であっても,光学式投映機20からの投映位置にあわせて電子式投映機10の映像を補正し,補正後の映像をドームスクリーン1上に投映する。
【0046】
また,本実施の形態では,遮光子を光束が投映レンズに達する前の位置に配置しているが,これに限るものではない。すなわち,投映レンズを通過した後の位置に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施の形態に係る多眼式プラネタリウム装置の機器構成を示す概略図である。
【図2】図1に示したプラネタリウム装置をドーム天頂から見たイメージ図である。
【図3】実施の形態に係るプラネタリウム装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図4】電子式投映機の光学系の構成を模式的に示す概略構成図である。
【図5】光学式投映機の機器構成を示す概略構成図である。
【図6】光学式投映機の光学系の構成を模式的に示す概略構成図である。
【図7】実施の形態に係るプラネタリウム装置の断面模式図である。
【図8】電子式投映部の補正処理を示すフローチャートである。
【図9】実施の形態に係る単眼式プラネタリウム装置の機器構成を示す概略図である。
【図10】従来の形態にかかるプラネタリウム装置の投映不具合を示す図(その1)である。
【図11】従来の形態にかかるプラネタリウム装置の投映不具合を示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0048】
1 ドームスクリーン
2 統合制御部
31 電子式駆動制御部
5 操作部
11〜16 電子式投映機
20 光学式投映機
107 遮光子
205 遮光子
100 プラネタリウム装置
【技術分野】
【0001】
本発明は,電子式投映機と光学式投映機とを備える統合型のプラネタリウム装置に関する。本明細書において,プラネタリウムとは,ドーム型スクリーンに映像を投映する設備をいい,その映像の内容は星野に限らずエンターテインメント的なものであってもよいものとする。
【背景技術】
【0002】
従来から,プラネタリウム装置では,各恒星に相当する位置に透過孔を設けた恒星投映原板を有し,その恒星投映原板を透過した光を投映レンズによってドームスクリーン上に投映する光学式投映機を備えたプラネタリウム装置が製品化されている。この光学式投映機では,恒星投映原板の透過孔は固定であり,例えば恒星の固有運動や擬似宇宙飛行の演出を行うことはできない。そこで,電子画像の投映が可能な電子式投映機を利用し,恒星の固有運動や擬似宇宙飛行の演出が可能なプラネタリウム装置も製品化されている。
【0003】
前述した電子式投映機としては,低価格,入手し易さ,小型,高輝度などの優位性から,液晶,DLP,DILAといったビデオプロジェクタが利用されている。これらのビデオプロジェクタは,高輝度である反面,ドームスクリーン上での黒味を損なってしまう欠点がある。これは,バックライトを完全に遮断することは困難であり,黒の再現性に限界があるからである。一方,光源からの光を恒星原板や光学レンズ等を介して星像として投映する光学式投映機においては,星像以外の光が理想的に遮断される。そのため,黒味を損なうことなく,星像とそれ以外の部分との高コントラストを実現でき,没入感がある美しい星像を投映することができる。そのため,近年のプラネタリウム装置では,ビデオプロジェクタ等の電子式投映機にて,天体像や星座等に関する多彩なコンピュータグラフィック像を投映し,一方で光学式投映機にて,美しい星像を投映する,いわゆる統合型のプラネタリウム装置が提案されている。
【0004】
前述した統合型のプラネタリウム装置としては,幾つか実用化されたものがある。例えば,コニカミノルタプラネタリウム株式会社製の「ジェミニスター2」が製品化されている。なお,文献として本発明に関連したものを発見できなかったため,本明細書では先行技術文献情報を記載していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来の統合型プラネタリウム装置では,次のような問題があった。すなわち,統合型プラネタリウム装置では,図10に示すように光学式投映機20の恒星投映球の中心がドームスクリーン1のドーム中心Pにある。そのため,その恒星投映球がドームスクリーン1の周縁に配置された電子式投映機11からの映像の一部を遮ってしまう。
【0006】
この問題を解決するため,昇降装置にて光学式投映機20を上下方向(図10の矢印方向)に移動させることで,電子式投映機11の投映領域を遮らないように調節することが可能なプラネタリウム装置が製品化されている。しかし,ドームスクリーンのレイアウト上,昇降装置を設置できないことや,プラネタリウムの演出上,昇降装置を動作させる時間をとれないことがある。
【0007】
また,光学式投映機20の位置を下げると,光学式投映機20にて投映される星像の投映位置も下がることになる。そのため,電子式投映機11からの映像との間でずれが生じ,不自然な映像(例えば,星像と星座絵とのミスマッチ)が投映されてしまう。
【0008】
また,光学式投映機20の恒星投映球の中心をドーム中心Pよりも下方に配置すると,ドームスクリーン1の見切り線Lよりも下方に光学式投映機20からの星像が投映されてしまうことがある。これにより,例えばパノラマ風景の下方に星像が投映されるような不自然な映像が投映されてしまう。
【0009】
また,複数台の電子式投映機によって全天を分割して投映する多眼式プラネタリウム装置の場合,図11に示すように電子式投映機11等の投映方向を光学式投映機20の恒星投映球からずらすことでこの問題を回避することが考えられる。しかし,電子式投映機11等の投映方向をずらすと,映像の左右で投映距離が大幅に異なることとなり,恒星の明るさおよび大きさの調節に時間がかかる。
【0010】
また,光学式投映機によって星像を投映していたとしても,電子式投映機による映像が重ねて投映されている領域では,電子式投映機の黒の浮きによって黒味が損なわれる。通常,電子式投映機にて解説補助画像を投映する場合には,観客の注意が解説補助画像に向いているため,多少の黒の浮きは問題とならない。しかし,観客が満天の星野を見ている状況で電子式投映機の投映像を重ねてしまうと,臨場感あるいは没入感を失ってしまう。例えば,パノラマ風景を投映する電子式投映機の投映領域では,パノラマ画像が投映されていない部分で黒の浮きが問題となる。
【0011】
本発明は,前記した従来のプラネタリウム装置が有する問題点を少なくとも1つ解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,電子式投映機と光学式投映機とが協働する統合型のプラネタリウム装置であって,プラネタリウム装置のレイアウトやプラネタリウムの演出に影響なく,不自然な映像の投映を回避できるプラネタリウム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題の解決を目的としてなされたプラネタリウム装置は,ドームスクリーンと,恒星投映原板を透過する光により星像をドームスクリーン上に投映する光学式投映機と,電子画像をドームスクリーン上に投映する電子式投映機とを備えたプラネタリウム装置であって,ドームスクリーンのドーム中心よりも下方に位置する光学式投映機から投映される星像の投映位置を算出し,電子式投映機から投映される映像を光学式投映機から投映される星像の投映位置に合致するように補正することを特徴とするものである。
【0013】
本発明のプラネタリウム装置は,電子式投映機と光学式投映機とを備える,いわゆる統合型プラネタリウム装置であって,光学式投映機がドームスクリーンのドーム中心よりも下方に配置される。すなわち,光学式投映機の恒星投映球等がドームスクリーンの見切り線よりも下方に位置するように配設される。これにより,光学式投映機が電子式投映機からの映像を遮ることが防止される。
【0014】
さらに,光学式投映機から投映される各星像の投映位置をそれぞれ算出する。例えば,光学式投映機の恒星投映球の中心とドーム中心との距離,すなわち光学式投映機の下がり量を取得し,その下がり量を基に各星像の投映位置を算出する。そして,電子式投映機から投映される映像をその投映位置に合致するように補正する。これにより,光学式投映機からの星像群と電子式投映機からの映像とのずれが抑制され,不自然な映像の投映が回避される。
【0015】
本発明のプラネタリウム装置では,昇降装置等の移動手段を利用することなく,電子式投映機からの映像と光学式投映機からの星像とを互いに遮ることなく投映することができる。よって,設置や演出の制約が少ない。また,多眼式のプラネタリウム装置の場合,ドームスクリーンの周縁に配置された電子式投映機の投映方向をずらす必要はない。そのため,恒星の明るさおよび大きさの調節が容易である。
【0016】
また,本発明のプラネタリウム装置は,光学式投映機が高さ方向に移動可能に設けられ,その移動とともに電子式投映機の映像を補正することとするとよりよい。これにより,演出中に光学式投映機の位置を変えたとしても,電子式投映機の映像をその移動に追随させることができる。よって,不自然な映像の投映は回避される。従って,より多彩な演出が可能となる。
【0017】
また,本発明のプラネタリウム装置の光学式投映機は,投映領域の一部または全部を遮光する星像遮光手段を有し,投映する星像群のうち,投映位置がドームスクリーンの見切り線よりも下方となる星像を星像遮光手段にて遮光することとするとよりよい。これにより,光学式投映機をドーム中心よりも下方に設けた際に生じる見切り線の下方への投映を抑止することができる。よって,不自然な映像の投映は回避される。
【0018】
また,本発明のプラネタリウム装置の電子式投映機は,投映領域の一部または全部を遮光する映像遮光手段を有し,電子式投映機からの映像が投映されていない領域の全部または一部を遮光手段にて遮光することとするとよりよい。これにより,電子式投映機からの映像が投映されていない領域について,黒の浮きを抑制することができる。よって,電子式投映機の投映領域と光学式投映機の投映領域とを重ね合わせた場合であっても,良好な黒レベルを維持することができ,臨場感や没入感を損なわない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,光学式投映機による電子式投映機の映像の遮蔽を抑制することができる。さらに,電子式投映機の明るさ等の調節が容易である。従って,電子式投映機と光学式投映機とが協働するプラネタリウム装置であって,プラネタリウム装置のレイアウトやプラネタリウムの演出に影響なく,不自然な映像の投映を回避できるプラネタリウム装置が実現されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお,本実施の形態は,電子式投映機と光学式投映機とを備える統合型のプラネタリウム装置に本発明を適用したものである。
【0021】
本形態のプラネタリウム装置100は,図1に示すようにドームスクリーン1と,その周縁に設置された電子式投映部11〜16と,その中央下に設置された光学式投映機20と,操作部5とを有している。操作部5は,ドームスクリーン1全体に投映される映像内容の設定を行うためのものである。各電子式投映部は,ドームスクリーン1上にデジタル映像(電子映像)を投映するものであり,それぞれ全天の星野のうち割り当てられた領域を担当している。そして,電子式投映部11〜16の協働により,ドームスクリーン1全体に星野の映像を投映している。すなわち,本形態のプラネタリウム装置100は,複数台の投映部11〜16により映像を投映する多眼式投映装置である。
【0022】
詳細には,図2に示すように電子式投映部11〜15が周縁沿いの5領域をそれぞれ担当し,電子式投映部16が天頂部分の1領域を担当している。電子式投映部11〜15は,対角線方向に投映しており,恒星の明るさおよび大きさの調節を容易に行うことができる。また,光学式投映機20は,その恒星投映球がドームスクリーン1のドーム中心よりも下方に位置するように配設されており,光学式投映機20が電子式投映部11〜15からの映像を遮ることはない。
【0023】
また,本形態のプラネタリウム装置は,図3のブロック図に示すように統合制御部2と,複数の映像生成部からなる映像生成部群40と,映像調整部6と,電子式駆動制御部31と,光学式駆動制御部32とを備えている。統合制御部2は,操作部5からの命令等に従って,映像制御,音声制御,照明制御等を行うものである。さらには,ドームスクリーン1上に投映する1つの画像を6つの領域に分割するものである。映像生成部群40は,各映像生成部がそれぞれ電子式投映部11〜16に対応しており,それぞれの電子式投映部に対応した映像を生成するものである。映像調整部6は,6分割された領域のうち,重なり部分についての繋ぎ合わせ処理を行うものである。調整された映像は,各電子式投映部に送られてドームスクリーン1上に投映される。
【0024】
操作部5は,グラフィカルユーザインタフェースを提供するするモニタ部や,スイッチないしボリューム等の入力手段が設けられた操作卓から構成されている。操作部2は,解説補助画像の選択やオート番組の実行操作を可能とする。また,操作部5のモニタ部にて選択可能なものには,星座絵,星座線,極座標線等のいわゆる解説補助画像の他,観測時刻や観測地がある。観測時刻の変更および観測地の変更は,操作部5にて実演中に行うことが可能である。
【0025】
統合制御部2は,操作部5から発信される命令に従って,光学式駆動制御部32に対して恒星調光,複数軸駆動,遮光子等の制御信号を出力する。また,予め幾つかの天文データを記憶させておき,操作部5にて設定された観測時刻および観測地を基に,その観測地上で見えるべき恒星,惑星,衛星等の天体像を抽出する。さらには,星座情報等の解説補助画像を抽出する。そして,抽出された天体あるいは解説補助画像の情報を映像生成部群40に出力する。各映像生成部では,送られてきた天体情報を基にドームスクリーン1上に投映する映像を作成し,映像信号として各電子式投映部11〜16へ出力する。また,統合制御部2は,電子式駆動制御部31に対して,電動絞り等の制御信号を出力する。
【0026】
電子式投映部11〜16は,各映像生成部から発信される映像信号により,RGB映像素子や投映レンズを介し,夕焼け/朝焼け画像や解説補助画像等のデジタル画像をドームスクリーン1上に投映するものである。具体的には,液晶,DLP,DILAといったビデオプロジェクタが該当する。本形態では,DLP方式のビデオプロジェクタを各電子式投映部として利用する。
【0027】
各電子式投映部は,図4に示すように,白色光を出力する光源101と,コンデンサレンズ102,103と,コンデンサレンズ102,103間に位置するカラーホイール104と,カラーホイール104から出力される単色光を受光するDLP素子105と,DLP素子105からの反射光を結像してスクリーン上に投映する投映レンズ106とを備えている。さらに,電子式投映部内の光路中,DLP素子105と投映レンズ106との間には,DLP素子105からの反射光を遮光する遮光子107(電子シャッター等)が設けられている。
【0028】
この遮光子107の開閉によって,各電子式投映部はその投映領域の一部または全部を遮光することができる。すなわち,電子式投映部からの映像が投映される領域について遮光子107を開口し,それ以外の領域については閉口(遮光)する。遮光されている領域についてはドームスクリーン1上に投映されないことから,同領域について黒の浮きの問題は生じない。例えば,観客が満天の星空を観察する場合には,パノラマ画像の映像領域についてのみ開口し,それ以外の領域を遮光する。これにより,各電子式投映部によってパノラマ画像を投映しつつ黒の浮きを最小限に抑制することができる。そのため,観客の臨場感および没入感は損なわれない。また,星座等の解説補助画像を投映する場合には,遮光子107を全開し,補助画像を所望の位置に投映する。その際,光学式投映機20による星空と重なってしまい黒の浮きが生じることとなる。しかし,観客の注意が解説補助画像に向いているため,観客の臨場感および没入感は損なわれない。
【0029】
また,光学式投映機20は,光源,一般の恒星(概ね1.5等星以下)を投映するための恒星投映筒,高輝星(概ね1.5等星以上)を投映するための高輝星投映筒などから構成されている。
【0030】
以下,光学式投映機20の具体例について図5を基に説明する。図5に示した光学式投映機20では,光源筒23と,複数の恒星投映筒22と,複数の高輝星投映筒24とが恒星球21に固定されている。光源筒23には,リフレクタ付きのメタルハライドランプ等の光源が備えられている。そして,各恒星投映筒22と光ファイバ25を介して接続されている。また光源筒23は,各高輝星投映筒24とも光ファイバ25を介して接続されている。各恒星投映筒22は,ドームスクリーン1上に恒星を投映するものであり,それぞれ全天の星野のうち割り当てられた領域を担当している。そして,各恒星投映器22の協働によりドームスクリーン1全体に星像を投映している。また,各高輝星投映筒24は,恒星投映筒22とは別に,上位等級の恒星のみを専用に投映するものである。この他,惑星,衛星,太陽等の投映を行う惑星用投映機が光学式投映機の周辺に設けられている。
【0031】
高輝星投映筒24は,その胴部の球面部24aを恒星球21に配設された座24bに回動可能に保持されている。また,光源23の恒星球21内に向く投射口23aには恒星球21での投映において必要な数の光ファイバ25を束ねた集束部25aが接続されている。この光源23側の集束部25aは光源23からの光を各恒星投映筒22および各高輝星投映筒24に導くように個々に分岐され、分岐した先端はそれぞれ対応する各恒星投映筒22および各高輝星投映筒24に接続されている。
【0032】
恒星投映筒22は,図6に示すように恒星原板201と,恒星原板201の背部に位置するコンデンサレンズ202,203と,恒星原板201の前部に位置する投映レンズ204とをそれぞれ備えている。また,コンデンサレンズ202は,コンデンサレンズ202,203の光軸上で光源筒23からの光を有効に取り込める位置に配設されている。また,恒星原板201には,恒星を意味する透過孔が投映すべき数(およそ300〜800個)開口している。さらに,恒星投映筒22内の光路中,恒星原板201と投映レンズ204との間に,光源筒23からの光を遮光する遮光子205が設けられている。つまり,光学式投映機20についても,その投映領域の全部または一部を遮光することができる。なお,恒星投映筒や遮光子の具体例については,例えば,特開2001−109371号公報に開示されている。
【0033】
この遮光子205の開閉によって,光学式投映機20の各恒星投映筒22はその投映領域の一部または全部を遮光することができる。これにより,ドームスクリーン1の見切り線よりも下方に投映される星像を遮光することができる。よって,不自然な映像は投映されない。また,恒星投映筒22からの光を観客が直視してしまうことを防止することができる。
【0034】
なお,図4ないし図6に示した電子式投映部,光学式投映機,および遮光子はあくまでも例示でありこれらの機器構成に限定するものではない。
【0035】
続いて,電子式投映部11〜16の補正処理について,図7および図8を基に説明する。以下の説明中,Rはドーム半径を,Pはドーム中心を,Zはドーム中心Pからの下がり量を,θは電子式投映部から見た投映高度を,Aは光学式投映機から見た投映高度をそれぞれ意味する。
【0036】
光学式投映機20の恒星投映球の位置がドーム中心Pから離れていると,電子式投映部11〜16から投映される解説補助画像等の映像と光学式投映機20から投映される星像との間にずれが生じ,不自然な映像が投映されてしまう。そのため,電子式投映部11〜16から投映される映像を光学式投映機20から投映される星像の位置に合わせるための補正処理を行う。なお,本補正処理は,映像生成部40もしくは映像調整部6にて行われる。
【0037】
まず,光学式投映機20のドーム中心Pからの下がり量Zを取得する(S1)。また,光学式投映機20にて投映される各星像について,観測時刻(年,月,日,時,分,秒),観測位置(経度,緯度)を基に恒星投映筒22から投映される投映高度Aを算出する(S2)。
【0038】
次に,ドーム中心Pから下がり量Zだけ下げられた光学投映機20から投映される星像に電子式投映部11〜16から投映される映像を合わせるため,算出した投映高度Aを基に電子式投映部からの投映高度θを算出する(S3)。そして,解説補助映像に必要な全星像について,投映高度θの算出を行う(S4)。すべての星像についてそれぞれ投映高度θを取得した後,その投映高度θを基に各電子式投映部の映像を補正する(S5)。そして,補正後の映像をドームスクリーン1に投映する。
【0039】
具体的に,投映高度θは次の手順で求めることができる。まず,図7を参考にして次の式(1)が求められる。
tanA=(Rsinθ+Z)/Rcosθ (1)
式(1)は,sin2 θ+cos2 θ=1の関係から,次の式(2)と等価である。
tanA=(Rsinθ+Z)/R√(1−sin2 θ) (2)
式(2)の両辺を2乗して,sinθの2次方程式を解くと,次の式(3)によって投映高度θが導かれる。
sinθ=(−ZR±√(Z2 R2 −R2 (1+tan2 A)(Z2 −tan2 A・R2 )))/R2 (1+tan2 A) (3)
【0040】
なお,光学式投映機20を昇降装置等によって上下移動可能に設けてもよい。その場合,光学式投映機20の位置の変動とともに各星像の投映高度θを再計算し,各電子式投映部の出力映像を補正する。これにより,プラネタリウムの実演中に光学式投映機20の位置を変動させたとしても,不自然な映像の投映は回避される。従って,より多彩な演出が可能となる。
【0041】
以上詳細に説明したように本形態のプラネタリウム装置では,電子式投映部11〜16がドームスクリーン1の周縁に設けられている。また,光学式投映機20がドーム中心Pより下方に設けられている。すなわち,光学式投映機20の位置がドームの見切り線よりも下方に位置することにより,電子式投映部11〜16からの映像の遮断を回避することができる。そして,電子式投映部11〜16が映像を投映する際には,光学式投映機20から投映される星像の投映位置を算出し,その投映位置を基に電子式投映部11〜16の映像を補正することとしている。これにより,光学式投映機20の位置が下がることによって生じる光学式投映機20の星像と電子式投映部11〜16の映像とのずれを抑制することができ,不自然な映像の投映を回避できる。
【0042】
また,光学式投映機20がドーム中心Pより下方に設けられていることから,光学式投映機20が観客の視野を遮ることがなくなる。
【0043】
また,光学式投映機20は,投映領域の一部または全部を遮蔽する遮光子205を備えることとしている。そして,この遮光子205によって,ドームスクリーン1の見切り線よりも下方に投映される星像を遮光することとしている。これにより,パノラマ風景の下方に星像が投映される等,不自然な映像の投映を回避できる。
【0044】
また,電子式投映部11〜16についても,それぞれ投映領域の一部または全部を遮蔽する遮光子107を備えることとしている。そして,この遮光子107によって,各電子式投映部の投映領域のうち,映像が投映されていない領域を遮光することとしている。これにより,各電子式投映部の投映領域と光学式投映機20の投映領域とが重なり合う領域について,各電子式投映部の投映による黒の浮きを最小限に抑制することができる。
【0045】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本実施の形態では,複数台の電子式投映機(多眼式)をドームスクリーン1の周縁に設置し,これらの投映機によってデジタル画像を投映しているが,これに限るものではない。例えば,図9に示すように,魚眼レンズを備えた1台の電子式投映機(単眼式)により電子画像を投映してもよい。この場合であっても,光学式投映機20からの投映位置にあわせて電子式投映機10の映像を補正し,補正後の映像をドームスクリーン1上に投映する。
【0046】
また,本実施の形態では,遮光子を光束が投映レンズに達する前の位置に配置しているが,これに限るものではない。すなわち,投映レンズを通過した後の位置に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施の形態に係る多眼式プラネタリウム装置の機器構成を示す概略図である。
【図2】図1に示したプラネタリウム装置をドーム天頂から見たイメージ図である。
【図3】実施の形態に係るプラネタリウム装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図4】電子式投映機の光学系の構成を模式的に示す概略構成図である。
【図5】光学式投映機の機器構成を示す概略構成図である。
【図6】光学式投映機の光学系の構成を模式的に示す概略構成図である。
【図7】実施の形態に係るプラネタリウム装置の断面模式図である。
【図8】電子式投映部の補正処理を示すフローチャートである。
【図9】実施の形態に係る単眼式プラネタリウム装置の機器構成を示す概略図である。
【図10】従来の形態にかかるプラネタリウム装置の投映不具合を示す図(その1)である。
【図11】従来の形態にかかるプラネタリウム装置の投映不具合を示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0048】
1 ドームスクリーン
2 統合制御部
31 電子式駆動制御部
5 操作部
11〜16 電子式投映機
20 光学式投映機
107 遮光子
205 遮光子
100 プラネタリウム装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドームスクリーンと,恒星投映原板を透過する光により星像を前記ドームスクリーン上に投映する光学式投映機と,電子画像を前記ドームスクリーン上に投映する電子式投映機とを備えたプラネタリウム装置において,
前記光学式投映機は,前記ドームスクリーンのドーム中心よりも下方に配設され,
前記光学式投映機から投映される星像の投映位置を算出し,前記電子式投映機から投映される映像を前記光学式投映機から投映される星像の投映位置に合致するように補正することを特徴とするプラネタリウム装置。
【請求項2】
請求項1に記載するプラネタリウム装置において,
前記光学式投映機は高さ方向に移動可能に設けられ,その移動とともに前記電子式投映機の映像を補正することを特徴とするプラネタリウム装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載するプラネタリウム装置において,
前記光学式投映機は,
投映領域の一部または全部を遮光する星像遮光手段を有し,
投映する星像群のうち,投映位置が前記ドームスクリーンの見切り線よりも下方となる星像を前記星像遮光手段にて遮光することを特徴とするプラネタリウム装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載するプラネタリウム装置において,
前記電子式投映機は,
投映領域の一部または全部を遮光する遮光手段を有し,
前記電子式投映機からの映像が投映されていない領域の全部または一部を前記遮光手段にて遮光することを特徴とするプラネタリウム装置。
【請求項5】
恒星投映原板を透過する光により星像を投映する光学式投映機と,コンピュータにより生成される電子画像を投映する電子式投映機とを備えたプラネタリウム装置において,
前記電子式投映機は,
投映領域の一部または全部を遮光する遮光手段を有し,
前記電子式投映機からの映像が投映されていない領域の全部または一部を前記遮光手段にて遮光することを特徴とするプラネタリウム装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載するプラネタリウム装置において,
前記電子式投映機は,パノラマ風景の映像を投映するとともに前記遮蔽手段にてその映像以外の部分を遮光することを特徴とするプラネタリウム装置。
【請求項1】
ドームスクリーンと,恒星投映原板を透過する光により星像を前記ドームスクリーン上に投映する光学式投映機と,電子画像を前記ドームスクリーン上に投映する電子式投映機とを備えたプラネタリウム装置において,
前記光学式投映機は,前記ドームスクリーンのドーム中心よりも下方に配設され,
前記光学式投映機から投映される星像の投映位置を算出し,前記電子式投映機から投映される映像を前記光学式投映機から投映される星像の投映位置に合致するように補正することを特徴とするプラネタリウム装置。
【請求項2】
請求項1に記載するプラネタリウム装置において,
前記光学式投映機は高さ方向に移動可能に設けられ,その移動とともに前記電子式投映機の映像を補正することを特徴とするプラネタリウム装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載するプラネタリウム装置において,
前記光学式投映機は,
投映領域の一部または全部を遮光する星像遮光手段を有し,
投映する星像群のうち,投映位置が前記ドームスクリーンの見切り線よりも下方となる星像を前記星像遮光手段にて遮光することを特徴とするプラネタリウム装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載するプラネタリウム装置において,
前記電子式投映機は,
投映領域の一部または全部を遮光する遮光手段を有し,
前記電子式投映機からの映像が投映されていない領域の全部または一部を前記遮光手段にて遮光することを特徴とするプラネタリウム装置。
【請求項5】
恒星投映原板を透過する光により星像を投映する光学式投映機と,コンピュータにより生成される電子画像を投映する電子式投映機とを備えたプラネタリウム装置において,
前記電子式投映機は,
投映領域の一部または全部を遮光する遮光手段を有し,
前記電子式投映機からの映像が投映されていない領域の全部または一部を前記遮光手段にて遮光することを特徴とするプラネタリウム装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載するプラネタリウム装置において,
前記電子式投映機は,パノラマ風景の映像を投映するとともに前記遮蔽手段にてその映像以外の部分を遮光することを特徴とするプラネタリウム装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−215231(P2006−215231A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27338(P2005−27338)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(595086410)コニカミノルタプラネタリウム株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(595086410)コニカミノルタプラネタリウム株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]